●リプレイ本文
●現地にて
「今回もよろしくお願いします‥‥フロストウルフが相手となるとかなり厳しい戦いになるでしょう。私もサクラさんをこの身朽ち果てるまで護りましょう‥‥もちろん死ぬ気はありませんけど」
「そんなにも、手ごわい相手なの?」
「えぇ。私もこの手の厳しい戦闘は初めてではありませんが‥‥やっぱり恐いです。でも恐れを持つことは恥ずかしいことじゃないです‥‥力に溺れ、恐れることを忘れた者より長生きできますからね‥‥」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は苦笑いを浮かべてそう真実を告げる。
もしここで偽りを述べたとしても、実戦で実感する事になる。
その時、恐怖に心を支配されるか、されないかで大きく戦況は変わる。
有利に持っていきたいものだから、真実を告げる。
彼女に理解して欲しいからが大きいが。
「剣を振り、魔法をかかげて敵を倒すことだけが戦いではありませんよ」
「カイさん‥‥」
「貴女に求められているのは、能力を最大限に生かすように指揮をとる事。これは難しい事です。見誤れば仲間の命を失うことになりますからね」
「‥‥私の為に戦ってくれるこの子も‥‥殺してしまう‥‥」
「状況を把握し、大局を見極め、的確に指示を出すためにも、まずは自身の事をよく知ってください。できる事とできない事を把握してください」
「‥‥うん、頑張る。その為に私はこの仕事を受けたんだもん!」
カイ・ミスト(ea1911)の言葉に決意を固めるサクラ。
もしここで怖がるのであれば、止めさせようと思った。
まともな指揮がとれない状態で戦地に出るのは危険な事だから。
「‥‥恐れるな、サクラ。立ち向かう事もまた、冒険者なんだから」
「ジェンドさん‥‥」
「もし怖いのであれば、誰かの腕にしがみついてもいい。私でも、ニルナでも、誰でも構わない。‥‥其れでお前の気持ちが和らぐのであれば、受け止めてくれるさ。皆‥‥」
「ジェンドさんって、怖いもの‥‥ありますか?」
サクラが尋ねると、ジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)は苦笑いを浮かべた。
外見が外見な為、女海賊とも見られる彼女。冷静でいる事をサクラは不思議に思ったようだ。
「ある。幾らでも怖いものはある。その中の最大の敵は自分だ」
「自分‥‥?」
「怖さを感じる自分。逃げてしまいそうになる自分。そして、驕ってしまう自分」
「最大の敵は‥‥自分‥‥」
「自身の力に驕ってしまわないように、な? 心を強く持てば、大丈夫だ」
そんなアドバイスも彼女にとっては気休めだ。
其れでも、その言葉は少し緊張が解ける気もした。
「実際に戦うのは初めて? じゃあ、怖いよね。私も今でもやっぱり怖い。でも、それはきっと皆そう。怖くても、戦う理由が有るから、勇気を出して皆頑張ってるんだよ」
「戦う‥‥理由‥‥」
「私は、何故この世界に呼ばれたのか。それを知りたい。そして何時かは元の世界に帰りたい。だから、それまでは何としても生き抜いてみせる。傷付付いても、誰かを傷付ける事が有っても」
天野夏樹(eb4344)の言葉に無言になってしまうサクラ。
難しい事だらけだけれど、理解しようと必死なのだろう。
そして、決意というのは簡単なものではないという事が悟れる。
「サクラちゃんにも、カオスキャプターになって皆を助けるって目的が有るんだよね? なら、一緒に頑張ろう!」
「うん‥‥! 私に勇気をくれて、ありがとうねっ?」
「力持つ者は、その力を振るう事を躊躇ってはならぬ。特に、ぬしは魔物どもを従えて指揮を執る役目。必要なときに、決意を鈍らせておってはぬし自身の身に危険が及ぶのじゃ。此度の戦いで、それを学ばれるが良い‥‥恐らく教授とやらもそれを見込んでおるのじゃろう」
