●リプレイ本文
●依頼人
「ここが依頼人の館か」
イルニアス・エルトファーム(ea1625)は、依頼人の館に出向いていた。同行しているのは、エルリック・キスリング(ea2037)のみ。他の冒険者たちは先の出発だ。
「意識不明の重体か。回復者がついているのだろうか。これ以上死者は出したくない」
「しかし、なんで隣の領主の館に収容されているのでしょうか?」
それにこの館はどことなく、来たことがあるような。ないような。
「依頼を受けた冒険者の方々か? どうぞお入りください」
依頼人の館は大勢の人で活気があった。
「軍勢の手配は十分みたいだな」
領主の手勢の騎士たちに傭兵。少しの民兵まで、近くの領地の村から動員をかけたのだろう。弓兵もいるし、投石機も見える。直接の戦闘のみでなくても物資の輸送や奪回後の村の回復など、人手は多いにこしたことはない。収穫も急がねばならない。近隣で収穫の終わった村からも人手を調達するのだろう。依頼人が。
「あなた方がギルドから」
依頼人の領主は、以前にも会ったことのあるローズ。
「被害を受けた村のとなりに、私の村があります。オークの軍勢はたまたまお隣の村に押し寄せたのであってもしかしたら、意識不明の重体になっていたのは私だったかもしれません。こちらです」
ローズに案内された部屋に重体の領主がいた。目は空いているが、何も見えていないらしい。
「村を奪回に向かった彼の軍勢が敗走する途中で、うちの代官の一行と出会ってここへ」
ローズのところの代官は点在するあちこちの領地を定期的に回っているが、襲撃される事件があったため護衛をつけていた。今回も追撃中のオークを代官の護衛が撃退していた。
「撃退というと言い過ぎね。オークどもが状況判断して撤退したってところが本当のところ」
つまり、興奮して暴走しそうなモンスターに冷静な判断を指示できる指揮者がいることの証だろう。
「本格的な戦闘になったら、こちらも被害が出ていたでしょうけど」
イルニアスはその部屋に残り、エルリックはローズについてその戦闘に参加したものたちのところに向かう。
「意識が戻らない? 怪我の手当てが悪かったのか?」
イルニアスが様子を見ると、応急手当てもしっかりされていたらしい。ヒーリングポーションを飲み込ませてみたが、変化はない。
「意識が戻らない原因がわからないの」
ローズの依頼で治療にやってきた女性が声をかける。
「怪我はほとんど問題ない。問題は心の方ね」
「心?」
「ローズ様が呼んでいましたよ。襲撃してきたオークの1体だけアイスコフィンで凍らせてあるから見に来てって」
「オーク1体のみ倒せた?」
領主の軍勢は4人が村で倒され、敗走中に傭兵が散り散りになった。そのため追撃の軍勢も判断に迷うかと思われたが、領主の一群のみを目指して追ってきた。
「はっきり言ってオークごときにやられると思ったね。うまい具合に横合いからこちらの代官一行が矢を射かけてくれたんで助かったが」
「村の罠はどんな具合でしたか?」
「あの村には行ったことなかったから、以前どのような罠があるかは領主様ぐらいしか知らなかった。そのため領主様の軍馬を先頭にして罠を回避するルートで突入した。しかし、そのルートにもくまなく罠が仕掛けられていた。しかも全部を足止めするわけでなく徐々に脱落するように」
「気付いてみると後続がほとんど居なくなっていたと?」
「村人の話では、オークはでかい生き物に乗っていたらしい。そいつは皮膚も厚くなまじの武器ではダメージを与えられないらしい。そこで軍馬によるランスチャージならと考えたのだが」
戦術の幅を狭くして敵の思うつぼにはまったらしい。
「オークの氷漬けがあるから見ておくといい。普通のオークと思ったら痛い目を見る」
●オーク
「これが村を占領しているオーク」
通常のオークよりも巨大で。みるからに凶暴そうだった。アイスコフィンで氷漬けにされているオークの前で集まってきた者たちに説明がされている。
「最初村を襲撃した時は、大した武器は持っていなかったが、村を占領したあとは村にあった武器を、領主の軍勢を撃退した後は軍勢の使っていた武器を使っていると思われる」
イルニアスもエルリックもオークを眺めてみる。たしかに普通見られているオークよりも強そうだ。
「これは私が領主になる前に代官から報告があったことですが」
ローズは二人に気になることを知らせた。
「あの村の側に少し大きめの池があります。そこに魚を大きくする研究をする者が住み着いているというというものです。村ではそこでとれた普通の3倍くらいの魚が食べられたらしいのです」
