モンスターレディ〜面会

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月01日〜09月06日

リプレイ公開日:2006年09月01日

●オープニング

「で、頼まれてくれないかね?」
 ウィンターフォルセの軍師、ルキナスが真面目な声で尋ねた。
 其処は古ぼけた山の中にある小屋。
 ルキナスの向かいに座っていた少女は首を傾げながら立ち上がった。
「え〜? わたしなんですかぁ〜?」
 おっとりとしたその声と口調は、ルキナスの気力を奪っていく。
 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。全面的に協力すると約束したのだ、彼と‥‥。
「頼む。俺達の故郷、フォルセを救ってくれた人達の為なんだ! 何とか頼めないか、マリス!?」
「そうなんですかぁ〜‥‥お困りなんですかぁ〜‥‥」
「‥‥ライキ師匠の墓は?」
「裏ですぅ。案内するですぅ」
 二人は立ち上がるとその小屋の裏手へと出た。
 其処は綺麗な丘だった。その丘の真ん中にポツンと一つだけ、小さな墓が建てられていた。
 其処に備えられているのは、綺麗な羽ペンだった‥‥。
 その墓標に描かれていた文字。

 ――ライキ・ブリュンデッド。ここに眠る――

「‥‥まだ大切にとっといてくれたんだな、この羽ペン?」
「勿論ですぅ。大切なぁ父の遺品ですものぉ」
「師匠は‥‥フォルセを愛していた。この世界も愛していた‥‥その世界を、フオルセを守りたい。そして、フォルセを助けてくれた冒険者達も助けたい‥‥」
「‥‥ルキナスさぁん」
 呼ばれて、ルキナスが振り返るとマリスはにっこりと笑みを浮かべていた。
 其れがどういう意味なのか。彼にはまだ読めなかった。
「わたし、一度冒険者の方とお話をぉ〜してみたいですぅ〜」
「え?」
「其れから〜決めたいと思うのですぅ。王都に、行きますですぅ♪」
「マリス‥‥其れは‥‥!」
「父が好きだったならぁ〜わたしも好きなんですぅ。だからぁ〜見極めるですぅ。彼等がぁ〜助けるに値するかどうかを〜。ペットも〜連れてきてもらってくださぁい〜」
 マリスの返答は、ルキナスにとっては助け舟となっただろう。
 彼女が彼等に会っている間。その間に設計の基礎部分だけでも進めれば承諾の後にすぐに取りかかれるかも知れない。

「でも、試験的だぞ? いいのか?」
「いいのですぅ♪承諾した時にぃ〜詳しい事は聞くのですぅ♪」
「師匠‥‥俺、アンタの弟子で‥‥ホントよかったよ‥‥」

 ルキナスの頬に小さな雫が伝った。
 丘は優しい風に包まれていた‥‥。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

封魔 大次郎(ea0417)/ シュタール・アイゼナッハ(ea9387)/ アルク・スターリン(eb3096)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490

●リプレイ本文

●出会いとは偶然か。運命か。
「ここがぁ王都なんですねぇ〜」
「マリスは此処に来るの、初めてだったよな? 俺が案内するよ、冒険者街で集合って話だったしな」
「はぁい♪ そうしてくださるとぉ〜嬉しいのですぅ♪」
 マリスの返事に、ルキナスは少し気が抜けながらも二人は冒険者街を目指した。
 因みにきっちりと自警団には連絡をしてある。マリスが言ったら向こうも脱力状態ですんなりと上手くいった。
 此れも彼女自身のその声のお陰というべきだろうか。

