奪われた二人の軍師〜陥落危機

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:10人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2006年09月21日

●オープニング

「時は来たか‥‥」
 男の声が地下に響く。
 薄暗い通路。男の姿は見えぬ。
 ただ見えるのは通路にて座り込んでいる男の姿。
「準備の方はどうだ?」
「問題はない‥‥後はあの二人を攫うのみ」
「やれるのか?」
 もう一人の男の問いに、座り込む男に尋ねる。
「やれるさ。問題ない。‥‥見ていればあの二人が要。容易い」
 その男の声は何かを楽しむように聞こえていた。

「さて、執務は粗方終わったし。次は外回りでも‥‥」
「フォルセ軍師殿だな?」
「其れが何か‥‥」
 声をかけられたルキナスが振り返ると、彼の腹部に一つの衝撃が走る。
 ルキナスは声をあげる事もなく、その場に崩れ落ちる。
「軍師、頂いたり」
 男の声は笑っていた。
 男はルキナスを担ぐとそのまま闇夜へと消えてしまう。
 其れと同じ時刻。もう一人の要である人物も攫われてしまっていた。

 翌日。屋敷内は騒々しい事になっていた。
「ルキナス様がいないですって‥‥!?」
「はい‥‥心当たり全てを探したのですが、寝室にもお戻りになった形跡がありません‥‥」
「ちょっと、ユアン様っ!」
「ラ、ラシェルさん? どうしたんです、そんなに慌てて!?」
「悠知らない!? いないのよ、何処にも!」
 ラシェルのこの問いに、ユアンは事態を把握してしまったのだ。
 此れは、とんでもない危機だと。
「皆さん、落ち着いてください! 此れは‥‥二人の軍師がいなくなったという事は‥‥フォルセが危ないかも知れません!」
「どういう事ですの?」
「最近、誰の手回しでフォルセは動いていたと思いますか? ルキナスさんです。彼がいなくなったという事は、フォルセが機能しない可能性が‥‥!」
「誰かに攫われたって事?」
「可能性はあります。このフォルセの名物は二人の軍師‥‥真田隊である悠さんと、フォルセ軍師であるルキナスさん‥‥もしこのいない時に何かあったとしたら‥‥」
 ユアンの不安は益々増していく。
 悪い知らせが一つ入れば其れは続くものなのか。アルファが急いでユアンの執務室の扉を開ける。
「やばいぞ‥‥街中に見慣れぬ武装した奴等が布陣しているとの情報が入った。俺の仲間も全滅だ‥‥。此れは本格的に来るぞ‥‥ルキナスと悠は!?」
「‥‥最悪の状態です‥‥。守りに徹するにしてもルキナスさんの力が必要ですし‥‥」
「力に出るにしても悠の力が必要‥‥」
「‥‥プリンセスを頼るしかありません。フォルセ陥落の危機を回避出来るのはプリンセスしかいません。プリンセスの初のまともな執務となってしまいますが‥‥」
 ユアン達はうな垂れてしまった。
「実際、僕が考えて動ければいいのですが‥‥僕の体では‥‥執務すらままならないのに‥‥そうだ‥‥彼を! 僕のお友達がいますっ!」
「お友達‥‥? あのお方ですか?」
「はい! あの人を僕の補佐に‥‥! 僕の代わりに、色々と見て来て貰いたいです‥‥所謂、僕の眼に‥‥!」
 病弱な自分の代わりに動いたり、意見を出したりしてくれる人物。
 その役を、ユアンは唯一の友である彼にまかせようというのだ。
「後は、姫君が錯乱しない事を祈るばかりですわね‥‥」
 窓の外から街を見れば、其処には武装した集団が身を潜めている部分がある所も見える‥‥。