「大きな魚? 餌が違うのか。品種までいじったのか」
農作物の品種の改良などは、それぞれの村で行われている。魚の品種改良だってあり得る。
「餌だとして、その餌をオークが食ったら大きくなるとか」
「あり得ないことではありません。その者との連絡は現在とれていません。何者かによって、研究成果をオークに転用されたのかも。池に入った村人が凶暴な魚に襲われたという知らせもないわけではありません」
魚を密漁しようとしたので公式な訴えにはならなかったのだろう。
「大きく、凶暴で、餌付けには従順になるオークができたとすれば」
隣の不幸だけでは終わらない。
「他の人たちにも十分に気をつけるように伝えてください」
「確実に罠の位置を調べて軍勢が最高の状態で戦闘に入れるように準備をしてやるよ」
イルニアスはそういうと、エルリックとともに館をあとにした。
「先行した人たち、先に村に入らなければいいのですが」
エルリックは不安そうに口にした。陽動班はけっこう派手にやる予定だった。互いの呼吸が合わなければ全滅するかも知れない。
●村の郊外
イルニアスとエルリックを除く他の冒険者は村の郊外まで進出していた。もうここはオークどもの勢力圏内と考えた方がいい。しかし、所詮は臆病なオーク、不利になればたちまち士気崩壊して逃げると思っているからまだ警戒心は薄い。
シルバー・ストーム(ea3651)は先行して近隣の村に逃れた村人たちから、村にあった罠の数と種類を聞いて回っていた。そして他の仲間がここに到着する前にテレスコープとリトルフライを使った偵察を行っていた。
「罠の位置はこのあたり」
村の大まかな地図に罠の印をつけていく。
「そしてこのあたりを敵が巡回している」
「その巡回コースには罠はないわけだね」
響清十郎(ea4169)は陽動班として敵を引きつけるための戦いの場所を考えながら、口にした。
「所詮オークです。こちらが準備万端整えて攻めていけば、領主の軍勢なしでも私たちだけでも駆逐できないでしょうか」
セシリア・カータ(ea1643)は戦闘重視ではないものの、残った村人の安否を考えて発言した。
「そうだ。村人を早く助けないと」
ジム・ヒギンズ(ea9449)は意欲満々。サラ・コーウィン(ea4567)も同様だった。この二人だけならこの場から村に潜入偵察しかねない。
しかし、そこに割波戸黒兵衛(ea4778)が村の周囲まで出向いて侵入口を探しに行って戻って来た。
「そう簡単にはいかなそうじゃ」
忍者の黒兵衛にとっては、罠や巡回などなにほどのこともないと思っていた。しかし、巡回に回っているオーク、そしてそのオークが使っている得たいの知れない生き物を実際に見てみると。
「あのオークは普通じゃない。臆病な警戒心は非常に高いままだ。忍者のわしでさえ居場所を感づかれそうだったぞ。それに以前攻めた領主軍の武具や村にあった武具を自分たちように直して使っている。甘く見ると大変なことになる」
「陽動班が巡回の連中ぐらいは引きつけてやる。開いたところから隠密班には潜入してもらおう」
壬生天矢(ea0841)は斬馬刀を振り上げて落ちそうになる士気を高める。陽動班は、全員が気を引き締める。
「奇襲をかけるとしたら明け方だけど、隠密班を村に送り込むためなら、昼間か、夕暮れ時ですね」
昼間では潜入した後にもぐり込める場所がなければ、丸見えになる。
「そうだな。どこか安全な場所でもわかっていればともかく。取り残された村人が村の中を歩き回っているなら紛れることもできるだろうけど」
ジムが潜入後のことを口にした。オークに人間の個体識別がどれほどできるかと考えれば、人数が極端に増えていなければ、誤魔化す余地もある。頭までは良くなっていないだろう。問題は指揮者だけだ。
「その形跡はない」
シルバーの偵察では村人の活動はないようだ。良くてどこかに監禁、悪ければすでに。ということだろう。村人に成り済まして行動することはできなそうだ。
「とすると、潜入したあとも大変ね」
「連中けっこう鼻が効くようだ」
「そうすると、村の周囲で罠を調べ上げる者と指揮者を狙うものに分けたほうがいいな。村の中に大勢ゾロゾロ入ったら目立つし、大勢で行ってもオークどもを圧倒できるわけでもないだろう。俺は罠の方を探る」
クオン・レイウイング(ea0714)はレンジャーゆえに村の中よりはフィールドの方が活動には有利だ。
