葡萄畑を奪回せよ

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2004年07月19日

●オープニング

 ああ、この依頼かい。こりゃあ、ここから暫く街道を下った先にある村の修道院からのものさ。修道院がワイン造りをやっているのは珍しい事じゃないが、そこのワインは質が良いので有名なんだ。特に貴腐ワインは絶品でね。金持ちどもが毎年早々に買い漁っちまうんで、こっちには滅多に回って来りゃしない。くそ忌々しい話だと思わないか? もっとも、回ってきてもおいそれと買えやしないんだが。‥‥失礼、話が脱線したよ。
 で、だ。その葡萄目当てに毎年、収穫前の時期を狙ってモンスターどもが攻めて来るんで、それを追い払うのにこれまた毎年、修道院は冒険者を募って備えてる。ところが、奴らも足りない頭を少しは使ったんだな。院が何の備えもしていない、まだ収穫には早い今の時期に押し寄せて来て、葡萄畑を占領しちまったのさ。どうやら前々からこの辺りを荒らしてたホブゴブリンの『すきっ歯』ギヌ一味と『腐肉あさり』オゴ一味が手を組んでの仕業らしい。その数、ざっと20匹。このまま実が熟すのを待つつもりなのか、畑を我が物顔で徘徊してやがって、院に立て篭もった修道士達と今も睨み合いを続けているって訳さ。これだけの騒ぎだ、地元の騎士団も間もなく出動する事になっている。まあ、この辺りの読みの甘さが奴らの限界だわな。
 そこで、あんた達の仕事なんだがね。第一に、畑の中に身を隠しているだろうシェリーキャン(貴腐妖精)を守ること。彼らが極上貴腐ワインを生み出す元なんだ。院としては絶対に失いたくない財産だが、騎士団はそこまで気を遣っちゃくれないだろうからな。鬼どものおやつにならない内に、助けてやってくれ。第二に、可能な限り畑への被害を防げるよう、騎士団が到着するまでに手を打っておくこと。あんた達が村に着いてから騎士団が到着するまで、2日ほどある筈だ。言うまでもないと思うが、駒が揃う前にガチの勝負になっちまったら、ヤバいぜ?
 今年の葡萄の出来はいいらしい。それを鬼どもにみすみすくれてやったら‥‥ あんた達、国中の酒飲みから恨まれる事になるだろうな。何? 笑い事じゃない? すまんすまん。まあ、危険度の高い仕事だが、間抜けな鬼どもを手玉に取って、格の違いってやつを思い知らせてやってくれ。頼んだぜ。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1554 月読 玲(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1699 ロニ・ヴィアラ(29歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2083 キアラ・アレクサンデル(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2730 フェイテル・ファウスト(28歳・♂・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4433 ファルス・ベネディクティン(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4730 胡 彩紅(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●妖精さん救出作戦
 ホブゴブリン達にとって、それは晴天の霹靂であったに違いない。人間達は修道院に篭って怯えていると思っていたのに、突然どこからともなく湧いて出た連中が、こともあろうに自分達を襲撃して見せたのだから。
「来た来た‥‥」
 ファイター、キアラ・アレクサンデル(ea2083)が生唾を飲み込む。畑の中は剥き出しの土のにおいと植物の放つ湿気で、咽るような暑さだった。拭っても拭っても汗が滴り落ちて来る。そうでなくとも、視界の悪い畑の中で、大柄で凶暴そうなホブゴブリンと対峙するのは気分の良い状況ではない。木々のせいでいたるところから唸り声や武具の擦れる音が聞こえるような気がして、気が気ではなかった。仲間の武道家、鳳 飛牙(ea1544)が、隣に立って関節を解している。一瞬、敵に警戒の色が走ったのを見逃さず、エルフナイト、ロニ・ヴィアラ(ea1699)が果敢にも敵に迫り、手にした石を投げつけた。
「よ〜っし、美味しいワインの為に一働きだぞっと。行くぞ鳳っ!」
「おう」
 キアラがロングソードを引き抜き、飛牙が六角棒を構える。敵の攻撃をシールドで巧みにかわしつつ後退して来るロニを2人がかりで援護し、頃合を見計らって一気に逃走。こうやって、前日、敵の目を盗みながら罠を仕掛けておいた一角に誘導するのだ。と、ホブゴブリンは首からぶらさげていた笛を口に銜え、力の限り吹き鳴らした。甲高い掠れた音が畑中に響き渡る。
「冗談じゃない!」
 思わず天を仰ぐロニ。こりゃ大変だ、とキアラが笑う。
「まあ、敵を引き付けるにはもってこいなんじゃないか? 取り敢えず‥‥」
 逃げろ! と飛牙が叫んだ。

