●リプレイ本文
●ヨッパライダー参上
レイリー・ロンド(ea3982)がアレクサンドラ・フラウからもらってきたアデルコートの地図の写しに、キース・ファラン(eb4324)がヨッパライダーの被害があった箇所へ印をつけていく。被害の状況や、ヨッパライダーの各ペットがどこに現れたかといった情報はキース自身の聞き込みによる。さらにペットのクリューには盗られた物の行方を臭いを覚えさせて探し出そうと試みた。
盗られた物は食料品がほとんどであったため、クリューと共に行った場所にあったのは食べ散らかした残骸だけだったのだが。
「被害者は主に依頼書にあった通り、通行人や荷馬車だ。他は店舗だ。一応、子供に被害が及んでいないのが救いか」
つまり、子供以外は被害者になる可能性があるんだな、とキースの発言に頷く冒険者達。
また、その被害が出るほとんどがメイン通りのペイシー通りだ。その中でも食材が集中する箇所、飲食店が並ぶ箇所が酷い。
食材店方面にはエイプやドンキー、オストリッチが現れ、飲食店方面にはスパローとドッグが集中的に現れるとのことだった。
「スパローとドッグが出る飲食店方面なんだけど、何というか、被害状況がハッキリしないんだ」
「どうして?」
首を傾げ訝しげにするレイリーに、キースも同じような表情になる。
「言いにくそうだった。言いたくなさそうというか」
それからキースは思い出したように言った。
「町の人達から、一刻も早く懲らしめてやってくれと泣いてすがられた」
まるで子供ようないたずらとはいえ、やられる方はたまらないのだった。
最後に、アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)がペットのユニコーンのオーラテレパスを通じて、捕獲対象のペットを必要以上に傷つけないようにと、冒険者達のペットに伝えた。
●問題ペット捕獲作戦〜ドンキー編。
とはいえ、いったいいつドンキーが現れるかは不明だ。キース情報によれば、ほぼ毎日来ては暴れているらしいが。それもほとんど果物を中心に扱っているテント型店舗を襲うらしい。そして充分あたりを混乱させたところでヨッパライダー達が果物を失敬してしまうのだとか。まるごと盗まれるわけではないが、損害は小さくない。護衛も雇ったが相手がドンキーやエイプやオストリッチとなれば太刀打ちできなかったのだ。
店舗の裏に身を潜め、リーザ・ブランディス(eb4039)は何気なく通りを飛んでいる二人の妖精、レジーとセイジを見守っていた。
通りの向こうの店舗にはレイリーが戦闘馬のバングリートと駿馬のシャルンと共に標的が現れるのを待っているはずだ。
人々の頭上でドンキーを待つレジーが気付いたのと、通りの向こうで叫び声が上がったのはほぼ同時だった。
「出たーっ、ムールだ! 店の幕を下ろせーっ!」
どこかの店舗の主の怒鳴り声がすれば、バタバタと音を立てて入り口の幕が下ろされていく。護衛がきかないからといって諦めていては商売などやっていられない。店主達は少しでも被害を減らそうと密かに『ヨッパライダー対策委員』を作り努力していた。
レジーとセイジは、鼻息も荒く通りの真ん中を駆けて来るドンキーのムールの側に飛んだ。
蝶のような羽でフワフワとムールの耳の近くへ寄るセイジ。シフールの半分くらいの体格の彼は、いきなり耳の中に体ごと突っ込んだ。
リーザは確かに迷惑ドンキーに悪戯をして町の郊外へ引っ張り出すようにと指示をしたが、セイジの行動はあまりにも突拍子がない。
ムールはすっかり興奮し、セイジは耳から出られなくなり足をバタつかせ、レジーがその足の片方を掴んで助けようと必死になっている。
もしかして被害が拡大するのではとリーザが飛び出そうとした時、どこから走ってきたのかオストリッチがムールの側を掠めていった。