「陸奥勇人だ、よろしくな。フォルセから足を運んで貰った事、感謝するぜ」
 冒険者街に着くや否や。最初に陸奥勇人(ea3329)がフォルセから来た客人二人を出迎える。
 何せ、彼の家で過ごす事となっている為家主として出迎えるのは当然である。
「はぁい♪ マリスですぅ♪ お世話になりますぅ〜」
「勇人、世話になるな。みんなも今回は宜しく頼むよ」
「ん、任せてよっ」
 フォーリィ・クライト(eb0754)がガッツポーズを見せる。
 頼もしいとはよく言ったもの。彼女程になれば任せても安心だろう、と。
「其れではぁ〜‥‥皆様のペットを〜見せてください〜♪」
 間延びした声は、冒険者達をも脱力させていくのだった。
 本当に彼女が危険なペット等を扱えるのか? という不安を抱きながら。

●ペット達に愛の手を
「あら。あらあらあら〜。可愛いわんこですぅ♪」
「アスティって言うのよ。子犬の頃からずっと一緒で、どんな時でも一緒にいてくれる家族なの」
「まぁ〜‥‥其れは大事になさっていんですねぇ〜。犬はぁ、子犬から育てていると〜‥‥飼い主を親として見る事が多いのですぅ♪」
 ティアイエル・エルトファーム(ea0324)のペットであるボーダーコリーのアスティを撫でながらマリスはそう告げる。
 動物とは不思議な生き物。愛情を持って育てれば、飼い主として見るのではなく、親として見てくれるのだ。
「お留守番中の子達も勿論、これからもずっと一緒にいられたらいいなって。一番の思い出は、一緒にフロートシップに乗ったのよ」
「ふふ‥‥どんな時でも一緒ってぇ〜素晴らしいですよねぇ〜。きっとこの子も〜今一番幸せな時だと思うのですぅ♪」
 マリスの言葉は、ティアイエルにとっては嬉しいものとなっただろうか?
 どうであれ、マリスは彼女を気に入った様子が見受けられたのだ。

「‥‥お初にお目にかかる。オルステッドと申す。以後お見知りおきを…まあ、堅苦しいのはよそうか」
「あらぁ。ルキナスさんが言ってた人ですねぇ〜? 噂は聞いてますですぅ♪」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)に向かって笑みを浮かべるマリス。
 どんな噂を聞いたのか、気になる所ではあるが其れはさておき。オルステッドは一匹のスモールシェルドラゴンを指差した。
「こいつをどう思う? 最近、家に帰ったら飼っていた亀が突然ドラゴンになっていたんだ」
「あらぁ。可愛らしいですねぇ。甲羅がとてもつるつるですぅ♪」
「ペットには「愛玩」と「家畜」という2つの側面があると思う…こいつも純粋に家族の一員であると同時に、魔法的な攻防の手段に乏しい私には、使いどころによっては強力な味方でもある。自らの持った力を発揮できないまま生を終わる‥‥それは人であれ動物であれ不幸せなことではないかな?」
「そういう考え方の方もぉいらっしゃいますねぇ〜‥‥でもぉ、私にとってペットというのはぁ家族であり恋人でありパートナーですぅ」
「そうか‥‥其れも、そうだな‥‥」
 オルステッドがそう言うと、マリスはくすくすっと笑って突然、彼の頭を撫でた。
「ほら〜。こうされると、嬉しいでしょう〜? ペットも同じなんですぅ〜。例え家畜であっても、愛玩であっても〜愛情を注いで育てれば、心は通い合うのですぅ♪」
「‥‥なっ‥‥!」
「えへ♪ また、撫でてあげますねぇ〜?」
 そんな冗談を、マリスは笑顔で言ってのける。果たして冗談なのかは、さておきだ。

