スイートホーム1〜財を求めて来た娘

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2005年06月17日

●オープニング

「追っ手はいないわね?」
「いませんな」
 ドレスタット港にて。東洋人の若い娘と老年の男が辺りを警戒しつつ囁き合っていた。
 よし、と頷く娘へ老年の男は複雑な顔で話しかけた。
「お嬢様、その、本当に冒険者になるのですか?」
「もうなったのよ。後はどんどん依頼をこなしてお金を稼ぐだけよ。途中で掘り出し物でも発見できれば文句なしね」
「こう言っては何ですが、道場に通っていたとは言え、お嬢様が本物の剣を持ったのはこれが初めてでしょう。依頼を受ける以前の問題ですよ。せめてバードになさればよいものを。お嬢様の歌声ならどんな敵もイチコロでしょうに」
「わたしの歌、そんなに魅力的?」
「殺人的と申しているのです。剣よりよほど‥‥」
「じいは宿で留守番してなさい! わたしはギルドに行ってきます!」
 足音も荒く、娘は冒険者ギルドへと行ってしまった。

 この娘、名を堤花房と言う。齢は17。呉服屋「つつみ」の一人娘である。付き従う老年の男は、ずっと彼女の教育係を勤めてきた者で、じい、と呼ばれている。若い頃に柔術を修行しており、長らくボディーガードも務めてきた。
 実はこの二人、離れすぎの年の差など乗り越えてはるばるドレスタットまで駆け落ち‥‥ではなく、花房が7つばかりの頃に一家が新天地を目指してパリに移住したが、最近事業に失敗し、差し押さえられてしまった家と店を取り戻すべく、お金を稼ぎにここまで来たのである。運の悪いことに、金を借りた相手は取り立ての厳しい高利貸しだった。
 父と母はショックのあまり今にも倒壊しそうな貸家で呆けているし、長男の弟は病弱で役に立たない。
 このまま手をこまねいていれば、花房は身売りするしかなくなってしまうわけで、自分のためにも家を飛び出したのだった。
 しかし家を出ればうるさい借金取りがやって来るので、わずかに残った身の回りのものを売り、冒険者となり一稼ぎして家を取り戻そうと決意した。
 店が潰れた時に暇を出したはずのじいが、それを聞きつけ強引にくっついてきたのだ。
「世間知らずのお嬢様が一人で冒険者なんて、無謀です」
 ということらしい。

 宿に入ったじいへ手紙が届いていた。待っていた手紙だ。
 差出人はここに住む彼の古い友人である。
 そこには冒険者になりたての花房でもどうにかなるような依頼をギルドに出しておこう、と書かれていた。二枚目には依頼の内容も記されてある。
「ドレスタットを出た森の中に朽ちた教会がある。実はその教会、何かの建造物の上に建てられたものらしいのだが、それが何なのかわからない。研究者を送って調べたいが、地下施設には何かがいるという噂があるので、冒険者の方々にまずそこの地図とレポートを作ってきてもらいたい‥‥か」
 なお、入り口は礼拝堂裏の岩のあたりだけらしい。
 しばらく手紙を眺めるじい。冒険に関する心配事以外にも頭を悩ませるものがある。
 借金取りの連中だ。彼らは必ず追ってくるだろう。もうドレスタットに潜んでいるかもしれない。
 だいぶ寂しくなった頭髪がさらに寂しくなりそうだった。

