●リプレイ本文
●ベースキャンプ
セブンリーグブーツで村まで先行し、村に最初に到着したのはシルバー・ストーム(ea3651)だった。
「村の解放に協力してくれた時の冒険者の方ですね。ローズ様から聞いています」
シルバーに修道女姿の女性が声をかけてきた。ここの領主の治療にあたっていた者だという。ローズの依頼で患者を治療していたが、すでにできることはすべて行ってあとは神のご加護に頼るしかないため、村の司祭に任せて修道院に帰るところを探索に出る冒険者を村で問題が起きないようにサポートしてくれと依頼されたらしい。
「この村の領主様なり、領主様の家中の方が無事ならお受けしなかったのですが」
といいながらも、冒険者を受け入れる準備をしていた。村の共有地に冒険者のベースキャンプとなる土地を用意して周辺の地図と近隣の領主への連絡をしておいた。近隣の領主たちも前回の事件を知っているので、臨戦態勢になっていたら衝突する可能性もあったからだ。
「地図を用意してもらえたのはありがたい」
先にきて書き写すつもりでいた。依頼は受けているが、この村の領主は依頼主ではない。村人が反発したら依頼がやりにくくなるだろうとは思っていた。
「本来なら村のどこか1軒を借りているところですが」
村人との接触はできるだけ避けた方がいいというのが、ローズ、というより後見人の判断だった。
「村の方は収穫で忙しいのでお手伝いはできませんが、ご了承ください」
シルバーはオークの陰にかくれて逃げ出した指揮者の姿を見ていた。といっても、夜明けの薄暗いなかでオークの隙間からちらっと見た程度、どこまで有効かどうか。シルバーは地図を書き写し始めた。
●ローズ
「依頼を受けた冒険者です。ローズ様にお会いしたいのですが」
グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)は、パリにあるローズの館を訪ねた。
「用意していただいたいものがあります。まずは」
グリュンヒルダは村周辺の地図と村での協力を求めた。
「それならば村に用意させてあります。ただし、村人との接触はできるだけしないようにしてください。村人も収穫で手伝えないのでそのつもりで。もっとも私はあの村の領主ではありませんから」
「ご領主の具合はまだ回復しないのでしょうか」
「肉体的には、回復しています。しかし問題は心の方です。今は村の近くにある私の村の司祭に面倒を見てもらっています。取り敢えず、領主の親族に連絡を取って、今後そして当面どうするかを相談するつもりですが」
つまり領主の不都合をいいことに村人に冒険者を接触させたと領主の親族に訴えられたら、ローズの方が危なくなると言う訳か。
「村にはサポートする人に行ってもらっていますから。絶対に敵の指揮者をつかまえてください。無事にこの館まで護送してください。杞憂にすぎなければいいのですが、指揮者を操っている人物が指揮者を始末するために動くのではないかと思っています」
前回の依頼で討ち取ってしまった指揮者は、オークを置き去りにして脱出することを考え、逃げ延びた指揮者はオークをつれて帰ることで言い争っていたらしい。
「指揮者に今回のことを命じたものなら、口ふさぎぐらいしかねないってことですね。十分に注意しましょう」
討ち取ってしまった方も、もしかしたら昏倒状態の間に、何者かが一服盛ったとも考えられなくもない。あの村には急場凌ぎに雇われた素性もしれない傭兵が幾人かいたはずだ。
「そのためにも、村人とは極力接触しないでください」
「村人を装って暗殺、ってことですね」
ちょっと考えすぎではないかとも思ったが、一応考慮することにして館を後にした。
●到着
「心配することなかった」
グリュンヒルダは村の共有地に作られたベースキャンプを見て安堵した。他の面々も多少の違いはあれ、無事に村まで到着した。ベースキャンプにはペットたちの飼い葉も用意してあって取り敢えず準備は整っていた。
