●リプレイ本文
●誰の為にまわってる?
「何がこの依頼の難易度を高くしているかといえば、絶対依頼人の存在だと、僕は思‥‥‥‥いや、何でもないぞ。何でも」
依頼人であるヒルダと合流し、支度をしているヒルダを待っている間のゼタル・マグスレード(ea1798)の言葉。
しかし、其れは地獄耳であるヒルダに聞こえていたようでギラリと睨まれていた。
「失礼ね! こんなか弱いあたしの何処見てそー思えるわけ?」
「で依頼人さんよ、山で石を探すって言ったって山だって広いんだぜ。どんな石なのか教えてくれれば、ありそうな所の目星くらい付けられるんだがよ」
「だーいじょうぶよ。地図だってあるし、この本を持って行けば問題ないわよ♪」
と、笑って分厚い本を見せるヒルダ。
山にそんなもの持っていくんですか‥‥とマレス・イースディン(eb1384)は呆れたかも知れない。
いや、呆れたはずだ。
「山に石を取りに行くんだね。今の季節だと景色も綺麗だろうね」
「そーなのよ! これから行く所は凄く綺麗な景色がウリな場所でね?」
「‥‥遠足じゃないんだから」
「でも景色は重要よね?」
「うん、重要だよ! あ、支度は終わった?」
「ばっちりよ♪」
ヒルダの背には大きなリュック。
何が入ってるかと言いますと、錬金術の分厚い本。着替え、水、食料その他諸々。
山に持って行くにはでかすぎる荷物だ。
「で?其れは誰が持つんだ?」
「貴方にお願いするわ。さっきあたしのコト悪くいった罰♪」
‥‥流石我侭娘。荷物を軽々と持ってゼダルの上にドンッといきなり乗せると、鼻歌まじりでジノ・ダヴィドフ(eb0639)の馬に『無断』で乗るのだった。
本人も乗せる気だったようだからいいものの、聞かれずとも乗るという素晴らしい勝手ぶりを見せるお嬢さんなのでした。
●山道で出会うのはコボルトさん?
「でね‥‥ちょっと、聞いてるわけ!?」
「‥‥何時間ああしてる?」
「これで3時間だ」
「‥‥誰か口塞げよ‥‥」
ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)とマレスがぼそぼそとそんな会話を交わしていると後ろから小さな石が投げられる。
「ってぇ!?」
「ヒトの話は最後まで聞きなさいって習わなかったの!?」
「お前のは話じゃなくて、愚痴だろうがー!」
「どっちも同じよ! いいからちゃんと聞きなさいよ!」
「なんか‥‥凄い賑やかだね‥‥」
天野夏樹(eb4344)が苦笑いを浮かべる。それに対し門見雨霧(eb4637)が同意するように頷く。
「彼女の煩さはこれだとまだマシだぜ‥‥?」
「知ってるの?」
「一度依頼受けて散々な目にあったから、俺‥‥」
ジノが遠い目でそう言うと、夏樹は冷や汗をだらりと流すのだった。
そんな時、神堂麗奈(eb7012)が何かを見つけた。
「‥‥来たみたいだ」
「コボルト?」
「あぁ、数匹はいる。油断はしないよう‥‥」
そんな麗奈と夏樹の間を一瞬にして駆け抜けて行った人物がいた。
そんなのマレスしかいないわけであるが。
「お前等が出てくるの遅いから、コッチは聞きたくない愚痴聞かされて疲れちまったじゃねぇか。その責任取って貰うぞ!!」
「あ、まて! マレス、その言葉は‥‥!」
「聞きたくない愚痴の所為で疲れるまではいい! 石まで投げられた分の責任もだな!」
「あれはもう止められんのぅ‥‥」
ジノの肩の上でユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が苦笑いを浮かべて呟く。
