最凶二人組1〜地下救出

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月09日

リプレイ公開日:2006年09月05日

●オープニング

「所詮兵は駒よ」
 男は軽くそう言い放った。
 屋敷の中。其処はとてつもなく歪な骨董品が幾つも並んでいた。
 近くにいた執事らしき男はただ頭を垂れていた。
「しかし、このままでは兵の数も底を尽きてしまいますが‥‥」
「私に意見するか。偉くなったものだな?」
「め、滅相もございません、子爵様! ただ、私は‥‥」
「誰か。この男を地下へと連れて行け」
 子爵と呼ばれた男がそう言えば、数人の兵が部屋へと入り頭を垂れる。
 そして、その執事を引きずり部屋から出て行くのだった。
「もうすぐ‥‥もうすぐ私の計が完成するのだ。その為ならば‥‥数多の手駒をも無くそうぞ」

 旅するバラン一行にこんな噂がもたらされたのはつい先日。
 とある領地の子爵が何やら不穏な動きを見せているらしいとの事。
「これは悪の匂いぢゃ!」
 バランは断言した。だが、其れはあくまで噂。信じる事ではないと思うのだが‥‥。
「悪は皆そのような動きを見せるもの! 分かっておるな、月斗?」
「はいっ! お館様の言う事に間違いはございませんっ!」
 バカ師弟二人は完全に断言してしまった。
 此れは流石の玄斗も大うな垂れである。
「‥‥いやー。忍たるもの、如何なる情報は大事っていうけどさー‥‥こーれはちょっとなぁ」
 かくたる証拠もないただの噂。されどもう二人は世直し満々の為付き合うしか出来ない。
 覚悟を決めた玄斗は大きく溜息をつく。
「とにもかくにもさ? 下調べをしてみないとわかんないっしょー? 俺が行ってきますから、二人は先に宿に行っててくださいよー?」
「うむ、頼むぞ。よし、ワシ等はさっさと宿へと向かおうぞ」
「はいっ! 宿は確か、あの屋敷のすぐ近くにあったかと!」

 ここまでは平穏だった。
 そう、その夜が来るまでは―‥‥。

 カツン カツン
 何かの音が聞こえていた。其れは掘る音。されどその音はとても小さい。
 音に先に気付いたのは月斗の方だった。眠るバランを揺すり起こすと、二人してその音を聞くのである。
「ふむ、空耳ではないようじゃの。しかし、この音は一体なんじゃ?」
「分かりません‥‥ですが、この音はあの屋敷の方角より聞こえます」
「もしや! 誰かがワシに助けを求めているのでは!?」
「だとしたら急がなくてはなりません、お館様ッ!」

 次の日の朝。玄斗が宿に戻った頃にはもう二人はいなかった。
 飛び出した先は分かってる。昨日の音は玄斗も聞いていたから。
「まーた暴走しやがったー!?」
 報告書一枚手にしながら、あさっぱから叫ぶ玄斗なのでした。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●状況を把握せよ
「全くあの二人は‥‥いつもながらあの行動力には感心するよ」
「俺も感心しちゃうよー‥‥っていうかじっと出来ないのかどうか‥‥」
 アレス・メルリード(ea0454)の言葉に玄斗もげんなりとして表情で同意する。
 あの暴走師弟は落ち着きというものを知らない。故に先走り行動が多すぎて困るという。
「先日は色々と。縁があるようですね」
「その縁もあの師弟が運んできてるようなもんっしょー?」
「ムケケ、クソジジイどもが、先走るからこうなるのよ。これでその子爵とやらに捕まってたとしたら、バカよのォー」
「あー‥‥その言葉、決してお館様の前で言わない方がいいぜ? ‥‥ただじゃ済まないよ、アンタ」
 ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)の言葉に過敏に反応する玄斗。
 しかし此れは反応して当然。バランは各地の領主が関わりたくないと思うぐらいまでの暴走っぷりを見せる者。
 騎士道バカな為、礼儀を欠けば其れ相当のしっぺ返しは来る。
 馬鹿らしく見えても礼儀を無視するなという事だ。
「ったく、暴走した奴の後始末ほど、厄介のは、ないんだが、めんどうだな?」
「だから俺もどーしよっか迷ってんだよなぁ‥‥はぁ」
「何はともあれ助けるしかありません。玄斗殿、調べた内容を教えて下さい。貴兄なら、件の音の正体も推測されているのでしょう?」
 バランのお気に入りでもあるエリーシャ・メロウ(eb4333)が玄斗に尋ねると、玄斗は溜息をつきながら報告書を広げた。
「まず、真夜中の音の正体。アレは地下牢につかまってる執事が出した音だな。地下牢から出ようとして穴を掘っていたらしい。スプーンで」
「スプーンで‥‥っていうのも凄いな‥‥かなりの気合と根性がないと外には出られないぞ、それでは」
 アレスが苦笑いを浮かべると、玄斗もまた苦笑いを浮かべる。
 忍の仕事である以上、そういうのには何も言えない‥‥。
「噂に関しては嘘じゃなかった。どうやらここの子爵は下克上しようとしてたって感じだな。領主にこっそりと牙を剥こうとしているらしいんだが‥‥大将を牢に放り込んだ事が間違いだな」
「其れは言えてます。かの人を牢に放り込んだ時点で、彼の人生の半分が終わったのではないでしょうか? まぁ、後は私が頑張れば情報も揃うよ」
 クリオ・スパリュダース(ea5678)がやんわりと笑みを浮かべると、玄斗は其れを頼る事にした。
 後々の騒動の発端となるか否かはもう別として。

