白衣の天使〜水源を取り戻せ!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月10日〜06月17日
リプレイ公開日:2006年06月18日
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●オープニング
ウィルの旧市街地に建つ堅固な城壁の門をくぐり、街を二分している河に沿って郊外へ歩く一人の女性。それが彼女のアトランティスへ来てからのお決まりの散歩コースだ。
天界から来た者の服装は、アトランティスやジ・アースにはない特徴的なデザインのものが多く、そのほとんどは一目で天界人だと分かるだろう。
散歩をしている彼女も天界人の一人だ。
丘陵の自然の中に埋もれてそびえるフオロ城を眺めたり、川のせせらぎを聞くと、ウィルの街の治安の良さは実感できる。しかし、ウィルを離れれば、彼女が生まれ育った天界の日本とは違い、そこは決して安全とはいえない。
「アトランティスへ召喚されたのは天命かも知れないわ」
彼女は何度となく呟いた台詞を再び繰り返す。
気が付くと、壮大なフオロ城が遥か遠くに見えた。どうやら少し郊外へ出過ぎたようだ。
踵を返そうとしたその時、川の支流に人が倒れているのを視界に隅に捉えた。女性は手に持っていた白い小箱を脇に抱えて、駆け付ける。
倒れていたのは青年だった。パッと見ると、数カ所に切り傷のようなものが認められた。
「しっかりして下さい!」
「む、村が‥‥」
「しゃべってはダメ。今手当てしますから、それまで安静にしていて」
切り傷はそう深くない。だが、体力をかなり消耗しているようだ。落ち着かせる事が最優先と判断した女性は、白い小箱を開けると消毒液を取り出して傷口の手当てを始めた。
程なく応急処置が終わると、青年も辛うじてしゃべれるまでに快復したようだ。
「村がゴブリンに襲われたんだ」
青年はそう切り出した。
青年の住む村は、ウィルから歩いて二日ほど離れた、三、四十人程度が暮らす名もない本当に小さな村だった。今は耕作の時期で、ここ数年の重税から畑を広げ、その分、水が必要になり、近くの水源も広げたのだが、そこへゴブリンの集団がやってきて、水源を陣取ってしまったのだ。
畑は疎か、村にすら水が来なくなり、このままでは生活水の確保も難しくなる。村では自警団を結成してゴブリン達に戦いを挑んだのだが‥‥ゴブリンの中に何匹強いゴブリンがおり、自警団は敗れてしまい、青年は這々の体で救援を求めに不休不眠で来たのだという。
「事情は分かったわ。看護師が怪我人を放っておく訳にはいかないもの」
女性は微笑みながらそう言った。白い小箱は応急手当キットであり、彼女の身を包むのは淡いピンク色の看護師、そして髪の毛の上には同色のナースキャップがちょこんと乗っている。
彼女の名前は彩星・巴、天界の日本から召喚された白衣の天使だった。
「ゴブリンが退治できる冒険者を募るしかないわね。とはいえ、私も貴族の客分だから報酬はあまり上乗せできないけど、怪我人の手当てなら任せて」
だが、元々貧しい村だ。ろくに報酬も払う事ができない。
巴はアトランティスへ召喚された時、運良くフオロ家に仕える男爵家の一つラッセ家の領地に現れ、保護された。ラッセ家には、カティア・ラッセという叙勲を受けたばかりの女鎧騎士がおり、生傷の絶えない彼女の為に巴の看護師としての腕が買われ、客分として住まわせてもらっていた。
天界人の中には巴のように、貴族や騎士に保護されている者も少なくない。
その後、巴の名前でウィルの冒険者ギルドに、水源を取り戻す為のゴブリン退治の依頼が張り出されたのだった。
●リプレイ本文
●天界人に優しくない?
