●リプレイ本文
●猿の皿
執事によって臨時雇として屋敷に入った冒険者たちは執事の部屋で屋敷のことについてのミーティングということで集められていた。そして問題のものを見せてもらう。
「これが猿の皿?」
エドガー・パスカル(ea3040)とフェルロ・レーチィル(ea4548)は、猿の皿に見入った。エドガーが古物好きで、フェルロは学術的な好奇心で。
無事な8枚と割れた1枚。割れても絵柄は分かる。
9枚の皿は1セットになっていて、皿の絵柄は少しづつ異なる。
「何かの物語ですか?」
9枚の皿の絵柄を使って何かの物語りを表現しているとしたらかなりの値打ちものであろう。もちろん、すべて1品もので同じ作者であることは疑いようがない。
「はい。詳しいことはわかりませんが、人は猿が進化したものと考える冒涜敵な考えがあるとかで、それを絵柄にして表現したものです。割れたのは丁度最後の一枚で猿が何らかの知恵を付けたような絵柄です。つまり、これが猿と人との間を示すものです」
破片をすべて組み合わせると、なるほどそのように見える。
「エルフはともかく、人が猿から進化したのと考えるのは」
クリスティア・アイゼット(ea1720)は職業柄そのような冒涜的な思想には同意しかねる。そんな考えは神の敵である。
「エルフはともかくってどういう意味よ」
アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は、クリスティアの種族差別的な言葉に反発する。
「そりゃエルフは森の中で生活して敏捷で‥‥」
アルビカンス・アーエール(ea5415)がフォローしているような、全然フォローになっていないようなことを口にする。頭脳派なところを見せているつもりらしい。
「なんですって」
アンジェリーヌは育ちの良さそうな顔を真っ赤にしかけて、大きく深呼吸する。
(「教化されていないだけの人間を無闇に殺生してはいけませんね」)
と自分に言い聞かせる。
「仕事の話を始めようぜ」
フェルロは学者として、猿の皿への好奇心を強くしている。
「そうだ、明日の朝早くからこき使われるんだ。早く役割決めて寝ようぜ」
アルビカンスは最初から屋敷の仕事はダラダラするつもりだが、疲れるのは苦手だから無意味な争いに巻き込まれたくない。
「パーティの後はこのようにして箱に入れて、この戸棚に入れておきました。その後は、この皿を見る必要も無かったので‥‥今までもずっとそうでしたから」
執事の説明では猿の皿を直接手に取ることはなく、箱から出してお披露目する役目はメイド長が行うらしい。
「つまり、半月近く犯人は割る機会があったわけか」
ただし夜は部屋の鍵を閉めてしまうし、昼間の大半は執事が部屋にいるということで必ずしもいない時間を見計らってというほど簡単ではない。
「部屋に怪しまれるに入れるのは、部屋を掃除するメイドさん二人」
掃除の時間は執事がいない時に限られる。ある意味可能性は一番高い。
「じゃメイドさん二人は私とオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)の二人で探りましょう」
クリスティアは行儀見習ということでメイド頭に作法を習うことになる。とはいえ行儀見習では動ける範囲が非常に狭まる。となると、誰かに手伝ってもらうしかないが、接触するのは女性の方がいい。アンジェリーヌは料理人だから除外するとオイフェミアしかいない。
「じゃ残りはうまく接触できた順に。明後日の夜、大部屋に集まって情報交換しましょう」
●料理人の場合