「エトピリカさんの言葉、何時も心に残ってる。だから‥‥私は貴女に一番に認めて貰いたいの。だから、頑張る!」
ぐっと握り拳を作るサクラを見て、エトピリカ・ゼッペロン(eb4454)は笑みを浮かべる。
しかし、其れも束の間だ。
そう、現地は寒い雪山。吹雪があれば視界は遮られていた事だろう。
「寒いのは苦手なのじゃ‥‥」
「こんなもの‥‥蒸し暑さに比べたら‥‥」
「しかし‥‥如何に逃げられずに弱らせるかが重要、と言う事ですね」
「‥‥大丈夫。俺達ならやれるよ。なんたって、俺は不可能を可能にする男なんだぞっ!」
「確かに、百戦百敗は不可能ですよね」
ニルナの一言に、リオン・ラーディナス(ea1458)はガクリとうな垂れるのである。
流石はフラレの男。シリアスの依頼でも弄られるサダメ。
●対等
奇襲されてはたまったものではない。ましてや強襲なんてもっての他。
その為にジェンドがブレスセンサーを詠唱し、備える。
「寒いですね‥‥本当に凍えそうです」
「防寒の道具がなければ耐えれませんでしたね」
「エトピリカ、此れを」
「うむ、かたじけない。お借り致す」
カイがエトピリカに弓を手渡す。
魔法の弓である為、有効と踏んだのだろう。
そうして、全ての準備が整いつつある中でジェンドがピクリと動いた。
「ジェンドさん、どう?」
「来た‥‥こっちへ来る‥‥! 布陣を‥‥!」
ジェンドが小声でそう言うと、前に出る為リオンとカイが構える。
その大いなる咆哮は、天まで轟くようなものだった。
「私は1人の少女の騎士としてここは死守します! 皆さんはフロストウルフを!」
「ミラー、少し手を貸せ。彼女が大事であるなら、此処で倒れさせるわけにはいかないだろう?」
「う? う、うんっ!!」
フロストウルフがカイとリオンを確認すると、大地を蹴って駆け抜けて来る。
速い‥‥その速さと勢いに、一瞬リオンが押されそうになる。
「リオンさん、頑張って! 私も、頑張るからー!」
「‥‥! 妹のように可愛い子に応援されちゃ、負けられないなっ!」
向かってくるフロストウルフの一撃を寸前で避ける。
転がった所を振り向いたフロストウルフが攻撃を仕掛けようとするが、カイの一撃により阻止される。
「獲物は一人だけではない! こっちにもいるぞ!」
グルルと唸り声をあげるフロストウルフ。ギロリとその目がサクラへと向けられる。
其れを確認すると、ニルナはサクラの手を握り詠唱を始める。
突進していくフロストウルフ。知能が低い為、皆敵と見なし後先考えず突っ込んでいく。
其れがつけいる隙にもなりうる。
その瞬間。ホーリーフィールドが展開されかの攻撃を回避する。
その後、ニルナはゆっくりとブリトヴェンを握りしめるのだ。
「私は逃げません! 彼女の騎士として、私は彼女を守りぬきます! このニルナ・ヒュッケバインを抜けるものなら抜いてみなさい!」
「ニルナさん‥‥!」
「大丈夫です。貴女は、私がお守りします!」
「さぁて‥‥ディーネ、トア。私達は援護攻撃へと入ろうか」
「まっかせて!」
トア・ル(ea1923)がウェザーコントロールで晴天を呼び起こす。
ディーネ・ノート(ea1542)とジェンドはそれぞれの魔法を詠唱開始する。
そして、その際にディーネはこんな言葉をサクラに残した。
「‥‥これ終わったら、何か食べに行きましょうね? 約束♪」
「はいっ!」
ディーネの笑顔につられて笑顔になるサクラ。
其れを見て安堵したのか、ディーネは詠唱へと集中する。
「わしが活路を開くのじゃ! 皆の者、頼むぞ!」
「っしゃ! 行くぜっ!」
アルカード・ガイスト(ea1135)にバーニングソードを付与して貰ったリオンが素早い一撃を叩きこむ。
「まだ!」