「こ、こう揺れると‥‥ゴムタイヤとサスペンションのありがたさが痛感できるな」
「そ、そうね。長時間乗っていたら、身体がおかしくなりそうだわ」
馬車には長谷川大和(eb5201)と彩星巴、そしてこれから向かう村の青年が乗っている。鉄のベルトで補強した木製の車輪が、獣道を踏み固めた程度の悪路の凹凸を直に馬車の中へ伝え、その分揺れる。
これには馬車を使おうと提案した大和本人も辟易してしまう。彼の感想に、ラッセ家を通じて馬車を用立てた巴も頷く。
「なんだなんだ、馬車に乗ってるのに文句を付けるとは、天界人ってのは贅沢な奴らだな」
「まぁまぁ、冬十郎さん。巴さん達は天界から来たばかりで、まだこの世界の暮らしに慣れない事も多いのですよ」
従者席に座り、馬車を牽く愛馬の笹目と萩尾の手綱を握る龍深冬十郎(ea2261)が高らかに笑う。冬十郎をなだめるのは、愛馬に跨り馬車と併走するアルガノ・シェラード(ea8160)だ。
「これをあなたに差し上げます。この匂いを嗅げば、多少は気分がすぐれるでしょう。それに、こちらの世界は衛生的に良いとは言えません。少しでもあなたの役に立てれば嬉しく思いますので受け取って下さい」
「あ、ありがとう」
アルガノは巴に香り袋を渡す。巴は凛とした顔立ちながら、腰下まで伸ばした艶やかな黒髪や三つ編みの鬢の髪などは古風で淑やかな印象を与える。優しく微笑むアルガノと恥じらう彼女が並ぶと、王子からプレゼントを捧げられたお姫様を思わせた。
『初めまして、お嬢さん。私も微力ながら協力させて戴きたいと思います』
実際、初めて巴に会った時、アルガノは王子様よろしく恭しく礼を取っていた。
「しかし、救援物資一つ寄越さないとは、フオロ家も薄情だよな」
「そうでしょうか? 開拓村は免税を以て支援とします。要請のない限り守りの騎士を常駐せず、大抵のことは村で問題を処理させるのは道理かと」
大和がそう零すと、愛馬ファーで馬車と併走するエリーシャ・メロウ(eb4333)が素っ気なく応えた。ウィル市街から外へ出た事のない大和は、トルク家に仕えるこの鎧騎士にアトランティスの事を色々と聞いていた。
『村の御領主は何方ですか? 他家の領地ならば、客分とはいえラッセ家が依頼に関わっていれば、如何に善意からでも分を侵したと捉えかねません』
エリーシャはラッセ家と村の領主との間に軋轢が生じないよう気遣い、巴と会って早々、青年の村の領主の事を訊ねていた。
青年の村はフオロ家の直轄地で開拓村だという。ラッセ家はフオロ家に仕える男爵家の一つなので、エリーシャの危惧は解消された。ラッセ家のフオロ家に対する自主的な奉仕として許可が下りているという。
また開拓村は税があまり取れない。エリーシャから見ても開拓村に課せられた税は微々たるものだが、今まで完全に作り取りだった村からすれば重税感は否めないだろう。
ともあれ、今度の収穫より初めて税を課すとあらば、免税期間の延長以上に、フオロ家が救援を用意するはずもなく、大和達が善意で提供するしかない。だが、
「困った人がいれば助けなきゃ、な」
と言う大和ですら自分では救援物資を用意しておらず、馬車に積んである救援物資は、山田リリア(eb4239)が調達した包帯代わりの清潔な布の束と巴の応急手当キットくらいだった。
●開拓村にて
駿馬キルシェラングを駆るジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)を始め、セブンリーグブーツを履いたシュバルツ・バルト(eb4155)達は、巴達に先行して開拓村へ到着した。
