●リプレイ本文
●情報を‥‥
「少女を殺した盗賊を私は許せるでしょうか‥‥」
酒場の前でぽつりと呟くニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
その声を聞いてリオン・ラーディナス(ea1458)が足を止める。
「‥‥其れは‥‥」
「俺も彼女がどうなったのかは想像もしたくない。盗賊を殺してしまうかも知れない。だが‥‥」
「判っています。‥‥でも‥‥私はきっと‥‥許せません」
ニルナの声は震えていた。その声を聞いてアリオス・エルスリード(ea0439)は小さく溜息をついて先に酒場へと入っていってしまった。
リオンはニルナの肩を叩いて‥‥
「今は彼女に光を与える事だけ考えよう。盗賊についてはその後だよ」
「‥‥はい」
そんな言葉を交わして、二人も酒場へと入って行くのだった。
酒場は夕暮れの為少し賑わっていた。
ゴロツキや兵士等がわんさかといる。勿論、冒険者達もだ。
「あの、盗賊が少女を殺めた‥‥という話が耳に入ったのですけど、何か知ってますか? ちょっと私も気になりまして」
「あぁ、あの事件かい。あんた達、なんだってそんな前の事を?」
「だから気になっているだけなんですが」
「従者のヤツも大変だったろうにな。自分の命とられそうになってんのに、子供抱えちまってさ」
「‥‥」
「人ってもんは残酷さ。自分の命可愛さに子供だろうが誰であろうが、他人であれば盾にするのさ」
酔っ払いの一人がそう呟く。彼の言葉も尤もだ。しかし、三人は絶対に許せなかった。信じたくもなかった。
人を信用するという辛さは此れがあるから苦労する。
「その襲った盗賊とやらはどんな奴等なんだ?」
「悪い噂ばかりさね。人を殺し、その死体で金を稼ぐ。女だろうが子供だろうがな‥‥。しかし最近じゃあ金品だけ奪ってるようだな」
「大規模な盗賊団だったんだがねぇ。頭が死んでていたらくだ」
ケラケラと笑う酔っ払い。
もうここにいても気分が悪くなるだけだ。
そう思った三人は酒場を後にするのだった。
一方ギルドではディーネ・ノート(ea1542)がギルド員に詰め寄っていた。
「其処を何とかお願い!」
「事件に関する書類‥‥ですよね‥‥? 私の独断では‥‥」
「これ以上被害が出ない為にも、早くなんとかしたいの!」
「お気持ちは分かるのですが‥‥」
困惑するギルド員。はっきりとは断らない為、ディーネもねばる。
フォーリィ・クライト(eb0754)は小さく溜息をついてカウンターに肘を乗せた。
「ねぇ。あたし達の仕事の書類なのよ? それでも見せてもらえないの?」
「‥‥はぁ。判りました。但し、私の目の前だけにしてください。幾ら関連している仕事の書類とはいえ、寄せられたものを見せるというのは独断では厳しいんですから」
「ありがとう! 助かるわ!」
「後であたしも一緒に謝ってあげるから。それで堪忍してね?」
そう言うと、フォーリィは出された書類の山をテーブルへと運ぶ。
早速ディーネはその書類を読み漁るのだった。
「あ、これってここの近くじゃないかしら?」
「本当ね。少女の声が聞こえたというのも近くね」
「時間帯はどうやら深夜みたいですねぇ。調べてみますか?」
ギルス・シャハウ(ea5876)が尋ねると、二人は頷く。少しでも手掛かりになるのであればそうしたい。
そして三人はその家の近くまで行くと近所の人に聞き込みを始めた。
少女の声、被害にあった少女の事を‥‥。
「あぁ、あの子の事? 可哀想にね、可愛らしかったのに‥‥」
「名前とかは分からない?」
「母親が其処の家に住んでるよ。話を聞いてやっておくれ」
そう言われると、フォーリィは教えられた家の戸を叩く。
開いた戸の先には、痩せ細った一人の女性の姿。
「どなた様ですか‥‥?」
「あたし達、娘さんの事件を調べてるの」
「出来れば、娘さんのお話聞いていい?」
ディーネがそう言うと、女は小さく頷く。
そして、思い出しているのか目から涙がこぼれるのだった。
「娘さんの名前は? どんな子だったの?」
「名前はアーリア‥‥とても利口な子でした。でも‥‥病弱だったんです‥‥」
「‥‥馬車で何処かへ行ったりするの?」
「はい。遠くの田舎に叔父がいます。その叔父の所で休養したりしていたのですが‥‥其れがこんな事に‥‥あぁ‥‥アーリア‥‥!」
泣き崩れる母親。これ以上話を聞く事は酷だとギルスが遮った。