「フェン‥‥ごめんなさい。貴方をこんな所に入れてしまって。でも、此れも貴方の為なんです‥‥」
「あら〜‥‥フロストウルフですぅ?」
「あ、はい。危険なので、可哀想ですが檻の中に‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、イリア・アドミナル(ea2564)はフロストウルフのフェンにお肉を食べさせていた。
 そんな光景を、マリスは観察するかのように眺めていた。手元や、可愛がり方をチェックするように。
「私は頼もしい、相棒として、フェンと共に依頼に出て、魔物達と戦う日を、夢見ています」
「傷ついちゃう事もまた一つ、なのですぅ〜?」
「守るべき人々を、怯えさせない様に、夢は夢として、日々の依頼と、冒険者街内で、フェンと楽しい日々を過ごしています。これでも私なりに大切にしているんですよ。いつもスケジュールがあくと散歩にいったりして‥‥」
「フロストウルフさんは可哀想ですよねぇ‥‥お外に出たくても、なかなか出られないですものねぇ〜‥‥」
「でも、何時かは‥‥何時かはきっと‥‥!」
「貴方の夢。叶う事をお祈りしてますですぅ♪」
 柔らかなマリスの笑みは、イリアにとっては慰めとなるのだろうか。其れとも励ましとなるのだろうか。
 何時か彼らがこの狭い檻の中ではなく‥‥自由に動き回れたら、と‥‥。

「あらっ。とても可愛らしい子がいますですよぅ?」
「連れて歩けそうなうちにこうやって人や他のペットと接しさせることで、彼らにいい経験になってもらえばと思ってつれて来たんだ。他にも7匹のペットがいる。本来なら合わせてあげたかったんだが‥‥」
「何時か、会えますですぅ♪」
 マリスがそう言うと、アッシュ・クライン(ea3102)も小さく笑みを浮かべ、そうだな。と頷くのだった。
「ほらぁ〜いらっしゃい〜♪」
「あ‥‥そいつはまだ危ない‥‥!」
 マリスがバブーンがいる檻へと手を差し入れると、バブーンは容赦なく彼女のその白い手をガブリと噛む。
 しかし、其れでもマリスは驚かなかった。そればかりではなく、手を引こうともせず。痛みを感じているのか分からない、笑顔のまま。
 そしてもう片方の手でバブーンを撫でるのだった。
「いい子。怖がっているだけですぅ。この子を叱らないであげてくださいねぇ〜?」
「しかし‥‥手、大丈夫なのか‥‥?」
「人って、噛まれたりするとすぐ手を引いちゃうでしょ〜? だから酷い傷になるんですぅ。彼等は敵意で噛んでるわけではないのですぅ。‥‥怖いだけなんですぅ」
 アッシュは少し唖然としていた。其ればかりではない、彼女を感心してしまうぐらいの勢いだった。
 動物は常に怖がっているのだ。自分の居場所を守るために牙を剥く‥‥。
 何時しかバブーンも、彼女の手を放し大人しく撫でられていたのだった。
「参ったな‥‥こうまで動物心がわかるだなんて‥‥」
 アッシュは頬を少し掻いたのだった。

「月並だが、家族で仲間ってとこか。冒険の時に力を貸して貰った事も何度となくあるしな。俺はこいつらと言葉をかわす事は出来ないが、その分毎日世話して触れ合って、互いに理解を深められればと思ってる」
「あら。可愛らしい妖精さんとチーターさんですぅ♪ 大丈夫ですよぉ? 動物って、人の言葉を理解する力があるんですからぁ♪」
「そうなのか?」
「そうなのですぅ。だから、お世話と一緒にお話してあげるといいですぅ♪」
「精霊とは元居た世界でもちと縁があってな。今、紅とこうして触れ合えるのは嬉しいってのが正直なとこだ」
「だー♪」
 勇人の言葉を真似したエレメンタラーフェアリーの紅がえっへんと威張る。
 その光景を見て、マリスは小さく笑った。まるで、兄弟のようだ、と。
「霧丸は……さすがに前と同じく気ままにその辺を出歩かせる訳にはいかねぇのがちと気の毒かね。いずれルーケイの草原で思い切り走らせてやりたいと思ってる」
「その時はぁ〜フォルセにもいらして見せてくださいねぇ? この子が走る姿、楽しみにしてるのですぅ♪」
 マリスの言葉は何時も彼等に見合うよう。飼い主に自信をつけさせる。
 此れも一つの手段なのかも知れない。

