●リプレイ本文
●ピクニックへ!
冒険者はそれぞれ、前と同じ路地でサクラの到着を待っていた。
「久しぶりに‥‥のんびりできるかな‥‥」
何時もめまぐるしい冒険をしている夜光蝶黒妖(ea0163)は期待に胸を膨らませていた。
「様々な種類のペットが集まるのね。メリーヴェとテトラにも良い機会だわ」
マリー・ミション(ea9142)も楽しそうに笑いながらそう言う。
しかし、約束の時間になってもサクラは来なかった。
「サクラ、遅いな‥‥?」
「道に迷っちゃったのかしら?」
「あ、それあるかも‥‥」
「ご主人! こっちだってば!」
「ふえ〜!? 待ってよ、ミラーっ!」
賑やかな声が路地の向こうから聞こえてきた。
其れは、聞き覚えのある声。サクラとミラーだったのだ。
「はっ、はぁ‥‥!遅れてごめんなさい‥‥ッ!」
「ご主人、楽しみで眠れないって結局寝坊したんだよ〜!」
「ミラー! 言っちゃダメって言ったのに!」
そんな二人の会話も、冒険者にとっては楽しいものだった。
今まで色んな冒険に出、こういった楽しい会話も少ししかなかっただろうから。
「初めまして‥‥夜蝶だよ‥‥宜しく‥‥。こんなだけど‥‥仲良くしてくれると‥‥嬉しいな‥‥」
「はいっ! 今回は宜しくお願いしますっ!」
夜蝶の自己紹介をしっかりと受け止めて、ペコリとお辞儀をするサクラ。
その答えは、夜蝶にとっては嬉しい答えだったであろう。
「やっほ♪ ゼロスとエド共々よろしく〜♪」
「あ、ディーネさん! 今回は皆さんのペットを見せて貰うという事で、わざわざすみません‥‥」
「いいって、いいって! 其れよりサクラ、遅くなるといけないから行こうぜ? 俺、弁当作って来たんだぜ?」
「リオンさん、お弁当まで作ってくださって‥‥あうー、ご恩返しが出来ないじゃないですかー!」
「はいはい、二人とも。もめてないで行きますよ?」
むすっと頬を膨らませてリオンにそう言うサクラをカイ・ミスト(ea1911)が宥めピクニックへと向かうのだった。
●まずはペットを見てみよう!
広い草原に辿りつけば、それぞれ各自自分の荷物を置いて場所をとる。
ゆっくりと過ごす為、時間は気にしないように懐中時計などはしまっておく事にしたサクラである。
「サクラ。‥‥この子が狼の『哭牙』‥‥俺が傍にいれば‥‥大人しいから‥‥安心して‥‥」
「わぁ‥‥狼ってこんなにも大人しくて人なつこいんですね!」
「無理強いはいけないけど‥‥諦めずに‥‥仲良くなりたいと思って接していけば‥‥何時かはわかってくれると思う‥‥」
「‥‥私も、仲良くなれるのかな‥‥? 諦めずに頑張れば、貴方みたいになれるかな‥‥?」
「動物であれ‥‥魔物であれ‥‥心があれば‥‥思いを感じられるという事だから‥‥」
自信が少しないサクラに、そう告げる黒妖。
自分が思っている事、感じている事をサクラに教えた後、何か恥ずかしくなって赤面してペットの狼に顔をうずめるのだった。
そして、次はカイが連れてきたウォーホースを見せる。名を「プロヴィデンス」と言うらしい。
「こいつは知り合いから譲り受けた馬でね。来たばかりの時は警戒されてましたっけ」
「やっぱり、最初は警戒されちゃう‥‥?」
「自分を押し付けてはダメですよ?相手に自我があるなら尚の事です。相手には相手なりの思想があります。これを無視してしまっては、たとえ良い事であろうとも、相手には迷惑になってしまいますからね。これは人と接する時と一緒です。相手を理解し、その上で何をすべきか見極める。それが大切だと思います。難しいことですけどね」
「一緒に‥‥成長していけば、ちゃんと思い、伝わるかな‥‥?」
「えぇ。その子も、貴方もまだ成長しきっていないのですから、共にゆっくりと成長すればいいと思います」
カイの言葉が印象強く、サクラの心の中に常に残る事になるとは今現在の彼は知らない事。
サクラは、少しずつ自分の自信をつけていくのである。
「カードの子をしつけるのも大変だと思うけど、僕も頑張ってこの子と仲良くなるから、サクラちゃんも頑張ろ〜♪」
トア・ル(ea1923)が鷹をロープで繋ぎながらそう言う。
「聞いた話だと一緒に何かするのが良いみたいだよ? 後でミラー君にも聞いてみるよ」
「え? ミラーに?」
「だって、ミラーはミハイルさんに躾けられたんでしょ? だから、いいお話聞けると思うの!」
しかし其れは彼女にとっては口実にしか過ぎないものだった。
本当の狙いは、彼女に思い馳せる人の為‥‥?
