泉の祈り

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月02日〜07月07日

リプレイ公開日:2005年07月10日

●オープニング

 バードが冒険者ギルドに姿を現したのは夕刻だった。冒険者ギルドの依頼を受けていたのは、はるか以前。いまは気儘に諸国を巡る吟遊詩人本来の仕事をしている。
 そのため、彼の顔を覚えている者はいなかった。彼は仕事を探しにきたのではなく依頼に来たのだった。
「私が依頼人というわけではない。依頼人がここまで出向けないので代理としてきた」
 彼が若い駆け出しの頃のことだ。渇きで倒れそうになって意識が朦朧とした時、森の中で出会った少女。その子に手を引かれて、どうにかたどり着けた森の泉。
 渇きを癒した時には、少女の姿はなかった。近くに村はおろか、人が住み着くような感じはなかった。
 しかし数日前に立ち寄った時には、その泉を巡って近隣の二つの村がいがみ合いをしていた。
 バードの種族はエルフ。外見的にも初老に近いようになっていたから、どれだけの歳月が流れたか、村ができてもおかしくないくらいだろう。
「その夜、森の中で野宿していた。村は殺気だっていてバードを受け入れる状態ではなかった。その夢の現であの泉に呼ばれた。そこで再びあの少女に出会った」
 その少女は多分、泉の精霊? なのだろう。
 人間がこの泉を巡って争い、泉を汚すようなことをするなら人が住めないような復讐を行うという。
 それまで親切に水を分け与えていたのに、人はそれを我が物のように奪い合いを行う。彼女にしてみれば裏切りにほかならない。
「人間の村の争いで泉が汚れないように、無血で和解させて欲しい」
 無血で、という条件は厳しいかも知れない。
「報酬はこれだ」
 そう言って珍しいバロック真珠(淡水真珠)を取り出した。真珠は聖地の近くで採れると聞くが、確かに価値は有りそうだ。
「好事家なら高値で買い取ってくれるはずだ。実質は10GP位にはなると思う。村までの案内は、引き受けよう」
 初老のエルフのバード、エアリアルは、連絡場所を指定してギルドから出て行った。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7906 ボルト・レイヴン(54歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●道筋
 エアリアルは、依頼を受けるとしてきた9人の冒険者を快く向かえた。
「貴族に知り合いでもいるのか」
 9人がギルドから聞いた場所は、ドレスタッドでもいくつかの依頼をギルドにしたことのある貴族の館だった。エアリアルの依頼で来たことを告げると、ノーチェックで中に通された。
「ここの館の先々代の主と先代の主とは顔なじみでな。残念ながらあの村の領主ではない。ここの主が領主なら問題は簡単だったのだがな。あ、そしたら君たちの仕事がなくなってしまうか」
 エアリアルの話では、あの村はぞれぞれ別の領主がいて争いが大きくなれば、領主間の争いにもなりかねないらしい。
「往復の食料は各自持ちだ、街道では購入できそうな場所はないから出発までも用意しておくてくれ。節約していざって時に動けないと困るからな」
 馬を持っている者は馬に乗り、そうでない者は徒歩で向かう。案内人が徒歩であるから進む速度はそれに合わせるしかない。
「まずは偵察だ」
 旅人なりを装って村に潜入し、調査を行う。自分たちが偽物の泉の守護者を演じて両方の村人に泉を崇拝するような感じに持っていくのが基本的な考え。そのためには村の状況を知らなければならない。
「十分に気をつけろ。以前よりも殺気だっているはずだ。あの川を」
 エアリアルは村を流れる川の源流の水量が減っていることを示した。
「水が不足しているってこと?」
 エレアノール・プランタジネット(ea2361)が、口にしてみる。
「両方の村とも人が増えたのだろう。そしてこの水不足」
「そりゃ殺気だつ」
 石動悠一郎(ea8417)とマグナ・アドミラル(ea4868)は顔を見合わせる。
「ティアイエル、こっちは泉の偵察に行くぞ」
 ジャドウ・ロスト(ea2030)は、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)とともに泉で行うトリックの準備のために向かう。村人が、どの程度の囲いを作っているか調べておいた方がいい。
「私もいきます」
「では、私も」
 エレアノールとウォルター・ヘイワード(ea3260)も同行する。結局、ウィザード4人組が芝居の準備のために現地に向かうことになった。
 その間に、エアリアルが他のメンバーを率いてコナタの村に向かう。まずはコナタが武力占領に対して、同じく武力反撃に向かわないように時間稼ぎをしなければならない。
「ウィザードたちの準備ができるまでの間」
「泉に挨拶した方がいいと思うが」 
 マグナは先に依頼人である泉の精霊に挨拶に行こうとしたが、止められた。カナタの村がコナタの村の者たちを近づけないために囲っている状態では、簡単に依頼人に接触できる状態ではない。無理に通ろうとすれば、先に血を流しかねない。

