英雄大募集

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月07日

●オープニング

 奇妙な依頼。そう、一言で言えばこんなことまで冒険者ギルドが扱っているのかと、驚かされる。
「うん。駆け出しの吟遊詩人なんだよな。そこそこの腕はあると思うが、まだ名前が売れていないため、開店休業と言う訳だ」
 ギルドの事務員は、苦笑を浮かべながら書付を見せる。
「金にはならない。しかし、間違っても命の危険は無い仕事だ。それに、お前さんたち駆け出しには美味しい話だろうと思う。ちいとばかし頭は使うけどな。話は簡単だ。冒険談のネタをでっち上げて依頼主に渡せ。出来がよければ只でお前さんたちを売り出してくれる」
 吟遊詩人に武勇談を詩(うた)にして貰える。それは、よほど大きな手柄を立てた場合でもなければ、冒険者から金を払って頼み込む話だ。
「お前さんたちの力量から見て、不相応な話だと嘘くさくなる。本当の話に聞こえる程度の、胸踊る冒険の筋立てを創ってやってくれ。おまえさん達のためにもな。いいんだよ、断っても。こんな美味しい依頼、欲しい奴はいくらでも居る」
 どうだねと、事務員は笑った。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1560 キャル・パル(24歳・♀・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1690 フランク・マッカラン(70歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2815 ネフェリム・ヒム(42歳・♂・クレリック・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea3814 ミニヨン・マイステル(23歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3934 ルーク・フォンセイン(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4238 カミーユ・ド・シェンバッハ(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●居酒屋
 銀の竪琴、羽帽子、異国風の仮面に黒絹のマント。黒い猟犬を連れて、待ち合わせの村の居酒屋に風変わりな依頼人は顕れた。
「ごきげんよう。私はマレーア(潮流)と申します。皆様よしなに‥‥」
 流暢なゲルマン語だ。通訳を務めるフェネック・ローキドール(ea1605)が彼の右に座す。
 卓を囲み食事を共にし、さりげない会話から始まった物語。
「もうすぐ日が沈みます。ラストオーダーを」
 卓に並べられる料理の数々。塩を分かち杯を交わし、卓の料理の最後の一切れが食され、ワイン最後の一滴が飲み干されると、マレーアは指拭きパンを犬に下げ渡し
「お話は全て伺いました。始めましょう」
 竪琴を取り、奏で始めた。

●夢織師
「黒き森に住むものは、野盗に非ず幽鬼に非ず。愛らしき妖精、宝石の猫‥‥」
 キャル・パル(ea1560)のお話だ。勇ましいと言うよりはおとぎ話のような可愛らしい物語。漏れ聞く村の子供らが、耳を傾け拳を握る。
「‥‥信じる者の多かれば、森の法(おきて)は保たれん。小さな小さなシフールを、いつしか人はこう呼びぬ。夢織師(ゆめおりつかさ)と‥‥」
 調べが変わる。これは吹雪のイメージだ。
「‥‥絹の道は武術の道。峻険を冒し、火の難・水の難・盗賊の難‥‥限りなき艱難を乗り越えて、一命を賭して渉る求道者。真冬の山脈を踏み越えるファットマン・グレート(ea3587)こそ、かのモンゴル王国に並びなき勇者。獅子を飼い竜を弄びて余勢あり。激しい吹雪に馬は倒れ、血を啜りて先に進みぬ。
 ‥‥ようよう来るは雲の上、インドゥーラを望む世界の屋根。然り、こは伝説の魔人の国。見出す者は多けれど、還りし者は鮮(すくな)し。‥‥天に届かん塔の上、闘技場の備えあり。ウサギのごとく跳ね上る、そが難業を成し遂げし者、初めて稽古の資格あり。千里の階(はしだて)中にありて、螺旋の途に倒れる勇者累々。されど、上天を信ずるファットマンは、雷鳴の他に恐れ無し。一日の内に天に到り、魔人の師(つかさ)に教えを請う。日の翳らば、階を一気千里を駆け下り。以ってこれを日課と為す。
 1日1手3日で3手、地業72・天業36、合して108の極意を授かり故郷に還る。
 大ハーン。武勇を誉めて名を授くる。汝これよりツァガーン・バアトル(白き勇士)と名乗るべし」

 一息に、二つ歌い上げしその時は、日が紅く最後の輝きを投げかけていた。
「お水をどうぞ」
 疲れを労わり、フェネックがパンを裂きスープを捧げる。
「そうですね。さ、皆さん。日は没しました。子供は家に帰したほうが良いでしょう」
 パンを一口スープを飲み、暫しの休憩。
 大人たちははっとして、窓に鈴鳴る子供を帰した。