「おいっ! 放せよッ!」
「落ち付け、悠。こんな所で暴れたってどうしようもない。錯乱すればこいつ等の思うツボだ」
「おや。よくお分かりで。流石はフォルセの名軍師‥‥」
 男が闇の中でくつりと笑えば、ルキナスは唇を噛み閉める。
「何が目的だ?」
「目的? ‥‥フォルセを火の海で沈めるだけです。‥‥そう。このウィルを壊す事こそが全て‥‥私の‥‥ね」
「折角復興してきたってのに…!?」
「丁度いいではありませんか。‥‥聞けばこの街は王都の要となる場所‥‥尚更火の海に沈める事に意味が出ます」
 正体不明の目的。其れは一つ突けば脆く崩れるフォルセを陥落させる事。
 フォルセは王都の西門とも言われる場所。王都の者達が黙って見ているとは思えない。しかし‥‥。
「二人の軍師がいなければ何も出来ない街に、存在意義はない。大人しく殺され‥‥私が国の糧となってください?」
「はっ‥‥。こっちには心強いプリンセスがいるんだ。そう簡単には落ちないぜ?」
「そのプリンセスもまだ子供だと聞く‥‥他愛もないな?」
「俺達のプリンセスを甘く見てると、後が怖いってのに‥‥!」
 そんなルキナスを余所目に、吟遊詩人風の男は踵を返し外へと向かった。

「ルキナス‥‥此れからどうするんだ‥‥?」
「もう少し様子を見るぞ、悠。プリンセスを信じるんだ」
「判った。俺も少し考えてみる。‥‥彼女達を信じて、逃げ出せる考えを‥‥」
「其れに‥‥俺の姫もいる。あいつの言葉は、俺の言葉‥‥何とかしてくれると‥‥信じてる‥‥」
 そう呟いて、ルキナスは胸に下がった誓いの指輪を見やるのだった‥‥。

 人質にとられてしまった軍師二人。フォルセが陥落すれば、この二人の命もないだろう。
 全ての決断はプリンセスの小さな手の中に。
 フォルセ総攻撃まで後二日。残された時間はもう少ない‥‥。

●今回の参加者

 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4434 殺陣 静(19歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ルクス・ウィンディード(ea0393)/ クウェル・グッドウェザー(ea0447)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ ディアッカ・ディアボロス(ea5597)/ イェーガー・ラタイン(ea6382)/ イコン・シュターライゼン(ea7891)/ フィラ・ボロゴース(ea9535)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ エリザ・ブランケンハイム(eb4428)/ 難波 幸助(eb4565

●リプレイ本文

●城の中の戦い
「多いわね‥‥」
 そう呟いたのはクレア・クリストファ(ea0941)だった。
 窓の外を見て敵の数を確認している。勿論、真田勇士隊の位置も確認している。
「大丈夫かしら‥‥私達、勝てるかしら‥‥」
「心を剛く持て、何が遭ろうと決して諦めては駄目」
 クレアの言葉に少し沈黙を保ち、頷くルーシェとユアン。
 城の兵はそう多くはない。ルーシェの騎士とユアンの騎士、合わせて10もいかないのだ。
「‥‥せきにんじゅうだいなの。でも、がんばるの!」
「すみません、プリンセス。僕達がもっとしっかりしていれば‥‥」
「そんなことないの! みんなよくやってくれてたの! それより状況をききたいの」
「‥‥芳しくありません。住民は皆さんのお陰で何とか退避出来ましたが、即座に城は包囲されてしまいました‥‥」
「数は三十‥‥中にはウィザード、弓兵が数多くいるようです‥‥」
 ルーシェとユアンがそう報告するとプリンセスは困った表情を浮かべた。
 城を攻める敵方の部隊は、ウィザード・弓兵重視だという事。
 つまり、持久戦に持ち込めなければ此方に勝ちはないという事だ。
「布陣予定はこのとおりになります」
「‥‥そうですか。‥‥分かりました、此方もそう手配致します」
「城門、裏門に少量、内部に大半を残す。この通りに配置してくれると助かるな、兵を?」
 横からそう申し出たのは空魔紅貴(eb3033)だ。その言葉に小さく頷くとユアンとルーシェはすぐさま準備にとりかかるのだった。
「ルキナスさん、どうかご無事で‥‥」
「ゆかりちゃん、しんじるの。みんなをしんじるの」
「‥‥はい。今のあたしには其れしか出来ませんから」
 そう言って、軍師姫である麻津名ゆかり(eb3770)は首からさげた指輪を握り締めるのだった。

