仕立て屋オルガ〜ウェディングベル
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:12人
サポート参加人数:7人
冒険期間:06月29日〜07月02日
リプレイ公開日:2006年07月06日
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●オープニング
花咲き乱れる庭園。レヴァント子爵邸の広い庭の一角で、幼い少年は少女に一輪の花を差し出した。
『大きくなったら、僕のお嫁さんになってくれる?』
『‥‥うん!』
大人たちに内緒で交わした約束。幼い少年と少女の交わした、たわいの無いそれ。けれど、それは少女の中、年を重ねても色あせる事無くずっと、鮮やかに息づいていた。
だから、本当に‥‥その約束が現実になる事が決まった時、少女‥‥マリーベルは嬉しかった。自分の為の真っ白なドレスが出来上がっていく様に、胸を高鳴らせた。
「本当に素敵なドレスなんですのよ。もう少しで完成するらしくて、わたくしそれはもう楽しみで‥‥」
しかし、そんなマリーベルに彼‥‥ローレンは告げたのだ。どこか迷うように、思い悩むように。
「‥‥マリーベル。君は、本当に良いのかい? 本当に僕と結婚しても、良いのかい?」
「え‥‥?」
「君はキレイで可愛くて、すごく素直で優しくて。君に思いを寄せる相手はたくさんいる‥‥僕よりも相応しい、君を幸せに出来る相手はもっと他にいるんじゃないかと思うと」
「ローレン、様‥‥?」
「僕は君を幸せにしてあげられるのか‥‥僕たちはこのまま結婚して、良いのだろうか?」
ため息まじりの自問に、マリーベルの目の前は真っ暗になった。
ウィルの片隅に、仕立て屋『ロゼカラー』はあった。店主兼お針子のオルガと、事務雑用一切をこなすウェインの姉弟が営む、店。男性に振られた落ち込みにより、春先は仕事が手につかなかったオルガだが、今ではすっかり元気になっていた‥‥まぁまだ多少は男性に苦手意識を持っているようだが。
そして、もう一つ。
「ふぅ‥‥もう少し、ね」
純白のドレスを前に、オルガは小さく息を吐いた。ドレス‥‥完成間近なウェディングドレスを前にして。
ウェディングドレス。それはかつて、オルガがドレスを作れなくなったきっかけとなったもの。だからこそ、この仕事をこなす事が出来れば、無事ドレスを作り上げる事が出来たならば‥‥自分はこれからもちゃんとやっていける、オルガはそう思っていた。
しかし、その時。カラン、と小さな音を立てて『ロゼカラー』のドアが開いた。
「マリーベル様、ようこそいらっしゃいました。もう少しで出来上がり‥‥」
最後まで言う事が出来なかったのは、ドレスを着るべき花嫁の様子がおかしかったから。
「ドレスはもう要りませんの‥‥結婚は多分、取り止めとなりますもの」
そうして、数日前まで幸せいっぱいだった少女は、泣きはらした目に新しい涙を浮かべた。
レヴァント子爵家の令息ローレンとアルマール男爵家の令嬢マリーベルとの結婚は、両家合意の下でつつがなく準備が進められていた。17歳と15歳の年若い二人だったが、両家は元々懇意にしていた事もあり、傍目にもお似合いな幼馴染同士の婚姻は何の問題もないように思えた‥‥思えていた。
「ローレン様はきっと、わたくしが嫌いになったのですわ。それとも他に好きな方が出来たのでは‥‥」
ハンカチーフで涙を拭いながら、マリーベル嬢。
「いや、ローレン様はどう見てもマリーベル様に惚れてるし。気弱な性質だし、マリッジブルーってヤツじゃないの?」
ウェインの慰めの言葉も、悲嘆にくれるマリーベル嬢の耳には入っていないようで。
「そういえばわたくし、ローレン様自身の口からは結婚の申し込みを受けてはいませんわ。あの時‥‥あの時一度だけしか」
