魔物捕縛〜カオス・キャプター編

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月10日〜08月15日

リプレイ公開日:2006年08月10日

●オープニング

 魔物が蔓延るアトランティス。
 魔物はカオスと呼ばれ、人々に危害ばかり加え生命すらも奪うという。
 各地で既に被害は増えてきている。其れを危惧したミハイル・ジョーンズ。
 ある日、その考古学者のミハイルは二人の天界人を呼び出した。

「よく来てくれたのぢゃ、天界人達よ。実はお前さん達に頼みたい事があるのぢゃ」
「頼みたい‥‥事?」
 一人の天界人。15歳くらいの学生服の少女が首を傾げた。
 少女の名はサクラと言う。
「くだらない頼み事だった場合、俺は遠慮させて貰うぞ?」
 もう一人の天界人がそう突っぱねる。名は統夜。
 10代後半と見えるその容姿は、言うなれば明治の書生といった姿。
「大丈夫ぢゃ、わしの手伝いを少しばかりして貰うだけぢゃからのぅ」
「お手伝いって何をすればいいの?」
「お前さん達はこの世界にまだ来たばかりぢゃったかのぅ。この世界にカオスと呼ばれる魔物が蔓延っておるのは知ってるかの?」
「あぁ‥‥人を襲ったりなんだりしているみたいだな」
「沢山の人が死んでるって、聞いてるけど‥‥」
「お前さん達にはそのカオス‥‥魔物を捕まえてきて欲しいのぢゃ」
 ミハイルがそう言うと、二人の天界人は目をぱちくりさせた。
 いきなり異世界に呼び出され、連れて来られ、挙句の果てには魔物を捕獲しろというのだ。
 二人からしてみればとんでもない事である。
「つ、捕まえるってどうやって捕まえるの〜!? 私達、そんな力なんてないのに〜!」
「其れに、捕まえた魔物をどうしろって言うんだ? 何の為に捕まえる?」
「研究の為ぢゃよ。色んな魔物の生態が分かれば、冒険者達の手助けにもなるぢゃろうて。其れに、その魔物を使いこなせるのならば其れが武器にもなる。実に興味深いのぢゃ」
 ミハイルの好奇心から出たものだ。例えそのお手伝いが危険だろうが好奇心が勝る。
 此れではもう止めようがない。

「其れに、捕まえる為の手段はちゃあんと用意してあるのぢゃ。お前さん達でも使いこなせるぢゃろうて」
 そう言ってミハイルが差し出したのは二つの道具。
 一つはステッキ。一つは古ぼけた管である。
「こ、これは‥‥?」
「アーティファクトぢゃ。持ち主以外は持てぬ不思議な代物ぢゃ。ステッキは魔物をカードに出来る能力を持ち、管はカオスの魔力や生命力を吸い、服従させたカオスを保管出来る能力を持つ」
「どうやって捕まえればいいの? だって、怖いし‥‥!」
「これは二人共に言える事なのぢゃが、最初のうちは冒険者に手伝って貰うのが一番ぢゃ。魔物を捕まえれば、其れを呼び出し駆使する事が出来るという話もあるしの。武器にもなるはずぢゃ」
 但し、完全に服従させればの話。と付け加えた。
 天界人二人は不安である。これから色んな魔物を捕まえる旅に出るのだから。
「これからお前さん達はそれぞれ異名を名乗るといいぢゃろう」
「異名?」
「そうぢゃ。それがあればある程度危険な所にも行けるはずぢゃ。なぁに、わしの方からも手回しをしてやろう」
「やっぱり、捕まえなきゃなんだね‥‥うん、ここまで来たらやるしかないよね!」
「サクラはカオス・キャプター。統夜はカオスサマナーと名乗るがいいぢゃろ」
「何だか、聞いた事あるような異名だけど‥‥」
「爺さんの趣味か」
 統夜がぼそりと呟くと、ミハイルは笑って誤魔化すのである。
「最後に指南用の魔物を一匹ずつ授けるのぢゃ。わしが頑張って服従させたのぢゃよ!」
 ミハイルが手をパンパンと叩くと、一匹のエレメンタリフェアリーと一匹の黒猫が現れた。
「こいつ等はちと特殊な魔物での。元は魔物だったんぢゃが、飼いならしたのぢゃよ」
「君が僕のご主人様だね? 僕はミラー。よろしく、キャプターさん」
「ふむ。小生が力を貸すのはこの若造か。仕方あるまい、協力してやろう」
「喋る動物!?」
「お前さん達が捕まえた魔物は完全に服従すればこうやって喋れるようになるわい。但し、呼び出した時だけぢゃ。サクラはまずナーガの戦士を捕縛するのぢゃ!」
「あ、あのう‥‥ナーガって知性有る種族ですよね?」
「ナーガに憑依して悪事を働く『黒い霧』が目的の魔物じゃ。但し、そいつはナーガを自在に操る。そいつをひっぺがして封印の札に納めるのじゃ」
 こうして二人の天界人のそれぞれの魔物捕縛の旅が始まるのである。
 最初はミハイルが手を回し、ギルドに依頼したのである。
 『魔物捕縛協力者募集』と。

