チャンスだピンチだ番外編〜子供?の嫁探し
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2006年06月20日
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●オープニング
「レーヴェン様。どうやらお嬢様が今町を騒がせておいでになりますが‥‥」
「ルキナスという男を追いかけているようだな? あんなどこの馬の骨かも分からない男にワシの大事なアンジェをやれるか!」
「はい、ですが静止もお聞きになりません‥‥使いの者に見晴らせてはいますが‥‥」
執事らしき男がそう答えると、レーヴェンはカンカンに怒った様子でテーブルを叩いた。
「この男爵であるワシが決めた男を拒絶しておいて‥‥! しかし、このままではいかん! あんな男に後を継がせるぐらいならば‥‥!」
「何か対処方法でも‥‥? ま、まさか‥‥?」
「いいか!? お前はルキナスという男を何としてでも捕まえろ! そして今すぐ冒険者ギルドに使いを出せ! 息子の‥‥ユアンの嫁探しだ!」
こうして、レーヴェンの言いつけ通り‥‥執事は冒険者ギルドに使いを出したのであった‥‥。
「お邪魔致します。此方が冒険者達が集う場所だと聞いて来たのですが‥‥」
「あ、はい。冒険者ギルドへようこそ。どんな御用件でしょうか?」
職員が尋ねると、貴族のような男はギルドの中を見渡し少し目を細めた。
何故このような場所に頼むのだろう?と疑問を抱いているのだろうが、これも主の頼みである為仕方なく話を切り出した。
「実は、冒険者の方々に頼み事があるのです。依頼主はレーヴェン・ハーヴェン男爵であられます」
「レーヴェン男爵様からの御依頼!? ど、どのような御用件でしょうか?」
「レーヴェン様には今年で8歳になられる御子息がおられるのは、存じておりますね? 実は、その御子息様のお嫁様を探して欲しいのです」
使いの男の言葉に、職員は目を点にした。
まだ幼い息子の嫁を今から探せというのだから驚くのも無理はないだろう。
「な、何故また急にそんな? まだ8歳なのでしょう?」
「‥‥本来ならば教える事はできないのだが依頼に差し支えが出るようではいけませんから、お教え致します。今、町では御息女であるアンジェ様がルキナスという男を婿にしようと考えています」
「‥‥みたいですねぇ。今も追いかけられているみたいですが‥‥」
「其処で、レーヴェン様は何としてでもその男に後を継がせない為に、御子息の御結婚を考えられた次第です」
「確か、御子息は結構変わり者‥‥でしたよね、言うのは失礼‥‥なのですが。理想のお嫁さんとかはあられるので?」
「いや、私もそう思いますのでその言葉は聞かなかった事にしましょう。‥‥御子息がおっしゃるには、『知的で美的。観察していても飽きない人』だそうです。‥‥人間観察が趣味ですし、哲学的な御方ですからな。ここまでお話したのですから、受けてもらいますぞ?」
と、念を入れてそう言うだけ言って、使いの者は帰ってしまった。
その背を見送りながら職員は小さく溜息をついた。
「娘が娘なら家来も家来ですね‥‥少しは話を聞いてくれてもいいのに‥‥」
しかし、男爵からの依頼というのもあり蹴るわけにもいかない。
仕方なく、職員はイソイソと依頼書を製作するのであった‥‥。
●リプレイ本文
●ハーヴェン家
「お嫁さん探しって結構ドキドキしますよねっ?」
喜んでこの依頼を請けたハルヒ・トコシエ(ea1803)がちょっと楽しそうに笑う。
しかし、内心フクザツな人もいるようだ。
「でも、家督相続ってどちらなんでしょうか? 長男相続? それとも‥‥」
難しく考えている山下博士(eb4096)。彼が一番フクザツなんだろうと思う。
「まぁまぁ! 難しく考えたって何も変わりはしませんよっ。そんな事より、まずはユアンくんに会いましょう!」
「そうですね、それがまず第一歩ですよね」
「その前にだ。この依頼の担当ギルド員に話があるのだが」
「はい? 私に何か?」
「レーヴェン卿やユアン氏について知っているそぶりを見せていたが、有名なのか?」
「有名も何も、レーヴェン様はあの街の男爵ですし‥‥ユアン様はその御子息。知っていてもおかしくないと思いますが‥‥」
「その為人や派閥等情報を知っていれば‥‥」
「ハーヴェン家は元々家系柄武人思考だ、という事ぐらしいか。後は全て噂なので、詳しい情報は出せませんね。ひととなりについては‥‥どうなのでしょうね。レーヴェン様はかなりの親バカだという事ぐらいしか」
「ふむ‥‥派閥などはどうなのだ?」
「其れが‥‥それについての情報だけは入って来てないんです、申し訳ない‥‥」
「とにかく、行きましょう。私達の目的はお嫁さん探しなんですし、それ以外の事は極力しないようにしましょう!」
ハルヒの言葉に越野春陽(eb4578)も了承したかのように頷く。
こうして彼等はハーヴェン家へと向かう事になるのであった。
●こんな子いるの?
