【恋人たちの歌】金の女騎士

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月12日〜02月17日

リプレイ公開日:2006年02月18日

●オープニング

 銀の髪の若者。彼の名はジョーイ。
 今、売り出し中の、心優しい吟遊詩人。
 彼女の名はカレン。
 その心優しさに惹かれて彼の側に立つ金髪の娘。
「僕は、君を愛している」
「私もよ。ジョーイ」
 彼ら二人は、ごく普通の恋をして、ごく普通に結ばれる寸前のカップル。
 けれども、ただ一つ。普通ではない所があった。
 それは‥‥。

「ようよう! 仲がいいねえ。お二人さん。見せ付けてくれるじゃネエか!」
「ああ、あんまり熱くて火傷しちまったぜ! この火傷の治療費払ってもらおうか!」
「せっかくいい気分だったのに‥‥。ジョーイ。下がっていて」
「お嬢ちゃん、そんな剣を振り回すとあぶねえ‥‥ぜ‥‥。ぐはっ‥‥」
「女の癖に、なんだよ。この強さは‥‥お前は、まさか‥‥」
「鎧騎士にケンカを売る以上、覚悟はできているのでしょうね!」
 そう。彼女は鎧騎士だったのだ。


 寒さがぶり返し、日中だというのに夕方のように厚い雲に覆われた暗い冬のある日。
 勢い良くギルドの扉が開かれ、鎧姿の美しい娘が駆け込んできた。
「手が空いている人はいない? 大至急、力を貸して欲しいことがあるの!」
 息急く彼女に、まあまあと係員は声をかけ、とりあえず座らせた。
 少しは冷静になったのか、彼女は素直に勧めに従い腰をかける。そして深呼吸を数回。
「見苦しい所を見せて、失礼しました。私はカレン。王に仕える鎧騎士を拝命する者です」
 真っ直ぐ伸びた姿勢は隙も無く、彼女が言葉どおりの存在である事を信じさせる。
「で、鎧騎士が何の依頼だ? 戦いか? それとも怪物討伐か?」
「いえ、完全な私用なのです。私の大事な品物を盗まれてしまいました。それを探し出し、取り戻すのを手伝って欲しいのです」
「アンタが? 盗まれた? 一体誰に?」
 それは‥‥と、微かに俯いてから顔を上げる。騎士の顔ではなく、そこには一人の娘の頬を染めた顔があった。
「恋人たちの日、というのをご存知? 天界から伝わった風習と聞きます。なんでも愛する人に愛の告白をして、贈り物をしあう日なのだとか。盗まれたのは‥‥その、私が恋人に贈るはずだった品物なのです」
 ことの起こりは二月になって間もなくのある日のこと‥‥

「恋人たちの日? 始めて聞いたわ」
 カレンと恋人のジョーイは二人で甘い一時を過ごしていた。
 美しい声と優しい心、そして詩人としての才を持つジョーイは話し上手で酒場で聞いた話、噂や古い伝説なとをよくカレンに語って聞かせていた。
 厳しい騎士としての生活の中、カレンにとって二人で過ごす時間と、彼の言葉は何より安らげる癒しの時、だった。
「天界人たちの風習の一つだそうだよ。苦しい愛を貫く恋人たちを保護した聖人にちなんで、恋人に愛を告白し、贈り物をするんだって。‥‥カレン」
「なあに?」
 急に真剣さを帯びた恋人の瞳をカレンは見つめた。
「この日、僕は君にどうしても贈りたいものがある。だから、待っていてくれるかい?」
「今ではダメなの?」
「完成まで少し、かかるらしいし、時間も欲しいんだ。いろいろな意味で‥‥だから‥‥」
 頬を赤らめながらも、目線は真っ直ぐに自分を見つめている。
 カレンはなんとなく、彼の気持ちが解った気がした。笑みが止まらない。そして、いい考えも浮かんだ。
 ニッコリ微笑んで立ち上がる。
「いいわわ。私もそれまでに、用意をしておこうと思うから‥‥」
「? 何を?」
「秘密♪ その日を楽しみにしてるから、貴方も楽しみにしていて」
 そんな小さな約束を二人でかわした。

