サヨナラの代わりに

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月17日〜05月24日

リプレイ公開日:2005年05月24日

●オープニング

「冒険者って、いいよな」
「あぁ、すげぇカッコいいぜ!」
「‥‥そうだ! 大きくなったら一緒に冒険者にならないか?」
「それいいな。うん、一緒に冒険者になろうぜ!」
 それは少年同士の他愛の無い約束。けれども、子供達なりに真剣な約束だった。
 それは、約束。叶ったかもしれない、未来への切符‥‥しかし、ある日。
「引っ越す、だって?」
 今にも泣き出しそうなケビンに、ディムは言葉を失った。この友達がこんな顔をするのは珍しくて、だから、「冗談だろ」と笑い飛ばす事も出来なくて。
「父さんの仕事の都合で、街を離れる事になったんだ‥‥一週間後に」
「一週間後だって?!」
 イタズラや意地悪をされた事もある。何度もケンカしてはすぐに仲直りして、その度に仲良くなって。そして、「一緒に冒険者になろう!」と男同士固く誓い合ったのに。
 そのケビンがいなくなる、いなくなってしまう。ディムは途方に暮れて、大切な友達と同じ様に泣きそうになってしまって‥‥でも、涙を何とかこらえて。
「だから、もうお前ともサヨナ‥‥」
「俺の死んだ父さん、画家だった父さんが言ってた」
 ディムは言った。ケビンの言葉を遮るように、その言葉を聞かないように。
「大きくなったら一緒に行こうって。素晴らしい宝を見せてくれるって‥‥ちゃんと地図もあるんだ、俺、持ってる」
 そして、今、自分に出来る事。ケビンの為に出来る事を必死で考えて言葉を紡ぐ。決して口にしたくない、別れの言葉以外を。
「金は姉ちゃんに出世払いで借りる。それで、冒険者の兄ちゃんや姉ちゃんを雇って‥‥だから、だからさ、ケビン」
 そこに本当に父の言った通りの宝なんてあるかどうかは分からないけれども。真似事でもいいから、一度でいいから。
「‥‥一緒に冒険に、宝探しに行こう!」

●今回の参加者

 ea4943 アリアドル・レイ(29歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea8528 ラガーナ・クロツ(28歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2411 楊 朱鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2419 カールス・フィッシャー(33歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2425 モン・ゴルン(53歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)

●リプレイ本文

●さぁ冒険に出発だ
「初仕事でドキドキなのじゃ」
 ディムとケビン、冒険者に憧れる二人の少年の宝探しに付き合う仕事。件の少年達はソワソワドキドキワクワク、落ち着かない。
 しかし、実は依頼を受けるのは初めてのモン・ゴルン(eb2425)も一緒だったりする。というか、ここに集まった者達もそれは同じだ。
「おじちゃん? どうしたの?」
「む‥‥いやいや、見るのじゃこの青空を! 絶好の冒険日和じゃぞ」
 とはいうものの、不慣れな素振りを見せればディム達も不安になろう‥‥モンは二人より僅かに勝っている背を逸らし、自信があるよう装った。
 と、つられて見上げた少年達の上に影が落ちる。三人ヴィジョンで遥か高みより見下ろすのは、ラガーナ・クロツ(ea8528)。
「言っとくが俺は女だ。『お兄さん』じゃない‥‥」
 真ん丸くなった目に、ぶっきらぼうに言うラガーナ。ガタイの良さと中性的な顔立ちからよく男性に間違えられるラガーナにとって、この反応は馴染みのあるものだった。
 けれど、勿論少年達にはそんな事は分からない。
「あの、ゴメ‥‥」
「別に謝る必要はない」
「そうだ。別に怒っているわけではないんだ」
 聞き様によっては冷たく響く言葉に、楊朱鳳(eb2411)は苦笑しながらフォローを入れた。やはり女性ながらよく男性に間違われる朱鳳にはラガーナの気持ちがよく分かる。不器用だなぁ、とは思うけれど。
「それより、準備はOKですか? 忘れ物は無いかもう一度確認して下さいね」
 朱鳳に続いて現れたカールス・フィッシャー(eb2419)、その手に何やら包みを抱えて。
「「準備はOKだぜ!」」
 気を取り直し元気に言う少年達、その手がズルズル引きずっているモノ‥‥どこからか持ち込んだ剣を見て、カールスはとりあえず突っ込んだ。
「‥‥いや、それは置いていきなさい」