「できれば、狙撃ポイントを確保して指揮者を攻撃したいところだ」
「私も村の外側でまずは罠を調べることにしよう」
同じくシルバーもそうすることにした。巡回場所を分け、狙撃可能ポイントを確保できればなおよい。
「私はミミクリーを使って村の中に入る」
シクル・ザーン(ea2350)は自分のミミクリーならオークなり村にある物なりに成り済ますことができることを利用して村の中を調査することにした。問題は長い時間できるわけではないことだ。どこかに安全な隠れ場所を見つけてからの行動にならざるを得ない。
「私は村の中に潜入します。村人の安否が気になるし」
サラは潜入行動の邪魔になりそうな日本刀をここにおいていくことにした。重くて嵩張るのでは目的を達成できない。クルスダガーでも、どうにか対処できる範囲にしなければならない。
ジムも潜入になる。ただしシクルが動き回ることを前提にしたのとは逆に、オークの観察に回る。指揮者がいるなら、オークの動きも指揮者の周辺では違うはずだ。黒兵衛はまずは罠の解除そして潜入たちとの連絡を行う。
エルリックとイルニアスが到着した。二人は依頼人からの情報を伝えた。
「依頼人の軍勢はたぶん正面から戦えば、オークを駆逐できる。こちらは無理をせずに、偵察に専念すればいい。ってことでしょう?」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は二人の話を聞き終わってから要約する。
「オークは死ぬほど嫌いだけど、殺さずに我慢することにしましょう?」
「大規模な合図は敵に気付かれるから、連絡のやりとりは極力少なく」
ヒール・アンドン(ea1603)は、オークを操る指揮者はデビルである可能性を考えていた。もしデビルなら一筋縄ではいかない。もちろん、依頼人からの情報ではデビルの可能性は低い。むしろ、人間っぽい。オークを支配する手段を講じているような。
「騎士でも兵士でも村人でも、戦いに動員して死ねば保証は必要だし、動員するには先立つものが必要になる。しかし、オークを凶暴にしてかつ指揮者に従順なようにできれば、領地の一つや二つ簡単に手に入れることができるだろう」
「そう簡単に行くとは思えません」
アルアルア・マイセン(ea3073)は、陽動の準備をしながら言った。それが簡単にできるのならすでに誰かがやっているだろう。
「偶然が重なったってことだろう。鵞鳥だって育てた人にはなつくけど、外敵には凶暴になるんだから。それより作戦を確認しよう」
清十郎は促した。えいやー! 我こそは〜!! 名乗りをあげて突っ込みたいのだ。もっとも今までの流れからではそこまではできそうもない。
夕闇で辺りが暗くなり始める時刻に、陽動班の天矢、ニルナ、ヒール、イルニアス、セシリア、アルアルア、清十郎、スニア・ロランド(ea5929)、エルリックは一団になるような感じで村に接近、巡回のオークを挑発する。敵の注意を引きつける。できればオークを多少なりとも傷つけて血を流させる。狂暴化し、興奮しているオークなら、傷ついたぐらいでは痛みは感じないだろう。しかし、視野は狭くなる。得意の鼻も血の臭いで効かなくなる。
他への注意が薄まった時に、隠密班は闇に紛れて潜入。各自の活動拠点を作って村の内外を探査。陽動班は撤退、馬の移動力で適当にあしらったあと一気に引き離して撤退する。できるだけ敗走しているように見せかけて。領主が冒険者を雇って奪回させようとしたが失敗したように思わせるのだ。別の手段を講じるには、多少の時間がかかる。そこに敵の指揮者は油断するはずだ。
「いいな。絶対に無茶しないこと」
「うん」
●陽動班の激闘
「行くぞ」
天矢がウォーホースに跨がって、斬馬刀を振り回して先頭を走る。すでにどこまで村に近づけることができるかは調査してある。トラップゾーンぎりぎりまで接近する。巡回しているオークがまず気付く。下手に統制されているだけに、村への知らせは迅速に入る。村では待機していたオークが動きだすのが見える。注意が陽動班に向いた。
「行くぞ」
黒兵衛を先頭にして、すでに罠のなさそうなルートから村に接近する。
「このオークめ」
ニルナの聖剣が巨大なオークの肩に振り下ろされる。馬上からの暫撃なのに頭ではなく肩が目標になるのは、オークが大きすぎるからだ。
「動きを止めるな」
「止まればオークに捕まるぞ」
ヒールは目の前に迫ってきたオークの右目を狙ってレイピアを突き入れる。さすがに目なら鍛えることはできないだろう。しかし、わずかにオークは頭を下げることでレイピアの突きをヘルメットの飾りで弾いた。前の領主の手勢が残したものだろう。あやうくレイピアがからめ捕られるところだった。
