冒険者の掟〜随伴獣

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月27日〜08月30日

リプレイ公開日:2006年08月28日

●オープニング

 最近の王都近隣の街で噂が飛びかっていた。
「何だか怪しい影を見たぞ」
 冒険者街の近くに住んでいる男がそう噂すれば
「家で飼ってるワンちゃんが見当たらないわ」
 更に婦人がそう噂する。
「隣の町では子どもがいなくなったってよ」
 噂が噂を呼んで、段々と膨らんでいく。
 この世界で噂でも其れは大切な情報源。
「そういえば、王都の冒険者街では恐ろしいペットに飼っているらしい」
 この決定的な一言が、住民達を怒りへと駆り立てる。
「そうだ、きっとこれは冒険者街で飼ってるペットの仕業に違いない!」
 こうして住民達の怒りは頂点へと達し、迷惑を受けているという近隣の街にも声をかけ、代表者を王都へと集めるのだった。

 住民達が向かったのは治安を与る守備隊長の下。
 最近近隣の街や王都で起きている不穏な出来事。其れは全て冒険者達が操る猛獣、魔獣のペットの仕業ではないかと訴えたのだ。
「なんだと? 其れは真か!?」
「でなければ私の飼ってるワンちゃんがいなくなるわけないわ! 近くも冒険者街だし、それ以外考えられないもの!」
「このままじゃ俺達は安心して暮らせない!」
 こうなった住民達は懸命に守備隊長へとこの事態をどうにかしてくれと陳情する。
 話を聞いた守備隊長もその話を聞いて怒り、証人として数人の住民を連れて冒険者ギルドへと抗議するのである。
「けしからん! 責任者出て来い!」
「どっ、どうかしましたか?」
「どうかした? ではない! どういう事だ、こんな平穏な地で猛獣や魔獣を放し飼いにするなどと!」
 最近、冒険者達の中には必要以上に猛獣や魔獣を街の中に連れ込む者達がいる。
 その事を聞いて、守備隊長はカンカンに怒っているのだった。
「危険な場所、ルーケイなどでは確かにボディーガードとしてはいいだろう。しかしここは平穏なる王都だ!」
「は、はぁ‥‥た、確かにそうですね‥‥」
「それとも、冒険者達は人間をエサにでもするつもりか!?」
 ここまで言われてしまえばギルド員も真っ青になる。
 もし、そのような冒険者がいたとすれば自分達の信頼がガタ落ちだ。
 冒険者達もまた然りである。
「待って下さい。聞くところに拠るとジェトの国には恐獣を使役する騎士がいます。一口に天界人と言っても、実に様々な世界からいらしており、貴族でも帯剣しない慣わしの世界もあるそうです。習慣が違うだけで、実は私たちの知らない掟に基づいて、きちんと律しているのかも知れません。私の知る限りでは、皆様はきちんと弁えて居られるようです」
 同じく住民の訴えを受けている護民官が助け船を出した。
「ならば、その規範を教えて頂きたいものだ。もしもやって来た世界毎に異なっていると言うのならば、この事は早急に話し合って、冒険者共通の掟を定めて貰おう! そして、それに背く者を冒険者ギルドが厳しく取り締まって貰いたい」
「其れまで、冒険者街と街の境目は封鎖させて貰うぞ! 俺達の安全の為だ!」
「‥‥はい、善処致します」
 ギルド員がそう返事すれば、守備隊長と証人達は引き返していく。
 今後の信頼問題に大きく関わる。ヘタな説明をすれば信用などして貰えないだろう。
 此れは、冒険者達がもたらした一つの結果とも言える。

「は、早く何とかしないとこのままじゃあ冒険者達の評判がガタ落ちですよ!?」
「そうだな‥‥王都の住民だけではなく、近隣の街からも酷く心配されているらしい」

 こうして、急いで依頼書は作成された。
 民衆は求める。冒険者共通の規範を明文化し一般に知らしめることを。
 そして、それを全ての冒険者が遵守する事を。

●今回の参加者

 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb0751 ルシール・ハーキンス(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb5377 中州の 三太夫(34歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

クレア・クリストファ(ea0941)/ トリア・サテッレウス(ea1716)/ カッツェ・シャープネス(eb3425)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490