●戦闘開始
 二日目の夜明け直前。休んでいた冒険者達に大きな音が聞こえた。
 真田勇士隊が攻撃を開始した音だった。
「遂に始まったわね。バリケードは組めたかしら?」
「問題ありません。ストーンで強化もしておきました」
 イリア・アドミナル(ea2564)がそう言うと、クレアはゆっくりと立ち上がり拳を握った。
「こっちにも来るわね。布陣して迎撃するわよ」
「こっちも準備OKですよー」
「行くわよ!」
 こうして、クレア、イリア、ギルス・シャハウ(ea5876)は城門前に布陣するのだった。

「城門前が見えたぞ!」
「待て、人影だ‥‥!」
「そんなはずは‥‥兵は数多もいないと聞いたぞ?」
 敵兵である男達が口々にそう言う。
 遠巻きから見れば人影は三つ。しかもドンとど真ん中にて待ち構えている。
「冒険者か‥‥?」
「だとするならば警戒が必要だ」
 そう一人の男は呟くと魔法詠唱を開始する。
 その発動する光はクレア達にも遠くからではあるがうっすらと見えていた。
「アレは‥‥!」
「風魔法‥‥ですか!?」
「来るわよ!」
 クレアがそう叫んだと同時に竜巻が巻き上がる。ギルスはギリギリの所でホーリフィールドを完成させ、イリアと自分自身を防ぐ。
 威力はないものの、砂埃で視界が遮られた。此れは冒険者達にとっても、敵兵にとっても不利な状況となる。
「拙いですね‥‥こうも視界が悪いと‥‥」
「落ち着きなさい! 落ち着いて集中するのよ! 敵は何処から来るか分からない‥‥けど!」
 クレアがそう言っていると、砂埃の中から一本の矢が飛来する。ギリギリの所で剣で払い退けると飛んできた方角を見やる。
「相手の位置を把握出来るチャンスでもあるわ‥‥お前達に明日を見る資格は無い‥‥執行、開始‥‥」
 そう言うとクレアの腕がみるみるうちに伸びていく。ミミクリーだ。その方角にいた弓兵はその様子に慌てて逃げようとするもクレアの手に捕まえられてしまう。
 どうやらそれなりに近い距離にいたようで、その感覚で相手の距離を把握。そのままその方角へと走り出す。
「十三ノ法、幻夢朧月舞‥‥我が剣に間合い無し」
 手を元に戻すと、即座に相手の懐に飛び込む。弓兵もうろたえ、一瞬の隙を見せた。
 其れを見計らい、一気に斬り、裂き、薙ぎ払うクレア。其れは遠くから見れば戦場に咲く紅い華のように‥‥。
 弓兵は形もなく崩れ落ちる。
「外道の泣き声は聞こえない‥‥これぞ‥‥血華慟哭葬舞」
「やはり冒険者かッ!」
「構わん、諸共始末してしまえ!」
 クレアの荒業に驚いたのか、残りの敵兵達は総攻撃を仕掛ける。
 飛び交う無数の矢。そして、魔法の数々。此れでは近づけない。
 だが此方に被害はない。敵の亡骸とバリケードがあるのだから。
「こうなったら私が一気に片をつけてしまいますね!」
 イリアは詠唱を完成させるとファイアーボムを敵陣のど真ん中へと発動させる。
 半数の者が魔法によって倒され、火に飲まれた。
「続けてこれですっ!」
 鎮火を兼ねてのウォーターボムが高速詠唱により成される。
 魔法によるダメージを受けた者は、倒れていくのだった。
「ちっ‥‥! まだいるわ‥‥!」
「持久戦しか、ないみたいですね‥‥」
 ギルスは溜息をつきながらもそう呟くのだった。

