そろそろ冬ごもり、おっとその前に!

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 97 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月17日〜11月24日

リプレイ公開日:2005年11月24日

●オープニング

 刈り入れの終わった畑には、晩秋の最後を楽しむかのように牛たちが寝そべる光景が見える。そろそろ村も冬ごもりの準備に入らねばならない。幾人かの行商人が村を訪れていた。はじめてみる顔も幾人か。このあたりは街道からもずれていて山賊すらでない。むしろ人間がいないことによってモンスターがでるぐらいだろうか。それも互いの領域を守りさえすれば、不干渉という不文律ができていた。事実、この村は司祭が赴任してから一度もモンスターに襲撃されたことはない。
 収穫の確認に代官が訪れれば、そのあとは冬ごもりの準備に追われることになるだろう。
「大変だ。司祭様が」
 騒ぎが起こったのは、そんなのどかな夕べだった。夕暮れの鐘がならないため、不審に思った村長が教会に使いを走らせた。
 司祭はもういい年。村長がまだ鼻水垂らしていたガキの時分に、この村に赴任してからずっとこの村の司祭をやっている。村長を含む幾人かの年寄りを除けば、村人は司祭から洗礼を受けている。噂では教会の上層部に睨まれてこんな寒村に飛ばされたと言われていた。以前聞いた時には、笑って取り合ってくれなかったが。
「もしなにかあったら?」
 不安がよぎる。
「村長様、司祭さまはおられません」
 教会に置き手紙があった。
「森の中にある祠に行ってきます。1週間ほどで戻る予定ですが、教会の仕事は赴任途中の若い司祭がこの村に立ち寄りますので、その人にお願いしてあります。本来は手紙ではなく、直接伝えるべきですが」
 よほど急いでいたのか、その後は乱雑だった。
「よ、読めない」
「村長様でも読めないってことは、何語で書かれているんですか」
「何語といよりも、字がヘタなだけだ。不自然なほどに」
 暗くなる寸前に、司祭が留守を頼んだという若い司祭が村に到着した。
「この村の司祭より1週間ほど村を空けるので、教会のことを頼まれました」
 若い司祭は、体の線も細く、華奢というか、文弱というか。スプーンより重いものを持ったことがないような印象を受ける。
「明日代官様が到着すると、冬ごもりの準備が始まります。司祭様が戻るまで、よろしくお願いします」
 冬ごもりの準備が始まると、村人は総出で準備に入る。
 代官が到着して収穫を確認する。司祭はその収穫から、教会取り分を確認して収納する。
 そして1週間が過ぎようとしていたが、司祭は姿を現さなかった。
「困りましたね」
 若い司祭は、事実上1週間足留めされていた。あまり長くなると、この先の旅程の途中で雪に閉ざされるかも知れない。
「祠というのはどちらでしょう? 行ってみてきた方がいいと思いますけど」
「しかし、あそこは」
 村長が口ごもる。
「モンスターでもいるんですか?」
「司祭様は、いると言われていました」
「そんなところに1週間も? 危険でいけないなら冒険者を雇って様子を見に行ってもらえばいいでしょう。何かあったらどうするんです?」
 もし司祭に何かったら、もっとこの村に足留めされてしまう。場合によっては自身が赴任の途中で行方不明などとされてしまったら大変だということもあって、若い司祭は村人を焚きつける。
「あの場所は司祭様のみが、行っていた。モンスターも領域に人間が大勢で向いたら」
 今までの不文律が破られるかも知れない。

