双子の海賊〜勘違いなのに‥‥

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月12日〜09月17日

リプレイ公開日:2006年09月12日

●オープニング

 青い海。青い空。遥か彼方にはカモメの姿。
 その大海原に浮かぶ一隻の船。マスト部分にはドクロマークの旗がかけられていた。
「面舵いっぱーい!」
『ヨーソロー!』
 元気のいい声が船からは響く。
「姐御! 今日はどちらに向かうんで!?」
「そうさねぇ‥‥って誰が姐御だッ、誰がッ!?」
 ごつりと一発。部下の男に拳骨が下される。
 そして、その拳骨の主は小さく溜息をつく。
「大体、姐御はこっちだってのっ!」
「姉貴、寝てたんじゃなかったのか?」
「こいつ等の所為で起きたわよッ!」

 この船の持ち主の名はカーリー。女船長だ。
 世界中の宝を探し求め、そして力を求め‥‥海賊の長にまで成りあがった、まだ20代前半の女性である。
 気性は荒く、男勝り。故に男と間違われやすい。
「船長!」
「だからあたしが姐御だってのよ!」
「姉貴、もーちっと色っぽい格好してみりゃいいじゃないか」
 船長の弟、副船長のテオ。女その容姿は姐御と言われても仕方ない程の女顔。女性用の服が似合うと思われる程のスタイル。
 胸がないのは当然だが、サラシを巻いていると思われても仕方がない程。
「そんな事、頼まれたってごめんだね!」
「まったく、これだから嫁の行き手もないんだっての」
「なんだって!?」
 カーリーがテオを殴ろうとした時。
 一人の船員が慌てて二人の前に現れた。
「一体どうした?」
「大変です、姐御、船長! 団員の奴等が突然腹イテェって!」
「軟弱だねぇ‥‥で、何人そうなってるんだい?」
「そ、其れが全員で‥‥」

『なぁにぃぃぃぃっ!?』
「全員っていったら、全員なのか!?」
「どうすんのよ! 此れから他所の街で一稼ぎしようって時に!」
「と、とにかく上陸準備だ! すぐ近くの街につけろっ!」
 テオの指示の下、船を接岸させて上陸した海賊達だったのだが‥‥。

 其処から街まで二日はかかるのだ。海では速いが陸では遅い。
「姐御〜〜! いてぇぇぇぇ!」
「だから姐御はこっち! 痛いのなんか気合で我慢しな!」
 なんだかんだで辿り付いた小さな街。
 其処では何か騒動があったらしく、街の人の表情は皆暗い。
「とりあえず、宿屋を‥‥!」
「其処の冒険者様! お願いがありますっ!」
 一人の街の娘がカーリーの足元で跪いた。
 どうやらこのご一行を冒険者だと思っているらしい。
「お、お願いします! 私達を助けてくださいっ! 私達、輸送業者をしているのですが‥‥どうやら他の業者が私達の悪い噂を流しているらしくて‥‥!」
「ち、ちょっと! あたし達は海賊よ、カ・イ・ゾ・ク! 分かる?」
「そんな嘘おっしゃらないでください! お願いします! これで断られると、私達はどうしていいかっ!」
 泣いて頼む街人達。どうやらその街はそんなに大きくなく、こうして他の街に物を輸出して稼いでいるらしい。
 しかしこのご時世、対抗馬である他業者はたんまりといる。悪評を流されればもうオシマイだ。
「ど、どうすんだ‥‥姉貴?」
「〜〜〜〜〜っ! 仕方ないね、やるよ! ほら、アンタもとっとと準備しな!」
「でも、こいつ等どうすんだ? 腹痛って‥‥」
「交換条件だよ。こいつ等はアンタ達が見る。輸出に関してはあたし達が見る。どうだい?」
「よっ、よろしくお願いします!」

「姉貴。安請け合いしたものの、俺達二人でどーするんだよ?」
「‥‥‥‥。考えてなかったわ! いい、テオ? 其処はアンタがなんとかするのよ!!」
「うげぇ‥‥なんて姉貴‥‥」

 困った事にこの海賊の船長は、とんでもないお人よし。
 困った人に遭遇すると、確実に放ってはおけないのである。

 同刻。ギルドでもこの街の人と思われる人からギルドに依頼があった。
 ナルシストで極悪人である輸出業者をどうにかしてくれ、と‥‥。

 果たして、この双子の海賊達の運命は如何に‥‥?

