築城軍師番外〜救いの手

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月11日〜09月16日

リプレイ公開日:2006年09月12日

●オープニング

 王都でペット騒動が起きたという話は、王都の西門とされている既にウィンターフォルセにも届いていた。
 その内容を聞いた軍師は、一つの提案をユアンとルーシェに打診をしていた。
「‥‥今、俺達が恩を返せる最大のチャンスだと思うんだ」
「冒険者達のペット、ですか‥‥確かに、猛獣や魔獣の類は一般の民にとっては恐ろしいもの。ですが、この街はそれをも受け入れなければなりません。冒険者の街、なのですから」
 ルーシェがそう言うと、ユアンも同調するかのように頷いた。
 そして、言葉を紡ぐ。
「プリンセスから承認して貰っているのであれば建設してもいいかと僕は思います。今回ばかりの建築は‥‥早とちりではありません、資金も手元にあるんですよね?」
「あぁ、プリンセスから資金提供として貰っている分と、冒険者の一部が寄付として俺に渡してくれたのがある。後は、俺の簡単な地図を売ったりで何とか。小さな小屋くらいなら建てれるだろ」
「ルキナスさんの言う彼女は協力してくれますの?」
「マリスなら承諾してくれた。やるからには大きくしたいと言っていたよ」
 ルキナスの言葉に、安堵を示すルーシェ。

 そもそも、事の発端は王都での抗議騒動。一部の冒険者の頑張りで建白まで持っていけた。
 しかし‥‥その騒ぎの波紋は大きく強すぎた。
 このままでは、冒険者の街とされるこのフォルセも危険だ。

「建設場所はフォルセ東口付近にある草原がいいだろうと思う。あそこなら人気もそんなにない。街が近くだからといって気にする事はないだろうと思う。維持費は預ける冒険者から徴収する。安全な預かり場所を創るんだ」
「マリスさんが常駐してくださるのなら大丈夫だと思います。街の人達にも少しずつ慣れていって欲しいですから」
「宣伝の方はどうするんです? やるんですか?」
「いや‥‥そんな大袈裟にしなくてもいいだろ」
 ルキナスが軽く苦笑いを浮かべる。
 宣伝しても受け付けるのは冒険者だけだ。そして、其れを預かるのはマリス。本人の承諾もなしに其れはないだろう、と。
「では、そのようにしましょうか。材料の運搬は此方が手配します。お金の方は此方で頂きましたから、其れを使いますね」
「あぁ、宜しく頼む。ペット同伴については‥‥街の人にも慣れて貰うって事で少し規制を緩めたい」
「其れは其方にお任せします。ですが、粗相だけはないように。間違っても民に恐怖を与えないようにしてくださいね?」
「其れだけは承知してる。‥‥あー‥‥俺もペット欲しいね」
「軍師と地図絵師とペットの世話‥‥全てを成すのに時間が足りないのでは?」
 ユアンの一言に、ルキナスはガックリと項垂れる。
 確かに、仕事続きの毎日で癒しというものは殆どない。彼にとっては苦痛の日々‥‥。
 しかし、其れを和らげてくれる出来事は彼にはあった。
「そう言えば、もうナンパはお止めになったんですか? 最近全然してないみたいなんですけれど‥‥」
「ユアン様、彼にはもう姫君がお出来になられたんですよ。ナンパなどもう必要ないかと‥‥」
「姫君?」
 首を傾げて、尋ねるユアンにルーシェは小さく笑みを浮かべる。
 当の本人であるルキナスは顔を赤く染めながらそっぽを向いた。


 その首には糸に通され、首飾りにされた誓いの指輪が光っていた。
 彼と彼女の名が刻まれた指輪。永遠の指輪。
 何れ迎えに行く事を胸に誓いながら
「其れじゃそれぞれ準備を始めようか。ルーシェ、例の件は全てお前に任せる。ユアン、お前はアカデミー関係だ。俺がファーム関係をとり纏める」
 言えば彼は少しふらつくだろう。この頃、王都とフォルセを頻繁に往復し、更には執務までこなしている。
 トドメには地図絵師という仕事も忘れずにしているのだから、だいぶ疲労を溜め込んでいる事だろう。
「あまり無茶をしないようにお願いしますよ、ルキナスさん?」
「なぁに、少し疲れが溜まっているだけだ。こんな所で休めねぇよ」

