●リプレイ本文
●事前打ち合わせ
「ボクは長渡さんと一緒に分隊として行動するよ」
インヒ・ムン(ea1656)は依頼内容とその対象の行動を考えて、一緒に行動するよりも、万一逃亡した時のために別行動をとることにした。偶然を装って出会って目的地まで騙して連れていくつもりだ。
「もちろん、本隊より前にいるから、何者かが襲ってくる準備をしていれば、知らせることもするよ」
「ま、なるようになるだろう」
テレパシーを使うことになるけど、あまり遠くまでは届かないからあまり離れるわけにもいかないのが難点。
長渡 泰斗(ea1984)はインヒの護衛という名目で一緒に旅しているという設定で接触することを考えている。雑談に旅の苦労話でもしてやるつもりだった。
相手は名うてのわがまま娘。どの程度効果があるかは分からないが。
それに襲撃者を雇って修道院入りを阻止するかも知れない。
「よっぽど修道院に行くのが嫌なのね」
キアラ・アレクサンデル(ea2083)が、ため息交じりに今回行動を共にするクレリックらを見る。レム・ハーティ(ea1652)、ヒスイ・レイヤード(ea1872)、フランシア・ド・フルール(ea3047)の3人を次々に見て。
「なるほど、ね」
と呟く。
「どういう意味?」
やっぱり、特にヒスイ・レイヤードの姿と行動を見てしまうと。
「ねえフランシア。修道院に入ると、ヒスイのようになってしまうものなの?」
フランシアもヒスイの奇行?を見つめると、そう誤解される場合もあるかなって思ってしまう。しかし‥‥。
「修道院とは関係ありません。ヒスイの趣味です」
と言い切る。フランシアはそれよりも、ジャネットを無事に届けるだけではなく、修道院の素晴らしさを途中で正しく教えるつもりだった。主の僕となることの素晴らしさを知れば、逃亡などはかるはずはない。
「まぁ、わがまま娘の相手はフランシアさんとヒスイさんにお任せします。馬車の中でジャネットさんに修道院の素晴らしさを説いて、逃げ出す気を起こさないようにしてください」
「ラテリカは通訳するよ」
「頼むよ」
「頼む」
ゲルマン語を話せない関係上、言葉の通じる人が必要になる。ラマ・ダーナ(ea2082)とキアラは行動をともにするが、他との意思疎通はラテリカ・ラートベル(ea1641)が頼りとなる。
「とにかく、ジャネットを馬車から出さないようにすること」
「そうそう」
ラテリカとレムは合意しあった。
「私は頭を使うのは苦手なので、馬やお嬢さんの警護に重点を置く。夜間や隠れるところの多い場所は、特に注意する」
ティイ・ミタンニ(ea2475)も言葉の通じない一人だ。早く言葉は覚えた方がいいだろう。いざと言うとき遅れを取るし、意志が通じなければ、要らぬトラブルにも巻き込まれる。場所によっては身振り手振りも見えないこともあるだろう。
「昼間の警護は他の方々に任せて私は夜間警護を担当します。馬に揺られながら仮眠して夜間警護に備えます」
デルテ・フェザーク(ea3412)はそう言い切ったが。
「馬に乗れるの?」
「‥‥」
仮眠しながら乗れるレベルの馬術は持ち合わせていない。
「僕と一緒に馬車の屋根にあがろう」
レムはデルテを誘った。
まだ屋根付きの馬車とは決まっていないが、要望すればいい。逃亡防止用ということで。
「もう囚人扱いか。お嬢様も大変だな」
円 巴(ea3738)にしてみれば、これから行われるのは『護衛』ではなく、『護送』に思えてならない。
「まずは、信頼を得ることから始めましょう」
藍 星花(ea4071)は他の人の意見の方向が目的から変わっているようなきがしてきた。
●元冒険者
マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は依頼主である元冒険者の商人のもとを訪ねた。
「ジャネットさんがじゃじゃ馬‥‥失礼、あれだけ活発な人になったのか。それはご主人が幼い時から胸躍る冒険話を語ってきたからではないでしょうか。つまり、あの姿もお父様への憧れのようなものが背後にあると思います。修道院にいきなり押し込めるのは一種の裏切りのように感じているかも知れません。そしてそうならば、お父様であるご主人の言葉は伝わると思います。もちろん難しい年頃ですから、口では難しいですが。その辺りを踏まえて、お嬢さんに手紙を書いてもらえないでしょうか。修道院に送り届けるだけの話ではないと思うのです。かの場所から抜け出したら意味がないですし、もっと大変な事になるでしょう。真摯な思いを伝えたら、少なくとも自分の身を徒に危険に曝すことは無くなると思います。手紙は修道院に到着したときに手渡すつもりです」