名もない小さな開拓村は静まり返っていたが、見たところゴブリン達に襲われた形跡はない。
「私達が来たからにはもう大丈夫、ゴブリン達の好きにはさせませんわ!」
「私達は鎧騎士です。騎士道により見参しました!」
「レシオンさんから話を聞きました。私は聖なる母に仕える者、困った人を助けるのは当然の事です」
ジャクリーンは戦場でも良く通る澄んだ声で村人達へ声を掛ける。ゴブリンの来襲を恐れて家の中で息を潜めていた村人達が顔を覗かせると、シュバルツがスピア『鬼徹し』を仰々しく振り翳す。安心させるだけではなく、信用も得ようとイシュカ・エアシールド(eb3839)が青年の名を告げると、開拓村の長と名乗る年輩の男性がやってきた。
「怪我人を診せてもらえますか? 重傷を負っている人がいれば、すぐにでも手当てしないと」
「私もリカバーが使えますので、お手伝いします」
医者であるリリアが身を乗り出す。怪我人を放っておく事は出来ないし、重傷であればある程きちんとした手当てをしなければ助かる命も助からなくなる。
開拓村の長は女性を一人呼び寄せ、リリアを案内させると、イシュカも同行した。
続いて、ジャクリーンとシュバルツが村の状況と水源の周囲の地形、ゴブリンの居場所や戦力について、開拓村の長が把握している範囲で聞いた。
今のところ村にゴブリンの襲撃はない。しかし、村の様子を窺うゴブリンの姿を村人達が目撃していた。
また、水源はなだらかな丘陵の上にあり、湧き水を湛える池の周囲は子供の背丈程の草むらが広がり、少し離れると林が囲んでいる。そこに棲み始めたゴブリンの数は八匹程で、斧と皮鎧で武装したホブゴブリン戦士をリーダーに、ホブゴブリンとゴブリンの編成だという。
「自警団を倒した事で調子に乗り、村を攻めようと様子を窺った可能性が高いですね」
「丘陵の上までゴブリンに見付からずに行ければ、偵察や弓を使うのに良さそうですわ」
先行して正解だったようだ。数日のうちにゴブリンの襲撃があると踏んだシュバルツの推測にジャクリーンが同意し、偵察へ向かった。
自警団は村の若い者達の集まりで戦いの心得はなく、その為、ゴブリン達に壊滅されられてしまったのだ。
重傷者の手当てはリリアが引き受け、イシュカは軽傷者にリカバーを掛けていった。
翌日、巴達が到着すると、リリアは本格的な治療に入る。リリアが診断を担当し、巴へ処置の指示を出す。看護師だけあってリリアとの連携や処置の腕前はなかなか手際がよい。
「応急手当キットは大事に使った方が良いと思います。凄く嫌な話になりますけど、自分自身の利用価値が低下したら扱いも悪くなります。ここは私達の居た医学の発達した世界ではなく、病や飢えや戦であっさり命を落とす過酷な世界ですから」
「でも、看護師として、目の前の怪我人や病人を放っておく訳にはいかないわ」
休憩の合間、年上とはいえ、リリアが小声で巴へ助言する。
「放っておく訳ではないです。今回、私が包帯を用意したように、アトランティスにある物で代用できる物は出来るだけ代用し、応急手当キットの乱用は控え、本当に必要になった時の為に温存すべきです。実務で腕を磨きたい私にとっては良い世界なんですけどね」
最後に苦笑するリリア。そういう理由なら巴も納得した。
「力仕事なら俺に任せときな! なぁに心配はいらねぇ。この村の水源は俺達が奪い返す、その為に来たんだからな」
リリアがクリエイトウォーターで生み出す新鮮な水と、イシュカが浄化した雨水の蓄えを、冬十郎と大和とアルガノが手分けして配る。これで冬十郎達がゴブリンを倒すまでは飲み水の心配はない。
「ウォーアックスにレザーアーマー、ミドルシールドで武装したホブゴブリン戦士がリーダーか。盾持ちとは侮れないな」