ジノは恐る恐るヒルダへと振り返る。其処にあったのは怖いぐらい笑顔のヒルダ。
殺気が出てます。出てます。
「大体あの我侭娘がなあぁぁぁっ!」
「‥‥でも止めた方がいいと僕は思うよ。無駄だろうけどさ‥‥」
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)が溜息混じりに言った次の瞬間だった。
トンッとヒルダがジノの馬から降り、笑顔でコボルトとマレスが乱闘している方へと歩んで行く。
「あ、危ない。ヒルダ!」
「あー。今は彼女に近づかない方が‥‥」
「本来ならあんな我侭娘放っておいて‥‥!」
「放っておいて、何かしら?」
「勿論、俺達は気楽に石をさが‥‥え゛?」
マレスが振り返った先にはヒルダが立っていた。
もの凄い引きつった笑みを浮かべ、ゴゴゴゴゴと音が鳴るぐらいの勢いで。
「悪かったわね! 我侭娘の愚痴なんか聞かせてえぇぇぇぇっ!」
「みぎゃあぁぁぁ!」
ヒルダの華麗なホールドがマレスに入る。コボルトも既にたじたじである。
彼女の気迫とそのホールドにだ。
「仕方ないな。私達で片付けよう」
「あっちはどうするんだ?」
「放っておけばそのうち収まるだろ」
ルエラの言葉に雨霧も納得したのか、残りの冒険者でコボルトを撃退するのであった。
●山頂
「はー。ついたついた☆スッキリしたわぁ♪」
ヒルダの清々しい声が山に響く。
その後ろには苦笑いを浮かべる冒険者達とボロボロになったマレスの姿が。
あの後ホールドから解放されたものの、罰として延々愚痴を聞かされたらしい。
口は災いの元である。
「ヒルダ、これを使うといいのじゃ。道中疲れたじゃろうし」
「あら、ユラヴィカは気がきくのねぇ♪」
「俺の馬に大半乗ってただろうに‥‥」
「うるさいわねぇ、いいじゃないのよ。か弱い乙女は力仕事出来ないんだから!」
ユラヴィカが出したレジャーシートの上に座りながら文句を言うヒルダ。
本気で本当の我侭娘だ。
「石はこの周辺にあると思うわ。比較的赤みがあるからすぐ分かると思うの、お願いするわね?」
「そう言えば、ヒルダは今までの研究成果とかあるのか?」
「あるわよ。ヒトに猫語喋らせたりとか」
「‥‥何を目指しているんだ?」
「大錬金術師に決まってるじゃない」
研究の成果を聞いて、うなだれるゼタル。それじゃあ絶対ムリだと内心で思う事にした。
口に出したら第二のマレスであろう。
「あなたはとらないわけ?」
「‥‥‥‥人には、向き不向きというものがあるんだ」
「あら、可愛らしい」
小さく笑うヒルダを見て、少しは女らしい所もあるものだと感心するのだった。
「赤みを帯びたのってこれでいいのか?」
煙草を口にしながら雨霧がユラヴィカに石を見せる。
其れは赤みが十分に帯びているゴツゴツした石。
「うむ、それでよいと思うのじゃ。赤みを帯びている条件も満たしておるしのぅ。しかし、なんでそんなに慎重なんじゃ?」
「‥‥ヘタに間違えると怖いじゃないか、あの人」
そんな言葉に同意するかのように頷くユラヴィカなのだった。
そして数日が経過する。
テントの中で一人ぬくぬくと寝ているヒルダを見て冒険者達は愚痴まいたり色々としていたのだが
やっと帰れるのである。
「これぐらいでいいわね。おつかれさま、みんな。さぁ、帰りましょうか?」
「おおい! なんかオレの分の荷物、他のヤツより多くねぇかっ?! その分報酬多くもらうからな!!」
「仕方ないわねぇ。いいわ、あげるわよ。たっっっっっぷりとね?」
そのヒルダの言葉にジノはマレスに合掌するのだった。
これが、口は災いのもと第2弾である。
●報酬という名の恐怖?