アンジェリーヌは、予定どおり臨時の料理人として雇われた。執事が手引き(画策)して潜入させているだから、潜入の外堀は問題なく通過できる。問題は内堀であった。下働きの5人は早速、作業に入っている。今頃屋敷中を泥まみれになって探っていることだろう。こちらは清潔な調理場。
アンジェリーヌは、屋敷になる料理人2名から試験されることになる。特に執事が探してきたといういことで、高い下馬評になっているようだ。
「俺はこの屋敷で5年料理人をやっているメイランだ。執事の爺さんが探してきたっていうから相当な腕だとは思うが、一応試験させてもらうぞ。なんせ今度のパーティには若旦那の商売関係の客人が大勢お見えになる。ほんの少しでも粗相があっちゃならねぇ。大恩ある大旦那の恩の報いるためにも粉骨砕身して役目を果たさなきゃならねぇ。料理人の役目は、お客人が思わず笑みがこぼれるような料理をお出しすること。まぁ俺もまだ思わず笑みてレベルには達していねえがな」
メイランという料理人はどうみても、堅気には見えない。しかし、メイランの背後に用意されつつある料理を見るかぎり料理人としての腕は凄そうだ。
「ボケッ。臨時雇相手にすごんでないで手を動かせ。この半人前が!」
どうやら凄腕はメイランではなく、その背後にいたドワーフの料理人の方だった。
「わしはガ・ネイ。この屋敷で50年料理人をやっている。臨時雇ではたいして料理は覚えられんだろうが、せいぜいな勉強していきな」
それだけいうと背を向けた。
「技は盗むものってことね」
アンジェリーヌは当面この二人を見張ることにした。メイランの方が簡単に口を割りそう。だけど、その分大したことは知らないかも。技を盗むってという以上は、詳細に観察しても疑われないということ。
●臨時警備係?
「困りましたな」
執事の爺さんを困らせているのはオルステッド・ブライオン(ea2449)であった。
「警備に人手は必要だろう」
「それはそうですが、警備についてはわたくしの管轄外ですので警備についての専門の方を訪ねてください。御武運をお祈りします」
(「御武運とはどういう意味だろう?」)
オルステッドは警備の専門の方を訪ねることにした。
「なんだ就職活動か? うちは間に合っている」
いきなり目の前で戸を閉められた。あまりな対応に戸に飛び蹴りを食らわせて、中に躍り込んだ。
「なんだこのガキは?」
「間に合っているといったはずだぞ」
どうみても、オルステッドよりもガタイも腕も良さそうな男どもがゴロゴロしている。もちろん、奥の方では真剣での訓練が行われている。
(「これが御武運をお祈りしますって意味か!」)
オルステッドの額にさっと縦縞が入る。
「折角戸をぶち破ってまで入ってきたんだ。軽く相手をしてやりな。殺さない程度にな」
全身打撲だがかろうじて動ける状態のオルステッドが自分のぶち破った戸を修理させられてから、夕方解放された。
ナレーション:「剣士オルステッドは秘密結社グランドクロスの怪人である。彼は信仰による世界征服のため、日夜戦っているのである! ‥‥しかし今夜はお休みらしい」
オルステッドは意識を失って倒れているところを屋敷に下働きとして潜入したオイフェミアによって発見され、介抱されてどうにか回復できた。意識が回復したのは、夜になってからだが。
今回の彼の最大の功績は、この屋敷には簡単に外部の者が活動できる場所ではないことを我が身で証明したことだろう。
「つまり警備は万全ってことね」
オイフェミアはオルステッドの湿布を交換しながら呟く。
「ますます内部の犯行に間違えないな」
●状況は?