 それから一週間後。
「キャアア!!」
 彼女は風のように通り過ぎた何かを見送った後、自らの手の平を見つめ悲鳴を上げた。
 ほんの一瞬前まで手に持っていたはずの品物が‥‥無い。
 慌てて振り返ってみれば、向こうの小路を駆け抜けていく小さな影達。
 手に持っている荷物は大きくて、軽い。
「あれは、私の! 待ちなさい!!!」
 とっさにマントを翻し、後を追う。
 騎士として鍛えた脚力と胆力は女とは言えど舐められるものでは無いはず。彼女には追いつける自信があった。
 やがて、一度は見失いかけた背中が、また見えてきた。
「荷物を返しなさ‥‥、キャアアッ!」
 悲鳴と、鈍い音が一緒に地面に転がった。
 足元を紐に取られたと気付いたのは、地面にとっさに手をついてから。
 だが、その僅かの隙に子供達はもう姿を消していた。
 彼女の大事な荷物と一緒に。

「あれは、私が苦労して頼んで、ジョーイ。彼の為に手に入れたものなんです。この世に二つとない、訳ではないけど再入手はとっても難しいの。もう時間も無いし、だからお願いします。子供達を捜して、荷物を取り返して」
 できれば、子供達を保護して盗みなどは止めさせたいと、思う。
 だが、それは一朝一夕にできることではないし、冒険者に頼んで叶うことでも、いいことでもない。
 そう言って、彼女は正式に依頼を提出すると礼儀正しくお辞儀をして、去っていった。
 王宮勤めの一人だという。
 健やかで強い、心と身体を持った騎士だと誰もが感じる。
「彼女の恋人ってなあ、どんな奴なんだろうな? まあ、何にしても大変そうだ」
 依頼を張り出しながら、係員は同じ男として同情にも似た思いを感じていた。

 騎士のプライド。そんなものはどうでもいい。
 今、彼女は一人の恋する娘だった。愛する者を守る為に剣を取る手を祈りに結ぶ。
「ジョーイ‥‥。あなたの為に‥‥」

 街角の奥のそのまた奥。
「ありがとう。調べてきてくれたんだね?」
「うん、兄ちゃん。ねえ、約束だよ。またこれ弾いて。俺達の宝物なんだ」
「‥‥いつ見ても、見事なリュートだね。‥‥解ったよ‥‥」
 そんな会話の後、暗い路地に似合わぬ華やかな音が紡がれる。
 柔らかい音色。甘い調べ。
 やがて、澄んだ歌声が調べに寄り添うように歌い響かせた。

 子供達は身動きすらすることなく、耳と心を傾ける。
 これは光の女神が与えてくれた心の支え。
 暗い世界に差す、一条の光。

 夢に見る天上の歌声‥‥。

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9378 柳 麗娟(35歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4278 黒峰 燐(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4312 シド・レイズ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4314 紫田 一仙(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4458 カールレオン・バルドリーク(30歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●プライドよりも大切なもの
「仕事中申し訳ないな。ギルドで依頼を受けた者だ。俺は陸奥勇人(ea3329)よろしくな」
「こちらこそ。依頼を受けてくれたことに礼を言います」
 無骨で礼儀を知らないと見るものが見れば顔を顰めたかもしれない気さくな態度を、彼女カレン・エルレイドは気に留める様子も無く笑顔で受け止めた。
(「流石、城勤めの女騎士。なかなかの人物と見た」)
 こちらはしっかりと上位者に対する礼をとって様子を見ていたカールレオン・バルドリーク(eb4458)はそう分析する。
 生まれながらの騎士階級であり、実力もかなりなものだと聞いている。それが見て取れた。
「まず、確認させてくれ。盗まれた品物は何だ? そしてジョーイというのは誰だ?」  
 これだけは確認しないと調査を先に進めることはできないと彼は苦笑する。
「何を探せばいいのかが不明ではさすがに困る。彼の事は、街中で会う可能性があるなら予め知っておく方が対処し易いからな」
 もっともな彼の問いにカレンは素直に答えた。盗まれた品は、高名な作り手が作ったといわれるリュート。ジョーイというのは彼女の恋人で、銀の髪の吟遊詩人だと。
「無礼を承知で聞く。なんで、それをはっきりと言わなかったんだ?」
 鋭いカールレオンの言葉にその時、始めてカレンの顔が曇った。
「私には婚約者がいるのです。私の意志ではない。親が決めた婚約者だった人が‥‥」
 彼女の中ではその婚約者との約束は断り、終っている。だが、相手にとってはそうでない可能性があった。
「街の巡回を仕事とする彼にその事を知られたら‥‥」
 自分のプライドなど、どうでもいい。ただそんな予感が依頼をぼかさせた。
「ならば、後はお任せくだされ。必ずやお力になりましょう。つきましては、彼の人相と子供達の風体をお聞かせ下さいませ」
 柳麗娟(ea9378)は袖を捲り上げた。勇人から筆記用具を借りて似顔絵を描くからと笑って。
「あるがままをお教え下さいまし。恋する乙女の瞳には愛しき方の容貌が五割増で映りますれば」
 照れたように顔を赤らめ俯いたカレンは、その姿はどこにでもいる、恋する普通の女性に見えた。