「ありがとう、借りて行く」
 一方、アルバート・オズボーン(eb2284)は二枚の地図を手に礼を述べていた。一つはディムの父が遺した簡易な地図、もう一つはギルドに借りた地図だ。
「目的地が推定ここだとすると、やはりこのルートで行くべきか」
「そうですね。この部分が気になりますから、迂回した方が無難でしょうね」
 地図を手に入れたアルバートは、アリアドル・レイ(ea4943)達と相談しながら、安全なルートを確定して行った。
「それじゃあ、そろそろ出発しよう」
 そして、一行は出発した。
「あなた達が冒険に憧れる気持ち、良く分かりますよ」
 歩き出して直ぐ。随分と肩に力が入っている少年達に、アリアドルは少しでも緊張をほぐす様に、優しく声を掛けた。
 元々、冒険者の武勇譚が好きで吟遊詩人をしているレイである。子供達には始めから共感を覚えていた。
 だから、二人に視線を合わせて、言った。ただの依頼人‥‥お荷物や厄介者ではなく、冒険者に対するように。
「小さな冒険者さんの宝探しの冒険譚、是非ともレパートリーに加えさせてくださいね」
「うんっ!」
「おうっ、任せとけ!」
 途端、パッと顔を輝かせる二人。
「俺にも子供達にも皆にも思い出に残る、いい冒険にしたいな」
 その笑顔に、アルバートは心からそう願った。

●冒険いろいろ
「これが所謂獣道というやつです。ほら、草が踏まれているでしょう?」
 アルバートの道案内で進む行程。途中、カールスは折に触れ少年達にレクチャーしてやった。
「なぁ兄ちゃん、あれは何だ?」
「今、頭の上、何か横切った!」
 というか、気分は引率の先生だ。
「それ以上は進むな。道を外れる」
 はしゃいで道を外れ過ぎそうになると、ラガーナが釘を刺し。そんな風に一行は和気藹々と進んで行った。
「たくさん歩いてお腹が減っただろう。さぁ召し上がれ」
 日が高くなった頃。朱鳳が披露したのは、家庭的な西洋料理と華国料理のお弁当。出発前、ディムの姉に厨房を借りてカールスと作った自信作だ。
「‥‥ん、美味い!」
「ええ、本当に美味しいです」
「本当は華国のお茶が付くと尚美味しいんだよ」
「たくさん作りましたから、いっぱい食べて下さいね」
 少年達や仲間達の美味しい顔に、顔をほころばせる朱鳳とカールス。
「それにしても、何とも不思議な光景じゃのう」
 ふと、モンは輪を見回した。ドワーフのファイターである自分、エルフの吟遊詩人であるアリアドル、華仙教大国出身の朱鳳、そして、幼い子供達。出身も種族も年も違う者達が、少年達以外つい先日まで顔を合わせた事もなかった者同士が、今こうして共に食事を取っている。
 ただの仕事、ただの依頼‥‥だが、ただそれだけではない。それだけだったら、こんなに楽しいはずがないから。
「そうだな、これが冒険の醍醐味というやつなのだろう」
「はい。とても素敵ですね」
 アルバートの言葉に、アリアドルも皆も自然に同意の頷きを返したのだった。

「今日はこの辺りで休みましょうか」
 日がゆっくりと沈み行き辺りがオレンジ色に染まる頃、一行は野営の準備を始めた。
 簡単な食事を取りつつ、アリアドルは木の枝等を拾って焚き火を熾し、子供達を手招いた。
「あなた達も見張りを手伝ってくれますか?」
「出来ますね?」
 子供としてではなく大人として‥‥冒険者として扱おうと心掛けるカールスも言い、二人は顔を見合わせた後、コクンと頷いた。が、その顔はちょっぴり怖がっている。
「そうですね、私が二人ぐらいの頃‥‥」
 闇のベールに包まれていく中、カールスは経験談を面白おかしく聞かせた。少年達は興味津々で耳を傾けていたが、風が木の枝を揺らす音にビクっと身を震わせた。
(「当然か。こんなに遠くに、しかも家族と離れて来るなんて初めてだろうしな」)
 カールスは「頃合だろう」とアリアドルと視線を交わしあい、アルバートとモンに合図を送った。
「そろそろ替わろう」
「ワシのテントで眠るのが良いじゃろう」
「俺たちまだ大丈夫‥‥」
 モン達に反論しかけたディム達だったが、
「無茶をすると自分の思いとは裏腹に、皆の迷惑になりかねない。常に自分の状態を把握しておく‥‥それが冒険者の心得だ」
 自身もそう戒めるアルバートにそう言われてしまえば仕方ない。
「さ、あとの見張りは髭のおじさん達に任せて休みましょう」
「うむ、任されたのじゃ」
 冗談っぽく片目をつぶって見せたアリアドルに背中を押され、少年達はテントに入った。
「でも、まだ眠れないよ」
「こんなワクワクしてるもんな」
 それでも、直ぐに小さな寝息がアリアドルの耳に届いた。
「おやすみなさい、良い夢を」

