男爵のペット奮闘記
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:12人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2006年09月06日
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●オープニング
「其れじゃそれぞれ準備を始めようか。ルーシェ、例の件は全てお前に任せる。ユアン、お前はアカデミー関係だ。俺がファーム関係をとり纏める」
そう言って軍師が出て行った後。小さな少年ユアンは小さく溜息をつくのだった。
彼には今とても憧れているものがある。そう、ペットだ。特にわんこ。
「アカデミー関連をやれと言われましたが‥‥ルーシェさん、僕には興味あるものがあるんです。其れがとても欲しくて‥‥」
「あら、何ですの?」
「ペットです。ちっちゃくて、可愛い。犬がいいです」
目を輝かせそう語るユアンに、ルーシェは小さく笑った。
そして、ハッとするのだ。彼に渡してくれと言われていたものがある事を忘れていたから。
「そう言えばユアン様? ルキナス様よりプレゼントを預かっていますのよ」
「プレゼント、ですか?」
「はい、そうです。此れが其方ですわ」
ルーシェが出したのは一つの小さな箱。何かコトコト動いている。
そんな箱を、ユアンは首を傾げて眺めていた。
「こ、此れ‥‥開けていいんですか?」
「はい、勿論ですわ」
にこりと微笑むルーシェ。彼女を気にしながら、ユアンは丁寧にその箱をあけていく。
「わんっ♪」
聞こえた声に、ユアンは呆然としていた。
箱の中にあったのは小さな檻。その檻の中には小さなこの世界では見た事のない犬がいた。
クリクリとしていてうるうるとした大きな目。ぴーんと伸びた小さなお耳。
何よりもその小ささは、ユアンの心を射止めるのに十分過ぎるものだった。
「かっ‥‥可愛い‥‥っ! こ、これっ! なんて犬なんですか!?」
「ふふ‥‥その犬は、現在は世界に一匹しかいない。掌に乗る小さな大人の犬なんですって。とある天界人様より譲って頂いたそうですわ」
「そっ、そんな大事なものを僕に!? ‥‥大切に育てます。まずは名前ですよね‥‥。そうだ、レセリアにしますっ!」
「レセリア‥‥可愛いお名前ですわ」
「でも‥‥」
喜んだ顔がすぐに暗くなる。
「僕は、犬の正しい飼い方なんて分かりません‥‥」
「では、冒険者のお方に教えて頂いたらどうです? 冒険者のお方は犬好きが多いという噂。犬の事なら教えて貰えるのでは?」
ルーシェがそう提案すると、ユアンはちょっぴり泣きそうになりながら頷くのだった。
わずか8歳の男の子。その子の掌には可愛い可愛い小さな犬。
小さな男爵と小さなわんこの奮闘記は此処から始まるのだった―‥‥。
●リプレイ本文
●わんこにご対面
「わざわざ来てくださってありがとうございます、皆様方」
フォルセの屋敷の一角に入ると、執事が深々とお辞儀をする。
冒険者達も同じように礼をする。
「ユアン様はこの奥にございます。ちゃんと冒険者様方に言われた通りにしておいでです」
「そっか。抱っこさせるってわけだね? なら大丈夫だ。ほら、アンタ達行くよ?」
青海いさな(eb4604)がそう言うと、彼女のペットである柴犬二匹はくぅんと鳴いた。
奥の部屋へ入ると、ユアンが小さな子犬を腕に抱いて立っていた。
ユアンは冒険者達を見ると、ぺこりと頭を下げた。
「ご依頼させて頂いたユアンと申します。今日はよろしくお願いします」
「はじめまし‥‥」
挨拶しようとするいさな。しかしユアンの腕の中にいるちっこいわんこと目があってしまった。
うるうるした目。くぅんと鳴きながら見つめている。数分間の沈黙の後。
「‥‥やばい、かわいい‥‥どうしよう、このちっこいの!」
「おーい、いさなー‥‥犬にしてやられてどーすんのよ‥‥」
いさなの言葉に溜息をつくフォーリィ・クライト(eb0754)。
流石ちまっこわんこ。見つめるという行動の破壊力は抜群である。
「初めましてになるな、俺は陸奥勇人だ。よろしく頼むぜ」
「はい、此方こそお願いします」
「それにしても、そんなに犬が飼いたいとは何か理由があったのか?」
陸奥勇人(ea3329)が疑問に思ったので尋ねると、ユアンは少し俯いてしまった。
「僕‥‥皆さんみたいに自由に外に出られないんです‥‥其れで、友達と呼べる人も少なくて‥‥」