寧ろ、新たに気づいた事実に、打ちのめされた様子。
「といっても、貴族同士の婚姻はそう簡単に止められるものではないですし‥‥何より、思い合ったお二人には幸せになっていただきたいですし」
悄然とする花嫁を案じるオルガは逡巡の後、心を決めた。
「ここは冒険者の皆さんにお力を貸していただきましょう」
オーナーからも「貴族同士の結婚ならオルガの腕とウチの生地の良い宣伝になります、絶対素敵なドレスを作って成功させて下さいね」と言われている事だし、宣伝の成否は花嫁さんがいかに幸せそうかにかかっているのだから。
「まぁそんな建前なんかなくても‥‥やっぱ幸せになって欲しいしね」
姉の思惑を察したウェインは苦笑しつつ立ち上がった。
「とにかく、ローレン様にハッパかけてその気にさせて、マリーベル様にちゃんとプロポーズさせる‥‥そのセッティングを依頼すれば良いんだね」
早速冒険者ギルドに向かう弟を見送り、オルガはマリーベルに優しく告げた。
「大丈夫です。冒険者の方たちがきっと、マリーベル様にあのドレスを着させてくれますわ」
●リプレイ本文
●彼女と彼の評判
「マリーベルってどんな子?」
「可愛らしい方よ」
「優しいし気立ても良いわ」
「この辺じゃ、お嫁さんにしたいナンバー1よね」
真音樹希(eb4016)が尋ねると、ご近所さんはニコニコした返事の後、意味ありげに笑った。
「でも、マリーベル様はダメよ。婚約者がいらっしゃるもの」
「見てて微笑ましい、お似合いのお二人ですもの」
「坊やも、諦めなさいな」
「ふぅん、そうか。お姉さん達ありがとな!」
樹希は屈託なく礼を述べると、今度はローレンの家へと向かった。
「子供の頃の約束が有るとはいえ、愛想を尽かされてないという事はいい奴なんだろうが」
先客。飛天龍(eb0010)は問題のローレンを観察していた。
「ハッキリしねー奴は好きじゃねーけど‥‥」
窺い見るローレンは悄然と、庭で小鳥にパンくずを与えていた。
「やつれてるな」
気づいた様子もなく、溜め息。また溜め息。も一つ溜め息。樹希と天龍が見ている間だけでももう数十回は溜め息をついている。
「生き物に好かれているって事は、心根が優しいんだろうが‥‥」
ローレンの評判は「良い人だけど」「優しいんだけど」「真面目なんだけど」‥‥天龍は溜め息をもらした。
「幼馴染み同士でお似合いのお二人なのですね」
執事に話を聞いていたのは、富島香織(eb4410)だ。由緒正しいが落ち目ぎみの子爵家と、新興だが勢いのある男爵家‥‥結びつくに容易い両家であり、出会いも想定されていたのかもしれない。
「それでも、マリーベルさんの気持ちに嘘偽りはありませんわ」
思い出話に耳を傾けながら、香織はその思いを深めた。
「ローレンさんにとって、マリーベルさんは高嶺の花に見えてしまっているのでしょうね」
シフール二人と情報交換し合った香織は、苦笑交じりに呟いた。
「実際、マリーベルさんの評判はすごく良いです‥‥他の縁談話もあったとお聞きしましたよ」
「ローレンは平凡な自分では釣り合わないと思い詰めているのだろうか?」
天龍に頷いてから、香織は少し迷いながらポツリともらした。
「マリーベルさんは良いお嬢さん過ぎる気がしますが‥‥」
「確かにそうだな。理想のお嫁さん‥‥か」
「とにかく、これらを他の皆さんに伝えましょう」
香織に、樹希と天龍は頷いた。
●彼女の願い
「白の神官としては、困っている人を助けてあげたいですから」
「先ずは事情を聞かせてくれるかしら?」
仕立て屋『ロゼカラー』を訪れたイシュカ・エアシールド(eb3839)とクレア・クリストファ(ea0941)は、にこやかな挨拶の後、促し。
「ふむふむ‥‥なるほど、これは若い人らの幸せのため、腕まくりして挑まねばなるまいのぅ」