「地図はベースキャンプ用に1枚、A、B、C各班に1枚づつ4枚用意しておいた」
先に乗り込んでいたシルバーが準備しておいてくれた。もちろん、この他に自分専用の一枚も別にある。
「殴りクレリック・ノリア只今参上!」
ノリア・カサンドラ(ea1558)は、口上とともに、村人に近づこうとした。この村の解放に携わらなかった冒険者には、敵の指揮者の顔も姿も知らない。村人から情報を収集しようとしたのだが、すぐに呼び止められた。
「こら、そこの殴りクレリック。村人に聞いても無駄よ」
サラ・コーウィン(ea4567)は、そのときの村人の状態を教えた。
「あの時、村人は村を追い出されたか、地下に閉じこもったかのいずれかだから、村人が見たのはせいぜいオークだけ」
「オークか。オークを操って、ってのがなんか厄介よね。オークとあんまり戦いたくないけど、なんとかなる、なんとかする、の気概でいきましょ」
「そのオークが曲者です」
ヒール・アンドン(ea1603)は、オークとの戦いを村の解放の時にいなかった冒険者に教えた。
「普通のオークよりも大きいし、皮も非常に厚い。でも動きもいいし、武器も防具も使いこなしている。面倒な相手です。あまく見ない方がいいです」
「でもまあ、目とかは変わらないから、目を狙えばどうにかな」
シルバーが半ば気休めのようなことをいう。射撃で動いているオークの目を狙って当てられるのは、シルバーとレティシア・ヴェリルレット(ea4739)ぐらいではなかろうか。
「あとは魔法で攻撃した方がいいかも。脂肪たっぷりのオークなら、こんがり焼けるのではないか?」
氷雨絃也(ea4481)が提案してみた。
「そして夜は焼き豚料理か。たまにはそんなのもいいかもな」
家事技能を生かした料理人ウェルナー・シドラドム(eb0342)は、あまり気は進まそうだが、それもいいかもと思ってしまう。もしかしたらうまいかも。
「少なくとも、巨大ブタの方は、村では加工されているみたい。結構いけるけど」
グリュンヒルダは、差入された食料の中のソーセージを指し示した。
「そうなのですか?」
シクル・ザーン(ea2350)が、自分の胃を押さえた。しかし、彼だけではない。すでに全員が食べていた。
「それじゃ探索を開始しよう」
ベースキャンプに残って村の防衛と情報の管理集積を行うのは、イルニアス・エルトファーム(ea1625)とグリュンヒルダ以外の冒険者は、3班に分かれて探索に向かう。
「4時間おきに伝令を出して、状況を知らせ会う」
●A班
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、シルバー、ジム・ヒギンズ(ea9449)、セシリア・カータ(ea1643)の4人が1班となって行動する。レンジャーのシルバーが先頭になる。森での知識と隠密行動万能の技能を生かして、敵の痕跡を探る。ニルナも聴覚や殺気を感じるように続く。
「あれだけ大きな豚なんだ足跡くらい残っているだろうし、糞もでかそうだ」
伝令役ではあるものの、ジムも今度こそという思いが強い。
セシリアは得物を構えて奇襲に備える。
「痕跡がない。水場に移動する」
シルバーは探索に先立って、バーニングマップを使ってみた。1枚多く地図を用意しておき、スクロールを使う。地図が燃えた灰から目的の人物までの道が示されるはずだった。その示された道をたどってきたが、地図も目標の人物も不正確だったためか、途中からわからなくなった。そこでシルバーは森の水場から調べることにした。やみくもに森の中を動き回っても手がかりは見つからない。生きていくには水が必要なはずだ。
サーチウォーターで水場を探りあてて、そこに向かう。
「ここが、狂暴な魚の住む池ね」
ニルナは水面から覗き込む。その瞬間ニルナの顔をめがけて黒いものが飛び上がってきた。セシリアのレイピアがあわやというところで、黒いものを突き刺した。
「本当に狂暴だな」
ジムがレイピアに貫かれても、盛んに動いている魚をにらみつける。