 そう笑って、心配そうな二人を軽く撫で、彼は出払っていくのだった。

●今回の参加者

 ea0417 封魔 大次郎(32歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5513 アリシア・ルクレチア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4604 青海 いさな(45歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb6486 ガロード・ラン(24歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

イシュカ・エアシールド(eb3839)/ 信者 福袋(eb4064)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248

●リプレイ本文

●分かってはいるのだけれど‥‥
「ルキナス殿、途中助言を頂く事もあると思うでござるが‥‥実際作業に入ればさほど出ずっぱりにならずとも大丈夫かと存ずる。こういう時にこそ体を休めるが寛容と思うでござるよ」
 ウィンターフォルセを抜け、ルキナスと合流した途端、封魔大次郎(ea0417)がやつれきったルキナスに助言する。
 彼もそろそろ自分の限界が来ている事を悟ってはいるようだ。そして、この前のフォルセでの騒動。精神的にも肉体的にもピークに達しているように見受けられるのだが、彼はまだ、笑っている。
「だーいじょうぶだっての! 其れよりも、今回の土地は此れだ。凄いだろう?」
「ここに預かり場所を造るのか。なるほど広さも相当あるし、良さそうじゃねぇか」
 其処に広がるのは広大な草原。のんびりとした雰囲気が漂っている。
 此処に、自分達が大事にしているペット達を預けるというのだ。
「ルキナス様‥‥夫がご迷惑をおかけしました。夫の不始末を少しでも挽回すべく、頑張らせてもらいますわ」
 アリシア・ルクレチア(ea5513)が申し訳なさそうにルキナスに頭を下げる。
 流石のルキナスも小さく溜息をつくが、ポンポンとアリシアの頭を撫でると小さく首を横に振った。今はそのような事を考えている場合ではない。其れに、この先何とかなるだろうと考えているから。
「本当に人気はないのか?」
 ソード・エアシールド(eb3838)が確認の為、念を入れて尋ねるとルキナスは苦笑いを浮かべた。
「俺を信用しろって。此れでも人の事ぐらいは考えてるって。‥‥ま、町の近くではあるが‥‥その分しっかり管理してくれるだろ、マリスが。其れよりも、先程福袋とやらから聞いた話。実に興味深い」
 動物園と呼ばれるものの構造。設備。全ての説明を受けたルキナス。
 しかし、実際の所は実物を見なければよく分からない。更にその動物園とやらはこの世界にない。とても残念な事に。
「でも設備の方は何とか想像がつきそうだ。工夫して今後作れるようならば作っていこうか。ま、其れは全てプリンセスに任せる事だけどな」
 提案はする。しかし実行を命じるのはプリンセス。
 ウィンターフォルセの主権者はプリンセスなのだから。

●まずは民への説明を
 ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は一先ず町へと戻り一つの紙にサインをしていた。其れは、バガンの借り受け誓約書。シャリーアの申し出と、プリンセスの言葉添えにより実現したのだ。
 だが、此れだけですんなりバガンが使えるわけがない。先日の騒動で心に不安を持った民達へ、この事を説明しなくてはならないのだ。
「この度私達は建物の建設の為にゴーレムを使うつもりです。兵器であるゴーレムが町の近くにある事を快く思われない方も居られるかも知れませんが、皆様にはご迷惑をおかけしないとこの弓と騎士の誇りに懸けて誓います。どうか、ゴーレムで作業する事をお許し下さい」
 民達に聞こえるように、大声で。広場で叫んだ。
 そうすると、民の一人である若い男性が彼女の前に現れたのだ。
「本当に‥‥本当にもう俺達を不安にさせないんだなっ!?」
「勿論です。この弓と騎士の誇り‥‥そして、私の名に誓って」
「‥‥信じて、いいんだな?」
 男は、必要以上に聞いて来る。其れもそうだ、昨日の騒動で凄く怖い思いをしたのだから。フェーデの時の魔獣。其れがこの地に再来したのだから‥‥それでも、彼等は歩み寄ろうというのだ。もう、あんな怖い目に合わせないと、誓って欲しかったのだ。
「絶対とは言えません。ですが、私達冒険者とこの地の領主であるプリンセスは、そうなる事を阻止する為尽力致します」
 ジャクリーンの答えに、男は納得したように頷いた。
 バガンの事、理解してくれたようだ。もうあのような出来事を二度と起こさない為にも‥‥と。