●勇士たち
 君よ、シェンバッハの名を知るや。ノルマン復興戦争の勇者の名を‥‥。大王に剣を捧げし英雄も、死すべき定めの人の子なれど、遺されし妻は幼き子供。名をカミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)と言う。
 嫁して一年夫を失う。未だ白き結婚なれど、捧げし操(みさお)はただ一人、独り家名を背負いて守る。されど、悲しき人をさらに悲しみへ追い討ちするを人生と謂うや? 霜に芽生える麦のごとく、心無き誹謗が夫人を見舞う。毒殺の噂、淫業の話、義人ヨブもかく在らん。世の中の友はいつか消え、優しき言葉も露と消え行く。噂極まり、災いの当に夫人に降りかかりし時。主は運命を贖われた。
「私は旅の占い師。禍々しき気を祓う為、罷り越しました」
 主は、事の始めにミニヨン・マイステル(ea3814)を遣わした。彼女こそ、救いの先触れ。卜して曰く
「夜明けの前が最も冥い。今より7つの不吉があるでしょう。それは来るべき救いの徴。奥様のために7人の勇士と、3人の義人が使わされるでしょう」
 かくてその日より、7つの不吉が家を襲う。異音に震える家屋敷、中に飛び交う妖しき光、家の門には血文字の標、天より降りし生きた魚、先祖の亡霊現れて、夫人を罵り剣を鳴らす。井戸の水は苦ヨモギとなりて、淫らな曲が鳴り響く。
 7つの時が過ぎた朝、館を訪ぬる者ありて一夜の宿を請う
「わが名はルーク・フォンセイン(ea3934)。世直しの旅の途中なり」
 執事、悪評を慮って門を閉ざせども、夫人は哀れみて門を開く。これぞ勇士の1人なり。
 正午に寡(やもめ)を訪ねしは、東方の賢女・イリア・アドミナル(ea2564)。怪異の主を悟れども、知恵に勝る分別ありて今は語らず。ただ、寡の親しき友となり、左の席に座りけり。
 その日の夕に現れし、旅の僧侶はネフェリム・ヒム(ea2815)。担う袋はいつの日も、決して閉じることはなく、貧しき者の友となり、悪しき者の兄弟となる。寄進を乞いて家を回り、粥を炊きて衆に施す。彼は、1人の傷つきし老人を拾いにけり。
 彼らの来たりしその日より、家の怪異は消え失せぬ。

●襲撃
 夜半に降りたる雨の中、闇に蠢く者どもは、これぞ怪しき死の使い。マントの中に短剣を隠し、刃に塗ったる毒蛇の毒。寡の命を狙いつつ館の構えを乗り越えたり。危うきかなシェンバッハ。事の成れるその刹那、壮士現われ呼ばわれり。
「聞けや悪しき者どもよ。鳳 飛牙(ea1544)の名を聞かば、逃げ去るとても詮は無し」
 空に知られぬ雷(いかづち)か、無手にて刺客をあしらいし、さまは竜巻さながらに、繰り出す掌は抜け行きて、刺客忽ち爆死せり。刺客の長に飛び掛り、軽く小突いて言う事は
「見たかこれぞ3年殺し。己が体は生きながら、次第に腐りて朽ち果てぬ。秘伝の法を施さば、あるいは命を永らえん」
 刺客、悔い改めてひれ伏せば、寡はこれを赦したり。

 刺客を飼いし黒幕は、亡夫が叔父のハインリッヒぞ。口に甘言、手には膠。家の宝を狙いつつ、海賊どもと結託す。事の漏れたる今となりて、ハインリッヒ義戦を宣りて兵を起こす。兵の半ばは海賊なり。
 さても、海賊どもの船。人の去りしその後に、封印されし船倉に、囚われ人が2人有り。子供と夫人の見かけなれど、伝道の書に曰く、人は上辺を見るとは当にこれなり。要らぬ犠牲を避けるため、身代わりとなりて自ら縛についた騎士の子供と手弱かな夫人。賊どもの居なくなるやと見れば、忽ち戒めを解くは、名門貴族オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。我に勝る益荒男に嫁ぐと誓いて20年。騎士が中のラーンスロット、馬が中のブケファラス、貴婦人が中のオイフェミア。幾多の求婚者を退けて、齢三十路に迫るとも、なお衰えぬその美貌。唱える呪文に、忽ち船は石と化す。抜ける二人を後にし、海賊船は海の藻屑。

