street corner artist 〜落書き犯は誰だ〜
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■ショートシナリオ担当：マレーア 対応レベル：1〜3ｌｖ 難易度：やや易 成功報酬：0 G 65 C 参加人数：6人 サポート参加人数：-人 冒険期間：06月14日〜06月19日 リプレイ公開日：2004年06月22日 |
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●オープニング
「畜生め！」物騒な声が酒場で響く。だがしかし、彼の気持ちも分からないでもない。
ここはノルマン地方の小さな酒場。小さな田舎町で起きた小さな事件‥‥だが当事者にしてみれば小さかろうが大きかろうが事件は事件だ。
「どうしたよ旦那？ だいぶ荒れてるみたいだけど」
看板娘と言うには多少年齢がいきすぎた歌姫が、からかうように諌めるように男の肩を抱く。
「どうしたもこうしたも‥‥畜生！」
ジョッキを傾げぐいと呑み干すと、追加のエールを求める。この男、街では有名なへっぽこ絵描きで、似顔絵を描けばイヌと間違われ花を描けばパンと間違えられるほどの腕の持ち主である。もちろんそれを生業としていないため誰も文句をいうわけではないが‥‥しかし一体何があったのやら。
「アレだよ‥‥アレ。落書き魔」
同じテーブルで呑んでいた男の友人が、こそりと歌姫に耳打ち。ははあ、と彼女も納得した。
実はここしばらく、この街で不思議な落書きが横行していた。ある時は家の二階の壁、ある時は倉庫の壁一面。ある時など一晩で犬小屋の屋根が芸術的な模様に彩られた事もある。大抵がたった一晩で描き上げられている点と、普通に考えれば有り得ない高さへの執筆という点で謎を呼んでいた。目にも鮮やかな落書きは、時には苦笑と共に消されたりしたものの、大半はそのレベルの高さに街を彩る飾りとして残されていた。それが、男には気に食わなかったのだ。‥‥そして、ついに。
「あのやろォ、俺んちの壁にまで‥‥」
酒に呑まれひくひくと泣き出す男。やれやれ、と歌姫と男の友人が苦笑した。確かにあのレベルの絵を描かれたら、男に対する嫌がらせにしか見えない。‥‥好きで描いてるんだからそんなもの気にしなくてもいいのに、という歌姫達の気持ちは、男に伝わる事はないだろう。
「ああ‥‥誰かアイツを捕まえてくれねえかなぁ‥‥金なら出すぞォ。落書き野郎にこれ以上好き勝手させるのを‥‥ひっく、許してなるものかァ‥‥」
男はそう呟くと。かくんと首を折り、寝息を立て始めた。
「はぁ‥‥ああ、すみませんね、ご心配かけちゃって。でも、奴の気持ちも分からなくもないんですよ。‥‥もしかして、冒険者の皆さんですか？」
男の友人が、隣のテーブルの客に声をかけた。
「良かったら、落書き犯人‥‥捕まえてやっちゃくれませんかね。いや、別に自警団に突き出すとか言うんでなく、落書きを止めさせてくれればいいんですよ。多分、こいつはそれで収まると思うんで」
●今回の参加者
ea1683 テュール・ヘインツ（21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国）ea1690 フランク・マッカラン（70歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国）
ea1913 シン・クロア（21歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国）
ea2601 ツヴァイン・シュプリメン（54歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国）
ea3131 エグム・マキナ（33歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国）