「体が悪いのかい?」
「生まれつきなんです‥‥お医者様からも匙を投げられて‥‥。でも、こういう小さなわんこがいれば、僕も元気になれるかも知れないって‥‥お友達も出来るかも知れないって‥‥」
ユアンは定期的に薬を飲まなければいけない体。
だからこそ、小さな友達を欲しがったのだと言う。
「まぁレセリアを飼う以上、ユアンは親も同然。きっちり面倒見るのは言うまでもなく判ってるだろうが‥‥とは言えそっちに付きっきりで、ルキナスに任された仕事を疎かにするんじゃ本末転倒だ。その辺りはきっちり割り切らねぇとな」
そう言うと、勇人はユアンにレセリアを地面に降ろす事を指示する。
ユアンは其れにしたがってレセリアを地面へと降ろす。
しかし‥‥
「こ、こらっ‥‥! レセリアっ‥‥!」
「‥‥怯えちゃってるみたいですね」
「飼い主以外の人がぞろぞろいるからかしら?」
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)はそう言うと、レセリアを優しく撫でた。
レセリアは小さく震えながらも大人しくなでられている。此れはほぼ典型的な臆病わんこだ。
そして、遂には‥‥
「わふっ! わんっ! わうっ!」
「レ、レセリア‥‥?」
「神経質な子なんだね。慣れない人がいる事で敵意を持ってると思われてるんだ。こういう時は、もう吼えなくていいよって教えなくちゃ」
テュール・ヘインツ(ea1683)が優しくそう教えると、ユアンはおどおどしながら小さく頷いた。
そして、優しくレセリアを抱き上げ
「レセリア、大丈夫ですよ。この人達はレセリアのお友達になりに来てくれたんですよ‥‥?」
と、優しく諭すように言うとレセリアは少しずつ吼えなくなる始めた。
どうやら、ユアンの事を飼い主として認識はしているようである。
「なぁるほどね。それじゃ私達の犬は全員後ろ向きに座らせるよ」
「どうするんですか?」
「レセリアに匂いを嗅がせるのさ。敵意がないっていう事を教える為にね」
そういうと、いさなが冒険者達の犬をそれぞれ背を向けて座らせる。
アッシュ・クライン(ea3102)のボルゾイは子犬である為、抱き抱えさせている。
「ほら、後はレセリアに匂いを嗅がせてやりな。そうすれば少しは怯えもなくなると思うよ」
いさながそう言うと、ユアンは再度レセリアを地へと降ろす。
レセリアはちょこちょこ、とことこと彼等の犬へと寄り匂いを嗅いでいる。
「さて、その間に色々と教えておこうか。お手お座りや、自分が呼んだらすぐに駆け寄ってくるようにし、きたらちゃんと褒めてやる。此れは大事だからな。この他の行動もきちんと出来たら褒める。出来なければしかる等をしないとな」
「なるほど‥‥犬って、凄い賢い子なんですね」
「後、躾ける時には、別々の言葉で躾けるのではなく言葉を決めて躾けると、犬さんも混乱しないで従ってくれますよ?」
倉城響(ea1466)がころころと笑ってそう言う。そして更に言葉を続けた。
「そのときの気分で誉めたり叱ったりせず、やって良い事と悪い事をはっきりと決めて、叱ったり褒めたりする事。此れは、わんこが混乱しない為です。其れから、道に生えている草の中には毒があるものが多いので、散歩の途中等に草を食べたりしない様気をつけてくださいね?」
「散歩の時も、躾の時も‥‥わんこがストレスを感じるかどうかは飼い主次第なんですね‥‥」
「なんにでも言える事ですが、こういう事は焦らず時間をかけてしていくと、上手くいくと思いますよ♪」
響の励ましの言葉は、ユアンの心に届いたことだろう。少し笑って頷くのだった。
「まぁ、教えなきゃいけない事は多いわよ? 食べさせてはいけない物を知っておく。此れは犬が長生きするかどうかの境目よ」
「そう、なんですか?」
「そうなんです。犬は雑食と言っていいので比較的なんでも食べますが‥‥人間の食事と同じものにしようとすることはやめて下さいね。人の味付けは犬には濃い過ぎるのです。犬は人間ではない。当り前のことですが、大事な事ですから」
イシュカ・エアシールド(eb3839)がそう言うと、ユアンは忘れないように書き記して頷く。
「絶対に駄目なのは玉葱。煮ても焼いてもいけません。玉葱中毒と言って貧血や血尿を起こして死に至ることすらあります。にんにく、ジャパンや天界にあるという「ねぎ」という植物も玉葱の仲間だそうなので絶対にいけません。それと天界にあるという「ちよこれいと」という食べ物も玉葱と同じく中毒になるそうですのでダメですよ」