●建設開始
 草原の一角に用意された簡単なテーブルの上に一つの図面が広げられた。其れは、今回作成する小屋の設計図だ。
「今回お前さん達に作って貰いたい小屋はこれだ。頼めるな?」
「そういや、この小屋の使用目的ってヤツは具体的にどんなもんになるんだ。鳥小屋に馬小屋、犬小屋‥‥色々あるし、世話する奴が休む場所も必要だよな。その辺ひと括りって感じなのか?」
「そうだな、それぞれわけて作ってくれた方がいいだろうな。広範囲になっても構わない。世話する奴‥‥マリスか。アイツならテントなり張るそうだからいいんだそうだ」
 質問の答えを貰うと陸奥勇人(ea3329)は苦笑いを浮かべた。流石彼女といった所なのだろうか。彼はマリスと面識があるのだ。
「私、気になる事がありますの。よろしいですか?」
 アリシアが挙手すると、ルキナスは頷いて話するようにを促す。
「設計の元は何をモデルにしてるんでしょう?」
「そうだな‥‥馬や牛の厩舎を想定しているといってもいいか。フォルセには牧場があるからな、其れを元にしたんだ」
「猛獣や魔獣はどうやってウィンターフォルセまで移動させましょう? 特別馬車を毎回冒険者街まで乗り入れてもらう、というのが現実的な話でしょうか。そうなると馬車代は飼い主持ちでしょうか」
「フォルセ入口までは普通に連れて来て貰っていい。但し、フォルセ入街の際には檻を乗せた特別馬車を用意するつもりだ。それで輸送するという形になるな?」
「同じく、ロック鳥などは直接預かり所まで飛行でしょうか?」
「おいおい‥‥王都からすぐ近いとはいえ、あんなデカイ化け物が町の上飛んだら怖いだろ?」
 ルキナスの苦笑いに、アリシアも思わず口を手で塞ぐ。
「それじゃ、資材は纏めてあるからそれぞれ仕事を始めてくれ。時折俺が様子を見るからな?」
 そう言って、立ち上がろうとするとルキナスの体が一瞬ぐらりと揺れた。
 その様子を勇人は見逃さなかった。そして、こっそりと連れて来たペットに囁くのだった。
「氷雨、お目付け役は頼むぞ」

「さぁて、やるわよっ! 力仕事だけしか出来ないけど!」
 そう言うと、フォーリィ・クライト(eb0754)が必要な資材を必要な大きさに切り分けていく。
 其れを鉢巻締めて、クウェル・グッドウェザー(ea0447)が持ち運ぶ。柵に必要な分の素材は、どうやら集まったようだ。
「これだけあれば十分でござるな。それでは、組み立てるでござるよ。広さは‥‥」
「出来るだけ広い方がいいと思います。きっと沢山の方々が預けに来られるかもですから」
「そうだな。後は脱走されないようにしたり工夫するだけだ」
 柵を担当するのは四人だ。クウェル、大次郎、ソード、風烈(ea1587)。
 まずそれぞれ道具を使っての削り出しをする事となった。
「しかし、こうやって皆で物を作るというのは楽しいでござるなぁ」
「そうだな‥‥こうやって力仕事しか出来ない俺だが、こういうのは楽しいと思うよ」
「そうですね、何れここがペット達の安息の地になると考えると‥‥」
「楽しみ、だな?」
 ソードが笑みを浮かべると、三人は大きく頷くのだった。