街の一角にある大きな屋敷。門構えも素晴らしい程にデカイ。どうやらここがハーヴェン家の屋敷であるようだ。
「ここが屋敷か‥‥」
「大きいですねぇ‥‥」
「御依頼を請けてくださった冒険者方ですね? どういった御用件でしょうか?」
門の前に人がいる事に気付いたのか、屋敷の家来らしき人間がハルヒ達に話かけていた。先ずは話を通さないと中にも入れないだろう。
「お嫁さん探しにあたって、ユアンくんにも直接お話を伺いたいのですが‥‥」
「そうでしたか。ユアン様は丁度お部屋に戻られたところです。ここでは目立ちます故、どうぞ‥‥」
屋敷の中に案内されると、其処は豪華なものだった。様々に輝く宝石。そして家具。只の男爵の財力ではない。
ハルヒ達はユアンの部屋にまで案内されると、
「な、なんだこりゃあ‥‥? こ、これが八歳の部屋、か?」
「ほ、ホント‥‥これじゃあびっくりしちゃうよ‥‥」
セーラ・ティアンズ(eb4726)と毛利鷹嗣(eb4844)が驚くのも無理はない。部屋は本でぎっしり埋め尽くされているのだ。
机の上にも本。本棚にも本。ベッドにも本。羊皮紙を綴った大きな本。本、本、本なのだ。
「誰です? 僕にお客人なんて珍しいじゃないですか?」
声は甲高く明らかに子供。種族は紛う事無き人間である。
「あ、私達は貴方のお嫁さん探しの仕事を請け負って‥‥」
「‥‥また父様の差し金ですか」
小さく溜息をつく子供。自分の体より幾分も大きな、足が床に届かぬ椅子に座り、呆れ顔でハルヒ達を見ていた。彼の言動は何処か大人びており、子供には思えない部分が節々に見える。
「早速で失礼ですが、今回御結婚のお気持ちはあるのでしょうか?」
イコン・シュターライゼン(ea7891)が下手、下手にそう伺う。
子供とは雖も男爵の子息。この有様では子供騙しは通じない。
「確かに、僕も理想の女性を言い並べましたがまさか本当にここまでするとは思っていませんでしたね。結婚なんて、何でするのかよく分からないんですけど」
「では、御結婚の意思はないと?」
「でも結婚しないとこの家は潰れてしまいますよね? 存続させたいとはあまり思わないですけど、姉様がいますから。だから僕は姉様の為だと言うのならば結婚、しますよ?」
質問にサラリと答えると、ユアンは持っていた本にペンの羽を挟み机に置いた。
結婚は姉の為。どうやらユアンの考えはそうあるようだ。ユアンの姉といえば、今巷を騒がせているあのお転婆娘、アンジェの事である。
「さて、ユアン殿。どうであれ、私達は貴方の御意向に沿う女性を探し出したいと考えております。これは御理解頂けますね?」
目線をユアンに合わせ、そう問う春陽。ユアンは呆れながらも小さく頷く。
「父様の意向なんてどうでもいいのですが、依頼してしまったという事には変わりはないですよね。ですから、探して頂いて結構です。ですが、探すだけ‥‥という事になるかも知れませんが」
「はい、探す事までが私達の仕事ですから」
「そうですか。‥‥しかし冒険者というものは面白いですね? 人の頼みなら何でも受け入れてしまうだなんて。僕には真似出来ませんよ」
バカにしているのか、そうでないのか。ユアンは感心しているようだ。そして、まるでハルヒ達を観察するかのように、目線をそれぞれに配っている。
「それじゃあ次は僕から質問させて頂きますね。ユアン様は年齢差とか、女性の身分とか‥‥具体的に女性に何をお求めに?」
「難しい質問ですね。一つ一つ答えるなら、年齢差なんてどうでもいい事ですし、身分なんて関係ない事ですよね? 其処に拘る父様は全然なってない人なのですが」
(「ち、父親に対して酷い言い様‥‥」)