「玉葱‥‥では、ルキナスさんにも言わないと‥‥。彼の農園に入って食べちゃったら大変です‥‥」
「牛乳も犬によってはお腹を壊します。牛乳は牛の乳で、牛は草食動物。犬とはまるで違うわけですからね。新鮮なお水をご飯の脇にいつも用意してあげて下さい。蛸や烏賊は魚に比べると消化がよくないようですから止めたほうがよろしいでしょうね。鶏の骨はささくれて割れるので、体の中を傷つける可能性があります。牛の骨は大丈夫」
「なるほど‥‥よく勉強しておきます」
イシュカの話はとても為になったのか、きっちりと一言も漏らさず書き記すユアン。
その懸命さに、人付き合いが苦手なイシュカも思わず笑みを零すのだった。
「次は餌を食べさせる時は自分が先に食べて犬は後回し! 此れをしておかないと、犬は自分が偉いと思っちゃうのよ」
「でも、レセリアの見つめる攻撃は強力です‥‥」
「た、確かにそうだねぇ。でも、そこで負けちゃいけないんだ、判るね?」
「いさなはレセリアに負けたけどね」
けらけらと笑ってそう言いのけるフォーリィ。流石にその言葉にはいさなも言い返せない。
「さっきも言ったのと同じで、散歩のコース&時間は飼い主が主導権を握る。頑張るのよ?」
「お散歩‥‥滅多に僕とではいけないでしょうが‥‥決めておけば大丈夫、でしょうか‥‥」
「後、躾! 躾は強引にせずに気長にやる、むやみやたらに怒らない。余計に怯えちゃうからね」
フォーリィの言葉も続いて書き記していくユアン。まるで熱心な学生のようだ。
「最後にトイレね。トイレするべき場所はちゃんと決めて教える事。でないと何処にでもトイレしちゃうようになるわよ?」
「其れは困ります‥‥では、後で粗相すべき場所を作りましょう」
「飼い主というよりは親なんだって思ってみると持ちやすいかもよ? この子には自分しかいないんだーとか思えば気合はいるでしょ?」
「フォーリィさんもそういう感じなのですか?」
「そうね。プレッシャーになるかもしれないけどそれを跳ね除けてがんばらないと。ね?」
フォーリィの優しい言葉に、ユアンは少し考えを改めるのだった。
「ペットとは己の鏡でもあります。己の中に脅え、不安があると、ペットは敏感に反応します。ので、その時は容易に触れなどせず、少し間をおき、心を落ち着けてからの接触がよろしいと思います」
「己の鏡‥‥」
「それにしても本当に小さいな、こいつは。自分で身を護るってのも苦手そうだし、一匹だけで外に出さないよう気をつけた方が良さそうだ」
勇人の言葉を聴いて、サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)も其れを心配していたのだと頷いた。
特に珍しい犬であるレセリアは、狙われたりする事もあるだろう。
「レセリア様は臆病な子です。優しい心で接してあげてくださいね?」
「はい。レセリアを怖がらせたくないです‥‥」
「あと、ペットの行動が飼主のマナーの反映と見られる事もあります。‥‥それは私達とて同じです。ペットを通しての、冒険者。私達は民に不安を抱かせてしまった。その事で気を病んだ方もいました。皆様にペットに接していただく事で、ペットに対する理解をいただく。その機会を得たのです‥‥」
「サクラさん‥‥悲しい顔をしないでください。僕はあなた方から教わった事、決して忘れません。そして何時か誰かに教えます。だから、悲しまないで下さい‥‥」
心優しく、考える事が得意なユアン。サクラの言いたい事も理解出来たのだろう。
不安気な表情でサクラを見上げている。サクラは、優しく笑って彼の頭を撫でるのだった。
そんな時、賑やかなわんこの声が聞こえるのだった。
「知ってた? 首周りをなでたりすると犬って喜ぶんだよ♪」
小松崎凛(eb6544)が小川育恵とカオ・カオカオとレセリア、周りの犬と戯れながらそう言うと、ユアンは感心したかのように頷いた。
「そうだ、レセリア。この子と遊んでやってくれないか?」
そう言うと、アッシュはボルゾイの子犬をそーっとレセリアの前に置いてみた。
すると、レセリアは興味を持ったのか子犬のレティキュラントの匂いを嗅ぐ。
そして最後にはそのレティキュラントとも戯れ始めるのだった。
「どーやら打ち解けたみたいだねぇ」
「よかった。暫く遊んでやってくれるといいんだが‥‥」
「レセリア様はお優しくもあるみたいですから、大丈夫ですよ」
サクラはにっこりと笑みを浮かべるのだった。
●提案!
