●リプレイ本文
●現地にて準備
「さて、遂にこれからが本番か。初っ端がグリフォンだとは、統夜の奴も大変だろうが‥‥逆を言えば、ここで躓く様じゃ先は望めない訳だからな。しっかりサポートしてやんねぇと」
「グリフォン‥‥あいつを弱らせるとなるとかなりの根気が必要となるか」
「大丈夫なのじゃ。作戦はきっちり統夜に決めて貰うのじゃ」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)がそう促す。
今回の話し合いで、冒険者一同は統夜が早く自立出切るにとサポートをするという結論に至った。
其れは、作戦を練る事も含まれている。
「統夜さん、あなたならどうします?」
「‥‥ふむ」
「グリフォンは馬を好む猛獣です。一度油断すれば俺達は返り討ちです」
「‥‥統夜」
「俺の初期手札は決まったな。狼と雪ダルマを出す」
「其れでいいんだな?」
「‥‥例えこの采配が間違っていようとも、其処は気力でカバー‥‥だろ?」
統夜が小さく笑って見せると、シン・ウィンドフェザー(ea1819)も不敵な笑みを浮かべる。
「いーかー? 如何にお前にしか吸引できないからと言って、そのまま丸投げしたりはすんなよ? まず自分が従えている魔物の特性を良く理解して、思う存分暴れられる様俺達がフォローしてやるから頑張れな」
「心得た」
「身の危険を感じたら俺に言ってくれ。傷ぐらいはポーション類で何とかなるだろう」
「すまない。恩にきる」
「仲間なんだから恩とかそう言うのは関係ねーよ」
シンの言葉に、安堵を感じたのか。
シン、ランディ・マクファーレン(ea1702)、統夜の三人は拳を軽く一度だけぶつけた。
仲間であるが故の生き残るという誓いにも似たもの。
「作戦は此れの通りでいいんですね?」
「あぁ、問題ない」
「統夜さん。‥‥あまり緊張なさらないほうがいいですよ。しくじったりした時、大変ですから。気持ちが」
イェーガー・ラタイン(ea6382)がそう告げる。
統夜も怖くないわけではない。緊張していないわけがない。
此れが最初の実戦だ。上手く指示が出せるかどうかも分からない。
全てを制御しなくてはいけない。全ての言葉に責任を持たねばならないのだから。
「‥‥まあ、確かにこれまでと違ってグリフォンではむき出しの恐怖を感じるだろうね。でもそれが普通だと思うよ俺だって死ぬのは怖いもの」
「‥‥」
「死ぬのは怖い。だが、生きなければいけないんだ。俺達は、命を簡単に投げ出してはいけないんだから」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)が笑顔でそう告げると、統夜の気分も少しは落ち着くだろう。
自分だけではないのだ。恐怖を感じているのも。
死ぬのが怖いと思っているのも。
だが、サマナーであるが為、恐怖を捨てなくては。
全ては大胆不敵であるべし。と、教授も何時かそう語っていたから。
「統夜‥‥」
「判っている。俺は、踏みとどまる理由を何時か見つけてみせる。その為には‥‥生きる」
「その答えを聞いて安心した。さぁ、行こうか‥‥!」
「あぁ」
龍堂光太(eb4257)と統夜。この二人にも繋がる部分はある事だろう。
だが今は、戦うのみ。それぞれの心を一つにすべき時。
「統夜さんはこっちでの好物とかできました?」
「好物‥‥? そうだな‥‥色々と出来たかも知れないな。山鳥のシチューとか、そういったものだ。何故其れを?」
「いえいえ♪ お気になさらないでくださいませ」
そう言うと、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)は馬へとまたがる。
そして大きく深呼吸を一つ。彼女がこの作戦の全ての要とも言えよう。
「‥‥本当に彼女だけを囮にしていいのだろうか‥‥」
「気にするな、統夜。ゴーレムがもう一つの囮になるらしい」
「其れでも俺は‥‥サマナーとして前に立つ。用意してくれ、ゴウト」
統夜の言葉には決意が感じ取れた。