「不義の家、甥の仇を当に討つべし」
 弓矢に槍に剣を手に、兵は館を囲みたり。兵の半ばは騎士にあらず、雇われもののならず者。屋敷に在るは2人の勇士に2人の義人。
 ルークの剣は諸手に有りて、血をば啜り命を食らう。闇夜に描きし剣の跡、鋼と鋼を打ち合わす、火花は星を撒き散らす。飛牙の業はさながらに人巻き上ぐる竜巻か。燕のような早業に、掛かる雨に僅も濡れず。イリアの術も凄まじく、水の裁きで懲らしたり。幸いなる哉ネフェリムは、真に御心に適う者。改心したる者どもに、神の癒しを与えたり。
 されど、多勢に無勢。奮戦すれども旗色悪し。
「寡の家ば取り囲み、仇為す者に義はあるや。不肖フランク・マッカラン(ea1690)がお相手申す」
 怪我の癒えたる老人は、救いの担い手真の勇士。寡を護りて一歩も引かず、肉を切らせて骨を断ち、骨を割らせて魂を砕く。豪の者たるハインリッヒの騎士は、鎧、板金、二つながらに貫かれ、忽ち朱に染まりたり。

 叔父ハインリッヒは魔道騎士。魔法と剣を極めし者。味方の不利とみるや魔獣を呼び出し勇士に当てん。剣の業も東洋の神秘も、魔獣の体は弾き返す。既にイリアの精は尽き、抗う術もあらざるに、
「わが神、わが神、どうして我を見捨て給うや」
 邪はそれ正に勝ち難し、義人の祈りに答えしか、勇士はさらに現われぬ。
「汝はあの時の童(わっぱ)」
 叔父が抱える海賊も、彼らを捕らえたるは一生の不覚。神聖騎士の両の眼は兵の中、海賊どもを見止めけん。
 若き神聖騎士はシクル・ザーン(ea2350)。誉れ高きアーサー王が家臣にて、武門の家の嫡子なり。されど、仕えし主(しゅう)は王の王、領主の領主たる創り主。決して自ら剣を下さず、3合をただ防ぎたり。見かけは子供なるけれど、4度を許さず一触に斬る。魔法使いは慈母なりて、呪を放ちて彼を助くる。2人の勇士は風の如、魔獣目掛けてまっしぐら。
「義によって助太刀致す。雑魚は任せてもらおう」
 名乗り上げたる風 烈(ea1587)の、疾風が如き蹴りの術。
 館を巡る攻防の最中、叔父は新手を呼び寄せて、粉砕しようと図ったが、そこに巡り合わせた男が1人。
「何奴! さてはカミーユの手の者か!」
 兵は有無を言わさず、槍を片手に突き掛かる。如何に関わり無き者だとて、降りかかる火の粉は払わねば成らぬ。
 マント靡かせ舞うが如く、兵を往なせばすっ転ぶ。
「人違いだ。私はルイス・マリスカル(ea3063)。判れば早々に剣を引け!」
 されど、転びし兵は間抜けにも、折れた穂先を首に受け、神の御許に呼ばれたり。かくあい成っては是非も無い。忽ち掛かる兵どもの、得物を奪いへし折りて、
「命が惜しくば疾く立ち去れ」
 元が卑しき海賊なれば、蜘蛛の子散らして逃げ去りぬ。

「不甲斐なき者どもめ、かくなる上は」
 と、ハインリッヒは矢を寡に放てども、飛び来る矢玉を打ち払いて、立つは影より湧き出でし者。その名を我羅 斑鮫(ea4266)と言う。
「貴様! 裏切ったか」
「ふん。言った筈だ。俺は嘘を付いた依頼人にはそれなりの報復をする。とな。俺が調べたところ、カミーユ殿に罪は無い」
 次の瞬間、ハインリッヒの背後に。その喉元を掻き切らんと欲す。
「お待ちを」
 寡すなわちカミーユは、仇が命を請いて願い。乙女の祈りに刃は止まる。
「ハインリッヒ叔父様。叔父様がシェンバッハ家の家督をお望みならば、全て差し上げましょう。その代わり、悪事からは一切手を引いてください」
 寡と言えども子供のようなカミーユは、祈りの姿勢で訴えん。
「ふん。実を伴わぬ白い結婚のくせに、シェンバッハ家に居座る貴様に‥‥」
 刃を突きつけられながらも流石騎士。動じもせず言い放てり。
「私の夫は、生涯ただ1人。、シェンバッハの名は捨てませぬ。されど、領地を治めるのには私よりも叔父様のほうが相応しく存じます」
 そを聞きて、斑鮫は。
「望むものは全て得た。この上、彼女の命を望むならば、二度と金の要らぬようにしてくれるぞ」
 言いて、さっと闇に抜けて行く。カミーユは家督を譲り旅に出る。只思い出とその名のみを携えて、妣(はは)の国へと。

●物語の始まり
 こうして、創られた詩(うた)は竪琴に乗って運ばれる。この奇妙な依頼に加わった者の名は、それなりに近隣に響き始めた。そんなある日。詩を耳にした男が歯軋りをして呟いた。
「‥‥名前こそ変えてあるが、紛れもなく奴らのことだ。見ておれ、必ず探し出して八つ裂きにしてやる」
 呪詛の言葉を吐き出しつつ、男は古いワインを喉に流し込んだ。