エドガーは今日の労働でかなりこたえたらしく、体のまだ眠い目をこすってどうにか上体を起こした。
「まったくこき使ってくれるぜ」
仕事だけじゃなく、聞き込みや屋敷の中の調査までも行っているのだから本来の倍以上の仕事をしていることになる。
「もう集まっている? これ作ってきたけど」
アンジェリーヌは今日の成果として盗み覚えた料理を作ってきた。
「じゃそろそろみんなで手分けして調べたことを出し合いましょうか」
「まず俺から」
ジェイミー・ジェスティ(ea1953)は馬番の2名に接触していた。何故馬番かというと偶然にも、ジェイミーの歌によって馬が懐いたからだ。
「まずアリバイだよね。先月の公開日のパーティには6台の馬車が来て、その対応、もちろん、訪問者の御者は本館に入っていないことを二人で確認している。この二人兄弟なんだけど、なんというか」
「もしかして、ブラコン?」
「そんな感じ。互いが互いに干渉して喜んでいるというか。執事さんはこの二人の親が死んだ時に引き取って、前の馬番に仕事を仕込ませて今の仕事を与えている。恩を感じることはあっても恨むことはないね。もし、猿の皿が割れて執事さんのせいだと疑われたら、自ら罪を被るぐらいすると思うよ」
「やっぱりね。次は私かな」
オイフェミアがジェイミーの報告が終わったのを見計らって声を出す。
「メイドさん2人と問題の女性を調べたわ。完全じゃないけど」
メイド役がいなかったのはやはりつらい。下働きとメイドとでは接触が少ない。
「メイドさんの名前はミッシェルとシャロット。ミッシェルさんは執事さんとは古馴染で屋敷内部の権力争いを起こしたことがあるそうです。結果は執事さんが勝利して屋敷内部の権力は大旦那様を除いて最高権力を把握したそうです。しかし、それはお亡くなりになった大旦那様が今の旦那様ぐらいの頃のことで今更その当時の恨みを持ち出すとは‥‥。執事さんの方も権力を握ったと言っても、決して乱用しないし、使用人すべてが納得できるようなことをしてきたらしいから」
「ミッシェルさんがそう言ったの?」
「そう。そういえば、クリスティアさんはまだ来ないの?」
「そういえば遅いな」
クリスティアはもっと細かいことまで調べているだろう。
「まだ絞られているのかも」
クリスティアは行儀見習ということで、一番詳しくて厳しいミッシェルが集中的に仕込んでいる。執事からの紹介とあって念の入りさ加減は生半可ではない。オイフェミアが夕方目撃した時には、ふらふらだったらしい。
「どこの社交界に出しても恥ずかしくないようにということらしいけど、メイド役として入った方が楽だったし、調べもできたんじゃない。多分何もできないと思うわよ」
この後フラフラになったクリスティアがやってきたが、半ば正気ではなかったらしい。もちろん、成果はない。
「問題の女性だけど、予想どおり若旦那の囲い者みたいね」
オイフェミアの探った範囲では、大旦那が生きていた頃には別のところに囲っていたらしいが、代替わりしたので大手を振って屋敷の乗り込んできたように入ってきたようだ。
「そんな凄い性格か」
エドガーとフェルロが悲鳴に近い声をあげる。どうやら二人とも女の魅力にかなり引き寄せられているようだ。
「二人とも、その驚きの声はどういう意味なの?」
オイフェミアが猫なで声のようであるが、かなり怖いイメージを持った声で詰め寄る。
「そりゃ、やっぱり一番怪しいじゃないか」
「そうそう。男のカンだよ」
「そう、男のカン」
半ば引きつった笑顔で、後ろめたそうに答える。
「そうそれで浴室を覗いたわけね!」
「何故ばれたんだ」
「やっぱり。カマかけただけよ」
それはそれとして。
「執事さんとの関係は悪いのかい?」
「それがね」
執事は若旦那と彼女の関係を知っていた。実は彼女を屋敷に入れるように助言したのも執事だという。
「話の分かる爺さんじゃないか。普通なら家柄とかって喧しく言うはずだろう」