●月魔法にご用心
「どーやら来たみたいだな、城門‥‥」
「そうみたいですね。此方にもそのうち来るかと思います」
「トラップの方は?」
 紅貴が尋ねると、殺陣静(eb4434)が小さく笑った。
「少しずらしておきました。此れで多少は引っかかると思いますが」
 閉ざされた門は氷で包まれていた。
 クライフ・デニーロ(ea2606)のアイスコフィンで封印されたのだ。
 此れで開く事は暫くないだろう。
 そんな時だ。どこかから歌声が聞こえてきたのだ。
「此れは‥‥?」
「全員、気をしっかりもてよ? こいつは多分‥‥」
「月魔法‥‥メロディー、ですか」
「厄介な相手が裏に回ってきてしまいましたか」
 そう言っていると、草むらより数人の黒服に身を包んだ者達が現れた。
 どうやら元領主の首を狙った者達と同じ暗殺者のようだ。
「ここは通行止めだ。通りたいなら他を渡れ」
「‥‥」
 紅貴の声に、反応しない。
 ただ任務を遂行するだけ。そんな雰囲気が感じとれた。
 其れと同時に戦端がきられる。
 一人の暗殺者が紅貴へと突貫する。ふわりと空を舞い、陽の光を遮断するかのように。
「来たか!」
 紅貴もとっさに攻撃態勢を整え、迎撃する形をとる。
 しかし、暗殺者がクツリと笑った事に違和感を感じた。
「しまった‥‥此れは‥‥ッ!」
 気を逸らされてしまったのが悪かった。
 目の前に来ればそれに目を奪われる。咄嗟の出来事ならそうなる。
 その暗殺者の後ろから飛んできた魔法。
 其れは、大地を揺るがしながら真っ直ぐに飛んできた。
「ぐっ‥‥!」
「紅貴さん!」
「あれは‥‥グラビティーキャノン!? しかも味方を巻き添えにしたと言うんですか‥‥!?」
 静はそう叫ぶと咄嗟に思考をフル回転させた。
 月魔法は攻撃手段は多くない。つまり、月魔法所持者が気を逸らせれば‥‥もう一つの魔法で味方ごと敵を飲み込めるという事。
 暗殺者は、手段を厭わない‥‥。
「クライフさん、警戒してください! 此れは大きな誤算でした‥‥月魔法の暗殺者が3人、別魔法所持者が一人いるはずです!」
「相手は四人‥‥しかし、今のは一体誰が‥‥ッ!?」
 グラビティーキャノンの巻き添えを喰らった暗殺者は少しフラフラとしている為区別はつく。
 しかし残り三人は無傷。どう区別をつければいいか分からない‥‥。
「バカ! 今考えるな、来るぞ!」
 ボロボロになりながらも起き上がった紅貴が叫ぶも遅い。
 もう一人の暗殺者がクライフの詠唱をムーンアローで妨害しているのだ。
 勿論、静も妨害にあっている。紅貴は、残り二人と対等する。
「なーるほどな‥‥此れが絶対絶命ってヤツか」
 別魔法所持者を倒さなければ、勝ち目はない。いちかばちかの勝負に出る事となった。
 紅貴はまずクライフの行動を阻止している暗殺者の懐へと飛び込む。
 勿論、詠唱するヒマを与えずに。
「まずは一つ!」
 鳩尾に拳をめり込ませ吹き飛ばす。その間にクライフが詠唱を完成させる。
 スクロールでアイスチャクラを素早く生成し、紅貴と対等していた暗殺者へと投げる。
「‥‥!」
「かかりましたね。其処、トラップです」
 静が不敵に笑う。暗殺者はアイスチャクラを回避しようと一歩移動したのだ。
 其処には丁度静が仕掛けたトラップが存在していた。そして、その状態でクライフがアイスコフィンで動きを封じる。
 連携のお陰でギリギリ、形勢逆転となった。
「さぁて‥‥後はお返しだけだな?」