嘴にはセイジ。
青ざめるリーザ。
レイリーがムールの背後からバングリートをけしかける。今のうちに郊外へ追い立てるつもりだ。
我に返ったレジーがムールの鼻面を蹴飛ばして挑発し、バングリートが追い、道を外れそうになればシャルンが誘導した。
ムールの誘導場所は決まっている。レイリーが前もってフラウ夫人に捕まえたペット達を集めておける広場の用意を頼んでいたからだ。そしてそこには女王様代が待機している。
セイジという妖精の尊い犠牲の成果か、誘導はうまくいった。
しかしムールは諦めが悪く、なおも逃げようとする。
バングリートが説得にあたった。
人間と妖精が見守るが、難航しているようだ。
バングリートはムールにメンチを切られているようにも見える。
さらにしばらくしてどうにか決着がついたのか、バングリートは体の向きを変えるとリーザの方へやって来てグイグイとムールの方へ寄せていく。
「あらあら。どうやらリーザさんが側にいることが条件のようですわね」
クスクスと笑う女王様代。
けれどリーザはセイジが心配で仕方がない。
それを察したレイリーがすぐにオストリッチを追うと告げた。
「頼んだよレイリー。どうかあの子を‥‥!」
「大丈夫。きっと生きてる」
レイリーは落ち着けるようにリーザの背を叩くと、ペイシー通りへ戻っていった。
●問題ペット捕獲作戦〜ドッグ編
セイジがムールの耳の中でもがいていた頃、飲食店方面では問題ドッグの捕獲に当たっていたセラフィマ・レオーノフ(eb2554)とキースが困り果てていた。
前方の問題犬エンデを見て、二人は被害状況の情報が入りにくかった理由を察していた。
一言で表せば、エンデは非常に愛想の良い犬だった。良すぎるくらいに。ちょっとでも目が合い、ちょっとでも微笑もうものならすぐに尻尾を振って足元にまとわりつく。そしてウッカリ頭でも撫でようものなら柔らかな毛並みの腹を見せる。
「あの犬‥‥わかってやってますね」
「そうだな」
同じ犬の主人として、セラフィマとキースはお互いの言いたいことがわかっていた。
まず、エンデは賢い。
自分をよくわかっている。自分が人間の目にどう映っているか、どんな仕草をすれば人間にちやほやしてもらえるか。
「もったいないですねぇ」
セラフィマはエンデの賢さを生かしきれていない現状にため息をついたが、冷めた目でキースは別のことを考えていた。
そしてエンデの行動の基本に気付き舌打ちする。
「確かに頭は良いかもしれないが、どうしようもないタラシだな。よく見ろ。女のとこにしか行かない」
「‥‥あ」
キースの指摘にセラフィマがぽかんとした時、町の人が口をつぐんでいた『被害』が起こった。
エンデの人懐っこさにやられた旅人風の若い女性が膝を折ってもっと接近しようとした時、エンデは「もっと構って」と言うふうに二足立ちして女性の膝の上に飛び乗ったのだ。
千切れんばかりに尻尾を振り、女性の頬をなめるエンデ。しかし女性には親愛の印でしかなく、笑いながらも慌ててエンデを膝から下ろす。
すると今度はスカートの中に潜り込もうとする。
その勢いは凄まじい。
見る者が見れば「おかしい」と気付くだろう。
少なくとも周囲の地元の人は気付いている。
キースの聞き込みにはっきりと言えなかったのは、被害者の女性に被害者としての自覚がなかったからだ。
エンデの行動はエスカレートしていく。スカートをおさえた女性はバランスを崩し、シリモチをついてしまった。スカートが捲くれ上がり腿が露わになる‥‥かと思いきや、その女性は下に薄手のズボンをはいていた。旅のための防護服としてはいていたのだろう。
とたんにエンデの興味が失せたのを、セラフィマとキースはハッキリと見た。
明らかにやる気のなくなったエンデは、けだるげに女性の手をなめると次の標的を探し出す。