●屋敷へと
「あっ! キミの顔には不幸が見えるっ!」
 屋敷の前。門番とすれ違うと同時にレフェツィア・セヴェナ(ea0356)がそう告げる。
 門番は首を傾げてその言葉に耳を傾けている。此れはチャンスだ。
「ジーザス教の布教に参りました。少しお話を聞いて頂ければと思います」
「な、なんだ? そんな宗教聞いた事もないぞ」
 アトランティスではジーザスとか聞いた事ない。
 だからこそ新鮮なのだろう。門番はアトス・ラフェール(ea2179)の話にも興味を持っていた。
 そんな門前から裏門へ。玄斗とパトリアンナ・ケイジ(ea0353)が突入の隙を狙っていた。
「玄斗さん、勝手に二人が出てったということはアレだな、何かきっかけがあるはずですよ?」
「きっかけ‥‥そだな。あの真夜中の音だろうな、多分」
 耳を澄ませばまだ聞こえてくる。カリカリ‥‥カリカリ‥‥。
 僅かだが聞こえてくる音を聞いて、パトリアンナはニヤリと笑みを浮かべた。
「大丈夫。先導はあたしがやるよ」
「む‥‥しかし、それでは‥‥」
「なぁに、安全が四十女の命一つなら安いもんだ」
「‥‥無茶だけはしないでくれよ? 老人とはいえど女性、夢見悪いからさー」
 玄斗は玄斗なりに心配しているのである。パトリアンナも其れには応じるとちゃんと頷く。
 そして、アレス達を連れて一気に突入! そしてやった事といえば‥‥!
 がしっ。ぐわしゃっ!
「構うな! われらには救出の義務唯一つのみがある! 行く手に塞がる邪魔者は投げて捨てるのだ!」
 見つけた敵を投げまくる! 此れが彼女のやり方だ!
 とてもレンジャーには見えない、というのは内緒にしておきつつ。
 そんな騒ぎが聞こえると、地下牢のバランも黙ってはいない。

「ぬぅっ! 玄斗が来てくれおったか! 月斗!」
「はいっ、お館様ァ!」
「この程度の牢、破ってみせいっ!」
 バランのその一声に月斗は頷き、あの硬い牢を少しずつ捻じ曲げて行く。
 此れには近くにいた執事もたまげたもので、何か恐怖を感じたのか気絶してしまった。
 普通の人間には出来ない事をやってのける。其れが月斗流だっ!

「そう言えば、一人足りない?」
「何か一人ギルドで転寝してた人ではないでしょうか」
「槍使い‥‥テリオス・バスカ‥‥参る!!」
 彼が目覚めた場所はギルドのテーブル。
 皆はもう現地へと向かった後。大きな誤算。寝坊した。
「俺は‥‥俺は諦めないッ!」
 物凄い勢いでバスカ・テリオス(ea2369)は現地を目指すのだった。

●救出
「あら、なにかあったのでしょうか?」
 突入されるまで居座っていたクリオ。どうやら奢ってやった者の中に子爵と知り合いの輩がいたらしく、難なく侵入できたのだ。
 そして、彼女は子爵に一つ尋ねるのだった。
「いえね‥‥バラン爺様はあのような性格でしょう? もしここにいるのだとしたら、私は胸が痛むのです」
「‥‥どういう事だ?」
「彼等は暴走のあまり、加減というものを知りませんから‥‥いえ、いないのでしたら安心でございましょうから?」
 子爵も噂には聞いていた。彼等の暴走っぷりを。
 だが、其れを信じているのかと言えば信じてはいない。
 其れが命取りになるというのに。