「エレメンタラーフェアリーと言えばこの子もそうですねぇ♪」
「こんな不思議なペットを手に入れたのも、この世界に来てからなのですが‥‥」
 そして、二匹のペットと戯れているマリスにアハメス・パミ(ea3641)が疑問を投げた。
 其れは、浮かんで当然かも知れない疑問‥‥?
「貴方の力は、知識は‥‥なんなのですか?」
「私のですかぁ〜?」
「えぇ。そして、その力と知識は生来のもの? 其れとも‥‥」
「いいですか、アハメスさぁん?」
 マリスはゆっくりと立ち上がり彼女へとむきなおる。何時もと同じ笑顔のまま。
「私にはぁ〜力なんてぇありませんよぉ〜? 知識だってぇペットの事ばかりですぅ」
「は、はぁ‥‥」
「ではぁ、貴方の言う『力』とはぁ、どのような事を指しますかぁ〜?」
 アハメスは答えられなかったのかも知れない。確かに彼女には強力がある。
 だが、其れは生来のものとも修行したとも言えない。どちらか分からないからだ、本人ですら。
「この答えはぁ〜宿題ですぅ♪」
 彼女の笑顔は、アハメスを責める事はなかった。そしてマリスはまた彼女の二匹のペットと戯れるのだった。

「心情を答えるなら相棒。事実を述べるなら道具というところでしょうか。ペットのしたことは飼い主のしたことになりますからね。もっとも、道具とは愛情を注いで使いこんでようやく自在に使いこなせるようになるもの。雑には扱っていないつもりです」
 スニア・ロランド(ea5929)がきっぱりと、はっきりとその事実を述べる。
 マリスにとっては其れが好印象だったのかも知れない。今までになく真剣に聞いていた。
「私の祖先は魔獣兵団を擁する国に属していましたから、やはりグリフォンには思い入れがありますね。‥‥別にこの子を無制限に乗り回そうとしている訳ではありません。その能力を活かす場所と時を用意してやりたいと思っているだけですよ」
「貴方は、とてもお優しい人。だから、その子もきっと分かってくれるですぅ。私には、そう思えますぅ」
「そ、そうですか‥‥? そうだと、嬉しいのですが‥‥」
「この子はきっと貴方の役に立ちますよぉ。お役に立ちたいと思って懸命になっている所。せかしちゃだめですよぉ?」
「はい。この子と共に、ゆっくりと歩めたら‥‥」
 スニアとマリスは、微笑を向け合うのだった。

「マリスさんは、何故この依頼を出したのですか?」
 ペット三匹を見せながら、マリスにそんな質問をするイコン・シュターライゼン(ea7891)。
 されど、彼女はこう答えるのだった。
「其れはぁ、秘密ですぅ♪」
「‥‥は、はぁ‥‥」
「このカメさんとヒポグリフさんは貴方が心配だそうですぅ〜」
「え‥‥?」
「色々とお悩み抱えてるですねぇ? ダメですよぉ、ペットに心配かけさせちゃ〜。後で、相談にのるですよぉ?」
 彼女にウソはつけない。ペットを通して何でも分かってしまうそんな彼女には。
 だから相談してみようと思った。三日目のその時に。

「あたしのペットはボーダコリーのアリア・猫のアリス・イーグルドラゴンパピーのロロ、軍馬のドラグノフね」
「わぁ‥‥可愛らしいのがいっぱいなのですねぇ♪」
「アリスはいつも檀家でお留守番、疲れて帰った時とかに相手してもらうと和むのよ♪」
「ふふ、猫さんはぁそういう生き物ですぅ。癒しを与えてくれるのですぅ♪」
 マリスがそう言うと、フォーリィも同調するかのようにうんうんと頷く。
 猫は可愛らしい。その愛らしい姿と仕草で人を癒す。本人には癒しているという自覚はきっとないだろうが。
「でも一般人に迷惑かけそうな場合ロロ連れて行かないようにしてる、最近‥‥寂しいけど怖がるのも分かるし‥‥でもこの子はそんな獰猛でもないし言うこと聞いてくれるからいつか安心してもらえると思ってるけど」
「ではぁ、一歩ずつ確実に歩みましょう〜。何時かはぁ、一緒にお外に出かけられるように〜♪」
「マリス。アンタって少し変わってるわね?」
「そうですかぁ? ふふ、よく言われるのです〜」
 其れはきっと違う意味でだろう。そう思ったフォーリィだった。