「具体的に何を求めるか? そうですね、僕としては明るくて笑顔が可愛くて‥‥僕が出来ない事を僕の代わりにしてくれて、其れを僕にお話してくださる方が一番だと思っています。そうすれば僕の想像力が養われますしね」
メレディス・イスファハーン(eb4863)の問いにそう答えるユアン。すっかり大人びている。精神的に大人びてしまって、肉体は子供のまま。なんかそういう感じに見受けられる。
「あ、最後に! 博士くんは、ユアンくんと友達になりたいんだって♪ なってあげてくれる?」
「僕と、ですか?」
「はい。歳も近いですし‥‥良いお友達になれると思って‥‥」
「そういう事なら僕は喜んで。ですが、僕は貴方の事を知りません。これではお友達になっても知らない人のまま。それではお互い困りますよね」
ユアンがそう言うと、博士はゆっくりと語り出した。かのルーケイの討伐の話だ。
「この話を踏まえて問いとさせてください。厳しくするのと、優しくするの。どちらが上手く人を治める事が出来るでしょうか?」
口にはせぬが博士の模範解答はこうだ。一見優しい水が、厳しい火よりも多く命を奪っている。従って、どちらかを選ぶならば厳しい方が良い。対してユアンはこう答える。
「いきなり難しいお話をなさるのですね。ですが僕はこういった話は大好きです。厳しくか優しくか‥‥そう言いましたね? 僕の答えは簡単です。どちらも時に必要となるでしょう」
「ふむ‥‥」
「征服は力だけでも出来ます。ですが、力だけで統治は出来ません。ただそれだけの事です」
言うとユアンは苦笑して見せ、
(「そう来ましたか」)
博士も『耶律楚材』を思い、笑みを浮かべた。
程なく数回のノック。扉の向こうには執事らしき男。ユアンはその男を見ると小さく溜息を吐く。男の手には水が入ったコップと包み。もうそんな時刻かと言う意味のようだ。
「すみません、ユアン様はこれからお薬を飲まれお休みになられる時間でございます。本日はこれぐらいにして頂けますか?」
「あ、はい。それじゃあ、さっき聞いた通りの人頑張って探しますね!」
「形だけで結構ですし、お願いします。それと、博士さん」
「はい?」
「貴方と僕。いいお友達になれるかも知れませんね。また何かあればいらしてください、その時は観察も兼ねてお話を聴かせてください」
こうして、ハルヒ達はハーヴェン家を後にした。
「ユアン様、よろしかったのですか? もう少しお話していたかったでしょうに‥‥」
「また会えると思っていますから。特にハルヒさんと博士さんには、きっと‥‥」
「お友達が増えて、よかったでございますね?」
「父様のお陰っていうのが皮肉なものですが‥‥」
そんなやりとりも、冒険者達には知られないまま。
ハルヒ達のユアンの感想は、簡単なものだった。子供らしくない子供。故に大人としか見れない、と。
●本題の嫁探し
「さて、好みも詳しく聞き出せた事だし、探しましょうか」
「あ、それでしたらツキカさんやマリエさんとかどうでしょうか? 今、イェーガさんとアイゼナッハさんに頼んであるのですが‥‥」
「多分、彼女等はダメだと思うよ?」
クライフ・デニーロ(ea2606)がそうイコンに告げる。考えてみれば無理なのは分かりきっている事だ。何せ、此方は彼女達の好みすら知らない。此方が知っているのはユアンの好みだけなのだから。
「や、やっぱり無理ですか‥‥」
「ホームパーティーとか、オーディションとか考えてみたんだけど、ユアン様って見た所お体が悪いみたいだったし‥‥どうしよう‥‥」
ギルドで頭を悩ませていたハルヒ達の下に、先程の執事らしき男が現れた。
ハルヒ達を見つけると、軽くギルドの扉を叩き気付かせる。
