ワンド子爵の憂鬱?〜ドリーム☆ステージ

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:12人

サポート参加人数:8人

冒険期間:07月08日〜07月13日

リプレイ公開日:2006年07月15日

●オープニング

「蛮族の方々の接待お疲れ様でした、の意味合いも込めて領民の皆様方に楽しんでいただきたいと思いますの」
 それは、ワンド子爵領を訪れたリデア・エヴァンス子爵令嬢のアイデアだった。
「歌や踊りをステージで披露‥‥平たく行ってコンサートですわね」
 冒険者に依頼して、ワンド子爵領民達を労う催しに華を添えたい、と。
「その際、私どもの用意しました布地を使っていただけたら‥‥」
 ニコニコニコ、持ち込んだ大量の、色とりどりの布地を示すリデア。領民の方々に喜んで貰って、冒険者の人たちにも楽しんで疲労してもらって、ついでに自分の所の名産品の売込みが出来たら素敵じゃないですか?、といったところか。
 ワンド子爵領では最近、マホウショウジョの服という新しい名産も出来たとか出来ないとか‥‥今までに無い需要が見込めるかも、それはエヴァンス領にとってもビジネスチャンスなのだ。
「布地には大小様々なサイズがあり、そのまま使っていただいても切ったり縫ったりしていただいても結構です。また、胸からチラリと覗かせるといったワンポイント的な使い方も可、ですわ」
 会場の飾りつけもお願いしようかしら‥‥リデアは早速、ウィルの冒険者ギルドへの依頼書を用意した。
「といっても、難しく考える事はありません。要は、ファッションショーを兼ねたコンサート、と捉えて下さい」
 願わくば、すべての人に実りある、素敵なコンサートになりますように‥‥願いを込めて、リデアは依頼を出したのだった。

●今回の参加者

 ea0655 シェリス・ファルナーヤ(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea1384 月 紅蘭(20歳・♀・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2730 フェイテル・ファウスト(28歳・♂・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea6000 勝呂 花篝(26歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4501 リーン・エグザンティア(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4565 難波 幸助(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4604 青海 いさな(45歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb5498 リタ・ソアレス(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ ユパウル・ランスロット(ea1389)/ ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)/ エルマ・リジア(ea9311)/ エレ・ジー(eb0565)/ ヘルガ・アデナウアー(eb0631)/ 篠原 美加(eb4179)/ リューズ・ザジ(eb4197