と、自分の考えを一方的に言ってみた。
「考えておこう」
ほとんど無表情に答えた。
(「けっこう冷たいのか?」)
部屋から出た途端、どこからか視線を感じた。
「?」
何かに見張られている。
「この護衛。‥‥ただの仕事じゃないかもな」
マリウスのカンが告げてた。同じことを感じている冒険者は何人いるだろうか。
●立ち聞きしちゃった
「本当に行かせるつもりなのね」
「その方がいい」
「分かっているつもり。でも本当にいいの? もういい加減歳なのよ」
「まだ捨てたもんじゃない。それに」
「分かっています。でも、本当に大丈夫なの?」
藍星花はジャネットの信頼を得ることから始めようと、出発前に会っておこうとおもった。別に立ち聞きするつもりはなかったけど、偶然耳に入ってきてしまった。知らずに入って行ったら、別の展開もあったのだが‥‥聞いてしまった後では入りづらい。でも、この内容なら修道院入りそのものを拒否しているわけではない。
「何か変。ただのわがまま娘じゃないのかも」
その時背後から視線を感じた。
(「誰かいたのか?」)
振り返って見たが誰もいない。
後でアポとってからもう一回来よう。
●馬車
「要望どおり天井を付けた。雨くらいは防げるだろう」
依頼人はレムとデルテの言を聞き入れて、馬車に天井を付けくれた。急造なのであまり頑丈とは言えない。もともとが荷馬車に毛の生えた程度のものだ。最初は別に御者を付けてくれる予定だったが、ティイが馬車馬を手なずけていたので、運行は彼女の担当となった。
『御者に味方されて、逃げられでもしたら追いつけない』
という心配もあったからだ。
1頭の馬で馬車を牽くからあまり早くは走れない。山奥にある修道院だ。途中の道は1頭馬車で通れるくらいの幅なのだろう。
「じゃ馬車にはジャネットの他にはフランシアが交代で乗り込んで修道院が素晴らしいことを吹き込む」
「吹き込むのではなく、事実を語るだけです」
ヒスイが女だったら、交代で乗り込ませるのだが。
「レムとデルテは馬車の天蓋の上で待機」
「ティイは馬を引いてください」
インヒと長渡泰斗は予定どおり先に出発している。
ラテリカが通訳兼ジャネットのわがまま引受役として馬車の間近に、馬車の直援はキアラとラマ。馬車の後方には仲良くなっているユリウス・クラウディス(ea2999)と星花がついている。
少し離れて見た目には観光客気分のリサー・ムードルイ(ea3381)がテクテクと歩いている。第三者から見れば、護衛には見えないための配慮だ。その用心たるや、無関係な同行として振る舞うために今まで依頼人の近辺には姿を現していない程だ。ローブに隠して印を結び、咄嗟の事件に備えている。
円 巴とマリウス・ドゥースウィントの二人は馬車の前方で警戒に当たっている。
修道院までの略地図は貰ってあるが、細かいところはあちこちで聞きながらいくことになるだろう。
●信頼って?
「暑い」
季節柄だろうか、馬車の中は暑い。馬車の天蓋の上に登っている、二人は干からびていないだろうか。
「こっちはもっと暑い〜」
レムの弱々しい悲鳴が聞こえる。デルテは仮眠ではなく気絶しているかも。もし居眠りして落馬して、首の骨を折っても、クレリックがいるから葬式ぐらいは出せるだろうけど。
「少し休みませんか。お友達さんたちが大変なみたいですし」
ジャネットが周囲の様子を見ながら、提案する。フランシアとて暑さを感じないわけではない。しかし、表面的には無表情を装っていた。
水辺の近くで休憩することにした。馬にも水を飲ませておいた方がいいだろう。次の村はまでは今日中には着けそうもないし、水が飲める場所は分かっていない。
「ラマいくよ」
キアラとラマが水を飲むと周囲の警戒に出る。
「キアラって男の子みたい」
ジャネットがキアラの後ろ姿を見て呟く。
(「何だか聞いていたほど、わがまま娘じゃないみたい。やはり、わたくしの教えがきいたのね。主よ。新たに主の僕となる姉妹の誕生に、感謝致します‥‥」)
「この先、道の両脇に山が迫っているの」
星花はマリウスを捕まえて相談を持ちかける。
「ジャネットを狙っている奴がいる。気づいていた?」
「ああ、あの屋敷の中にいる誰か。誘拐ならば、ジャネットを基本的には生かしたまま連れ去る。けど、あの視線の主は」
「多分、殺すつもり?」
「一人を修道院に送り届けるのにこれだけの護衛を雇うって普通じゃ考えられないでしょう?」
「巴もそう言っていた。普通の賊なら手出しはしないだろうって」