母は本当に悲しみのどん底なのである。
大切な娘を失い、ただ一人になって‥‥。
●夜の捜索
深夜になり、冒険者達は事件があった街道へと向かった。
「メリーヴェ、頼んだわよ」
「ヴァンダルギオン、ソウルバイス。お前達もしっかりやってくれ」
そう言ってアッシュ・クライン(ea3102)とマリー・ミション(ea9142)はそれぞれのペットを空へと地へと放つ。
此れで盗賊の動きが分かればいいのだが。
「事件があった時期はどうでしたか?」
「‥‥残念だけど、3週間も前の話だったわ。これだと、遺体の方も‥‥考えたくないわね」
フォーリィの問いにディアッカ・ディアボロス(ea5597)は苦笑いを浮かべる。
此れではバーストも役には立たないからだ。地道に捜索するという事になる。
こうなったらディテクトアンデッドに期待するしかないのだ。
「‥‥少女を討伐すればいいだけではないですよね?」
「いいか? 俺達の仕事は盗賊の討伐じゃない。捕縛だ、忘れてくれんなよ?」
アトス・ラフェール(ea2179)の言葉にルクス・ウィンディード(ea0393)がそう返す。
そして、少女の願いはもしかすると‥‥。そんな事も考えていたのだろう。
「あ、反応が‥‥!」
ディアッカがそう言うと同時に、アッシュのセッターも急いで走り出す。
上空のペットは旋回を始めた。どうやら来たらしい‥‥。
草影がガサリと動く‥‥。
「テメェ等が嗅ぎまわってる奴等か!」
「本当だったら‥‥殺したいくらいです‥‥黒死鳥の名に於いて、貴方達を罰します!」
ニルナの怒りは頂点にまで達していた。
酒場での男の言葉。そして少女の死。最後には盗賊達の生。
これ等が全てを突き動かしていた。ニルナは一気に間合いをつめると現れた盗賊の首に手刀を入れる。
「あなたが許しを請うべきは、僕達ではなく被害者とその家族に対してでしょう」
「惨い事をなさったあなた方に対する‥‥此れは天罰です!」
フェリシア・フェルモイ(eb3336)とギルスが次々に逃げていく盗賊をコアギュレイトで足止めしていく。
「見逃さないわよ!」
「うあぁぁっ!?」
その上アイスコフィンで固められていく盗賊達。
「この野郎! 冒険者だからって‥‥!」
「やれやれ、謀殺ではなさそうのじゃのぅ、此れでは」
黄安成(ea2253)もきりかかってくる盗賊達をホールドで締め上げていく。
「お前達には然るべき裁きを受けてもらう。でも、それ以上のものを下す事も無く、またそれまでの期間、身体の保障を誓う!」
「そんな言葉が信じられるか! 吐くぐらいなら死んでやる!」
「ちっ! 逃げられるぞ!」
逃げる男三人の背を見てルクスが叫ぶ。
其れと同時に三本の矢が男達の前に刺さった。
「逃げられると思うなよ?」
「逃げれないようにしてやるのが一番だな」
アリオスの矢が一人の男の足を打ち抜き、地面と繋ぐ。苦痛が男を襲い、男は気を失ってしまう。
もう一人の男はアッシュが足を切った為、大量の血と共にその場に倒れこんでいる。
最後の一人は怯えている所をルクスが槍を喉元に突きやった。
「言え。何で少女を殺した?」
「ひ‥‥っ!」
「‥‥教えなさい」
ニルナのドスが聞いた声が効果的だったのか、男は少しずつ話し始めたのだった。
「お、俺達は人を殺して売りさばいてたんだ! 死体は肥料にもなるし、裏ルートで売れば結構な金になる!」
「たった‥‥たったそれだけの為に!?」
「アンタ達にとってはそれだけの為だろうよ! でも俺達にとっては大事だったんだ!」
「お金がないからって人を殺していいものじゃないわよ?」
「其れはアンタ達の考えだ! 俺達はしらねぇ!」
もうこれではどう罰を与えても改心はしないだろう。
根強く残るこの生活の回転を、誰にも止める事は出来ない。
後はもう、自警団に任せるしかないだろう。
そんな時、冒険者達の背に何か冷たい空気が漂っていた。
「‥‥こいつ等、頼む」
「判ったわ」
リオンはミリランシェル・ガブリエル(ea1782)に盗賊達を任せ、寒気がする方へと向かうのだった。
●悲しみの連鎖。その理由は‥‥
「先程の反応はここら辺からでした‥‥うっ‥‥!」
先行していたディアッカが思わず声を漏らす。そして、視線を背け顔を伏せた。
何故そうなったのか。冒険者達には察しがついていた。
鼻を劈くような臭い。そして、その惨い死に様。‥‥少女の死体が其処にはあった。