「今回連れてきたのは戦闘馬のテンペスターと鷹のヴァンダルギオンの二匹だが、実は他にもまだペットは二匹いるんだ」
「アッシュさんって凄い! 動物、好きなの?」
「この二匹は、俺のペットの中でも尤も絆が深くてな。サクラ、お前のマリオネットも何れ心強いパートナーになってくれる。そしてこうやって懐いてくれるんだ。でも、努力しなきゃダメだぞ?」
優しく諭すようにサクラに教えるアッシュ・クライン(ea3102)。
サクラは急いでメモを取りはじめるのだった。此れが、日々勉強なのだと。
「うわっ、何これ? これがペット? ありえないわ。でも触ってみたい。良く見ると目元なんか可愛いわね」
「あはは、私もそう思うよ。これ、ピノさんのペットなの?」
「うん、私のだ。蝙蝠のソービニョンとメルローの隼だ」
ピノ・ノワール(ea9244)がペットの紹介をすると、ハットの中から蝙蝠がぴょこりと出る。
其れを見て、一瞬驚く二人ではあるが、笑い出し楽しそうに談笑している。
「ふふ‥‥お二人様、こういうペットもいますよ?」
エルマ・リジア(ea9311)のエレメンタラーフェアリーとヒポカンプスだ。
しかもエレメンタラーフェアリーという事で、ミラーと姿もそっくりなのである。
「わぁ、ミラーみたい!」
「ミラーさんみたいには賢くはないけれど、私の子供だと思って射ます。信頼関係と簡単なルール。此れは大事ですからね? 上手く出来たら褒める。これ基本です」
等と、色々な躾けの仕方をサクラへと教えている。
サクラも熱心にその話を聞いてメモをとっていくのだ。
「サクラ、私のペット。チーターのルンルンとも遊んでみない?」
「オリエさん、チーターなんて飼ってるんですか!?」
「ふふ、勿論よ。大事な事は皆がよく言ってるけれど、ペットマナーよ。彼等の人生を背負って生きるという事を常に考えるの。そして、自慢のペットであっても一般の人には恐怖の対象になる事も忘れないでね?」
冥王オリエ(eb4085)がそう優しく丁寧に教えていると、遠くからディーネの声が木霊するのだ。
●お昼ご飯!
