●リプレイ本文
●ファームの風
「あらぁ♪ みなさんいらっしゃいですぅ」
「ご無沙汰でござる、マリス殿。お元気そうで何より」
「はぁい♪ 元気百倍なのですよ〜♪」
「あの、マリスさん。相談があるんですけど‥‥」
「はぁい?」
「ユアンくんを犬そりに乗せて上げる事、出来ませんか?」
麻津名ゆかり(eb3770)が尋ねると、マリスは顎に人差し指をあてて考え込んだ。
どうやらユアンの事やらを考えているようだ。
「そうですねぇ。近場に小さな坂がありますし〜。そこでやれると思いますよぉ? そういえばぁ、他の皆さんは〜?」
「フォルセの子供達の所でござる。どうやら遊びたがっていたようでござるから」
「なるほどぉ♪ では、皆さんが来る前にパンでも用意しますですぅ♪」
そう言うと、マリスは二人の青年にソリの作成を言い渡し、自分は台所へと向かうのだった。
●フォルセの子供達
フォルセの広場。一人の女性を真ん中にし、数名の子供が輪を作っていた。
「私達、しばらくファームの方に犬達と一緒に滞在するの。良かったら犬達と遊びに来ない?ただし、心配されるといけないから保護者の方の許可はちゃんと取って来て頂戴ね」
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)だ。
以前、フォルセの子供達が犬と遊びたいと聞き、遊ばせてあげたいと思ったのだ。
これは勿論、マリスの許しも出ている。是非にという事だった。
「ほんとに〜? 遊びにいけるの?」
「えぇ、いいって言ってくれているわ」
「わぁい! 今からお母さんの所いってくる!」
「僕もー!」
「私もー!」
「人が少ないのは個人的には感謝したいですけど、依頼人様にとっては少々残念ですよね」
「そうかしら? 子供達がいるから、大変よ?」
子供達が走って行くのを眺めながら、イシュカ・エアシールド(eb3839)にそう言うジャクリーン。
後で子供達ばジェンドに連れられて来るのだった。
「後はルキナスさんだけかしら」
「其れは今から来るゆかりさんに任せた方がいいでしょう」
「そうね。じゃあ、みんな行くわよ?」
『はぁい!』
子供達は元気に返事をする。
よほど犬と遊べるのが嬉しいのか、みんな笑顔である。
ジャクリーンは喜んでいた。この笑顔がずっと見ていられれば‥‥。
其れは何時しか願いにも変わっていくのだった。
●軍師と姫と‥‥
「ったく‥‥なんでこんなに溜め込むんだ、あいつは‥‥」
「仕方ありませんよ、彼もまだ子供だという事なんですから」
ファームからフォルセの城へとルキナスを手伝いにきたゆかりがそう言うと、ルキナスは頭を抱えるのだった。
目の前には山のような資料。どうしようもないといった感じである。
「さっさと片付けてしまってファームへ行きましょう。皆さん待っててくれてますよ?」
「‥‥犬が、だろ?」
笑って言うルキナスに、ゆかりは小さく笑みを浮かべる。
どうやら犬嫌いは順調に治ってきているようだ。
「さて、後はこの報告書を各所に渡すだけ‥‥っと。残りの執務は俺が代理でやるとバレるから、ユアンにやらせないとな」
「手伝いましょうか?」
「ルーシェの所にお願い出来るか? 俺はプリンセスの執務室にもっていくから」
指差された場所には少し分厚い報告書。
女性一人では難儀ではあるものの、ゆかりは快く其れを引き受けた。
ゆかりには行きたい場所があったのだ。
彼と二人で、行きたい場所が。
「では、これだけお持ちしますね」
そう言って、ゆかりは書類をもって執務室を出た。
そして、道行く兵に笑顔で場所を尋ねながら、ルーシェが待つ執務室へと辿り付く事が出来たのである。
「失礼します、ルーシェさん」
「あら、ゆかり様? どうして貴方がこの書類を?」
「ルキナスさんのお手伝いです。はい、これがその書類です」
「助かりましたわ。これですぐに作業に取り掛かれます」