事情を聞いたマルト・ミシェ(ea7511)は、店主オルガとマリーベルを前に優しく微笑んだ。
「自分に自信が無い、ですか〜。すっごくよく分かりますね〜、その気持ち〜。私も昔は悩みましたから〜」
ローレンの様子に、とっても実感を込めるハルヒ・トコシエ(ea1803)に目で合図し。
「はい、どうぞ」
月紅蘭(ea1384)はマリーベルの前にハーブティーを置いた。気持ちを落ち着けさせる為だ。
「それにしても‥‥ステキよね、このドレス」
と、紅蘭は店の中央に置かれたウェディングドレスをうっとりと見つめた。リラックスさせる為半分、仕立て屋としての興味半分で。
胸元に施された精緻な刺繍、その下の幾重にも重ねられた純白の薄布と相まって、そこにあるだけで華やかな可憐な印象を与える。
「着せてあげたいわね」
「大丈夫です〜。ドレスに合う素敵な髪型にしたいって、きっとマリーベルさんから言う事になりますよ〜」
美容師であるハルヒは既に、想像を膨らませている。その為にも、彼女の笑顔を取り戻さねば、内心で思う。
「『プロポーズはあの時一度だけ』と仰っておられましたけど、断りだってまだはっきりと言われたわけではないのですよね?」
本当に嫌いになったのなら破談にもなるだろうが、イシュカの言葉に、彼女は迷いを見せる。希望にすがりたい気持ちと、不安な気持ちで揺れて。
「ご自身の気持ちの整理をつける為にも、お2人の最初の出会いから纏めて話していただけませんでしょうか?」
切り出したイシュカと頷き合い、紅蘭はそっとスイッチを入れた。
「こいつに彼女のローレンへの気持ちのありったけを入れといてくれ」
それは陸奥勇人(ea3329)から預かった、メモリーオーディオ。
「貴女の真っ直ぐな想い、全て聞かせて貰えないかしら?」
どれ程深く彼を愛しているのか、どれ程長く彼の事を想い続けていたのか、濁りの無い真っ直ぐな心を‥‥そうして、クレア達にマリーベルは頷いた。
「わたくし達は幼馴染みで‥‥ローレン様はいつも優しくて、困っている時いつも助けてくれて、泣いている時いつも慰めてくれました。わたくしは相応しくあろうと努力してきましたわ」
語る瞳はキラキラしていた。見ているだけで伝わってくる、一途な想い。
「正直、わたくしはローレン様しか見ていなかったのですわ。ですから、他にどんなお話があってもお誘いがあっても、他に想う方がいるからと断ってきましたの」
それでも悪い噂がなかったのは、心を砕いたからだろう。自分のせいでローレンに迷惑がかかる事のないように。
「マリーベルさんがステキなのは、ローレンさんの為に己を磨いてきたからなのですね」
香織達からの情報‥‥引っかかっていた疑問の答えに、ハルヒは何度も頷く。それが彼の悩みの原因とは皮肉だが。
(「というか、マリーベル様もちょっと思い込みが強いようですね」)
勿論、それは悪い事ではないが‥‥彼にとってプレッシャーだったのでは?、察するイシュカ。視線を受けた紅蘭は一つ頷き、オルガと言葉を交わしてから姿を消した。
「これ、宜しかったら貰っていただけませんか? 元いた世界でのおまじないの道具なんですよ」
ごまかすように他愛無い話をしつつ、イシュカはスターサンドボトルを贈った。
「半分は、マリーベル様からローレン様に渡されると宜しいですよ」
マリーベルの表情に再び、憂いが満ちる。
「愛とは、人に与えられた1つの試練。愛する心が強過ぎれば、人は時として弱くなり、苦しむ事もある」
思い出は優しく、その優しさ故に時に残酷だ。クレアは励ますように声に力を込めた。
「しかし、愛する心を持つからこそ、人は何よりも美しく輝ける。愛せるからこそ、強く生きる事ができる」
「まだはっきりと断られたわけではないという、切り札があるんじゃ。他に縁談がこようが、マリーベルさんが好きなのはローレンさん‥‥それが一番大事じゃからのぅ」
