ひと夏のアバンチュール

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月30日〜09月02日

リプレイ公開日:2006年09月05日

●オープニング

「‥‥ふぅ」
 もうすぐ夏も終わり‥‥避暑に訪れた海岸でマダム・パピヨンは溜め息をつきました。今年の夏は辛いものでした。意中の相手にフラれ、寂しい夏を過ごしたのですから。
「仕方ありませんわ。幸せなカップルでも見て心を慰めましょう‥‥ちょっとだけ辛いですけれど」
 そんな思いで、援助しているバドという少年と共に静かな海にやってきたのでした。昼間は家族連れや友人達、夜ともなればラブラブな夫婦が寄り添い、幸せな恋人達が愛を語り合う、そんな海です。
 しかし、その日マダム・パピヨンを迎えたのは‥‥。
「このっ浮気者!」
「信じられない、あたしだけを愛してるって言ったのに!」
 悲しみと怒りで夫や彼氏を責める女性達と、
「いやっだから浮気じゃないって!」
「君を愛してる気持ちに変わりはないよ!」
 責められながら、必死に弁解し又は許しを乞う男性達、の姿でした。
「‥‥え〜と、一体何があったのでしょう?」
「発端は数日前、この海にキレイなお姉さんが現れた所から始まりました」
 マダム・パピヨンの呟きを拾って説明したのは、八歳くらいの男の子でした。さすがマダム・パピヨンのプライベートビーチ、生意気にも女の子連れです‥‥「キレイなお姉さん」のくだりで腕をつねられました。それはともかく。
「‥‥そうですぅ、みんなみんなわたしが悪いんですぅ〜」
 その時、海から声がしました。マダム・パピヨンが見ると、確かにキレイ‥‥可憐な少女です。ただ、一つ違和感があるのは、波間に沈む下半身‥‥そう、そこに何やらうねうねっとしたモノがある点でした。
「違うっスご領主様! 人を外見で判断しちゃいけないっス!」
「彼女は可哀相な人なんだ! 血を吸わないと生きていけない奇病を掛かっている!」
「あの、みなさん‥‥わたしは別に病気というわけではないですぅ」
 困ったように言う女性の申し訳なさそうな主張は、スルーされてしまいました。
「あんたまた、そんな事言って!」
「浮気者浮気者浮気者ぉっ!」
 その頃には、女性を庇う男性陣は、妻やら彼女やらによってたかってボコにされたからです。
「お姉さんちょっとすみません‥‥ん〜、あなたはラーミアですね」
 と、波間をざぶざぶかきわけて観察していたバド少年が、指摘しました。バド少年は実は、モンスターの生態に興味があって色々勉強しているのです。
「尾っぽを少しケガしてますか?」
「はい、そうなんですぅ〜。で、ココで行き倒れてしまいましてぇ」
 女性‥‥ラーミアは恥ずかしそうに言いました。が、反対に顔色を失くしたのは、今の今までケンカ(ほとんど一方的でしたが)を繰り広げていた大人達です。
「ラーミアは下半身が大蛇で、生物の血を食料としている‥‥でしたよね? 魅了の魔法も使う、とか」
「わたし、魅了の魔法は使ってないですぅ〜。ただ、『わたしを助けて下さい〜』ってお願いしただけですよぉ‥‥だってお腹減っちゃって」
 ラーミアは本来強いモンスターです。しかし、このラーミアは性格なのかまだ幼いのか、イマイチぽややんっとしています。まぁ多勢に無勢、「悪い事してないですよ?」と必死に弁解しているようです。
「だから、あれは人助けだったんだ!」
 途端、男性陣は主張します。
「ていうか、アレは人じゃなくてモンスターだから!」
 すかさず、女性陣は突っ込みます。
「とりあえず、女性達の言う事は正しいですわね」
 そして、マダム・パピヨンの言葉にラーミアはビクリと怯え、男性陣は「うおっ可哀相だ守ってやらねば」と気色ばみます。
「どちらしろこのままにはしておけませんわ」
 それでも、マダム・パピヨンが迷ったのは、とりあえずラーミアに攻撃の意思が無い様子だから。勿論、モンスターという時点で放っておくわけにはいきませんが。それに、この美しい海を血で汚すのもどうか、という迷いもあります。
「どうするのですか?」
「‥‥冒険者の方々に知恵を拝借しましょう。このラーミアをどうするのが一番いいか、きっと良いアイデアを出してくれるはずですわ」
 そんなマダム・パピヨンの言葉にラーミアは心細そうに、身を縮めていたのでした。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1263 比良坂 初音(28歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb5898 皐月 鈴華(32歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ヒール・アンドン(ea1603)/ イリア・アドミナル(ea2564)/ カッツェ・シャープネス(eb3425)/ 桜桃 真治(eb4072)/ 時雨 蒼威(eb4097

