【遺跡探索記】丘陵地帯に埋もれた屋敷跡

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月12日

リプレイ公開日:2006年07月13日

●オープニング

 その日、ウィルの冒険者ギルドの扉を、ウィル国内を回り、武者修行の旅を続ける女鎧騎士カティア・ラッセが再び叩いた。
「新しい遺跡を見付けたので、探索に協力してくださる冒険者を募ります」
 折り目正しさは前とそう変わらないが、叙勲を受けたばかりの、初めて冒険者ギルドを訪れた時に比べると、硬さが幾分和らいでいるようにも見える。もちろん、身を包んでいる鎧騎士の証たるゴーレムライダーや、背負っているサンショートソード、左手に括り付けている、中央に家紋が描かれた円形のライトシールドは、まだまだ使い込んでいるとはいえない。
 カティアはその装備からも分かるようにウィル新刀を修めている。得意なコンバットオプションは、乗馬好きが高じて‥‥もとい、騎乗戦闘を考慮してチャージングとフェイントだという。
 彼女は鎧騎士としても冒険者としても、ヒヨッコ同然だ。物静かそうな貴族令嬢の顔立ちが抜けきっていない。もっとも、彼女は最初は鎧騎士になるつもりはなく、フオロ家に仕える男爵家の一つ、ラッセ家の貴族令嬢だったらしい。それがどうして鎧騎士になったのかは分からないが‥‥。
 なお、彼女の騎士学校の学費はフオロ家が負担している。カティアのような封土を持たない鎧騎士は、エーガンといった国王個人ではなく、フオロ家といった家に属していることが多い。大抵の場合、家同士が累代の君臣関係にある場合が多いからだ。
「先日、ウィルより三日離れた山中で、土砂に埋もれた建物の入口を見付けたのです。地元の方にお話を伺ったところ、その山は昔、その地方を治めていた豪族の屋敷があったそうです。ですから、その入口はもしかしたらその豪族の屋敷跡かも知れません。ただ、わたしは、遺跡を探索する知識も技術もまだまだ未熟なので、今回も得意な冒険者に協力してもらいたいのです」
 レンジャーの修得できる技能は、遺跡の探索には欠かせないものばかりだ。彼らの協力無くして、遺跡を踏破することは困難だろう。
 カティアが見付けた遺跡は、今のところ冒険者ギルドに発見されたという情報はない。しかも、ウィルは平野の国だ。山と呼べるものはないが、どうやら300m級の丘陵地帯が、カティアにとっては山のように思えたようだ。
 しかし、その辺りをむかしむかし、豪族が治めていたという記録は冒険者ギルドにも残っていることから、運が良ければ豪族の屋敷跡は未盗掘の可能性もある。
 もっとも、実際には探索してみないと分からないが、こうも遺跡を発見できるとは、カティアにはビギナーズラックがあるのだろうか?
「わたしは、いつものように武者修行になればいいので、遺跡の中にアイテムがあった時は協力してくださる冒険者で山分けしてくださって結構です。そういうことを見越して、報酬は少なくさせてもらいますが、魔法の武器が見付かった場合は、わたしも欲しいです」
 魔法の武器は誰でも喉から手が出るくらい欲しいものだ。報酬は基本的に山分けだが、万一、魔法の武器が見付かった場合はカティアの分も含めることになる。

 今回もカティアの武者修行に付き合い、遺跡を探索して欲しい。加えて、道中は以前より無理をしている感が和らいだ彼女と、先輩冒険者として親交を深めるのもいいだろう。

●今回の参加者

 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3727 セデュース・セディメント(47歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2449 アン・ケヒト(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●吟遊詩人は語る
「さて、これよりお話しいたしますは、遺跡探索記の第二章‥‥本来の自分と騎士道、どちらの道も灯りも無しに惑い歩く鎧騎士と、幾ばくかの明かりを灯し、かの者に道標を示す冒険者達の、つづきの物語‥‥」
 ウィルの酒場『騎士の誉れ』の一角に、流麗とは程遠く、調子外れもいい語り口調の吟遊詩人が一人。

