陥落の危機〜狂い出した歯車
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:12人
サポート参加人数:8人
冒険期間:09月17日〜09月22日
リプレイ公開日:2006年09月20日
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●オープニング
「時は来たか‥‥」
男の声が地下に響く。
薄暗い通路。男の姿は見えぬ。
ただ見えるのは通路にて座り込んでいる男の姿。
「準備の方はどうだ?」
「問題はない‥‥後はあの二人を攫うのみ」
「やれるのか?」
もう一人の男の問いに、座り込む男に尋ねる。
「やれるさ。問題ない。‥‥見ていればあの二人が要。容易い」
その男の声は何かを楽しむように聞こえていた。
「さて、執務は粗方終わったし。次は外回りでも‥‥」
「フォルセ軍師殿だな?」
「其れが何か‥‥」
声をかけられたルキナスが振り返ると、彼の腹部に一つの衝撃が走る。
ルキナスは声をあげる事もなく、その場に崩れ落ちる。
「軍師、頂いたり」
男の声は笑っていた。
男はルキナスを担ぐとそのまま闇夜へと消えてしまう。
其れと同じ時刻。もう一人の要である人物も攫われてしまっていた。
翌日。屋敷内は騒々しい事になっていた。
「ルキナス様がいないですって‥‥!?」
「はい‥‥心当たり全てを探したのですが、寝室にもお戻りになった形跡がありません‥‥」
「ちょっと、ユアン様っ!」
「ラ、ラシェルさん? どうしたんです、そんなに慌てて!?」
「悠知らない!? いないのよ、何処にも!」
ラシェルのこの問いに、ユアンは事態を把握してしまったのだ。
此れは、とんでもない危機だと。
「皆さん、落ち着いてください! 此れは‥‥二人の軍師がいなくなったという事は‥‥フォルセが危ないかも知れません!」
「どういう事ですの?」
「最近、誰の手回しでフォルセは動いていたと思いますか? ルキナスさんです。彼がいなくなったという事は、フォルセが機能しない可能性が‥‥!」
「誰かに攫われたって事?」
「可能性はあります。このフォルセの名物は二人の軍師‥‥真田隊である悠さんと、フォルセ軍師であるルキナスさん‥‥もしこのいない時に何かあったとしたら‥‥」
ユアンの不安は益々増していく。
悪い知らせが一つ入れば其れは続くものなのか。アルファが急いでユアンの執務室の扉を開ける。
「やばいぞ‥‥街中に見慣れぬ武装した奴等が布陣しているとの情報が入った。俺の仲間も全滅だ‥‥。此れは本格的に来るぞ‥‥ルキナスと悠は!?」
「‥‥最悪の状態です‥‥。守りに徹するにしてもルキナスさんの力が必要ですし‥‥」
「力に出るにしても悠の力が必要‥‥」
「‥‥プリンセスを頼るしかありません。フォルセ陥落の危機を回避出来るのはプリンセスしかいません。プリンセスの初のまともな執務となってしまいますが‥‥」
ユアン達はうな垂れてしまった。
窓の外から街を見れば、其処には武装した集団が身を潜めている部分がある所も見える‥‥。
「あーもうっ! どうすればいいのよっ!?」
「落ち着いてください、ラシェル? 隊長がいない今、しっかりしなくてはいけないのは貴女なんですよ?」
「ジャスティスは平気なワケ!? こうやって、ただやられるだけかも知れないのを待つばかりで!」
ラシェルが怒鳴るとジャスティスはにっこりと笑みを浮かべる。
どうやら彼女も待つだけでは終わらないようだ。
「ラシェル。真田獣勇士隊の掟をお忘れになりまして?」
「あ‥‥」
「思い出せたみたいだね☆」
「そうよ。あたし達は真田獣勇士隊なのよ! 誇りを、掟を忘れる所だったわ!」
『真田獣勇士心得の条、我が命我が物と思わず、任務の時、闇に潜み、己の素性を獣耳で隠し、ご下命いかにても果すべし!』