リオンが体勢を整えるまでの時間を稼ぐ為、カイの聖者の剣がフロストウルフの足に掠る。
これで、相手は追撃が出来ない。
其れを狙ってエトピリカが矢を放ち始める。
「ほれ、こっちじゃ、狼ッ!」
「来た‥‥! いくわよっ!」
エトピリカの方へと引き付けられたフロストウルフにディーネのウォーターボムが叩きつけられる。
グラリと体が揺れた。そして大きく口を開ける。そのウォーターボムに直撃しながら‥‥凍てつく吹雪の息を吐きつける。
「やばい‥‥! ブレスかっ!」
ウォーターボムにより散乱した水も氷となって地へと落ちる。
なんとか盾でサクラをガードしている夏樹も軽症の凍傷を受ける。
リオンやカイ達は何とか近くにあった障害物に隠れて無事を保つ。
「一気に弱める。隙をつくるぞ!」
「OK! 先に僕が行くよ!」
もう一度詠唱を始めるトアとジェンド。後方では切り札としてアルカードも詠唱を始めている。
「みんなも戦ってる‥‥私も戦わなきゃ‥‥」
カードを握り締めるサクラの手は震えていた。
そんな彼女に気付き、ニルナは笑顔でその手を握り締める。
貴女に傷つけさせはしない。貴女は私を守る。
そう、私は貴女の騎士なのだから。
そういわんばかりに。
「晴天確認! 位置も確認ッ! 標準おっけー! いっけえぇぇぇ!」
吹雪を吹き終えたフロストウルフにトアのサンレーザーが放たれる。
「威力は小さいが‥‥継続的に与えれば動きも止められるはず!」
息もつかせぬようにジェンドのウィンドスラッシュも放たれる。
二属性の魔法を直撃しても尚立ち上がるフロストウルフを見て、アルカードがようやく魔法を完成させた。
「行きます。皆さん、退いていてください!」
放たれるファイヤーボム。その威力はフロストウルフにとってはウィークポイントである為効果は絶大。
だがしかし、フロストウルフの戦意が消えたわけではない‥‥。
「今です、サクラさん! 彼女を!」
「はいっ! 闇の力を秘めし鍵よ‥‥真の姿を我の前に示せ! 契約の元‥‥サクラが命じる!レリーズ!」
詠唱を終え、サクラがステッキをカードに触れさせると、カードは一瞬にして姿を変えた。
其れは、この前封じたマリオネット。黒い霧となり、フロストウルフにとりまき始める。
「お願い! 頑張って、マリィ!」
「大丈夫じゃ。サクラの思いが強いならば、彼女は其れに応えてくれるはずじゃて」
「仲間とは、そういうものですから」
カイとエトピリカの言葉に静かに頷く。
そうしているうちに、黒い霧は少しずつフロストウルフの体内へと入り込んでいく。
数分後。フロストウルフは大人しくなりサクラへと歩み寄り座る。
後は、此れを封印するだけである。
「‥‥サクラ」
ジェンドがスッとサクラの手を握り締めた。
サクラは少し驚いて顔をあげた。
そして、彼女は言葉を紡ぐ。
「集中しろ。でなければお前が引きずり込まれるぞ。‥‥判っているな? 一瞬のチャンス、見逃すな」
「マリオネットも一緒に封印しちゃうとカードが一緒になって、変になっちゃうんだ! だから、マリオネットをカードに戻すと同時に封印しなきゃ‥‥!」
「危険な賭け、ですね‥‥」
「‥‥私、本当は少し‥‥怖い‥‥」
「やられてもいいのか? 此処でやられたら、一体誰がお前の代わりをする? 心を強く持て! 無茶いってるのは分かっている。しかし私はお前をここで終わらせたくはない‥‥助けたい、ただそれだけだ‥‥」
「ジェンドさん‥‥」
「私も一緒にお前の隣に立とう。ニルナも、皆も‥‥立っていてくれるはずだ」
ジェンドの言葉に静かに頷くサクラ。
ステッキを握り締めると大きく深呼吸する。
「戻って、マリオネット!」
サクラの声と同時に黒い霧がカードへと戻っていく。
其れと同時にフロストウルフも正気を取り戻し、牙を剥き始める。
心の中の恐怖に打ち勝つ事。其れが出来ればサクラはまた一段と成長するだろう。