「ペットとは、ですか?」
「はい、ですぅ」
「大切な相棒です。環に盗賊の牢から脱出する為にスクロール預かっててもらったり、命に上空から探索を頼んだりとかありました。雷は荷物を時々持ってもらいます。志は、進化するか尋ねた時、何も答えずただ雲を見てました。できれば人と争わせたくないです‥‥」
 マリスの質問に麻津名ゆかり(eb3770)がそう答えると、マリスはフロストウルフの頭をそっと撫でた。
 フロストウルフは直感で何かを悟ったのか、彼女に懐くようにお座りをした。
「ふふ、ルキナスさんが選んだ理由がちょっぴり分かった気がしましたですぅ♪」
「え、えっ‥‥!?」
「優しすぎるくらいの貴方だから、守ってあげたかったんですねぇ‥‥ふふ、この子と同じですねぇ♪」
 フロストウルフにそう語りかけながら、マリスは何時もより優しい笑みを浮かべるのだった。
 守ってあげたいと思う。其れは人だけが思う事ではない。動物とて同じ。
 この人を守りたい。その為なら、どんな危険な事でも‥‥。絆が深ければ深い程、危険も深くなる。
 されど、寄り添い生きていく事が出来るから‥‥。

「さて、これで全部のペットさんを見たですねぇ♪」
「マリス、どうだった?」
 ひょっこりと顔を出したルキナスに、マリスは大きく頷いた。
 何も語らずとも、ルキナスにはその意味が理解出来ているようで、嬉しそうに笑っていた。
 ゆかりは少し不安だったかも知れない。彼女と彼の関係が、一体何なのか‥‥。

●冒険者とは?
 そして、三日目の朝。今日と明日はペット抜き。
 マリスと冒険者の親睦会が始まるのだった。

「隣人であるペットだって、個々で意思を持った独立した存在‥‥あたし達と変わらないのかもしれない。言葉が通じない、だからこそ飼い主が仲介に立って助け、お互いが共存していけるよう努めていかなきゃって思ったの。ペットは常にサインを発している、それに気づいてあげなきゃ」
 ティアイエルが真っ先にそう答えた。マリスはその答えに満足しているようにも見えていた。
「そうですねぇ。ペットにだって意思はあるですぅ。思考もそれぞれあるですからぁ、心もあるですぅ。‥‥飼い主が仲介役というのは、素晴らしいですねぇ」
「でしょ? でも、飼い主の都合だけで動かされるペットは可哀想だと思う‥‥!」
「そういう人達はぁ、何れ飼い犬に手を噛まれるのですぅ。ペットの気持ちすら理解出来ない方はぁ、ペットを飼う資格なんてありませんですぅ」
「マリスさんと私、気が合いそう♪」
「そうですねぇ。お友達、ですぅ♪」
 マリスの言葉に嬉しさを感じながら、ティアイエルはピンと閃いたかのようにマリスにこう告げた。
「いつかは世界を旅して、様々な生き物に会ってみたいという目標があるんだけれど‥‥他の国のペット事情が心配で‥‥」
「ルーケイはぁ、きっと伯が動くでしょうしぃ〜‥‥でも、王都周辺に関してはぁ‥‥もーちょっと待ってくださればぁ、いいお返事が出来るですぅ」
「いいお返事‥‥?」
 ティアイエルが聞き返した時には既にマリスは聞いてなどいなかった。
 誤魔化された感じがした気がしたティアイエルだった。