「誰かも言っていたな、その言葉?」
彼女等が声を重ねた時、アルファがゆっくりと扉をあけた。
そして、ゆっくりと髪を掻きあげ耳を見せる。その耳とはエルフ耳である。
「これじゃあアンタ達の仲間になる事は無理かい?」
「戦って‥‥くれるのですぅ‥‥?」
「その為の傭兵。違うかい? 今はフォルセに雇われてるんだ、なら此れが妥当な選択だろう?」
「‥‥よし、判ったわ! みんな、覚悟しなさい! 布陣位置は前線よっ!」
真田獣勇士の掟の一つ。其れは、死にやすい位置への布陣。
本陣の壁となるべし。
「冒険者達が来た場合‥‥如何、なされます‥‥?」
「その時は特別に真田獣勇士を名乗って貰うわ。表に出るのは嫌だけれど、仕方ないわ。フォルセの陥落危機なんだから!」
「ラシェル。お前もらしくなったもんだな。悠のお陰か?」
「バカ言わないで。誰があんな奴なんか」
「‥‥隊長として、いなくてはいけない存在か。其れもまたよし」
「そう言えば、最近フォルセの民を怖がらせた女がいるって聞いたけれど‥‥戦線に出て貰えるかしら?」
突然、ラシェルがアルファにそう告げる。
アルファも意図を感じとったのか
「分かった。此方から連絡はいれておこう。但し、彼女が来るかどうかは分からん」
「構わないわ。あのフロストウルフ‥‥そしてその飼い主。‥‥戦力にはなるわ」
「‥‥暴走しようとしたら俺が止める‥‥任せておけ」
王都ウィルに滞在中のトルク分国王より、冒険者ギルド総監への正式なる叙任を受け、叙任式を慌ただしく済ませると、カイン・グレイスは急ぎ冒険者ギルドへ向かった。
就任早々、早急に片づけねばならない仕事が舞い込んだのだ。ウィンターフォルセでのペット狼騒動の後始末である。
「まったく。出だしから厄介なことになりましたね」
ウィンターフォルセの領主も、騒動を起こしたペット主も、共にギルドに籍を置く冒険者。もっとも、呼び出しに手間がかからないのは不幸中の幸いか。
まずカインは、ペット主に厳重注意。
「今度、このような騒ぎを引き起こしたら、ギルド総監としてそれ相応の処罰を与えます。ペットの没収も覚悟しなさい」
そしてカインは、ウィンターフォルセの領主にも告げる。
「あなたには領主として、彼女を裁く権利があります。今後、彼女があなたの領地に立ち入るなら、彼女の身柄を拘束して裁判にかけ、然るべき償いをさせることも出来ます。
いや、あなたはむしろ、領主として適正なる裁きを彼女に為すべきです。あまりにも処分が軽いと、領民の領主への信頼が消し飛ぶ結果になるでしょう。冒険者だから冒険者を庇った、領民と冒険者のどっちが大事か、ということになりかねません」
ここでカインは一呼吸置き、いくぶん表情を和らげて続けた。
「しかし、法を遡って罪人を創るのは暴政です。また、無闇に罪人を作り出すのが政治ではありません。過ちを犯した者が悔い改めて、問題を起こさないようにする事を目指すのが正しき道です。あなたとあなたの民が納得するやり方で、彼女が罪を償い名誉挽回を果たす機会が与えられるならば、それに越したことはありません」
突然、シフール便の配達人が息せき切って、部屋に飛び込んで来た。
「大変! 大変!」
「何事ですか?」
手紙の中味を一読したカインの顔にありありと浮かぶ緊張の色。それはウィンターフォルセの危機を報せるものだった。
「名誉挽回の時が来たようですね。恐らく最初にして最後の。もしも、あなたとあなたの『剣』が、難を退け敵を降し、しかも人を殺すことが無かったらば、初めてフォルセの民はあなたの『剣』を受け入れましょう。されど、功を以て過ちを償えど、そこで初めて他の方と同等になると言うことを心得て下さい」
ペット主に続き、カインは領主にも意見する。