「そうじゃないんだよ。彼女の親ってのは死んだ大旦那の商売敵で互いにあくどい真似もしただろうけど、結局あっちが負けて没落して彼女だけがどうにか残ったらしい。こんな平和そうに見えても若い娘が後ろ楯もなしに生きていくのは、大変さ。結局身を売る以外に糧を得られなかったらしいんだよ。若旦那は偶然出会って、囲い込んだわけだ。お互い素性を知らずに相思相愛。若旦那もそれぐらい自由になるお金はあったし」
とはいえ、若旦那の行動も徐々に分かってくる。大旦那の方が商売の方もあるが、執事は若旦那のことを良く知っている。生まれた時からだから、隠し事をしているかしないかぐらいは簡単に。
「それで彼女の存在を知ったってこと? その素性まで」
「素性が分かったのはその後らしいけど」
オイフェミアは執事から聞き出したという。
「で、彼女の素性は若旦那は知っているの?」
「教えていないって。それに彼女にも彼女の親を破滅させた張本人の息子が若旦那だって言っていないって」
彼女を屋敷に入れるように助言したのが執事だと知ったら彼女は感謝するだろう。しかし、彼女の親を破滅させた張本人の息子が若旦那という情報を彼女が知っていたとしたら、どうなるだろうか? 若旦那に復讐するかも知れない。まずは商売のやり方を変えさせて使用人たちに不満を抱かせて、次々に追い出していく。
「世間の辛酸を嘗めただけあってどんな行動にでるか分からないわね」
「相思相愛なのに」
「人はちょっとした切っ掛けで変わるものよ」
「次は料理人の二人ね」
アンジェリーヌは料理を覚えて上機嫌というわけではなかったが、料理人の二人に猿の皿について聞いてきたことを語った。
『あの猿の皿は、大旦那様がある学者から譲り受けたものじゃ。考古学とかのことについては料理人には分からないが、図柄は除いて皿の色合いや焼き具合は上物じゃ。図柄がなければ使ってみたいところだが』
と口を濁した。
「何かあるの?」
「料理長のガ・ネイさんが口を噤んだので、メイランさんに聞いてみたんだけど」
『あの皿、呪われているって話がある。大旦那様があの皿を手に入れたのは俺がここに来る前、今からだと25年前になる。ガ・ネイのおやっさんは譲り受けたって言ったけど、本当のところは借金のかたに取り上げたって噂だ。その考古学者については、その皿をこっちに寄越す代わりに研究費を出すってことにしたらしい。猿の皿というのは芸術的価値があったらしいし、所有することでステータスを上げる効果もあったらしい。ただし、あの皿がこの屋敷に来てから奇妙なことが起こった。メイドが3人も変死を遂げている。今のメイド長のミッシェルさんは当時来たばかりだというが、そのことを知っているはずだ。猿の皿を割って切り殺されたわけじゃないぞ。夜中に猿の声を誰かが聞いて、翌朝メイドの死体の側に猿の足跡があったそうだ。メイド3人で取り敢えず内部のものは終わったが、たまたま宿泊されていた。大旦那様の取引相手が、夜中に大猿の後ろ姿を見て気が狂ったとかという話もある』
「本当?」
「ん〜ん、メイランじゃなきゃ本当って言い切れるけど」
「次は門番2人か。誰か調べた人はいる?」
エドガーが手を挙げる。どうやら趣味の人間観察をしていたらしい。
「門番は派遣されてきている。けど、屋敷の中の警備も担当しているからありえると思ったけど、予想以上に職務に忠実らしい」
派遣元はオルステッドを叩きのめしたところだ。
あの体力で間違って割ったとしたら、1枚だけってことはないだろう。それに皿が出ている状態で近づいたら、次の人で渡す時に無事であることを確認させるだろう。
「可能性薄いけど、もし派遣元から割るように指示されればわからないでしょうね」
フェルロは旦那様の友人の居候の男と商売関係で通ってくる2人と接触していた。
「居候の男の名前はカルイセンと名乗っていて考古学者らしい。ここの旦那様が研究を援助している」
「考古学?」
「そう冗談みたいだけど、ここの旦那ってそういう文化的な活動にも手を出している。もっとも、考古学から得られる利益もあるらしいけど」