●闇の中の光
「スラムは何処でも同じだね。でも逆に安心したよ」
 裏道を歩く黒峰燐(eb4278)の言葉はどこか嬉しげな様子さえ感じられる。
「それは‥‥どういう意味であるか、伺っても宜しいでしょうか?」
 エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は丁寧な口調で、礼を守り、問う。揺るがない瞳で。
「別に、そんな他意は無いんだ。気を悪くしたならゴメン。ただ‥‥ね」
 続きは無理に追求せず、エデンは謝罪を聞き入れた。彼女が天界人であることは聞いている。異界で何かがあったからこその発言ならば。
「ウィルは‥‥恥ずかしながら貧富の差が激しい。ごく一部を除いて治安の悪さも否定できません。大きな課題であるのですが‥‥」
 同じようにシド・レイズ(eb4312)は唇を噛む。 
「うん、人の生きる世界は、そんなに変わらないってことだね」
 言いながら彼女は周囲を見つめた。自分が今も、何故ここに来たのか。何をすべきなのか。はっきりとした答えは出ない。でも、どんなところでも人は生きているし、生きていけるのだ‥‥。
「盗まれたのって確か、この辺だったんでしょ」
「確かこの道だったらしいですよ。あ、スリには気をつけて‥‥」
 周囲に注意を払う燐にエレナ・レイシス(ea8877)は声をかけた。
「ええ、本当に気をつけたほうがいいですよ。彼らはすばしこい。とても、素早い‥‥」
 子供達を誘い出そうと、隙のある格好をしていたエデンは文字通り、洗礼を受けた。財布を見事にスラれたのだ。事前に道を調べていたつもりだったが、彼らの連係はそれを遥かに超えていた。 
 カレンから直接話を聞いた仲間達が聞いた限りでは、王城から帰る途中、注文品を受取った彼女が歩いて帰ろうとして、そしてこの辺で子供達に襲われたのだという。
「大人は彼女が鎧騎士だと解れば、手出しはしない。子供だからこそ‥‥か。なんとしても明日までに取り戻してやりたいな‥‥」
 紫田一仙(eb4314)は呟きながら周囲を見る。向こうの世界だったら犯人は現場に戻る、というところだろうが、流石にスリやカッパライのような行為はその中には入らないだろう。そんなことを考えながらふと、思考を廻らす。午前中の聞き込みで、紫田が聞きつけた情報があったのだ。
「そういえば、最近ちょっと人気の吟遊詩人が、毎夕、この先の広場に来るらしい。行ってみないか?」
 周辺の商人の子供などに、彼は積極的に関わっていった。彼らは路地で暮らす子供達のことを教えてはくれなかったが、ヒントはくれた。
「吟遊詩人? いいね。この世界の歌とか、興味あるよ。それに広場があるんなら、ちょっと考えてることもあるんだ。でも‥‥どのへん?」
 土地勘の無い冒険者達の為に鎧騎士二人が案内役をかって出て彼らは歩き始めた。やがて路地の向こう側から優しいリズムと、明るい歌声が聞こえてくる。周囲には音楽に引き寄せられるような子供達。大人達もいる。
「あれは‥‥」
 広場と言うにはあまりにも狭い場所。だが、そこには何故か笑顔が溢れていた。燐は目を細め見つめていた。リュートのメロディーに耳を傾ける、子供達の顔は薄汚れている。だが表情は精霊のように眩しく輝いていて‥‥。
「ねえ、僕も仲間に入れてもらえるかな?」
 曲の切れ目、指を止めた詩人に声をかけた。
「あんまり楽しそうだから。故郷の曲を一曲。どう?」
 不思議な響きの声で、彼は
「ぜひ」
 と頷く。彼の隣の小箱に腰を下ろし、深く深呼吸して燐は歌う。
「〜〜〜♪〜〜♪〜〜」
 一仙は小さく目を閉じた。この歌は故郷の名歌。涙がこぼれそうな時は上を見て。一人ぼっちかもしれないど、輝きはいつも空の上にある。と。
 子供達は身動き一つせずに聞いている。子供たちだけでなく、大人達も‥‥。
「?」
 いつの間にか寄り添うようにリュートの調べが響く。詩人が音を合わせてくれたのだ。
「よ〜し! 元気に行くよ!」
「わ〜〜!」
 子供達の笑い声が響く。楽しそうな歌声、リズム。音楽に国境は無いと言う言葉を、故郷で聞いたことがある。燐は、遠い異国の地でそれを実感していた。冒険者達もそれを感じていた。