「他の方がいらっしゃるまで待って下さい」
 依頼の応募に辺り、ギルドの係員は二人にそう告げた。

●今回の参加者

 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5803 マグダレン・ヴィルルノワ(24歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6000 勝呂 花篝(26歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 ea6137 御影 紗江香(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●ご指導ご鞭撻のほど‥‥
「よろしくお願いします!」
 集まった冒険者の面々に堤 花房は元気良く挨拶をした。どの人も皆大先輩と言っていい冒険者達である。彼女から見れば凄腕ぞろいだ。
 そして問題の朽ちた教会へ行き、さっそく地下への入り口の周りに立つ。
 教会は見事なまでに廃墟だった。どれくらい過去に建てられ、いつから人々に忘れ去られたのか、かつては厳粛で清廉だったであろう礼拝堂は砂埃にまみれ、天井は半分ほど崩れ落ちて空が見えていた。最奥の十字架が流れた年月を見守るように掲げられている。
「聞いた話ですと、この教会は災厄を鎮めるために建てられたそうですね」
 ここに来る前に調べておいたことを御影紗江香(ea6137)が話した。
 その災厄が何だったのかはわからなかったが、教会に一番近い集落の古老が言うには、何年も続く大飢饉だったのではないかということだった。
 また紗江香はできるかぎり過去の地図が残されていないかも調べ、そこに教会か地下の建造物に関する記述がないかもあたってみた。結果、一枚だけ、教会の隣に墓地が記された地図を見つけた。
「と、いうことは、この下にあるのは墓地ってこと? 教会の下に墓地‥‥?」
 マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)は自分で口にした結論に首を傾げた。
 それよりも、何か異質なものが封印されているとか、パリで確認されている悪魔崇拝者に関する何か、のほうがよほどそれらしくないか?
 依頼書にあった地下への入り口が書かれた場所へ行くと、確かに大きな岩があった。その周辺の土をこすると、古ぼけた板戸が現れる。よく腐らなかったものだ。
 見た感じ、罠などはなさそうだが念のため紗江香が点検をする。
 鍵がかけられていたが難なく解除。案の定、罠はなかった。
 板戸を引き上げると、長年こもっていた空気がかび臭さと供に立ち上がる。むっとする臭いに思わず顔が歪む面々。
 入り口はマグダレンが連れていたロバが入れる幅はなかったので、荷物は音羽朧(ea5858)が預かることになった。
「皆様がお戻りになられるまで、わたくしが見ておきましょう」
 木にロバをつないでいたマグダレンに花房についてきていたじいが申し出た。彼はここで待つことにしたようだ。

 かび臭さと湿気で、正直、地下は不快だった。
 一行の少し前の天井付近にランタンを持ったシフールのマグダレンが飛び、中程でも紗江香がランタンを灯していたため、そこそこ明かりは確保できていた。もっとも天井といってもジャイアントの朧がジャンプすれば頭をぶつけてしまいそうな高さであるが。
 天井に注意を払いつつマグダレンが花房に声をかける。
「花房様は此度が初めてのお仕事なのですか」
「そうよ。いろいろ教えてね」
「じいや様もいらっしゃればよかったのに」
「年寄りにこの臭いはキツイんじゃない? もうじき自分もお世話になりそうな場所だし」
 そう言って屈託なく笑う花房の背に、勝呂花篝(ea6000)がピタッと寄り添う。
「ジャパンのジプシー、歩き巫女の勝呂花篝ですよ〜。名前も似てますし、同郷ということでよろしくです」
「やっぱりそうだったのね。何だか親しみのある顔立ちの方が多いな、と思っていたのよ。ノルマンに来てだいぶ経つけど、同郷の人に会えるのは嬉しいものね‥‥ん? んひゃぁ!?」
 嬉しそうに顔をほころばせていた花房が突然奇声を発して飛び上がる。
「あ、そんなに感じちゃった? 花房様ってものすごく敏感‥‥」
「花篝さん‥‥」
 二人の後ろを歩いていた深螺藤咲(ea8218)は見ていた。花篝の手が花房のお尻を撫でるのを。
 花篝は笑顔でごまかすと、さっさと話題を変えた。
「花房様はどうして冒険者になられたのですか?」
「えーと、手っ取り早く大金が欲しくてね‥‥」
 花房は藤咲を盾にするようにして答える。
「何かお困りのことがあれば、お手伝いいたしますよ。だって、花房様はかわいいですもの」
 ハートが乱舞してそうな勢いで花篝は花房に抱きつく。いつ回り込んだのか、素早い。
「そういえば」
 と、上から降りてきたマグダレンが少し怪訝そうな顔で口を開いた。
「ギルドに入る前に挙動不審な男性数人を見たのですが、心当たりありますかしら?」
 彼らはとてもガラが悪くて、服装にもあまり気を配っていないふうだったという。
 見ると、花房の顔から明るさが消えていた。かと思いきや、突然地に頭をこすりつけた。
「申し訳ございません! それはきっとわたしが目的なのです。実は、借金取りに追われてまして‥‥」
 花房は家の事業の失敗により毎日のように借金取りに責め立てられていて、自分はその返済のために一攫千金を狙って冒険者になったことを白状した。
「同じ依頼を受ける方々に迷惑になってはいけないと、こっそり出てきたつもりだったけど、考えが甘かったようね‥‥」
 姿勢は土下座のまま、花房の声は沈んでいた。
「しかし、まだはっきりと見つかったわけではなかろう? いかがでござろう? 借金取りをあざむくためにも、道中はレヴィン殿とお呼びするのは」
「お家の危機を救うために冒険者になられたのですか。ならば私も手助けしたく思います」
「朧さん、藤咲さん‥‥」
 二人の厚意に花房の目には感激のあまり涙がにじんでいた。
「そうと決まれば、この依頼をきっちりこなしましょう」
 朧の肩で休憩をとるマグダレンに代わり、今度は紗江香が一行の先頭に立ちランタンで行く手を照らした。
 涙が止まらなくなってしまった花房に、ここぞとばかりに花篝が寄り添う。
 そしてなだめられた彼女の涙が止まる頃、それまで一本道だった通路に最初の岐路が現れた。

