双子の海賊〜初めてのお使い
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月02日〜10月07日
リプレイ公開日:2006年10月06日
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●オープニング
青い海。青い空。しかし、今回は陸の上。
接岸して船の整備をしている船員達。勿論、船員は全員海賊である。
船の横っ腹とマストにはドクロのマーク。船員達は一生懸命船を磨いたりしていた。
「ほら! 其処汚れてるよ! しっかり荒いなよ!?」
「へい、船長!」
「だからあたしが姐御なのよ!!」
元気な娘の声と、バキリと鈍い音がその大空に響く。
この海賊船の頭を務めているカーリー。女船長でありながら、財宝と力を求める女性。
シュピーゲルの一員でありながらもずっと海賊を続け、海を旅している。
「ちょっ‥‥姉貴! 今の鈍い音なんだっ!?」
「あら、少し殴っただけよー? 愛の鞭ってヤツ?」
「殴ったって‥‥うーわー!? 船板割れてんじゃんっ!」
船長の弟で副船長のテオ。女に見間違えられるその容姿は、女性服がよく似合う事だろう。
海賊をしている事が信じられないぐらいである。
どうやらカーリーが殴った船員が使うはずだった船板を殴られた衝撃で割ってしまったようだ。
「これじゃあ使い物にならないよ、姉貴‥‥」
「あ、あたしの所為なの!?」
「この前、ナルシストな男をタコ殴りにしたばかりなのに暴れないでくれよ‥‥」
「し、仕方ないじゃない! ストレス溜まってたから‥‥!」
「はーいはいはい。もう分かったから。姉貴、船板仕入れに王都まで行くよ」
テオがそう言うと、カーリーは少しぶーたれた。ここから王都まで向かうのに三日はかかるのだ。
帰りは向こうで馬が借りれるであろうから問題はないだろうが、向かうのに苦労するのである。
「それとも、このままで船走らせるつもり?」
「‥‥判ったわよ! 行けばいいんでしょ、行けば!?」
実はこの姉のカーリー。
‥‥王都に行くのは初めてなのである‥‥。
それから三日後。双子の海賊は王都に到着していた。
「それじゃ俺は此れから船板仕入れにいってくるから、姉貴は食料確保しといてくれよ?」
「はーい。‥‥まったく、何であたしが弟に指図されてんのかしら?」
ぶつくさぶーたれながら歩いていると、一人大変そうなシフールが視界に入った。
大きな荷物が数個置かれており、その荷物の上に困惑した様子で座っていた。
(「係わり合いにならない方がいいわよね‥‥」)
通り過ぎようとするカーリー。しかし、シフールは深い溜息をついている。
その様子は本気で困っているようだった。
(「一体どうしたのかしら‥‥? 凄い荷物の所に座ってるし‥‥。ダメ! ダメよ、あたし! 関わっちゃダメ!」)
完全に通り過ぎようとした時。‥‥やはり彼女に無視は無理だったようだ。
本気で困っている様子のシフールの前に立つと、声をかけるのだった。
「一体どうしたの? なんか深い溜息ついてるみたいだけどー?」
「実は配達のお仕事をしていたのはいいんだけど‥‥こんなに大きな荷物を届けるようにって、一気に来ちゃって‥‥」
「手紙配達だけじゃないのねぇ?」
「手紙の配達は別のシフールよ。私は商業向けの連絡係してたんだけど‥‥荷物まで頼まれちゃって‥‥」
「この荷物、シフールじゃ流石に無理よねぇ。何処に届ければいいの?」
遂に言ってしまったこの一言。カーリーの一言により、シフールは明るい表情を浮かべる。
勿論、手伝ってくれると思いこんでしまったようである。
「あのね、此れは商店街の方で、此れは冒険者街。後此れは教会で‥‥」
「‥‥え、えーと‥‥?」
「配り終わったら酒場まで来てね! お礼するから! それじゃあお願いねっ!」
「ちょっと! あたしは王都初めてで‥‥!」
カーリーの言葉も聞かず、シフールは行ってしまった。
一人荷物と共に立ち尽くすカーリー。仕方なく配達の仕事をするのだった‥‥。
「‥‥姉貴、遅いな‥‥」
街の入り口で船板を手に馬二匹と待つテオ。
彼は姉の苦難を知らない‥‥。
●リプレイ本文
●王都の門でバッタリと
「では、手筈どおりに。気まずい演技とかはなしであやしまれないようにな」
「了解。先陣は頼む」
「ん? テオじゃないか?」
王都の門の前で、ぽつーんと立っているテオに鳳レオン(eb4286)が声をかけた。