●リプレイ本文

●みんなの舞台
「領民の方々に楽しんでもらうためのコンサート‥‥無事成功させられるように、頑張りましょう」
 リース・マナトゥース(ea1390)は月紅蘭(ea1384)と共に衣装作りを担当、早速作業に取り掛かる。
「ユパウルも、よろしくね」
「精一杯サポートさせてもらおう」
 アシストに声を掛ける余裕を見せる紅蘭、対してリースの可愛らしい顔はホンの少し強張っていた。
「こういった、人に見せるための服を作るのは初めてなので‥‥ちょっと緊張しますね」
「あら、折角だもの。あたし達も楽しんでいきましょうよ」
 けれど、布地に触れ、それこそ楽しくて堪らない様子の紅蘭につられ、リースの顔にも自然と笑みが戻った。
「そうですね、お二人にも楽しんでいただけたら嬉しいです。今日は色々よろしくお願いします」
 そんな二人に、リデア・エヴァンス子爵令嬢と、彼女の用意したお針子達が一斉に頭を下げた。
「と‥‥オルガ?」
「今日はお二方のサポートに回らせていただきます、何なりとお申し付け下さいね」
 その中に見知った顔を見た紅蘭に、ウィルで仕立て屋を営む少女は深々と頭を下げた。
「何だか責任重大みたいよ?」
「はい、頑張ります」
 茶目っ気たっぷりにウィンクして見せた紅蘭に、リースは大きく頷いたのだった。
「へぇ、また魔法少女か。間を置かずにもう一回着ることになるとわね。流行の兆しでもあるのかしら? 案外定期的にやることになっちゃうのかも」
 そんなお針子勢の元を訪れたのは、リーン・エグザンティア(eb4501)。
「まぁとにかく、『情熱爆裂リリカル☆リーン』再び、ね」
 クスリ、楽しそうに笑むと、リーンは自分の衣装について要望を伝えていく。
「黒をメインカラーとして、所々赤のアクセントを入れるような配色にして欲しいの。形は、胸や脚に目がいくような、ちょっぴりセクシーでね」
「了解よ」
「もう少しスリットを深くしてもらえるかしら?」
 それこそ魔法のような手際で仕上がっていく服に感嘆しつつ、シェリス・ファルナーヤ(ea0655)もまた衣装への希望を分かりやすく伝えていく。
「ちょっと露出多目だけど‥‥うん、これくらいでないとね」
「分かったわ。任せて頂戴」
 踊り手として、最高の踊りを披露する為には、妥協は出来ないから‥‥シェリスに、こちらも仕立て屋としてのプライドをかけて、紅蘭は請け負った。
「基本的にどの衣装でも大丈夫です。ただ、お腹を出す等の、身体が冷えない衣装が好ましいですね。冷え性ではないんですけれど、苦手でして」
 対照的に、少し恥ずかしげにリクエストするのは、倉城響(ea1466)。
「あら、勿体無いわよ。折角そんな良い胸してるんだし」
 私の独断と偏見でデザインしてあ・げ・る♪、リーンはフフフフッ、と怪しく笑み。
「大丈夫、肌の露出でお色気を醸し出しつつ、その中の可愛らしさを演出出来るわ‥‥彼氏もメロメロ〜な感じで!」
「そうですね。では、水色の布でズボンを、胸を覆う布を白、引っ掛けるように上衣をグラデの布で‥‥」
 リーンとリースの間で進んでいく打ち合わせ、響は「はわ〜」と思いつつ止められずにいた。だって二人ともとても楽しそうだし。
「それにしても、よくこれだけ持ってきたわね」
 色とりどり大小様々な布地に囲まれ(てか埋もれ)、紅蘭はふと溜め息をついた。
「主な布の種類は綿、麻がちょっと‥‥って感じかしら?」
「そうです、ほとんど綿ですね」
「服や絨毯も生産してるの?」
「服や服飾小物は扱ってます。仕立て業に関わる者も多いですし」
 答え、リデアは少し声を潜めた。
「とはいえ田舎な事もあって、保守的なんですよね。あぁいうデザインは考えも着かないんでしょうね」
 指し示すのは、シェリスやリーンのセクシーな衣装。
「成る程ね」
「後、新しいものも積極的に取り入れたいと思いますし」
 キラキラ瞳を輝かせるリデア、多分紅蘭と同じように布地や仕立てが好きで、商売にも積極的で。
「衣装以外の布の使い道をお客様に示し商売に繋げるのは如何でございましょうね」
 そんなリデアに声を掛けたのは、リタ・ソアレス(eb5498)だ。
「飾りの彩りとして、布を使ってお花をお作りいたしましょう」
 要はペーパーフラワー、舞台でも大掛かりに布を使うのは決定しているが、更にワンポイントで飾り付けてはどうか、と。
「それから、ステージについてお話があります。少々お時間をいただけますか?」
「分かりました。紅蘭さんリースさん、こちらはどうぞよろしくお願いしますね」
 深く頭を下げたリデアに、リースは頷きを、紅蘭は軽いウィンクを返した。