「‥‥なんて惨い‥‥」
「あいつ等、俺はやっぱり許せねぇ!」
「‥‥ま、こうなってるって事は仕方ない。後はレイスだけだ」
踵を返すルクスは呟く。
「悲しんではあげられない、敵討ちもガラじゃない。でも同情だけはしてあげる」
そんな言葉に釣られたのか。冒険者達の目の前にうっすらと少女の姿が見えた。
其れは、レイスになった少女の姿‥‥。
「貴方が‥‥アーリア‥‥ちゃん?」
『お願い‥‥此処は暗いの‥‥光を‥‥』
「あなたが欲しかった光ですよ‥‥」
『‥‥違う‥‥』
そう言って倉城響(ea1466)がランタンを目の前に置くのだが少女の反応は薄い。
「あなたが求める光とは、この聖なる光ではありませんか〜?」
『其れも違う‥‥』
ギルスがホーリーライトを灯すも反応は薄い。其れもそうだ。彼女の出身地はアトランティス。
其れ故、魔法に関する知識等があるわけがない。つまり、その光をランタンの光と同じと捉えているのだ。
「まず、話を聞いて欲しい」
リオンが一歩前へと踏み出す。少女を救いたい。戦いたくないと願うあまり‥‥。
「キミはもう死んでいる‥‥その事は理解してくれるね?」
『‥‥‥‥』
「びっくりするのは、分かるけど‥‥」
優しく手をとるリオン。しかしその火傷のダメージは蓄積していく。
「キミと少し、話がしたいんだ。‥‥出来れば、曇りのないキミの顔が見たいんだけど‥‥お願いできるかな?」
『‥‥‥‥』
「お婆ちゃんが言っていた。光は自分で求めようとするならば、常に自分の中に生まれるものだ。そしてそれを見失わない限り、自分の中に存在し続ける、とな」
アッシュの言葉に少し反応するアーリア。しかし、無言をまだ続けている。
自分の中で整理でもしているのだろうか‥‥?
「悲しいけどあなたのこの世の生は終わったわ。私達に出来るのは安らかに魂を送ることだけなのよ」
『‥‥私‥‥死んだのね‥‥』
ようやく理解出来たように呟く。その言葉にマリーの胸にチクリと何かが刺さる。
痛い。この少女の言葉が、重く、辛く、痛い。
そして次の瞬間アーリアが口を開く。その言葉は冒険者達にとっては聞きたくない言葉だったのかも知れない。
『‥‥殺して‥‥』
「え?」
『私を‥‥殺して‥‥』
「そんな‥‥そんな事‥‥!」
「出来れば成仏という形にしたいです‥‥!」
『‥‥私を消して‥‥愛しい世界に仇を為さぬうちに‥‥』
そう言い残すと、少女はリオンの手からふわりと消えて、アッシュの前へと姿を見せる。
そして、その手にある武器を自らの胸に突き刺すのだった。
「‥‥なっ‥‥!?」
淡い光が少女を包み込む。浄化の光。自然に還る前触れ‥‥。
少女の身体は薄れて行く。そしてその時リオンの方を向いて少女は呟くのだった。
『あ‥‥り‥‥が‥‥』
言いかけた言葉のまま消え去ったアーリア。
彼女がいた場所をただ見据えていた冒険者達だったが、アリオスがゆっくりと少女の遺体に近づき、毛布に包む。
そして、聖水で清め匂い袋の中身と香水で臭いを誤魔化してやる。
「本当に苦しかったでしょう? 私には貴女がこれから安らかに眠れることを祈ることしかできませんが‥‥それでも貴女の事は私達が覚えていますから‥‥だから‥‥」
「‥‥ニルナ、ありがとう。治癒はもういいよ。後は彼女をあるべき場所に連れて行ってあげよう」
その日の月は、とても哀しげな光を放っていた‥‥。
●眠りは永久に
次の日。少女の遺体を抱き抱えたリオンがフォーリィとニルナ、フェリシアと共に母のもとを尋ねていた。
「あら‥‥昨日の‥‥」
「‥‥アーリアさんのお母さん‥‥アーリアさんを連れてきました‥‥」
「‥‥! まさか‥‥その布‥‥の?」
「‥‥はい。アーリアさんです‥‥」
リオンがそう言うと、母親は青褪めた表情でその毛布に手を伸ばす。
そして、其れが娘であると確認した瞬間、大声で泣き喚き散らすのだった。
「アーリア‥‥アーリア‥‥! あぁぁぁぁっ!」
「‥‥アーリアちゃんは‥‥最後にありがとうと私達に言って下さいました。レイスになって、彷徨っていたんです‥‥」
「でも、わたくし達が無事お届け致しました。聖なる母のその手へと‥‥」
「アーリアぁぁぁぁ!」
もう母の耳に彼等の声は届いていない。
ただ、娘の亡骸を胸に抱いて‥‥涙を流す事しか出来ない‥‥。
三人はアーリアの冥福を祈りながら、その場を後にするのだった‥‥。