●幼き者に差し伸べる手と思い
「お疲れさん。いい腕前だな。聞かせてくれてありがたく思うぜ」
 二人の演奏が終って後、パチパチパチと、拍手をしながら勇人は吟遊詩人に近づいた。
「いえ。こちらこそ」
「あ、皆も聞いてたんだ?」
 燐は瞬きするように集まってくる仲間達を見た。一緒に来たシド達ばかりでなく、別行動で調査をしていたカールレオン達までいたことに少し驚いて。
「いろいろ聞き込みをしているうちに‥‥な」
 軽く周囲の子供達をカールレオン達は一瞥した。子供達は顔を逸らす。そして‥‥
「ジョーイ兄ちゃん。それ、返して! 俺達帰るから!」
 ひったくらんばかりに吟遊詩人の持つリュートを取って行こうとする子供達。彼らをあえて無視して目を逸らせて
「なあ、ジョーイ。俺は捜しものをしてるんだ。想い人への贈り物にと苦労して入手した楽器を盗まれた女性がいてな。何か心当たりはねぇか? 物を取り戻せれば、この際犯人はどうでもいいんだが‥‥。彼女はとてもがっかりしている。彼にその楽器で歌を聞かせてもらうのをとても楽しみにしてるんだ」
 勇人は吟遊詩人に、声をかけた。彼、ジョーイは答えず、子供達の方を見る。そして‥‥子供達は明らかに青ざめた顔を見せていた。周囲からは人が退け、今残っているのは「子供達」と冒険者達。そして、ジョーイだけ。
「俺は、俺達はそんなこと知らねえ! リュート、返してくれよ!」
 今度は比喩ではなく、体当たりの勢いでリーダー格と思われる少年がジョーイから楽器を奪い取った。彼は抵抗しない。だがそのまま走り去って逃げようとする少年たちの前に
「待つんだ!」
 三人の鎧騎士達が立ちはだかった。退路を連係で絶ち、子供達を押し留める。子供達は身体を縮こまらせた。叩かれるか、殴られるか。
 そんな恐怖に怯える子供達。一人だけ、リュートを抱えた少年は冒険者に、いや大人に負けないと睨み付けるが、いつまで経っても衝撃は来ない。
 やってきたのは
「ねえ、盗んだ物、返してあげてくれないかい? その事で彼女、今、ショックで寝込んでるらしいんだ。このままだと危ないらしいんだよ」
 と頼む柔らかい燐の言葉と、
「えっ?!」
 ジョーイの悲鳴にも似た声だった。彼にはまだ盗まれた人物が誰かは話してはいない。純粋に、その人物を思いやっての声だった。
「お前達がそれを盗んだ相手は‥‥本当に悲しんでいる。人の物を盗むのがいいことだと思うのか?」
「そんな、そんなこと言ったって俺達には他に喰っていく方法は無いんだ! ‥‥喰う為にある所から頂いて何が悪いんだよ!」
 カールレオンは諌めるように説得を試みるが、少年たちは逆に居直るように声を荒げた。
「‥‥」
 何かを言いかけたジョーイを手で制し、シドは子供達に向かい合った。
「お前達のしていることが良いことではないのは解っているでしょう? もし、その行為のせいで一人の人間が死に至ったとしたら、貴方達はそれでも仕方ないと言えますか‥‥」
「ぐ‥‥っ」
 子供達は皆、下を向く。それでもいいと、まだ言い切る事を彼らはしない。
 音楽を嬉しそうに聞いていた子供達の笑顔を思い出す。彼らには、まだ闇に染まりきってはいない。
「貴方達は、ジョーイ殿の腕を愛している。なれば解るはず。技術とはその人物の生きた証。盗みは商い人のみならず、その品を作りし職人と、生き方に対する侮辱なのだと。自らの仕事が無価値と思われたら貴方達はどう思われまするか?」
「だけどこれは、俺達の‥‥宝物なんだ‥‥。これが無くなったらジョーイ兄ちゃんは‥‥」 
 麗娟の言葉を、子供達に向けて膝を折り、視線を合わせた勇人が引き継いだ。
「宝物ってのはその楽器か、この音色か? どちらにせよ考えてみてくれ。それだけ大切な物を誰かに盗られたらってな。音色はジョーイが居ればまた聴ける。が、楽器の方はちと替えがねぇ。頼む、返してくれねぇか」
「‥‥僕は、僕を助けてくれた君たちを見捨てない。君たちが望んでくれるなら何度でもここに来るし、歌も歌おう。だから‥‥それは、返してあげてくれないか?」
「僕も、また来る。だから‥‥ね」
 どうしたらいいのか。戸惑う少年の肩を一仙は軽く叩いた。
「理由が何であれ、盗みは良くない。良くない事をしたら、謝らないといけない。唯それだけはしないといけない。大丈夫ちゃんと間を取り持つ。それに、これはチャンスだろ。もうこんな事をしなくて良くなる為の。だから、どうすればいいか、解るな?」
「‥‥‥‥うん、ごめんなさい」
 リュートは、子供達からジョーイへと差し出され、ジョーイから、冒険者達の手へと渡った。
「確かに、受取ったぜ。そうだ。代りにこれをやろう‥‥」
 リュートを持ったまま、勇人は細く、小さな棒のようなものを差し出した。
「これは‥‥笛?」
 手元を覗きこむ燐に、ああ、と頷いて勇人は少年の手にそれを握らせた。
「どうせなら自分でもやってみると良い。使い方は、きっと燐やジョーイが教えてくれるだろ? な?」
 ニカッと笑った豪快な笑顔にジョーイは小さく頷いた。燐もまた笑みを見せる。
「どうせなら、返す前にもうい一曲歌おうか。簡単なのを教えてあげるよ!」
 わあ、と嬉しそうな声が上がる。ジョーイは勇人からリュートを借りて、もう一度指で弾く。
 歌は、人々の心を繋ぎ、友愛という絆を紡いでいった。