「貫きなさい、自分の想いを‥‥信じなさい、彼の心を」
マルトとクレアの励まし、彼女はやっと微笑み頷いた。
「そう、その笑顔よ。気弱な男はね、少し引っ張る感じで共に生きると丁度良いのよ」
そして、クレアは立ち上がり促した。
「行きましょう、レヴァント子爵邸に」
「オルガさんのためにも、この依頼、必ず成功させます。がんばる人には、きっとお日様も微笑みますよ〜」
「結婚式は、麗しき女達の夢。幸せの一つの形‥‥女が一番輝く刻
。だからこそ、叶えてやりたいわ」
自分に言い聞かせるようにハルヒが、そして、強い決意を込めてクレアがそれぞれ、オルガとマリーベルの手を握った。
●彼の悩み
「ああ、冒険者と男爵は兼業なんで。爵位持ちが店のお使いとか気にしない」
身なりを整え、爵位を身分証明に面会を申し出た時雨蒼威(eb4097)は、ローレンにそんな風に挨拶した。
「自分自身がマリーベルに相応しくない人間だと思っているのか」
ズハリ直球なアッシュ・クライン(ea3102)の問いかけに、彼は言葉を失くし俯く。
(「同世代で活躍している人間が多いし、それらの人々と比べ自分が見劣りするのかね?」)
蒼威にはピンとこないが、彼にとっては深刻らしい。
「私達は責める為に来たわけではありません。あなたの力になる為に、ここに来たのです」
そんな彼に、ファング・ダイモス(ea7482)は優しく声を掛けた。
「彼女に望まれての婚姻だと聞いたが、何故そこで尻込みしてるんだ?」
問いかけたのは、勇人。とにかく懸念‥‥その思いや迷いを全部吐き出して欲しいと。
「マリーベルはとても素晴らしい女性だ。それに比べて僕は‥‥自信がないんだ。幸せに出来る、自信が」
「幸せに出来るか自信が無いだと? 人によって幸せという物は違う物ではないか?」
と、天龍は一喝した。
「それに、お互いが幸せになれるように願い支えあって生きていけるのなら、他人がどう思おうとそれは幸せな関係だと思うぞ」
そして、口調を少しだけ和らげる。諭すように、言い聞かせるように。
「同感だ。自信云々の前にまず自分自身に素直になり、彼女に自分の本当の気持ちを伝える事。やる前から自分に負けていては、彼女を余計に不幸にするだけだ」
同じ気持ちでアッシュも言葉を重ねる。心に届けたいと。
「自分に相応しいか相応しくないかはマリーベル自身が決める事。もし相応しくないと思われているようなら、そして彼女を本気で愛しているのなら自分自身を磨き、努力することが大事だ。そしてそれは、結婚してからでも決して遅くはない」
「1つ質問だ。お前さんマリーベルが他の男の手に抱かれるのを本当に黙って祝福出来るか?」
「実は俺もマリーベルのコト好きなんだよな。今は無理でも彼女にプロポーズしちまってもいいか?」
勇人の言葉にかぶせての樹希の挑発に、ローレンは目を真ん丸くした。彼女が誰かの腕の中で笑っている‥‥考えた事もなかった絵に、頭が真っ白になる。
「他人は関係ないぜ。自分がマリーベルを愛しているか、幸せにしたいかどうか、だろ。そして、その想いを受け止めるかどうかはマリーベルが決める事だ」
勇人は真摯に続ける。
「このまま黙って身を引いて後悔するよりも、俺は正面から彼女と向き合う事を勧めるぜ」
「だが、本当に‥‥いや、最初から僕達はすれ違っているのではないだろうか」
と、揺れる瞳はもらした。
「彼女が見ているのは本当に僕‥‥本当の僕なのだろうか?」
「彼女はおまえ自身でなく、自分が思い描く理想を見ている、と?」
「幼い頃の約束と言うだけで、好きでたまらない彼女の未来を縛ってしまった事、そして、彼女の無償の信頼に自分が応えられるかを真剣に考えた結果、袋小路に陥ってしまったのですね」
成る程、勇人は眉根を寄せファングは頷いた。