「あのエロ犬め!」
というセリフが二人の喉元までせり上がった。
もっともドッグは飼い主に言われるままに動いているだけかもしれないが。
セラフィマとキースは同時に連れてきたペットをけしかけた。
愛想が良い以外、特に何もないエンデはセラフィマのシュクルとキースのクリューに呆気なく取り押さえられたのだった。
ふと顔を上げたキースが、挙動不審な男を店の陰に見た。視線はエンデへ向いている。
「飼い主か‥‥!」
クリューを向かわせようとした時、通りの向こうから砂埃を立てて何かが突進して来るのがわかった。
わかった瞬間、二足歩行の鳥が過ぎ去っていく。その嘴に信じられないものがあった。
「リーザさんの妖精?」
気付いた時にはもう鳥の後姿は豆粒ほどで、エンデの飼い主らしき男の姿もなくなっていた。
危険だからという理由でエンデはキースが抱え女王様代のところへ向かい、セラフィマは引き続き飲食店方面での問題ペット、スパロー捕獲にかかった。
●問題ペット捕獲作戦〜スパロー編
少し移動したところで問題スパローが現れるのを待っていたクウェル・グッドウェザー(ea0447)と合流したセラフィマは、エンデの件を話した。
そして、もしかしたらスパローも似たような騒ぎを起こしているのかもしれない、という結論にいたった。
「今、クラウドに空から不審なスパローがいないか探してもらっています」
「了解。見つけ次第追い詰めて捕獲しましょう」
鳥であるスパローがエンデのように女性を舐め回すことはしないだろうが、油断はできない。
「きっと、ペットにセクハラまがいのことをさせて飼い主はそれを覗き見しているのでしょう。女の敵ですね!」
先程見た男を思い出し、セラフィマは目元をきつくした。
と、クラウドが何かを見つけたように一直線に飛んだ。
セラフィマは猫のルゥナーにいつでも指示を出せるように、背に手を添える。
鷹に追われる雀。
そのまま食われてしまいそうな勢いだが、よく見ればスパローは通りを歩く人々の中へ突っ込もうとしている。
何を狙っているのか。鷹であるクラウドなら人ごみに突っ込むことはできないと踏んでいるのか。事実、スパローが低空飛行に入ると、クラウドはそれ以上追うことはできず、上空に戻って警戒をはじめる。
果たして雀にそんな知能があるのか、あるいは飼い主がどこからか誘導しているのか。
答えはすぐに出た。
スパローはその体格にあるまじき速さで低空飛行をすると、狙い済ましたようにスカートの女性達の中に突き進み、次々とめくっていった。まるでいたずらな突風がスカートをめくってしまったかのように。
女性達の悲鳴が上がる。
セラフィマを頬を引きつらせ、クウェルはガックリとうなだれた。
「あれ、食べちゃってもいいかな‥‥事故とかそんなかんじで‥‥いいですよね‥‥いろいろ障害物もあることですし‥‥」
「セラフィマさん? もしかしてひっそり狂化中ですか!? ダメですよ、食べてもいいなんて指示したら。聞いてますか、セラフィマさん!?」
うつむき、どす黒いオーラを発してブツブツ言うハーフエルフの隣で、必死になだめようとする人間。
ガバッと顔を上げたセラフィマはニッコリと笑顔でルゥナーにスパロー捕獲の命令を出した。
彼女の背後に般若が見えたような気がしたが、とりあえず意識は正常だと胸を撫で下ろすクウェル。
そして、再び上がる悲鳴。
その中に男性の不埒な歓声を聞いたセラフィマ。声は一人分。
「クウェルさん、あそこっ」
指さされた方を見ると、ジョッキを振り上げ喜んでいる若い男の姿。建物の間ではっきりとは見えないが、ヨッパライダーの一人であることは確実だろう。
が、向こうもこちらに気付き、しまったという顔で逃げ出してしまう。
