冒険者からの依頼〜謎の獣を調査せよ

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月17日〜06月26日

リプレイ公開日:2005年06月24日

●オープニング

 ドレスタットとアレクス・バルディエ卿の領地は、深く広大な森で隔てられている。現在人々は森を大きく迂回する街道を使って行き来をしているが、かつては森を貫く道が存在していた事が、最近の調査で明らかとなった。公式にはアルミランテ間道、近隣の人々からは『駆け出し冒険者の道』などと呼ばれているこの道を、かつての様に馬車も往来できる街道として再生しようという試みが、アレクス卿の命令により進められている。
 その中心人物である志士が冒険者ギルドに持ち込んだ依頼は、この事業に関わるものだった。
「最初に調査を行った冒険者達は、森の奥で『巨大な獣』に遭遇している。しかしそれ以降、全く情報が得られていない状態だ。今後、工事を進めていかねばならない事を考えると、正体すら分からないものが存在しているというのは非常にまずい。そこで、その調査を頼みたいのだ」
 張り出された依頼を覗き込む冒険者達に、彼女は地図を指し示しながら説明をする。
「獣が目撃されたのは、この辺りだ。私達は便宜上、森の中の道を5分割している。その3区にあたる場所だから、道程のほぼ中間、森の最深部という事になる。底なし沼や湿地の存在するこの辺りからドレスタット寄りの4区にかけては、猪なども目撃されていて‥‥ 要するに、森の中でも特に獣の多い場所なのだ。巨大な獣、あるいはその痕跡だけでも発見し、正体が何なのか、排除する必要があるのか否か、排除せねばならないならどの程度の戦力が必要なのか、それをはっきりさせてほしい」
 倒さなくていいのか? と問われ、彼女はそうだ、と頷いて見せた。
「何も分かっていない現状で、一か八かの戦いは望まない。判断を下す為の情報を確実に持ち帰ってくれる事が望ましい」
 分かっているのは、かなり大型の獣であった事、単独でいた事‥‥ その程度だ。彼女は中堅所の冒険者を募っているが、あるいはこの国有数の冒険者が集まらなければ敵し得ない化け物の可能性だって、無いとは言えない。僅かな情報も見逃さず、かつ、冷静に状況を判断して即応できる者が求められている。
「それから、この辺りには狼犬を頭とする野犬の群れも出没する。かなりの確率で探索中に遭遇する事になる筈だ。余裕があれば、その縄張りと総数の調査もして欲しい」
 この野犬の群れは当初確認された時は20頭程度だったのだが、その後、どうやらその勢力を増しているらしい。今回集められる冒険者からすれば決して恐ろしい敵では無いが、慎重な対応が必要だろう。
「あー、それからこれは大変遺憾なのだが」
 それまで淀みなく説明を続けていた焔が、初めて言葉を濁した。それまでのクールさは何処へやら、ちょっとモジモジしている。何度か咳払いをしてから、彼女は小さな声で早口に言った。
「私達に与えられた予算は限られている。手弁当でも来てくれるという冒険者は大歓迎だ」
 要するに、フトコロに余裕のある人は格安か、出来ればタダ働きしてくれたら嬉しいな、という事だ。みっともない話だが、先立つものが無いのだから致し方なし。
「この道が整備されれば、この先長く、人々の生活を助ける事になる筈だ。協力をお願いする、この通りだ」
 深々と頭を下げる彼女。彼ら駆け出し冒険者達一同は、先輩諸氏の力と経験を必要としている。

