騎士の卵達〜先生の素顔
|
■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月11日〜10月16日
リプレイ公開日:2006年10月13日
|
●オープニング
「おーい、リュート!」
騎士学院の廊下にて。誰かに呼ばれる声が聞こえた。
呼ばれたその男は小さく溜息をついて振り返る。その両目には黒い布が巻かれている。
その布にはよく見れば兜のスリットと同じようなものが見える。
「どうしたんですか、先生?」
「新学期の学材が足りなくてな、買出しを頼みたいんだ」
「また僕ですか?」
「すまん! 何せ俺達も忙しくてな。ほら、新入生が来ただろ? てんてこ舞いなんだ」
教師が拝むように頼むと、その目隠しの男は小さく溜息をてやれやれと笑った。
「判りました。では、荷物持ちとして新入生を3人廻しますが、よろしいですね?」
「あぁ、問題ない! お前の担当ならお前が好きにしていいんだし」
「では、生徒達に挨拶してから向かう事にしますね」
「いやぁ、助かったよ、リュート!」
そう言うと、教師はまた慌しく走って行く。
そして、目隠しの男も自分の教室へと向かうのだった。
教室の扉を開けると、其処には静まり返りきちんと席についている新入生の姿がズラリとあった。
目隠しの男は教台に立つと、ニコリと笑みを生徒達に向ける。
「初めまして。僕がこの学院で弁論術をキミ達に教える事になった、アゼリュード・ナイトといいます」
本日何回目の自己紹介だろうか。ローテーションで生徒達がそれぞれの講義の教室を回り、対面してこんな挨拶を繰り返している。
「弁論術は騎士にとって大事です。礼儀作法にも繋がり、他の貴族と接するのに重要なものです。如何に相手を納得させるか。此れが全てのカギとなってきます。僕はその全てをキミ達に注ごうと思っています。よろしくお願いしますね?」
アゼリュードがそう言うと、生徒達もお願いしますという声と同時に礼をする。
其れを見てニコリと笑みを浮かべて名前を確認する為スクロールを取り出し、出席をとり始めるのだった。
「なぁ、ジーク? あの先生の目隠し、気にならないか?」
「お前はバカか。そんな事気にする程でもないだろうが」
「でも俺は気になるぜ? なぁ、クロード?」
「僕もちょっぴり気になるかな」
「あの下、どうなってんだろうな? もしかして、傷だらけだったりして?」
「えー? でもそんな風な事する先生には見えないよ?」
「‥‥クロード、前を向け」
ジークの声に振り返るクロード。そう、其処には笑顔で此方に向かってくるアゼリュードの姿があったのだ。
そして、3人の目の前に来ると3人をスクロールで軽く頭を小突く。
「講義を受けなくても、試験に合格する自信があるなら構いませんよ。でも、ここがなんの講義かわかってますね? ジークフリード・アギド君、クロード・ナッハ君、レザード・グリース君?」
「‥‥なんで私まで‥‥」
「言い訳は聞きたくありません。私語の罰として、今日講義が終わったら僕の買い物に付き合って貰います」
『ええっ!?』
3人はこうして最初の講義を終えたのである。
「まったく‥‥何故私まで買い物に付き合わなければならないんだ?」
「まぁ、いいじゃんか! どうせすぐ終わるって、男の買い物なんだし!」
「お前が言うな! 私はただ巻き込まれただけだぞ!?」
「落ち着いてよ、ジーク! もう何を言っても今更なんだし‥‥ほら、先生来たよ?」
クロードがそう言うと、二人も廊下を振り返る。
すると、先ほどと同じように目隠しをしたアゼリュードが姿を現したのである。
「お待たせしました、其れでは行きましょうか」
(「‥‥やっぱ気になる‥‥」)
「ん? 私の顔に何かついていますか?」
「い、いえ! 何もないです、はい!」
そう言うと、ジークは慌てて視線を外す。ああは言っていたものの、やはり気になってしまうのだ。
それ程まで端麗な姿をしているのだから、きっと素顔も‥‥想像して少し赤くなる。
「先生、今日は何を買いに行くんですか?」
「学材です。貴方達新入生のものですよ。どうも足りないらしくて、買出し頼まれてしまいましてね?」
「なるほど。で、俺達は荷物持ちかよ〜?」