「あなたと彼女が共に依頼に参加した場合、彼女の処遇をあなたに任せます。しかし私としては、彼女に立ち直りの機会が与えられることを望みます。それが市井の者ではない領主の道なのです」
人質にとられてしまった軍師二人。フォルセが陥落すれば、この二人の命もないだろう。
全ての決断はプリンセスの小さな手の中に。
フォルセ総攻撃まで後二日。残された時間はもう少ない‥‥。
●リプレイ本文
●着けば其処は‥‥
冒険者がウィンターフォルセに入街した頃。
シャリーアやジェンド、封魔達によって大半の住民の避難が完了していた。
プリンセスの命とあらば、民は従うしかないのだ。
恐怖を抱えたまま、こんな所には長くいたくはないだろう。
「皆様にお約束しさほど経たない内にこのような事態になり、皆様に不安を感じさせてしまった事誠に申し訳ありません。しかし、レン様以下我々冒険者は皆様を守り不安を取り除く為に参りました。今一度私達を信じて下さいませんか?」
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が避難する民にそう告げる。
「避難経路は東門を抜けペット預かり所予定地へ場合によってはさらに王都まで行って頂くかも知れませんが、道は私達で必ず切り開きます。尚、参加する冒険者達の中には魔獣を使役している方もいますが、それはその冒険者が幼かった頃より育て絆を深めてきた物で、皆様に決して危害は加えないと約束して下さいました。不安に思われるかもしれませんがどうかご安心下さい」
「フォルセの事、頼んだよ!」
「私達の帰る場所なんだからねっ!」
民は、避難しながらも冒険者達へと激励の言葉を送る。
その言葉は、今までの出来事の中でも嬉しいものとなったかも知れない。
しかし、今はそう浸っているヒマはない。
「来たわね? 戦力になってくれるわね?」
「ラシェル。ひでぇな‥‥敵勢はどうだ?」
「ざっと五十はいるわね‥‥でも、此れだけだとはあたしも思っちゃいないんだけど」
陸奥勇人(ea3329)の問いにそう答えると、ラシェルはクイッと市街地を指差した。
其処には見た事もない武装をし、此方を睨んでいる無数の者達の姿。
此れが前線部隊なのだろうか。
「私達真田獣勇士隊は、此方の最前線で‥‥死力尽くす事を決定致しました」
「私達も勿論お力をお貸し致します」
「お願いね〜☆あたしとミーティアはばっちり援護に回るからね〜☆」
マリアがそう言うと、冒険者達は強く頷くのだった。
戦力では此方の方が下かも知れない。更には、人質が二人囚われている。
その人質さえ救出出来れば、此方が優位になる事はまず間違いないだろう。
「戒那、藍音、クロト。ルキナスと悠の救出を頼めるか。城から情報が届き次第行動開始だ。救出後、手助けが必要な時は合図を上げてくれ」
「‥‥承知‥‥」
「‥‥やれる所まで、やります故に‥‥」
「任せときなよ! 二人は俺がきっちり守るぜ!」
戒那と藍音はともかく、クロトを入れたのはトラップの仕掛け解除や、仕掛け。
更に遠くを射抜けるその力をかわれての事だった。
「班分けはこのようになっています。よろしいですか、ラシェルさん?」
「問題ないわ。あたし達は何処ででも死力を尽くすのみよ! いいわね、貴方達は此れから勇士隊の一人よ! その事を心に刻んで任務にあたって頂戴!」
ラシェルのその言葉に、その場にいる全員は強く頷くのだった。
皆の街である、フォルセを死守する為に、と。
●最前線の攻防
「気持ちいいぐらい包囲されてるねえ〜、同期の桜でも歌うか?」
「今はそんな暢気な事している場合じゃないのよ。歌いたいなら他所で歌って」
「‥‥ピリピリしてるな、彼女?」