「戦いなれしている」
「ただのオークじゃないって実際に戦ってみるとわかるな」
斬馬刀のフルスイングでオークの左腕を半ば断ち切った天矢があきれたように叫ぶ。普通なら一刀両断していてもおかしくない。それが。
「皮が厚い上に脂肪も分厚い」
斬馬刀にはオークの脂がベッタリとついてしまった。
「これじゃ刃が切れない」
魔法支援の少なさが影響してきた。しかし、動きはこちらの方が良い。
「隠密班はそろそろいい頃合いだろう」
エルリックは村の方向を見て、全員に声をかける。
アルアルアが騎乗シューティングを駆使して後続のオークの一団に矢を打ち込んで動きを鈍らせる。まずは戦馬以外の者が撤退開始だ。馬を持っていないスニアは、エルリックの馬に乗せてもらって撤退する。
全員の得物がオークの血のりと脂肪で、切れ味が落ちていた。
「狂戦士じゃあるまいし、こいつら痛みとか疲れとかは他人事か」
さすがの清十郎も敵の底知れない体力に押されていくのを感じる。
ニルナと天矢が最後まで残った。もちろん、アルアルアは二人が撤退できるように、ロングボウで支援できる位置にいる。
「これでもくらえ」
壬生のソードボンバーがダメージを与え続けていたオークを吹き飛ばす。その一瞬の隙に二人が全速で後退する。オークも追撃しようとしたが、夕闇が追撃を邪魔した。
「怪我した人はいる?」
ニルナとヒールが全員を見渡した。切り傷は少ないが、打撲はけっこうあるようだ。防具が刃の切れ味を防いでも、打撃までは止められない。幸い骨折した者はいない。
「あのオークぶったおすには、こ〜んなでっかい岩をカタパルトでぶつけるしかないんじゃないか」
オークの血と脂肪で切れ味の鈍くなった得物の刃を水であらい手入れをしておく。
「得たいの知れない生き物は出なかったな」
エルリックがつぶやいた。
「え?」
「ウォーホースよりもでかい生き物がいたらしい。それが今回はでなかった」
「陽動がばれた?」
スニアの声がわずかに震えた。隠密班が危険な目にあいかねない。
「そこまでは、しかし」
●隠密班
陽動班の活躍によってオークの注意はすべて、外に向いている。
レンジャーのクオンとシルバーは村に入るとそれぞれの拠点と考えていた場所に向かう。指揮者の動きをつかんでできるなら、狙撃の一撃で仕留めたい。
サラとジムは黒兵衛の背後から村に入ると手分けして村の家々に聞き耳を立てる。何も聞こえない家を入って拠点に決める。
シクルもその拠点からミミクリーを利用できるタイミングをうかがう。黒兵衛は再度村周辺の様子を見に戻る。攻撃に向かったオークはあわてていても罠の位置を避けているはずだ。そこが突入できる安全な道になる。それを調べ上げてその道の周辺の罠を探り出す。
「なかなか罠に長けたものののようだ。いい仕事している」
罠は安全なルートを逸れるとすぐに牙を剥くようになっていた。なまじ安全ルートを知って居るとそこに味方が殺到して周囲に押し出されたものから罠を味わうことになる。
そして村の入り口には、依頼の時にあった人間のくし刺しがそのまま放置されていた。多分領主とともに村を奪回にきて、領主をどうにか逃がしたものの力尽きものたちだろう。すぐにでも弔ってやりたかったがあいにくとそんな状況ではない。感情が先になって、これに手を触れれば侵入したことがわかるような仕掛けなのだろう。
「村の内はあの3人に任せて、もうしばらく罠の解除をしよう」
その3人は村人がとらわれていると思われる家を探していたが、オークのまがまがしい声以外は物音さえも聞こえない。
「もうすでにオークに食われてしまったのか」
ジムは思わず口にしてしまった。
「いいえ、オークが村人をというのならあり得るけど、オークを操っている指揮者ならそんなことはしないと思うの」
指揮者なら村を占領したのは何かの目的があるはずだ。村の土地などが目的でないだろう。農地? 作物? 作物なら刈り入れした後の方がいいはずだ。
「目的がわかれば、指揮者の見当もつくか。指揮者がいるとしたら一番いい家かな。村の外の様子もわかるような」
そこには今、シクルが向かっていた。オークはここを避けるように移動していた。指揮者がオークから恐れられているならオークは避けるだろう。その読みがあたってくれることを祈るのみ。できれば生き残った村人もいてくれれば。
「人の声がする」