「そう不貞腐れないでください。僕だけだと手一杯なんですよ。其れに困っている人を助けるのも騎士の役目ですよ?」
一つの店の前に来ると、アゼリュードは3人を外に待たせ自分は店の中へと入っていった。
『‥‥‥‥』
「おい、クロード」
「ん? なぁに?」
「お前、今から冒険者ギルド行ってこい、走って!」
「え、えぇ!? な、何で!?」
「俺達の実力じゃあの人の目隠しの下は見れないだろ? だったら腕の立つ冒険者に取って貰うんだよ、あの布を!」
「またそんな無茶言う〜!!」
そう、レザードは無茶を言う事に関しては3人のうちずば抜けている。
つまりはちょっとした悪カギ体質なのだ。
「いいから行けって! すぐ戻ってこいよ!?」
「ジーク‥‥」
「私はもう知らん‥‥」
こうして、仕方なくクロードは冒険者ギルドに走り依頼するのだった。
『先生の目隠しを奪ってくれ』と‥‥。
●リプレイ本文
●一日目
大広場付近にて。
冒険者達は物陰からアゼリュードの一行を見守っていた。
後ろに三人の15歳くらいの子供達。間違いない。あれがアゼリュードだ。
「それじゃあ作戦開始という事で行くか‥‥」
「そうだな、それじゃあまず俺が‥‥」
ユパウル・ランスロット(ea1389)とアレクシアス・フェザント(ea1565)が二人で彼等へと近づいて行く。
そして、アゼリュードの近くでユパウルが転びかける。
「あっ」
「‥‥っと!」
ユパウルの手に当たり、思わず荷物を落としかけるもバランスを保つアゼリュード。
転びかけたユパウルをアレクシアスが支え助けるのだった。あの視界で見えるのか? まるでそんな布など着けていないかのような機敏な動きに、ユパウルは驚いた。
「‥‥連れが失礼した。怪我は無いだろうか?」
「いえ、此方は怪我もございません。荷物も落としかけただけで済みましたから」
「最近新調した眼帯で、どうもサイズがあわなくてズレて視界を遮るのです」
「おや。其れは大変ですね‥‥」
ユパウルの言葉に少し考え込みながらもそう応えるアゼリュード。
会話のきっかけは掴んだ。
「貴方のような物にするのも良いかもしれませんね」
「僕のですか? しかし、此れは慣れないと相当不便ですよ?」
「慣れれば問題ないという事ですよね。傷跡もすっぽり隠れる」
ユパウルの鎌かけ。しかし、其れに動じる事なくアゼリュードはこう答える。
「そうですね、傷跡も隠れましょうが傷は増えるかも知れませんね」
小さく笑っているのだった。
「アゼリュード先生は、色つき眼鏡のせいで転んだりしたことはないんですか?」
エルシード・カペアドール(eb4395)がアゼリュードに声をかける。
綺麗にかわされた最初の攻撃であったが、会話はまだ続いている。使えるもの
は何でも使う。これも弁論術の基本である。
「ええ、特にそういうことはありませんね」
「なるほど。それではその目隠しは先生なりの装飾というわけですか」
「そういうことにしていただけるとありがたいです」
ニコリと微笑むアゼリュード。飄々とした彼の答えにエルシードは一瞬言葉に詰まったが、ここで退いては冒険者は務まらぬとさらに口を開く。
そう、これは依頼だ。外させるという依頼なのだ。
相手がどんな人物であろうと、依頼はこなす。
「天界の儀礼では、特に理由もなく色付き眼鏡を着用して人と接する行為は無礼とされているそうですね。自分の視線を隠す事は相手への本心の隠匿を示すのだとか。なかなか理に適った作法だと思いませんか?」
「そうですね、確かに無礼かも知れません」
「では‥‥」
「だからといって簡単に外しては騎士としてはどうでしょうね。話す前に詫びるのもまた礼儀の一つだと思いますよ?」
エルシードの弁論も綺麗に切り替えされてしまった。
一度切り返されてしまった以上、これ以上たたみ掛けても無駄なあがきという
ものだろう。
彼等の作戦は失敗に終わってしまったかに思えた。だが、もう一人残っていた。
「クロードではないか、久しいな」
「え、えっ!?」
強引にクロードの肩を引き寄せるゴードン・カノン(eb6395)にクロードは少しあたふたとしていた。
「依頼を受けた者だ。話を合わせてくれ」