ゴウトもまた決意を新たにし、主である彼に従うのだった。
彼がこうして決意や覚悟を出来たのは全て冒険者のお陰といっても過言ではない。
彼等がいなければ、ここに至るまでに統夜は挫折していたであろうから‥‥。
●始まりの音
バサリ バサリ
大きく羽ばたく音が遠くから聞こえて来る。
其れは目的の魔物の翼の音。大きく開いた地であれど‥‥下手をすれば‥‥。
其れでも彼女は行くだろう。其れが彼女の役目であれば。
「この子は私の我侭で危険に晒しているのですもの、守りきらなくては‥‥」
「‥‥生きる事を考えて、死なないように‥‥」
「でも仲間になら、背中も命も預けられますわ!」
セラフィマの言葉は統夜にも言える事。
だからその言葉を聞いて統夜も管を二本。スチャリと構える。
何時でも彼等を呼び出せるようにと。
小さく詠唱を唱えながら‥‥。
「来たのじゃ! 皆、警戒するのじゃ!」
ユラヴィカがテレスコープでグリフォンの接近を告げたと同時に、統夜がディアッカ・ディアボロス(ea5597)に一言告げる。
「馬の臭いをつけた布を用意しているのなら貸してくれ。俺が召喚し、布を乗せたと同時に魔法を」
「しかし‥‥ゴーレムがあるのですから其れを使えば‥‥」
「俊敏な動きが出来るこいつの方が、囮としては使えるだろう?」
不敵な笑みを浮かべ、管を指す統夜。彼を信じてディアッカはゆっくりと頷くのだった。
統夜の作戦。其れは、ゴーレムは真打として出るべし。そうすれば持久戦にも持ちこめる。
「行くぞ、ディアッカ!」
「はい、任されました!」
「小さき者、弱き者、死に急ぐ者。身を守る術を思い出せ‥‥」
「統夜さん、早く!」
「震えろ、命つなぎ止める光‥‥! 力の塔となれ! 来いッ!」
統夜はそう声をあげると、管をグリフォンが着地する一歩前の所へと向ける。管は勢いよく開かれ、中から銀毛の狼が現れる。
「どんな命にも我、従う事を契約としたり‥‥!」
「後は頼む、ディアッカ!」
そして、素早く臭いがつけられた布を彼の背へと置く。
そうしたのを見てディアッカがファンタズムを完成させる。此れで、グリフォンには狼はエサである馬と見えるだろう。
「私達も行きますわよ! 彼だけに負担はかけさせてはダメ!」
「あまり無茶をなさらないでくださいね!?」
「心得ておりますわ。されど、今は彼を守る事こそが使命。この騎士の名に賭けて、守り貫きますわ!」
セラフィマもそう声をあげると同時に馬で駆け始めた。
一匹の馬と一匹の狼。開けた土地を駆け抜ける風となる。主の為、この命危険に晒されようとも、止まる事なく。
エサが二匹。グリフォンにとってはとても喜ばしい事。何故なら馬が好物なのだから。
「死を恐れ、死をもたらすものに恐怖する。それをどうにかしたいと思うなら‥‥生き残りたいともうことだよ。死の恐怖と相対して生き残りたいと思うのが生き残れるためになりよりも必要なんだから」
グリフォンに乗りながらアシュレーがそう告げる。
時には恐ろしい。されど、其れは生きたいという糧となる。だから信じろ。生きたいと願え。
人にはそう願う事を赦されている。
「もし、危なくなったら何時でも言ってくれよ? 俺達が全力でお前を守る」
「‥‥すまない。しかし、背を借りてばかりでは俺らしくない」
「バカ。戦闘経験がない間は行為に甘えろ」
そう言うと、アシュレーは軽く統夜の背を小突く。
安心して背を預けて戦う事が出来れば、其れが一人前の証である。
冒険者とは、信頼し合える仲間を持つ事。どんな事があれど、一度仲間になれば信頼するしか他はない。
信頼が出来なくなった時、その絆は脆くも崩れ去るのだから。
例えそれが、弱肉強食の世界であれど。
「アーティファクトの持ち主であるなら堂々としろ。‥‥フォローは絶対にしてやる」
「‥‥そうだな、すまない。では、俺の背、預ける」
「任されて!」
「‥‥生きる為には、力を捻じ伏せろ‥‥か。喰奴の考えっていうのが困った所だ」
「うん? 何かいったか?」
「いや、気にしないでくれ‥‥行くぞ、ゴウト。指示を出すにしてもここからでは遠い」