壁越しにわずかだか聞こえる。内容まではわからない。
「入ってみるしかないか」
銀のナイフも準備しておく。もしかしたら、通常武器の効かない相手かもしれない。
「鍵はかかっていない?」
ゆっくりと玄関をあける。村にはよくあるつくりだった。まずは牛や馬をいれてある部屋。冬でも牛を家の中に飼うことによって暖を採れるし、馬も寒波から守れる。しかし、この家にはすでに牛も馬もいない。オークたちに食われたのかも。奥から話し声が聞こえる。
「そろそろ頃合いだと思う。今日攻めてきた者たちは先触れだと思う。実験は十分に成功した。オークよりも強力なモンスターを使えば」
「実験が終わったら、あいつらどうするんだ。まさか、ほったらかしにしていくのか」
どうやら指揮者同士で言い争っているようだ。
「たかだかオークだ。毛嫌いしておいたのはお前の方だろう」
「あいつらは役に立つ。たとえ」
「いや、たいして役に立つわけでもないさ。ネズミが1匹こんなところに入り込んでいるのだからな」
(「見つかった」)
シクルは貫頭衣を脱ぐと、ミミクリーを使ってオークに化ける。
「ネズミ? オークだろう。持ち場に戻れ、ここには入るなと言ってあるだろう」
オークの姿のまま表にでる。見張られていないことを確認して拠点に入る。
「村の外側の罠は調べ終わった」
夜半すぎに黒兵衛が戻ってきた。解除できるものは解除してきたが、解除できない物の方が多かった。
「黒兵衛さん、指揮者の居場所がわかりました。明け方に奇襲をかけます。シルバーさんかクオンさんが待ち構えている方に追い込むからと伝えてください。そのあとはトラップゾーンを書いた地図をもっていってください。領主の軍勢に見せないと」
「大丈夫か?」
「指揮者はなんとかするわ」
サラはウインクして見せる。
「無茶、するなよ」
●指揮者
シクル、ジム、サラの3人が指揮者のいた家へ。得物を準備して一気に踏み込んだ。寝ぼけて動きの鈍いところをシクルがこん棒で殴り掛かり、頭にクリーンヒットして一人は床に倒れた。しかしもう一人が窓を突き破って逃げ出した。
サラが追いかける。あと一歩のところまで追いつめたが、何か巨大な生き物がサラに体当たりしてきた。たまらずサラは吹き飛ばされて地面にたたきつけられる。衝撃に息が詰まって呼吸ができなくなった。そこに生き物がのしかかろうとしたところを、ジムがサラの腕をつかんで危機一髪救出する。
しかし今度は二人揃って目標にされる。
「こんなのが相手では、指揮者どころじゃないな」
そいつの顔が笑ったように見えた。
「巨大なブタか」
森に放し飼いになっているブタが巨大化したもののようだ。
「牙まで生えている!」
そこに数本の矢が突き刺さる。クオンが二人の危機にインビジブルのスクロールで姿を隠しながら有利な木の上に陣取り、弓を使って援護していた。予想外の所から矢が飛んできたことでパニックに陥ったらしい。
その間に逃げた指揮者は、幾匹かのオークと巨大ブタを引き連れて村を後にする。シルバーも気付いて攻撃をしかけたが、その都度オークが守ってしまうため結局取り逃がすことになった。
一方シクルは気絶させたもう一人を縛っていた。何か秘密を聞き出すことができるかもしない。
●朝駆け
陽動班は朝暗いうちに黒兵衛の案内で村の近くまできていた。隠密組が脱出するのを支援するためだ。エルリックは依頼人に、調べあげたことを知らせるために向かっていった。今から間髪入れずに攻撃できるだろう。指揮者さえどうにかできれば。
待ち構えているところにシクルらが戻ってきた。クオンとシルバーが縄で縛られた人物を抱えてきた。
「もう一人には逃げられた」
サラはニルナとヒールから回復させてもらう。表面上は大丈夫のように見えたが、深いダメージを受けていたようだ。
「あとは依頼人の出番だ」
エルリックに案内された依頼人の軍勢が村に到着したのは、昼過ぎだった。罠を回避して村に殺到する。わずかな時間でオークは駆逐された。
「みなさまご苦労様でした」
依頼人が、奪回した村で酒宴を振る舞ってくれた。もっとも日の高いうちは、村の復興に汗を流させられたのだが。
シクルの確保した指揮者は殴られた場所が悪かったのか、意識が戻らないまま死んだ。
結局、何もわからなかった。村に残った人たちは、あちこちの家の地下貯蔵庫に閉じこもっていた。オーク達に荒らされた貯蔵庫からは犠牲者の亡骸が見付かり、運良く発見されなかった人だけが生き残っていた。
「何かが進行しているような気がする」
依頼人はそうつぶやいた。