「私もジアースからよく判らないままいきなりこっちに飛び込んだからな‥‥ジアースでも見たことがあるが、冒険者というのはどこか浮世離れしていて、中には普通の人間とは判断の基準が異なる者もいる」
「そうですねぇ。だからああいう騒動が起きちゃったですぅ。でも、其れは人間の都合なんですぅ」
「人間の‥‥都合‥‥」
「ですぅ。悪いのは飼い主であってペットではないですぅ。そんなのペットが可哀想ですぅ!」
「結局は冒険者とペットの実情に合わせて対策を練るしかないだろう。技術革新みたいなのがあればいいのだが‥‥」
 オルステッドのその言葉にマリスはピーンと来たのか、思わず笑いながら彼の頭をくしゃっと撫でた。
 その突然の行動にオルステッドは少し唖然としていた。
「それですぅ! それですよぉ♪ 協力してくだされば、出来なくもないですよぉっ!」
「な、何が‥‥?」
「最終日、絶対来てくださいねぇっ?」
 ここで彼女の決意は半分かたまっていたのかも知れない。
 しかし、其れは冒険者達が知り及ぶ所ではなかった。

「ペット預かり所の料金と、ペット預かり所を利用する上で、守らなければ、為らない決まりってありますか?」
 イリアの問いに、マリスは少し困惑した表情を浮かべたが、すぐに笑った。
「もし協力する事を決意した時にはぁ、こうしますですぅ。まず、ペットの預かり料金はないですぅ♪ 守らなければいけない決まりは、ちゃーんとペットを迎えに来る事。其れからエサ代を収める事ですぅ♪」
「ペットの大きさに応じて、餌代が変わりますか? エサ代の値段は‥‥」
「うーん、変わりますですぅ。エサ代に関しては、Gでお支払いいただく形になるですよぉ。其れと、彼等の好きな食べ物を教えてくだされば与えますぅ♪」
 マリスの返答は前向きだった。イリアは少し安心していた。もし彼女が協力してくれるというのであれば、安心して預けられるだろう、と。
 だから、嬉しさはその時までとっておくことにした。

「俺は、マリスの考えをまず聞きたい。冒険者は君の目にどう映っている?」
「そうですねぇ〜‥‥危険にも見えて、優しくも見える存在ですぅ。ペット達にとっては、いい居場所なのかも知れないのですけれど〜‥‥」
「危険にも見えて‥‥優しくも見える‥‥?」
「はぁぃ。冒険者といってもそれぞれの人がいますですからぁ♪」
 にっこりと笑みを浮かべるマリスにアッシュは少し苦笑いを浮かべていた。
 確かに冒険者は十人十色なのである。
「でも、ペットの扱い方はすこーしばかり酷く見えるですぅ。ちゃんと大事に扱ってあげないと、ペット達はストレスを増やしてしまうですぅ」
「そうか‥‥俺は冒険者としてのモラル、またペットを連れて行く際のモラル。こういう当たり前の事を心がけているつもりだ。周りの人達に、理解してもらう為に」
「何事もゆっくり確実にですよぉ? 焦りは、禁物ですぅ♪」
 マリスはアッシュの考えを聞けた事、嬉しく思うと頭を下げるのだった。

 故郷を離れ異国でずっと冒険をしていた事。そして新たな冒険を求め扉を潜り、この世界に来た事。戸惑い、新たな発見。
 全てを混ぜて勇人はマリスに話していた。マリスにとってはその話こそが新たな発見の一つだった。
 わくわくして聞いたり、驚いてみせたり。マリスは勇人の話に聞き入っていた。
「紆余曲折はあれど、世話になってるこのウィルの国には感謝してるぜ。だから俺の手の届く範囲で力になれる事があればこれからもやっていくつもりだ」
「えへへー‥‥そういわれると、自分の事でもないのに照れちゃいますねぇ♪ ウィルは私も大好きですよぉ。貴方達の世界も見られたら、どれだけ嬉しい事でしょうかぁ‥‥」
「俺がいた世界も、ウィルに負けないぐらいいい所だったぜ?」
「今度、もっといっぱい聞かせて欲しいですぅ♪ 興味がアリアリ★なのですぅ!」