●今回の参加者

 ea4714 ジェンド・レヴィノヴァ(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea8046 黄 麗香(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb4078 辰木 日向(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4538 赤坂 さなえ(35歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb6239 昼野 日也(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●合流地点
 小さな町についた冒険者達は絶句していた。
 道の其処らへんで腹痛でじたばたと暴れている海賊達を見つけたからだ。
 そして、その団体の目の前で怒鳴りちらしている少女と、溜息をついている少年を見つけた。
 彼等がカーリーとその弟テオだろう。
「‥‥あれが、海賊?」
「そうみたいね‥‥」
「‥‥なんか、ギャップが‥‥」
「夢物語、という言葉があるな」
 鳳レオン(eb4286)の感想にジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)がきっぱりとそう言い放つ。
 小説で見たようなものとは違う。現実の海賊はこんなもの。
 ‥‥いや、違うんだよ?

「仕方ない、接触しよう」
「そうだね。其れが一番! 貴方が、カーリーさん?」
 天野夏樹(eb4344)が声をかけると、カーリーはんんっ? と首を傾げて振り返る。
「なんであたしの名前知ってるのかしら? もしかして、有名なのかしらっ?」
「‥‥違うと思うよ、姉貴‥‥」
「有名といえば有名だけどっ! 私達、貴方のお手伝いに来たんだよ」
「お手伝いィ?」
 カーリーが渋った声をあげると、夏樹も苦笑いを浮かべる。
 どうやら彼女はプライドが高いらしい。そう簡単には承諾‥‥しないだろう。
「あのね、あたし達は誰かの手を借りるほど‥‥!」
「まぁまぁ、姉貴。手伝ってくれるっていうんだしさ、人手足りないのは一目瞭然なんだから力を借りようよ」
「‥‥テオがそーいうんなら別にあたしは‥‥」
「じゃあ決まりだ。俺はテオ。姉貴を知ってるんなら知ってると思うけど」
「それで? 作戦は決めてきたんでしょーね?」
「あぁ。新規業者を装うと思うんだ」
 龍堂光太(eb4257)がカーリーに告げると、カーリーもふむ、と頷いて。
「船はあたしの貸してあげるからいーわ。でも、ここから二日かかるわ、船に辿り付く前に襲撃されるかも知れないわよ?」
「戦闘は私達が引き受けましょう」
 シュバルツ・バルト(eb4155)が頼もしくそう言い、頷く。
 カーリーもテオもそれなら助かると承諾するのだ。
「で? どうやって誘き出すわけ?」
「相手がナルシストってゆうなら利用できないかな、この顔立ち」
 テオの顔をマジマジと眺めながら黄麗香(ea8046)が尋ねる。
 テオも其れを想像してしまったのか、思わず首をぷるぷると横に振った。
「勘弁してくれ、ただでさえ女に間違われやすいのにッ!」
「‥‥ま、私がやる。情報操作するという手段もあるし、な?」
「じゃあジェンドさんにお願いしよっか。風信機があるから、其れで連絡をとりあいましょ」
 夏樹がそう言うと、ジェンドは小さく頷くのだった。

