●リプレイ本文
●居酒屋
夕日に背中を押されるように、吟遊詩人は現れた。村の居酒屋は一日の業を終えた農民達でごった返し、ワインの香りが食卓に満ちている。
「皆様ですね」
冒険者達の卓に就き、肩から竪琴を降ろす。杯を交わし、塩を分かち、興味深そうに冒険者達の話を聞く。恐らく、幾ばくかは実際の体験も混じっているのだろう。そんな、断片的な物語のピースを集め、話のつじつまを合わせ、詩の布を織って行く。
全ての話を聞き終わると。吟遊詩人マレーアは小一時間ほど目を瞑り、彫像の様に動かない。やがて、笑みを浮かべると竪琴を取った。
冒険者達は、思わず拳を握り込む。どんな物語に纏められるのだろうと。
●探索者
「それでは、先ず、お三方を括らせて戴きます」
マレーアは、アハメス・パミ(ea3641)、ララ・ガルボ(ea3770)、アリオス・セディオン(ea4909)にパンを割いて渡した。
♪一年の計は食を植え、十年の計は樹を植える。異教の神が千年の、計に植えしは家門なり。千年の、時の砂より目覚めたる、異境を流離う女(おみな)あり。名をアハメス・パミと聞く。砂漠を越えて、大海越えて、アルプス越えてこの地に至る。
担いし肩の難業は、行方も知れず名も知らぬ、失せし宝を探す旅。星空飛んで、虹を眺めて、無窮の向こうへ進み行く。未だ宝は見出せざれども、勝る宝を備えたり。悲しき時にも、苦しき時にも力となりし友垣を。
一の宝はケルピーに手綱を掛けし勇者なり。幸運なる者ララ・ガルボ。羽を持つ民、空の騎士。力は有らねど肝があり、小さな腕には骨がある。ボランティアの先手となりて、迷いの森を飛び抜けん。勇は蛮に有らざれば、懲らせど敵を討つは無し。誉めよ卿(おんみ)が赤き盾。仇の心胆寒からしめて、勲を天下に示したり。卿が故に敵輩(てきばら)は、飛び立つ鳥にも驚かん。この功をばいかんせん。王は剣(つるぎ)を手づから持ちて、誉れの位を授けたり。二の宝とぞ問いければ、アリオス・セディオンを人は挙ぐ。神畏るるは智の太初(はじめ)、パミを導く標(しるべ)なり♪
強い絆で結ばれた仲間にされた三人は、竪琴の鳴り終わるまで子供のように聞いていた。
●黒き森の物語その1
♪夜の帷(とばり)は音もなく、牧場を包む頃。黒き森を抜ける男。これぞ、闇の吟遊詩人フェイテル・ファウスト(ea2730)。琴取る諸手を血に染めて、修羅の道を進みゆく。マントの中に短剣二つ、月の光を背に受け、定めた誠胸に刻み、進み行く。枝ずれの風の音さえも、夜空の星の瞬きも、一瞬死の伴奏に変わる運命(さだめ)。自ら選び抜けて行く、闇獅子の法(おきて)に抗う影一つ。森の小径を抜けて行く。
月の明るい夜の森。蝉噪凍り付きたれば、討っ手の骸(むくろ)血に伏して、還れぬ道となりにけり。
メルヴィン・カーム(ea1931)はおどけ者。光を灯す標なり。暗き谷間を辿るときも、闇の回廊を進むときも、汝が心は常に楽し。家を照らせる蝋燭の、自らの影を創らざるが如く、胸と心に影を持たじ。
天の父の計らいか、光は闇に寄り添えり。
静かな静かな月の夜。乙女が一人旅を行く。生まれは朝日の登る国、東の涯の武士の国。
吟遊詩人の男あり、戦にはぐれし幼子を、羽交いに抱いて慈しみ、十有余五に至るまで、育てけり。
父と慣わしその人は、いつしか別の名となりて、愛と思いしその思い、ついには封じ抗ざる。一人旅立つ父親を、乙女は訪ね家を出で、黒き森に差し掛からん。
黄泉の臭いをはらむ風、群狼骸を食む音に、遭(あ)いし乙女は剣一閃。父が鍛えし腕前は、手もなく野獣を両断す♪
これも、興味深い因縁だ。お話の中で恋仲とされたフェイテルが頬を赤らめる。娘と詠まれた天城 紅月(ea4082)は、少し大仰な言い回しに照れつつも、いたずらっ子の目でフェイテルを見る。