主の異変に気付いたスパローのニーニが高度を上げると、すかさずクウェルの口笛に反応したクラウドが急降下してくる。それを避けるために軌道をずらしたところに、店の脇の樽を蹴って飛んだルゥナーが、見事猫パンチをかました。爪は出していない。
肉球に叩かれ、ヘロヘロと落下するニーニ。
クラウドは仕事が一段落ついたことがわかったかのように優雅に舞い上がり、ルゥナーは噛み殺さないようにニーニをくわえ、セラフィマのところへ戻ってきた。
二人は女王様代のいる広場へ向かった。
用意周到な女王様代は捕まえられたニーニを鳥かごへ入れた。
「順調ですわね。やっかいなのが残っているようだけど、あと少しですわ。がんばれるわね?」
確認の笑顔を向ける女王様代。
「飼い主も見かけたのですが、逃げられてしまいました‥‥」
残念そうにうつむくセラフィマ。
しかし女王様代は余裕顔。
「焦らなくてもいいのよ。一つずつ、確実に。‥‥飼い主へのお仕置きでも考えておくのもいいわね。あなたの焦りはペットにも伝わってよ」
それはきっと悪い結果につながるだろう。
気を取り直したセラフィマは「お仕置き‥‥」と呟き、ふとクウェルを見た。
ビクリと肩を震わせるクウェル。
「さ、様代さん! この前卵が孵ったんです。鳥でした」
何かが起こる前に慌てて話題を変えるクウェル。ポケットに入れておいた鳥を見せた。
女王様代は目を輝かせて小さな鳥を見る。
「まぁ、かわいいですわ! 小さなうちはたくさん愛しておあげなさいね。将来きっと応えてくれますわよ」
将来、と聞いてセラフィマがあることを思い出した。
「あの、女王様。最近うちに狐が来ましたの。ちょっと臆病なんですけど‥‥この子も近いうちに狩りの訓練をすべきかしら?」
女王様代はしばし考えて、ゆっくりと答えた。
「臆病と言うよりは、優しすぎる仔なのかもね。人に飼われる獣としては、決して悪い事ではないのよ。あとはあなたの方針次第ですわね」
セラフィマは小さく微笑んで頷いた。
それから二人はエイプとオストリッチにてこずっているであろう仲間に加勢するため、広場を後にした。
●関係逆転?
ドンキーのムールが捕まり、オストリッチのサングウがリーザの妖精をくわえて逃走してしばらくたつと、ようやくペイシー通り食材店方面は通常に戻った。
テント型店舗を閉めていた分厚い幕は巻き上げられ、身を隠していた人々も商品を物色し店主達の客寄せの声が響きだす。
しかしそれも束の間の平穏だった。
人々の気が緩みかけた瞬間を狙って、ヨッパライダーの襲撃第二波がやって来た。
けたたましいキーキーという叫び声を上げ、人の背よりもゆうに頭一つ分は高いエイプが歯をむき出して周囲の人達を威嚇している。
警戒を解かず待機していた辰木日向(eb4078)がすぐにペットの鷹と猫を向かわせる。
鷹のナツは空からエイプを牽制し、猫のハルは直接攻撃が当たらないよう近づきすぎない位置から毛を逆立てて低くうなっている。
とりあえず今のところエイプはハルとナツの対応に追われて店舗に手を出せない。後は捕獲組が来るまでふんばればいいだろう。
その頃エイプのピンチを見た飼い主のロバートは、仲間のショーンにオストリッチを援護によこしてくれるよう伝言を頼んでいた。
オストリッチの飼い主キックはそれを聞くとすぐにサングウを走らせる。
「蹴散らしてこい」
と、酔って呂律の回らない口調で命じた。
サングウにくわえられていたセイジは捕えられてしまっていた。もっとも、ずっとくわえられたまま疾走されていたため、一種の乗り物酔いになりフラフラだったのだが。
飲食店方面裏道をサングウは駆けた。
裏通りから地響きと共に現れたサングウに、ロバートは安堵の息をもらした。
これで邪魔な冒険者達のペットに痛い目を見せ、追い払うことができると。
しかしこの考えは甘かった。