「みんなー! ミルクシャーベット食べない? みんなの分もあるわよー」
「ディーネさん、ありがとうっ!」
「いえいえ。其れより、サクラさんって何か好きな食べ物とかある?」
「私? え、えっと‥‥卵が好き、かな?」
ちょっと照れくさそうにディーネ・ノート(ea1542)にそう教えるサクラ。
そんな彼女の姿を、微笑ましそうに見ながらお弁当の準備をしていくリオン・ラーディナス(ea1458)は
「なぁ、サクラ。状況が状況だけに仕方なかったけど‥‥急に手、引っ張ったりしてゴメンな?」
「リ、リオンさん? そ、そんな謝らないで? 私の為にやってくれたんだと思ってるし‥‥!」
いきなり謝るのだった。その謝罪に、サクラは少し思い出して真っ赤になって手を顔の前でブンブンと振るのだった。
「其れとさ。この季節、サクラみたいな女のコに夏の日差しはキツくない? オレの帽子でよければ、どうかな?」
「え、ええっ!? い、いいのっ!? は、はぐぅ‥‥あ、ありがとうございます〜‥‥っ!」
そんなサクラを見て、リオンは笑いながら彼女に帽子を被せてやる。
其れと同時にサクラはその帽子を深く被って顔を隠すのである。
「こーらー! やっぱりご主人に手ぇだしてるー!」
「あっ! こら、ミラー君! 話はまだ終わってないよー!」
トアの手からようやく抜け出せたミラーが、リオンの前をちょろちょろと飛ぶ。
その表情は少し不貞腐れているように見える。
「オレだってサクラと仲良くなりたいしっ。だってサクラ、カワイイしっ!」
「仲良くなるならもうちょっと方法がー‥‥!」
「それに、一番サクラの身近で一番サクラに頼られるのはミラー、キミだからね。むしろキミが羨ましいさ」
リオンのその一言で、ミラーの動きが止まった。ちょっと複雑な心境なのか、頬をぽりっと掻くとこう彼に告げるのだった。
「だからって、僕から大切なご主人とらないでよねっ! と、とるなら僕も一緒に引き取れっ!」
そんな言葉を残して、サクラの帽子の中に逃げるのだった。
「あら、ミラーって案外可愛いじゃない?」
「嫉妬とか‥‥してたのか、な‥‥?」
「リオンとサクラが仲良いから、自分だけ取り残されてると思ってたんだろうな」
アッシュが苦笑いを浮かべてそう言うと、リオンとサクラはお互いを見て小さく笑い合うのだった。
●最後の教え
「はぅー‥‥リオンさんのお弁当美味しかったー‥‥」
「ホントね♪ 私も大満足よ♪」
「ディーネさんとはまた今度何か一緒に食べたいなぁ‥‥」
「私もよ♪」
そんな会話を楽しそうにかわすディーネとサクラ。
サクラはアッシュの戦闘馬に乗せてもらい、ご機嫌である。
「ふむ。サクラ、どうやらいい勉強になっとるようじゃな?」
「ミハイル御爺ちゃん! どうしたの、一体?」
「どれ、サクラがどんな風に学んでいるか、気になってのぅ」
突然のミハイルの訪問に一同も驚きは隠せない。
そんな一同を他所に、ミハイルは冒険者達が連れてきたペットを見渡すと、うんうんと頷いた。
「よく躾けされているペットじゃな。其れに、飼い主も常に傍にいる。サクラ、此れこそ真の飼い主の姿じゃよ」
「うん! みんなに色々教えて貰って、色々分かった気がするの!」
「最近の冒険者はなっとらんものがたまにいるのじゃ。他の所では、子供相手の所に魔獣連れ込んだり、貴族との接見の際猛獣連れ込んだりとしているようじゃが、此れは全て悪い例えじゃ」
「そ、そういう人いるんだ‥‥?」
「残念ながらね」
黒妖が苦笑いを浮かべてそう答えると、サクラは少し心配そうに見渡した。
大丈夫。この人達は、そんな人ではないとミハイルに諭されながら‥‥。
「さて、今日のピクニックも日が暮れてきたしこれでお開きにするかのぅ」
「うん、とっても楽しかったわ」
「次会う時はまた戦闘かも知れないけれど、頑張るのよ、サクラ?」
「はい! オリエさんやアッシュさん達のおかげで自信がつきそうだから!」
サクラがそう意気込みを語るが、其れを心配しているのがリオンだ。
「サクラ、だからって危険な事はするなよ? 俺が守るって言ったしさ? あ、それと。マリオネットに愛称つけてみたらどうかな?」
「リオンさん、ありがとう。帰ったら、つけてみるね! ‥‥あ、後‥‥この前は守ってくれて‥‥あ、ありが‥‥はぅぅ‥‥」
「ご主人ったらこの前からずっとこうなんだから! リオンっ!」
「な、なに?」
「‥‥僕の事も構ってよね!?」
そう言い終えると、またサクラの帽子の中へと逃げるミラー。
やはり、その光景が可愛らしかったのか冒険者達の笑い声が草原に木霊するのだった‥‥。