●今回の参加者

 ea0602 ローラン・グリム(31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1923 トア・ル(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4085 冥王 オリエ(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4153 リディリア・ザハリアーシュ(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4454 エトピリカ・ゼッペロン(36歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

クレア・クリストファ(ea0941

●リプレイ本文

●少女の決意
 町外れの街道。そこで冒険者達はサクラとおちあう事になっていた。ミハイルはどうやら別の方の出迎えにいっているらしく、来ないという連絡があった。
「あ、あのっ! 貴方達が、冒険者‥‥さん?」
「神聖騎士のニルナ・ヒュッケバインです‥‥レディを護ることは騎士の本分、なんなりとお任せくださいサクラさん‥‥」
 ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)が話しかけてきたサクラを怖がらせないよう、騎士らしく深礼をする。
「よ、よかったぁ‥‥! もし怖い人達だったらどうしよう? って、思ってたの‥‥」
「いきなりナーガ相手で、怖くないかい?」
「こっ、怖いですよ! だって、私そういうの、知らないし‥‥」
「大丈夫! 何があってもこの俺、リオン・ラーディナスが守るから!」
 仕事仲間というカテゴリーをどうしても超えたいリオン・ラーディナス(ea1458)であった。サクラはそんなリオンを見て小さく笑う。此れが冒険者なのだと認識したのだろうか。
「貴方、こっちに来たばっかりなんでしょ? 私も天界人なんだけど‥‥いきなりは怖いわよね。でも、大丈夫よ。慣れてしまえば怖くないから」
 冥王オリエ(eb4085)も怖がるサクラを励まそうと懸命にアドバイスをする。
 自分も以前はそうだったから、分かる範囲、出来る範囲で。
「後はミラー、貴方はちゃんとサクラちゃんを導いてあげてね?」
「まっかせてよ! サクラは、ボクがちゃあんと見ていてあげるからさっ」
「して、黒い霧に操られたナーガの居場所を知っていると聞くが‥‥」
「うん、それに関してはボクに任せて? でも、冒険者さん達には目隠しして貰わないとダメなんだ」
「目隠し、ですか?」
「うん、でないと依頼に連れていけないんだ、ごめんね? あ、さっき冒険者さん達の仲間っていう人から報告書受け取ったから、後で渡すね?」
 ミラーとサクラは冒険者達の視界を黒い布で遮り馬車に乗せた。

●女の子同士の戯れ?
 目的地に馬車が辿り付くと、サクラの手で冒険者達の目隠しが取られた。
 其処は深い森の中に広がる、湖の前だった。
 ニルナは、ミラーから受け取った報告書を見て少し唸るのだった。
「どうしたのじゃ、ニルナ殿?」
「クレアに情報収集を頼んでおいたのですが‥‥どうやら、今回相手するナーガは本当に憑かれてしまっているみたいです」
「そうなんだよー。今回、サクラが封魔するカオスは人の体にとりついて、好き勝手する低級カオスなんだ。だから、三匹とも倒しちゃだめなんだよ」
「ですが、私達はナーガ相手に手加減は出来ません‥‥」
「封魔した後の事は考えなくてもいいよ、ボクが何とかするからね」
 そう言うと、ミラーは笑いながらニルナの真上を飛び回っていた。
「サクラは15歳なんだっけ? いきなりこんな世界に呼び出されて、びっくりしたんじゃない?」
「う、うん。気がついたら何もない草原にいたし‥‥怖い動物はいっぱいいたし‥‥」
「そっか。でも、俺が何時でもサクラを守るから!」
 そう言うと、リオンはサクラの手をとって清々しいまでの笑顔を見せる。サクラは目をパチクリ。
「それじゃあ、サクラちゃん。僕とカオスの封印の仕方を練習しよっか?」
 トア・ル(ea1923)がそう言えば、サクラはお願いします、と立ち上がりステッキを構える。
「詠唱の仕方とか間違えないようにね?」
「は、はいっ! わきゃあっ!?」
「ほら、魔物は立ち止まってるわけじゃないんだからさ〜♪」
「‥‥羨ましい」
 トアがサクラに抱きついたり、驚かせたりしてる様子を見て、リオンが小さく呟く。