「未発掘遺跡で宝の山でも見つけるってこと」
「そう。もっとも宝は黄金とか換金できるものだけじゃなく、発掘にともなう名声とか。知名度が高まれば、商売の方も有利になる。で、商売関係で通ってくる2人なんだけど、一人は表の商売の方で日々の報告と商売上の情報を届けに来ている。こっちは旦那の執務室だけにしか入らないし、時間はかなり短い。たぶん、関係ないと思う。問題はもう一人の方。裏組織に通じているみたいだ」
「裏組織?」
「商売上、表で手に入らない情報を裏から買っているってだけならいいけど」
それぐらいのことは、ある程度大きな商人ならやっている。貿易相手国の内部情勢とか海賊の裏情報とか。大きく儲けるための先行投資として良くあることだ。裏でやっている連中は表よりも正確な情報を仕入れてくる。なんせ高い情報料をとってガセネタだったら誰も相手にしなくなる。
「犯罪組織に係わっているってこと?」
「まだそこまでは‥‥ただの情報屋だけかも知れないし」
「情報屋に見せかけた裏の犯罪組織かも‥‥でも犯罪組織なら猿の皿には関係ないでしょう?」
「いやいや、もし執事さんが組織との接触に反対しているのなら、猿の皿の壊して追い出そうとするだろう」
ありえる。
残りはアルビカンスだが、アルビカンスはあちこち忍び歩きで動き回っていたが、収穫は何もなかった。
「オルステッド、具合はどう?」
オルステッドは意識は回復したものの、体の方じゃまだまだ本調子ではない。けっこうダメージをくらったらしい。しかし、外で情報収拾してくれる仲間との連絡で一時外に出ていた。執事から門番対策の通行証を出してもらった。
「アリシア・ルクレチア(ea5513)が外で調べてきてくれたことを」
まず商売関係は、昔よりもあくどくなった。というのが一般的な評価。あくどくというのは言い過ぎかも知れない。隙が無くなった、チャンスを逃さなくなった。偶然的要素の多い取引にも積極的にしかも勝ちつづけている。
「業績が延びすぎている。普通じゃない。しかも、品薄になる商品をかなり前から知っているように」
「やっぱり裏組織からの情報ね。裏は取れたわね」
裏組織だけに裏が取れるってそんなわけじゃない。
「情報だけかな」
「取り敢えず猿の皿とは関係ない推理は後にしましょう」
オイフェミアも他の面々も裏組織と共同して、海賊にでも運行情報流して商売敵を襲わせているんじゃないかと考えたが。さすがに、雇い主もそれを知っていたとしたら人間不信に陥りそうだった。
「まだまだ情報が足りないわね」
オイフェミアは贋の皿を準備することにした。
「仕事上つきあいのある美術商を頼って割れてない皿のひとつにそっくりなものを手に入れる」
購入費用はでないから、借りるだけだ。オイフェミアはグリーンワードを使ったが、草木は幾度か交換されていて割れていることが発見された後も交換されているため効果なかった。アースダイブを使って地面からの潜入も試みたが、時間の制約が大きかったし、危うく寝ぼけた誰かに抱きつかれて慌てて逃げ出した。
「あたしもそれに賛成。パーティで一挙にカタを着けよう」
半死半生状態だったクリスティアが賛成の声を挙げた。
「一目で区別のつかない程度の皿でいい。遠目でみて偽物だと判断できないレベルでいい」
「じゃパーティで捕り物?」
「でもまだ犯人を特定できないだろう。乱暴すぎる」
たしかに、パーティ会場に割った人物がこなければ、今回は大丈夫だとしても来月大丈夫とは限らない。そればかりか鑑定に出されて1枚だけ偽物とばれてはもっと状況を悪化する。
「執事さんが不誠実だと証明することになる」
割れていても問題、補っても問題あり。
犯人を挙げるしか方法はない。
「向こうは盛り上がっているけど、こっちはこっちに調べないか?」
ジェイミーはエドガーとフェルロを誘って、別の点からのアプローチを考えていた。
「どうするんだ?」
「執事が追い出された誰が得をして誰が損をするかだよ」
使用人の状況をもっと探る必要がある。
「一人じゃ手が足りないからね」