「ここに水を汲みにくるかな?」
めったにない体験だが、魚に顔をかみつかれそうになったニルナにとってはとても水を汲めるような場所には思えない。
「あのオークなら魚はいい餌になるさ。でも、ここの魚は、村人だってつかまえて食っているから、ここなら見つかってもいいはずだ」
ここに水を汲みに来るなら、村人が見かけることもあるはずだ。
「別の場所を探そう」
●B班
エルリック・キスリング(ea2037)、割波戸黒兵衛(ea4778)、サラ、絃也、ウェルナーの5名が黒兵衛を先頭にして探索していた。A班やC班とは別ルートを取る。
村人が森に入る範囲の外にまず移動する。サラが前回の戦いで村から指揮者とオークどもが逃げた方向を推測する。まずはその方向に。
指揮者がいた小屋や村の周辺は村を奪回する戦いで、どの方向に向かったかという情報は消されてしまっていた。あるのはオークの足跡のみ。
「多少の手傷は負っているだろうから」
どこかに休んだ場所があるはず。村を放棄する準備をしていたなら、逃げる時に利用するために拠点くらい作っているだろう。
「自然の回復力は高いな」
村人が生活圏にしている森は、下刈りがしてあって足跡もかろうじて残っている部分もある。しかし、それを越えると森は見通しも悪く、下草も刈っていないため、草が回復してくると移動の痕跡が消されてしまう。
「そろそろ休んで食事にしよう」
ウェルナーが、サラが伝令に出る前の食事を提案する。
「そうだね」
サラも同意する。
「腹が減っては戦はできぬというからな」
絃也がジャパンの格言をいう。
「じゃ食事ができるまで周辺を警戒しておく」
エルリックと黒兵衛が周囲を見回る。もしかしたら、ウェルナーの料理の腕に誘われて敵が来るかもしれない。それには多少離れて、周囲の音を探る必要がある。
「待ち伏せか。ウェルナーも考えたものだ」
絃也も忍び歩きで移動し、埋伏に入る。もちろん、ウェルナーには食事を餌にして敵をおびき寄せるつもりなどなかったのだが。
「何か近寄ってくる」
エルリックは接近する足音にきづいた。
「こんなものかな」
「いいんじゃない」
サラとウェルナーは料理の味付けに夢中だった。
「来る!」
●C班
ヒール、レティシア、ノリア、シクルは、レティシアを先頭にして、探索を始めていた。
もっともその頼りのレティシアはといえば、ブツブツと独り言を言っている。ノリアが心配そうに聞き耳を立てると。
「‥ったく。物騒なピクニックだよな。そろそろ、キノコの時期だってのに。毒キノコ、まだ生えてねえかな…何だよ、緊張感が足りねぇ?」
「足りないわ!」
ノリアがレティシアをどつく。
「さがしているのは足跡でしょう。毒キノコではないのでしょう」
「いや、緊張感を少しほぐそうと」
ヒール・アンドンがまあまあと、ノリアをなだめる。
「緊張はしておいた方がいいでしょう」
シクルは、この前の戦いで敵の手ごわさを知っている。
「とりあえず、水場から少し離れたところに野営していると思う」
水場の側では村人に見つかる可能性もある。むしろ、少し離れれば水も手に入るし、発見される危険も減る。
「地図だとこのあたりらしい」
地図の一点を指す。村人との接触はしないようにいわれていたが、レティシアはすでに村に到着する前に近くに住む猟師に会っていた。配布された地図と猟師から聞いたことからだいたいの位置をつかむ。
「だから、それまでは緊張しなくていいって」
「それなら、そうと言え」
ヒールの束縛をふりほどいて、ノリアが再びどつく。
「じゃ行こう」
シクルが全員を促す。レティシアの意図はともかく、しっかり緊張して得物の準備を怠らない。もっとも、あのオークが相手だとシクルには大きなダメージを与えることができるかどうか。
「あくまでも探索。つかまえるのは場所を確認して全員で囲んでから」
そのC班は4時間でまずノリアがベースキャンプに伝令に向かった。
「A班とB班が何かつかんでいるといいけど」
ノリアはそう言うと、走り出した。
●衝突?