ea3412 デルテ・フェザーク（24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国）
●リプレイ本文
●出発！！ ‥‥その前に「‥‥あれ、なんだか‥‥足りなくない？」
テュール・ヘインツ（ea1683）が集まったメンバーを数えながら首をかしげる。酒場での頼みは冒険者ギルドに回り、正式な依頼となった。ギルドの方から受けた報告と今並んでいるメンバーを比べるまでもなく、明らかに人数が足りない。
「まあ、何か理由があるんじゃろう。この程度の依頼で逃げ出すような輩なら、例えこの場に来ていたとしても足手惑いになろうて」
人生経験が皺となって刻まれた頬をさすりながら、フランク・マッカラン（ea1690）が静かに独りごちる。過去にも同じような経験が何度かあったのだろう。物静かな老人は穏やかに、「それ以上は触れてやるな」と促していた。
「四人もいれば充分ですわ。頼りになるオジサマもいらっしゃるし、それに例え絵描きが殴りかかってきたところで筆やパレットではそれほど痛くもないでしょう？」
ローブ姿の女‥‥デルテ・フェザーク（ea3412）がくすりと笑う。大まかに落書き犯の見当もついているのであろう。このような事件は六十三年間生きてきて聞いたことがない、なんと面白そうな話なのかしら。彼女の好奇心はむずむずとくすぐられているようだ。ちなみに彼女が『オジサマ』と呼んでいるフランクは五十九歳。外見では騙されてはいけない、年齢でいえばデルテの方がオネエサマである。『冒険者』として見ればまだまだヒヨッコな訳だが。
「さて、手分けして情報収集ってところかな？ 早くあの男にも美味い酒が呑めるようになって貰わないと、酒場への出入りも気まずくなるからな」
苦笑を浮かべながらツヴァイン・シュプリメン（ea2601）が軽く促す。男の為にも店の為にも、落書き犯人は早めに捕まえたいところだ。ツヴァインの言葉にテュールが無邪気に頷いた。
「うん！ じゃ、出発だね！」
‥‥彼らが活動開始して数刻後。
「‥‥や、やっとついた‥‥」
シン・クロア（ea1913）が仲間のいなくなった待ち合わせ場所で独り、行き倒れていた。
●顔料は擂鉢で念入りに擂り潰せ
絵の具、というものはパリまで行かねば入手出来ない。大抵は絵描きが自力で石や土を取ってきて擂鉢で潰し画材にする。新しい色・珍しい色を入手する為に冒険者になる者もいるほどだ。流石に筆やカンバス布まで手作りするものはそうそういないが。
「そうか。顔料そのものはこの辺りで取れるもので、それほど珍しい色は使われてないんじゃな？」
「ああ。珍しい色ならウチで取り寄せない限り使えないと思うんだけどねえ。他の物もそうだね、新しい擂鉢も筆も売れてないよ。役に立てなくて悪いねぇ」
雑貨屋の女将に頭を下げてフランクが戻ってくる。雑貨屋の外ではテュールが一枚の金貨と話をしていた。すいと少年の身体から光が消えると、少しばかり憮然とした顔で。
「‥‥んー、やっぱり漠然としすぎてるかぁ」
頭を掻く少年。仕方がない、質問に関する答えが多い場合は太陽にも答えようがないのだ。
「足で調べるしかなさそうじゃの」
少年の頭を軽く撫でると、二人は次の行動へ。
その頃酒場では、デルテとツヴァインが客に話を聞いていた。
「まあ、毎日毎日落書きされてるってわけでもねえんだがな。そうだな、週に一回あるかないかって所か？ だけど凄いぜ、本当に一晩で現れやがる。ありゃあやっぱり魔法の仕業かね？」
酔いかけた厳つい男が酒臭い息を吹きかけながら語る話も重要な情報だ。にっこりと微笑を崩さずに会釈をし、デルテはツヴァインの待つテーブルへと戻る。
「順番も適当、題材も統一性なし。やっぱり気まぐれに描いてるみたいですねぇ。あの見事な線画‥‥やっぱり単独犯なのかしら」
注文のワインを呑みながら推理をめぐらせる。若いエルフの女はギルドで依頼を受ける前に感心してみていた、何色かの線のみで描かれた絵を
「やっぱりシフールか？ だがシフールにしては規模が大きすぎる‥‥それにあれだけのセンスの持ち主が無名の存在というのも変だと思うが」