 青々と茂る葉の間からそっと顔を出したのは、忍者、月読玲(ea1554)。敵が接近していないのを確認し、仲間達に頷いて見せた。
「これは‥‥良くありませんね。彼らは大丈夫でしょうか」
 エルフバード、フェイテル・ファウスト(ea2730)が心配げに呟く。状況は全く分からなかったが、何度も呼子が鳴り、ホブゴブリンのしわがれた叫び声が響き渡るのだ。囮役の苦戦は直接見ずとも容易く想像できた。しかし敵の目が完全にそちらに向いているおかげで、彼らはまるで見咎められる事もなく、畑の中を探索して回る事が出来たのだ。
「分からないけど、私達は妖精達を助け出すことに集中しましょう。そうすれば私達が援護も出来るし、彼らも心置きなく逃げられる」
 玲の言葉に、フェイテルが頷く。
「この辺りの筈ですが‥‥」
 エルフのウィザード、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が立ち止まり、辺りを見回し始めた。彼女の『グリーンワード』に応え、葡萄の木々がシェリーキャンについて語ってくれた話を推理すると、この辺りに何人かの妖精達が潜んでいる筈なのだ。目を凝らし、耳を澄まして気配を探っていた3人は、一斉に身を屈め、葡萄の木の根元に視線を移した。覗き込むと、葡萄の葉っぱを纏った小さな妖精が2人、身を縮こめてこちらを見ていた。
「モリスさんやロニーナさん、修道院のみんなが心配していますよ」
 玲に知った名前を出され、妖精達は安心したのだろう。弾かれるように駆け出して、彼女にひっし、としがみついた。
「怪我も無いようですね、良かった」
 ほっと安堵の息をつくフェイテル。
「他の仲間は?」
 ソフィアに聞かれ、彼らは口々に話し出した。どうやらあちこちに散らばってしまっているらしい。ソフィアは『プラントコントロール』を唱えて、木々に少しだけ道を開けてもらった。僅かな時間も無駄には出来ない。
(「すぐにいつも通りの畑にしてあげるからね」)
 無神経に踏み荒らされ、傷ついた葡萄の木々に、彼女は心の中で呟いた。

