不心得なレストラン

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月18日

リプレイ公開日:2004年07月19日

●オープニング

『依頼の内容は口外無用』
 散々に念を押された上で向かうように指示されたのは、街でも有名なレストランだった。貴族や裕福な人々の社交場として知られた店で、オーナーは他に有名店を幾つも経営する大富豪。まあ、こんな事でもなければ冒険者に縁の無い店なのは確かだ。
「や、やっと来たか。私の店に、諸君らのような何処の馬の骨とも知れん者を呼んだのは他でも無い」
 ‥‥このオーナーの傲慢さは有名だったが、今日はどうしたことか、憎まれ口も湿りがちな様子。疲れ果てて覇気がないせいで、でっぷりと太った巨体も小さく見える程だった。
「これだ」
 オーナー殿、冒険者達を店の中に案内した。するとどうだろう。真っ白な壁に、びっちり書き込まれた意味不明の落書き。テーブルと椅子が天井まで、崩れそうで崩れない奇妙なバランスで積み上げられている。何故か床に並べられた皿は、一枚残らず割れていた。
「どんなに見張っていても、いつの間にやらこういう事になっておるのだ。これでは、店を開ける事などとても出来ん‥‥」
 椅子を手繰り寄せ、腰掛けた彼。と、突然椅子の後ろ足が2本とも折れ、オーナー殿、悲鳴を上げながらデングリ返る羽目になった。慌てて駆け寄った支配人が、溜息交じりに呟いた。
「蔵のワインが床にブチ撒けられていたり、とても人の食べ物から出来たとは思えない怪奇料理がコンロにかかっていたり‥‥ 仕入れた大樽5つ分のビールが空になっていた事もあった。最初は誰かの悪戯かと思ったが、あまりに性質が悪すぎるし、何より人間業ではないよ」
 何度も開店の準備を無駄にされ、使用人達も沈んでいる。ヒソヒソと語り合い、溜息をついたり首を振ったり。あまりに長い間店を開けないので、口さがない噂も流れ始めているという。
「とにかくだ、一週間の猶予を与えるから、この怪異の原因を突き止め排除してもらいたい。頼んだぞ」
 何処からとも無く飛んできたティーカップが、彼の足元でガチャンと割れた。

●今回の参加者

 ea1584 アリボシ・ユウイチロウ(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1717 楼 風空(21歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea2082 ラマ・ダーナ(45歳・♂・レンジャー・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea3659 狐 仙(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4486 ウィン・フリード(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea4621 ウインディア・ジグヴァント(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4668 フレイハルト・ウィンダム(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea4674 アマーネ・アマーネ(21歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●不心得な人達
「ふむ。よく崩れないでいるものだ。何者がやったかわからないが、粋といえば粋。面白い」
「ちょっとしたアートだな。独創的なセンスと、滲み出る邪気‥‥」
 腕組みをし、積み上げられた椅子とテーブルのアートを見上げて感心するエルフのウイザード、ウインディア・ジグヴァント(ea4621)と、バードのフレイハルト・ウィンダム(ea4668)。暢気に評論を交わす2人に、オーナー殿が先刻から殺人的な視線を突き刺していたが、まるで気にする様子も無し。
「芸術鑑賞はその辺りにして、早速事件の解決に着手して欲しいものだ」
 とうとう我慢し切れず嫌味を口にしたオーナーだったが、ウインディアの、ああ、そうだな、と、今の今まで忘れていたこと丸出しの返答を受けて、がっくりと肩を落とした。
「まずは‥‥ この積み上がったのを片付けようか。崩れでもしたら大変だ」
「おお、そうだな。手伝おう」
 申し出たドワーフファイターのファットマン・グレート(ea3587)と共に、さてどう下ろしたものか、と思案を始めるウインディア。
「誰か、この奇怪な現象の説明がつかんのか!」
 オーナーの悲痛な叫びに、救世主が登場。
「ふっふっふ、ウチの灰色の脳細胞がうなるで〜」
 ずずいと進み出たのは、シフールバードのアマーネ・アマーネ(ea4674)だ。こう見えて故郷のイスパニアを旅立って以来、諸国を巡って見聞を広めたいっちょまえの姐さんなのである。壁の落書きを鋭い視線で凝視すること約3秒。彼女はおもむろに皆の方に振り向いた。
「あかん、さっぱり分からんわ」
 全員がコケる。本当に任せて大丈夫なのか? と不安げなオーナーを横目に、ウィザードのウォルター・ヘイワード(ea3260)は、観葉植物に『グリーンワード』をかけて問いかけていた。『ここで働いている者以外の見え難い種族は感知したか?』というその質問は、植物が答えるには些か複雑過ぎたようだ。ただ、植物達はひとつ残らず酷く傷ついており、更に痛めつけられる事に怯えていた。
(「何かが、今もいるという事ですか。あまり好ましくない何かが‥‥」)
 ジャイアントのレンジャー、ラマ・ダーナ(ea2082)は、オーナーが座った途端壊れたという椅子を調べていた。折れた部分の周りに、何かで引っ掻いた様な傷跡。工具を使ったものでは無い様だ。
 無言のまま考え込む彼。本当にモンスターの仕業とするなら、姿を隠し悪さをする者を幾つか挙げる事が出来る。ただ、彼にはひとつ、気になる事があった。
「聞きたいのだが‥‥」
 使用人達に話を振ると、彼らは丁寧に対応してくれはするのだが、すぐに視線を逸らしてしまう。口ごもる事も多く、何かを隠しているのは確実だった。もごもご言い訳めいた事を言い立ててそそくさ控え室に引っ込んでしまう彼ら。ラマの表情が険しくなる。
「奴らは俺が引き受けた」
 ラマの肩を叩き、ウィン・フリード(ea4486)が後を追う。
「‥‥裏がありそうだな」
 そういうのは苦手なんだが、と、ファットマンが髭を扱いた。