「あ‥‥は、はい。久しぶりです、ゴードンさん」
「おや、クロード君。知り合いなんですか?」
「クロードの遠縁の者だ。して、此方の方は?」
ゴードンがクロードに尋ねると、クロードもようやく平常心を保てたのか笑顔になる。
「僕の先生だよ。アゼリュード・ナイト先生。弁論術担当なんだ」
「学園の講師殿か。また得難き機会。私は騎士ゴードン・カノン。以後、お見知りおきを」
「此方こそ、よろしくお願いします」
深く頭を下げる二人。
そして、頭をあげた後ゴードンはさりげなく尋ねるのだった。
「‥‥して、講師殿は何故その様な目隠しを? 不躾な質問ご容赦を。しかし、教育に携わる者が斯様に素顔を晒さぬと言うのも妙な話では有る。非礼に当たらずば理由をお尋ねしたいのだが?」
「そんなに深い意味はありません。強いて言うなれば先ほども言いましたが此れ
が僕のトレードマークといった所でしょうか?」
「非礼に当たらずば、素顔を拝見する事を希望致す。以後、素顔の貴殿と会った時、気付かぬ様な真似は避けたい故」
「戦場でお会いする事があれば、その時は僕からお声をかけますよ、ゴードンさん。その時にでもお見せ致しましょう」
笑顔でそう言うアゼリュード。
しかし、どうにも街は平穏である。かつ標的も穏和。ケンカくらいの揉め事くらいあるだろうと心構えしていた鈴木正和(eb7775)は苦笑い。
どうやら、すぐに見せてくれるわけではなさそうだ‥‥。
●二日目
「本当に大丈夫なんでしょうか? もし、洒落にならない理由があったとしたら‥‥」
ヴィクトリア・ニカ・ウオナ(eb4260)がぼやく。
その隣でリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)も考えている。
「私としては釈然としないのですが」
「其れでも、依頼ですからね」
「さぁさ、次は私がいきますわ。アレクシアスさんが今日もまた気を引いてくださっている事ですし、上手くやりますわね!」
両手で水桶を抱え、中にたっぷりの水を入れ楽しそうに談笑している三人の下へと走り出す。
狙いは勿論、アゼリュード。水浸しにしようというのだ。
「危ない!」
「きゃっ!」
上手い具合にセラフィマ・レオーノフ(eb2554)がアゼリュードにぶつかる。
水桶は宙に舞い、落ちてくる。すかさずアゼリュードがセラフィマを庇うようにし、自分から濡れるのであった。
「ご、ごめんなさい! 馬と犬が水を欲しがっていたから急いでいたんです!」
「僕は大丈夫です。其れよりも、お怪我はありませんか、お嬢様?」
「! だ、大丈夫ですわ!」
「大丈夫か? 水浸しじゃないか」
そういってすかさずアレクシアスがハンドタオルを取り出し、アゼリュードの顔を拭いてやる。
「あ、大丈夫ですから。これぐらいすぐに乾きますし」
「でも先生、拭いて貰ったほうが‥‥」
「クロード君は何も心配はなくていいんです。僕が大丈夫といえば大丈夫なんですから」
そう言ってゆっくりと立ち上がる。
「苦労していますね‥‥やはり無理なのでしょうか‥‥」
ヴィクトリアがそう思っていると、アゼリュードの前に一人の男が立ちはだかった。
「早口言葉で勝負でござる!」
開口一番、そう言い放つセナ・ヒューマッハ(eb4854)にアゼリュードは少しぽかんとしている。
「拙者から行くでござる! なまむぎなまごみっ‥‥!」
早口言葉を喋るも舌をガリッと噛んでしまい、蹲る。つまり自滅。
思わずアゼリュードは笑いながらもセナに近づき背を撫でる。
「だ、大丈夫ですか? あまり無茶をなさらない方が‥‥」
「今度は、動体視力で勝負でござる!」
すぐさま立ち直るセナを見て、更にアゼリュードは呆然としてアレクシアスを見る。
「貴方の連れですか?」
「‥‥‥‥」
彼も相当参っているようだった。
「勝負をする前に貴殿のその目隠しを取っていただこう、本気の勝負に手加減など無粋!」
「あ、それなら大丈夫です。スリットが入っていますからちゃんと見えますし」
「ええい、外せと言っているでござるっ!」
「あ‥‥!」
アゼリュードに飛びかかるセナ。その拍子で押し倒される形になってしまったアゼリュード。
その隙に簡単にセナが目隠しを奪い取った!