「今回も、明るく楽しく行きましょうねー♪」
「そうだな。ステージの設営、初めての事だか面白そうだ」
 一方、舞台(の土台)では、フェイテル・ファウスト(ea2730)や難波幸助(eb4565)が既にスタンバイしていた。
「故郷での、一人暮らし経験を生かせそうだな。家事の要領で、裏方を手伝わせて貰うぜ」
「わーい、楽しみです〜♪」
「ステージねぇ‥‥見る事はあっても自分が出るのは‥‥まっ、中々ない機会だし、折角だから楽しんでいこうか」
 無邪気にも見える二人。リーザ・ブランディス(eb4039)は僅かな躊躇を振り切るように、一つ首を振って笑み。
「あたしは裁縫とか出来ないから、主に肉体労働だね」
 どんな風にする?、早速幸助やリタと打ち合わせに入る。
「中央に花道を作りとうございますね。お客様にどの角度からも余すことなく、ショウをご覧頂く為でございます」
 早速、設計指示書を書き上げるリタ。
「目隠しの為に、サイドはカーテンの要領で布で飾り付け致しましょう」
 そこに同系の濃いペーパーフラワーを飾り付ければ、そちらに目を向けさせる事が出来るし。
「舞台装飾は紐か何かで二重三重にしておいて、上から落とすようにしていけば途中でかえる時間は省けると思うんだ」
 場面場面で衣装の色に合わせ、バックの布の色を変えるアイデア。リーザはその手間をいかに省く事が出来るか、意見を出し。
「ショウの時間は夕方頃から夜。時期的に多少は明るい事と思いますが、ライティングは安全を考えランタンを並べたものと、こちらは少々注意が必要でございますが篝火を焚くといたします」
 リデアと現場責任者に、リタは付け加える。
「布に燃え移らないように、常に人と水を置く事を忘れずに致しますが」
「人員はこちらで用意させていただきます」
「よろしくお願いしますわ」
「篝火の客席側に衝立を置いてみてはどうですか?」
 と、勝呂花篝(ea6000)が提案した。
「龕灯提灯の原理で明りの拡散を防いで舞台が見やすくなるかもです♪ ついでに衝立の内側によく磨いた板金なんかあれば、より光量が増しますよ〜♪」
 花篝自身が作れるわけではないが、より良い舞台を作りたい‥‥その思いでアイデアを出し、整えていく。
「んー、そうですねー」
 それはフェイテルも同じ。
「衝立はこの位置でいいかい?」
 ジャイアントである青海いさな(eb4604)は、その身長と腕力を生かし積極的に手伝う。
「そうだな、もう少し傾けて‥‥そう、そのくらい」
 幸助は衝立の位置や照明の反射角度、安全性など一つ一つ注意深く確認していった。お客さんが見易いステージを作る為、安全なステージであるように。
「結構広いですね。これなら無茶しすぎない限り大丈夫でしょう」
 設置を手伝いながら、リア・アースグリム(ea3062)は舞台の広さや床の感触を確認していた。
 リアにとっては久しぶりの依頼だ。全力を出して頑張ろう!、気合を入れていた。
「といっても、根を詰め過ぎて倒れちまったら元も子もないからな‥‥というわけで、休憩しようか」
 自然と食事担当となっている幸助は、休息と休憩をちゃんと取らせるよう心がけてもいた。
「健康は食から。ちゃんと食べないと、いざという時に力が出ないし」
 おにぎりを始め、健康バランスを考えた食事を用意する。食生活のサポートは、皆に元気に作業してもらう為だ。
「美味しいです」
「うんうん、元気が出るねぇ」
 狙い通り、幸助の美味しいご飯は体力だけでなく気力も回復させてくれる。
「‥‥いい舞台になるといいねぇ」
 やはり舌鼓を打ちながら、段々形になっていく、皆で作り上げていく舞台に願いを込め、リーザは目を細めた。

●オンステージ
「さぁお立会い! 天界よりの、そしてご当地の舞姫歌姫たちの出し物だよ!」
 本番迫り。いさなは威勢の良い声で客引きにかかった。
「天女顔負けの夢のような舞いに、透き通る歌声。纏い重ねる衣装にはどんなお嬢サンだって見とれること間違いなしサ。さぁさ、ゆっくり見てっておくれな」
 口上に、ステージを知らずにいた人々も足を止める‥‥特に若いお嬢さん方。
「いさなの呼び込みの効果もあって、結構すごい事になってるぞ」
 腹が減っては戦は出来ぬ、軽食を用意しつつ観客席を覗いてきた幸助の言葉に、緊張が走る。幸助自身は裏方‥‥演出やら照明やらを担当するので舞台には上がらないが、やはり多少は緊張する。というか、武者震いかもしれないが。
「皆がどれだけ衣装映えするのか、あたし達の作った衣装がどんな風に受け止められるのか、楽しみよ」
 ポン、幾分緊張気味なリースの肩を軽く叩き、紅蘭がいつものようにカラリと笑う。
「衣装担当の二人は頑張ってくれた。後はステージに立つあたしらの仕事‥‥盛り上げていこう」
「さあ、ショーの開演は間近。観客全員が満足して帰れるよう、全力を尽くしましょう!」
 そんな仕立て屋二人にピッと親指を立ててのリーザと、気合を入れるよう両手を打ち合わせたシェリスとに、皆は大きく頷いた。