アッシュワードにグリーンワード、シルバーがスクロールにものをいわせて、手がかりから痕跡を追う。
時間のためセシリアが伝令に走る。そしてベースキャンプからセシリアが戻ってくると、次にはジムが。
「見事に隠れている」
シルバーもさすがに緊張の持続するにも疲れてきた。
「そろそろジムが帰ってきたら、ベースキャンプにもどりましょう」
ニルナが提案した。そしてジムが帰ってきた。
「一旦ベースキャンプに戻ってくれ。見つかったらしい」
●待ち伏せ
「これが巨大ブタか」
絃也が大きく肩で息をしながら、見下ろしてきた。疲労しているのは彼だけではない。エルリックも黒兵衛も奇襲したにも関わらず苦戦した。皮膚が厚い。その下の脂肪も厚い。そのため、装甲が厚くても効くはずの打撃系も効果が薄い。さらに感覚も鈍いのかマヒしているのか、相当ダメージを食らっても行動に影響が出ていない。結局周囲から攻撃してどうにか倒したのだが。得物は脂で切れ味が鈍るし、大けがこそしなかったものの、疲労困憊。しかも戦闘のためにできたはずの食事は、とれそうにない。
「まだ小さいほうよ」
サラは死骸に蹴りを入れて死んでいることを確認する。突然起き上がって体当たりされてはたまらない。すっごく痛いのだから。
「食事の方は駄目みたいだ。とりあえず」
「伝令に行ってくる」
サラは食べられなくなった食事を見て、空腹を抱えてベースキャンプに向かう。伝令の時間は大幅に遅れていた。
●ベースキャンプで
「B班が遅れている。何かあったのか」
イルニアスはA班とC班の伝令からベースキャンプにおいてある地図に探索情報を記入していった。地図でわかっている水場周辺は、ある程度調べられたようだ。
「B班なら奇襲くらって全滅ってことはないでしょうから」
グリュンヒルダは心配こそしていないものの、手がかりをつかんだのではないかと思っている。
「あの修道女さんが聞いてくれた村からの情報ではモンスターが住み着きそうなダンジョンや洞穴はないそうだから、雨露しのげそうな場所は限られるはずです」
確かに、では知られていない水場があるのか。指揮者だけで逃げることを考えていたのか。それとも。
「あ、きた」
サラが空腹によろよろしながらベースキャンプに戻ってきた。グリュンヒルダが差し入れのソーセージを出すと。
「あ、それ以外のない? さっき戦ったばかりだから」
B班の状況を教えた。そこはC班の現在位置にも近い。
「Cから次の伝令がそろそろ来るころだけど」
そこにシクルが走り込んできた。
「見つけた」
●発見
シクルがミミクリーで鳥になって、偵察した。見事にカムフラージュされているが、隠れ家であることは確実のようだ。オークが2匹表に出ていた。
「まるで歩哨だ。シクル伝令に行ってくれ。人数を揃えてからでないと」
しかし中に指揮者がいるかどうか。
「誰もいないのに歩哨は立てないだろう」
その時小屋の奥に人影を確認した。
「ということです。至急他の班を集めて」
「サラはB班に、そろそろA班のジムが来るころだから」
問題は他の班を集結するまでに夕闇が迫ることだ。
「サラ、B班の馬をつれて行って、直接現場に向かうように伝えて」
そこにジムも到着する。
「きたばかりで悪いが」
ジムもA班の馬を連れて、ただちに戻る。
「じゃ我々も」
「村は大丈夫そうね」
戦力は一人でも多い方がいい。
●乱戦
A班とB班が到着した時、C班は小屋の周囲を警戒していたが、小屋の方では争っている音がしていた。そして小屋の表にはオークが1体転がっている。
「何があったんだ?」
絃也が尋ねる。
「ローズの言っていたこと、杞憂ではなかったということです」
グリュンヒルダが口にした。黒幕が指揮者の口を封じるために何者かを派遣するのではにないか、とローズは言っていた。もちろん、モンスター退治を行った結果なぜか一緒にいた人間が巻き添えになったという体裁を取れば口封じとは公に気付かれない。
「村を荒らしたモンスターを退治して名をあげる。それのどこが悪い。と言われればそれまで。モンスターにとらわれていた人間が戦闘の時に、モンスターに殺されても不幸な事故だったで、済むな」
口数の少ないシルバーが発言した。その推理の通りだろう。モンスターを退治して名をあげるのは、冒険者ならやっていること。