「周りを良く見て! 貴方がそうやってる間にも皆、傷付いてる! 皆、自分の役割を果たす為に頑張ってるんだよ。だから、サクラちゃんも勇気を出して!」
「夏樹さん‥‥私、頑張る‥‥!」
「サクラ。‥‥やろう。今がチャンスだ」
「はいっ! 真理なす神の、行く行くを願いて! 我が掌中にその命委ねん!」
一瞬の勝負だった。
サクラに飛びかかろうとしていたフロストウルフだが、サクラの詠唱の方が勝ったのだ。
大きな光となり、フロストウルフはカードへと姿を変える。
逃げ腰になりかけているサクラをニルナが支えていた。
そして、怖さで泣きそうになるサクラの手を、ずっとジェンドは握り締めていた。
封印が終わればヘタリと地面に座り込む。
ようやく終わった。怖さから、ようやく開放されたのだ。
此れが‥‥この戦の結末となった。
●帰った後は
冒険者達はカードと一緒に目隠しをされて町へと戻った。
其処にはミハイルも出迎えに出てきていた。
「おぉ、戻ったか! して、無事に捕まえられたかの?」
「うん! みんなのお陰で、また捕まえたよ!」
「そうか、そうか‥‥サクラもたくましくなったんじゃのぅ」
「強い力はその扱う人によって良い方向に使えます‥‥でも悪い方向に向けることもできる‥‥覚えておいてくださいね」
ニルナがサクラの頭を撫でながらそう告げる。
サクラは嬉しそうに笑みを浮かべて頷くのだった。
そして、ニルナはもう一言告げるのである。
「ふふ、リオンは良い人です‥‥良い人過ぎるというか、でも女性としても信頼できる男性ですよ」
「ほ、ほえぇぇ!? そ、そんな目で私、リオンさんを見たりなんかしてないよぉっ!」
「サクラは俺の中では可愛い妹みたいな存在だから、そういうのはないっ」
きぱりと言ってのけるリオンだが、勿論説得力はない。
その間にミラーに頭に齧りつかれてたりとまた災難である。
「誰かを守るための覚悟、そのために自らが傷を負う覚悟‥‥それは、必要だと思うけど、サクラには絶対『死の覚悟』だけはしてほしくない。戦いながら死をイメージするのは、戦闘狂や戦争屋だけで十分だ。それ以外の人間は、第一に、生きる事を考えなきゃ」
「生きる事‥‥でも、こうして戦っている以上‥‥何かを傷つけている以上‥‥きっと同じなんだと思うから。人を傷つける事と‥‥」
「サクラ‥‥」
「でも、リオンさんの言う通りにしてみる。私、そういう考え方の方が好きだからっ!」
笑顔を向けるサクラに、リオンもまた笑み返すのだった。
「まったくぅ! リオンの奴は何時も何時もご主人様ばっかりー!」
「ふふっ‥‥アイツらしいとおもってしまった方が気が楽だぞ?」
「でも、僕が構って貰えないのは悔しいんだよ!」
ミラーの言葉に、ジェンドは小さく笑みを浮かべて彼の頭を優しく撫でた。
其れに意外を感じたのか、ミラーはすぐに真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
「ミラー。またキミと語り合いたいものだ。‥‥興味がある、ただそれだけだ。その時まで私の名を覚えておいてくれないか」
「‥‥‥‥ふ、ふんっ! 仕方ないなっ! ご主人様以外の人の名前を覚えたくはないんだけどっ! 覚えててあげるよっ!」
「さってとー‥‥サクラちゃん、美味しいもの食べにいきましょ! お腹すいてるでしょ?」
「あら、ディー猫が行くのでしたら私も同席します」
「なんだったら、みんなで行かない? 成功のお祝いにっ♪」
「わぁ! 私はさんせーっ♪」
賑やかに皆が話している中。夏樹だけがミハイルと話をしていた。
「私もカオスが何なのかを知りたい。また次の機会にカオスに付いて今分ってる事を教えて貰えたら嬉しいです」