●リプレイ本文

●彼女はモンスター
「ふーむ、怪我したラーミアか‥‥まあ、マダム・パピヨンには庭園や結婚式で色々お世話になってるし何とかしないとねえ」
 依頼人と面識があるアシュレー・ウォルサム(ea0244)がやってきたのは、海岸。夏も終わる‥‥常ならば、それを惜しむ人達が集まるその場所は今、緊迫した雰囲気に包まれていた。
「何とかしないとですね‥‥ラーミアのさんの為にも」
 思うファング・ダイモス(ea7482)に、皐月鈴華(eb5898)も「はい」と頷いた。
「こちらに来て、初めてモンスターさんに会える依頼で‥‥不謹慎ですが楽しみです」
 内心心躍らせて来た鈴華は天界人。優しい性質である鈴華は村人達は勿論、ラーミアの事も放っておけなかった。
「初めまして、よろしくお願いします」
「来ていただきありがとうございます」
 先ずは挨拶、礼儀正しく頭を下げる鈴華達に、依頼人であるマダム・パピヨンはホッとした風に微笑み。
「このヴァラス、依頼人殿の為にこの海岸に平穏をもたらすと約束いたしますよォー」
「まぁ‥‥何て頼もしいお言葉なのでしょう。どうかよろしくお願い致しますわ」
 更にヴァラス・ロフキシモ(ea2538)の言葉を聞くと、その両手を取り感謝の意を伝えた。
「倒すにしても、ここから去ってもらって人間との関係を絶ってもらうにしても、結局は人間の都合なんだけどにゃー」
 そんな光景から海へと視線を移し、チカ・ニシムラ(ea1128)は呟いた‥‥少しだけ苦く。
「まぁ‥‥とりあえず、お姉ちゃん達のほうがある意味正しいこと言ってるにゃぁ」
 それでも、険悪な雰囲気の女性達と男性達‥‥どちらの肩を持つかといえば、迷いはないわけで。
「‥‥まったく、世知辛くなったものね」
 そして、呟きを拾い上げ、チカの眼差しを追った比良坂初音(eb1263)もまた、溜め息混じりに口にしたのだった。