「では皆々様方、今宵めくるめく夢のひと時を、ずずずぃっとご堪能下さい」
 黒子‥‥黒い衣装をシャンと身に着けたいさなは、口上と共に幕を上げた。
「先ずお目にかけますは、魅惑の踊り子シェリス嬢。その舞に酔いしれて下さりませぃ」
 鮮やかな橙色の布を背にし、舞台に踊り出るシェリス。
 舞うは、アップテンポで楽しい踊り。見ている者の心を浮き立たせるような、軽やかなステップを踏み。
 シェリスの衣装は、白いロングで袖がなく胸元の開いた、露出高めのもの。橙の布で作った花が腰を彩っている。更に、足首から腿までのスリットが何とも悩ましい。
 とはいうものの踊りの種類ゆえか、いやらしさは感じない、感じさせない。
 やがて踊りは徐々にテンポを上げていく、激しさを増していく。息つく暇もないくらいの迫力が、観客の胸に迫る。
「ジャンプ!」
 時折、観客席に向かい声を上げる。シェリスの誘いに気づいたのだろう、若い女の子や子供達が先導する形で、その場で身体を動かした。
「ジャンプ!」
 呼びかけに応え、会場が揺れる。急ごしらえの、でも、いさな達が頑丈に作った会場が、シェリスと観客を受け止める。
 そして、音楽が変わる。打って変わった、静かなメロディ。合わせて、シェリスの踊りも変化する。動から静へ。見る者を元気にするダンスから、見る者をうっとりさせる艶やかなものへと。
 思い浮かべる、大事な愛する人。シェリスは鮮やかに情熱的に踊り切った。
 最後の一音、シェリスがステップを止めると、会場は暫くシンとしていた。最初に「ほぅっ」と溜め息をもらしたのは誰だったか。
 やがて、惜しみない拍手がシェリスに降り注いだ。
「さすがシェリスさん、良い雰囲気です。次、行けますか?」
「ちょっと恥ずかしいですけど、精一杯頑張ってきますね」
 リースの最終チェックを受けた響は、たおやかなウォーキングを披露しつつ、舞台へ向かう花道を進む。歩きながらお客さんに軽く手を振ってアピールだ。
「お手ををどうぞ、お嬢さん」
 舞台で待ち構えていたリーザが、響の手を取り一緒に一度ポーズを決める。こちらは男装‥‥ビシッとスーツにサングラスが似合っている。
 そして、髪はお下げ、白いズボンに、裾から胸へ青→白のグラデの布を使った上衣、といったいでたちのフェイテルが、軽めの曲調に伸びやかな歌声を乗せる。
 モデル達は曲に合わせ、思い思いにポーズを決める。互いにタイミングを合わせ、服がよく見えるように。
「あの上着、ステキね」
「黒衣の人カッコ良くない?」
「さっきの踊り子さんの衣装もすごくステキだった‥‥さすがにアレを着る勇気はないけど」
 ヒラヒラ舞う衣装達に、憧れや羨望の囁きたちが交わされる。
「皆、楽しんでくれてる」
 舞台袖で見守る紅蘭の顔に自然と、笑みが広がる。
「布たちも喜んでいる‥‥そんな気がします」
 それは、リデアも同じようで。
「このままのテンションでいっちゃいましょう!」
 紅蘭は囁き声で、拳を軽く挙げた。
 その舞台袖、響達は充分に観客の目を楽しませてから下がってきた。
「さてさて、舞台の本番ですよ〜♪」
 入れ替わりで登場したのは、花篝。
 花篝の衣装は不思議‥‥ハッキリ言って奇抜なものだった。証拠に、花篝がステージに上がった瞬間、観客がどよめいた。
 その反応を楽しく思いつつ、花篝は歌い踊る。いろは歌‥‥それこそ不可思議な旋律を奏で。
(「これはジャパン語の47音を余すことなく、重なることもなく、すべて使い切って意味のある歌になってるんですよ〜♪」)
