●リプレイ本文
●村までの案内人
「これで全員揃ったわね」
ギルドの指定した日に教えられた場所に来てみるとあの仲介人が待っていた。手に小さな旗を持って。
「こんな引率者付きは初めてだ」
ラックス・キール(ea4944)はそう言うと、ちょっとにやけたような表情になる。
「村人対策か?」
河崎丈治(ea1793)が問い掛ける。
「そう、警戒心が高いのよ。戦乱をどうにか逃れてきて、安住の地と思った場所が、襲撃を受けたってね。あたしが紹介した冒険者が襲撃者と間違われたんじゃ目覚め悪いじゃない」
確かに、ギルドの仲介人が一緒なら疑われることはない。
「今回の依頼は、相手の襲撃者の存在が明らかでないの。仲介人としては非常に心苦しいんだけど、領主の保護下になるまで頑張って欲しいの」
「基本的に受け身ってわけじゃ。期間が長くなると士気の維持が難しいのう」
七刻双武(ea3866)が腕を組んで考える。
「モンスターに関しては調査攻撃は可能ですから」
「そうさせてもらおうかな?」
キウイ・クレープ(ea2031)は、モンスター退治に加わる人数を確かめる。
丈治、オルステッド・ブライオン(ea2449)、ダギル・ブロウ(ea3477)が名乗りを上げる。うちオルステッドは、モンスター退治を囮にして敵をおびき寄せ挟撃する算段でもある。
「私の長剣と河崎丈治のスピアで敵の騎馬は抑える」
オルステッドは意気揚々と宣言する。
長剣やスピアの長さがちょっと難しいかも、長槍の槍衾じゃないとと言う顔をしながらも仲介人はただこう言ったのみだった。
「勇気があっていいわね。頑張ってね」
もちろん、オルステッドが張り切ったことは言うまでもない。
●防衛対策
「冒険者15人大丈夫か? 食事はどうにか用意できるが、大したものは無いぞ」
「大丈夫です。冒険者は粗食に慣れていますから」
仲介人が村人を安心させるように村人に説明する。以前この村を訪れたモンスター退治の連中が悪さをしたことで、冒険者に対して必ずしもいい印象を持っていない。今回の依頼は、村に至る細い道を馬で突撃してきた連中がいたことが発端になっている。そうでなければ、冒険者を雇う余力はこの村にはなさそうだ。
「貧しそうな村だな」
「戦乱を逃れてきたばかりで最初の収穫。自分たちで食う分さえ大変でしょう」
バニス・グレイ(ea4815)とシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)は村の周囲の状況を確認して回っていた。
「一応柵があるようですね」
「あれは木の生長を利用した柵だ。あと2、3年もすれば立派になるが」
木の枝が延びるのを利用して、木を斜めに植えて生きた柵を作っている。人手で作るよりも時間はかかるが、左右の木が絡み合ったりしてかなり頑丈なものとなる。柵の外側には根付いたばかりの茨の茂み。
「モンスター避けには十分だろう。さてと問題は」
村には森を抜ける道は、馬の並足で2頭が横に並んでどうにか通れるくらいの幅しかない。
「どう思う?」
ここを騎馬突撃をかけた?
「騎馬突撃は意味がないと思います」
「だろうな。ならば何故、騎馬突撃をかけたのかな?」
この道の状態なら、馬で突撃をかけるよりも歩いていった方が有効だろう。馬で一時的に威圧して‥‥。
「何かありそうね」
「騎馬突撃というのも村人の話だから、誰か急な用務でこの道を通った者をそう思い込んだのか?」
「穴まで掘ってある。できることはやってあるみたいだ」
ジェイラン・マルフィー(ea3000)とグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)、それにチルニー・テルフェル(ea3448)も3人一組で周囲を回っていた。チルニーが村とその周辺をマッピングしている。
「それだけ、酷い戦乱から逃げてきたってことでしょ」
「これだけの態勢を取っている村を襲うとなると、相当の勢力を持つ相手ってことになる」
「その危険はあるわね。もっとも、雇った凄腕の冒険者に恐れをなして見合わせてくれるかもね」
緊張した顔に似合わぬ軽口が漏れる。
「その方がいいだろう。それなら後はモンスターさえ封じてしまえばいいだけだ」
「地図はできた?」
「森に囲まれているというより、森の中に出来た村だから道を逸れて畑に広がらなければ馬での通行は難しいね」
道は村の南から村に入り、北西に抜けるようになっている。村と村の周囲の畑を除けばあとは深い森であり、馬での通行には無理がある。少なくとも馬の機動力を生かすことはできない。馬に乗って楽ができる程度で、移動速度は歩くよりも遅くなるはずだ。
南から北西の方向に急いで抜けようとすれば、この道を通るしかない。
「道に穴を掘るのはできるけど、知らずに馬を走らせたら大怪我をしそうね」
●モンスター討伐班出発
「そろそろ出発するぞ」
モンスター討伐班は村から出発した。敵の間者がいないことが分かったので、純粋に戦いに備えた行動を取る。