「さて、あたし達も始めるよ。ちゃっちゃとやんなきゃねぇ?」
 ドンッ! と青海いさな(eb4604)が仁王立ちでそう言うと、勇人、フォーリィ、空魔紅貴(eb3033)、ガロード・ランの五人は大きく頷いた。
「まずは土台作りですわね。怪我しないよう離れていてくださいね?」
「へぇ‥‥此れがバガンか。実際に見るのは初めてだ」
 穴と言っても極浅い物であるが、穴掘り作業をしているジャクリーンを見つめルキナスがぽつりと呟いた。彼は地図絵師という職の為、王都等を自由に歩く事が出来ない。その為、ゴーレムやバガンといったものも今まで見る機会はあれど、行けずにいたのである。
「驚きました? とはいっても、これは借り物だったり致しますが」
「いや、本当に凄いな。‥‥っと、掘り過ぎないようにな? 掘り過ぎてカオスが出てきたら事だ。其処は其処らまででいい、次のとこに取り掛かってくれ」
「はい、承知致しました」
 自分の疲労度を気遣いながら、ジャクリーンはバガンで他の場所を掘り進めて行く。
 掘られた場所に、しっかりと石が敷き詰められ、其処から建設が始まる。
「ねぇ、こんな感じでいいの?」
 作業をしながら、いさながルキナスを呼ぶ。ルキナスは、いさなが綺麗に組み立てた部分を見て、大きく頷く。
「あぁ、これぐらいでいい。設計図と比べていい感じだと思うぜ? 強度に関しては‥‥ん、問題はないだろ。このまま組み立ててくれ」
 そう言うと、ルキナスは気になるものへと視線を移す。其れはフォーリィのペットであるドラゴンイーグルパピーだ。
「なぁ?」
「何、ルキナスさん?」
「そいつ‥‥暴れたりしねぇ?」
「あぁ、ロロ? 大丈夫よ、あたしが近くにいるし」
「‥‥触ってみても?」
「興味あるの?」
 フォーリィが頷きながらそう尋ねると、ルキナスは恐る恐る触れてみる。ロロは少し鳴くものの、危害は加えない。
 どうやら飼い主が近くにいるので安心しているようだ。
「へぇ‥‥大人しいものだな。猛獣とかそういうのって、もっと雄々しいかと思った」
「其れもそうよねぇ。でも、見かけによらず大人しい子だっているのよ?」
「‥‥へぇ。此れはいい勉強になりそうだ‥‥」
 そんな事を言いながら、小屋は少しずつ完成に近づいて行くのだった。

●次は内装へと
 作業は徹夜で行われた。翌日には小屋は順調に作られた。そして、柵も。
 柵はペット達が脱走しないように高く作られている。
 そして小屋は頑丈に作られ、壁に色々工夫が施されている。
「こんな感じでどうだい?」
「お‥‥よくやってくれた。此れはいい出来だ。設計図を上回ってる」
「へへっ。そう言われると作った甲斐があるぜ」
「あの柵は?」
 掘られた穴。その分の土を壁状に塗りたくった不思議な柵。
 石もしっかりと詰められていて、頑丈そうだ。
「あれか。ブレスを吐くペット用に作ってみたんだが、どうだろうか?」
「此ればかりはちっとばかし試してみないとわかんねぇな。‥‥そういう役目の、連れて来たのか?」
「あぁ、その点に関しては問題ないでござるよ」
「丁度適任のペットがいる。後は其れを待つだけだ、少し休憩しよう」
 ソードがそう言うと、冒険者達は頷いて各自休憩をとるのだった。

 その頃、一角では。
 麻津名ゆかり(eb3770)とクウェルが何かを調理していた。
「このナイフ、とても使いやすいんですよ」
「あ、ありがとうございますっ。此れで少しは楽になります」
「誰かの為に料理を作るときって、幸せですよね」
 クウェルのその一言でゆかりは真っ赤になった。
 彼女は疲れているルキナスを見て、何か力になれればと料理を作っているのだった。
 其れが今の彼女に出来る最大限の事だと、そう信じて。
「あ、ゆかりさんっ! そろそろ火を消していいですからっ!」
「は、はいぃっ! す、すみませんっ‥‥」
「後は、これを食べてもらうだけ、ですね?」
 やんわりと笑みを浮かべるクウェルを見て、ゆかりは嬉しそうに頷くのだった。調理は全てゆかりが。クウェルはただ指導をしただけ。
 つまりは完全なゆかりの手料理である。

「さて、後は内装だけか」
「其れは私とゆかり様で‥‥あら? ゆかり様は?」
「あ、すみません。少しだけ待ってください」
 そう言うと、ゆかりは一つのお皿にシチューを入れてゆっくりとルキナスに近づく。そして、其れを差し出すのだった。
「へ‥‥?」
「これ、食べてください。貴方の体があたしは心配です」
「‥‥すまないな。じゃ、これを頂くとしますかね」
「その間に内装は済ませます。では、行きましょうか」