●聞き込み
 まず最初に光太が町の人に噂を聞き回る事にした。
 現在の状況などを知りたいからだ。
「今現在の状況、ですか?」
「あぁ、他にも色々と知らなきゃ何も出来ないからな」
「最悪の状態です。積荷は全てあちらに回り、此方にも一つも入ってこなくて‥‥」
「どんな悪評を流されたんだ?」
 光太が尋ねると、町の人達は一気に暗い雰囲気を放出し始めた。
「取引先で、私達が積荷を癒着しているっていうんです‥‥」
「他にも、血も涙もない商売をしているとか‥‥」
「積荷の割に高い運賃を取るとか‥‥」
 最悪の状態だ。相手は書類を偽装したものを相手に証拠として提示したり等の工作を施しており、普通の人ならば其れを信用してしまうという。
 幾ら違うと申告しても、信用してくれないのだ。
「其れによる影響は‥‥?」
「最近では私達の船を接岸すらさせてくれない町が多いんです‥‥」
「取引先相手も、会いたくないと門前払いで‥‥」
「悪評以外に何かされた事は?」
「そう言えば‥‥夜な夜な何時も積荷が消えているんです。仕入れたはずのものが」
 一つの証言が得られた。光太は、此れをエサに使えばなんとか出来るかもと考えていた。
「‥‥そいつの名前は? 後、居場所は分かるか?」
「名はハローヴェン。この町の一番大きな建物‥‥あの屋敷にいます」
 収穫はあった。後は此れを仲間に伝え、計画を実行して貰うだけだ‥‥。

 その頃、町の民家の一室ではジェンドが町の女に協力して貰い化粧を施されていた。
 綺麗な布で作られた月乙女の衣をドレスのように纏い、つけていたバンダナは首に巻く。
 そして、髪をおろした状態でその胸元には一匹の子狐が潜んでいた。
「怯えて逃げるぐらいだから大丈夫だろう。怖かったら、胸元に隠れてろ?」
 子狐に優しくそう伝えると、ジェンドは軽く子狐を撫でる。
 必ず近くにいなくてはならない。世話をする為、制御する為。
 ただこの子狐は臆病だ。いざとなったら服の中に隠れるだろう。
「これでいいか?」
「うーん‥‥姿はばっちりだよ。でも‥‥」
「‥‥でも?」
「口調、ね」
 セーラ・ティアンズ(eb4726)がそう言うと、ジェンドは苦笑いと同時に冷や汗をたらり。
 ジェンドの口調は男のようなもの。まず其れを直さなくてはまず女らしくにはならない。
「特訓ね。まだ時間はあるわ、私が手伝うからやりましょ♪」
「セーラ‥‥手加減だけは、してくれな‥‥?」
 がくんとうな垂れ、彼女はそう言うのだった。

●看病は大騒ぎ
「いてぇぇぇぇ! 腹いてぇぇぇぇ!」
「早くなんとかしてくれえぇぇぇっ!」
 騒ぎたてる海賊達。其れを見て流石のレオンも苦笑を浮かべる。
 この煩さは酷いものだ。同じ男として情けないものを感じるのだろう。
「此れは‥‥煩いな」
「仕方ありませんよ。彼等だって痛いのでしょうから」
「さなえは平気なのか?」
「ナースですから」
 にこりと微笑むと、赤坂さなえ(eb4538)はクーリングとクリエイトウォーターを使って水と氷を精製する。
「まずは、私達自身の腕を洗いましょう。消毒はしておかないと、悪化するかも知れませんしうつってしまうかも知れません」
「その間に俺が町の人に場所確保をお願いしておこう」
 そう言うと、レオンは急いで町の人達へと声をかけにいった。
 消毒が終わると、さなえは一人の海賊の隣に座った。
「発熱はありますか?」
「い、いや。ねぇよ」
「痛む箇所は? 吐き気や便意等は‥‥」
「痛むのは腹だけだ。便意は‥‥もうトイレも見たくねーよ‥‥」
「では、お腹が痛くなる二日前まで、何か飲んだりしました? 保管場所とかは‥‥」
「海賊は海の上が住処だからよ、保管場所は食料庫しかねぇし‥‥飲んだっつってもワインぐらいだし‥‥」
 こうして、さなえは一人ずつ問診を施していく。
 そして一つの結論に達した。どうやら腹痛を起こしている者が皆口にしたのはワイン。そして、パン。
 しかもそのパンは何日も食料庫に保管されていたというのだ。
「‥‥食中毒というか、何と言いますか。ただの下痢だと思いますが‥‥」
「それじゃあ、さなえさんとレオンさんに看病をお任せして、私は料理を作ってきますね。出来るだけ柔らかいものを‥‥。少しでも食べないと、体に悪いですから‥‥」
 辰木日向(eb4078)がそう言うと、さなえはお願いしますと頭を下げるのだった。