「いいよ」
「俺は俺なりにやらせてもらうぜ」
アルビカンスはあまり当てになりそうもないと思った3人は同意した。
「じゃ次はパーティの会場か?」
「そうなるわね」
●パーティ会場
「緊張する」
アンジェリーヌは料理場で次々を料理を会場に運びながら、今日のパーティの手順をイメージしていた。
「これを出して次にあれを出して」
料理はガ・ネイの神業の速さで、客が待たないようなスピードで作りまくる。メイランも5年のキャリアは伊達じゃない。アンジェリーヌが見ていて目を回すほどのものだ。
パーティは始まる前に例のものの準備ができる。
「犯人は必ずこのパーティで明らかになります」
オイフェミアとクリスティアは自信たっぷりに答えて執事を安心させた。
クリスティアはミッシェルに仕込まれた完璧な作法で受付係をやっている。ここで来客者の様子を見ている。犯人の品定めというところか。予定者全員が入ったところで門番に門を閉めるように伝える。そして自分はパーティの演出にかかる。
オルステッドも会場内で「剣士セーゲノレ」に成っている。いつものように結社グランドクロスの旗を用意している。
「では月1回の公開日である今回のパーティで我が家の家宝の猿の皿をお披露目しよう。」
若旦那の合図でミッシェルとシャロットが猿の皿にかけていた覆いが外される。シャロットは慣れているようだが、ミッシェルは皿と目を合わせたくないように顔を背けている。
「おお、これが猿の皿か」
「なるほど素晴らしい」
参加者は一様に感嘆の声をもらす。
(「誰も偽物だって言わないじゃない」)
予定外の状況にオイフェミアとクリスティアの二人はパニックになりそうだった。そこに最後の料理をアンジェリーヌが運んできた。
「料理長を呼んできてくれ」
「はい」
アンジェリーヌが料理長を呼びにいく。どうやらゲストから料理長を紹介してほしいと頼まれたらしい。
「旦那様お呼びですか」
「ああそうだ。今日の素晴らしい料理を作ったのは我が家が抱えるこの名人です。彼の料理の腕は我が家の家宝とも言えるでしょう」
「旦那様そんな‥‥」
ガ・ネイはこのような紹介は初めてだったらしく、戸惑い気味だった。視線をふらふらを彷徨わせると、近くにあった猿の皿に目が行く。
「これは、この9枚目が偽物じゃ」
ガ・ネイは思わず叫んでしまった。
「偽物? どういうことだ」
と、主も皿を良く見る。図柄が僅かに違う。
「どういうことだ?」
執事の顔が青くなる。
「いやいい。記憶違いだろう。ガ・ネイ。緊張したんで違うように見えたのだろう?」
「あ‥‥旦那様、そうですじゃ。どうもこういう表舞台は苦手ですじゃ」
「いや次回は、ここで料理を作ってもらおう。客人方に貴方の腕を披露した方がいい」
●後日談
「執事さんにはとんでもない迷惑をかけてしまったようじゃ」
ガ・ネイはパーティの終了後、客人が帰った後に全員を広場に集めて皿のことを打ち明けた。
「執事さんはあの頃はまだ屋敷には来てなかったからしらなんだろうが、あの皿には呪いがかけれていたんじゃ」
「メイドが3人変死を遂げた。ミッシェルさんは忘れられんじゃろう。あの皿の前の持ち主は呪いを封印する箱を持っていた。しかし大旦那様はあくどい手を使ったため、別の箱に入れて寄越したんじゃ、一種の復讐じゃ」
封印されていた呪いが発動して、大猿が姿を見せた。偶然にも9枚目が割れたため、呪いは発動しなくなった。
若旦那様はその皿に御執着だったから、皿をにどうにかして再度呪いが発動するのではないかと執事に託した。1月に1回公開していたのは、月に1回割れた皿巧妙に割れていないように見せかけるように修復していたのであれる。しかし、事情をしらないで託された執事は修復しなかったため皿が割れてしまったのだと。
「気苦労をかけたな」
そう言って主は、残った8枚の猿の皿を床に叩きつけてすべてを破壊した。
「もったいない」
アルビカンスが思わず呟いた。
しかし主の言葉は‥‥
「猿の皿など、私には皆の方が家宝だ」