「承知」
ゴウトの返事を聴くと同時に、統夜は駆け出した。銀毛の狼、自分の仲間の所へと。
「‥‥背負いすぎてるのか? それとも、追いつきたくて焦ってるのか?」
彼の背を眺めながらアシュレーは言葉を紡ぐ。
「焦りは禁物だ。特に戦場では‥‥。ルーシェ‥‥俺は絶対にキミを残しては死なない‥‥」
思い馳せるは大切な人の事。
だが、今はその時ではない。そう考えて、自分も急いで配置へとつくのだった。
同じように嘶くペットのグリフォンを連れて。
●空中より地上へ
「来るぞ! 光太、ゴーレムを前面にッ!」
グリフォンは大きな嘶きと共に、目の前を駆け抜けるエサ二匹に目標を定める。
その間に光太はゴーレムを用意。全ては念勝負。
ゴーレムの攻撃は一撃必殺。よく狙うしかない。
統夜は少し速度を緩めた狼の背に乗り、翻弄を続けていた。
彼が前に出るという事は指示が出しやすいから。
そして何より、タイミングを掴みやすい。
「飛ぶものを殴れ!」
光太の強い念がゴーレムに届いたのか。ゴーレムの硬くも大きな腕は、グリフォンの翼を軽く傷つける。
統夜のライバルでありたいと願う心。良き友でありたいと願う心。
その心が念となりゴーレムに通じたのかも知れない。
グリフォンは痛々しい声をあげながら、地上へと着地する。
空中では不利。だが、地上に降りれば此方のものとなる。
「地上に降りたのぢゃ! 一斉攻撃に入るのぢゃ!」
ユラヴィカがサンレーザーの詠唱を開始する。
其れと同時に待ってましたとシンとランディが前面に出る。
「リーチを稼ぐってのも大変だな。地上に降りたとしてもまた何時飛ぶか分かりゃしねぇ」
ワンハンドハルヴァートでグリフォンにダメージを蓄積させていくシン。
「ならば、飛行能力をなくせばいいだけの事!」
オーラシールドを展開し、防御しながら目標の側面を捕らえるランディ。
其れを援護する形でサンレーザーが降り注がれる。
「上空からは俺に任せて貰えると嬉しいね!」
上空からはペットのグリフォンに乗り、弓にてその翼を射止めんとするアシュレー。
「統夜さんには一歩も近づけさせませんから!」
イェーガーが攻撃されながらもカウンターでダメージを蓄積させていく。
全ては連携が取れていた。しかし、野生というものは恐ろしいものだ。
怒れば全てにおいて見境なく攻撃を仕掛ける。
「相手の前を飛べるか!?」
「統夜、一体何を‥‥!」
「決まっている‥‥目を此方に逸らせる!」
これ以上セラフィマを危険に合わせる事も出来ない。
怒り狂うグリフォンの攻撃は全力で来るだろうから。
飛行能力をなくそうと頑張っている者達の為に。
今一度自分が囮へと‥‥。
グリフォンの目の前を狼は華麗に飛んだ。
臭いもあり、幻影の事もある。其れを見たグリフォンはすぐさま其方へと視界を奪われる。
「統夜!」
「俺の事はいい! 早く翼を‥‥!」
「‥‥サマナー殿は成長しているようだな、シン」
「あぁ。あれだけやれりゃ何とかなるかもな」
「‥‥行くか。サマナー殿がそう指示しておられる」
「其れに応えてやろうじゃねぇか!」
今にも走り出さんとするグリフォンめがけて、シンとランディ。二人は一気に翼を目掛けて走りだす。
「ディアッカ、やれるかの?」
「えぇ、何とかしてみます」
シャドウバインディングの詠唱を完成させれば、グリフォンはその場に留まる事になる。
動けなくなる為、狙い撃ちも可能。‥‥その思惑は成功。彼はもう飛びたてない。効果が残っている間は。
「今の間に翼を破壊してください! 何度もかけなおしてみますが、限界があります!」
「大丈夫です。火力ならありますから」
シルバー・ストーム(ea3651)が姿を見せると、不意打ちと言わんばかりにライトニングサンダーボルトを翼へと打ち込む。
『っらあぁぁぁぁぁぁぁ!』
其れと同時に、シンとランディが最後の痛恨の一撃を翼へと叩きこむ。
グリフォンはバランスを崩し、よれよれとふらつく。
此れがラストチャンスだ。
●一瞬の勝負
「おい、今だ! 最後の一手を!」
