錬金術師変身せよ!〜夏の森のエニグマ

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月03日〜08月08日

リプレイ公開日:2005年08月11日

●オープニング

「お茶をいれて来ますね」
 そう言って逃げるように台所に入ったエヴァンゼリンは、流しの淵に手を着き、がっくりとうなだれて長いため息をついた。
 その様子をやや呆れた顔でお供のマリアンヌが見ている。
「だから、反対しましたのに」
「うぅ」
「これに懲りてお人よしはたいがいになさるんですね」
「はぅ」
 現在、エヴァンゼリンとマリアンヌは新商品開発のために、ドレスタットのはずれにある森の中の別荘に来ていた。エヴァンゼリンの家は主に植物を扱う中小商家で、そろそろ新商品が欲しくなってきたところなのだ。
 わざわざエヴァンゼリンみたいなお嬢様が出向くことはないのだが、一人娘であるため将来は婿を取ることになるだろうということから、勉強のためにと探索に出されたのである。この森で商品になりそうな植物を見つけ、研究してその成果を持ち帰るのが彼女の任務である。ちなみに課題は『ずぼらなアナタでも簡単ガーデニング』である。
 それはそうと、そことは全く関係ないことでエヴァンゼリンは頭を悩ませていた。

 ある日森を探索していると、倒れている男を見つけた。かなり憔悴している様子だったので、マリアンヌと二人で別荘まで運んだ。その日のうちに男の意識が戻ると、なんと彼は記憶を失っていた。
 気の毒に思ったエヴァンゼリンは、記憶が戻るまでここにいればいいと言ったが、マリアンヌは反対だった。今、別荘にはエヴァンゼリンと彼女の二人と数人の下働きの男女だけである。もし、男が記憶喪失を装った強盗だったらと思うと、気が気ではないのだった。
 その数日後、また森で違う男に出会った。彼は丁寧に布に包まれた絵を抱えていた。そしてエヴァンゼリンを見るなり、こう言った。
「すまないが、この絵をしばらく預かってくれないか? そのうち俺の相棒が引き取りに来るからさ。これはほんの気持ちだ」
 一方的に男はしゃべり、エヴァンゼリンに絵と30Gを押し付けてさっさと森から出て行ってしまったのだった。
「商品にできそうな花が見つからないうちは帰れないし‥‥どうしましょう」
 絵を押し付けた男の相棒とやらは、あれから数日経った今、まだ現れない。
「相棒って、案外あの記憶喪失男だったりして」
 洒落にもならないわね、と鼻を鳴らすマリアンヌ。
 しかし彼女の一番の危惧は、そんなことではない。
 これはエヴァンゼリンは知らないことだが、昨夜記憶喪失男ダニエルに聞かれたのだ。
「エヴァンゼリンさんには、もう決まった方がいらっしゃるのでしょうか‥‥」
 マリアンヌに言わせれば、
「お前のような者が懸想してよい身分の方ではないですわ」
 ということだ。
 これ以上トラブルが舞い込んでくる前に手を打たないと、と彼女はギルドへ依頼を出すことを提案。
「それはいいわね。もしかしたら失くした記憶を取り戻す方法も知っているかもしれないわ。たとえば、あの方なら‥‥」
 しまった、とマリアンヌは内心舌打ちしたがもう遅い。
 あの方、とは過去に出会った錬金術師のことであるが、好意的なエヴァンゼリンに対しマリアンヌは敬遠気味である。胡散臭いからだ。
「この近くにいて暇にしているとは限りませんでしょう?」
「あぁ‥‥そうね」
 あからさまに肩を落とすエヴァンゼリンに多少の罪悪感を覚えつつ、マリアンヌは依頼書を書き進めた。

●今回の参加者

 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5803 マグダレン・ヴィルルノワ(24歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea8572 クリステ・デラ・クルス(39歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea9345 ヴェロニカ・クラーリア(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2560 アスター・アッカーマン(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