志士一人にファイター3人。森に住む野獣程度ならどうにかなるだろう。モンスターの出没は西側に多く見られると言う。不十分とはいえ柵があるから畑も守られていた。問題は、このままずっと防ぐことができるかなのだ。
「畑の外側に外柵があって畑には近くの川の水を引く狭い水路が堀のようにあって畑と村との間には低い土壁がある」
森を彷徨うモンスターに対してはかなりの防御力が期待できるはずだ。
「つまり、この村の防御力で対抗できない奴が居たら討伐すればいいってことか」
「‥‥」
唯一、キウイだけが言葉が通じない。会話が通じないというのはいざという時に障害になる。撤退する時に取り残される危険もあった。
●監視所
「村の外、正確には畑の外の道筋に監視所をつくる」
畑を荒された後で成敗しても、失った収穫は戻ってこない。
「そういえば仲介人は?」
ラックスは来るときまでいたはずの仲介人の姿を探した。
「領主との交渉に行っている。彼女が早く役目を成功させれば、こちらは依頼を終了できるからな」
「そうか」
この依頼は、領主の保護下に入るまでの村の防衛だ。ラックスは落ち込んだような表情になる。クールなように見えて情熱的なのだ。
ラックス、シクル・ザーン(ea2350)、クレア・エルスハイマー(ea2884)、双武の3人は主に夜、他の適宜時間で交代して昼に見張る。チルニーのみは一人で高い位置から。できるだけ遠くで発見できれば、手すきの人に応援を頼める。この深い森では討伐班に異変を知らせるのも難しいだろうし、戻ってくるのも楽ではないのだ。
「領地問題が絡んで、その関係で騎馬突撃があったんじゃないか?」
ラックスはそう思わずにいられない。
「そう言えば、領主になってくれそうな人は2人ですって」
シャルロッテが様子を聞き出してきた。
「そのうちの一人が最近亡くなるらしいです」
次の領主(候補)は代替わりを控えてごたごたしている。
今まで馬で来たのは南から、村人が堀った穴も南から来る道の畑との境目あたりに点在している。畑に広がろうとすれば、どこかの穴に落ちることになるはずだ。これでも十分に畑を守れた。今までは‥‥。
●猛進する馬達
最初にそれに気づいたのはチルニーだった。村で一番高い木の天辺から眺めるのに飽きて村の周辺をぐるりと周回していた時のことだ。南の道の果てから土煙のようなものが見えた。森で道が狭まるより南だろう。何頭かの馬がかなりの速度で移動している。
「急いで知らせなきゃ」
南の入り口にいたジェイラン、グリュンヒルダ、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)の3人のところに知らせる。
「メリル達がそろそろ交代で来るはずだから、応援呼んで、七刻達も起こして」
バルバロッサが正面に位置し、ジェイランとグリュンヒルダが対になっての迎撃態勢を取る。
「どんどん近づいてくる」
気のせいか馬の足音が迫ってくるような感覚に襲われる。
「領主からの使者ってことは?」
「それだったら、こんなに急ぐはずはないでしょう?」
メリル・ジェネシス(ea1582)達も到着し、突破された時のフォローに回る。左右に森が迫っているから3人でも十分に封鎖できる。第一陣のバルバロッサたちの後方には急造の柵があり、第二陣のメリル達の後方には落とし穴もある。その後方には異変にたたき起こされて準備に手間取っていた七刻達が展開する。チルニーは、モンスター討伐班に村の異変を知らせるために飛んでいった。
「そろそろ見える」
ほぼ直線の道に騎馬の姿が見える。まずは先頭の1頭が後ろとの距離を開けて走り込んでくる。ジャイアントのバルバロッサの身長でも威圧感を感じる。
ラックスがロングボウを構える。弓なら前衛を越えての射撃が可能だ。命中率はあまり期待できないが。
騎馬は森のはずれにいる冒険者たちに気づくと速度を落とした。
「山賊か?」
最初の怒鳴り声がそれだった。
「そっちこそ、ならず者じゃないのか?」
言い換えす。
「ラックス、まだ射ないで。様子が奇怪しい」
クレアもファイアーボムをいつでも撃てるようにしながら、ラックスを制止する。ラックスも8割型絞っていたので、けっこう厳しい。
「俺たちはこの村の防衛隊だ」
「この先の領主に雇われた者だ。領主に届ける荷がある。先を急ぐので通して欲しい」
かなり焦っている口調のようだ。馬には何らかの荷物が積んである。同業者のようだ。
「後方から来るのはお仲間?」
「この荷の護衛とそれを追いかける賊のようだ」
この一人は荷を届けるために先行して走っている。あとの護衛は賊を足止めしつつ後を追っている。
「わかった。ここは任せておけ!」
近隣の領主なら恩を売っておいたほうがいい。
「わしらが護衛をしてやろうかのう」
七刻双武がシクルを連れて、ノーマルホースに騎乗して北西の道に誘導する。落とし穴に落ちたら大変だ。それに見張りを兼ねてもいる。
その後は騎乗で剣撃をしつつ騎馬の一団が迫ってくる。
「これからが正念場ね」
グリュンヒルダが独り言のように呟く。
「どっちが味方でどっちが敵?」
ジェイランが聞き返す。
「村を荒すものはすべて敵だ」
バルバロッサが大声で叫ぶ。
●モンスターの巣穴?