「バランスを崩している今がチャンスです! 此れを逃せば、倒してしまう事になりかねません!」
ディアッカの声が聞こえると、ディアドラ・シュウェリーン(eb3536)がザッとグリフォンの前に立った。
此れが最後。彼女が最後の一手。アイスコフィンで固めてしまえば、後は吸引するだけ‥‥。
「恐怖に打ち勝つには、自信をもつことよ。経験を積んでいって、偉大なサマナーになってね、統夜さん」
「‥‥」
「あなたならきっとできる、信じてるわ」
そう統夜へと告げると、グリフォンへと集中する。全てがこの一手にかかっている。
自分がミスをすれば‥‥もう後がない。そんなプレッシャーが彼女を支配しつつあった。
「‥‥来い!」
「ヒホー☆呼ばれたんだホ? 頑張るんだホー☆でっ、統夜に従えばいいんだホ?」
「グリフォンの動きを封じる。その為に我が剣となれ」
「ヒーホー☆任せるんだホ! やるんだホ!」
「統夜!」
「元よりこいつは出すつもりだった。二人でやればいい。その分、失敗する確立は大幅に減る」
統夜の言葉は彼女の心を奪う事になるのだろうか? それとも‥‥。
「一人では勝てないプレッシャーでも、二人なら大丈夫。俺はそう信じる。行け!」
「凍らせるんだホ〜☆」
吹雪の音。其れと同時に雪ダルマ君の周りには凍てつく空気が流れ出す。
同時にディアドラも高速詠唱でアイスコフィンの詠唱を終わらせ、発動させる。
グリフォンの足は凍りつき、更にはその吹雪で体力を奪われる。
作戦の勝利と言える戦いだった。
●吸引
「我が名において命ずる‥‥全ての魔、全ての生命‥‥全て我に捧げ仕えよ‥‥汝は我がつるぎ。我が盾なり‥‥吸引ッ!」
グリフォンが光となり管へと吸い込まれていく。
弱ったグリフォンは、意外にも大人しいものだった。
逆らえば斬られる。その恐怖を感じとっていたのだろう。
「やれやれ‥‥案外楽だったな」
「此れも作戦の賜物だ。よくやってくれた」
ゴウトが統夜の代わりに謝礼を述べる。
統夜は捕獲出来たグリフォンを一度召喚し、アシュレーのグリフォンに挨拶をさせていた。
同属同士なら、暴れる事もないだろうと。
「しかし、なんでまたグリフォンなんだ?」
「飛行能力があった方が便利だろうて? それだけではない、戦力にもなりうるのだからな」
「確かに、此れからの戦いによっては便利だとは思います。扱いが難しいとは思いますが」
「そうだな。特に統夜は王都には暫く近づけないだろうな。冒険者の騒動が一段落するまでは」
そう、統夜は問題になっている魔獣を操る者なのだ。
手にした管には多くの魔獣が眠っている。
もしその事がバレれば、王都だけではない。何処の街にもいられない。
厳重な監視の下に置かれてしまうだろう。
「ゴウトは何であの爺さんの仲間になったんだ?」
「あ、其れは私も気になっていましたの。答えてくださる?」
シンとセラフィマが尋ねると、ゴウトは顔を逸らした。
そして、其処にぼそりと統夜の一言が入った。
「猫じゃらしなるものを九本目の前でぱたぱたされればそうなるよな‥‥」
「うっ、煩い! 余計な事を言うな、統夜!」
「猫じゃらしぃ? そんなものに屈して仲間になったわけか」
「くっ、屈したわけではないっ! ただ、しつこかったので‥‥!」
「はいはい、猫の習性ですもの。仕方ありませんわよねぇ?」
セラフィマのトドメの一言に、ゴウトは撃沈するのだった。
猫じゃらしに負けて仲間になったなど、彼にとっては汚点にしか過ぎないのである。
其れを暴露されてしまった今、彼は強気には出られない。
「にしてもおめでとうっ! 流石統夜さんねっ!」
勢いあまってディアドラが統夜の頬へとキスをする。
其れに少し動揺を見せる統夜。よく意味が分かっていないらしい。
鈍感なのか、本気で判らないのかは謎である。
「ディアドラ、怪我はないか?」
「えぇ、一緒にやってくれたから私は平気よ。統夜さんは?」
「俺も問題はない。‥‥次からはもう少し協力しようか‥‥」
「あら。今回でも十分協力してくれたじゃない。カッコよかったわよ、統夜さん?」