「まったく、準備整えてから、突入しろよな? どうなっても知らんぞ?」
 リュイス・クラウディオス(ea8765)も突入の音を聞きつけ、仕方なく援護に入る。
 彼の綺麗な歌声は、魔を宿し兵士達を眠りへと誘うだろう。
 その間に変装したシュバルツ・バルト(eb4155)が牢への道をこじ開ける。
 扉は眼の前にある。もうすぐ。もうすぐ彼等を救い出すことが‥‥。
「‥‥卿はどちらにお出でですか!?」
「おぉ、エリーシャ! 貴殿も此方に来ておったか!」
 でかい声が聞こえた。その眼の前の扉がバーンと勢いよく開かれると其処にはバランと執事を抱えている月斗の姿が!
 なんとも合流成功である。
「‥‥あ、あの。その執事さんは?」
「あぁ、さっき俺が牢を抉じ開けたら泡を吹いて倒れてしまった‥‥」
「‥‥抉じ開けた?」
「あれくらいの鉄格子、何とでもして見せるっ!」
「‥‥ボク、頭痛くなってきた‥‥」
 頭を抱えるレフェツィア。本当は月斗は人をも超えた存在ではないのだろうかと‥‥。
「こんな所に。バランさん、相変わらず無茶をしているようですね」
「無茶ではないっ! 正義を貫く為の手段だと言ってくれぃ」
「其の方法が無茶なんですよ、大将ッ!」
「其れよりも騎士は礼節を重んじんだろ?ちゃんとした礼を頼むぜ、ムヒヒ」
 ヴァラスのその一言で、バランの動きが止まった。
 月斗と玄斗はあーあと言わんばかりに米神を抑えた。
 彼の本質を悟り知れるエリーシャとアレスならどういう事か分かる事だろう。
 そう、彼は騎士道バカなのだ。騎士道の一つにはこうある。
 礼儀を欠く相手に礼儀を尽くす道理はない!
「このバカ者がぁっ! 主が騎士道を語るなど10年早いわ! そも助けてくれたのは冒険者達であり主ではないっ! 驕りある者が騎士道などと口にするでないわっ!」
「あーあ‥‥だから俺は言うなって最初に言ったんだ」
「同感だ。お館様にその言葉は禁句だったな。後で覚悟しておいたほうがいい」
 月斗がそうぼやいていると、子爵の部屋から大きな物音が響くのだった。
「なんだ!?」
「バラン殿〜〜!助けにきましたぁぁぁぁぁっ!」
 部屋に入れば物干し竿が眼に入る。
 ソードボンバーで壊したような壁。近所のおばさまが必死になって物干し竿を取りかえそうとしている姿。
 予想外の出来事ばかりに子爵はあえなく領主の下へと引きずり出されるのだった。

●お裁き。
「謀反の沙汰を起こそうとした彼等はワシが責任もって指導する! それでよいか、領主殿!」
 バランの声に領主もうな垂れ、関わりたくもないので思わず首を縦に振る。
 彼に関わると不幸が訪れるというジンクスもあり、領主は子爵の人生半分を渡すしかなかったのである。
「た、大儀であった‥‥もう下がってよいぞ‥‥」
「はっ! では早速特訓じゃ! ほれ、鎧を重ね着ろ! マスクもつけろ! ウサギ飛びで街まで戻るのぢゃ!」
「元気な爺さんだねぇ。あたしもあれぐらい元気ならねぇ」
「元気じゃないか、パトリアンナだってさ。あのスープレックスなかなかだったぜ?」
「そうかい。そう言って貰えると嬉しいねぇ」
「うむ! 月斗と渡り合えるぐらいじゃて!」
「っと、そうそう‥‥年老いて益々盛んと聞き及び、わたしも僭越ながらそのようになりたく。老いに負けず尚強さを増す秘訣を聞きに参りました」
「秘訣とな? 其れはのぅ‥‥志と気合と根性じゃ! その三つがバランスよくあれば主もワシのようにぎっくり腰知らずじゃ!」

 ガハハと笑い飛ばすバラン。
 何かが疼いて仕方がないパトリアンナ。
 しかし、バランが今はその望みを叶えてくれるとは思えない。
 どうしたものかとやきもきしている時に、月斗がぽんっと肩を叩く。
「玄斗からお聞きした! 貴女の力、侮りがたいものだと!」
「そりゃ嬉しいねぇ。で、あたしに何の用だい?」
「‥‥この月斗‥‥貴殿にお相手願いたく思うッ!」
 願ってもない事は訪れるものだ。
 バランの弟子である月斗と手合わせが出来る。此れにはパトリアンナも承諾する。

 因みに訓練には当然ヴァラスも参加させられる事となった。
 騎士道バカに対し、礼儀を欠くとこうなるという事例である。
 そして、月斗とパトリアンナはというと‥‥。

「てやあぁぁぁっ!」
 投げ合い
「うおぉぉぉぉっ!」
 蹴り合い

 最後には優劣着かず二人とも夕日を見上げる事になるのだった。