「ほら、これ‥‥」
 その視線の先では、オラース・カノーヴァ(ea3486)がラーミアに花霞とマントとを差し出していた。
「まぁ、プレゼントってヤツだ」
 と、差し出され呆然としていたラーミアがふと、涙ぐんだ。
「おわっ!? 何だ気に入らないのか」
「いっいえ、違うですぅ。ただ‥‥誰かに何か貰うの初めてで‥‥嬉しくって‥‥」
 慌てて頭を振るラーミア、オラースはただ「そうか」とだけ呟くと、ちょっと高い位置にあるその細い肩にマントを羽織らせてやった。
「今‥‥泣いてなかったか」
 だが、心穏やかでなかったのは、そんな様子を窺い見る村人の一部‥‥端的に言えば男性陣だ。彼らとてもう分かっている。ラーミアはモンスターだと、波の下の下半身は蛇なのだと。だけど、放っておけない‥‥上半身だけ見れば頼りない女の子だし。
「あ〜、別にいじめてるわけじゃねぇから‥‥とりあえず、ちょいとこっちに来いや」
 そんな内心を察したヴァラスは、提案した。依頼人の期待を背負い、引き離しに掛かる。仲間達のラーミアと話し合いを、ややこしくしない為。
「この方たちはプロですわ。言う通りになさいな」
 マダム・パピヨンの口ぞえもあり、村人達は不承不承ヴァラスに従い。
「あんさん等、特に野郎どもがいると話がややこしくなるからな。ここはプロに任せて大人しく待ってな」
 けれど、距離を取り言い置くヴァラスに、男性陣から不満とも非難とも不審ともつかぬ視線が投げられる。中にはあからさまに不平を口にする者までいた。
「いいかァ〜、もしてめえが今回の騒動で死んじまったりしたら、てめえの連れの女が毎夜寝床を涙で濡らす事になるのだぜ。そんなのは嫌だろうが。‥‥ここで大人しく待ってな、ボケ」
 だが、笑顔で凄むヴァラスに男性陣は皆一様に押し黙り‥‥女性陣の方は賞賛の眼差しを向けた。
 そこに、ヘコむ男性陣をフォローすべく、鈴華が優しく言葉を添える。
「ラーミアさんは私共が、治療をし帰して差し上げます。あなた方が本当に、彼女の事が大事だと思うのなら‥‥あなた方を心の底から心配している恋人達に、自分は正気で他意は無い事を説明してあげてください」
「怪我をしている以上、『お引取り下さい』と頼んでも動けないようですし。平和裏に立ち退いてもらうには傷が治って動けるようになってからでないと‥‥」
 更にゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が女性陣に理解を求める。治療して平和裏に立ち去ってもらった方が良いでしょう?、と。
 鞭と飴、脅し加減に忠告するヴァラスと真摯に訴える鈴華に、男性陣たちはようやく納得の色を見せた。
「彼女がこの街に流れ着いた事、食事の為、血を分けて貰った事は、罪かも知れませんが、償い、やり直せない事とは違うと思います」
 ここが正念場、とばかりにファングも言葉を重ねる。
「彼女は、血を吸わなければ生きて行けませんが、我々に悪意は無く、魔法や姿を隠す事も無く、ただ助けを求めて来ました」
 勿論、助けに応じてはならない場合も有る。例えば盗賊達のように。だが。
「悪意を持たず、人から奪わず、力に応じず、ただ、願いを持って、助けを求めた者には、やり直す機会を与えても良いと思います。全ての命は、精霊様によって祝福されています。如何か、彼女に人間達の事を学ぶ機会とやり直す機会を下さい」
 大きな身体を二つ折りにするファングに、女性陣もそれ以上ラーミアを非難する気を失ったようだった。ファングの言う通り、ラーミアにとっては食事なのだから、と自分を納得させる。
「私としても否やはありませんわ」
 勿論、マダム・パピヨンにもファングの言葉を退ける意思はない。
「何が一番大切なことか‥‥よく考えて見て貰えれば‥‥みんな幸せに慣れるのですよ」
 そして、ニコリと微笑む鈴華に、男性達は気まずそうに隣を‥‥それぞれの大切な者たちを瞳に映し。女性達もまた少しだけ居心地悪げにその視線を受け止めたのだった。