●今回の参加者

 ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●辺鄙な村
「ここね」
 ミラファ・エリアス(ea1045)は駿馬を使って、他の3人よりも一足先に村に続く道にたどり着いた。さびれた村。中心にある教会はどうにか立っている程度。パリやその周辺に比べると廃墟というに等しいほどのもの。教会を大規模に改修するほどの資金も村にはないのだろう。いや、資金よりも多分暮らしていくのがやっとなのだろう。村は見すぼらしいが、それでもゴミゴミとしたものはまったくない。キレイに掃除されている。
「村人を指導していた司祭が、このようにしたのね」
 村人は村の内外で冬ごもりの準備に没頭されている。村が冬ごもりするのに、これほどの量が必要かと思うくらいの薪が準備されていた。
「このあたりは冬になると、森に入って薪を取りにいけない」
 村人を捕まえて聞いてみると、そのような答えだった。この様子だけ見ると司祭の人物は、わかるような気がする。先についての情報収集。昼間は冬ごもりの準備を手伝って、話が聞けたのは夜になってからだった。
「病気や怪我はあまりした者がおらんから、司祭様が魔法で治した事は見たことがないよ」
 作業中の村人A男性
「白に決まっています。そんなことより、早く帰ってきていただかないと、私は任務地まで遠いのです。ここで滞在するのだって、けっこう大変なのに、これが長引いたら途中で雪に閉ざされることになりかねない。明日には他の冒険者も到着するのでしょう? 明後日までには無事に連れ帰ってください」
 司祭代理は思いっきりまくし立てた。
「1年前なら気にもしなかったが、考えてみたら居ない間のミサの代行者を手配したことはなかったな」
 村長は呑気そうだった。若い司祭が騒がなければ放っておいただろう。
「付近のモンスターを一掃できるだけの金が村にあったらこんなことには。ねえ、無償奉仕って言葉知っている?」
 村人B女性は、すがるような目つきだった。
 情報というのには困ったような話が多かったが、目的の情報も僅かながらあった。
 森の祠の位置は、モンスターとの不文律になっている地域の中だが、比較的近い。獣道があるらしい。今回は司祭が通っているので、足跡の痕跡くらいはあるだろう。モンスターの姿は、村長も見たことがない。今もあの森にいるのかはわからない。モンスターも人間が生活圏にしている範囲には入ってこないし、人間が森の中に放し飼いにしている豚にもけっして手をつけない。
 聞き取り調査をもとにして大まかな地図と書いてみる。森の中には馬では入れない。歩いていくしかなさそうだ。1泊ぐらいはすることになるから、馬が使えないとなると誰かにテントを運んでもらはないといけない。今夜もだが、夜の冷え込みは厳しい。教会の一室を借りて今夜は夜露をしのげたが、それでも寒さの厳しさをすべて防げるわけではない。冬になる前からこの寒さでは、冬の厳しさがうかがい知れる。