 そんな時だった。ガサリ。近くで草むらが動く音。皆は反応し、それぞれの得物を持つ。
「みんな、気をつけてね? ナーガは元々温厚な性格だっていう事を忘れないで!」
「サクラさん」
「は、はいっ!」
「この依頼が無事済んだら、天界でのこと聞かせてくださいね」
 ニルナがにっこりと笑うと、サクラも覚悟が出来たのかコクンと頷いた。

●操られたナーガ
 草むらの音が段々と大きくなって行き、突然炎のコーンが冒険者達を襲う。
「危ないのじゃ、サクラ殿!」
 エトピリカ・ゼッペロン(eb4454)がサクラを後ろにやり前に出る。布陣はローラン・グリム(ea0602)が提案したものだ。盾を掲げながら、前衛へと立つ。
 ニルナは急いで馬を後方へとやり、その馬に乗る。
「リヴァーレ! 復讐者の名に恥じない走りをせよ! そして私と一緒に敵を討て!」
「まさかしっぱなからブレスが来るなんてな! でも、俺は退かねぇぞ! サクラを守るって約束したからなっ!」
「リオン、突っ込み過ぎるな! 俺と背を合わせろ、相手は三匹もいるんだぞ!」
 アッシュ・クライン(ea3102)の忠告に従うリオン。
 群がる三匹のナーガ戦士。そのうちの一匹には黒い霧のようなものが見えていた。
「ねぇ、あれじゃない!?」
「ホント‥‥黒い霧がかかってるね‥‥」
「操られているのだとしたら、早く何とかして差し上げないといけませんわね」
 ディーネ・ノート(ea1542)が素早く詠唱を終えると、仲間に被害が出ない範囲で黒い霧がかかっているナーガ戦士にウォーターボムを放つ。
 しかし、残りの二匹もバカではない。仲間がやられると思ったのか自分達も盾になろうとする。
「我が同胞をこんなにしたのはお前達人間か!」
「でなければここに来るはずもなかろう!」
 どうやら正気のナーガ戦士二匹は、仲間が操られているのは人間の所為だと思い込んでいるようだ。
「わたくし達はそのような事、致しておりません! わたくし達はその方を正気に戻しにきたのです!」
「ルメリア、早くサイレンスを頼む!」
 ローランがそう叫ぶと、ルメリア・アドミナル(ea8594)は止むを得ないとし、ナーガ戦士達にサイレンスをかけていく。
 勿論、優先順位としては黒い霧のそのナーガである。
 黒い霧さえ排除出来れば、ナーガ戦士は元に戻るというミラーの情報。
 成就。これでナーガ戦士達はドラゴンになる事はないだろう。
 基本的な戦術、連携は出来ていた。
 リオンが囮となり攻撃を引き受ける。その隙を狙ってローエンがスマッシュEXを叩き込む。吹き飛んだ所をアッシュのソニックブームがナーガ戦士を襲う。
 順調に事が運んでいるが、サクラの方はそれどころではないようである。