●生きるということ
「とりあえずケガの治療、しないとね」
 アシュレーはヴァラスが外野を押さえていてくれているのを確認してから、ラーミアを手招いた。
「俺達は敵じゃない、信じてくれるよね?」
 オラースを見て頷く、ラーミア。
「私が診ます。こう見えても治療は専門ですから」
 外野をヴァラスに任せてきたゾーラクは、早速応急手当キットを取り出した。
「すみませんですぅ」
「傷ついたものを手当てするのは当然ですよ」
 申し訳なさそうなラーミアに、ゾーラクは微笑んだ。
 ラーミアとて一つの生きる命である以上、人間に危害が及ばない間は尊重すべきである‥‥そう思うから。
(「邪魔だという理由であらゆるものを排除し続ければ、いつか人間も自然から邪魔だという理由で排除されるに違いないですもの」)
 そして、死んでもいい命は存在しない‥‥それがゾーラクの信念なのだから。
「はぁ〜本当に下半身は蛇なのですね」
「触感もよく似ています、というか同じなのかな」
 ゾーラクを手伝いながら鈴華は積極的に意思疎通を試みた。それはラーミアや治療の様子を興味深げに観察するバド少年も同じ。
「そういえば、あんたはそもそもどこから来たんだ? 何でケガを‥‥心配している仲間とかいないのか?」
 和やかな雰囲気、オラースは何気なさを装い問いかけた。
「わたし、遠くの森に住んでたですぅ‥‥その、ずっと独りで」
 ラーミアのセリフにゾーラクの手が一瞬、止まる。そこに寂しげな響きを感じ取って。ラーミアは種族名。だけど、単体ならば呼び名はそれで事足りる。人の持つ名は他者と区別する為‥‥誰かが呼んでくれて初めて意味を成すものなのだから。
「ケガは、クマさんに血を分けてもらおうとして失敗しちゃったせいで、その時に川に落ちちゃって流されて此処に辿りつきましたぁ」
「大変だったんですね」
 ホロリと、鈴華。まぁ川を移動したから、騒ぎにならなかったのだろうが。
「だが、あんたは頑張れば人間の血なしでも生きていける‥‥そうだな?」
 不可能ではない筈、考えていたオラースは確認する。
「動物の血で暮らしていけるならそれで良い‥‥人間の血の味と入手の簡便さ、それに屈しない精神力があるなら」
 退治しないで済む、これは内心だけの呟き。
「はいですぅ。でも、わたし‥‥」
「傷が治ったら、この場所から立ち去って欲しいのにゃ〜」
 その先を察知し、遮るようにズバリ切り出したのはチカだ。人間の都合‥‥とはいうものの、人をも餌にするラーミアを人が追うのも道理。以降、人間との関係を絶てねば、退治するしかない‥‥そんな覚悟はチカにもある。
「ここにいちゃダメ‥‥ですよねぇ?」
「ええ。この騒ぎは分かるでしょう? それに、あなたがここに留まれば魚も逃げてしまうし、あの人たちも不利益を被るの」
 初音も、懇願をキッパリ跳ね除けた。正直、初音はラーミアを信じきれていない。
(「おそらく彼女の性(サガ)からして、人に依存せざるをえないでしょうからね」)
 人の住まない場所ならともかく、人と共にあれば‥‥彼女はおそらく人を襲う。
「なら、冒険者街か、ペット預かり所に勤められないでしょうか?」
 もし帰る場所がなければ、考えていたファングにオラースもチカも初音も首を横に振った。凶悪な(少なくとも一般人がそう思う)ペットが起こした騒動は、記憶に新しい。
「はい。とりあえずこれで大丈夫です」
「‥‥わたし、帰りますぅ」
 そんな雰囲気を察したのだろうか、じっと俯いていたラーミアはゾーラクの太鼓判を受け、ポツリ呟いた。
「川を流されてきたなら、そう遠くないと思うんですよ。川を遡って行けば、元いた場所にたどり着ける筈ですし」
 羊皮紙を取り出しバド少年が説明し。
「なら帰れるんですね、良かった」
 ファングも鈴華も安堵する。
「人を傷つけたらダメだよ? 人を傷つけたら、退治されてしまうかもしれないし‥‥襲ったりしないようにね」
 一方。ラーミアに言い含めるアシュレー。言葉は穏やかだがその実、瞳は真剣な光を放っている。
「モンスターであり吸血をする。それだけでラーミアを殺そうとする人間もいる。そして身を守るためだとしても人を傷つければ、状況は悪くなる」
 オラースの口調もまた、この上なく真剣で。
「‥‥分かりましたぁ」
 感じるものがあったのだろう、ラーミアも口調はともかく、緊張気味に頷き返し。
「分かってくれて嬉しいよ。後はお腹‥‥空いてるよね?」
 アシュレーは初音達の咎める視線をそっと制止、指先を傷つけようとした。チカ達の危惧は分かる。だが、道中で空腹のラーミアが人を襲ったら‥‥それこそ目も当てられない。
「俺の血を吸って下さい‥‥何、見てのとおり丈夫が取り得ですから」
 と、アシュレーを遮ったのはファングだ。アシュレーとて決して小柄ではないが、ファングと比べればその違いは明白だ。
「大丈夫ですから、お腹をいっぱいにして下さいね」
 コクン、頷きと共にラーミアはファングに身を寄せた。身を屈めたファング、その首を抱きかかえるようにして‥‥。
 首筋に微かな違和感。痛みよりもむず痒い感覚と共に、ゆっくりと血が吸われていく。勿論、ジャイアントであるファングが、生命の危機に瀕するような量ではない。
「‥‥ごめんなさい。‥‥ありがとう」
 小さな小さな血の香りの吐息と共に零れたのは、透明な雫。
 ファングはその大きな掌で一度、ラーミアの髪を撫でてやった。彼女のこれからを、祝するように。