●探索
「寒〜い」
 ミラファは、早朝暗いうちから働きだす村人たちの音に起こされた。装備を確認していると、他の3人が到着した。3人は村に到着する前に夜になって、寒いなか野営した後だった。
「やっと着いた。寒かったよ」
 マート・セレスティア(ea3852)は、村に入るとわざわざ大げさに騒いだ。
「何かわかりましたか?」
 サトリィン・オーナス(ea7814)は、クレリックとして司祭の身を案じていた。しかし、ミラファ以外の3人は駿馬をもっておらず驢馬を酷使するわけにもいかず、結局は自分の足だけが頼りだったため、かなりの強行軍をしても今朝やっと到着したのだった。
「ええ、祠の場所はわかりました。それと」
 ミラファはレオンに地図を、マートには、気にしていた不自然な程に下手な字で書かれた手紙を差し出す。
「本当に下手だね」
 マートは手紙を見てそう言ったが、サトリィンは別のことに気がついた。
「これ。途中からラテン語に変わっています」
 下手なのではなく(といってもかなり書きなぐりのような感じだが)、言語そのものが違う。聖職者はラテン語を知っている。聖書がラテン語で書かれているから。しかし、このような辺鄙な村ではラテン語を話すはおろか、読み書きのできる者などは居なかったのだろう。任地に向かう途中の司祭は、その置き手紙は見ていなかったのかという疑問はあったが。
「ラテン語で書かれた部分ですが」
 ラテン語でも何かの引用を使って表現している。もし、ラテン語を読める人でも即座に理解できないような暗号になっているのかも知れない。
「意味はわかるか?」
 レオン・ウォレス(eb3305)は、祠へ道を記憶しながら尋ねる。
「人には人の。森のは森の。季節には季節の」
 サトリィンが読み上げていく
「ふむふむ」
 マートが、考えながら相槌を打つ。
「得意とするものがあるならば、必要とされるものもある・・・」
「えーと、つまりそれって得意なものを究めなさいってことでしょう?」
 ミラファは、推論を口にしてみた。
「ラテン語で読まれないように、読んでもすぐに意味がわからないように、書いているんだろう。何かの陰謀に巻き込まれたって事はないか」
 レオンは装備をまとめて祠に行く準備ができた。もちろん他の2人も。サトリィンは村長にあって祠の由来や老司祭の素性を聞きに行って戻ってきた。
「祠に行きながら考えよう」
 ミラファが用意しておいたお湯を飲んで体を温めると、出発する。この村には茶のような嗜好品はないようだ。
「戦闘は極力さけよう」
 マートが口にする。モンスターと人間の不文律はともかく、それ以前に今回は人数が少ない。それに戦って足場をグチャグチャにされては、追跡できなくなる。マートとレオンを先頭に森に入る。最初のうちは村人が生活圏にしている地帯、道もあるし、木々の間も下刈りされている。あちこちにキノコも見える。
「あれとかは食べられそうだ」
 マートは、木の根元に生えているキノコを指さす。
「これ?」
 サトリィンが手近なのに手を伸ばすと。
「そっちは毒よ」
 ミラファが注意する。見た目は似ているが。
「ここからが、モンスターの領域らしい」
 レオンが低い声で、注意を促す。道は消えてなくなりそうになる。人の足がほとんど入っていない。獣が時折通る獣道のような細い道があるのみ。しかし、最近誰が通った痕跡がある。これはレオンとマートのみしかわからないかすかな痕跡だった。
「一人だけか」
「あと一人いるような感じもするけど」
 確信できるほどではない。もう一人が隠密行動を取っていた場合には、痕跡はほとんど残らない。
「あの置き手紙だけど」
 サトリィンは手紙のことを口にした。あの手紙は誰かを祠に寄越させるための謎かけなのではないか。司祭は祠で来る者を待っている。多分、冒険者の私たちではなく、任地に向かう途中の司祭を。
「この手紙、任地に行く途中の司祭は見なかったのかしら? 今までなら村を空けるのは半日程度。それを1週間以上しかも、代理人を決めているなど、準備をしていた。もし代理人に呼んだ司祭に何かを伝えるためならば」
「まずは、祠まで行って様子を探ってからだ。もしも目当てがそうなら、マートに呼びに行ってもらえばいい」
 祠まで周囲を気にしながら慎重に進み続ける。わずかでも、周囲の藪が動けば警戒する。争いたくはないが、黙ってやられるつもりもない。
「ここが祠だ」
 レオンは地図で確認して、祠を覗き込む。何か花のような甘い匂いがした。
「暗くはない」
 祠は古いが人工的なもののようだ。中は外の明るさを取り込めるようになっている。
「あれは人?」
 目を凝らすと、人型の岩があった。岩というよりも、彫られたものだ。
「ゴーレムじゃなくってよかった」
 そのような可能性もあったのだ。
「いいできね」
 サトリィンの目から見ると、翼があれば天使像にも見える。そのような尊厳さが感じられる。司祭が長年かけて彫ったものかも。
「来たのは冒険者諸君か」
 その声に後ろを振り返ると、村人から聞いた通りの司祭が立っていた。村で言われたとおりの高齢だが矍鑠としている。
「もとはけっこうな方ですね」
 見た目も実際に負けずに、年取って見えるのに、気配さえ感じさせずに背後を取った。
「みんな心配していました。理由はどうであれ、村の人に謝罪した方がいい」
 レオンは口すくなげに言う。
「若い司祭は一緒に来なかったのか」
 老司祭は残念そうな表情だった。
「あの、やはり」
「あの手紙を村長は見せなかったのだろうか」
「この手紙ですね」
「一つ、頼まれてくれないか」
 司祭はサトリィンと手紙を交互に見比べる。