●剣の師匠・心の師匠
「きゃ!?」
「いくら可愛い悲鳴を上げても、モンスターはあんたの事を貴族令嬢だと思って手加減してくれないわよ! それと得物はさっさと取りに行く!!」
 女鎧騎士カティア・ラッセの手に重く鈍い衝撃が走り、悲鳴と共にサンショートソードが弾かれる。回転しながら地に突き刺さる軌跡を目で追う彼女へ、フォーリィ・クライト(eb0754)は叱咤と合わせて聖剣「アルマス」で畳み掛ける。
 カティアは家紋の入った丸いライトシールドで受け流すが、続く二撃目は捌き切れず、纏っているゴーレムライダーにその洗礼を浴びる。
「ダメダメ。その鎧のお陰で無傷でいられるけど、その所為で動きが阻害されるんじゃ本末転倒よ」
 フォーリィは聖剣「アルマス」を突き立てて柄頭に掌を乗せ、ちょこんと尻餅を付いている女鎧騎士の目の前で仁王立ち。狂化しているのではなく、今回は厳しめに剣の稽古を付けていた。
「脱いで」
「え?」
「だから、鎧脱いで」
「ボ、ボクは未婚だから、男の人の前で肌を晒す訳には‥‥」
「はいはい、カティアさんが結婚するまで男性に肌を晒したくない貞淑な貴族令嬢って事は分かったから、脱ぐの」
「フォーリィが脱げと言っているんだ、脱ぐしかあるまい?」
「そ、そんなアンさん〜」
「甘えた声を出してもダメッス。騎士の鎧の脱がせ方なら自分に任せるッス!」
「フ、フルーレさんまで‥‥冗談だよね‥‥?」
「冗談でもいいです〜、覚悟を決めて脱ぎ脱ぎしましょうねぇ〜」
「あーん、カノさんー」
 両手をワキワキさせながら躙り寄るフォーリィ。後退るカティアの背後は、アン・ケヒト(eb2449)に阻まれる。更にフルーレ・フルフラット(eb1182)が右の肩当てを外しに掛かり、カノ・ジヨ(ea6914)が左の視界をがっちり遮断。みんな一様に、微笑みながらカティア包囲網を狭めてゆく(シフールが包囲網を形成出来るのかというと、既に雰囲気に呑まれたカティアにはカノですら突破できない壁に見えるのだ!)。
「という訳で、イェーガーさんとセデュースさん、特にカイ、こっちを見ないで下さいねー」
「はっはっは、私はミルフィー以外の女性に目を奪われる事はありませんよ」
「いやぁ、若さの特権ですなぁ。わたくし達も青春時代を思い出しませんか?」
「‥‥ははは‥‥俺はまだ青春真っ直中のつもりですけど‥‥」
 ミルフィー・アクエリ(ea6089)が男性陣に注意を促すと、夫のカイ・ミスト(ea1911)は爽やかな惚気を返す。彼らに怪談を聞かせていたセデュース・セディメント(ea3727)が遠い目をして肩に手を置いたイェーガー・ラタイン(ea6382)は、頬を引きつらせながら乾いた笑いを浮かべる。
 フルーレにゴーレムライダーを脱がされ、アンダーウェアー姿になったカティアは着痩せするタイプのようだ。その色香が隠しきれない豊満なスタイルに、一時、息を呑む女性陣。
「それでフルーレさんと手合わせしてみて」
「寸止めし損なっても癒し手が二人もいるからな。思いっ切りやってみるといい」
「手合わせよろしくお願いするッス!」
 イギリスの騎士とウィルの騎士が、シルバーレイピアとサンショートソードで打ち合う。
 するとどうだろう。フォーリィ相手に一太刀も浴びせられなかったカティアが、フルーレとは打ち合い、鍔競り合う、好勝負を見せるではないか。
「ゴーレムライダーが皮肉にも仇になっていたのよ。それに盾を持つ事も必要だけど、一騎打ちで二回攻撃された場合、一撃しか防げないし、あまりメリットはないわ。ゴーレムライダーを着られるだけの体力を付けるか、回避を鍛えた方が良いんじゃないかな? 一朝一夕では無理だから目標にして欲しいの‥‥そうねぇ、あたしとしては回避をお勧めするわ」
 フルーレとの鍛錬が終わった後、気付いた点を指摘しながら、方向性を示すフォーリィ。