●今回の参加者

 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

風雲寺 雷音丸(eb0921

●リプレイ本文

●アルミランテ間道3区
 広大な森の最深部。『巨大な獣』が目撃されたこの辺りは鬱蒼と木々が茂って昼なお暗い。森を生活の糧とする猟師達でさえ、滅多にここまでは踏み込まないという。それだけに、かつてここを貫き走った道があったという事実は、驚きをもって迎えられたのである。
「古代の街道の復旧と言う素晴らしい事業に参加出来て、光栄です」
 嬉しそうに語るイリア・アドミナル(ea2564)とヴェガ・キュアノス(ea7463)が頷き合い、可愛い後輩の為にも張り切って参ろうぞ、と喝を入れ合う。人々の生活に直結し、長く残る仕事だけに、遣り甲斐もあろうと言うものだ。
 彼らの探索は、オルステッド・ブライオン(ea2449)の提案で、水辺から始められた。とは言ってもここは湿地。獣達が喉を潤す場所は無数にある訳で、結局は足を使っての調査という事になるのだが。
「一足先に来て、おおよそ当たりはつけておいたよ」
 地図を広げ、仲間達に説明を始める彼。セブンリーグブーツは移動時間を短縮できる便利な道具だ。ただし、これを履いたまま緻密な調査や戦闘をこなすのは到底不可能。その点は心得ておかなければならない。
「調べるだけでいいって話だが、その為にゃ、ある程度打って出なけりゃな」
 嬉しそうに語りながら、長渡泰斗(ea1984)は先頭を切って森の中に分け入って行く。強硬に押し入って相手の反応を誘い、その勢力と実力を把握する‥‥ 威力偵察という奴だ。
「おい、あまり先走るなよ」
 ジャドウ・ロスト(ea2030)は偉そうに言い放ちながらも、さりげなくプラントコントロールで彼らの足元を確保したりする辺り、意外と気遣い細やかだ。油断をすれば、思いもかけず泥濘に足を取られ、身動きが取れなくなったりもする。湿地とはそういう恐ろしさを秘めた場所だ。人に屈していない森の恐さを、彼らエルフはよく心得ていた。
「珍しい植物が多いですね。‥‥あ、それは触れるとかぶれます」
「暫く滞在して、じっくりと植物の研究をしたいものじゃな」
 ここには有用な植物と同じくらい、危険な植物も自生していた。イリアとヴェガがいなければ、今頃一行は探索どころではなかったかも知れない。
 そうする内に、泰斗は獣糞と足跡を発見した。体を擦り付けたのか、木の皮に黒い獣毛が挟まっている。
「熊‥‥だな?」
「確かに。だが‥‥」
 ジャドウとオルステッドが言葉を濁すのも道理。その足跡は大月輪熊のものと見えるものの、明らかに大きすぎた。誰かの悪戯、という可能性を考慮せねばならない程に。そして。バスカ・テリオス(ea2369)が、厳しい視線を森の中に向ける。少し前から、数匹の犬達が彼らの後を追っていた。
「力の差を悟ってか、距離は詰めて来ないな。だが、監視されている様で余り気分の良いものではない」
 レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)は憂い顔。ここがサロンならば心射抜かれるご令嬢の2,3人はいそうなものだが、残念ながら視線を注ぐは獣ばかりだ。
「いいんじゃないか? 奴らの手の内も見ておきたいしな」
 泰斗はあくまで強気だ。犬達は暫くすると消え、気付くとまたいるといった具合で彼らを苛つかせたが、任務の第一は謎の獣の特定だ。彼らは黙々と、残された足跡を追った。幸い、水気を含んだ地面は、はっきりと痕跡を保存している。途中には、捕食されたらしき獲物も残されていた。
「大猪の頭蓋を粉砕か。とんでもない力だな」
 ジャドウが呆れて呟く。とにかく、着実に敵に近付いている。一行は緊張感を高めながら、更にその痕跡を辿ったのである。ところが。足跡は、唐突に途切れてしまった。狐に摘まれた様な表情で、顔を見合す一同。
「熊は‥‥ 己の行動を悟らせぬ為、足跡を辿って戻る事があると言うが‥‥」
 オルステッドが唸る。してやられたという事か、熊に。ひょっこりと藪の中から現れたのは、エイジス・レーヴァティン(ea9907)。
「この近くにはもう、いないみたいだね。完全に逆を辿ってしまったという事かな」
 大失敗、大失敗、とにこやかに笑うエイジスに、一同はがっくりと脱力した。