加藤武政(ea0914)の気楽な発言をラシェルが突っぱねる光景を見て、イタチの耳と尻尾をつけた風烈(ea1587)が苦笑を浮かべる。
無理もない。彼女達にとって、今が一番重要で大変な状況なのだから。
「ま、無理もねーんじゃねぇか? 自分達の主の一大事とあっちゃあ?」
「‥‥シンさん」
「何だよ?」
「‥‥似合ってますね、耳と尻尾」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がぽそりと呟くと、シン・ウィンドフェザー(ea1819)はがっくりとうな垂れる。
彼の頭と腰には山猫の耳と尻尾がついているのだ、クールな彼には‥‥縁が遠いはずの代物だった。
「作戦は‥‥これでいいんだな?」
「はいッス! よろしくお願いするッスね?」
「‥‥‥‥あぁ」
エルシアが作戦を確認、エリィが同意するかのように忙しく動き始める。
ミーティアも準備を始めているのか、喉の調子を伺っているようだ。
「夜明けと共に作戦開始。それで良かったのよね?」
「はい。ご苦労かけますが、お願いします」
「ご苦労というより、やるしかないのよねぇ。ま、あたしは問題ないけどねぇ、突貫出来るなら♪」
「‥‥楽しそうですね、エリィさん?」
「こういう時、前に出る仕事っていうのは楽しいものよー? スリルがあるっていうのはいい事、いい事♪」
気楽に考えていける彼女が羨ましいと、ファング・ダイモス(ea7482)は思うのだった。
一日が過ぎ、完全に攻勢の準備は整っていた。
後は冒険者達からの合図を待つばかりとなる。
「もうすぐ夜明けね‥‥」
「緊急時じゃ、四の五の言うでない!」
「あぁ、もう分かったから無理矢理するな、痛い!」
ラシェルの後ろではヴェガ・キュアノス(ea7463)がアルファに無理矢理柴犬耳と尻尾をゴリつけている。
緊張感というものは、ここでは何ら感じ取れない。
太陽が登りはじめた時、ようやく合図が出るのだった。
「そろそろ行くぞ!」
「エルシア、エリィ、ジャスティス、アルファ! 総員、前へ!」
「アルファ、ジャスティスの護衛は任せた!」
「任されて!」
ラシェルと勇人の声と共に、四人は前線へと駆け出して行く。
此方から仕掛けるその為に。
●前線地
「前に出るわよ、エルシア! 一気に突っ込むわよぉ!」
「‥‥そうだな。派手に‥‥行くとするか」
「来たぞ! フォルセ部隊が動いたぞー!」
夜明けと共に始まる戦。
エリィが手前にいた敵を切り崩し、突破して敵のど真ん中へと向かう。
勿論、エルシアがその背を預かる。
「フルーレ‥‥必ず生きて再会しましょう。その時は美味しいご飯とお酒でいっぱいやりましょうね」
「‥‥生きて会うのは勿論。命は捨てる為あるに非ずッスよ、ニルナさん♪」
フルーレ・フルフラット(eb1182)の言葉な安堵を覚えたのか、ニルナは戦闘馬へと跨った。
「民とこの街は私達が必ず護ります‥‥この魂の灯火を消そうとも‥‥!」
ニルナの決意の言葉。そして、手綱を取ると、一気に其れを引いてから鞭をうち、馬を走らせた。
「リヴァーレよ、復讐者の名の下に今駆ける時!」
「‥‥ったく、うちのチビが必死こいて復興してる最中に、横槍入れさせてたまるかよ!」
「頼むぞ絶影、御前の初仕事だ」
「何処の誰だか知らねぇが、好き勝手にはやらせねぇぜ!」
遊撃隊メンバー。烈、勇人、シン、ニルナ。その四人はそれぞれの決意を固めると、一気にエルシア達の下へと走り出す。
来る敵、完殺。連携が全てを物語っていた。
「っち! 数が多いか!?」
「はいはい、動き回るのも手だけど〜‥‥背中はまっかせてよね♪」
シンの背をエリィがきっちりガードする。
相手のリーチを考え、自分もリーチを活かそうと選んだワンハンドハルバード。
しかし、背が空いていては危ない。
「まずは東口を奪還しなくては‥‥っ!」