「私の話ですか? 継ぐ領地のない騎士ですから、名をあげるため、生計を立てるために冒険者稼業を始めただけです。冒険者としての仕事が少なくなったのを機にこの地にやって来た。ただそれだけのことですよ」
 スニアがそう答えると、マリスは勇人との違いを考えながらその話を聞いていた。
「騎士って、与えられた勲章の為だけに動く人だったりしますぅ?」
「どうでしょうか。少なくとも、誇りを持って戦える事は確かです。仮に故郷に戻れなくても私の騎士としての誇りが無くなる訳でもないですし、この地で己を鍛え抜いて戻れば故郷の力になれれますから」
「‥‥帰りたい、ですかぁ?」
「‥‥叶うならば‥‥いえ、今の所は分かりません。この世界も、住めば都ですし」
 スニアがそう言うと、マリスは安心して笑みを浮かべるのだった。
 もし、この世界が嫌いと言われたらどうしようかと悩んだからである。

「僕は不安なんです。自分に何が出来るのか、分からないままこうして依頼を受けて‥‥」
「其れが、ペットにも影響してるですねぇ」
 イコンの悩みに、マリスは真剣になって考えていた。
 色々と思いついて言ってみるのだけれど、どれも突拍子もない事ばかりだった。
「でも、思うですよぉ。貴方がこの世界に来たのは、きっと竜と精霊様達のお導きだったのですぅ」
「お導き‥‥ですか?」
「はいですぅ♪ だから、焦らずに。何事もゆったりゆっくりとですよぉ?」
「僕は、焦ってる‥‥」
 イコンが復唱すると、マリスはうんっと大きく頷くのだった。

「あたしが冒険者してるのは、できる仕事なかったからかな。こっちじゃ知らないけどあたしの世界じゃHEってよく思われてないから」
「人種差別‥‥ですかぁ‥‥」
「あたしって捨て子でさー、でもキツイからって生きるの諦めたら不幸に負けた感じするから何とか生きてたら冒険者の養父に拾われて今に至る。最初は憧れと好奇心で始めたけど今は困ってる人の手助けできるのが嬉しいかな。嫌悪されることはあっても感謝される事少なかったからね、それだけでも嬉しいっていうか」
「嬉しさを感じとってくれている‥‥私は貴方に感謝致しますですぅ。私達人間が貴方を追い詰めていたのかも知れないと考えると、ショックですぅ‥‥」
「まー、そんな顔しないでよ。今はとっても楽しくやってるんだしさ?」
 カラカラと笑うフォーリィを見て、マリスは少し元気を取り戻す。
 ハーフエルフの哀しい運命。されど、その運命を捻じ曲げてこその人生。
 彼女には強く生きて欲しい。そう願うマリスだった。

「最初、月道を探そうと魔法を修めて冒険に出て、いつの間にか、冒険自体が楽しくなってました。今は‥‥ウィンターフォルセでルキナスさんたちに会えて、冒険に出て良かったと心底思ってます」
「私とはぁ?」
「勿論、マリスさんと出会えた事にも感謝していますよ?」
 ゆかりがそう言うと、今までふてていたマリスもにぱりと笑みを浮かべた。
 そして、ゆかりは一つの質問を投げかけた。
 其れは、一番気になっている事。
「ルキナスさんって昔、どんな人だったんですか?」
「ルキナスさん〜? 昔は凄い暴れん坊だったんですよぉ。お父様ですら手がつけられないくらいでしたもの〜。まるで、制御出来ないペットみたいでしたぁ」
「あの人が‥‥暴れん坊?」
「はぁぃ。でも、お父様に拾って貰ってからは随分と其れも治ったのですぅ。地図絵師の技術を学び、地図を書き続ける日々。私はそんな彼の良きパートナーでしたぁ」
 マリスがそう言うと、ゆかりは少し沈んだ表情を浮かべた。マリスは、其れを見て小さく笑って彼女の肩を叩いた。
「彼はとても優しすぎる人ですぅ。私が地図絵師にならない為に、彼が後継してくれたんですよぉ? ‥‥地図絵師とは、歴史を刻む者。命を常に狙われる者。そして其れは、自由の翼をもぎ取られる者って」
「自分の自由と引き換えに、貴方を‥‥?」
「だから、彼を一人にしないであげてくださいねぇ? 彼の心は、まだ凍ったまま。貴方の思いに応えようと必死ですからぁ♪」
 そんな色恋話も、笑い話になっていく。周りに人がいるから、人目を気にしての事だった。