●現行犯にせよ
 光太より得た情報を元に、ジェンドは屋敷へと訪れていた。
 色違いの瞳に魅入られたのか、側近の者はすんなりと彼女を屋敷にいれた。
(「‥‥さて。後は私が上手くやれればいいだけ、か‥‥」)
「おや、此れは美しいお嬢さん。私に何の用かな?」
「貴方が、ハローヴェン様? 貴方に会えて光栄ですわ。私、貴方に一目惚れした者、ジェンドですわ。貴方のその素晴らしい容姿、素晴らしい考え。とても素敵に思いますの」
 ジェンドがそう褒めれば、ハローヴェンも気分がいいものだ。うんうんと頷く。さも当然かの如く。
 其れを見てジェンドは内心ではツバを吐きたい気分だった。
「私と手を組みません? そうすればもっと稼げますわよ?」
「ほぅ‥‥? 其れに確証はおありかな?」
「私、情報だけは沢山持っていますの。例えば、貴方がとても素晴らしい輸出者だとか」
「其れは当然ですな。其れで、見返りは何をお求めで?」
「見返りだなんてそんな事。貴方を好いた身、貴方のお傍にいられるならなんでも致しますわ」
「この美しい私の傍に‥‥? なんという素晴らしいお考え。貴方と手を組みましょう」
 案の定。軽く褒めただけで内部に潜りこむ事に成功した。
 ジェンドは別室に案内され、一人になると思わず窓をあけ息を荒げる。
「か、勘弁してくれ‥‥幾ら仕事とはいえ、アレはキツイ‥‥ッ!」
 どうやら彼女には想い人がいるらしく、好いた惚れただのはいいたくなかったようだ。
 しかし此れも仕事。町の為にやらなくてはならない。
「とにかく‥‥証拠になるようなものを探すか‥‥」
 屋敷は広いものだった。其れに豪華なもの。
 見れば見る程悪さをしているようには見えない使いの者達。
 しかし、とある一室の前を通り過ぎようとすると話し声が聞こえてきた。
 その声の主はとても柄の悪い、この屋敷には似合わない者の声。
「へへっ! 町の奴等、ちょーっと脅しただけで怖がってやがるぜ」
「積荷を奪うだけでガッポリ稼げるだなんていーい商売だぜ」
(「此れは‥‥いい証拠になるか‥‥?」)
 水の風信機を素早くから取り出し、宝石に触れ魔力を込める。
 風信機は大きい。よって前もってハローヴェンにはこれがあれば情報が手に入ると言って持ちこんだ物だ。
 勿論、ハローヴェンは風信機の実際の機能は知らない。一般にまだ知られていないものなのだ。
 会話が終わる前に、何とか仲間に伝えなくては‥‥。

 その頃、夏樹達も行動に移していた。
 積荷を積み、町の人達に協力して貰い大口の仕事をしているように見せかけていたのだ。
「本当に此れで大丈夫かしら?」
「心配ないと思うよ? なんたって、内部に仲間がいるんだからねっ♪」
「風信機で連絡をとる、という予定でしたよね?」
「噂、ばっちり流してきたよ」
 光太が戻ってくると、夏樹は笑顔でうんうんと頷いた。
 彼女のその姿はチャイナドレス。ラムの国の商人の代行役を装っている。
 そして、光太が流した噂とは‥‥ハローヴェンは悪評を流して他所から仕事を奪わなければやっていけない低脳である。という事。
 此れで、成功すれば挑発にも乗ってくるだろう。
「あ、連絡が来た‥‥!」
『ハローヴェン様が無能なのは知ってたが、悪事に関してはいいカンしてるぜぇ』
『町の奴等がハローヴェン様を疑ったとしても、俺達が脅してるんだ。なーんの心配もねぇぜ』
『そして、俺達は積荷を盗んで金を貰う‥‥へへっ! いい金づるだ』
 男達の会話が聞こえた。其れはとてつもなく酷いもの。
 流石の夏樹も怒り心頭である。そして、勿論カーリー達にも一部始終を伝えた。
「なに、こいつ等!? そーんなことしてたわけ!? メンドーばっか!」
「まぁまぁ‥‥落ちつけよ、カーリー。後で存分にやっていいからさ‥‥」
『聞こえるか、夏樹? 此れが証拠になるだろうと思う。後は現行犯だ。私もこいつ等と一緒に其方に合流する』
「分かったわ。ジェンドさん、気をつけてね。私達はこれから出るわね」
『了解』
 風信を終えると、夏樹はゆっくりと冒険者達を見る。そして、カーリーの合図を待つのだった。
「姉貴、そろそろ」
「そーね。さ、行くわよ! あたしのストレス発散道具を得に!」
「‥‥やる気満々ね‥‥カーリーさん‥‥」
 こうして冒険者達は積荷を持って町を出るのだった。