●コナタの村
 エアリアルを先頭にして、マグナ、リョウ・アスカ(ea6561)、ボルト・レイヴン(ea7906)、深螺藤咲(ea8218)、悠一郎の5人が臨戦態勢で続く。コナタの村も殺気だっているはずだった。
 一行が村に近づくと案の定、村では大勢の者たちが得物の準備をしていた。かたわらには、水を運ぶための樽を載せた荷車がいくつも。
「水の確保か、ありゃ殺気だつな」
 悠一郎は、そういうと喉の渇きを感じた。日は高く、初夏の太陽が強力な日差しを送りつづけている。
「こっちも厳しいな」
 水問題で揉めていて水が手に入り難いところに、十分な水を持たずに来ていた。
「旅人を装っていくことにしよう」
 コナタの村に近づく。見張りの者がこちらを見つけて村に大声で知らせた。たちまち大勢の村人が手近にあった得物を手に飛び出してきた。
「カナタの村に雇われたならず者か!」
 付け焼き刃であろうが、数名づつグループになって、こちらを半包囲するように近づいてくる。
「違う(カナタの村は泉を占領するのに、ならず者を雇ったらしいな)」
「俺たちは冒険者だ。これから依頼を解決に行く途中だ(嘘は言っていないぞ)」
 マグナとリョウが同時に叫ぶ。ここで争いになっては時間稼ぎにはなるかも知れないが、解決にはならない。
「そうか」
 村人は、その声に緊張を解いた。
「そうか、村に入ってくれ」
 コナタの村に招き入れられた。
「手荒な歓迎ですね」
 ボルトは、クレリックとしての物腰で話しかける。こちらは村の状況を知らないふりをする。
「隣の村が、大事な泉を奪い取ってしまった」
 村に残り少なくなった水を冒険者たちに振る舞う。これはどうみても手助けを頼みたいところだろう。
「さきほど、ならず者とか言っていましたが」
「カナタの村の者たちがならず者を雇って、泉の回りに頑丈な囲いを作ってしまった」
 村人の話によると4日ほど前の朝、水を汲みにいったら囲いが出来ていた。そして、剣を持った無頼の者たちが、そこを警護していた。コナタの村の者たちも交渉に出向いたが、抜き身の剣で追いかけられて命からがら逃げ帰ってきた。そして今日こそはと、得物を準備して泉の奪回に向かおうとしていたところだった。
「(なんとか間に合ったようです)」
 深螺が合図する。
「では、我々が交渉に行ってみましょう。危険ですので皆さんは村を出ないでください。皆さんの力が必要な時はお呼びします」
 ボルトはそう提案した。
 マグナとリョウも得物を抱えて、村人を安心させるようにポーズをとる。
「わしはここに残ろう」
 エアリアルはそういうと皆を送り出した。
「人質ってことね」
「そうじゃなきゃ、村人も安心しないだろう」
 取り敢えず時間稼ぎはできた。ウィザードたちのショーに合わせて村人を誘導してくればいい。

●泉の囲い
「あれ村人には見えませんね」
 ウォルターは、泉に出来た囲い? の外にいる者たちを見ていた。
「泉は完全に見えないな。あれでは村人だけじゃなく、動物も水を飲めないぞ」
 ジャドウは頭の悪い人間に腹を立てていた。何を言っても無駄だろう。ならば脅かす方がいい。しかし問題は。
「村人なら楽なことだったが」
 泉の警備は、あの者たちに任せたのだろう。
「まともな人間には見えないわね」
「もうみても、冒険者くずれの山賊ってところ?」
 ティアイエルとエレアノールは顔を見合わせる。冒険者なら簡単には引っかからない。
「あいつらは倒さなきゃいけないだろうな」
 村人が泉を崇拝して連中を追い出そうとしても、そのまま泉の周囲に居すわって村の脅威になりそうだった。
「泉の周辺で血を流さなきゃいいんだろう。泉の精霊さんには」
「どこかにおびき出して叩き出す必要あるね」
 戦いになれば血を流さないというわけにはいかないだろう。
「カナタの村を見てくるか」
 エレアノールとジャドウがカナタの村に向かう。
「こっちは見張っておくから。それに準備も」
 ティアイエルとウォルターは、泉の囲いとそこにいる者たちを偵察し続ける。