女王様代のいる広場から駆け戻ってきていたクウェルが、途中で嫌な予感がして口笛でクラウドに先に仲間の元へ戻り必要ならば援護するように言っておいたからだ。
ハルがサングウの凶暴な脚の餌食にされる直前、クラウドがサングウの頭に止まるように舞い降りて邪魔をした。
ハルはその隙に素早く移動し、エイプの背後に回った。
その様子を少し離れたところから見守っていた日向は、軽く唇を噛んだ。
「このままここにいてはいけない」
いつかエイプが暴れだし、町の人達に怪我でもさせたら大変だ。
「誘導しなきゃ。ナツ!」
日向の呼びかけにナツは素早く反応した。
「手伝おう」
横からレイリーの声がして、彼のバングリートとシャルンも足音高く飛び出す。
戦闘馬と駿馬がさらに加わってエイプとオストリッチを通りの外へ追い出そうとした時、どこからか野太い怒鳴り声がした。
「ギン、サングウ! 協力しあって逃げろ!」
ついに隠れていられなくなったロバートだった。
飼い主の声を聞いた瞬間、エイプのギンは丸太のような腕を振り回して二羽の鷹と一匹の猫を追い払うと、サングウの背に飛び乗った。
一瞬サングウが迷惑そうな顔になった気がしたが、すぐに地面を蹴る。
向かっているのは飲食店方面だ。
日向はナツに後を追わせハルを呼び戻した。猫の足では追いつけないだろう。
それからは、二羽の鷹と二頭の馬で追跡した。エイプが乗っているくせにサングウの脚力は衰えることはなく、誘導ができない。
しかしそれも時間の問題だろう。いつまでも持久力が続くわけもない。
そうして行き着く先にはきっと捕獲組の仲間がいるはずだ。
となれば、残された者達はヨッパライダーを捕まえるべきで‥‥。
ハッと周囲を見回した日向は、視界の隅で動いた影を捉えた。先程大声を上げた男だ。
「いました!」
男を指差し、日向は精一杯に声を張り上げた。
驚いた男は慌てて逃げようとしたが、風のように接近してきた出番を待っていたフォーリィ・クライト(eb0754)のハンマーofクラッシュ+0スマッシュが、体の脇すれすれを掠めて地面にめり込んだのを見て、腰を抜かしたのだった。
フォーリィはロバートの前で仁王立ちになり、物騒な笑顔で言った。
「さあ、仲間の居場所を吐いてもらいましょうか」
「し、ししし知らねぇよ! てめぇらで探しやがれ」
「そんな口きいていいと思ってるの? だいたいペットの飼い主として‥‥きゃぁ!」
詰め寄ろうとしたフォーリィの背に何かがぶつかってきた。
「立てロバート、逃げ‥‥うぉぇあ!」
いつの間に戻ってきたのか、ショーンがロバートの腕を引っ張り逃げようとしていた。
しかし駆けつけたクウェルのコアギュレイトで二人は棒のように手足を真っ直ぐ伸ばして転がされた。
「おぅおぅ、にぃチャンよぅ、何すんでぃ! 髪の毛むしるぞコラァ!」
口は動くショーンがクウェルを睨み上げ、怒鳴る。
「それは困ります。まぁ、お話は後で聞きますから、まずは行きましょう」
口調は穏やかだが有無を言わせぬ迫力で、クウェルとフォーリィ、日向は町の人にリヤカーを借りてロバート達を乗せ、郊外を目指したのだった。
女王様代のところへ着くと、物凄い形相でリーザが詰め寄り射殺すようにヨッパライダーの二人を睨みつけた。
「セイジはどこ!? 返さないと‥‥」
ギラリと瞳を光らせ、エスキスエルウィンの牙+1の刃をロバートの頬にピタピタと当てる。
冗談など微塵も伺えないリーザに、ロバートはすくみ上がった。
「リーザさん、抑えて抑えて。いくら相手が外道とはいえ、私的な制裁を行うのは騎士道的にまずいと思うよ」
「キックが捕まえている!」
キースが宥めている隙にロバートの代わりにショーンが叫んだ。
リーザの中に残っていたカケラ程の理性が、キースの言葉を受け入れた。それでもリーザはとても残念そうに刃物を戻す。
しかし、ホッとする間もなく今度は女王様代が妖艶な笑みでロバート達を見下ろした。