「オークを倒した手並みは見事だった」
レティシアも冷静に見ていた。
「しかし、人数は多くない。オークが指揮者を逃がすはずだ。そこをこちらでいただく」
イルニアスの考え。
「連中にはオークの相手だけしてもらおう」
そして小屋の表に、指揮者らしき、負傷した人間が出てきた。一見して重傷とわかるオークが、かばうようにして小屋の方を向いている。
「オークに忠誠心があったいうのはすごいな」
「餌付けされただけだろう」
小屋の中から追って来た者たちの声が聞こえてきた。自らの血もあるのだろうが、ほとんどは返り血のようだ。まだ余裕の表情をしている。中にもオークがいたのなら、相当の手練かも知れない。しかし、こちらには気付いていない。
「今だ」
セシリアが真っ先に突っ込んで、指揮者に肉薄する。
その左右を固めるように、エルリックとイルニアスが進み。ウェルナーとジムがさらにその外側から指揮者とオークの間に割って入る。シルバーとレティシアは弓で小屋から出てきた二人に狙いを定める。ニルナ、ヒールはいつでも回復できるように準備する。セシリアが指揮者の身柄を捕らえたところで、黒兵衛がスタンアタックで気絶させる。殺さないように、十分に気をつけて。
「オークに人質にされていた人間は保護した。気兼ねなくオークをやっつけていいぜ。手柄の横取りはしない」
氷雨が連中に言い放つ。互いににらみ合う。視線同士が火花を散らせる。
(「予想どおりの相手、こちらの方が人数は多いけど勝てるかしら?」)
グリュンヒルダは敵の反応を見た。
その緊迫感を打ち破ったのは重傷のオークだった。オークが小屋に向かって突進した。向こうの二人の剣が唸りをあげてオークを切り刻んでいく。
「このうちに」
指揮者を馬にくくりつけて、ベースキャンプまで走り抜ける。夕闇のわずかな明かりも消え失せて夜の闇は周囲を支配していく。
「追ってくるか」
「いや、正面切ってはこないだろう。早いところパリに戻った方がいい」
とはいえ、まだ夜が始まったばかり。
「強行軍で戻るか。それとも」
パリまでの距離を考えると、夜通し走っても着くものではない。
「それに今日一日の探索での疲労を考えると」
ここで迎撃するつもりで交代で休みを取った方がいい。幸いベースキャンプなら戦闘になっても村への影響はない。
「交代で休みをとろう。村には夜は出歩かないように伝えてもらう」
●早朝
「夜襲はなかった」
3交代で3番目に当番をしていたウェルナーが、大きく背伸びをする。
「さて、指揮者を連れて出発するぞ」
ジムが寝込んでいる者たちを起こして回る。
黒兵衛が先行して奇襲がないか探る。残りが一団になって進む。
「パリまで気が抜けない」
わずかな風で林がざわめいても、警戒する。
そしてようやくパリまであと馬で一走りの距離まできた。しかし。
「前にいる」
黒兵衛が戻ってきて知らせる。
全員に緊張が走る。
「ここは指揮者を乗せて、ローズの館まで走り抜ける組と足留めする組に分かれよう。A班とB班が足留めする。残りは一気に走ってくれ」
指揮者をイルニアスのウォーホースにくくりつける。
「相手は二人だ」
探索で行動をともにしていただけにA班もB班も連携はとれている。4人ないし5人で一人を相手にして道の脇に押していく。
空いた道の中央を馬上の6人と指揮者が走り抜けていく。
●館
「ご苦労様、早く中へ」
ローズが出迎えてくれる。館には敵の攻撃があることを予測したのか、幾人もの護衛が待機していた。
連れてきた指揮者を無理やり意識を回復させる。そして尋問係に引き渡す。
「黒幕のことを話せば‥‥」
閉じられた扉の向こうでは、尋問が始まっていた。
「ああいうことは専門家に任せれば、殺さずに聞き出してくれるわ」
ローズの表情は年齢不相応に見えた。
「ところで、黒幕を見つけたら新しい依頼をすると思うの。もし手が空いていたら、そのときもよろしくね」
館を後にすると、足留めしていた9人が到着した。
「あいつら、次はこの館を狙うだろう。追いつけないとわかった途端に、包囲を突破していった。けっこうな手練だった」
絃也が苦笑いする。
戦いで負った怪我は既に回復しているが、相当激しい死闘だったようだ。
「ギルドに報酬をもらいにいこう」
ヒールが疲れ切った表情を無理して明るくしながらいった。