「林まで誘い出せれば、水源を荒らさずに戦えますね。自警団の方は突撃しただけのようですが、下っ端達を先に差し向けるところを見ると、首魁は統率力を持っているようです」
その後、冬十郎達は昨日のうちに偵察を行ったジャクリーンとシュバルツからホブゴブリン達の様子を聞く。リーダーのホブゴブリン戦士は意外と統率力があり、水源近くで戦って水源を汚染したくないと思ったエリーシャが、誘き寄せる作戦を提案すると、全員が賛同した。
なお、巴も参戦するつもりだったが、アルガノに説得されて村に留まり、引き続き、自警団の手当てをする事になった。
●意外と強いホブゴブリン戦士
水源のある丘陵は、決まって林の方から風が吹くという。
風上に当たる林に身を潜め、エリーシャと冬十郎から提供された保存食の干し肉を自分の物と合わせて炙り、匂いで誘き寄せるシュバルツ。
匂いを嗅ぎ取ったゴブリン達が騒ぎ出し、リーダーらしきホブゴブリン戦士が林の方を指差す。すると、数匹のゴブリンとホブゴブリンが彼女の方へやってくる。
「ゴブリン達数匹で偵察ですか‥‥思っていた以上に用心深いようですね」
「どちらにせよ全滅させるのですから、やられる前にやってしまいましょう!」
「同感だ!」
「あなた達に聖なる母の祝福を‥‥」
少し驚くアルガノ。とはいえ、半数以上を誘き出せた事に変わりはなく、手薬煉引いて待つシュバルツと大和。いよいよゴブリン達が林に入ると、イシュカは前衛で戦う彼らへグットラックを付与する。
アルガノのグラビティーキャノンが炸裂! 射程内に上手く三匹のゴブリンを入れ、うち後方の二匹が転倒する。
「私の名は鎧騎士シュバルツ・バルト! 私の名を刻んで‥‥逝きなさい!」
先頭のゴブリンの前に、シュバルツが突然現れ名乗り上げる。慌てふためくゴブリン。その様子に彼女は妖艶な冷たい笑みを浮かべると、スピア『鬼徹し』を旋回させる。
シュバルツの技量にオーガを倒す為に作られた魔槍の効果も加わり、ゴブリンは逃げる暇すら与えられず、恐怖の表情を浮かべたまま絶命し後ろへ倒れ込んでゆく。
「剣術は我流ながら得意だが、槍はシュバルツさんから鬼徹しを借りた時に簡単に型を習っただけだけど‥‥せっかくアルガノさんがお膳立てしてくれたんだし、四の五の言ってられないな!」
シュバルツの後に続く大和。相手はアルガノがダメージを与えたゴブリンだ。初撃は綺麗に決まるが、槍を扱うのは初めてなので、実戦での手応えを感じる為にも追撃は止める。
ゴブリンのハンドアックスの一撃は十分見切れたのでかわし、カウンターを叩き込む。これにはゴブリンも堪らず逃げ出す。
「逃げだそうとした自警団をいたぶったんだろ? 今度はお前がその気持ちを味わう番だ!」
自警団の痛々しい姿が脳裏を過ぎる。おおらか大和もこの時ばかりは許すはずもなく、背を向けたゴブリンにスピア『鬼徹し』を突き立てた。
「作戦は成功したようですね」
「どんな群れでも頭が潰れりゃ終わりだからな‥‥さて、俺達も始めるか」
ホブゴブリン戦士の下を離れるゴブリン達を見て、エリーシャは気を引き締めるべく手袋をはめ直す。彼女と冬十郎はイシュカ達とは反対の風下にある草むらに身を潜めている。
「我が名はトルク家に仕えし鎧騎士エリーシャ・メロウ! この名を恐れぬならば掛かってきなさい!」
ジャクリーンより借りたスピア『鬼徹し』を掲げ、ホブゴブリンへ躍り掛かるエリーシャ。大和達と挟撃した形となり、背後を突かれたホブゴブリンはスピアの洗礼を受ける。その演舞の如き華麗な突きは、しかし、ホブゴブリンを仕留めるには至らない。