 とはいうものの、やはり精霊が翻訳している為か、いろは歌の妙‥‥肝というべきものは伝わっていないようで‥‥花篝としてはちょっぴり残念なような。
 それでも、アトランティスのものとは違う、異国情緒あふれる不可思議な歌と踊りは、これも中々熱心な拍手でもって受け入れられたようだった。
「さぁてお立会い! 次に登場しますはウィルより来る、可愛い特別ゲスト達にございます。その歌声に暫し、耳を傾けて下さいませ」
 いさなは「頑張れ」と、特別ゲストだという子供達を送り出した。その顔に常よりも優しい‥‥自愛に満ちた微笑を刻んで。
 子供達はそんな周囲の励ましに応える合唱を披露、精霊の歌声とこれも好評を得た。
「良い歌でしたよ」
 リアに労いの言葉を掛けられると子供達はそれは嬉しそうに笑み。つられて微笑みながら、リアはステージを見。
「今度は私の番です。あなた達に負けないよう、力を尽くしてきます」
 ふわり、薄布を優雅にまとわりつかせ、ステージへとゆっくりと進んだ。
 布が落ちる。真っ白な、光沢のあるバックに変わる。
 披露する踊りは、お手本のような優美な一礼から始まった。指先一つ足の運び一つとっても、溜め息が出るような優雅な所作。
 リアの衣装は、特殊な形をしていた。一番の特徴は袖、手より長いのだ。優雅な動きに合わせて広がる様は、さながら気高き蝶が舞うが如し。
 観客席のあちこちから「ほぅ」と溜め息がもれた。だがしかし、曲調が変わると共に、リアは薄布に手をかけ。
 パッと剥ぎ取ると、舞台袖へ向かい投げた。その下から現れたのは、先ほどのシェリスのものに勝るとも劣らぬ、露出の高いもの。
 伴い、動きが躍動感にあふれたものへと変わった。
 客席から手拍子が、自然と上がった。リアはそれに合わせ、ステップを踏む。段々速く、速く、もっと速く、もっともっと速く、速く速く速く!
 取り出したのは、サンショード。だが、それは誰かを傷つける為のものではなく、皆を喜ばせる為のもの。
 危なげなく扱い、披露される剣舞に、大きな拍手と口笛とが上がった。
「では、最後となりました。その衣装とモデルの美しさに、魂まで奪われぬようお気をつけ下されぇ」
 今回のリーザの衣装は、今までと打って変わって女性らしいものだ。大きく開いた胸元と背中、足のスリットも大きく開いて、妖しくも美しい。
 化粧をほどこし艶やかな真紅の髪を下ろしたリーザは、周囲を圧倒するほど美しかった。
 対比するように、満を持して登場するは、リーンだ。黒を基調に、所々赤い花鳥の刺繍の施された衣装を身に着けている。裾が腰丈で僅か広がる上着に、膝丈の5段のドレススカート‥‥やはり深く入ったスリットがセクシーダイナマイツだ。
 フェイテルは、その銀の髪を同色の髪留めで飾り、セクシーパラダイスにレースのボレロといった装い。
 そして、響はリース渾身の、柔らかなドレープが幾重にも折り重なった、ピンクのドレスに身を包んでいる。
「そうして、忘れちゃういけない。本日の華麗且つ可憐な衣装を作り上げたデザイナー達に、大きな拍手を!」
「‥‥え? あの、私こんな格好ですし」
「まぁいいじゃないの。折角だもの」
 いさなの突然の口上、戸惑うリースはやはり紅蘭に引っ張り出され。
「あらあら、どうしましょう」
「ガラじゃないんだが‥‥」
 同じく衣装替えやメイクを担当したリタや裏方の幸助、皆で舞台に上がり。
「良かったよ〜!」
「すごくステキだったわ!」
「ドキドキしちゃった♪」
 贈られる、温かな拍手と声援。全員で一緒に頭を下げた。勿論、どの顔も笑顔で。