「復興費用とかの方は十分に気をつけてくださいね? 一応、無駄がないようにはしておいたんですけど」
ゆかりがそう言うと、ルーシェは一枚書類を手にして目を通した。
其処にはびっしりと書かれた金銭の計算。
無駄は何一つない。今のフォルセに必要なものだけが書かれていた。
「ご立派ですわ。これで暫しは大丈夫ですわ」
「助けになったのならよかったです♪」
「ルキナス様もいいお嫁様を見つけましたわね。仕事も出来るし笑顔も素敵。まさに女性の中の女性ですわ」
「そ、そんな‥‥」
「ゆかり様、ルキナス様のコトよろしくおねがいいたしますね?」
ルーシェの言葉に無言で頷き返事をするゆかり。
女同士の友情、此処に出来るのだった。
「そう言えば、ユアン様がファームに行かれるというのは本当ですか?」
「あ、はい。お散歩に行くって‥‥」
「では、これを彼にお渡しになってくださいます?」
渡されたのは手作りのローブ。子供用で、ふかふかと暖かい。
ゆかりは少し笑顔を浮かべ、頷いてルーシェの方を見る。ルーシェは少し赤くなっているようだった。
「もうそろそろ寒くなる頃ですから、ユアン様に‥‥と思って‥‥」
「‥‥ユアンくん、喜ぶと思いますよ」
「そうかしら。そうだといいのですけれど」
ゆかりは何かを察しながら、ルキナスと二人でファームへと向かうのだった。
●ファームで散歩
「元々が草原ゆえ、芝生に困らぬというのは良い環境でござるなぁ」
「そうでしょう〜? ふふ、ルキナスさんが選んでくれたんですよぉ」
「なら立地条件はいいのでござろうなぁ」
封魔大次郎(ea0417)は嬉しそうにうんうんと頷く。
そして、傍には子供達がいる。
「犬というのは、喋る事は出来ませんが驚かせたり意地悪したりすると、人のお友達と同じ様に悲しみますし、時には驚いて噛んだりする事もあります。お互い楽しい気持ちで過ごす為に優しい気持ちで節してあげて下さいね」
「はぁーい!」
「お姉ちゃん、あれなんていう犬ー?」
子供が興味をもったのはユアンのレセリアである。
可愛い瞳に魅入られたようだ。
「あれはちまわんこというのです。チキュウから来た犬なんですって」
「わぁー! 可愛いー!」
「ねぇ、触っていい?」
「え? あ、は、はいっ」
子供達が寄ってくると、ユアンは少し戸惑いながらも会話をかわす。
子供というのは凄いものだ。初めて見た人でもすぐに仲良くなれるのだ。
勿論、男爵というのは内緒のお話である。
「子供達は子供達で遊ばせておくとして、私達ものんびりしようか!」
青海いさな(eb4604)がそう言うと、ソード・エアシールド(eb3838)がゆっくりとマリスに近づいた。
「あら〜? どうしたんですか〜?」
「ペットファームの改良が必要なら手伝いたい」
「あら、其れは頼もしいですねぇ♪ その時はお願いしてもいいですかぁ?」
そう言うと、ソードの頭をよしよしと撫でるマリス。
マリスにとって誰かの頭を撫でるという事は親愛の意味を持っている。
というか、深い意味は本当にない。
「そう言えばマリスはずっとここで暮らすつもりなのかい?」
「はい〜♪ だって、ここが一番好きですからぁ♪」
「そういえばソリ、ねぇ‥‥養娘が小さい頃手作りした事はあったが日曜大工の域出なかったし。いいもの作るなら、ルキナス殿、助言願えないか?」
「ソリ? あぁ、近くでやるのか? 作るんだったら俺とマリスが作るぜ? なぁ、マリス?」
「はい♪ 私とルキナスさんがいればぁ、問題ないのですぅ♪」
笑顔を作る二人。しかしゆかりは浮かない顔。
やっぱり二人の間に特別なものがあるのか。不安は募るばかりだった。
其れとは別にいさなはとあるコトを考えていた。
そう、わんこ達と共に‥‥。
「しかし、彼女にそんな体力仕事が出来るのか?」
「ソードは見てるといいぜ。マリス、頼むぜ」
「はぁい♪」
ルキナスが頼むと、マリスは笑顔で承諾。ソードは彼女に斧が持てるのかと心配していたのだか‥‥。
「えいっ♪」
ズバンッ!