●冒険者とは
「せいっ! せいっ!」
 早朝のピンと張り詰めた空気に、朱鳳の気合を入れた掛け声が響く。
「二人とも一生懸命頑張るからな。私も『のんびり』を返上しないと」
 子供達に触発されて始めた、早朝修行である。
「おおっ、こっちじゃ」
 暫くして、モンの声と共にトトトと少年達が駆け寄ってきた。
「朝飯前だが、やるか?」
 旅が始まってから、朱鳳は合い間を見つけて二人に『簡単護身術講座』を開いていた。
 少しでも冒険者気分を味わわせてやりたくて始めたこれに、少年達は予想以上に真剣に乗ってきた。
「なぁに、身体を動かせば朝飯も美味いじゃろうて」
 朱鳳をサボートする形で、モンとラガーナも付き合っている。
「森は自身を護ってくれもするが、気を抜くと相手にやられる」
 ラカーナは自然を利用した護身術を。これなら、子供達でも出来る、というレベルで教える。
 そうして、三人が二人に護身術を教え終わり、朝食の支度をしてくれている筈のカールス達の元に戻ろうとした時だった。
 突然、ラガーナがハッと顔を厳しくした。
「‥‥下がれ」
 咄嗟に少年達を背に庇い、構える。朱鳳もラガーナに合わせ、構えを取り。視線の先、ディムとケビンは気付いた。朝日を反射するような光る目。こちらを窺う、獣の眼に。
 一瞬の緊張。
「あわわわ‥‥! み、皆、落ち着くのじゃ!‥‥ぶぅえぇぇぇーーーっくしょいっっっ!!!」
 破ったのは、焦ったモンのくしゃみだった。しかも、大きい。
 ふっと抜けた緊張、狼はクルッと踵を返し木陰に消えた。
「もう大丈夫だ、襲ってはこない」
 こちらも構えを解いて、朱鳳。
「‥‥ありがと、姉ちゃん達」
「すげぇカッコ良かったぜ!」
 怯えの残る顔で、それでも少年達は言い。
「ふ、ふん!」
 真っ赤になったラガーナは、照れたようにそっぽを向いた。
「でも、退治しなくて良かったのか?」
「襲い掛かってくるならともかく、無駄な殺生はしないさ。それに、彼らのテリトリーを犯しているのはこちらだからな」
「季節柄、お腹も減ってなかったのでしょうね。冒険者は無益な殺生をしないものですよ」
 昼食の席、問うたケビンにアルバートとカールスは答えた。
 ディムは無言で、ただ朝食の保存食を黙々と口に運んでいた。

「眠れませんか?」
 夜。アリアドルに声を掛けられ、ディムは暗闇の中で身を起こした。
「うん。俺、冒険を‥‥冒険者を簡単に考えてたなって」
 あの獣の眼。怖かった、そして、早く朱鳳先生達がやっつけてくれればいいと思った。
「もし、嘘だったらどうしよう。父さんが言った事は嘘で、宝なんて無くて。そうしたら、俺はただワガママで‥‥巻き込んでいたかもしれない、ケビンを危ない目に」
「父君は嘘などついていませんよ」
 妙に確信した口調で告げたのは、カールス。やはりディムの様子が気になって。
「それに、万が一宝がなかったとしてもケビンくんは怒りませんよ。これは素晴らしい冒険です‥‥そうでしょう?」
 そして、アリアドルの柔らかな声。闇の中、ディムの首が縦に振られた。
「‥‥」
 そうして、やはり眠れず、寝たふりをしながら聞き耳を立てていたケビンの髪を、ラガーナはそっと撫でてやった。
「明日はいよいよ宝探しだ、とっとと寝ろ」
 感じたビックリした気配に、ぶっきらぼうに‥‥優しく囁いて。