ディアドラの言葉に少し安堵感を覚える統夜。
彼女が自分に好意を寄せていると知った時、どういう反応をするだろうか。
「まぁ、怪我がなくて何よりだった。無茶をさせてしまったならすまない」
「もう! さっきから謝ってばっかりじゃない。大丈夫よ」
そんな若い二人を余所目に、他の冒険者達は一段落出来たという安心感からその場に少し座り込んでいた。
無理もない。グリフォンと対等した事、其れだけでも疲れるものだと言うのに。
「‥‥カオスの魔物狩人は、果たして女の心を射止めるやら、はたまた女に心を射止められるやら‥‥だな」
「年寄りくさいぞ、ランディ」
シンのツッコミに思わず無言になってしまうランディ。
其れもそのはず。彼はまだ歳18。年寄り臭い事このうえないからだ。
「‥‥‥‥」
「年齢と言動が合いませんわ。少しはらしくなさらないと」
「‥‥いや、すまない‥‥」
セラフィマの言葉につい謝ってしまった。
何故謝ってしまったのかも、本人は分からないと答えるだろう。
そして、セラフィマは二人を見て微笑むのだった。とても楽しそうに。
「でも、乙女として恋路は暖かく見守るのには賛成ですわ♪ 楽しみですわ、この先が♪」
セラフィマがそう言うと、ゴウトはむすっとしたままこう告げる。
「但し、あまり女に現をぬかしているのは困るがな」
「あらっ! ロマンも何もありませんのね、この猫さんはっ?」
「真実を述べただけだ」
「まぁ、少しは乙女について理解させてあげますわっ!」
かくして、猫vs乙女の構図が出来上がってしまったのは言うまでもない。
その前に猫に乙女というものが理解出来るのかが謎ではあるものの、弱点は既に知られている為、ゴウトも強気には出られないだろう。
「光太」
「これからはライバルだね」
「‥‥あぁ。お前となら良きライバルになれると信じている」
「僕もだよ。キミといいライバルでいられるよう努力する」
そう告げる光太に、少し笑みを浮かべる統夜。
そのやんわりとした笑みは他の誰にも見せた事のないもの。
初めて心を開いたという証。
「次会う時もまた背を預ける」
「その時はまた応えるよ。シンさん達みたいにね」
「‥‥友である事、嬉しく思う」
「俺もだよ」
「‥‥踏み止まれる理由が‥‥」
「ん?」
「踏み止まれる理由が。今、見つかった気がした。ただそれだけだ」
そう告げると、統夜は踵を返して歩き出す。
怒っているゴウトを宥めながら、召喚した魔物達を管へと戻すのだった。
「キミがそう思うなら、僕は何時でも応えるよ‥‥仲間として‥‥ライバルとして‥‥友として。キミが踏み止まる為の鎖になれるのなら‥‥」
光太は少し喜んでいたのかも知れない。
こうして大事な仲間がまた一人出来た事。
大事な親友とライバルが出来た事。
ゴーレムを一度撫でて、微笑むのだった‥‥。
「ゴウト」
「ん? どうした?」
「ミハイルの爺さんにもう指示を扇がなくていいな?」
「その自信があるのなら好きに捕まえるといい。其れがお前に課された使命だからな」
「では‥‥今度から少しばかり方法を変えようか」
勿論、今まで通り目隠しで送り迎えはする事になる。
しかし、今まで通りターゲット指定はミハイルに頼まず、冒険者達に頼むという事。
其れは、共に戦いたいと願ったからだろうか。それとも‥‥?
友情と信頼を得る事が出来た貴重な一戦。
グリフォンという強敵に策を持って打ち負かした彼等。
これから先は、サポートではない。協力して立ち向かうのだ。
しかし、其れは彼等冒険者が望めばである。
望むならば、立ち向かう事も可能。
対等するという事も可能だ。
凶悪とも言われているカオスという存在に。
魔獣と言われる恐ろしい存在に。
統夜自身は此れからも彼はサマナーとしての茨の道を歩む事になる。
カオスとの戦い。其れはまだ始まったばかりなのだから。
此れから紡がれる物語は全て。
冒険者達の腕に委ねられる。
何と対等したいのか。何と戦いたいのか。
もう此れはミハイルの手から離れた物語だという事だ‥‥。