「焦るな‥‥時は来る」
「そうですわ♪確実に仕留めるには、じっくりいきませんと♪」
「持久戦ってなるとこっちが辛いんだがなぁ‥‥」
「仕方ないじゃないですか。人質の為、ですわ♪」
そう言いながらジャスティスは笑顔で逃げていく敵兵を指差す。
すると、上空から数発の矢が放たれる。
「逃げる敵は任せておいてよ。何とかするからさ」
見上げれば其処にはグリフォンに乗ったアシュレー・ウォルサム(ea0244)が得意げに笑っているのだった。
●迎撃せよ。全ては壁なり
「さぁて、向こうも始めたみたいね」
「東口に行かせなければいいだけでしょ〜? おっまかせ☆」
迎撃隊メンバー。武政、ヴェガ、ファング、ジャクリーン、フォーリィ・クライト(eb0754)、フルーレ。
そのメンバー達を背に、ドンと仁王立ちしているのはラシェルただ一人だった。
「本当に大丈夫なんですか、ラシェルさん?」
「‥‥出来るだけ敵を引き付けるわ。マリア、次はアンタの仕事よ、やれるわね?」
「おっまかせ〜♪」
「‥‥ふむ」
「どうかしたの、ヴェガ?」
「いや、何でもないが‥‥」
ヴェガは一つの事が気になっていた。
相手を把握していた人物が真田にいた。そして、其れを知りながらもこの事態。
おかしいと感じていたのだ。
「来ましたわ!」
「フォルセ東口へは行かせはしないわよっ!」
咄嗟に迎撃体勢をとる冒険者達。しかし、ラシェルは少しも動かない。
その後ろでマリアが詠唱を始めていた。敵が団子となって攻め走ってくる。好機。
「今よ、マリアッ!」
「はぁいっ☆」
詠唱を完成させると、地面が大きく揺れ始めた。
そして、敵を飲み込む勢いの炎が地中より吹き出す。マグナブローだ。此処が広場で、範囲には瓦礫やらばかりだったのが救いではある。
「今よ! みんなお願い!」
炎の中を掻い潜り、向かってくる敵を一人捕まえて、フォーリィは小さく溜息をつく。
「ただいま復興中で残念ながらお客様を向かえる準備は整ってないのよねぇ。‥‥‥‥つーわけで残念だけどさっさとお帰り願えるかしら、渡す土産もなくて失礼だけど持ち逃げはしないでちゃんと置いていってよねっ!」
そのまま敵をぶん投げる。彼女の顔から、笑みは消えていた。
「敵が卑劣な戦を仕掛けるというのなら‥‥騎士としてそれを正面から、堂々と、叩き伏せるのみ!」
数人の剣を回避し、次々とスマッシュを叩きこんでいくフルーレ。
その表情と気迫は誇り高き騎士である事を物語っていた。
「術士系は私がやりますわ! 皆様、存分に戦ってくださいませ!」
凛々しく言い放ち、弓を引くジャクリーン。
全ては民を守るため。フォルセを守るために。
「此れとて使い捨ての壁には出来るはず!」
マリアと自分を範囲としてホーリーフィールドを展開するヴェガ。
もう二度も見たくない。街が焼かれるその光景など。
「血のにおい、火の香り、焼けた油の音、これぞ、戦場、俺たちの故郷」
戦場に生き、戦場で死ぬ。其れが武士である。
武政も逃げ回りながら狭い路地へと連れ込み、少しずつではあるが敵を倒していく。
皆が力を集中させたお陰で敵の半数は仕留められた。だが、しかし‥‥。
「‥‥音。来るわ」
「何‥‥ッ!?」
「此れは‥‥」
「嘘でしょ? なんであんなにも数がいるわけっ!?」
敵部隊増援到着。
その数、五十を軽く超えていた‥‥。そして、また包囲されてしまうのである。
●救出作戦実行
その頃、前線で戦っている者達に、城からの伝達が伝えられた。
其れは、軍師姫の試みにより彼らが囚われている場が分かったとの事。
「戒那、藍音、クロト!」
「‥‥後は、任せて‥‥」
「行くぞ、二人とも!」
位置を確認し、素早く踵を返す三人。そして目的の場所へと走り出す。
その場所とは‥‥何とも皮肉な事か。要塞跡地付近だった‥‥。