「ふむ。すまんのぅ‥‥直に返答は出来ぬ。此れもまたわしの秘密研究じゃからな。もう少しお前さんを信用出来る頃になれば教えれるはずじゃ」
「そうですか。では、其れを楽しみにしてまた来ます!」
「うむ、元気のよい女子は歓迎なのじゃ」
笑顔でそう告げるミハイルに夏樹も上機嫌で仲間達に合流する。
「ジェンドさんとニルナさんの手‥‥暖かくてとても安心したの。ありがとう」
「お礼を言われるような事ではありませんよ?」
「‥‥だな」
「よければ、姉さんって呼んでもいいかな‥‥? 私、お姉さんとかいなくて‥‥その‥‥」
サクラの問いに、二人は顔を見合わせて頷いた。
彼女はこの世界に呼ばれ、一人なのだ。
だから、義理でもいい。誰かが傍についていてあげなくてはいけない。
彼女が寂しくないように。
彼女が挫けないように。
「大丈夫だ。ここにいる皆、サクラの仲間であり友であるのだから」
「しかし、私が姉‥‥か。何か、遂にって感じがするな‥‥」
「まぁ、姐御みたいに見えますし、仕方ないですよ」
「誰が姐御かっ、誰がっ!」
ジェンドの声に、冒険者達はクスクスと笑みを浮かべ。
最後には大きな笑い声として木霊していた。
「サクラは立派に成長しておるようじゃの」
「うん。統夜の方も順調だって」
「統夜もワシの指示から離れる事を決意したみたいじゃしの。サクラにもそうして貰うかの」
「これからはターゲットは自分達で決めるって事?」
「そうじゃ。冒険者達に頼んでおけば、其れなりのカオスと魔獣を捕縛出来るじゃろうて。ワシがあまり動き過ぎるとバレてしまうのぢゃ」
「好奇心の塊なじーちゃんだからね! 自業自得じゃないかな!?」
ミラーの言葉に、ミハイルは少し機嫌を悪くしていた。
事実だからこそ言い返せない。
だからこそムカッとするのである。
「まぁ、そのうち共同で捕縛という事もあるじゃろうてな」
「ミハイルじーちゃん、ゴウトが聞いたら絶対怒るよー‥‥?」
「なんじゃ、アイツはまだワシを恨んでおるのか」
「猫じゃらしの件でね」
ミラーがそう言うと、ミハイルも苦笑を浮かべるしかなかった。
何せ、ミラーとゴウトは動機不十分の状態で強制的に仲間にされたのだ。
ゴウトは猫じゃらしに屈服。そしてミラーは‥‥。
「折角可愛いご主人様がいるっていうのに、此れじゃあなぁー!」
「怒るでないわっ! ワシとて可愛い娘がとられた気分なんじゃぞっ!?」
「ミハイルじーちゃんと一緒にしないでほしーなー!?」
「はいはい‥‥ミラーも来るか? 私が奢るぞ?」
「行くッ!」
ジェンドの『奢る』という言葉に釣られたミラー。
こうしてミハイルただ一人だけが取り残されるのであった。
こうしてまた彼女も成長していく。
大事な仲間を得て。大事な友を得て。
戦術というものは計り知れないもの。
一言では語りつくせないもの。
彼女は、此れから先其れを身につけなければならない。
そうする事が、彼女の使命でもあるのだから。
カオスとの戦い。魔獣との戦い。
そして、自分自身との戦い。
次から戦う相手は自分達で決めなくてはならない。
ある意味此れが、巣立ちの時と言えよう。
彼女と彼は何れ同じ戦地に立つだろう。
其れは遠い未来の事ではないかも知れない。
冒険者達が其れを望めば‥‥実現されるだろう。
「あ! 私おかわりっ!」
「ディーネさん‥‥凄い‥‥」
「仕方ない。此れがディー猫だから」
「ディー猫?」
「私の可愛い猫さんなんですよ♪」
「私は飼われてないッ! もー、こうなったらヤケ食いするんだから!」
「‥‥ディーネ、荒れてるな‥‥」
「この酒場の食料庫が心配ぢゃのう‥‥」
「支払いも多分、大変だと思う‥‥」
「教授にツケるぞ」
ジェンドの酷い提案に、仲間一同頷く事しか出来なかった。
酒場では数十枚の空き皿がテーブルを支配し、酒場のウェイトレス達は後の食料に困っただとか、そうでなかっただとか‥‥。