「これはこれは‥‥躾しがいのあるイケナイ子達ね‥‥フフフフ」
執行猶予期間は短そうだ。
仲間の二人が狭いリヤカーの中で恐怖におののいている頃、ペイシー通りでも恐ろしい目にあっている者達がいた。
冒険者達のペットに追い詰められ、裏路地の袋小路でエイプとオストリッチがそれぞれ立ち往生しているところの脇の建物から、ついにヨッパライダーが助けに現れた。
大きく窓を開け放ち、ペットらを中に入れようとするキック。
冒険者達のペットには仲間のケリーとゲインツが角材を振り回して近づけないようにしていた。
「酔っ払いをナメんなよ! 伊達に何年も千鳥足じゃねェぜ!」
わけのわからない声を上げているのはゲインツだ。
それにケリーが絡む。
「オメーのは千鳥足じゃなくて蛇行だ。脳みその中で右と左が常に入れ替わってるんじゃねぇの? 医者行け、医者」
「何おぅ!? ところでよぉ、この角材毛羽立っててのひら痛ェんだけど」
「知るかよ。サボテンの気持ちが味わえるかもしれねぇな!」
「お前ら何の話をしてんだよ! ヒマなら手伝え! ほら、ギン。こっちだっつーの!」
まるで噛みあわない会話を続けるゲインツとケリーにキックが怒鳴る。
キックはエイプを中に引き込もうとしていたが、飼い主ではないためなかなか言うことを聞かない。
そしてとうとうアレクセイに見つかってしまった。
「そこまでです! 大人しくしなさい!」
「ああっもうっ、ギン、早いしろィ!」
キックが焦りの声を上げた時、サングウとギンは一瞬目を合わせると、ギンは再びサングウの背に乗り、サングウはゲインツをアレクセイ目掛けて蹴飛ばした。
もつれ合うように倒れこむ二人の上に、さらにギンによって吹っ飛ばされたケリーが重なる。
唖然とするキック。
「あいつら‥‥俺達を犠牲にしやがったな!?」
気付いた時はもう遅く、ペット達の姿はない。
ヨッパライダー二人の下敷きになったアレクセイは、あまりの酒臭さに顔をしかめて二人を押しのけた。
「いい加減どきなさい!」
「アンタ、ねぇチャンだったんかィ。ああ〜いいカンジだ〜」
どくどころか体を押し付けてくるゲインツに、鳥肌がたつアレクセイ。
何とか這い出たアレクセイは、まずゲインツとケリーの首筋にスタンアタックを叩き付け気絶させ、慌てて逃げようとしたキックを追って窓を飛び越えた。
空き家だった室内でしばらく大きな物音がしたが、やがてしんと静まり返った。
少しして扉からキックを引きずったアレクセイが出てきたのだった。
ペットに裏切られた飼い主三名捕獲完了。
●空を飛んだ日
エイプとオストリッチが捕まるのは時間の問題だった。
それに、冒険者達のペットも皆疲れてきている。これ以上長引かせるわけにはいかない。
アレクセイは駆けつけた日向に三名のヨッパライダーを任せると、ユニコーンと鷹にオストリッチの本格的な捕獲を命じた。
空からは鷹のリョーニャがオストリッチらを監視し、ユニコーンのアリョーシャがそれを追う。
エイプを追うフォーリィのペットもいるから、連携すれば簡単に捕まえられるだろう。
リョーニャの真下にいるオストリッチにアリョーシャが追いついてからの協力技は見事だった。
走るサングウの視界にリョーニャが割り込み邪魔をし、アリョーシャが人の少ない方へ追い立てる。
サングウが焦って足を速めるとリョーニャはサッと身を翻し、わずかの間だけサングウの視界を確保する。まるで誘導するように。
しかしギンが予定を狂わせた。
体を傾けて無理矢理サングウの方向転換をさせると、店脇の樽に突っ込ませ、それをジャンプ台のようにして一気にアリョーシャとの距離をとろうとしたのだ。ヨッパライダー達より頭の良い猿かもしれない。
道行く人が空を飛ぶダチョウという不思議なものを目にした直後、それは墜落した。