「敵の威嚇は任せて、行け!」
「‥‥全ては‥‥命によるもの‥‥」
「こ、こいつ等なんだ!?」
「まさか、人質の奪還を狙ってるのか!? 何としてでも阻止しろ!」
「邪魔は‥‥させない‥‥!」
戒那が前に立ちはだかる敵を蹴散らして行く。そして、後方の敵はクロトが。
常に位置を確認し、正しき場所へと導く藍音。
この三人の連携は、訓練されただけのものではない‥‥。
「援護します! 速く向かってください!」
上空よりそう声をかけたのは山下博士(eb4096)。可愛い犬の耳と尻尾をつけ、グライダーに乗り込んでいた。
「感謝だ! 後は頼む!」
クロトがそう言うと、博士はゆっくりと頷いた。そして、攻撃を開始する。グライダーを加速して低空で突っ込ませ、命中無比のカタパルトとして使うのだ。元来攻城兵器に向いているこの運用は突っ込むだけでも敵陣をかき乱す効果があった。兵力集中ポイントに向けて吶喊すれば砲丸の与える効果は絶大。さりとて分散すればフォルセの白兵戦に有利になる。
此れで少しは時間が稼げるだろう。クロト達に被害が出ないように、考えながら砲撃を行っていく。
が、しかし敵もバカではない。弓隊の列を作りグライダーを狙ってきた。幸い、スピード故になかなか横矢は喰らわないが、ムーンアローが博士を襲う。
「そっちか!」
叫んだ瞬間。博士とグライダーが光に包まれた。博士は弓隊の列に守られたバードらしき者へグライダーの先を向ける。騎士のランス突撃など子供だましに見えかねない猛スピード。こんなに速く飛べたかどうかは博士にも判らないほどの猛スピード。
「新型グライダーか!」
敵も信じられないと言う顔をしている。しかし、興奮しているためだろう。博士には全てがゆっくりと感じられた。実際に首の横を掠めて、矢がのろのろと飛んで行くのすら見えた。勢いを付け直進するグライダーの先には必殺のランス。博士は、なぜかゆっくりと動く敵兵を衝突寸前で交わしながら低空飛行。あとで考えてみれば、なんでこんな事が出来たか判らないほどの神業だった。
敵は慌てて散開し、そこをまっすぐに突破して後方へすり抜けた博士は、高度を取ってようやく一息入れる。
(「これは?」)
この時初めて、博士は左手首に腕輪をしていることに気が付いた。気が付くと、ホークウィングの肩に横から飛来したと思われる矢が刺さっておりぞっとした。七つのプロテクションリングが博士を守ったのである。
一方の迎撃部隊も激戦区となっていた。倒しても倒しても後詰め部隊が出て来る現状。
ラシェルも参戦し、マリアと二人で大幅に敵を蹴散らして行くのだが、それだけで精一杯。
この状態では、ファングの風信機も無事ではない。どんなに工夫していても、乱戦状態では何が起きるか分からないからだ。
更に、ファングはソードボンバーでの薙ぎ払いを見せていた事から、一番の要注意人物として囲まれていたのだった。
「くっ‥‥! 流石にこの数は相手しきれませんよ‥‥!」
それでも一歩も退く事は出来ない。退けば其処で負けたも当然なのだから。
しかし、応戦していた彼にも決定的な出来事が訪れた。
「なっ‥‥!?」
数人の敵の剣を受け止めた時、己の剣が音を立てて折れてしまったのだ。
(「魔剣をへし折るとは、やつのも魔剣か!」)
だが、彼は誰有ろうファング・ダイモス。拳を振るって敵を殴り倒す。だが、それも敵の応援が押し出してきた所までだった。繰り出される槍を身に受けつつも、柄を掴んで投げ飛ばした。敵は嵩に掛かって押し寄せる。
(「これまでか‥‥」)
そう覚悟したとき。ファングは自分の身体が光に包まれるのを覚えた。気が付くと右手に剣の感触。途方もない大剣だが、重さを全く感じさせない。無意識に払った剣が、斬りつけた魔剣使いの剣を砕く。何が起こったのか判らないまま、ファングは剣を振るい続けた。その剣の当たるところ、槍はひしゃげ、剣は折れ、盾は焼きゴテをバターに押しつけるようにひしゃげた。