●プリンセス・レン
 城外は既に戦火の音が飛び交っていた。
 そんな光景を眺めながら、レン・ウィンドフェザー(ea4509)は一つの吉報を待っていた。
 その後ろでは大きな地図を机に広げ、ゆかりとユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が作業にあたっていた。
「番号はこれでいいかの?」
 地図を確認しながら簡単な絵を描き、地区ごとに番号を割り当てていくユラヴィカ。
 その番号を確認すると、ゆかりはコクンと頷く。
「絶対にあたしが探し出します。あたしの大事な人ですもの‥‥絶対に、絶対‥‥」
「ゆかりちゃん‥‥」
「大丈夫です。あたしはやれる事、やる事をするだけですから」
 そうレンに告げると、ゆかりはバーニングマップで地図を燃やしていく。
 その地図はルキナスが描いたもの。ルキナスの情報を深く思い描き、地図を燃やしていく。
 その間、バルディッシュ・ドゴール(ea5243)が一人気になる人物を見つけていた。
「ユアン、あの侍女なのだが‥‥どうして一人だけ残っている? 他の侍女は?」
「其れが‥‥他の侍女達には理由を告げて避難して貰ったのですが、彼女だけは嫌がってしまって‥‥」
「この非常事態なのにか?」
「はい‥‥どうしても持ち場を離れたくないと‥‥僕の事を心配してくれての事だと思っているのですが‥‥」
「おかしいな。普通なら、まずは自分の身を考えるはずだ」
 バルディッシュは、ゆかり達の作業が終わるまで彼女を監視する事にした。
 勿論、作業が終わればユラヴィカにも手伝って貰うつもりだった。
「出ました! 此れは‥‥番号で言えば4ですよね‥‥?」
「そうなるのぅ。という事はこのルートは‥‥」
「分かりました! ルキナスさん達は要塞跡付近にいます! 間違いありません!」
 ゆかりがそう言うと、レンは待ってましたと言わんばかりにとてとてと風信機へと向かい、魔力を宝石に込める。
「真田隊のみんな、わかったなの! ようさいあと付近にるーちゃんとゆーちゃんがいるなの! しきゅうむかってほしいの!」
『了解! 頼むぞ、クロト!』
 向こうの声を確認すると、レンはユアンの方を見た。
 ユアンも何の事か察知出来たのか、各所の報告へと向かう。
「城門はどうやら大半を凌げたようです。裏門はギリギリといった所でしょうか。予定外の敵も多くいたようです」
「ルーシェ、しょうにんさんたちは!?」
「私の騎士と無事合流し、城に保護する事に成功致しましたわ」
 ルーシェがそう言うと、レンも安堵したように椅子へと座る。
 初執務がこのような激務になるとは彼女も思っていなかった事だろう。

「‥‥いいわね? ちゃんと伝えるのよ‥‥?」
「其処までだ、お嬢さん」
 侍女が行動に出ていたのだ。伝書鳩を飛ばそうとしている侍女にバルディッシュがすかさず声をかけた。
 バルディッシュの隣にはユラヴィカもいた。
「どうもおかしいと思ったのじゃ。侍女が、しかも一人だけ残ってるなんてのぅ」
「内通者はキミだったというわけだな」
「‥‥くっ!」
 取り押さえられる前に、侍女は伝書鳩を空へと放った。
 其れにハッとすると、バルディッシュが侍女を押さえ込む。が、鳩は既に天高く舞い上がっていた。
「くそ‥‥してやられたか‥‥!」
「一体相手は何者なのじゃ? 大人しく教えてくれれば‥‥」
「あっ、あたしは知らないわよ! ただ頼まれただけなんだから!」
「頼まれただけ?」
 バルディッシュが聞き返すと、侍女は大きく頷いた。
「あたしはウィルの愛国者よ。フオロ家が倒れれば、きっとジーザム陛下が良い政治を行ってくれる。トルクのゴーレムに対抗するために、気味の悪い魔獣を集めているフオロやルーケイの勝手にはさせないわ」
 つまり、良くも悪くもルーケイの殲滅戦がウィルの各分国に与えた衝撃は大きかったと言うことだ。あの戦ではゴーレムの活躍が目立ったが、ゴーレムはトルク家が技術を押さえている。トルク家に依存する戦力でトルク家に対抗することは出来ない。そうすると、残るは二つ。魔法部隊と魔獣部隊だ。それさえ封じればフオロの滅亡は近い。
 既に覚悟を決めているのか、侍女はべらべらと恨み言を交えた心の中の一切を吐き出す。鎖での散歩前のフロストウルフの檻に、石をぶつけて興奮させたのも自分だと白状した。
「じゃあ、なんでふぉるせをこうげきするの? あいつらはだれなの?」
 レンが詰問する。
「おぬし、何を企んでおるのじゃ」
 集まってくる冒険者達。侍女は後ずさりして窓を背にする。その顔がにやりと笑った。
「きゃあ! 待って! 早まらないで〜!」
 イリアの声も空しく、侍女はゆっくりと、伝書鳩を放った窓の空間に身を預けた。ゆっくりと落ちた侍女は、ウィンターフォルセの大地を朱に染めて、その生涯を終えた。