●野営
 来た経路を取って返し、最初に足跡を発見した水場の近くで夜を迎えた彼ら。夜は獣の時間。足元も覚束ない。故に、冒険者達は動き回る事を控え、キャンプを張って休息の時とした。女性陣は簡易テントで、男どもは野ざらしで思い思いに。ちなみにテントはオルステッドの提供。なかなかマメな男である。ヴェガとイリアは有り難く好意を受け、ランプの下でその日の記録を残してから眠りについた。
 泰斗は愛馬、流風によりかかって暫しの休息を取っていたが、その体に緊張が走ったのを感じ、目を開いた。風に乗って運ばれてくる、僅かな獣臭。
「何か掛かったか?」
 嬉しげに起き出すのはオルステッド。彼はまだ明るい内に、強烈な匂いの保存食を仕掛けておいたのだ。確認に行く彼らを見送りながら、見張り番のレーヴェが眉を顰めた。
(「獣達の鳴き声が聞こえない‥‥ いつからだ?」)
 ついさっきまで、うるさい程に聞こえていた筈なのに。胸騒ぎを感じ、女性陣を起こしておく。
 一方、罠を確認しに向かった者達も、異変を感じ取っていた。腹の底を叩く様な唸り声と、木が軋む音。小動物に取られない様にと餌を吊るしておいた、その木がめりめりと音を立てて倒れたのだ。見えるのは、見上げる程の大きな影。光る相貌が、こちらを向く。それは、立ち上がれば4m半に達しようかという巨大な老熊だった。大型で知られる大月輪熊の中でも、相当に大きい。相手は、明らかに冒険者達に気付いていた。四つん這いになっていてさえ、まるで壁。巨体を揺すって歩きながら、こちらを値踏みしているかの様だった。
「何て大きさなの‥‥」
「でも、所詮は熊。理解の範疇の生き物だよ」
 駆けつけたイリアに、エイジスが笑う。ぐっと目を細めて巨大熊の動きを見据えていた彼が、滑る様に駆け出した。パスカが槍を手に取り、馴染ませる様に数回扱く。泰斗とオルステッドがエイジスを追い、バスカ、レーヴェは如何なる事態にも対応すべく、彼らの後ろについて成り行きを見守る。ジャドウ、イリアはスクロールを手に取り、ヴェガは今まさに呪文を唱えようとしていた。エイジスの口数が減り、顔から次第に表情が消え‥‥
 その時、バスカは背に刺す様な殺気を感じ、振り返った。暗闇の中に浮かび上がる、何十という緑色の光。獣の目? と考えた瞬間、彼は全てを察した。犬達は待っていたのだ。冒険者達がより強い敵と戦い始めるその時を。
「止まれ!」
 彼が叫んだ。驚いて立ち止まり、そして状況を把握する仲間達。だが、エイジスが止まらない。彼は狂化に入っていた。既に、目の前の敵を倒す事以外、何も考えていない。咄嗟に機転を利かせたヴェガが、コアギュレイトでエイジスを縛る。全力で駆け、彼を抱えて戻ろうとするバスカの背後で、巨大熊が立ち上がる。振り上げた丸太の様な前足の先で光る、鋭い爪。
「闇よ出でよ!」
 イリアがシャドゥフィールドで敵の視界を奪い去ってくれたおかげで、その恐るべき爪は彼らを捉える事無く虚しく空を切った。闇のフィールドから転がり出た彼らを、仲間達が守る。
「‥‥確実に依頼を遂行しようと思ったら、時には譲歩も必要、か」
 オルステッドが悔しげに呟く。ごり押しすれば、凌げるのかも知れない。だが、好んで戦いを選ぶべき状況でないのは確かだった。
 と。キャンプの方で、馬と驢馬の嘶きが起こった。犬の悲鳴じみた鳴き声も。
「仕掛けておいたトラップに何か掛かったらしいな」
 人事の様に言うジャドウ。
「どうぞ、お先へ、私でも少しは時を稼げましょう」
 闇の中で轟く咆哮と、遠くで揺れる怨念じみた獣の視線。バスカはそれを牽制しながら、じりじりと退いて行った。
「な、なんてこった‥‥」
 キャンプに戻った彼らは、自分達のバックパックに頭を突っ込んで食べ物を漁る犬達に呆然とする事になる。人の接近を察したか、脱兎の如く逃げ散る彼ら。どうやらこちらはおこぼれ漁り専門らしく、痩せ犬、子犬までが混ざっていた。ペットは皆無事。だが、食料は根こそぎやられた。情けなくて涙も出ない。
「逃げる野犬を追っていけば巣に当たるかもしれんな」
 オルステッドの一言で我に返る。落ち込んでいる暇は無い。少しでも多くの情報を持ち帰らねばならないのだ。彼らは自給自足しながら、残りの日数を探索に費やした。