物凄い音がすると同時に目の前に置かれた丸太は真っ二つになっていた。
これぞマリスの日常業、素手割りである。
彼女は毎日こうやって丸太等を割っているのだ。
「す、凄い‥‥」
「マリスは昔からバカ力だからな。あぁ、マリス。組み立てはこの通りにやってみてくれるか?」
「取っ手がついてるのですねぇ♪ これなら安全そうですぅ♪」
「俺はちっとばかし行ってくる。‥‥拗ねてそうだし」
「はぁい。仲良くしてきてくださいねぇ」
ルキナスを見送ると、マリスはテキパキと作業を続けていく。
其れを見守っているソードに視線を一度やると、ニコリと笑みを浮かべる。
「手伝ってくださいますぅ?」
「あ、あぁ。元からそのつもりだったし‥‥」
「じゃあ人数分作ってしまいましょう♪ いい記念になりますよぉ」
こうして人数分作られたソリは子供達に与えられ、子供達とユアン。そして犬達はそれで一緒に遊ぶのだった。
「ほれ、ユアン殿。風邪をひかんようにせねばのぅ?」
「あ、ありがとうございます、ヴェガさん」
「此れも着てみるといいですよ」
ゆかりがルーシェに手渡されたローブをユアンに渡す。
ユアンは嬉しそうな様子で其れを羽織ると、少し顔を赤くするのだった。
「‥‥あ、あの! ゆかりさん! こ、これって‥‥」
「はい?」
「‥‥い、いえ。なんでもないです‥‥!」
ユアンの様子がおかしいコトに気付くゆかりとヴェガ・キュアノス(ea7463)。
ゆかりはヴェガにルーシェのコトを話すと、ヴェガも微笑ましく笑むのだった。
「みなさ〜ん♪ パンが出来ましたよぉ♪」
「あ、パンだって! いこう、ユアン!」
「えっ? でも僕‥‥!」
「いいから! みんなで一緒に食べるとおいしいよ!?」
子供達に手を引かれ、走っていくユアンを見て大次郎はマリスに近づいた。
「そう言えば、そのヒポカンプスは水棲の魔獣とお見受け致すが、水周りはどうなっていたでござるかな?」
「水は引いていたりするのですけどぉ‥‥やっぱりそういった所作ったほうが無難ですよねぇ?」
「そうでござるな。いずれはそれぞれの動物に合わせた水浴び場などを造ってみるのも良さそうでござる」
「コレから手伝ってくださいませんかぁ? あの子の為に、早く作ってあげたくて‥‥」
「マリス殿は優しいでござるなぁ。では、手伝うでござる!」
こうして、一日目の夜が過ぎようとしていた。
ジャクリーンは寝てしまった子供達を一人ずつ大切にしながら小屋へと運ぶ。
その中には、ユアンも混じっていた。
「ふふ、遊び疲れたんですかね、ユアン様は」
「そうかもしれないねぇ。まぁ、まだ子供なんだ。こうやって遊ぶコトはワルイ事じゃないよ」
「いさなさん、手伝ってくれますか? ユアン様を出来れば運んで頂きたく」
「あぁ、いいよ。まったく、可愛い寝顔してくれるよ、レセリアとおんなじだ」
そう言うと、いさなは微笑み癒されながらユアンを小屋へと連れて行くのだった。
一つの墓標の前。供えられた花が小さく揺れている。
その前には二人の人影が立っていた。
ゆかりとルキナスである。
「あたしを好きになって下さって、本当に‥‥ありがとうございます‥‥あなたの愛にあたしの全てで応え続けたいです」
「‥‥ありがとな、ゆかり? さぁて、師匠に報告しないとなぁ」
「そうですね。ルキナスさんやマリスさん、街の皆と一緒に必ず幸せになります‥‥どうか安心してお眠り下さい」
「師匠。あんたの弟子でよかったよ、俺。でないとここに‥‥留まらなかったから」
またもやいい雰囲気を作る二人。
だがしかし、其れを崩す? ものもいたのだ。
「わうっ!」
「ん?」
「いさなさんの犬ですね‥‥」
「わふ☆」
いきなり見せたいさな曰く「散歩で幸せ柴スマイル(口を開けた幸せそうな顔)」
其れを見てルキナスは思わず犬二匹を抱きしめるのだった。
「これ、連れ去ったらまずい?」
「ダメです。私の犬と私でしたらいいですけど」
「‥‥お前の犬もこういう風に笑う?」
「訓練すれば」
そんな会話が夜のファームで交わされたのだとかなんだとか。