●手に入れた宝
「走らないで下さい、気を付けて!」
 いよいよ目的地周辺。我先にとはしゃぐ少年達の背に、アリアドルは声を上げた。とは言うものの、見守るその声と顔とはひどく優しい。
 昔‥‥幼い頃の自分を思い出しながらの優しい眼差しだった。
「俺も子供の頃、兄貴と冒険ごっこしたっけな‥‥」
 万が一の為、ディム達の後を追う朱鳳。ラガーナは続きながら、昔を思い出していた。憂う事も思い悩む事も無かった、あの掛け替えの無い日々。
 だから、ラガーナは歩を早め少年達に追いつき、告げた。
「別れは辛いが、想い出は成長しても残っていくから‥‥きっと寂しくない‥‥」
「‥‥姉ちゃん」
 思いがけない、優しい声。見上げてくる瞳たちから逃れるように、
「それより、ここらへんじゃないか?」
 赤くなった頬を隠しつつ、ボソっと呟くラガーナ。
 それぞれ頷きながら、藪を掻き分ける二人。そして、視界が開けた。

 大地に咲き乱れる、色とりどりの花々。どこまでも続く青い空に映える、新緑を宿した木々。
 太陽の光を浴びながら、花や木や緑が一斉に溢れていた。
 春が、そこには在った。溢れる春、喜びの春、絢爛の春。
「これは‥‥何て美しい」
 朱鳳の口から、感嘆の溜め息が零れた。
「これが、父君の残した『宝』ですよ」
 確信し、やはり呆然と見入る少年達にカールスが告げた。薄々勘付いてはいたものの、二人の気持ちを慮って今まで黙っていたのだ。
「‥‥これが、この景色が宝?」
「あぁ。自分たちの力でこんなすばらしい物が親友と二人見れた事、それこそが宝だと私は思うんだが、ディム達はそうは思わないのかい?」
 カールスの言葉に少年達はもう一度、改めて眼前の光景を見つめ。
「‥‥うん、俺もそう思う。これはサイコーの宝物だ。ディム、お前の父ちゃんはすげぇぜ」
 やがて、満面の笑みを浮かべてケビンが親友に言い。
「そっか。うん、そうだな。父さんは嘘ついてたわけじゃないんだ」
 ディムもまた何度も何度も頷いた。嬉しかった。父親が嘘をついてなかった事が、約束を果たせた事が‥‥何より。
「今、一人じゃないのが、ケビンや兄ちゃん達と一緒にこれを見られたのが、嬉しいんだ」
「わしが一つ、とっておきのまじないを教えてやるのじゃ」
 もう大丈夫と思いながらもモンは、おまじないを伝授した。
「2人で見つけた宝物をいつまでも大切にしておけば、いつか必ず再会できる‥‥そういうおまじないじゃ」
 二人は宝物を扱うようにそっと、モンのおまじないをした。
「‥‥ちなみにあのおまじないは?」
「もちろん、ワシが考えたウソなのじゃ」
 朱鳳の問いに、悪びれた風もなく明かすモン。二人には聞こえないよう、こっそりと。
「きっとウソも方便なのじゃっ」
 朱鳳は苦笑しただけで何も言わなかった。それは分かっているから。
 モンの言う通り、おまじないが嘘でも本当でも二人は再会出来ると‥‥この光景を今の気持ちを忘れなければ、きっと。
「そうだな。『さよなら』は決して『終わり』ではない。君達が自分の夢を忘れない限りいつかきっと出会いはある」
 だから、朱鳳はディムとケビンに言い聞かせるように、告げた。
 二人はもう迷いなく、大きく頷いた。
「では、そんな二人に私からのプレゼントを」
 そうして、アリアドルは笑みを深くすると、竪琴を爪弾きながら歌声を風に乗せた。

『どうして今日のさよならが 永遠に続くと思うのでしょう
夕べに沈んだ太陽が 昇らぬ朝などないものを

どうして今日のさよならを 恐れることがあるでしょう
時の流れに褪せることない 確かな絆があるというのに

さよならは 再会の約束
いつか歩む未来のどこかで もう一度君に会えることを
信じて交わす 約束の言葉』

「あぁ、いい歌だ」
 聞き惚れながら朱鳳は、傍らで同じ様に耳を傾ける少年達を見、満足そうに呟いた。
「いい顔をしている」
 彼らはきっと大丈夫だろう。「サヨナラ」の代わりに「またね」を、涙の代わりに笑顔を交わすだろう。いつかまた会う日まで。
 そして、そんな少年達を見つめ、カールスは思った。彼らがいつか本当に冒険者になった時、自分はどうなっているだろうか?、と。
「願わくば、彼らが尊敬するに足る『先輩』に」
 願い描く未来は、少年達に負けないくらい輝き‥‥カールスは頬を緩めた。
「家に帰り着くまでが冒険だ、最後まで気を抜くなよ」
 そうして、アルバートの言葉に全員が大きく頷いた。それぞれ、出発した時よりちょっぴり、たくましくなった顔で。