リセット・マーベリック(ea7400)/ マルケルス・アグリッパ(eb2749

●リプレイ本文

●ダニエル1
 家の中に導かれる途中、アスター・アッカーマン(eb2560)は屋内でもローブのフードをかぶったままでいることの許可を求めた。
「いえ、実は故郷の風習でして、あまり肌をさらせないのですよ」
 事情を察したエヴァンゼリンは気にしたふうもなく頷いた。むしろ気にしているのはマリアンヌだ。
 そんな彼女にもアスターは微笑で軽く会釈した。営業スマイルというやつだ。
 マリアンヌが飲み物を用意している間、行動の順番についての話し合いが始まった。
「えーと、まずは本来の目的のガーデニングに使えそうな植物を見つけること、それから記憶喪失の男と押し付けられた絵‥‥よね」
「記憶喪失とは、やっかいだのぅ」
 マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)の発言に頷きつつ一番やっかいかもしれない問題だと、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は腕組みをした。今回の彼は森の散策向きのナチュラルなかんじの服装である。
 エヴァンゼリンも頷き返し、
「そうなんです。‥‥どうにかなりますか?」
 そんなわけでマリアンヌの運んできた冷たい飲み物で一息ついた冒険者達は、別荘の一室をあてがわれている記憶喪失男の部屋にいる。
 年は二十歳前後、茶色の髪と目でやや痩せ型の背の高い青年だ。
「お仲間‥‥か」
 まじまじと青年を見つめながらクリステ・デラ・クルス(ea8572)が呟く。
 怪訝な顔をするダニエルに、彼女は自分も記憶喪失だということを告げた。
 驚きを隠せない彼にクリステは探るような目を向け、
「普通はもう少し怯えるなり、積極的に己を取り戻す姿勢を見せると思うが‥‥貴殿、かなりの楽観志向なのか? それとも‥‥」
 と、顔を近づける。
「過去、自ら歩んできた道から逃避したいのか? 貴族の子女と知己になれば、また別の道が開けると思うたか?」
「いえ、あの」
「いずれにせよ、女主人の醜聞の種は芽になる前に摘んでおくべきだろう。夜に仲間がもう一人来る。それまで、少し努力してもらおうか」
 とりあえず大勢に囲まれたままでは落ち着かないだろう、と彼らはいったん部屋を出たのだった。

●絵はどこからきたか
 クリステの知人がやって来るまでの間、冒険者達は押し付けられた絵のほうに取り掛かることにした。ただし、マグダレンとシュタール、レミナ・エスマール(ea4090)はダニエルについている。
 クリステとアスターは、どちらも手袋などをして丁寧に絵を扱っていた。
 その絵は風景画だった。ドレスタットの港を描いたものだ。数隻の船が入港していて、一隻はこれから入港しようとしているところだった。港には迎えの人々が集まっている。
 ふつう、絵には隅のほうに署名があるもの。クリステはそれを探した。
 見つけた名前は、有名画家ではないがそれなりに評価もされている者の名だった。まだ若いのでこれからに期待が持てそうな画家だ。
 続いて鑑定に入るために何故かガッツポーズをとってフレイムエリベイションをしかけつつあったアスターだったが、
「おや‥‥」
 珍しいものでも見たように声をもらした。
「この画家のことは少し聞いたことがありますが、風景画も描くのですね。たしか、ずっと宗教画でしたのに」
 そうして改めてフレイムエリベイションをかけて鑑定にかかる。
「盗品の可能性もありますからね。できればつてをたどって正当な持ち主の調査もしたいところですが」
 しばらくして、結果が出た。
「えー、まずは描かれた時期ですが、そんなに古くはないですね。ここ二、三年でしょう。まぁ、作者が今も生きていてしかも若手ですからね。続いて技術ですが‥‥見てのとおり緻密です。ただ、ところどころ雑になってました。その時の気分が出てしまったのかもしれません。最後に描き手のことですが、これは署名があったのでいいでしょう。エヴァンゼリンさん、あなたの家でこの絵の取引があるような話、なかったですか?」
「そういえばお義父さまが言っていた気がしますわ。作者のことや絵の特徴のこともアスターさんのおっしゃったことと同じだったと思います。でも、それならどうしてわざわざこんなところまで来て私に預けたのかしら」
 しかも迷惑料としてお金までわたしている。
「もう少し、調べてみますか‥‥」
「あ、では私は少し失礼して、ダニエルさんの様子を見てきますね」
 そう言ってエヴァンゼリンは部屋を移っていった。