●見えない敵を捕らえましょう
 冒険者の内、何人かは、この騒動が内部の者の仕業なのではないか、と考えていた。しかし、それは正確ではなかった。人ならぬ犯人は、確かに存在したのだ。
「にゃはは、家妖精さんいるなら出ていらっしゃい、ヘソマガリオーナーなら私達が説得してあげるから〜」
 食べ物や飲み物を用意して、武道家、狐 仙(ea3659)は店に張り込んでいた。犯人は無邪気な妖精と考えていた彼女は、誘い出して話を聞こうと考えたのだ。確かに、ビールもワインも飲まれ、食べ物はカジられた。しかし同時に、床にぶち撒けられ、彼女目掛けて浴びせかけられさえした。足跡を見出す為に撒いていた小麦粉を煽られ、彼女は真っ白けになって店を飛び出す羽目になった。ウインディアとファットマンは積み上げられた椅子とテーブルを片付けていたが、突然、有り得ない場所の椅子が外れて雪崩を起こし、危うく大怪我をするところだった。
「えらい凶暴な奴だすなぁ」
 ナイトのアリボシ・ユウイチロウ(ea1584)が、仙に近寄り耳打ちする。
「‥‥いいけど。銀貨1枚ね」
「しっかりした姐さんだすな」
 仙は彼から10Cを受け取ると、材料を探しに出かけていった。