 カティアの呼び掛けに応じる冒険者達は、料理が得意ではない者が多い傾向にある。
 今日の夕食の当番はセデュースとカイ。カイは狩ってきたウサギを捌き、セデュースがお湯で戻した保存食の干し肉や木の実と一緒に焼いた、漢の焼き肉料理を、みんなでフライパンから突っつく。
「‥‥銀製や魔法の武器しか通用しない亡者とか‥‥遺跡にはいろんなモンスターがいます‥‥装備は臨機応変さが求められます‥‥」
「様々や武器や防具を扱えてこそ冒険者ですが、一つの武器にこだわり使い慣れる事も必要でしょう。それにそういう敵が現れた時に為に、私達はパーティーを組んでいるのですからね」
 “歌姫騎士”の二の名を持つミルフィーが天上の歌声を披露する中、イェーガーが自身の遺跡探険の体験談を語り、愛馬ブリッツを見遣る。そこにはショートソード「竜の爪」とリュートベイルが積んであった。オーラパワーを使えるカイの意見もあり、カティアへ貸し出される事はなかったが。
「こういう冒険って久しぶりなのですよ‥‥ワクワクしますね。あの子が大きなったら、冒険譚として聞かせてあげねばなのです」
「ミルフィーさんとカイさんのお子さんですから、とっても可愛いんでしょうねー。ウィルへ帰ったら抱っこさせて欲しいですぅ〜」
 ミルフィーはカイとの間に女の子を1人設け、今は友人に預けていた。冠婚葬祭に関わる機会の多いカノと子供の事で話は弾んだ。
「冒険譚といえば、一応、お約束は果たしましたぞ。後は卿のご活躍次第、という事ですな」
「カティアさんは、何故鎧騎士になる事を選ばれたのでしょーか? ‥‥よかったら、お聞かせ戴けると嬉しいッス」
 セデュースがカティアの名を、個人的に面識がある国王エーガンの寵姫マリーネ・アネットの耳に入れた事を伝えると、頃合いとばかりにフルーレが訊ねる。
 ――カティアは元貴族令嬢だ。そのまま蝶よ花よと貴族令嬢として生きる道もあったはず‥‥カティアには兄がいた。ゆくゆくはラッセ家の家督を継いでフオロ家に仕える男爵となる身だったが、急死してしまった。カティアが婿養子を迎えればラッセ家は存続するが、第三者に家督を渡したくないというカティアの希望により、貴族令嬢から一転して家督を継げる鎧騎士になったという。臣下の軍役義務を遂行するためである。
 その話を聞いたフルーレは、目を潤ませながらカティアの両手を握り締めた。
「騎士と鎧騎士との違いはありますが、お互い、立派な騎士を目指して日々前進ッスね! 自分も‥‥元々はそうでしたから、近いものを感じちゃって。自分の場合は色々あってお家が没落しちゃって、その再興の為になんスけどね」
「多少の気負いはあった方が成長の糧にはなるが‥‥無理して背伸びをしていれば足元がぐらつくぞ」
 カティアの武者修行の理由を知ったアンが、彼女の髪をくしゃくしゃに撫でる。その表情は妹を心配する姉のようであり、子を見守る聖母のようであり、カティアはくすぐったいのか、気持ちよさそうにその愛撫を受けた。
「選択肢は多様だが‥‥多くの人の意見に耳を傾け、最後は自分で進みたい道を決めて行けばいい。それで後悔したとしても、やらずに後悔するよりはまだマシだ」
 その言葉でどれだけカティアの迷いが吹っ切れた事だろうか。