「あら、知名度は関係ないわ。どんな名作も引き出しにしまっておいたらただのお荷物。力を発揮出来る場所とそれを提供してくれる人‥‥そして有名になることによって生じるあれやこれや。それがわずらわしい人もいるでしょう？」
酒に酔わずとも話は盛り上がる。フランクとテュールが戻ってくる頃には、エールもワインもとっくに温くなっていた。
「だから、行動パターンからいったらシフールのバードじゃないかと」
「シフールにしては統率取れすぎだ。マーメイドのような我々とは違う知的種族か精霊の中の高等知性種じゃないかと思うんだが」
‥‥これで酒が本格的に入っていたらどうなるのだろう。まだまだ酔うほどの酒を呑む事を許されていない少年は、苦笑いを浮かべる老戦士の隣でぽやんと考えていた。
●夜。子はおろか獣も眠る時間に
大きかろう欠伸をひとつ噛み殺し、ツヴァインはテュール達の予測した地点を一つ一つ見回っていた。それほど大きくない街とはいえ、数件ある予測地点を息を潜めて見回るのはなかなか骨の折れる仕事である。‥‥なんだかこんな時間だというのに妙に人を見かけるのは気のせいだろうか。それともやはり謎の落書きに興味を持った者が他にもいるという事か。
「さて、何が出るやら‥‥間違ってもオーガやゴブリンの類ではないと思うがな」
見るものが見ればコロリといってしまいそうなニヒルな笑みを浮かべながら、男は自分の仕事を続ける。
‥‥しかし自分の息を殺すのに気を使い過ぎた為か。
後ろの方から飛び立った一匹の、と言うべきか、一人と言うべきか。
ひらりと飛び立った羽妖精の存在には気がつかなかったようだ。
まあ、ほんの少し班の入っただけの真っ黒な羽だ、この夜中に気がつくのは難しかろうて。
うふふ。
いひひ。
あっちへ行ったよ。
あっちへ行ったよ。
それならこっちは大丈夫。
今日も描こう綺麗な絵。
今日もみんなを驚かせるんだ。
細い小さな筆を数本と、小さな小さな絵の具皿を数枚。
ひらひらふわふわ、音もなく。
今宵もまたどこかの壁に、新しい絵が描かれ‥‥ようとしたその時。
「きゃーっ☆ ほら、やっぱりお仲間だぁっ♪」
思わずかけられたその言葉は、自分達にしか通じない筈の言葉。ふと目をやれば見た事のない顔のシフールとともに、どやどやと冒険者達が押しかけてきた。
「おや、そちらも彼らが目的で？」
「あなた方もでしたか。良かった、絵を目的にしてたらどうしようかと」
魔法のタイミングを見計らうもの、すでに談笑モードに入ってるもの。黒い羽と黒い衣装のシフール達の集団もまた逃げる隙を探っていたりおろおろと戸惑ったり諦め顔で笑いを浮かべるしかなかったりといろいろな反応を見せている。こういう時にこそ人の気性というのは見えてくる、と言うのは言い過ぎであろうか。
彼らがシフール達と出会う直前。実は、別の冒険者達の存在を嗅ぎ取っていた。彼らが目的としているのは絵か犯人か。どちらにせよついていった方がいい、という結論に達したのだ。
「そう言えばギルドでもう一つ、絵描きを探している依頼が出てたのう。あまり気に留めてはいなかったが‥‥そうか、絵描きとは落書き魔の事じゃったか」
「じゃあ、犯人捕まえたら彼らに引き渡せばいいって事？」
「まあ、そういう事になるわね。協力出来ればそれでいいんだけど、今はむやみに動け‥‥あ、あれっ！」
ツヴァインが無意識のうちに囮になってくれたのか。
三人＋αが隠れている近くで、謎の絵描きたちの仕事が動き出したのだった。
慌てふためくシフール達は話を聞く余裕などなさそうで、落書きを止めてくれと話そうにも目の前を行ったり来たりするのを見ているだけ。黒い？ いや、赤・青・白・黄色‥‥。舞い落ちる様々な顔料の粉が一行の顔を染めた。
事情は判らぬが、彼らから害意は感じられない。
「おう、お前さん方」
これから宴でも始めると言うような陽気な声で、分別盛りで貫禄のあるフランクがゲルマン語で声をかけた。冒険者としての経験は浅くとも、人生の経験がものを言う。闇夜に霜の降りるごとく、静かに一人のシフールが舞い降りて来た。