 翌日。仙は前日と同じように食べ物と飲み物を用意し、店の真ん中に陣取って飲み始めた。と、馬鹿にされたと思ったのだろうか、見えない犯人は目を逸らした隙に食べ物を食い散らかし、酒を呷って壁にぶちまけた挙句、隙を見ては手近なものを片っ端から投げつけ始めた。隣室から姿を現したフレイハルトが、溜息をつく。
「やれやれ、もっと思考の遊びを楽しみたかったのに」
 彼女の体が淡い光に包まれるや、その手には、月明かりの如く穏やかな光を発する魔法の矢が生み出されていた。
「‥‥落書きを書いたやつ」
 呟くと同時、矢は彼女の手を離れ、壁際の一角に突き刺さっていた。耳障りな叫び声と、重いものを落としたような鈍い音。それまで何も無かった場所に浮かび上がったのは、背中にコウモリの羽を生やし、鋭い爪を剥き出しにした、毛むくじゃらの小鬼だった。
「グレムリン‥‥ 気をつけろ!」
 ラマが咄嗟に叫んだのはヒンズー語だったが、警告の意思は伝わった筈だ。手傷を負いながらも凄まじい勢いで逃げ回るグレムリン。しかし、ファットマンが手近な逃げ道を塞いでいた。アリボシに襲い掛かったグレムリンは、彼の纏った『オーラアルファー』に弾き飛ばされ、苦しげにのた打ち回る。それに追い討ちをかける、アマーネの『メロディ』。やけに物悲しい旋律は、グレムリンの戦意を確実に殺いでいた。と、間もなくして、グレムリンは動きを止めた。お腹を押さえて、苦しげに膝をつく。その様子に、仙が息をついた。
「どう? 特製ありあわせ痺れ薬の威力は。本当はこんな事したくなかったんだけど、キミちょっと性質悪すぎよ。反省しなさい」
「痺れ薬というより、下剤というか‥‥あーいや、なんでもないだすよ」
 何か言いかけて止めたアリボシ。適切な判断と言えよう。身動きもままならなくなったところをウインディアの『アイスコフィン』で固めら、悪戯の限りを尽くしていたグレムリンは、とうとう捕らわれの身となったのだった。
「いやー、良かっただすなぁ。早速お祝いと行くだすよ、ささまずは一杯」
 勧めたアリボシだったが、オーナー殿はいや、と首を振った。
「心遣いは痛み入る。が、飲んだくれてる暇などないのでな。ああ、今日までに溜まり溜まった損害はいったい幾らになる事やら‥‥」
 ぶつぶつ言いながら事務室に篭ってしまった。
「あの人に反省させるいい機会だと思ったんだけどなぁ」
 無念げな仙を、ファットマンが慰める。ちっ、と舌打ちをするアリボシ。思いは概ね同じでも、アリボシの脳裏に描かれていた計画の邪悪さを、オーナーも仲間達も誰も知らない。

 その頃。ウィンは店を終えて帰宅する使用人達をつけていた。彼が目をつけたのは人望厚い(らしい)給仕長。彼はまっすぐ家には帰らず、一軒の酒場に足を向けた。一人で飲み始めた給仕長に、頃合を見計らって話しかけようとした、その時。店に入って来たのは、店の主だった使用人達だった。
「‥‥不味いことになったな」
「全くだ‥‥ どうしたらいい?」
「しかし、まさかこんな事になるとは‥‥」
 漏れ聞こえて来る声は少なくとも、してやったり、溜飲を下げて万々歳、といった類のものでは有り得なかった。やがて言葉も途切れがちになった頃。彼はひょっこり顔を出し、相手の干し肉をかじりながら、彼らの隣に席を移した。
「どういう事よ?」
 単刀直入に問うと、彼らももはや言い逃れは出来ないと感じたのだろう、事の真相を語り出した。曰く。日頃から待遇に不満を抱いていた彼らは、オーナーを困らせてやろうとジャイアントラット騒動を思い立った。だが、素人が易々とモンスターを調達できるものではない。そこで、『その筋』の連中に話を通して入手した。騒動は考えていたよりも大事になってしまい、冒険者達の手によって解決される事となる。反省した彼らは2度とこんな真似はせず仕事に励もうと考えていたのだが‥‥ 第2の事件が起こってしまった。詳細は不明だが、事が彼らの手を離れてしまったのは確かだ。いや、初めから利用されたと見るべきか。彼らは付け入られたのだ。
「私達は、どうしたらいいんでしょうか」
「んな事、他人に聞くなよ。‥‥俺は何も聞かなかった事にする。去るか留まるか、打ち明けるか隠し通すか、よく考えて決めるんだな」
 ここの払いは頼むぜ、と手を振り、彼は酒場を後にした。

 グレムリンを捕らえた事で依頼は果たされ、報酬は満額支払われた。店の今後については契約外。部外者がとやかく言う事でも無いだろう。あるいは彼らが冒険者の力を求めるかも知れないが、それはまた別の話。
「なんだか機嫌よさそうね」
「ふっふ〜ん、オーナーに色々相談したらなんや、特別ボーナス出してもろたわ〜」
 ピカピカの金貨1枚を嬉しそうに抱えて浮かれるアマーネ。
(「強請りだ、絶対に強請ったよこの人!!」)
 笑顔を強張らせる仲間達を他所に、アマーネはお気に入りの歌を口ずさみ始めた。