●絶対無敵大活劇!
「応えなきゃ、嘘だよね」
 ショーの終わりを告げられても、観客の熱が冷める様子はなく。鳴り止まない拍手と「アンコール」のコールとに、リーンは首肯した。
「観客の皆様方、これよりスペシャルステージを行います」
 やがてリタがアナウンスすると、ざわめきの波が引いた。
「今ではない時、ここではない何処か、世界の命運を握る巫女は闇の軍勢に狙われていたのでございます」
 リタのナレーションに従い、いさなが再び幕を上げ、幸助は照明を微かに落とす。
 バックの布は黒。漆黒に包まれ、危機を告げる演出。黒い薄布をまとったシェリスが、タンタンタタンと舞台を跳ねる。舞台に蠢く、暗い影。
「巫女を寄越せ」
 その影から現われ出でたるが如く、フェイタルとリーン。冷たい眼差しを向けた先、二人の少女が在った。
「止めて下さい、この子には指一本触れさせません」
 可憐な村娘、といった響が花篝を庇い立つ。響はリース手製の薄桃の可愛らしいドレス、花篝は巫女装束である。ちなみに舞台裏では、リースと紅蘭が出演者の衣装替えに大わらわだ。
「さて‥‥どうしたものか」
 嘯きながら、薄い笑みを浮かべるフェイテルに、響が身を震わせてみせる。
「させないさ。お前達のような輩に、巫女は渡せない」
 と、ヒラリとリーザが舞台に舞い降りる。そこに先ほどまでの面影はない、旅の剣士といった風情だ。同じくリアが登場。
「あらあら、困った事。あなた達に私が止められるのかしら?」
 呪いの兜で悪に染まった魔法少女、という役どころのリーンが口元に邪悪な笑みを刻む。
(「正義の魔法剣士‥‥私には似つかわしく無いですが」)
 リアは内心で苦笑しつつ、剣を突きつけた。
「止めてみせます。あなたも助けます! 必ず、呪いから解き放ってあげますから‥‥!」
「‥‥っ!?」
 繰り出される剣戟に、リーンが翻弄される‥‥さながら、己の中で善と悪を戦わせる如く。
 フェイタルは小さく舌打ちして見せると、そんなリーンに一度手を当てた。影‥‥影をまとうシェリスが黒い布で一度、リーンを覆う。
「貴様達は勝てない」
 確認し、酷薄に笑んだフェイテルがシャドウボムを放つ。勿論、演出だがモノホンだけに迫力は充分だ。舞台袖で幸助が「OK」と親指を突き立てる。
 タイミングを合わせ、リーザとリアは倒れこむ。二人の上にハルバードを振り上げるリーン。
「誰も救えぬ‥‥正義とはモロいものだな」
 冷ややかに言い放つフェイタル。
「‥‥やれ」
「呪いに負けてはいけませんっ!」
 リアのセリフにリーンの手が震え、止まる。
「何っ!?」
「正義は悪に屈したりしないのです」
 そんな『悪役』を見据え、花篝は会場に両手を差し伸べた。
「あなた達の力を分けて下さい。正義の剣士達に、立ち上がる力を」
「皆さんの声援が、力になります」
 そして、微笑む響に応え。
「やっつけちゃえ〜」
「悪い人を倒して!」
「立ち上がって!」
 子供達からとてもとても熱心且つ真剣な声援が上がる。いや、子供達だけではない。リーザとリアは頷き合い、立ち上がる。幸助は照明の明るさを増す。
「終わりだ、闇の魔法使い‥‥正義の、いや、人々の願いの前に滅びろ!」
「‥‥くはっ!?」
 振り下ろされる剣、フェイタルはよろけるように、影に消える。
「‥‥これで勝ったと思うな。闇は滅びぬ、人の心に悪の芽がある限り」
 ただ声だけが影の中から響き。
「ですが、人は善なる心を持っています。その心ある限り正義は負けないのです〜♪」
 けれど、闇を払うように花篝が笑った。
「お姉さんを殺さないで!」
「助けてあげて!」
 残されたリーンは肩で息を(するフリを)しつつ、獲物を構え。しかし、対峙するリアとリーズに飛ぶのはそんな声援だ。
「‥‥」
 一瞬のアイコンタクトに、得たりとリアが剣を振るう。カラン、硬い音を立てて呪いの兜(に見立てたボーンヘルム)が転がる。
「‥‥私」
「もう良いのです。長い悪夢は、終わったのです」
 空を仰ぎ一筋の涙を頬に伝わせるリーンを、リアがそっと抱きしめる。
 シェリスが舞う。今度は七色の布をまとい。笑顔でリーン達の周りを踊る‥‥祝福の舞を。
 舞台袖、幸助は紐を引き、最後の‥‥虹色のグラデのかかった最後の布を観客達に指し示す。
 鳴り止まない拍手に、会場が満たされた。
「ショウは大成功でございますね。皆様の笑顔‥‥最高に嬉しゅうございますね」
 幕を下ろしながら、リタは満面の笑みを浮かべていた。

「あぁ楽しかった!」
 ステージを見届けた紅蘭の顔はやはり、満面笑顔だった。
「お疲れ様。さぁ皆、思う存分疲れを癒してくれ」
 言いながら、幸助は皆に自慢の料理の数々を振舞った。
「かたじけない。それにしてもまこと、良き舞台だった」
 やり遂げた充実感、観客達の興奮を目の当たりにした満足感、呟くフェイテルにあちらこちらから頷きが帰ってきた。
 その夜、篝火の優しい輝きにほの照らされ、ショーの余韻を噛み締めながらの打ち上げ会は、いつ尽きる事無く続いたのだった。