「これが‥‥戦い‥‥これが‥‥?」
「サクラちゃん、怖いのは誰だって同じよ」
「そうそう。僕だって最初は怖かったもん」
「高貴なる者は、民草のために先頭に立って血を流す事を厭うてはならぬ。なんとなれば、それがために民草の奉仕があるからじゃ。ゆえに、ワシら貴族は自ら武器を取り、民の盾となって戦う。これは力を持つ者とて同じこと」
 エトピリカがサクラの肩をポンと叩く。サクラは涙目になりながらも彼女を見上げる。
「サクラ殿。この地には、他にもぬしが封印の力を切望する者たちがきっとおるはずじゃ。‥‥とは言え、これはこちらの考え方ゆえな。押し付けはせぬ。聞けば、ぬしらにとっては、騎士も魔物も夢物語であると言う。それを突然召喚されて、魔物と戦えでは混乱するのも無理は無い」
「エトピリカさん‥‥」
「もしぬしが守りたいものがあるというならば、そのものの為に力をふるわれよ。大切なものの為、と考えれば何だって出来るはずじゃ。力は屈させる為のものだけではない、守る為にもあるという事を知っておくれ」
「‥‥私‥‥私、最初は怖いって‥‥なんでこの人達は戦うんだろう? って‥‥思ってた‥‥何で、私なの? って‥‥」
 そう言うと、サクラは戦っている冒険者達を見据えた。傷つきながらも、尚もその強敵に向かう姿。例え相手が強敵であれど、守りたいものがあるからこその姿。
 逃げもせず。隠れもせず。立ち向かうその姿。アッシュ、ニルナ、ローエン、リオン。そしてディーネにリディリア・ザハリアーシュ(eb4153)。
 彼等の姿は、サクラの心を動かすきっかけとなり得た。

●封魔の時
 ナーガ戦士の一匹が大きく息を吸い込む。炎のコーンが吐かれようとしていた。
「させるかあぁぁ!」
 其れを見たリオンが、そのナーガ戦士に突貫する。斬りかかって其れを阻止しようというのだ。だが、敵は一匹だけではない。食い止めは出来たものの、もう一匹のナーガ戦士からの炎のコーンを受けてしまう。
「リオンさんっ!」
「っぐ‥‥! あっちぃ‥‥!」
「大丈夫かリオン!? こっちだ!」
 焔の中のリオンを助けるかのようにローエンが盾を掲げてリオンの前に立ち入る。
 しかしその焔はとても熱く、広範囲。その場から動くに動けない。
「どうしましょう‥‥これでは、近寄れません‥‥!」
「ディーネさん、行きますよ!?」
「おっけ! 合わせるわよ、ルメリアさんっ!」
 ここでまた冒険者二人の素晴らしい連携プレイ。ディーネのウォーターボムが、その焔を打ち消すかの如く降り注ぐ。それと同時に詠唱を終えたルメリアがサンダーボルトを放つ。
「今です、ディーネさん!」
「分かったわ! ごめんね、ナーガさん!」
 素早く詠唱を始めるディーネ。そのディーネを守る形でニルナとアッシュが立ちはだかる。
 成就出来れば黒い霧に包まれたナーガを補足する。
 氷結魔法、アイスコフィン。凍らせれば、封魔するのも楽だろうと考えたのだろう。
「ご主人様、今がチャンスだよ! 早くあのナーガを開放してあげて!」
「ミラー‥‥でも、私‥‥!」
「怖がるな、サクラ! 言ったろ? 俺が守るってさ?」
 炎のコーンで火傷を負いながらも立ち上がり、剣を構えながらそう言って笑うリオン。
 サクラにとっては、其れが心強かった。勿論、ニルナやアッシュ達もそうだ。
「怖がらないで、頑張ってください。私達は何時も貴方の傍にいます」
「そうよ? 一人で怖いなら、みんながいるわ。勇気を出して! 私達が必ず守るから!」
 恐怖を感じるサクラの為にオリエがメロディーを発動させ、小さな歌を口ずさむ。
 其れは、恐怖を忘れさせる歌。其れは、一人ではないという歌。
 どんな時でも皆がいる。だから、頑張ってと願う歌。