●丘陵地帯に埋もれた屋敷跡
 その遺跡は丘陵地帯の地滑りに飲み込まれ、かつての屋敷の玄関らしきものがわずかに見える程度だ。
「それ程大きな屋敷ではないようですねぇ〜。木々も根付いているようですし、地滑りが起こる危険性もなさそうです〜」
 セデュース達が遺跡の前にベースキャンプを設営する間、カノが上空から遺跡の全容を掴み、再度地滑りの危険性があるかどうか推し量ってきた。
 ここへ登ってくるのは動物くらいだが、念の為、フォーリィがイーグルドラゴンパピーのロロと愛馬ドラグノフに荷物番を言いつけた。また、間違っても他のペットを食べないよう言い聞かせるのも忘れてはいけない。カイの愛馬プロヴィデンスやセデュースの愛馬うますけ、ミルフィーの愛馬フェアリーはまだしも、フルーレの亀アルフレッドやカノのスコープダックがーこはさぞ美味しそうに見えるからだ。

 先頭はイェーガーとフォーリィ、二列目はカティアとフルーレ、三列目はセデュースとアン、最後尾はカイとミルフィーという隊列だ。飛べるカノは特に場所は決まってなく、必要に応じて隊列を移動する。灯りはイェーガーとフォーリィ、カティアとフルーレ、セデュースとカイがランタンで確保する。これだけあればほぼ全周囲を照らせるので、マッピング担当のセデュースとアンからすればありがたい。
「人の足跡はないけど‥‥動物の足跡が結構多いようね」
「建物の中は基本的に外より暖かいです。特に冬等に、その暖かさを求めて動物達が来てもおかしくはないでしょう」
 床に積もった埃は思いの外少なく、動物の足跡らしいものを見て取ったフォーリィに、カイが狩猟の経験からそう応える。
 入ってしばらくは真っ直ぐな廊下が続く(「│」)。
「‥‥落とし穴ですね。でもこれはダミーです‥‥おそらく避けた奥に‥‥やはり、本命があります‥‥」
 イェーガーは廊下を歩く音が軽くなった事に気付く。入口から流れ込んだ、近くにあった大きめの石を掴んで放ると、奥の廊下がパックリと口を開ける。手前の軽い音はフェイクで、これを避けて通ると本命の落とし穴に引っ掛かる罠だ。
 イェーガーは踏んではいけない床に印を付けると、その床を避けて先へ進む。
 廊下の突き当たりには部屋があった(「□」)。
「これもあからさまっぽいのです」
 部屋へ入ると同時にフォーリィが全員を止める。いきなり落とし穴があったからだ。ミルフィーの言う通り、この穴を飛び越えた床にスイッチがあり、側面の壁から矢が発射される罠のようだ。
 カノが上空から石を落としてわざと罠を発動させ、無効化してから進んだ。
 右手に脇道が見えてくる(「├」)。しかし、どちらの道も瓦礫で埋まっていた。
「うん? ‥‥カノなら入れそうな隙間があるな。どちらの道の瓦礫を退かすべきか、先を見てきてくれないか?」
 アンがシフールなら通れそうな隙間を見付けると、カノが偵察してくる。右手の道は完全に塞がっており、直進するしかないようだ。
 男性陣が中心となって瓦礫を退かし終える頃には、ランタンの油を一本使い切っていた。油の予備を持ってきていなかったカイは、アンから油を買い取った。
 廊下はまた真っ直ぐ延びている(「|」)。
「ふえぇ〜、ベトベトしますぅ〜」
 突然、天井が開いてトリモチのような粘着性の物質が大量に降り注いだ。フルーレはライトシールドで防いだが、運悪く彼女の隣に居合わせたカノはそのまま廊下へ落ちてしまう。
 幸い、時間が経っていて粘着性もかなり落ちており、水で洗い流せた。
 突き当たりはまた部屋になっている(「□」)。
「『鶏小屋』と書いてありますな」