●最終日は草原で
 冒険者達は、最終日という事で王都付近の草原へと足を運んでいた。
 其処でそれぞれのペットを思い通りに遊ばせていた。自分も共に遊んだり、他の人のペットと遊ばせたり。
 其れはまるでピクニックの光景だった。

「あら‥‥?」
 マリスは近くの河川で一匹の動物を見つけていた。
 其処にいたのは傷ついたヒポカンプス。傷は浅いが、今まで必死に生きようと足掻いたのだろう。かなりの疲労を見せていた。
「可哀想‥‥こんな傷を負って‥‥。これもまた、あの騒動の所為‥‥?」
「こ、こいつ‥‥ま、まさかな‥‥あいつのなんて事は‥‥」
 勇人は少し動揺していた。その騒動の時に一緒に民の元へと行った者のではないか? と思っていたから。
 でも、其れは大当たりとなってしまうのだが。
「‥‥ルキナスさん〜!」
「ん? どうした、マリス?」
「私、このペット引き取るですぅ! 私が育てるのですぅ! 協力もじゃんじゃんしますっ、だから!」
 マリスの懸命な訴えに、ルキナスは首を縦に振った。このまま見殺しになんか出来るわけがない。
 生きようと足掻いているのだから。優しく手を差し伸べる事が、人として動物に出来る事ではないのだろうか。そう考えたからだ。
 マリスは嬉しそうにヒポカンプスを抱きしめると、ヒポカンプスは何処となしか怯えていた。
 信じる人に傷つけられた心の傷。そして体の傷。そう簡単には癒えはしない。けれど、育てようと決めたのだから‥‥マリスは優しくヒポカンプスの頭を撫でるのだった。

「いい人ですね、マリスさんって‥‥」
「そうだな。あいつも優しすぎる人間だ‥‥」
「‥‥マリスさんとも恋人だった時、ありましたか?」
 ゆかりの質問に、ルキナスの時は停止した。その表情は、哀しささえも伺える。
 そして、正直に彼はこう答えた。
「俺の元婚約者さ。‥‥俺が一方的に別れた」
「‥‥」
「でも、今アイツとは親友だ。俺には今ゆかりしかいないわけだしな」
「あのっ‥‥!」
「ん‥‥?」
「最終日の今夜は‥‥一緒に、過ごしませんか‥‥?」
 ゆかりの意外な一言に、ルキナスの顔が真っ赤になる。勿論、言った本人も真っ赤なものだった。
 周りの冒険者はデバガメ状態である。此れはもう誰にも止められない。
「分かったよ。どうせ先にマリスは返すつもりだったし‥‥俺ももう少しお前といたい」
「ルキナスさん‥‥」
「ゆかり。何時か‥‥何時かでいい。気が早い事も分かってる。でも、何時か‥‥俺の妻に‥‥」

「‥‥いい雰囲気ですねぇ〜」
「‥‥あぁ、そうだな。あの二人は何時もああだからな」
「私にも、ああいう人がいればなぁって思う時がありますねぇ〜‥‥」

 ピクニックの現場には、桃色空気が漂っていたとかいないとか。
 しかし、これでペット小屋作成は約束されたものとなった。

 マリスは言う。
「彼等は信用するに値するのですぅ。私の力、どんと頼って頂ければと思うですぅ。そして、傷ついたこの子のケアも手伝って欲しいですぅ」
 と‥‥。