「私‥‥私、やるよっ! 頑張って、私なりに戦って‥‥ここにいるみんなに認めて貰うの! 私だって、冒険者の皆さんの仲間なんだって!」
 ピンクのステッキを握り締め、ゆっくりと動きを封じ込められたナーガ戦士へと近づく。
 その間のサクラの護衛は、リオンとニルナが行う事となった。勿論、他の冒険者達もナーガの足止めを担当するのだ。
「ご主人様、ステッキに魔力を集中させて!」
「う、うんっ! 真理なす神の、行く行くを願いて! 我が掌中にその命委ねん!」
 サクラの詠唱に呼応して、ステッキが眩く光だす。その光はナーガに纏わりつく黒い霧の力を吸い込まんとする。
 流石にナーガは止まっていても、黒い霧は動ける為、足掻き苦しむ。
「ご主人様、最後だよ! そのステッキをあの黒い霧に当てて、呪文を完成させて!」
「ち、近寄るの!? あ、あれに!?」
「早くしないと折角の詠唱が無駄になっちゃうよ!?」
 ミラーの言葉に焦りを覚えたリオンは、素早くサクラの腕を掴むと、動きを封じ込められたナーガ戦士の近くへと引っ張った。
 サクラは転びつつリオンについていく。
「大丈夫。俺がついてるから、やれるだろ?」
「リオンさんっ! 今は下心ナシでお願いしますよ!?」
「わっ、分かってるよ! 確かにラッキーとは思ってるけど依頼はこなすっ!」
「下心あるじゃない‥‥」
 ディーネの鋭いツッコミに、リオンはガクリとうな垂れる。
 だが、その様子を見てサクラは小さく笑ってゴクリとつばを飲み込んでステッキを握り締める。
「魔封呪!」
 ステッキが黒い霧に触れた時、光は四散して冒険者達の視界を奪う。
 勿論、ナーガ戦士達の視界も奪われるのだ。

 光が収まった時。リオンの足元には一枚のカードが落ちていた。
 そのカードに記された絵はマリオネット。
「ふ、ふえぇ‥‥お、終わった〜‥‥?」
「む‥‥う? 我はここで何をしておったのだ? 何故人間達がここにいるのだ?」
 アイスコフィンの氷が光によって溶けたのか、操られていたナーガ戦士が我を取り戻した。
 すかさずルメリアが交渉に入る。
「ナーガ様、我々はカオスより貴方方を解放したく、このような振る舞いを致しました、お怒りは最もですが、我々人は、ナーガとの争いを望みません。どうかご理解下さい」
「人間が操っていたのではない、というのだな?」
「しかし、証言者になってくれと言われても、いささか納得が出来ない」
「其れはボクが説明するね? 冒険者のみんなはサクラとその他の事お願いするよ。ナーガ戦士達の傷を癒してあげるんでしょ? それにリオンもボロボロだしねっ♪」
 交渉は自分がやると言い張るミラー。どうやらこれも冒険者達が口出す事ではないようだ。
 ミラーはナーガ戦士達に今までのいきさつを説明する。黒い霧の存在がカオスである事。そのカオスによって体を支配されていたという事。
 人間の仕業では決してない事。納得はしてくれたもののナーガ戦士達の心の傷は、癒えるわけではない。此れはまた、別の方法でケアしていく事になりそうだとミラーが言う。
「大丈夫、リオンさん!?」
「ははっ、これぐらいの火傷、どうって事ないよ。それよりもサクラは‥‥」
「はいはい、其処までですよ? 早くその怪我治しましょうね?」
 リオンがサクラと楽しく会話しようとする中、ニルナが笑顔でリオンの火傷した箇所をギリッと掴む。
 下心ある男には近寄らない方がいいですよ? と、サクラに教えながら。

「しかし、珍しいカオスもいるものなんですね。このカード‥‥マリオネット、ですか?」
「うん、これは低級のカオスだよ。他人の体に入り込み、その全てを操る。マリオネットにする事が得意だから、マリオネットって呼ぶようにしてるんだけど‥‥」
「低級カオス、かぁ‥‥これからも封魔は続けるのよね? だとしたら、これ以上のカオスも出るって事?」
「其処はボクでもなんとも言えないなぁ〜‥‥とりあえず、ボクが今すべき事はただ一つ。其処のリオンからご主人様を守る事だけだよっ!」
 ミラーはそう言うと、リオンをずびしっ! と指をさす。
 まるで恋敵を見るような目で。

 こうして封魔は無事完遂。依頼も無事に終わり、冒険者達はまた目隠しをされて王都へと戻る。
 かくして、カオスとの戦いは始まった。そして、恋の戦いもまた始まったようなのである。