「おや、こんな所にいたのですか。ジェンドさん」
 通信を終えた丁度その時。ジェンドの元にハローヴェンが尋ねてきた。
「あら、ハローヴェン様。丁度いい所にきましたわ」
「うん? 丁度いいというと?」
「情報が入りましたの。最近この町で海運業を始めた人達がいるらしいですわ。何でも大口の取引だとか、今運搬作業をしているらしいですけれど‥‥如何なさいます?」
「ふむ‥‥大口‥‥」
「何でも、ラムの国の商人と取引をしている、とか‥‥?」
 くつりと笑い、そう言うジェンドを見てハローヴェンも危機を感じたのか、急いで身支度の用意をした。そして、あの男達にも準備をさせる。
「私もついていってよろしいかしら?」
「しかし、危険が‥‥」
「私は貴方の活躍を見たく存じます。言いましたでしょう? お傍にいる、と」
 こうして、ジェンドは上手い具合にハローヴェン自身を炊きつける事に成功したのである。

●看護と感謝
「皆さん、スープ出来ましたよ」
 日向が料理を持って海賊達の元へと現れると、海賊達は揃って目を背けた。
 レオンは、その様子を借りた石鹸を削りながら苦笑いを浮かべながら眺めるのだった。
「少しでも食べて頂かないと、お体に悪いですよ?」
「い、いや。もう俺達‥‥」
「食べ物すら見たくない‥‥」
「でも、この中にはエールが少し‥‥」
『エール!?』
 海賊達の顔色が変わった。そして、一斉に手を差し出すのだ。
 どうやら彼等は酒が入っているのなら何でも食べるらしい。無類の酒好きのようだ。
 日向は、一人ずつ手渡しで配り始めた。
 そして、さなえも丁寧に看病したり、食べさせたりとするのである。
「あぁ‥‥ここは天国だ‥‥!」
「船長とは大違いの女性二人!」
「‥‥俺もいるんだけどな?」
「男はねぇよな!」
 一人の海賊がそう言うと、レオンは笑顔で熱いスープをスプーンに掬い飲ませる。
 熱さのあまり、その海賊は声にもならない悲鳴をあげていた。
 そんな様子が楽しそうに見えたのか、笑い声が木霊していた。
「どうやらみんな、元気になったみたいね」
「そうみたいですね‥‥ナースとしては、嬉しいです‥‥」

●仕事のシメ
 カーリー達が街道を歩いていると、後ろから馬の走る音が聞こえてきた。
「遂に来ましたね」
「読みどおりだね。それじゃ、シュバルツさん。お願い!」
「其処の積荷、待て!」
 馬から一人の男が降りてそう言う。その男こそ、ハローヴェン。
 ‥‥少し美形だ。此れでナルシスト。頷けるものがあった。
「その積荷、此方に廻して貰おうか。でなければ痛い目を見る事になるぞ?」
「そうやって、町の人の積荷も奪ったのですか?」
「‥‥!?」
「全部お見通しなのよ、キミ達の悪行もね!」
「其処のガラ悪いおにーさん達にやらせてたんだよね?」
 麗香がニヤリと笑ってそう言うと、ハローヴェンの顔色が一気に変わる。
 そして、合図を出すと数人の男達が冒険者達を囲んだ。
 シュバルツとセーラが背を合わせ、互いに互いを守る。
「本性あらわしたわね!」
「カーリーさん達はこっちに!」
「天誅、ですね」
 襲い来る男達をセーラはナイフでシュバルツは小太刀でなぎ倒していく。
 証拠にもしたい為、みねうち程度の傷で済ませているのが凄い所だ。
 そして、男の一人がカーリー目掛けて切りかかろうとすると、夏樹のハイキックが顔面を襲う!
「大丈夫、水着のビキニはいてるから見せてもいいわけだし!」
 ‥‥なんというか、蹴られた男の顔は笑っていた。