●リプレイ本文

●用意と共に思うものは‥‥
「千歳山さんという方から、『子供達が『子犬を探すのを手伝う』と云っていた』と伝えて欲しい‥‥と」
 公表の準備にとりかかる中、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)がエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)にそう告げる。
 エデンは、そうですか。と少し安堵した様子でもあっただろう。しかし、その表情は何時にもなく暗い。
「ルキナスさんと云う方も仰っていたが『命はどんなものであっても尊いものだ』‥‥と、命を止めると云う事は『運命の車輪を止める』事‥‥これは余計なお世話かのぅ‥‥?」
「其れでも‥‥私は、護民官なんです‥‥」
 そのエデンの言葉は、仲間である者達の心に酷く突き刺さるものとなった。
 それでも、彼はやるのだと。決意を感じ取っていた。
「でも、話し合いで分かって貰えるといいね」
「そうですね。冒険者は人を助けるのが仕事。不安を煽るようでは困りますからね」
「後は僕達次第だと思います。街の皆さんが声をあげてくださった事にまず感謝しなくてはいけません」
 ルシール・ハーキンス(eb0751)やイシュカ・エアシールド(eb3839)にそう言葉を投げるクウェル・グッドウェザー(ea0447)。
 ハーブティーの用意、そしてテーブルや椅子の用意を進めていた。此れは全て、自腹で行うというものである。
 より民にリラックスして聞いて貰えるよう、多くの人に聞いて貰えるように‥‥。
「ここで気付けた事、僕達にとっては幸せだったかも知れません。被害が出てからでは、遅かったんですから‥‥」

●ネヴァーランド
「親分の親友が困ってる。きっと只の迷子だと思うんだ。子犬の迷子捜しなら、おいらたちだって出来る。ククスの為にあれだけ熱心に助けてくれたんだもの。今度はおいらたちが助ける番だ。しっかり使え、目と耳と、足!」
「「「OK!!!」」」
 ネヴァーランド司令代行ディーノの呼びかけの元、子供達が街に散って行く。
(「それにしても‥‥。何かある。きっとある‥‥」)
 ディーノは訝しむ。最近までこんなことが問題になる感じじゃなかったのに。とても違和感を感じる。
(「でもそれは後だ。子犬を探し出さなきゃ」)
 自らも探索に加わるため基地を後にした。

●説明会
 準備も整い、説明会を行うと街の人達に声をかけていく冒険者達。
 その事もあってか、予想外だと思えるぐらいの人数が其処に集まった。
 その中には守備隊長の姿もあった。
「まずは、我々の行動の一部に、皆様へ恐怖や不安を与えるものが有った事を深く陳謝致します。そして、このような機会を設けて頂いた事を皆様に感謝致します」
 クウェルが頭を下げると、他の冒険者達も頭を下げる。
 まずは謝罪。そうして街の人達への威圧感をなくすというもの。
「現在起こっている問題に関しては、今後は皆様が安心して暮らせる様に被害状況を調べ、これを解決する為に後日ギルドを通じて無償にて冒険者を派遣することを約束致します」
「本当なの!? 私のワンちゃん、探してくれるのね!?」
「はい、勿論です」
 そう答えたのはリオン・ラーディナス(ea1458)だ。
 その姿は堂々としたもの。冒険者を代表する者の顔つきだ。
「今後も問題を起こさぬよう対策を取ることでこれ以前の冒険者の行動については深く謝罪すると共に以降の冒険者の処罰に関しては第三者を立て公正に検証した上で判決を下します」
「なるほど。しかし、其れだけではその声を無視して連れて行く者もおるだろう?」
「場を弁えない同伴をした冒険者に対する罰則の制定を施しました。但し、過去罪は此れでは裁けませんが」
 リオンがそう落ち着いて説明すると、街の人達からもざわめき声があがる。
 そして更に彼はこうつけくわえるのだ。
「冒険者同伴のペットは基本的に躾がされている状態です。その事も理解して頂けたらと思います」
「でもそんなの私達に分かるわけないわ」
「他人のペットだもんなぁ‥‥飼い主が無事でも、俺達が無事だとは思えないぜ、猛獣ならさ?」
 思った通りの声が出た。彼等は怯えているのだ。
 その強大な刃となりうるそのペット達に。
 安全は、安心なくしてありえない。逆もまた然り。分かりあうのには時間がかかるだろう。