ファングの周りから敵が消滅するのに、それほど時間は掛からなかった。
●増援には増援を
一方、クロト達は無事要塞跡地に到着し、藍音がエックスレイビジョンで辺りを捜索していた。
「‥‥どう、藍音‥‥?」
「‥‥見つけました。けれど‥‥敵兵が中に数人いるご様子故‥‥大人数では‥‥」
「なら、私がやる‥‥」
そう言うと、戒那が跡地の傍に残る小屋へと忍び込んでいった。
残った二人はその場で敵が来ないかどうかの見張りとなるのだった。
「‥‥敵、確認‥‥」
そう呟くと、戒那は天井へと潜りこみ、一つの部屋へと降り立つ。
そして、見張りに立っていた一人の兵の喉元を掻っ切る。しかし、残りの一名に気付かれてしまう。
「貴様! 何処から入ってきたんだ!?」
「‥‥ッ!」
臨戦体勢を整えた瞬間だった。その兵はいきなり血飛沫をあげ、前のめりに倒れこむ。
其処にいたのは‥‥。
「どうやら、間に合ったようだな」
「‥‥スレナス‥‥様‥‥」
「其れより、彼らは?」
「‥‥‥‥軍師様、何処‥‥?」
「戒那!?」
「悠‥‥見つけた‥‥」
「獣勇士隊か、助かった! 早く縄を解いて外へ!」
ルキナスの言葉に従う戒那。二人を連れて外に出た時、一つの出来事が全てを覆していた。
「ねぇ、あれ見て!」
フォーリィが指差すと、王都方面と河の方向から無数の兵がフォルセへと進入して来ていた。
その部隊が冒険者達に近づいた時、ようやく其れが何か知る事が出来たのである。
「賊兵を制圧せよ! 王都の門を救え!」
スレナスの声が遠くより響く。王都の援軍の指揮はカイン・グレイスだ。二つの軍は共同して、それぞれ敵の征圧を開始するのだった。
「此れは‥‥援軍‥‥?」
「ルーケイ伯の命により参上した。後の制圧はお任せください」
一礼すると、スレナスも戦線へと向かって行く。
かくして、陥落危機は逃れたのだった。
さて混乱の中、崩壊する傭兵を後目に整然と馬を飛ばす一行が居た。道無き道を北へ向けて走って行く。
「クレア様。トルクが加勢するとは計算外です」
「言うな。所詮トルクとて同じ狢だ。だが、今暫く雌伏すべきだろう。まさかガイの勇士が三人も現れるとはな‥‥」
吟遊詩人の姿をした男は、静かにそう口にした。
●戦の後は‥‥
「‥‥酷く荒れたな‥‥」
「すまない。俺達が油断していたばかりに‥‥」
「気にする事ないッス♪ これで約束、果たせそうッスね?」
フルーレがそう言うと、ルキナスは力なく笑った。
彼女にとっては励ましだったのだが、ルキナスからして見れば今回は失態に繋がったと思っているようだ。
「ルキナスさん、この借りは騎士の誉れで返してもらいますからね♪」
「‥‥そうだな、其れは約束しないといけない事だな」
「フォルセのこれからの繁栄を‥‥祈ります。貴方がしっかりしなければ、誰が姫様のサポートをするのです?」
ニルナの一言で、ルキナスはようやく笑みを浮かべ頷くのだった。
「ったく! バカ悠! 簡単につかまってどーするつもりなのよ!?」
「仕方ないだろ!? 此れでも俺は非力なんだから! で、アルファ。‥‥どうしてこういう事態になった? 警戒はしろと言っていたはずだが」
「傭兵にも情報ルートの誤りぐらいはあるさね‥‥」
アルファが言うには、近いうちゲリラがこの街を襲うという情報はあった。其れは事実。
だが、方法が違っていたようだったのだ。
その情報は、吟遊詩人の男から貰ったものだという。
「その詩人‥‥怪しいな」
「とにもかくにも」
「まずは怪我人の治癒ですわね。手伝ってくださいます、ヴェガ様?」
「喜んで協力するのじゃ♪」
廻り出した歯車は、まだ動き出しただけにしか過ぎないのだ‥‥。