「よしっ! わんこ達はここで遊ばせるとして! その間私達は私達でやれる事するよ!」
「そうね。いさながこっち来る時に言ってた犬小屋でも作りましょうか♪」
「犬小屋‥‥お外に、ですか‥‥?」
「小屋っていっても犬用だから小さいんだ。だから部屋にも置けるよ。最初のうちは近くに何時もいて守ってくれてるっていうのを教えないとね」
にかっと笑ういさなを見て、ユアンは嬉しそうに笑った。
ユアンは作成の邪魔にならないように柴犬二匹と戯れる事にしたようだ。
「こーいう小さな箱どーかしら?」
「フォーリィ‥‥準備いいな‥‥」
「あはは、こんな事もあろうかと! っていうやつよ、アッシュ」
「何だか便利屋さんみたいだぞ‥‥」
「気にしなーい! さ、造るわよ!」
フォーリィがそう言うと、やれやれとアッシュは柴犬二匹に顔を舐められているユアンの隣に座った。
「自分の二匹は両方とも猟犬なので、ソウルバイスはいいがレティキュラントにはこれから躾だけでなく狩りの仕方なども教え込んで、立派な猟犬にしていくつもりなんだが‥‥ユアンはどういう風にレセリアを育てたいんだ?」
「僕には出来ない事をやってくれる犬になってほしいんです。‥‥人を助けてあげられるような犬に」
「救助犬という奴か。其れは其れで可愛いかもな‥‥」
「だからこんなものもつけてみたりしてるんですよ」
レセリアを抱っこしてアッシュに見せる。レセリアの首には小さな樽。バランスが崩れないような大きさ。
中にはお酒類が入っているのだという。その可愛さに流石のアッシュも負けて顔を背ける。
(「ダメだ、この犬‥‥フツーに可愛い‥‥」)
「なら、そうやってきちんと育てないといけないな? ‥‥この犬を最後まで、自分の力で面倒をみれるか?」
アッシュの言葉が部屋に響く。小屋を作成している冒険者達も其れに聞き耳をたてるかのように作業の手を止めた。
「‥‥僕は、この子より先にいなくなってしまうかも知れません。ですが、僕がいる限り‥‥隣にいる事を誓います」
「よーく言ったよ、この子っ! 気に入った! とっとと小屋作って犬達と遊ぶよっ!」
「我慢出来ないだけなんでしょ、いさな?」
「自分の犬もいいけど、このちまっこいのは抱っこしてみたいっ!」
後、可愛い子犬部屋がユアンの執務室の中に出来た。
そして、その執務室の中心でユアンと一緒に冒険者達は皆の犬と交流を深めるのだった。
「犬は構ってもらうのが大スキだけど、飼い主が叱られるのとか見ると哀しくなるだろうねぇ‥‥レセリアを悲しませないように、ちゃんと仕事しなよ?」
「うっ‥‥。でも、もう暫くはこの子と一緒にいます‥‥。執務もちゃんとしますっ!」
ユアンの虜は暫く続くようだ‥‥。