「我々冒険者にとってペットは単なる愛玩動物ではなく、共に冒険を行うパートナー足る存在である。故に我々のペットへの認識は、民である皆のそれと大きく異なる。しかし、この点を看過し民への配慮を怠ったのは我々冒険者の非であった。今後我々が帯同するのは原則として必要十分な躾を済ませたペットである事を認識されたし」
「認識するにしても認識できるものがないと困るわ‥‥」
「僕達が場を弁えます。其れで管理をしっかりし、皆様に危害をくわえないようにする事をお約束します」
 陸奥勇人(ea3329)の難しい説明に不満そうな街の人に対し、クウェルはそう答える。
 認識できる材料がなければ、認識も難しいという事だろう。
「騎士の持つ剣が、人々を、皆さんを守る為にあるように。冒険者の持つ猛獣や魔獣もまた、その剣足り得る存在です。皆さんを守る為に振るわれる剣を、どうか恐れないで頂きたく思います。‥‥勿論剣には鞘が必要です。それが今回の規範であり、自警団であります。冒険者ギルドは人々が安心して眠る事が出来る生活の為にある。その事を我々は心に刻み、皆さんと我々、双方の理解が深めて行く事ができたならと思う所存であります。冒険者として。騎士として」
 フルーレ・フルフラット(eb1182)がそう告げると立ち上がったのは守備隊長だ。何やら神妙な面持ちである。
「此れは、冒険者街の空き巣対策や、野良ペットの対策にもなると思います。自警団を独自で設立出来れば、私達冒険者が未遂に止められると思うのです。勿論、自称になりますが」
「その為にペット預かり所を設置するのである」
 富島香織(eb4410)と中州の三太夫(eb5377)の言葉を聴いて、やっと重い口を開く。
「‥‥待て。一つ問いたい。貴殿等の職は何だ?」
「冒険者、です」
「では、自警団というのは貴殿等の仕事ではない。自警団とは街の有志達で結成されるもの。街の事は此方に任せて貰おう。貴殿等の出る所ではない」
「しかし、其れでは‥‥!」
「‥‥我々を信用しないと? 我々に信用してくれと声をあげて言うのならば、貴殿等も民を信用してはどうか?」
 守備隊長がハッキリとそう告げる。冒険者とは、困っている者の声を受け止め助けるもの。それ故、色んな土地に出歩く事も多い。その行く先々で自称するならばいいだろうが、しかし其れではその街の自警団を信用していないという事に繋がってしまう。
「其れにペット預かり所はダメだ。聞いた話ではウィンターフォルセが其れを受け持つそうだな? 其れは其方に任せては如何だろうか?」
 そう言えば、守備隊長は踵を返し街の人達の方へと向かい声をあげる。

「聞いたか、皆の衆よ! 冒険者は貴殿等の声を聞き入れ、規約を作られた! 信用の第一歩として、互いを信じてみるという事をしてみては如何だろうか!」
「守備隊長殿‥‥!?」
「もし今後冒険者の中で規律を破る者がいた場合、冒険者は我々を信用してなどいない。そういう事にしようではないか。‥‥貴殿等の動きが求められている。頑張りたまえ」
 守備隊長の言葉は優しいものだった。クウェル達にとって、其れがどれだけ嬉しかっただろうか。
 彼等が何の為に声をあげたのか。恐れを抑え、例えヒステリックを起こしても。民は不満を訴えた。いや! 不満ではない。不安なのだ。冒険者は其れに応えなければいけない。
 皆、冒険者が嫌いなわけではないのだから‥‥。

●理解し合える方法
「ペットに関する不安だと思っている事等あったら僕達に話してください」
「うん。俺達はその為にもここに来たんだ、そうしてくれると助かります」
「猛獣って牙が凄いだろ? そんなの見せられたら、俺もう怖くてさ‥‥」
「魔獣って冒険者達しか持ってるイメージがないのよね。一度見た事あるけれど、すっごく怖かったわ」
「其れに魔獣って人を襲うって言うじゃない? そんなの飼ってるだなんて聞いたら、ねぇ?」
 リオンとクウェルの言葉から始まり、民それぞれがそう訴える。
 どんな些細な事でもいい。教えてください、と。フルーレやルシール達も民の話を聞いてまわった。
「冒険者の人には感謝してるわよ? でも、私達が怖いと思う事も知って欲しいわ」
「そうですね‥‥私達では酷く一般的でも、民間では一般的ではないものですものね‥‥」
「其れに俺達、冒険者を信用してないってわけじゃないんだぞ?」
「そうね、信用してなかったら頑張って声なんかあげたりしなかったわ」
 口々にそう言う民達。冒険者達は信用されているのだ。
 信用されているからこそ、怖いものは怖いのだと訴えているのだ。
 もし、此れが信用出来ないと言われていたら、何も言われず。
 ただ住居の戸を硬く閉ざし、協力しなければいいだけの事なのだから。
「俺達って、信用されてるんだなってこういう時思うよな?」
「そうですね、勇人さん。だからこそ、僕達は頑張って守らなければと思うんですね」
「あまり、負担にならない程度でな?」
「僕達の負担にならない事もそうですが、街の人達にも負担がでないようにしたいですね」
「大丈夫ですよ。こうして皆様が話してくださっているんです。こうして少しずつ私達が互いに歩み寄れれば‥‥直に隔たりは消えてくれると思います」
 香織がそう言うと、勇人とクウェルは其れに同意するように頷いた。
 そして、また民達の意見を聞きに行くのだった。
 後日、其れは全て纏められ冒険者ギルドへと届けられた。
 冒険者ギルドに求められたものは、後に前向きに協議するという返事を、冒険者達は貰った。


 冒険者と民の間に出来た溝は、容易く埋まる事はないだろう。されど、其れは今後の冒険者達次第なのだ。民を守る剣であると誇れる者となれば民も信頼し、その冒険者を救世主と認めることだろう。

 傷ついた魔獣は後日、とある少女により保護されたという話が彼に伝えられた。
 その少女は、そのヒポカンプスを自分の手元に置くという処置をするという事も‥‥。