その円 巴は、先の様子を見にいっている。
「裏がありそうな気がする」
マリウスはジャネットに確かめようと思った。
「ジャネットに聞いてみる? でも、騙されないようにね」
●襲撃
『こちらインヒ・ムンだよ。誰か聞こえる』
分隊として行動しているインヒと泰斗は、その襲撃者たちの姿を見つけた。もちろん、ジャネットを狙ったものと決まった訳ではないが、たぶんそうだろう。
「ジャネットが友達を使って襲撃させようとしているのかな?」
「そいつはなさそうだ。どうみても町の遊び人じゃない。やつらからは腐った血の臭いがする」
どちらかといえば、殺人を生業にしている連中に近い感じだ。だが、こんなにあからさまに殺気を振りまいている以上、腕の方は大したことは無さそうだが。
「本隊に近づいて連絡しよう」
テレパシーの有効距離まで近づかなければならない。
しかし、周囲を警戒して調べていた。キアラとラマには届いた。返事はできない。
「戻る。迎撃態勢を整えるなり逃げるなりしないと」
二人の知らせをきいた全員が緊張した。一応プロの襲撃者である。山賊ならば被害と実入りを考えて襲撃などしないだろう。
「攻撃して可能だと判断したから、来たってこと?」
レムはどうにか気力が回復した。
「そうだな。どういうことか説明してもらえるか? ジャネット」
マリウスの声に全員の視線がジャネットに集まる。
「聞いてくれる? ただし聞いた後に一度家まで戻ってほしいの」
「‥‥いいだろう」
マリウスが重々しく答えた。
●真実
今回の依頼人つまりジャネットの父親は、ジャネットとの実際の血の繋がりはない。
「最近知ったの。父の友人の忘れ形見だったんですって。ショックだったけど落ち込む余裕は無かったわ」
その後から屋敷に侵入する者が出てきた。ジャネットも一度成らず襲われている。
「それで修道院ね。修道院の中なら安全ね」
「襲撃の目的は‥‥遺産とかかな」
遺産にするのはジャネットの父親が死んでいなければならない。つまりジャネットとその父親を殺して得をするとなると‥‥。
「まさか」
「たぶん。だから修道院に行きたく無かったの。逃亡しようと思ったけど。こんなに護衛がいたんじゃ逃げられるわけないし。それにフランシアの話は面白かったから」
『インヒ聞こえますか? ラテリカです。これから一旦屋敷まで戻ります。襲撃者の様子を教えてください』
無用の戦いは避ける方がいい。
『わかったよ。襲撃者に動きはないよ。仕掛けてくるのは夜になってからかな?』
果たして、明けの明星が輝く頃。野営する一行に襲い掛かる一団が居た。しかし、連中の質は酷かった。満を持していたリサーのライトニングサンダーボルトと、デルテのグラビティーキャノンの洗礼を受け算を乱したところを、突貫して来たマリウスに蹴散らされ、泰斗に手もなく気絶させられた。
奴らは相手の実力を値踏み違えたのだ。中でも運良くジャネットに接近できた一人などは、もう最悪。彼女を含めた女性陣達に半殺しの目に遭わされた。手足とあばらの二、三本折れ、レムがリカパーを施してやらねば成らぬほど。殺し屋を雇うならば、銭金を惜しんではいけない。あまり情けなさに、これは油断させるための策略に違いない。本命は後から来る。と、皆が心を引き締めたほどだった。
●お別れ
「お父様無事?」
屋敷に戻るとジャネットは屋敷じゅうを捜し回った。しかし、誰もいない。
「そういえば」
マリウスは出発間際にジャネットあての手紙を預かっていたことを思い出した。ジャネットは手紙を読むと、泣きそうで笑っている表情になる。
「犯人は捕まえたみたい。修道院の生活を満喫しなさいって」
ジャネットから渡された手紙を読んだ星花は、ジャネットを殺そうとした犯人はジャネットの父の今の妻であったと知った。ジャネットとの血の繋がりがなかったことで、嫉妬と欲が沸いたらしい。
「これで思い残すことなく修道院に行けるわ」
その後は順調に進み。一回戻ったタイムロスを取り替えすように、修道院に着いた。
「これでお別れね。また会うこともあると思うけど」
『きっと優秀なクレリックになって修道院を出る』
とフランシアが考えた時、ジャネットは最後にもう一回と、マリウスと剣を交えていた。野営地で毎晩やっていたこと。
『クレリックは難しいかも。主よ、わたくしの導きが弱かったのでしょうか』
「ラテリカ大丈夫?」
疲れ切った表情のラテリカにキアラが声をかける。ラテリカは道中かなり、ジャネットのわがままに付き合わされだった。
とにかく、多少の誤算と疲労はあったが、依頼は達成されたのだ。