「‥‥あ、とれた‥‥!」
冒険者達と三人の生徒が息を飲む。
彼のその目隠しの下はと言うと‥‥。
「もう、酷いじゃないですか。幾らなんでも此れはやりすぎです!」
(「‥‥可愛い‥‥しかも綺麗‥‥」)
その素顔はまさしく女性といったほうがいいかも知れない。
麗人といってもいいぐらいだろう。
「‥‥ユパウル」
「‥‥あ‥‥だ、大丈夫だろうか、アゼリュード殿!?」
「此れは一体どういう事か、説明して頂けるんですよね?」
笑顔でユパウルを見やるアゼリュード。
その端麗さに押し負けるのであった。
「依頼とはいえ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
リュドミラが事情を説明して、アゼリュードに頭を下げる。
アゼリュードは苦笑いを浮かべながら目隠しをもう一度するのだった。
「構いません。僕の生徒がとんでもない依頼を頼んでしまったようで、僕の方こそ申し訳ありません‥‥」
「いや、卿が謝る事はない。それにしても其処の三人だ」
アレクシアスがクロード達に視線を向けると、クロードとレザードはそっぽをむく。
唯一前を向いているのがジークだけだった。
「興味本位とはいえ己で始末出来ぬ悪戯はするものではない。場合によっては多くの者を巻き込み傷つける事となる」
「‥‥ごめんなさい‥‥」
「私は関与していない」
「ジーク! お前だって見たいって‥‥!」
「私はもう知らんといっただけだ!」
ぎゃいぎゃいとケンカを始めてしまう三人。
其れを見てアレクシアスも苦笑を浮かべる。
「アレクシアスさん‥‥。いや、ルーケイ伯。此処は僕に任せておいてください。こんな所でお説教を始めるというのも‥‥騎士の自覚を叩き込むには不都合です。未熟者といえ彼等の自尊心を傷つけては、恥を知るからではなく罰則があるから身を正す。そんな、程度の低い騎士になるでしょう」
「其れならばお任せするが、何時もこうなのか?」
「はい。どうも仲がいいのか悪いのか‥‥っと」
苦笑いを浮かべながらアゼリュードはジークの肩をスイッと抱き寄せる。
抱き寄せられたジークは赤面して黙り込んでしまう。
「レザード君? 元はと言えばキミが首謀者なんですよね? お仕置きは覚悟して貰って構いませんね?」
「う゛‥‥」
「クロード君もです。後で二人にはこの荷物全てを持ち帰って頂く事にしましょう」
「ジークはどうするんだ?」
「この子は少しばかり素直になれるお仕置きを施しておきますので、ご安心ください」
クツリと笑うアゼリュードがその時ばかり少し妖艶に見えた気がした。
気のせいだろうか? それとも其れが彼の本性なのだろうか?
数日後。ジークはアゼリュードを見る度に赤面してしまうようになったという噂を正和が仕入れて来た。
「なんと言うか‥‥。恋の戦いに、無関係な奴が首を突っ込める訳もないである。やあ〜、お熱いことで‥‥」
肩を竦めた。