上空で待ち構えていたドラゴンのロロが空を飛び、隙だらけのオストリッチをテレスコープで捉え、躊躇なくサンレーザーをブチかましたからである。
尻尾と尾羽に火が付いたところに、アリョーシャがサングウの脚を狙ってチャージングを仕掛けて倒し、放り出されたギンを牧羊犬のアリアが押さえつけた。
現場にアレクセイとフォーリィが駆けつけた時には、一部始終を見ていた町の人達の歓声と拍手で窓が割れそうなほどだったとか。
これまでの冒険者達の成果を知っている住人達は、最後の二匹が捕えられたことを喜び、アレクセイとフォーリィをもみくちゃにして感謝を表したのだった。
●青空の下で
ギンとサングウが郊外の広場に到着すると、いよいよヨッパライダー達の処置について話し合いが行われた。
縄で巻かれ数珠繋ぎにされたヨッパライダーとペット達は、冒険者達に囲まれている。
「ここはやはり、飼い主もペットも女王様代さんに躾直してもらうべきでしょうか」
「そうですね。ペットも問題ですが、それ以上に問題なのは飼い主でしょうから、ペット以上にビシビシやったほうが今後のためでしょうね」
真剣な顔で頷きあうアレクセイとセラフィマ。
そこにゲインツが口を挟んだ。
「それは一日中やるんですかィ?」
「性根が治るまでですね」
「手取り足取り?」
「そりゃいいや! 当然夜の方も教えてくれるんだろ?」
下品な笑い声を立てるロバート。
セラフィマがムッとした時、小気味良い音を響かせてレイリーのハリセンが飛んだ。
「あんまりくだらないこと言ってると、次は刃物が飛んでくるかもな」
彼の言葉を肯定するように、アレクセイとセラフィマの手元でカチャリと冷えた音が鳴る。
そんな彼らをクスクス笑って眺めながらペットの怪我を治療するクウェル。どちらかと言えばヨッパライダー達のペットの治療が主だったが。
結局お仕置きは必要だ、ということで女王様代がついに黒いローブを脱いだ。
いつか見たパツンパツンの危険な黒皮服が露わになる。
彼女は鞭に舌を這わせながら妖しく微笑んだ。
「本当は地下室が最適なのですが、明るいところというのも燃えますわね‥‥。うふふ、いい声で鳴いてちょうだい」
その場の全員の背筋がゾクリとした。
それから彼女は冒険者達を見渡し、持ってきたトランクから蝋燭やイバラを束にして出来た短い鞭や荒縄を取り出し、使うよう勧めた。
「そういえば、もう一度貴女の愛を受けたい人がもう一人‥‥」
と、チラリとクエゥルを見やる。
彼の運命は決まった。
「お酒を飲むなとは言いませんが、皆さん大人なのですから節度を持った飲み方をしましょうよ」
お互いボロボロになりながら、こんこんと説教をするクウェル。
肉体攻撃の後の精神攻撃といったところか。
疲れ果てた会話の後に聞きだしたのは、彼らが盗んだものの行方だったが、全て食べ物だったため取り戻すことはできなかった。その分これからは真面目に働く、と彼らは泣いて許しを乞うのだった。
場が落ち着きを取り戻した頃、フラウ夫人の馬車が到着した。出てきた夫人は笑顔で冒険者達を労った。話はここに来るまでの町中で聞いてきたとか。
「お役に立てて何よりです」
との日向の言葉にフラウ夫人は彼女のペット達にも「ご苦労様でした」と告げた。
冒険者達の輪から少し離れたところにいたリーザの前に来た夫人に、彼女は小声で言った。セイジはしっかり取り返している。
「いきなりすみませんが、もし次に会うことがありましたら、大切なお話をしたいのですが、お時間を頂けますでしょうか」
「かまいませんけど、今でもいいのよ」
「いえ、次の機会に‥‥」
フラウ夫人はそれ以上は聞かず、黙って頷いた。
「これで町も平穏になるかな。良かった」
いまだ静かに説教を続けるクウェルに泣きそうになっているヨッパライダーを見て、キースは笑った。