●海は青く
「次にここに戻ってくるのであれば命の保証はしねえ。そこん所はそのポヤーっとした頭にしっかり叩き込んどけよ、おねえちゃんよ」
 ヴァラスに念押しされ、ラーミアは「‥‥はいですぅ」と小さく応えた。少しだけ、寂しげに。
 海岸では見送るヴァラス達冒険者達と、事の終わりを見届けようとする村人達やマダム・パピヨンの姿。
「元気で‥‥道中気をつけて」
「無理はしないで下さいね。傷口が開いたり疲れたら休んで下さい」
 ファングとゾーラクの優しい言葉に何度も頷き。
「またいつか、会えると良いですね」
 そして、鈴華がギュッと握ってくれた手の温もりを惜しむようにしながら、ラーミアは海へ‥‥いや、元いた場所へと続く川を目指す。ゆっくりと遠ざかっていく姿。
「これで良かったんだよ‥‥大体ね」
 見送り、アシュレーは村の男性衆へと渇を入れた。
「パートナーをほったらかしにするとは何事か! 男だったら一番に考えろ!」
 彼らも納得しているようだし、奥さんや彼女と何と無く仲直り〜な雰囲気だが、念には念を入れて。それに同じ男として、同じ愛する人を持つ者として、どうしても一言言っておきたかったし。
「確かに可哀相ってのはあったけど、それでパートナーを放っておいちゃダメだろ。俺なんかね、ルーシェに寂しい思いさせたら辛くて辛くて‥‥あ、ルーシェってのは俺の奥さんでね。これがまた可愛くて優しくてよく気がついて、でも、しっかりしてるとこもあってね、いやもうサイコーの奥さんでね‥‥」
 ‥‥説教の途中から惚気になっているのはお約束。
「これで一件落着、という事は‥‥せっかく海に着たんだから泳ぐのにゃ〜♪」
 平和的に解決した事を喜びつつ、パッとローブを脱ぎ捨てるチカ。そこにはじゃっじゃ〜ん、何とビキニの水着が装着済み!
「遊ぶにゃ遊ぶにゃ〜」
 呆れるゾーラクや鈴華を手招きながら、チカは早速海に飛び込んだ。夏真っ盛り!、とは言い難いが、まだまだ暑さは健在‥‥白い砂浜青い海は、やはり心躍る。
 勿論、それはチカだけでなく。
「ふに〜、それにしてもほんとにカップルばっかりなのにゃー」
 改めて周囲を見回し、「むむむ」とチカ。色々ゴタゴタはあったものの、アシュレーの渇(?)もあり、カップルや夫婦は無事に元の鞘に戻っているらしい。
「いいトコだね、本当」
「来年は可愛い奥様と一緒にいらして下さいね」
「うん。二人か‥‥もしかしたら増えてるかもしれないけどね」
 来年の自分達を思い描き、アシュレーはニコニコと目を細めた。
 そんな笑い声達に耳を傾けながら、初音は思う。あのラーミアは本当に約束が守れるだろうか?、と。寂しさを知るあのモンスターが人に関わらずに生きていくのは難しい気がした。
 見逃して良かったのか退治した方が良かったのか、初音には判断はつかない。だけど、ただ一つ確かな事。
「キレイな海」
 皆が笑い合うこの場所を血で汚すような事にならなくて良かった、この海と村人達を守れて良かった‥‥今はただその思いだけを抱いて。
 初音はこちらに手を上げるチカに応え、寄せ返す波へと歩を踏み出した。