ホブゴブリンはスマッシュを繰り出すが、エリーシャは簡単にかわす。続いて、もう一方のホブゴブリンもウォーアックスで斬り掛かるが、これも当たらない。
彼女の視線の先には、ホブゴブリン戦士と一対一で対峙する冬十郎の姿があった。
「格下と思っていたが、意外とやるじゃないか。もう少し楽しませてくれよ?」
シールドソードでウォーアックスと切り結びながら、冬十郎は楽しそうに言う。力任せの攻撃一辺倒と思いきや、このホブゴブリン戦士は戦闘経験が豊富なのか、冬十郎のスマッシュをミドルシールドで防いだりと、一介のゴブリンやホブゴブリンにはない攻防のバリエーションを持っていた。
だがそれも、冬十郎には戦いをより楽しむスパイスでしかない。スマッシュをシールドソードの盾で防ぐと、初太刀を出汁に相手を盾で防がせ、ポイントアタックを叩き込む。
技量の差は歴然で、やがてホブゴブリン戦士は冬十郎の刃の前に地に伏した。
イシュカの愛犬トリオや、丘陵の上に陣取りオークボウで援護射撃をするジャクリーンの支援もあって、大和が初めての実戦で苦戦したものの、誰一人負傷する事はなかった。
「我が勝利はジーザム陛下の御為に!」
ホブゴブリン達を全て仕留めたエリーシャが、勝ち鬨の声を上げた。
「負傷者がいなかったのは、エリーシャ様の策の賜物ですわね」
前衛が突破された時の事を考えて待機していたリリアが、降りてきたジャクリーンと仲間の無事を喜んだのだった。
●復興へ
ジャクリーンがホブゴブリン戦士達を全滅させた事を報告すると、村中が安堵の息を漏らした。
村人達に安らぎを与え、不安を取り除く為、吟遊詩人を生業とするアルガノが横笛で静かにメロディーを奏で、ジャクリーンとシュバルツが宮廷舞踊を踊る。
家の中から村人達が集まり始め、村の中央にある広場はちょっとしたお祭りムードに包まれる。
ホブゴブリン戦士達はそこそこの装備を持っており、それを売却すれば開拓村はそれなりの復興資金を得るだろう。
「私の報酬分も村の復興に使って下さい」
「民を護るは騎士の務め。出せぬ者から過分の報酬を得ようとは思いません‥‥が、トモエ殿。代わりにこの『そーらーうでどけい』の使い方を教えて戴けますか?」
金銭報酬を断ったイシュカとエリーシャには、村長からベルモットが渡された。また、エリーシャはただの装飾品と思っていたソーラー腕時計の使い方を巴に教わり、正確に時間を測る事が出来るようになった。
「水場に囲いを付けるとか、定期的に見回りをするとか‥‥まぁ、簡単な事でもしないよりはマシだと思うがな。依頼を請けていない間は、俺が護衛として雇われてもいいしな」
「作っている野菜は畑ごとに分けた方が良いぞ。水路も水を引く効率が悪く、水不足で痛んでいる畑もある。後、肥料もやった方が良い。肥料は‥‥」
今後、同じ事が起きないように水源周辺の警備をするなど、村長に対策を進言する冬十郎。天界の日本の山形で農業を営む大和はざっと耕地を確認し、気付いた点を天界の農業技術に照らし合わせてアドバイスする。
「私、実は御典医になりたいのです‥‥貴族社会や現実政治をこの目で見てみたいので」
「だったら‥‥そうね、合戦とかで貴族に自分の医学の腕前を売り込んだらどうかしら?」
リリアはウィルへの帰路の途中、巴にそう相談を持ち掛けた。
彼女の医学の技術はウィルでも高レベルだろう。また、感状を何枚か得ているし、狂王子ことエーロン・フオロとの面識もあるので、その気になれば彼の御殿医になれる可能性もある。後は合戦などで『自分が御殿医に相応しい』事を、エーロン王子へ積極的に売り込んでいく事が肝要だと巴は応えたのだった。