●ダニエル2
 時間は少し戻って、絵の鑑定のために冒険者達がダニエルの部屋から引き上げたところ。
 マグダレンはさっそくあれこれ世話を焼き始めた。
 まずはお湯を沸かし、体の汗を拭く。
 シフールとはいえ、相手は女の子。さすがに恥ずかしく思ったダニエルは「自分でやる」と申し出たが「もし頭を打っていたなら安静にしていなくては」と、マグダレンに言いくるめられ、おとなしくしていた。
「これ、着替えですよ」
 ちょうどそこに護堂熊夫(eb1964)が入ってきた。マリアンヌに言われて届けに来たのだ。
 続いて沸いた湯の入った桶とタオルを持ってレミナがそっと現れる。
「お湯、沸きましたよ」
「ところで、何か少しでも思い出せそうな兆しはないのかの? どうしてここにいたのかとか」
「ううん‥‥何かを追いかけていた気がするけど、なんだったのか‥‥」
 シュタールとダニエルがそんな話をしている間、マグダレンとレミナは作業を続け、そうしながらダニエルを注意深く見ていた。
 体格や筋肉の付き方などである。それによっては職業などの見当がつけられる。
 マスク・ド・フンドーシ(eb1259)がそっとダニエルが着ていた服を取った。
「運びましょう。何なら洗っておきますよ」
 ふだんの彼からはとても想像できないような紳士ぶりである。その姿も、いつもしている仮面を外し、特徴であるアフロを解き、礼服に身を包んでいる。シュタールの友人として、彼なりに気を遣っているのだ。
 そうこうしているうちにいつの間にか外は薄暗くなっていた。そしてドアの向こうに人の気配がしたかと思うと、エヴァンゼリンとヴェロニカ・クラーリア(ea9345)が様子をうかがうようにして入ってきた。
 すでに話を聞いていたのだろう。彼女は真っ直ぐにダニエルの前まで進むと、おもむろに腕を振り上げた。
「記憶喪失など‥‥そんなものこの角度から手刀で切り落とすくらいのつもりで頭に衝撃を」
「ぎゃー!」
 淡々と告げるヴェロニカと頭を抱えて恐怖するダニエル。
「ヴェロニカさん、移動‥‥しましょうか」
 慌ててエヴァンゼリンがドアの外を指差す。部屋を一つ用意するように、とあらかじめクリステに頼まれていたのだ。よく風を通しておき、今は少し厚手のカーテンがかけられ、明かりといえば蝋燭が二つあるだけの部屋だ。
 途中、絵を調べていたクリステが出てきて、これまでにわかったことをヴェロニカに教えた。
「では悪いが、部屋を借りるぞ。あと絵もな」
 ヴェロニカとダニエル、そして絵を抱えたクリステが暗い部屋に消えていった。
 残された者達は、休憩がてらダニエルの素性についてあれこれ話し始めた。
 マグダレンが見たところ、彼はただの人にしては筋肉がよく発達しているとのことだった。決して筋肉質ではないが、日々の労働以外の何かしらをしていると思われるらしい。
「剣術をやっているのではないかしら。手にそれらしいタコがありました」
 レミナが付け足す。
「着ていたものは質素な作りだったから、身分は高くないわね」
「ということは騎士ではないということかのぅ」
 いったい何故こんなところをうろついていたのだろうか。

●ダニエル3
 ダニエルを椅子に座らせると、ヴェロニカは真剣な目で問いかけた。自分の特徴を隠すように彼女はフードを深くかぶり目だけを見せて顔は包帯で覆っていた。
 正直、この部屋で見るとホラーである。
「あんた、本当に記憶を取り戻したいか? エヴァ嬢と共にいられるならこのままでも、などと思ってはいないだろうな」
 図星だったのか、目をそらすダニエル。
 ヴェロニカはため息ともつかない息をはく。
「いずれ覚めてしまう夢ならば今のうちに真実を見極め、その上で新たに夢を追うたほうが良いと思うがな。病人に優しいのは誰でも変わらんぞ」
 ダニエルは観念したようにうつむくと、お願いします、と小さく言った。
 ヴェロニカの体が淡い銀色の光に包まれる。暗い部屋の中で奇妙に神秘的だった。
「記憶をなくした原因は?」
 不思議なことに彼女に問われたとたん、これまで思い出せなかった記憶がどこからともなく浮かび上がってきた。
「人を追いかけてて何かに足を取られたような‥‥」
「この絵は何だ?」
 控えていたクリステが蝋燭の側で絵を掲げる。
「ノエル卿が買った‥‥そうだ!」
 ダニエルははじかれたように立ち上がる。
「思い出したか?」
「まだ、わからない部分もあるけど‥‥」
「明日でいい。ゆっくり整理するんだな」