聞き覚えあるその声に、テオもくるりと振り向く。
「あぁ、君はこの前の。随分とお世話になったね」
「いや、別に世話というほどの事は‥‥」
「で、可愛い女の子は何に困ってるのかな?」
「あたしはティアイエル、宜しくね♪」
「‥‥えーと。‥‥俺、男なんだけど」
「貴方、男の子だったの!? こんなに可愛いのに‥‥」
真実を知ったエルシード・カペアドール(eb4395)とティアイエル・エルトファーム(ea0324)が驚きの声をあげる。
その声に、テオは苦笑いを浮かべるのみだった。
「海賊のお前がどうしてこんなところで?」
「其れが‥‥姉貴が船板ぶち壊しちゃってさ。ついでに食料も買い込みに来たんだけど‥‥姉貴が帰って来ないんだ」
「カーリーさんが?」
「そう。多分俺の予想では素敵に迷子体験してると思うんだ。食料買い込むだけならそんな迷わないんだけどなぁ、ここ‥‥」
「手伝おっか? 私達、探す事ぐらいなら出来るよ?」
「悪いけど頼めるかな。俺は姉貴が来るかも知れないから此処にいるよ。姉貴見つけたら首根っこひっ掴んででも‥‥」
「判ってる、判ってる。それじゃあみんな、いくか」
そう言うと、レオン達は街の中へと入っていくのだった。
双子の姉であるカーリーを探す為に‥‥。
●街角でバッタリと
「どうだ、いそうか?」
「‥‥うーん‥‥其れらしき人はみあたら‥‥いた!」
龍堂光太(eb4257)の視線の先には荷物沢山と女性の姿。地図と睨めっこしている様子。
其れを見て少し微笑ましく思うのだが本人は困っている事だろう。
「見失わない間に行こう」
光太がそう言うと、仲間も其れに同意する。そして、カーリーに近づくのだった。
「あれ? カーリーさん? こんな所で何を?」
「! ちょーどいいとこに来たわ! すっごく助かったわよ!」
「困ってそうなお兄ちゃん発見♪」
カーリーの後ろから抱きつくチカ・ニシムラ(ea1128)に流石のカーリーも驚いて振り向く。
しかし其処には悪気のない少女の顔がある為、何時もの如く蹴りは出来ない。
「うに、どうかしたにゃ? 何か困りごとにゃ? おに‥‥じゃなくてこの感触はお姉ちゃんかにゃ?」
「何時まで引っ付いてるわけ!? いーから離れてよッ!」
「‥‥元気のいい女性だな?」
「‥‥海賊さんですからね‥‥」
バルディッシュ・ドゴール(ea5243)の言葉に辰木日向(eb4078)がそう返す。
今でも自分達の目の前にはぎゃいのぎゃいのと騒いでいる一人の女性がいるのだから‥‥。
「それで、どうしたんだ? そんなに大きな荷物‥‥」
「頼まれたのよ。まったく、あたしったらついてないわ‥‥なんでこうも困ってる人助けてしまうのかしら‥‥」
「私もよくそういう事になる事がある。おたがい気をつけねばならないようだな?」
一文字羅猛(ea0643)がそう言うと、カーリーは深い溜息をつく。
その間にチカが地図を見たり荷物を見たりしている。
「これを配達するの?」
「そうなのよ。でもあたし王都って‥‥その‥‥‥‥初めて、なのよ‥‥」
小声でぶつぶつと言うかの如く。顔を逸らしながらカーリーは言う。
其れを微笑ましく思ったのか、光太はちょっと笑ってカーリーの肩を叩いた。
「手伝うよ。王都の事なら僕達の方が詳しいし」
「そう! その言葉を待っていたわけよっ! これであたしも苦労せずに済むわっ!」
「大きな荷物はロバに積めばいい。‥‥連れてきて正解だったようだ」
「助かるわー。じゃ、まずは冒険者街ってとこからね!」
「其れなら私達も利用してますからすぐ分かりますね」
「手分けして配達するか」
羅猛がそう言うと、冒険者達はコクンと頷くのだった。
●迷子探し
「カーリーさ〜ん! 弟のテオ君が迷子になってるわ〜! 至急名乗り出てちょうだ〜い!」
カーリー探しを頼まれた冒険者達が向かったのは冒険者街。
まさか此処に迷い込んでいる事はないだろうと言う話もあったのだが、迷子の力というものは凄いもの。
時にはこういった場所にまで歩を進めるという。
「しかし、カーリーさんってどういった人でしょうか?」
「元気で賑やかな奴だよ。寧ろあっちの方が男に見えるぐらいだ」
「つまりは、テオさんとは正反対という事ですか?」
「ああ。本当に賑やかで男勝りでそれでいて男に見え‥‥」
ポーレット・シルファン(eb4539)にそう教えようとしていたレオンの言葉が蹴りによって遮られた。