●探索結果
 犬達のねぐらは、4区にあった。今回、一行が倒したものを差し引いて成犬30匹程。彼らはその大所帯を支える為、3区、2区まで頻繁に遠征を行う。ひとつの群れとしては明らかに多すぎる。故に、この豊かな森にありながら彼らは常に飢えており、見境いなくあらゆる獲物を貪り食う。放置すれば人里を襲い出すのも時間の問題だろう。なお、これは確認出来ていないが、子犬も相当数いると思われる。
「仔犬までも手に掛けねばならぬのじゃろうか。成犬は難しいが仔犬ならば、牧羊犬として訓練する事で命を救えはしまいか‥‥」
 やはり、神に仕える身にして教師のヴェガは、まず救えぬかという思考が働くのだろう。特別牧羊犬に適している訳ではない雑種犬を引き取り訓練しようという人がいればそれも可能だろうが、さて。
 一方、巨大熊は3区から出た形跡が無い。冒険者達の襲撃未遂など歯牙にもかけず、同じ辺りを徘徊している様だ。様だ、というのは、痕跡こそ残っているものの、その姿をあれ以来捉えられずにいるからだ。この湿地で、あの巨体が痕跡を残さなすに行動する事は不可能。だが、巨大熊は自分の行動を巧みに隠す。
「熊の行動範囲は、道が通る予定地と大きく被っている。向こうが人を恐れない以上、必ず鉢合わせる事になる。そうなれば、あの熊は容赦無く人に襲い掛かるだろう」
 上手に住み分けが出来ないものかと考えていたレーヴェだが、どうやらそれは、諦めねばならないらしい。
「野犬を先に倒してしまうか‥‥でなければ、熊と切り離しておく必要があるな」
 野犬は取るに足らない相手だが、巨大熊との戦闘中に絡まれれば、数が多いだけに十分な脅威となる。

●報酬でひと悶着
「ご苦労だった。こちらが報酬だ」
 依頼人の代表である褐色の肌持つ女性志士がちゃりちゃりとコインを取り出す。これでも本来彼らのような高レベルの冒険者を雇うには安い金額だ、しかも報酬の受け取りを辞退する者までいるという。限りある資金での街道整備に、これはありがたい話であった。
「――え?」
「あ、あの」
「‥‥これは?」
 報酬を受け取る者、受け取らぬ者。その中間で三つの困惑した顔があった。泰斗、エイジス、レーヴェの三人である。
「‥‥何か?」
 その髪と同様にまっすぐな視線を三人に向ける依頼人。勿論彼女にとって見れば当然のことをしたまでで、何も困られる筋合いはない。二組に流れる微妙な空気を切って返したのは、無報酬組のオルステッドである。
「私は先に『今回の依頼は無報酬でよい』と伝えておいたのだが」
「ああ、俺も」
「わしもじゃ」
 バスカとヴェガも頷く。ギルドでの依頼受諾や仲間内で表明しても、依頼人にきちんと伝えていなければ「受け取らぬ」と言った事にはならないのだ。
「そ、それでは今‥‥」
「そのような訳にもいかぬ。既にソレ専用の羊皮紙にも書き込んでしまった‥‥今更受け取れぬと言われても」
 ‥‥えー、しばらく小さなもみ合いがあった模様ですが。
 結局今回の報酬は、既に羊皮紙に書き込まれた通りに払われることとなった。羊皮紙‥‥この依頼用の賃金帳簿は最終的な報告書でもある。容易な書き直しは信頼関係の崩壊にも繋がるのだ。いや、大袈裟な話でなく。
 辞退した者以外に約束の2G50Cが支払われ、女性志士の袋の中身は、37G50Cとなった。

 さて、仲間達が解散した後の話。
 バルディエの館に入っていく一人のエルフの女性があった。
 その手にずっしりとした重みを見せる袋をぶら下げて。
 大分長居をしていたようだが、館から出てくる時にはその袋を持っている様子はなかった‥‥という事を、念の為ここに書き記しておく。
 そして、後日。ある教会関係者の元に、
「確かに受領した。有効に使わせて貰う。但し、神の物は神に返すべきであろう。同額を寄進する」
 との書簡と革袋が送られたことも。