 ホブゴブリンに追われ、駆け込んで来た飛牙、キアラ、ロニ達に、ウィザードのファルス・ベネディクティン(ea4433)はすかさず『ライトニングアーマー』を施していた。そうとは知らぬ敵は渾身の力で踊りかかり、ロニに防がれた瞬間、電撃の手痛い一撃を受け、更に飛牙の棒まで食らい、のた打ち回る羽目になった。仲間をやられ怒りに任せてキアラに襲い掛かった敵は、寸前でひらりとかわされ、落とし穴に嵌ったところにファルスの『ライトニングサンダーボルト』を食らって動かなくなった。冒険者達は巧みに敵を翻弄し、牽制して、見事に戦い抜いていた。だが。
(「囲まれ始めましたか‥‥」)
 ファイター、ルイス・マリスカル(ea3063)は何匹もの敵を相手に戦いながらも、その動きを見逃さなかった。敵は無計画で不注意だったが、それだけに手っ取り早く自分達を優位に置く方法を心得ていた。
「ホブゴブリン‥‥集まるとさすがに辛いわね。可愛くないし!」
 バーストアタックEXをもろに食らい、鎧を砕け散らせながらもんどり打って倒れ伏すホブゴブリン。ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)はロングソードを地面に突き立て、大きく息を吐いた。こうも責め立てられては堪らない。
(「もう! 私はあくまで攻めなのよ? 受けじゃないってーの!」)
 一般人には分かりかねる不満を抱きつつ、辺りを見回す彼女。状況はまさに総受けだった。他の者にしても、傷を負っていない者は一人として無い。倒れずに済んだのは、リカバーポーションの備えがあったからに過ぎない。いよいよ危ないか、となった時。
「妖精達は皆、無事に保護しましたよ」
 駆けつけたフェイテルから、待ち望んだ知らせがもたらされた。ルイスは頷き、皆に撤退を提案する。
「逃げるときが一番危ない。敵に伏兵がある可能性は?」
 ロニの問いに、ミリランシェルが笑う。
「大丈夫、奴ら馬鹿みたいにほとんど全部がここに集まってるから」
 彼女は前日のうちに、敵の全容を把握していた。ここにいるのが全て。故に、逃げるならば全力で逃げるべし。
「今日は逃げてばっかしだな」
 飛牙が苦笑気味に呟いた。一気に逃げに移った彼らを見て、ホブゴブリン達は嵩にかかって攻め立てて来る。しかし、そこにはまだ、たんまりと罠が仕込まれていた。無様に転び、穴に嵌り、虎挟みの餌食となって喚き散らす敵を置いて、冒険者達は無事、この窮地を脱する事が出来たのだった。

●葡萄畑を奪回せよ
 駆けつけた騎士団に冒険者達の作戦は伝えられ、共同でのホブゴブリン討伐戦が始まった。前日、もう一歩のところで逃がしたのがよほど悔しかったのだろう、冒険者達が姿を現すと、ホブゴブリン達は雄叫びを上げて突進して来た。しかし。いつの間にか姿を消した冒険者達の代わりに彼らを待ち構えていたのは、完全武装の騎士団だった。
 逃げ出そうとしたホブゴブリンは、いつのまにか背後に回っていた冒険者達の姿に身を強張らせた。それでも挑みかかろうとした者は、伸びて来た葡萄の蔦に絡め取られ、もがいているところを討ち取られてしまった。
「報いです」
 ソフィアの『プラントコントロール』が切れるよりも早く、敵は殲滅されていた。

 ホブゴブリン達がいなくなると、今か今かと待ち構えていた修道士達が畑に飛び出し、葡萄の様子を見回り出した。幾許かの損害は出たものの、シェリーキャン達は皆無事で、畑に手をかけられなかった間にも葡萄に致命的な事態は起こっていなかったようだ。どうやら、酒飲み達に呪い殺されずに済みそうだ。
 そんな、賑やかな声を聞きながら、戦いの跡を見て回るファルス。折れて倒れた葡萄の木々が痛々しいが、畑全体がこうなる事を防いだのだと思えば誇らしくもある。と、息絶えたホブゴブリンの骸を見出した彼は、道端で摘んだ花を手向け、呟いた。
「キミ達の命、出来るなら絶やしたくなかったよ。悪い事はするもんじゃないよな」
 彼は暫しの間祈りを捧げ、その場を後にした。

 その夜。冒険者達と騎士団は修道院を挙げて持て成された。蔵からとっておきの樽がいくつも運び出され、惜しげもなく振舞われたのだ。その上、お土産付きである。彼らはその心尽くしを、存分に楽しんだ。宴は夜遅くまで続き、翌日、あれほど量を過ごしたのに残らない良酒の不思議に感動を覚えつつ、院を後にしたのだった。