「美しく育った娘と、年が釣り合って見える育ての親? 弱ったな。本気にされたらどうする? パパぁ〜」
剽けた台詞に古いワインを吹き出す村人。言葉とは不思議なものである。ランプの明かりに映し出される、 紅月の姿は、いっそう美しく見えた。
●黒き森の物語その2
♪黒き森は国より広し、朝日の昇る此方から、夕日の沈む彼方まで、海の砂子の数のごと、計り知れる術もない。
若者が、少年だったその昔、母親が、娘だったその昔。邪法の儀式に使うとて、一人の司祭浚われん。仮面教団の一人にて、魔物に教えを説く女(おみな)、名をアリーナと伝え聞く。高貴の生まれにありつつも、栄えを捨てし主の道を、辿る誓いも麗しく。九十九人の求婚者、捨てて道に入りけり。
サラ・コーウィン(ea4567)は無垢の戦士。司祭を救いにまっしぐら、寝食忘れひたすらに、森の小径を踏み破る。二日の追跡功なりて、ついに司祭を見留けん。背後に迫り一触に、賊を懲らしめ地に伏せたり。
このときサラは僅かに8つ。家を出る時玉の肌、今は槍傷刀傷。司祭は大いに喜びてサラの名前を心に刻む。
「恐るべし、今に天下の勇者たらん」と♪
「なんか、ちょっと恥ずかしいです」
サラは料理された自分の物語を聞いて恐縮する。詩はまだ続く。
♪黒き森は心の迷宮。不思議と夢と冒険へ、誘う異界の迷い道。揚々と、入る込むのは小さなアルル・ベルティーノ(ea4470)。川の小石と一振りの短剣。野ウサギよりも慎重に、猟犬よりも大胆に、昼なお暗き森の中を、スカート軽く翻し、村の娘が跳ねて行く。
土笛歌う春の詩、アルルを誘う妙なる調べ。光を遮る枝々の、中に緑の杖が有り。アルルは探し下草を分かつ。
森は開けて湖となる。岸辺に咲う花の白。摘んで編むは花冠。翼を休める白鳥に、掛ければ子供に変じたり。10ばかり為る少年の名前はラシュディア・バルトン(ea4107)、魔法使いの弟子として、定めの時を迎えたり。
「湖(うみ)を隔てる向こう岸、煉瓦の館そびえ立つ。師の御教えに従ういて、行きて宿を請い願い、一夜を城で過ごすべし」
日暮れは近し春の夕、アルルもラシュディアに連れ添いて。共に館を訪ねけん。
下草を踏み分け行かば、8つばかりの女の子。薬師が弟子のエル・サーディミスト(ea1743)。妙薬探し分け入れば、行方たちまち失いて、帰る道さえ見つからず。
エルを仲間に引き入れて、館に至る道に添い、森に入りて幾千歩。ゴブリン5匹顕れて取って食おうと躍りかかれば。アルルの体は輝きて、賊が刃を防ぎたり。男子(おのこご)なればラシュディアは、エルを背に負い勇敢に、杖を構えて応戦す。
力も尽き果て危うき子供。助け手二人現れて、呪を持て賊を降し伏す。魔法使いはクリス・ハザード(ea3188)、黒き僧侶はセレネス・アリシア(ea1551)。魔法使いの業は拙ねども、子らの瞳に美しき業。黒き僧侶は頼もしき、手練(てだれ)の猛者と目に映る。
不思議なるかな黒き森。過去と未来が重なるところ。時を超えし助け手の、頼もしき業は幼子の、胸にぞ深く刻まれん♪
「あ‥‥」
クリスとセレネスは思わず破顔。お話の中の自分達は、過去の世界に紛れ込んで、アルル達を助けている。
「主役はアルル・ベルティーノ(ea4470)さん達ですか」
それでも結構良い役かも。
物語は続く。
♪谷間の狩人(かりびと)マナ・クレメンテ(ea4290)、未だ十の娘なれど、百歩の先の野いちごを、実を損なわず打ち落とす。
リュオン・リグナート(ea2203)は戦士の初子、父も名だたる兵(つわもの)で、真紅の鎧に身を包み、カエサルの馬前を進みし勇者。リュオンの年は十二なれど、赤の騎士に連なれり。