●巣と棺
 道は左右に分かれていた。同時に内部の様子も少し変わってきていた。これまでむき出しだった土壁に装飾が施されるようになっていた。丸や三角や菱形が絡み合うそれらの模様は土壁を彫って作られ、大きく見て植物を表現しているようにも見える。
 進んでみないことには始まらないので、一行は右から行ってみることにした。
 何らかの危険や罠は張られていないか、と紗江香は慎重に進むが今のところ危惧しているような事態は起こる気配がない。壁の模様も通路も延々と続く。
 いくらゆっくりした歩みとはいえ、それでもかなり歩いたと思った頃、道は左に曲がった。
 それにしても、地下は暗い。何となく心細そうな花房にマグダレンはわざと明るさを強調した声音で話しかけた。今は朧の肩からバスカ・テリオス(ea2369)の肩へと移動している。
「花‥‥レヴィン様のお召し物はどこで手に入れたのかしら」
「これは母が作ってくれたの。呉服屋やってたから布はあったし。あ、横領じゃないわよ。ちゃんと代価は払ってたんだからね」
 誰もそこまでは聞いていないが、念を押す花房。
 彼女の着ているものは基本はジャパンの型だが、どこか西洋も混じったような作りをしていた。着物のように動きにくくはない。
 などと会話しているうちに、再び分岐点がやってきた。今度は右、左、直進、と三つに分かれている。
「ちょっと、見てきますね」
 と、藤咲が右へ伸びる細い通路に入っていく。
 その背中が暗闇に消えたすぐ後に、彼女が冒険者達を呼ぶ声が聞こえてきた。切羽詰ったような様子はない。
 呼ばれて行った先にあったのは石像だった。
「これはセーラ様‥‥?」
 藤咲は首を傾げる。確信はないが宗教画などと印象は似ている。
 他は特に何もないようだったので、もとの分岐点に戻る。
「こっちへ行けば中央のあたりに出るのでしょうか?」
 暗闇の奥を照らすようにランタンをかざす藤咲は、石像を背にして立っていた。
「行ってみるでござるか」
 これまでの道筋を書き込んだ朧の声で次の行く先が決まった。
 そしてしばらく歩くとまた分岐点である。
「これは‥‥わざと迷うように作られているとしか思えませんね」
「何かを守っているとか?」
 紗江香のうなりに花篝が可能性をひとつ挙げると、朧が思い出したことを口にした。
「そういえば、教会の隣に墓地が描かれた地図がござったな」
 紗江香が調べてきた地図に、そういうのが確かにあった。
「まっすぐ、行きましょう」
 今度は紗江香が決めた。
 ほどなく進んだ頃、突然バスカが先頭の紗江香を止めた。
「何かいるようです」
 彼は静かにスピアを構える。
 その言葉に冒険者達はいっせいに武器に手をかけた。
 状況が飲み込めずキョロキョロする花房の傍らに紗江香が移動する。
 今まで何もなかったのが不思議といえば不思議だったのだ。ここらへんで危険が束になって現れてもおかしくはない。
「来る‥‥!」
 いまやバスカでなくとも、何かが向かってくる気配は感じられた。複数の何か。直後、闇にいくつもの小さな光の点が現れ、地を引っかくような音が迫ってきた。
「ジャイアントラットか!」
「彼らの巣に踏み込んでたのでござるな」
 ジャイアントラット程度なら、花房を除く冒険者達の敵ではない。数は多く戦闘を行うには通路が少々狭いが、簡単に退けられるだろう。
 実際その通りで、バスカのソードボンバーでジャイアントラット達は冒険者達に近づくことすらできず、衝撃波で足止めされたところを花篝の矢で射られたり、藤咲の放つスマッシュで屠られたりしていた。また運良くソードボンバーを逃れられても、朧の挑発で我を失って突進し、隙をつかれて仲間の冒険者に倒されるといった次第だった。
 その見事な連携に、花房はただ感心していた。
 あらかた片付いたところで彼らはさらに奥に進んだ。
 地図を作らなければならないので避けていくこともできないのだった。
 ふと前方に、ぼんやりとアーチ状の入り口が浮かび上がった。ジャイアントラット達はこの向こうから現れたのだろう。
 人ひとり分の幅のアーチをくぐって中に入った彼らの目に最初に見えたものは、広い室内とその真ん中にある直方体の石の塊だった。
「これは‥‥棺? 何か書いてありますね」
 膝を着き、調べていた紗江香が棺に刻まれた文字に気付く。
「惜しいですわ。ジャイアントラット達に荒らされたようで、この中の人物が誰なのかはわかりませんが、大昔のこの地の名士のようですね」
 文字はだいぶ削られていて、それ以上のことはわからなかった。
「一枚だけ残っていたあの地図は、ここのことを示していたのですね」
 これ以上のことを調べるのは、この報告を受け取った依頼主側の研究者の仕事、となりそうだ。
 冒険者達は室内を一巡してみたが、棺以外のものは見つからなかった。ただ、壁には、ここまでの通路にずっと続いていた植物を表現したと思われる図形の組み合わせが彫られていたのと、燭台がいくつかあっただけだった。
 棺の主がどんな人で何をしてきたのかは、いっさいわからない。それどころか、こうして冒険者達が入って来なければ、ここはずっとジャイアントラットの巣だったかもしれない。
「もしこの棺の人が静かに眠っていたかったとしたら、余計なことをしちゃったのかしらね」
「それは、生きている私達にはわからないことですし、そこにある謎に手を出さずにいることは無理でしょう」
 世界から忘れ去られていた棺の主へ少々感傷的になっていた花房の言葉に、紗江香はどこまでも生者としての答えを示した。
 無邪気と言ってしまえばそれまでのその答えに、花房の感傷は吹き飛び大きく頷くのだった。
 その後は再び内部調査が続くが、室になっているのは棺があるところだけで、後は延々と暗い通路が室を囲むように伸びるだけだった。
 この名士の墓は、棺の間を中心に左右対称に作られており、通路が外側と内側の二重に作られ、左右にある石像が棺の間を貫くように一直線に伸びていた。
「これ以上は何もなさそうでござるな」
 地図を描き終えた朧の言葉に誰も異論はなく、一行は地上へ戻ることとなった。