「‥‥そう簡単に尻尾をつかませてはくれない、か‥‥」
「仕方ないのじゃ。問題はあの密書なのじゃ。アレが敵に回ると‥‥」
「大変! 大変ですっ!」
 ユアンの声が、城内に響いた。

「どーしたの!?」
「先程、僕の騎士が偵察より戻ってまいりました! ‥‥その騎士の報告によれば、敵増援‥‥数は五十以上だと‥‥」
 驚きの声も出なかった。やっとあれだけ排除したのに、やはり増援部隊がいたのだ。
 後詰め部隊により、またもやフォルセは包囲されてしまった。そういう事になる‥‥。

●希望は最後に‥‥
「どうしましょう‥‥此れでは、持久戦で有利になる事はまずありえません‥‥」
「相手の方が一枚上手だったのかのぅ‥‥」
「じょうほうはききだせたのー?」
「ダメだったのじゃ。どうも傭兵を使っておるみたいでの。‥‥嘘でもないようなのじゃ」
「手詰まり‥‥ですか?」
「いや、待て。‥‥何か聞こえる‥‥蹄の音‥‥?」
 城門裏より響く蹄の音に、バルディッシュが気付いた。
 そして、一つの足音が近づいて来るのにも。
「ご無事ですか、フォルセ男爵殿!?」
 勢いよく開かれた扉。其処にいたのは意外なる人物、カイン・グレイスだった。
「なっ‥‥!?」
「なんでここに!?」
「エーガン陛下、並びにジーザム陛下より、王都の門を死守せよとの命がありました。御助成致します」
 窓の外を指差すカイン。レン達は外を見ると、其処にはフオロとトルクを初めとする各分国の騎士達が揃い踏みしていた。ウィル杯関係で分国王に随行して来た騎士の姿もあった。この、体裁的にはウィル連合軍とも言うべき彼等が戦闘に加わり、敵は算を乱す。
「此れは‥‥」
「王都の兵だけではありません。ルーケイ伯の命により、ルーケイ軍も河よりこちらに参いっている次第です。すぐに賊を鎮圧して参りますので、どうぞご安心ください」
 カインは深く礼をすると、踵を返す。そして、自分も戦場へと向かうのだった。

 傭兵達が壊乱し本格的な鎮圧に移行すると、大河の方向から現れたルーケイ軍の指揮はスレナスからプリンセスの父君シン・ウィンドフェザーや陸奥勇人ら前線で戦っていた者達に引き継がれ水をも漏らさぬ捕縛に変じていた。
 ただ、傭兵たちが崩壊する直前に、陣を離れ北へ向かった一団が居た。恐らく奴らが今回の事件の首謀者であろう。彼等が向かった先は判らない。ただ、北方領主の中にはフオロ家に怨みを抱く者も少なくない事は公然の秘密であった。

 かくして、フォルセ陥落は危機一髪で回避されたのだった。

●もう一つの吉報
「あー‥‥疲れたわ。でも、フォルセが無事でよかったわー‥‥」
「お疲れさまなのじゃ、クレア」
 ユラヴィカが外から帰ってきた者達に冷たい水を差し出して回る。
 激戦の後なのだ、疲れが溜まっている事だろう。
「ま、其れはそうとして。ゆかり」
「はい?」
「‥‥吉報よ。さっき、スレナスさんから聞いたんだけど‥‥軍師殿は無事保護されたって」
 クレアがそう言うと、ゆかりは目に大粒の涙を溜めて安堵するのだった。
 ただ彼の無事だけを祈り続け、戦い続けた軍師姫も今だけは女性と‥‥。
「それはそーと、もう一つ処理しなきゃならないことがあるのー」
「えっと‥‥彼女の事ですか?」
 ユアンが尋ねるとレンは大きく頷いた。
 ユアンが先日、慰めた女性の事である。
「あのそうどうのしんぱんはー‥‥もーちょっとおちついてからする事にするのー。まずはみんなの無事をいわわなきゃー」
「後は、瓦礫掃除ね?」
「もちろんなのー♪」
 レンの言葉に反対する者はいなかった。
 此れもプリンセスの人望によるものである。

 冒険者達は暫しの時間休息をとり、瓦礫と亡骸の掃除の為。そして、民達を迎えにいく為、荒野に立つのだった‥‥。