「こ、こいつ等‥‥! 冒険者か‥‥!? 情報が違うじゃないか、ジェンドさんっ!」
 すがりついてくるハローヴェンを見て、小さく溜息をついた。
「あらあら。こんなはずではありませんでしたのにねぇ」
「どうしてくれるんですかっ!? 私を好いていてくれたのでは‥‥っ! 助けてくださいよ!」
 ハローヴェンが抱きついたその瞬間。最終的にジェンドの尾もぶち切れたのか。
 ドレスの裾をスイッと持つと、思いっきり高頭部に廻し蹴りを叩きこむ。
 倒れた所をガンッと踏みつけて彼女は言う。
「ったく。こんなドレスまで着させて! いい加減にしろ? 次やったらこの程度じゃ済まないぞ!?」
「ジェンド、其れこっちに! あたしの! ストレス! 解消ッ!」
 ジェンドに続いてカーリーの蹴りまくりがハローヴェンへと叩きこまれる。
 此れでは流石の冒険者達も暫くは触れられそうにない。
「かなりストレス、たまってたみたいだね‥‥」
「海賊なのにこんな事、してちゃあね‥‥」
「アッシュに見られないだけ良かったのか‥‥これ?」
 華麗な廻し蹴りを決めた後、後悔するジェンドなのだった。

 ハローヴェン一味は昼野日也が自警団へと突き出した。
 カーリーとテオは仕事も終わり、手下もそれなりに回復していた事を安堵していた。
「ねぇ。今回、曲がりなりにも輸出業を手伝ってみて、何か感じたものとか無いかな?」
「何よ、突然?」
「キミ達の生き方にケチをつけるつもりは無いけど、これからずっと海賊稼業を続けていくのは難しいと思うよ。多分ね。海賊行為が生きる為に必要なんだったら、真面目に真っ当な仕事をすれば良いだけだしさ」
 セーラがそう言うと、カーリーはみるみるうちに不機嫌に。そして、テオは額を抑えて首を横に振った。
「キミ達、真面目に交易やってみるつもりはない? もしその気があるのなら、微力ながら協力するよ。まぁ海で仕事をするなら先ずはショア伯に話を通さないといけないかもだけど…何とかなるって! 」
「あーのーねー‥‥」
「姉貴、出来るだけ抑えてな‥‥?」
「あたし達は、海賊なの。海賊である事に誇りをもってるの。確かに誇りだけじゃおまんま食べれないのは分かってるわ。でも、こーして海賊していられる事に幸せ感じてるの」
 カーリーがセーラにそう伝える。そして、最後にこう告げるのだった。
「あたしは、誰かに仕えたり誰かに頭を下げる事だけはしたくないの。あたし達は海賊として。海の女と海の男として。この海で生きていきたいわけよ。そして、お宝を見つけるのよ! ‥‥ドキドキワクワクの冒険よ。貴方達の冒険と同じようにね」
「言ってくれるのは嬉しいけどさ。アンタ達だって冒険者として誇り持ってるだろ? 其れと同じなんだ。ショアとかそういうのに属したくない。俺達は自由の海賊なんだからさ」
「其れにあたし達は‥‥シュピーゲルの一員なの。ラケダイモンのスコット侯爵家の頼みと、欠地卿のお頭以外に縛られることはないわ。だから、どの領地からお誘いが来てもお断りよ、お・こ・と・わ・りっ♪」

 そう言うと、テオとカーリーは冒険者達に別れを告げて船へと戻っていった。
 後日、風の噂で町は輸出の船で賑わっているという話が、冒険者達に伝えられた‥‥。