「では、自分自身はどうなんだ? ローレンさんは本当に彼女を、理想の花嫁でない、本当の彼女を見ているのか?」
蒼威はやれやれと苦笑交じりに指摘した。
「俺が思うに、マリーベル嬢はそんな過去の幻影に10年来恋し続けてる女性ではないと思うが」
「証拠を聞かせてやるよ」
そうして、勇人は駆けつけた紅蘭から受け取ったメモリーオーディオのスイッチを入れた。流れてくる、想い。些細な出来事の積み重ね。それでも、その度に募っていった、想いたち。
「無償の信頼には、真摯な愛で応えるべきだと思います。マリーベルさんにとって、ささやかな行為でもたまらなく嬉しい事なのです」
ファングは笑みを深めて、告げた。大切すぎて見えなくなった想いが今‥‥彼の中でくっきりと蘇るのが分かって。
「大切なのは自分を誇れるようになる事。マリーベルを生涯をかけて護り通すと胸を張って言い、実行するという事が彼女の為になる」
「お互い、悩み苦しむ事も有ると思います、ですが、そうした出来事を得て、夫婦の絆は深まる物です、どうか、ご自分の思いに素直になって下さい」
アッシュやファングの、皆の眼差し‥‥励ましを込めたそれらに、彼は頷いた。それは天龍たちが初めて眼にする、すっきりとした顔。
「そうですね、舞台はあそこが良いでしょう」
そして、ファングは花を差し出した。
●彼と彼女の未来
「あらあら、随分と男前になったんじゃない?」
「本当、カッコいいですよ〜」
紅蘭がコーディネートし、ハルヒがメイクや髪を整えた彼は確かに、キリッと見目良くなった。
「そっそうですか?」
「これでマリーベルさんも惚れ直しちゃうかもです〜」
つられた視線の先、それはそれは可憐な花嫁さんがいた。
「婆はここまで平穏無事に年をとっておるから効きそうじゃろう?」
サムシングフォー‥‥サムシングボローのシルバーリングを貸したマルトは、緊張の面持ちのマリーベルに囁いた。
「借り物は隣人愛の象徴。苦しくなったら自分一人で悩まず助けを求めてもいいんだよ、と伝えたくてのぅ」
彼女は一人で頑張ってきた。大好きな人のお嫁さんになる為に。だけど、とマルトは諭す。これからは一人で頑張らなくて良いのだと、隣に立つ者を、見守る周りの者達を頼っても良いのだと。
「素直になる事が一番大事です〜。目の前の本当に大切な人を、どうか悲しませないで。お二人の幸せ、お手伝いできれば本望です〜」
「男は度胸だぜ、ローレン」
ハルヒと勇人は、彼の背を押した。勇気という名の力でもって。
アッシュ達が静かに見守る中、ローレンはゆっくりと口を開いた。思い出の場所で、新しい約束を交わす為に。
「正直、まだ自信はないんだ。だけど、分かったから。僕がどんなに君を好きか、君がどんなに僕を想ってくれているか‥‥だから」
花を差し出す。「あなたを愛しています」想いを込めた誓いの花。
「どうか僕と結婚して下さい」
「‥‥はい」
頷いた拍子に涙が一滴零れ落ちた。それを合図に皆が駆け寄る‥‥どの顔も笑顔で。
「おめでとう。末永く幸せに」
よくやったと労いを込めてアッシュ。
「あのお二人ならきっと、幸せな一生を過ごして下さるでしょう」
確信を込めて微笑む香織。
「おめでとう、マリーベルさん。とてもとてもステキよ」
「末永く幸せにな!」
言いながら、紅蘭と樹希は二人の頭上に花を降らせた。
「やっぱハッピーエンドじゃねーとな」
マリーベルの何気ない所作一つ一つにフワリフワリとドレスが揺れる。笑いさざめくように、幸せそうに。
「ホンにのぅ。オルガさんの最高傑作じゃな」
現時点のな、マルトにオルガは嬉しそうに頷いた。
「誇り高き月よ、崇高なる夜よ‥‥そして大いなる父タロンよ、遙か地よりあの子達に恩寵を‥‥」
クレアは微笑みながら、遥かなる故郷に祈りを捧げた。二人の未来が輝かしきものとなる事を。