「あ、先程の執事さん! ユアン様はお休みになられたんですか?」
「はい、ぐっすりと。皆様とお話できた事をとても喜んでおられました」
「それで? 何か御用があって来られたのでは?」
鷹嗣が慣れない丁寧語でそう尋ねると、執事は「そうでした」と呟いて、コホンと咳払いを一つした。
「ユアン様がお休みになる前に、伝言を伝えてくれと言われましたので。こちらに戻っていると聞いて、参上した次第です」
「伝言?」
「はい。ユアン様は、ハルヒ様と博士様。双方をとてもお気に入りになられまして‥‥」
「え、えぇ!? わ、私!?」
「はい。貴方達と話している間、趣味である観察を行っていたようです。博士様とはお友達になれそうだ、と喜んでおられました。そしてハルヒ様ですが‥‥」
「う、うん‥‥?」
まだ錯乱しているのか、ハルヒはオロオロとして執事の言葉に耳を傾けていた。冒険者側としては、これは好都合だろう。どうやって探すのか難儀していた所にこの話だ。
探す手間が省けただけではなく、依頼も達成されるのだ。
「お言葉を預かっています。貴方の人柄はとても優しいものと判断しました。貴方なら僕に出来ない事をしてくれ、お話してくれると確信しています。お友達から、少しずつお互いを知り合いましょう‥‥という事です」
「お、お友達からなら‥‥って! でも、私は‥‥!」
「いいんじゃないかなと思うよ、僕は? どちらにしても僕はハルヒさんを推薦するつもりでしたから」
「クライフさん!?」
「美しさを高める技術を怠っているわけでもないし、他人の意見に流されない意思の強さもあるし、文字通り飽きは来ないと思っていたし」
「う、うう‥‥!」
「何にせよ、これで依頼は完了だな」
「そうですね。ですが、心配なのはユアン様ですね。何か御病気なのですか?」
イコンが尋ねると、執事らしき男は唇に人差し指を沿え、小さく首を横に振った。
詳しい事はここでは言えない。そういう事なのだろう。もし、ユアンが病気か何かだと知れ渡れば他の貴族にとっては好都合な事だからだろう。
「何にせよ、今回の御依頼を引き受けてくださりありがとうございました。ハルヒ様、博士様。これからもユアン様と仲良くお願い致します」
「しかし、いいの? レーヴェン卿はこの事知らないのでしょう?」
「レーヴェン様に知れれば、強制的に御結婚という形に持ち込まれたでしょう。ですから、この事は秘密とし‥‥未だ探していますとお伝えしておきます」
「‥‥なんていうか、頑固オヤジなのかなんなのか分からなくなってきたな」
鷹嗣がそう言うと、冒険者達も苦笑を浮かべるしかなかった。確かに、強制的に結婚なんて事になれば其れこそ大波乱であるのだから。しかし、ハルヒにとってはこの時点で大波乱だろう。
「う、うう‥‥私が、ユアンくんのですか〜‥‥確かに人柄に興味はありましたけど〜‥‥冒険者ですし‥‥」
「だからだと私は思っております。後日ゆっくりと冒険のお話を聴かせて差し上げてください。お喜びになられると思います。報酬の方はギルドの方に預けておきますので、お受け取りください。それでは‥‥」
「‥‥そう言えば、お姉さんの方はどうなったんでしょうか?」
博士の呟きにピタリと止まると、執事は顔だけ振り向かせこう答えた。
「アンジェ様の方は余計に御熱心になられたという事です。この時期にレーヴェン様にユアン様の事を言えば、間違いなく‥‥でしょうから。出来るだけ噂をたてておいてください。ユアン様がお嫁を探している、と」
そう言い残して、執事はギルドを後にした。
博士達は、混乱するハルヒを宥め言われた通りに噂を酒場に流した。数日後。その噂はたちまち広まり、後継ぎ候補の話で持ちきりになったそうだ。