「もう何もいないみたいね」
キウイがスペイン語で呟くが他の3人は分からない。モンスター巣穴の状態を見れば、すでに他の冒険者がここのモンスターを始末して、ため込んだ宝を洗いざらい持っていったことは明白だった。唯一残っていたのは、モンスターが晩餐用にどこからか奪ってきた痩せこけたロバが一頭。荷物も載せられない程度の代物に、見向きもされなかったのだろう。
「村に持ちかえろう。モンスター対策が大丈夫だという証拠にはなる」
そこにチルニーがヘトヘトになって飛び込んできた。討伐班を捜し回ったらしい。視界の効かない、太陽の光もあまり射さない森の中では、飛び回って探す意外に方法がない。
「村に騎馬軍団が」
探している間に話が大きくなっている。
「村に入る前に防衛線があるから、そのもっと南に出れば挟撃できるぞ」
ダギルが先頭になって森の中を走る。それを追いかける二人。オルステッドはいつの間にか姿を消していた。
●挟撃
騎乗している者どもは村の防衛隊に気づかないのかそのまま突っ込んでくる。
クレアとメリルが前に出て道の左右からファイアーボムとマグナボウで攻撃をしかける。もちろん、先頭にいる馬の足ともに向かって。
さすがに魔法での攻撃を受けて馬は怯んだ。それでも勢いはまだまだ衰えない。しかし、後方の馬が前の馬にぶつかりそうになって竿立ちに止まった。油断は成らない。馬の制御に手を取られたからに過ぎないのだから。
「村の平安を乱すものはこの仮面剣士セーゲルが倒す」
仮面で顔を隠した男――セーゲルと名乗った男が、森の中から突然現れて騎馬の中に切り込む。防衛隊の防衛ラインを見て、騎馬の半分は引き返した。どうやら、阻止に失敗したことに気づいたのだろう。いい判断力だ。残りの半分は仮面剣士セーゲルの攻撃を軽く凌いでいるのみで緊張は解いていない。騎馬の背後にはモンスター討伐班の残り3人が現れていた。
「領主に雇われたのはあなた方?」
シャルロッテも騎乗して対応する。対等の視線の高さの方が交渉にはいい。
「そうだ。一人先に来たはずだ」
「そいつなら、俺たちの仲間が護衛して領主のところに向かった」
その一言でようやく緊張を解いた。神出鬼没の仮面剣士セーゲルはいつの間にか消えていた。オルステッドが一人遅れて現れる。
「もう解決したのか。すまん、木の根っこに足取られてこけただけだ」
●領主からの使者
領主はこの前荷物を届けた先の領主がここを保護することになった。あの時届けられた荷は前の領主の死に際に届いて感謝のうちに亡くなったらしく、継嗣もこの村が荷を運ぶことに協力してくれたことをうれしく思っているということだ。今はグランドクロスの旗も取り去られ、村は平穏に戻った。
「ということで依頼は無事に達成できました。本当にご苦労様」
領主からの使者に同行してきたギルドの仲介人が冒険者たちを労う。報酬は少なかったが、十分な人助けにはなった。村人からの感謝の言葉が冒険者たちの最大の報酬となった。ささやかではあったが、家畜を捌いて宴会が催された。肉は優先的に冒険者に配られた。
「この肉ちょっと固い」
帰り道宴会に使われたのが、討伐班が持ちかえった痩せこけたロバだったことを聞いて、僅かの報酬も村にとってはかなりの負担だったと思い至った。