●愛を守る聖人達
「元気だっ‥‥た? って、どーしたの!」
「姉ちゃん、ちょっと待ってて! 泥棒に笛、盗られたんだ!」
 手を振る燐の横を少年が風のようにすり抜けていく。
「いやさて、足の速きものよ‥‥」
「んなこと言ってる場合じゃないって。待って! 大丈夫?」
 少年と彼を真剣に追う燐を、仲間達や、子供達は肩をすくめて見送った。
「どうです? 仕事の方は上手く行っていますか?」
「うん、まあ、ぼちぼちね」
 箒を持った男の子のませた返事にエデンはそうですか。と優しく笑った。財布も返してもらったし、今はこの子達の今後が心から気になる。子供達の今後が、この街の今後を左右する。それが、鎧騎士三人、いや、四人の共通見解だった。だからあの事件の後、冒険者達はカレンと、子供達に盗みを止めさせる方法を考えあった。
「最後まで面倒を見れない優しさは、どうかと思うけど〜」
 そんな意見もあったが、このまま、子供達を闇に落としてはおきたくなかったのだ。かくて、子供達は小さな仕事を始める。それは、庭先の掃除であったり、荷運びであったり、店の呼び込みの手伝いであったりした。
 僅かな小遣い稼ぎにしかならなかったが、それでも生活の糧を得る方策の一つとなったのだ。
「後は、子供達次第だな‥‥」
 息を付いてカールレオンが呟く間に、あの子と燐が戻ってきた。
「ふう、やっと取り返した。でも、あの姉ちゃん達、強かったなあ」
「そんなに強い人いたんだ?」
「うん。俺も、あんな風に強くなれるかなあ」
「そなた等は、望むものに必ずなれる。内にある宝を知りなさい。弥勒菩薩は全ての者に生きる術を与えておいでですから」
「弥勒菩薩? 何?」 
 首を傾げる子供達に麗娟が人々を守り、導く神だと告げても、子供達の反応は薄い。彼らには神はいない。導く者も、守ってくれる者も今までいなかった。だが、彼らの心には今、小さな灯火がある。
「今日はジョーイさん、来ないんだろ? 一緒に歌おうか?」
 冒険者。自分達に手を差し伸べてくれた聖なる存在。口には出さないけれど‥‥。
「うん!」
 子供達は自らの心の聖人達へ、満面の笑顔を見せた。

 リュートを静かに爪弾く恋人を、カレンは蕩けそうな笑みで肩をよせ見つめている。奪還の時のジョーイの話を彼女は聞いて、嬉しく、そして彼を誇りに思ったという。
(「子供達を見つめる優しい眼差しと、歌声‥‥貴方は誰よりも強いと、私は思う。貴方を選んだこと。決して後悔しない‥‥。何があろうと‥‥」)

 恋人達の夜、静かな空に愛の歌声と幸せの調べが、いつまでも響いていた。