●カナタの村
「あれがカナタの村か、水は‥‥あるようだな」
 ジャドウは、カナタの村を眺めた。村のあちこちに非常用も含めて多くの樽が用意してある。しかし、村人の表情はあまりよくない。泉を占領して喜んでいると思ったがそうでもないようだ。
「行ってみるしかない?」
 エレアノールはすでに精霊の衣装に着替えている。ここで最初の姿を見せておく。村人を脅せば、あいつらを解雇するだろう。
「我が住処を荒したのは、お前たちか。愚かな者共よ。たかが人間が、思い上がりも甚だしい」
 リトルフライで村の中央、上空に舞い上がってそのまま浮遊する。はずだった。しかし、村人の方が先に気づいてしまった。
「あれは」
 たちまち大勢の村人が、エレアノールの回りに集まってくる。
 エレアノールがアイスコフィンを連発する。
「泉を閉鎖した罪思い知るがいい」
 ジャドウは村のあちこちにあった樽の水を、ウォーターコントルールで操作してエレアノールの周囲に近づく村人を押し流す。村人がパニックに陥ったところで、エレアノールが身を隠した。
「大丈夫か。大騒ぎだ」
 エレアノールがどうにか合流すると村を見渡していたジャドウが、村の様子を伝える。
「びっしょり、冷たくて気持ちいいけど」
「向こうを向いているから、早く着替えろ」
 ジャドウの頬が、こころなし赤い。

●泉
「成功。もうすぐカナタの村人が押し寄せてくる」
「じゃコナタの村人も呼んでおこう」
 両方の村人が集まったところで、だめ押しの守護者ゴッコをする。
 問題は泉を占拠している者たちがどうでるか。マグナ、リョウ、藤咲、悠一郎が近くで準備に入っている。不意をついて一撃で気絶させればいい。もちろん、演出はする。マグナはゴーレムの扮装、藤咲は(この暑いのに毛皮を着込んで)獣の扮装をしている。二人の出現でパニックになれば、リョウと悠一郎が次々に敵をスタンさせていく。ウォルターはいつでもプラントコントロールで敵の動きを封じるべく準備をしている。泉の周辺では血を流せない。相手は通常どおりの得物と使うが、こちらは刃のない武器でしか攻撃できない。幸い、マグナ、藤咲、悠一郎の得物は片刃。峰打ちにすればいい。リョウのラージクレイモアなら、鞘ごと振れば効果十分な打撃武器になる。
「コナタの村人が接触した。やっぱり囲いを守っている者たちは、依頼された仕事のつもりじゃないようだ」
 村人が雇ったにも係わらず、ならず者たちは一向に囲いを解こうとはしない。逆に村人を追い払うように得物を構える。
 そこにボルトを先頭にしてカナタの村人が押し寄せる。ならず者に痛い目にあっているだけに、直ぐにでも攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
 攻撃をしかけようとするならず者たちを目標にして、ウォルターがプラントコントロールで動きを止める。
 すかさず、エレアノールのアイスコフィンが一人を氷で包み込む。
 ティアイエルがヴェントラキュイを使って、泉の方向から声を出す。
「愚かな人間たちよ。我が泉の恩恵を忘れるなら、我がガーディアンたちの力を見せるぞ」
 マグナが地面から沸きだすように登場し、藤咲も植物の中から突然のように出現してくる。そして、囲いを守っていた者たちに切りかかる。日本刀の鋭い刃が胴をなぐ、その瞬間に持ち替えて、峰打ちにする。切られるという絶望的な状況でくる打撃にあっけなく二人が倒れる。そしてリョウのラージクレイモアが、泉を囲んでいた壁をバーストアタックで破壊する。ジャドウのウォーターコントルールで、泉の水を使って壁を内側から外におしていく。
「もし今後いずれかの村が泉を独占しようものなら、この土地一体から水を消し去る。この泉は、人間だけのものではなく、この地に住む動物たちのものでもある。愚かな争いをしなければ、どんな干ばつになろうとも水は心配せずともよい」
 ティアイエルの声が途中から変わったような気がした。

●楽の音
 両方の村人が協力して囲いを片づける。囲いに阻まれて泉に近づけなかった動物たちが、人間がいるにも係わらず、泉に近づいてくる。
「人間よりも動物の方が利口だ。泉の周囲では攻撃しない」
 コナタの村ではエアリアルが待っていた。
「ご苦労さん。さて、報酬はギルドで受け取ってくれ」
 エアリアルは、村から解放されて泉にやってきた。
「バロック真珠。報酬なしでもいいからどうにかできない」
 エレアノールの要望にエアリアルは首を横に振った。あの後すぐに買い手がいたそうだ。
「ところで、あのバロック真珠。村人は泉で取れると思ったのでしょうか」
 ティアイエルはこの争いの発端が、泉でバロック真珠が取れると誤解したのかと思った。もちろん、泉は淡水でも貝は生息できるような状態ではない。深く澄んだ水は、生き物を拒絶しているようにも見える。しかしそれは誰のものにも成らず、反面誰にも水を与えることの意味に取れた。
「村人は真珠のことは知らない」
「そういえば、ティアイエルの声、途中からすっごく良かったよ」
 エレアノールが褒めた。
「うん。本当に泉の精霊みたいだった」
 藤咲も。
「え〜と、途中からって?」
 ティアイエルは、最初のセリフしか言っていない。
「この土地一体から‥‥って」
「それ私じゃない。てっきり、エレアノールが泉まで行って声を上げているのかと思ったの」
 もしかして‥‥。耳を澄ませば微かに、何処からともなく美しい楽の音が響いていた。