 ゆかりとアリシアは出来たての小屋へと足を踏み入れる。
 そして、じっくりと辺りを見回し、強度が足りなさそうな所にストーンで補強を施していく。
「あ、こういうのつけてみませんか?」
「鳥が止まる為の棒ですね? いいと思います。それで鳥達が翼を休める事が出来るなら」
「虫除けのハーブと‥‥トイレの砂箱と‥‥」
「後は、子供達が明け難い位置に鳥の出口を、ですわね」
「後は小動物と遊ぶ事が出来るような場所も」
 夢は膨らんでいく。その度楽しくなっていく。
 ここで何れ子供達の笑い声が聞けるかも知れない。
 そう考えると、二人の胸はいっぱいになるのだった。

「さて、内装も終わったみたいだし‥‥残りの日数は最終チェックとさせて貰うぜ?」
 シチューを食べ終わると、ルキナスはふらりと立ち上がり作業へと向かう。そんな彼の背を心配そうにゆかりは見つめていた。
「さてと。俺達はルキナスの最終の結果を聞くとするか」
「そうだな。絶影達も休めておきたいし‥‥」
 そんな話をする冒険者達の目を盗み、ゆかりは急いでルキナスの後を追った。其れを見て、フォーリィの目がキラリと光るのだった‥‥。
「ルキナスさん!」
「ゆかり? どうした、休んでいてくれてもいいんだぞ?」
「其れは出来ません。だって、あなたフラフラじゃないですかっ」
「でも、仕事が‥‥」
 そう言いかけるルキナスの目の前に、天界アイテムの栄養ドリンクが突きつけられた。
 そして、ゆかりは自分も一緒にやると言うのだった。
「少し苦いらしいですけど、体にいいそうです。飲んでくださいっ」
「サンキュ。やっぱ俺の姫君は優しいもんだ‥‥」
 そんな会話を交わしながら作業を続けていく二人。
 そして、そんな二人を影で見守る一人の影が‥‥!

「ふんふん。本当にナンパやめたのかしら?」
 フォーリィである。毎度お馴染みデバガメ要員である。
 二人の様子を観察しながら、何かメモをとっているようだ。
「なっ‥‥! いないと思ったらこんな所に‥‥!」
「しーっ! 静かにしてよ、いいところなんだからっ!」
 クウェルがフォーリィを見つけたのである。
 彼女がまたデバガメするのではないかと。そう思っていたのが現実になったようだ。
「ゆかりさん泣かしたらあたしがアイアンクローでルキナスさん泣かさないといけないから観察する義務はあるのよっ!」
「でも、お二人の時間なんですから‥‥!」
 口論している間にも二人の作業は進んでいく。
 タオルで汗を拭いたり、栄養ドリンクを一緒の瓶、二人で飲み干したりと。最後には膝枕までしている光景が‥‥。
「ををっ! これは好展開ねっ!」
「フォーリィさんはいい加減にしましょうっ」
 結果、ずーりずーりとクウェルに引きずられていくフォーリィなのでした。

●最終確認
 最終日の朝。ルキナスは冒険者達の下へと駆けつけ最後の確認作業をとりたいと願い出た。其れは、烈が作った柵の実験である。
「ゆかり、其処にフロストウルフを入れてみてくれ」
「はい。では、志。大人しく入ってね」
「それじゃみんなは離れていてくれ。実験を始めるぜ」
 ルキナスがそう言うと、冒険者達は距離をあけた。
 何の実験か。其れはプレス対策が本当に出来ているかどうかだ。
 ゆかりが合図を送ると、フロストウルフは一気にブレスを吐き出す。
 ‥‥凍ったのは石だけで、他に被害は無い。ただ、少し範囲が広い為はみでてしまう部分もあるようだ。
「何とか成功か。烈、サンキュだ」
「いや、成功したのなら良かった」
「此れで一歩、近づいたのですね。ペット達の安息の地が」
「あぁ、でも課題はまだまだ山済みだ。後はプリンセスが提案してくれるのを待つばかりっと」

 そう。この地で一番の権力を持つのはプリンセス。そして、彼女が提案した事を吟味するのが彼本来の役目。
「お前さん達も他にして欲しい事があればプリンセスを通してくれ。プリンセスが承認したのであれば、俺も二人も考えるから」
「分かりましたわ。お心遣い、感謝いたします」
「其れと‥‥ゆかり。お前は俺の姫だ。俺の姫である以上、お前の言葉は俺の言葉となる。分かるな?」
「‥‥はい、頑張ります」
「んじゃま、打ち上げといきますか!」

 冒険者の数人は、報酬を受け取る事を拒絶した。
 ペットの為の資金にしてくれという事だった。