王都に戻ると、早速小屋へと荷物を運ばせるヒルダ。
持ち帰った石を調合するのだとか言って部屋に篭っている。
「一体どんな薬が出来るんだろうな?」
「あの‥‥僕は素直にやめた方がいいと思う」
レフェツィアがそう言うと、ジノも同意するかの如く頷いた。
「そんなに酷いの?」
「酷いよ?」
「命に危険とか出たりするの?」
「‥‥精神に出るかも」
「‥‥レフェツィアは飲まないの?」
「絶対イヤ」
夏樹の問いにきっぱりと答えるレフェツィア。
夏樹は少し考えるがどうにも想像が出来ないので断る事はしないという。
此れでまた犠牲者がたっぷり増えるんだ‥‥とレフェツィアはうなだれていた。
「お待たせ☆出来たわよー」
「もう出来たのか。早いな」
「んふふ、あたしの力作よ。さぁ、たっぷり飲んで頂戴っ☆」
ずいっと差し出される数本の瓶。
またもや此れが‥‥様々な効果を生み出すのだ。
「あら、一人足りなくないかしら?」
「ジノがいないな。何処にいったんだ?」
「‥‥そこで何してるんだ、ジノ?」
ルエラが隠れているジノに尋ねると、ビクリと怯えるのだった。
見つかってしまった。全力で隠れていたはずなのに!
「あら、ジノ。隠れる程待っててくれたのね? あたしは嬉しいわぁ♪」
「嫌だ、アレを飲むのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて助けてタスけテごめんなサいゴメんなさイ!」
「はい、あーん♪」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
哀れ。無理矢理飲まされたジノは旋律の悲鳴をあげてパタリと倒れるのだった。
そして、数分後。 天河カイトに支えられ、ムクリと起き上がった彼に起きた悲劇は‥‥!
「モキュ?」
「‥‥え?」
「モキュー! モキューキュー!」
「あら。可愛らしいお声になったわねぇ」
カラカラと笑うヒルダ。そう、ジノは『モキュー』としか言えなくなってしまったのである。
恐るべし、薬の力。
「さて、次は誰が飲んでくれるのかしら〜? あ、ルエラ。貴方飲んでみない?」
「え? まぁ、それくらいなら」
「貴方もね」
ルエラ、夏樹、雨霧の手に渡されたそれぞれの薬。
汗だくになる雨霧。そして次の瞬間。
「ヒルダさん、ゼダルさんも飲みたいって!」
「なにぃ!?」
「あら、ホント〜? じゃ、あげるわね♪」
「ほら、旅は道連れって言うじゃないか」
「‥‥雨霧‥‥恨む‥‥」
仕方なく飲むコトになった四人。
それぞれ一気に薬を飲み干すと、苦いような甘いような辛いような味が口の中に広がって行く。
つまりは『不味い』。
「人外魔境を見てきます‥‥がふ」
「ルエラ!? だから僕はやめておきなよっていったのに!」
「な、なにこの不味い‥‥味‥‥」
「異様‥‥異様過ぎて‥‥は、はははははははははははははは!」
突然笑い出すゼダル。薬の効果はどうやら『笑い薬』だったようです。
「ゼダル!? しっかりするのじゃ!」
「ゼダルさん、しっか‥‥」
雨霧が突然口を抑える。気分が悪いのだろうか、それとも‥‥?
「雨霧さん、大丈夫?」
「あら、気分でも悪くなった?」
「そ、そんなことはないにょ」
「‥‥にょ?」
「にょ‥‥なんでこんなになってるにょ!?」
どうやら彼の薬は『猫語化』だったようです‥‥くじ運が悪い‥‥。
顔に似合わないその言動。もう完全に罰ゲームである。
ルエラに至っては‥‥眠り薬と化したようでずーっと寝ている。
騒いでも起きない程に。
「さて、残るは〜‥‥報酬がいっぱい欲しいっていってたわよね、マレス?」
「勿論だ! あんだけでかい荷物を‥‥!」
「はい、薬。十本分、アンタの為だけに作ったんだから、飲んでね?」
清々しい笑顔のヒルダとその薬を見て硬直するマレス。
その後数日間。彼の姿を見た者は誰もいない‥‥。