その背後に立っていたのは怖いぐらいの笑みを浮かべているカーリーと、後ろであちゃあ‥‥と顔を抑えている光太の姿。
遠くに仲間の姿を見つけた為、声をかけようと近づいていたようだ。
「で、レオン? だーれーが。男に見えるって?」
「い、いや。今のは言葉のアヤというヤツで‥‥!」
「問答無用! こうなったら意地でも手伝って貰いますからね!?」
「‥‥最初から手伝わせる気あったんじゃ‥‥」
「何か言った!?」
カーリーが怒鳴ると、レオンも流石に首を横に振る。
そして、ポーレットも何となく男に見えるという言葉を理解したようだった。
ここまで男勝りだとは思っていなかったようで。
「それにしても、お前お人よしというかなんというか‥‥」
「悪かったわね! 断り切れなかったのは仕方ないじゃないの!」
「まぁまぁ‥‥とにかく、今は荷物を無事配達する事が先決だろう?」
「そうだな。では猛羅と私は配達に戻るか」
「僕とチカさんはもう一つの方、商店街方面に行こう」
「じゃ俺達は民家の所に配達してくるな? キリード、カーリーを頼む。絶対に歩かせるな?」
サイ・キリード(eb4171)がはぁいと返事をすると、レオン達はそれぞれの配達地域へと向かう。
カーリーは少し不満げにして座っているのだった。
「‥‥不機嫌ですか?」
「少しね」
「ストレス、ですか?」
「多分」
「海賊って、楽しいですか?」
キリードがそう尋ねた瞬間、カーリーの表情はぱぁっと明るくなった。
そした語り始めるのだった。
「楽しいわ! とっても楽しいわ! あたし達はね、海賊に拾われて育ったの。その人は凄く優しくてカッコよくて、だからあたし達も海賊になったの」
「へぇ‥‥立派な海賊さんが目標ですか?」
「そうよ。海賊らしい事は確かにしていないけれど‥‥でもあたしは毎日が楽しいわ。みんなで海の上で、わいわいやるの。目的のお宝見つけて喜びを分かち合うの。あたし、海賊になってよかったと思ってるわ!」
彼女には彼女の夢があるのだと、キリードは思った。
確かに海賊というのは悪い意味で怖いという者達が多い。
しかし、カーリーは違う。志と目標を持っているのだ。
「そっち、終わった?」
「終わりました。無事に届ける事が出来ましたね」
「あぁ、急いで戻ろう。カーリーが多分ヒマしてるだろーから‥‥」
●弟との合流
「姉貴!」
「テオ。ただいま」
「ただいま、じゃないよ! 一体今まで何処に‥‥!」
「まぁ、色々あってな」
猛羅がロバからカーリーの馬に食料を移し変えながら苦笑いを浮かべる。
光太達の顔を見て、テオはようやく全てを把握した。
「やっぱり迷子になってたんだな、姉貴‥‥?」
「う、煩いわね! ほっといて頂戴!!」
「そうだ、忘れる所だったが‥‥」
バルディッシュが一つのシルクのスカーフをカーリーに渡す。
カーリーは少しきょとんとしてスカーフと彼を交互に見る。
「何か目立つ物を身につけておけば弟と間違われる事も少なくなるだろう。それにこれからの時期は寒さも厳しさを増す。首にマフラー代わりに付ければ多少は違うだろう」
「‥‥へぇ。ありがと。頂いておくわ。つけるかどうかは別だからね?」
「素直じゃないんだから、姉貴は‥‥」
「其れと‥‥ストレスが溜まっているようだな?」
バルディッシュの言葉にピーンとカーリーが反応した。
彼の表情をじぃっと見つめると口元だけでニヤリと笑う。
「えぇ、とーってもストレス溜まってるわ」
「ならば手合わせなどどうか?」
「あたし、強いわよ?」
「其れなら私も負けてはいない」
バルディッシュがそう言うと、カーリーは
「決まりね」
とテオの方へと振り返った。
「テオ、先に戻ってなさい」
「姉貴!?」
「大丈夫よ。あたしはこの人とすこーし遊んで帰るわ」
カーリーのその言葉に、テオはやれやれとうな垂れた。
彼女も女性である前に海賊。闘争本能も男並にある。
そんな彼女を止めれるとは思っていない。
「じゃ、俺は先に帰るよ。光太、レオン、猛羅。姉貴の事頼む。ムチャしかねないから」
「あぁ、面倒は見ておく事にしよう」
「無事に其方に向かわせますね?」
「‥‥姉貴、ほんっと気をつけてな?」
そう言うと、テオは一人馬に乗り船へと戻るのだった。
その後、バルディッシュとカーリーが激しいまでの手合わせをしたのは言うまでもない。
結果は引き分け。
海賊とは言え陸では弱いという事はなかったという‥‥。