●手紙の意味
「若い司祭さん。これ読んでくれない?」
 マートは走りに走って村に着いた。そして若い司祭に手紙を差し出す。
「手紙。あの司祭の置き手紙か。村長に見せてもらったが、それがどうした。祠にはこの村の司祭は居なかったのか」
 若い司祭は手紙を読んでも何も気付かないようだった。
「その字の汚いところ!」
 マートが指摘する。
「ああ、これか寝ぼけて書いただろう。ヘタな字だ。聖職者がこのような書きなぐりなど」
 そうは言ったものの、読んでいくうちに途端笑いだした。
「まったく、人騒がせな。老司祭のところに案内してくれ。これからだと夜になってしまうな」
 若い司祭は、防寒着をまとうと、村長に行き先を告げて出発する。マートが案内をするから道を間違える心配はないし、マートが往復する間もモンスターは出ていない。もちろん、モンスターに襲われた時は、そのとき考えよう。
「つまり、どういうこと」
 祠には老司祭の他にミラファ、サトリィン、レオンが残っていた。ミラファはどうも意味がわからない。
「あの書きなぐった部分を読んだら、若い司祭は自分で祠まで来るべきだったの」
 ところが、あの置き手紙を村長はたぶん、見せなかったのだろう。そのため老司祭の意図が伝わらなかった。彼はどうやら、任地に向かう途中の若い司祭を試す役割を持っていた。到着した翌日からの仕事が終われば、祠まで来られるくらいの時間は都合できるはず。
「ところで、この祠は?」
「長年かけて作ったものだ。もちろん、先代の司祭も、その前の司祭も」
「村長に聞きましたけど。一体あなたは何者ですか?」
 サトリィンは村長のところに聞きに言ったが、村長すら詳しいことは知らない。
「こちらのお嬢さんはクレリックか。あまり詮索しないほうがいい場合もある。左遷されて田舎に引っ込んだ年寄りさ」
「着いたよ」
 日がどっぷりつかって、星空がキレイに見え始めたころ。マートの声がした。
「あの置き手紙はどういうことですか?」
 若い司祭が、息も絶え絶えに老司祭のところに詰め寄る。
「遅かったな。もう少しおそかったら迎えに出ようと思っていたところだ」
 レオンがマートになぜこれほど遅かったのか尋ねた。
「こっちの司祭さんはちょっと歩くのが遅いんだ」
 実際には、途中でモンスターらしきものの気配を感じたので、身を隠したりして遅くなったのであったが。
「手紙は村長が渡し忘れたのか」
「こういう冗談は季節を考えてやってください。村人はみんな忙しいのです。若い司祭をテストするのに、置き手紙など。こちらの老司祭殿は若い者を試すためにこんな大騒動を巻き起こしたんだ、人騒がせな」
 若い司祭は、冒険者の方を向いて、今回の事件が老司祭の悪戯だと決めつけた。
「悪戯とは酷いな。試したのだよ。まさか、冒険者を雇うような事態になるとは思わなかった」
「ところで、このあたりはモンスターが出るという話でしたが」
 冒険者4人は警戒を解いていない。もしかしたら、次の瞬間にモンスターが領域を荒らした者に襲いかかってくるかもしれない。
「人見知りするからな。いかつい冒険者がいると出てこないのだろう」
 いかついと言われるのはミラファやサトリィンには心外かも知れないが、冒険者の迫害を受けるモンスターにとっては外見はあまり関係ない。
「では村に戻っていただけますね」

●依頼完了
 老司祭は無事に村に戻ったし、若い司祭も任地に向かって出発する。これで依頼は完了したが。
「老司祭の秘密を探るのは、仕事ではない」
 レオンは好奇心に動きそうなマートを制した。
「結局、あの老司祭は、誰かに頼まれて、若い司祭がどう行動するか試したみたいですね」
 サトリィンは老司祭から手紙を預かっていた。若い司祭の行動がどうであったか報告するのだろう。パリの教会に持っていくように言付けられた。
「ミラファ。足のところ血が?」
 サトリィンはミラファに血痕を見つけた。良くみると全員の靴に血がついていた。
「あの老司祭、俺たちが行った時には襲ってきたモンスターを片づけた後だったってことか。警戒していたから待ち構えるように」
 あの祠の付近にモンスターの死骸を片づけたのだろう。次がこないように血の臭いもある程度消して。