「おぬしがリーダーじゃろうか？」
「‥‥敵意は無いようね。みんな、心配しなくていいわよ」
仲間に向かって呼びかけると、ようやく混乱の乱舞は収まった。
「あの馬鹿なら今、向こうでお話の最中よ。変わりにあたしが話を聞くわ」
ふーん。と近づいて来るツヴァインとデルテを見やり、顔料で汚れた手を払い、木の枝に腰をかける。
「貴殿らは、シフールか？」
「そうよ？」
何故そんなことを聞くのかと可笑しそうに答えた。黒いと映った羽の色は、近くで見ると五色の顔料の粉に染まり、幽玄な趣を醸し出している。光に照らされて妖しく輝く神秘的な美しさは、彼女が精霊であると言っても疑いを持てぬ程である。自然、ツヴァインの言葉遣いも丁寧に為る。
「持ち主の許可無く無闇に描きたいからという理由で絵を描くのは止めて頂きたい」
声は、怒気を含まず子供に諭す如きであった。
「そうですよ。あなた、ほどの技量があるなら援助を申し出る人も多いでしょうに‥‥やはり、自由がいいのですか？」
シフールは、きょとんとして代わる代わる二人を眺め。
「援助って‥‥そんなこと考えても見たこと無いわ。あたしたちは描きたいから描いてるの。水を飲むのに、理由が要るかしら？ パンを食べるのに、深いわけなんてあるかしら？」
彼女らにとって、絵とはそう言うものらしい。描きたいから描く、知識も名誉も財産も、まるっきり埒外にある彼女らに、どう話を続けて良いものか？ 三人が顔を見合わせたとき。
「おーい！ 俺達の絵が認められたぞ。俺達に絵を描いて欲しいんだとよ」
リーダーらしきシフールが、向こうに行っていた仲間とともに帰ってきた。早口のシフール語で交わされる会話。先ほどとは打って変わって、楽しげな乱舞。
「‥‥で、わしらの頼みは聞いてくれるのかのぅ？」
小一時間後、辛抱強く成り行きを見守っていたフランクが、ぼやくように口を開いた。
「あ、ごめんなさい。あんまり素敵なことがあったんで忘れていたわ。えーと‥‥」
先ほどのシフールが思い出そうと努力する。
「落書きを止めて欲しいのじゃが‥‥」
「あ、そうだったわね。うん。いいわよ。だって、あたしたちに絵を描いて欲しい人が居るんですもん」
わざわざ描いて欲しく無い人のところに留まる必要は無い。
「なんだがなぁ‥‥」
気の抜けた声でツヴァインが肩をすくめた。
「よいよい。これで事件は解決じゃ」
フランク達は、労せず依頼条件をクリアしたのだ。
●そういやあいつはどうなった。
「いやしかし。結局ワシら、何もできんかったのぉ」
ギルドから報酬を受け取ったフランクが呟いた。まあ仕方がない、元々一つの目標に二つの依頼が出ていたのだから、誰かがどこかで割を食うのは良くある事。
「きちんと報酬が出たということはこれで良いという事であろう。それを言い出したら私なぞ、いもしない方向で落書き犯を探してうろうろうろついてただけの男だぞ」
そう言えばそうだった、とフランクはツヴァインの肩を叩く。彼が仲間の元に戻ってきたのはシフール達ともう一つのパーティの話し合いがすべて終わってからだった。どうやら自分の娘がもう一つの依頼に入っていたことをツヴァインは知らなかったらしい。
「‥‥そうじゃの。落書き魔はいなくなった。街は壁画で華やかに彩られ、画家は貴族に見初められて別荘で楽しく絵を書き続けているそうな。めでたしめでたしでいいんじゃろうな」
男二人が笑っているところへ、いっそう楽しげに笑うデルテが二人を手招きした。
何が起こった？ こっそりと覗いてみれば、そこには。
「でねでね、ラッキーアイテムは白い鳥の羽。いっぱい飾れば飾るほど幸運度は上昇だよ☆」
‥‥何が起きたのか、真っ赤な帽子と黄色いズボン、農民とは思えない出で立ちの男‥‥へっぽこ絵描きが真剣な顔でテュールのアドバイスを受けていた。
「絵が上手くなるおまじない‥‥ですって」
‥‥病は気からとも言いますし。もしかしたら、もしかするかもしれないけれど‥‥ねえ。