●厄介事、現る
 地上に戻った冒険者達が光に目を慣らす間もなく、新たな事態が展開していた。
 まず聞こえてきたのは、マグダレンのロバのいななきだった。
 切羽詰ったようなその声に急いで駆けつけると、ロバをかばうように立つじいと、それを囲むガラの悪い男が三人対峙していた。
「何をしている!」
 普段の丁寧な口調もかなぐり捨てて、バスカが真っ先に男達に挑みかかる。紗江香も忍者刀を抜き、スタッキングとスタッキングPAで追い払いにかかる。
 殺しはしないが、男達はそれに匹敵するほどの恐怖を味わうことになった。
 しかしロバの所有者であるマグダレンは容赦しなかった。
 彼女の放ったダーツはシューティングPAによりさっくりと額のど真ん中に突き刺さる。
「大丈夫、死にはしないから」
 自信たっぷりに言うが、男達はあられもない悲鳴を上げている。
 運良くダーツを逃れた一人の首筋に、バスカのスピアがひんやりと押し当てられた。
「ただの泥棒か? それとも‥‥」
 ちらりと花房を見やる。
「て、てめぇらには関係ねぇ! 関係あるのはそこのジジィだ!」
 やはり借金取りのようだ。冒険者に隠れて、花房の姿は見つけていないらしい。
 男は逆にバスカを脅すような口調で言った。
「てめぇはあのジジィと関係があんのか? だったら、ちょっと話があるんだけどな」
 しかしバスカにそんな脅しは通じず、逆に男は自らの死を確信することになってしまった。
 滝のような冷や汗を流し、すっかり逃げ腰になった男にバスカは冷ややかに言った。
「‥‥whirlwind‥‥我が二つ名‥‥覚えておくがいい」
「くっ‥‥、ぜってぇ忘れねぇぞ! 覚悟しやがれコンチクショウ!」
 平凡な捨てゼリフを残し、男達は逃げ去っていった。
 武器を収めたバスカ達に、まっさきにじいが頭を下げる。
「申し訳ない‥‥! やつらの目を甘く見ていた」
「ジョゼは無事だったんだから、いいのよ」
 マグダレンの言葉に、じいは何度も謝罪を口にした。
 しかし、何はともあれ、依頼は達成されたのだった。
 返済までは、まだまだだが。