 セデュースが入口のプレートに書かれたセトタ語を読む。部屋に入ると、四羽の鶏と蛇の合いの子のような大きな鳥が左右の壁に隠された扉から現れる。
「‥‥コカトリスです‥‥」
 モンスターの正体を見極めたイェーガーの言葉に、全員に戦慄が走る。その嘴には石化の魔力があるからだ。
 カイがキューピッドボウで援護射撃をし、ミルフィーが一羽を引き受ける。セデュースがイリュージョンで幻覚を見せた一羽にはイェーガーが、フォーリィとホーリーを使うカノで一羽を受け持ち、残る一羽をカティアとフルーレで倒す事になった。
 コカトリスの攻撃は意外と鋭く、カティアは回避し損ねてしまう。彼女を庇ったフルーレは嘴の洗礼を受けてしまい、足下から徐々に石化し始める。
「完全に石化する前に倒してしまいましょうッス」
 心配するカティアを励ましてフルーレはスマッシュを繰り出し、気を取り直したカティアはフェイントを交え、一羽を仕留めた。
「このポーズは今一つですな。もう少し色気があった方が‥‥」
「‥‥カティア、これが冒険というものだ。成功ばかりではない、失敗する事もある。フルーレのお陰で貴殿は助かったが、これでコカトリスの恐さは分かったはずだ。ここで挫け、諦めるのではなく、経験として活かして先へ進むんだ」
 フルーレはスマッシュを放った勇ましい姿で石像と化していた。セデュースが元に戻す方法を探してイギリス王国博物誌を捲りながら漏らした感想に、アンは額を押さえながらフルーレの石像に縋るカティアを諭した。
 イェーガーがコカトリスの血を浴びせてフルーレを生身に戻すと、意気消沈しているカティアへ「気にしてないッス」と明るく発破を掛けた。
 奥の扉の先は部屋が続いていた(「□」)。カノの見立てでは、おそらくこの遺跡の最深部だろう。
 部屋は書斎らしく、壁には剣や槍、盾が飾られ、机の上には数個の小壺が置かれている。
 部屋に入ると青銅製の格子が天井から落ちてきて全員を閉じ込めてしまう。そして机の辺りに、朧気ながら人型の影が現れる。
「スペクターですぅ〜」
 強い怨念を持って死んだ者が、長い歳月を亡霊として過ごすうちに記憶も失い、怨念だけの存在となったアンデッドだとカノが説明する。イェーガーやセデュースは説得したかったが、相手が聞く耳を持たない。
「頑張りましょうか」
「やる時はちゃんとやるです! 歌姫騎士は伊達じゃない!」
 セデュースが相変わらずの調子外れのメロディで全員を鼓舞する中、カイがカティアの剣へオーラパワーを付与し、ミルフィーが聖者の剣を、フルーレがシルバーレイピアを近付くスペクターへ振るう。
 アンがホーリーライトで安全地帯を作り、カティアはそこから一撃離脱を繰り返す。
 格子の中とはいえ、スペクターと互角の戦いを展開し、その間、イェーガーとフォーリィが手分けして部屋を目視し、格子のスイッチを見付けるとカノが上げに行った。
 格子がなくなれば、スペクターといえども攻撃手段を持つミルフィー達の敵ではなかった。

 この部屋は館の主の書斎だった。今で言う香水の開発に成功して財を築いたものの、身内の裏切りに遭い、非業の最期を迎え、スペクターとなったようだ。
 部屋には香水の他、魔法のロングソードとライトシールド、銀製の槍や軽量化された武器があり、魔法のライトシールドをカティアがもらい、残りを全員で山分けした。

●吟遊詩人は語り終える
「さて、これにて遺跡探索記の第二章はおしまい‥‥本当の自分と騎士道の二つの道の狭間を行く鎧騎士は、また一歩、本当の鎧騎士へと近付いたのでした‥‥」
 吟遊詩人はそう締め括ったのだった。