●少しは進展しそう?
 炊事・洗濯・掃除と休むことなく働くマリアンヌを、熊夫は彼女の指示に従いながら観察していた。
 きびきびと動く彼女の空気につられてか、下男下女の動きも小気味良い。
 二人は食器を洗っていた。
「良い草花が見つかるといいですね」
「変な虫がつかない花がいいわね」
 この機会にシュタールのことを売り込んでおきたい熊夫だが、相手はなかなか手強い。
 朝食の時もマリアンヌとマスクの間でこんな会話があった。
「なんでも、アレクス卿の領地を騒がす『珍妙な仮面の戦士』がいるそうですね。井戸を馬糞で埋めたり、いかがわしい行動も多いとか‥‥」
 しかしマスクは上品な微笑で受け流す。
「それは困った人ですね。少しは常識というものをわきまえてもらいたいものです」
 仮面の戦士とマスクを同一視しているわけではない。マスクは今、仮面を付けていないのだから。胡散臭さは同じ、ということなのだ。
「し、心配なら私の魔法で監視しておきましょうか?」
 はじめてマリアンヌは手を止めて熊夫を見上げた。かすかな苦笑い。
「私があなた達に対して多少の思い込みがあったことは認めます。でも、エヴァンゼリンさまは養子とはいえ貴族の娘なんです。こう言っては何ですが、やくざな暮らしの冒険者と懇意にしているという噂は、あまり好ましくありません」
 きつい一言であった。
 その頃、やくざな暮らし呼ばわりされた冒険者達は、商品にできそうな植物を求めて森の中を探索していた。
 マグダレンやレミナ、クリステにヴェロニカ達と相談しながら進むエヴァンゼリンの後ろで、マスクがシュタールを肘でつつく。
「アイゼナッハ殿、愛を勝ち取るチャンスが来たであるぞ」
「う、うむ‥‥」
「邪魔者は消えるであるから、じっくりお近づきになるであるぞ」
 まずつかみの話題は‥‥などと考えていると、前を行く三人が振り返り、
「イチゴとパンジーなんてどうかな」
「特にイチゴは幸運を呼ぶらしいです」
「他にも強そうで小さな花をいくつかまとめて鉢植えにできたらと思ってます」
 マグダレン、エヴァンゼリン、レミナの順である。
「いいんじゃないか? では、手分けして探すであるよ。さぁ、行こう」
 有無を言わさぬ勢いでマスクはシュタールとエヴァンゼリンを残し、他のメンバーを連れて森の奥へ行ってしまった。
 シュタールに試練の時が来た。
 まず、別荘を出た時から考えていたことからはじめる。
「森の中とはいえ、夏の日差しは強いですから‥‥」
 と、帽子を差し出す。マグダレンがコーディネイトした服装の一部である。
 エヴァンゼリンは嬉しそうに受け取る。
「どうもありがとう」
「差し上げます。あっと、足元に気をつけて‥‥たまに木の根が出ていますぞ」
 なかなかいい感じである。
 そしてその様子を盗み見、いや見守る冒険者達。行ったふりして隠れていたのだ。
 それから二人は今までの空白の時間を埋めるように近況を話し合った。
「シュタール様、手くらい握れるかな」
 マグダレンが呟いた時、突然強く木々がざわめく音と人の怒声が響いてきた。
 エヴァンゼリンの側の茂みが波立つ。すかさずシュタールが彼女の手を引いた。
 ぎりぎり、かすめるようにして何者かが飛び出し、駆け去っていく。
「そいつを捕まえてくれ!」
 ダニエルの声だ。彼のすぐ後ろに熊夫もついている。
 そして、盗み見していた冒険者達さらに後方に控えていたアスターがその人物を捕まえるのと、ダニエルが木の根につまずいて側に生えていた別の木に頭をぶつけたのは、ほぼ同時だった。

 別荘へ戻ると、さっそく事情聴取がはじまった。
 追われていたのは「後で来る」絵の受け取り人だった。
 言い渋っていた彼だが、冒険者達の半ば脅しの入った説得に負け、ついに口を割る。
「お嬢さんに泥棒の片棒を担がせて、立場を悪くしてやろうと思ったんだよ。何のためかって? ふん、いろいろ考える奴がいるってことさ」
 そして絵を受け取ろうと別荘を訪ねたところ、記憶を取り戻したダニエルと鉢合わせ、追われたというわけだった。
 夕べ、一気に記憶が戻った疲れか、ダニエルは朝起きてこなかった。冒険者達が森へ行ってしばらくしてから起きてきたのだ。残っていた熊夫とマリアンヌだけが彼の話を聞いていた。
「ダニエルさんは自警団の一人だそうです。盗まれた絵と犯人を追ってここまで来たところで‥‥」
 熊夫のセリフが尻すぼみになっていく。続きは先程見た通りだからだ。
「まぁ、おかけで丸くおさまったわけだが。これでまた記憶を失くしていたら‥‥」
「その時は右斜めのこの角度から手刀で切り落とすくらいのつもりで頭に衝撃を‥‥」
 クリステの懸念にヴェロニカは昨日と同じように答える。今日は本気のまなざしだ。
 しかし、誰も止める者はいなかったとか。
 結局ダニエルは大きなコブを作るにとどまり、ヴェロニカの手刀から逃れた。
 新商品も無事採取でき、あとは商品化に向けての作業が残るだけとなった。ここからはマリアンヌと二人でやっていくそうだ。
 そしてエヴァンゼリンに頼まれて冒険者達は絵とダニエルと犯人をドレスタットまで運ぶこととなった。
 その際、エヴァンゼリンがアスターに近づき、耳打ちするようにこんな話をした。
「あなたのお知り合いに赤い目の女の子がいらっしゃるでしょう? お義父さまがその方にお会いしたいそうなんです。‥‥できますか?」
 捕まえた犯人の言葉を借りるなら、いろいろ考える奴がいる、ということらしい。