森の奥に魔女が棲み、村人達は懼れ暮らす。神が与えし大樹のみが、魔女の力を封印す。降魔の樹より創りたる破邪の弓矢は武器に非ず。命を奪わず力を封ず。
降魔の弓矢携えて、進みし子らは湖の、畔に立てる館に着けり。
この日、館を訪ねしは、アルルにラシュディア、エルにマナ、そしてリュオンの五人の子供。いよいよ夜は更け行きて、星は光る。湖にただ月光が浮かぶ。
館の主は年の頃、三十に及ばぬ未亡人。聖母マリアかカタリナか、乙女と見紛う貴婦人にて、寄る辺無き子を集めては、養い賜う愛の人。弟妹如き子らと共、祈りを捧げパンを分かつ。
その夜、ラシュディアは寝付かれず湖の畔を眺むれば、沖に漕ぎ出すボートあり。折しも起こる雷鳴に、外に向かえば皆も来たり。
湖の中より現る悪魔有り、ボートを掴む掌の爪の長さは人の丈。魂凍らすその声は、地獄の底から鳴り響く。
「今宵は再び満月の、月の欠ける蝕が夜。養う子供は十二人。最も懐きしこの子をば、連れて御前にまかり来さん。古のソロモンの盟により、ただ疾く返せ我が息子」
婦人は泣し、訴える。されば魔物は嘲いて、地獄の声で曰くは。
「アレーナ姫は何処なり」
とぞ問い詰めん。求める者のなかりせば、悪魔はたちまち荒ぶりて、
「ならば良し、十二の子らを我がために今宵屠り焼き尽くせ。されば汝が子供を引き渡さん」
婦人大いに驚きて、
「我が一人子も、この子らも、今は妾が子供なり。いかで渡さん、子の魂」
悪魔は本性顕わして、婦人に襲い懸からんとす。
五人の子らは呪を放ち、悪魔に闘い挑み行く。森の中より現れし、悪魔の僕の狼らは、欠け行く月に咆吼し、子らをめがけて攻めかからん。
リュオンが護り鉄より固く、ラシュディアが呪は敵を裂く。エルもアルルも各々に、智慧を尽くし力を尽くし、悪魔の注意を引きたれば、木化け石化けエルは征き、降魔の弓をば振り絞り、悪魔の右目を射抜いたり。
そして轟く大音響。光は全てを巻き込みて、あたりは静かになりにけり。
昇る朝日に気が付けば、煉瓦の館は影もなく、ただ湖が陽を映す。迷いの森で幼子達は、天使にも会い悪魔にも遭う。七つの難、他人(ひと)の輔けを身に浴びて、幼子は遂に勝利を掴みたり。智を尽くし、術を尽くし闘うは、自分の学びの全てなり。師は教え子に杖授け、戒を授けて言祝ぎぬ。若き魔術師の誕生を
されど聞け。幼子僅かに七つなれば、術は優れど世に長けじ。師は災いを予見して、黄金律のプリンを与え、学びし術を封印す。強き力は人の子の、幸を奪うなればなり。プリンの味は柔らかく、子らの想いを閉じ込めん。アルルは殊に気に召して、ことあるごとに之を乞う。
いつしか十歳(ととせ)の年は過ぎ、幼き子供は乙女となりぬ。幼き子供は青年となりぬ。されど未だ封印は堅し。いつしか時の満ちるまで、アルルとエルはか弱き娘♪
竪琴の調べのせいだろうか? 聞いている内に当事者達は、なんだか昔、本当にあった出来事のような気になって居た。
●黒き森の物語その3
♪進め進め何処までも、怪しき影追いつめて。審判の日の来るまで、魔を狩る者の名を受ける、悲恋法師の名を知るや。極寒のゴグとマゴグの地に生まれ、灼熱の血を宿す者。その名はヒスイ・レイヤード(ea1872)。
強い慈愛を胸に抱き、澄んだ瞳は何を見る。彼が狙うは百魔の王。人の想いを誑かし、悲哀と不義とを食す者。親は我が子に、友は友に、妹背相い逢う願いを餌に、人の心を貪る野獣。
黒き森に仇を見出し、辿り着けども時遅し。五人の選ばれし子供らが、仇を封じたその為に、10年研磨続けたる、必殺の術間に合わず。
長命種族の彼なれば、いつか仇のよみがえり、悪魔を滅するその日まで、彼は行く、還れぬ道を。彼は行く、滅びの道を。永遠(とこしえ)までと誓いし言葉胸に抱き、全てを愛に捧げ独り行く♪
最後に綴られた自分の詩を、ヒスイは寂しい笑いで受け止めた。