Posy Blue

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月26日

●オープニング

『僕を‥‥信じてくれるかい? アリア。必ず、父上を説得してみせるよ。そして、君を花嫁にする。これはその、誓いの証だよ』
『待っているわ。ユリアス。貴方にだけ、永遠の愛を‥‥』

 彼女は、冒険者ギルドには不似合いな女性だった。
 暖かい日差しの中庭、もしくは炎が燃える暖炉の前がきっと彼女には良く似合う。
 小さく、品の良い、老婦人だった。
 柔らかい微笑みは、上手に、幸せな時を経た証の皺という年輪に飾られ、深い蒼の瞳は森奥に人知れず沸き出でる泉の水のように澄み渡っていた。
 丁寧に頭を下げた老婦人に、血気盛んな冒険者達も、一時、声を失い、背筋を伸ばす。
 椅子を差し出す若者もいた。
 老婦人は感謝の会釈をすると、椅子を断わった。
「このような場所で依頼をするのは初めてなので、失礼があったらお許しくださいね」
 最初にそう言い置いて彼女は真っ直ぐに、係員を見つめた。大きな声では無かったのに、何故かホールに響き渡ったように感じて‥‥冒険者達は耳を傾けた。
「守って‥‥頂けませんか? 私の『宝』を‥‥」
「宝?」
 聞き返した係員に、はいと頷いた老婦人は細い指をカバンの中に差し入れた。
「昔話を、聞いていただけますか? 今から思うと随分昔。私は若い娘でした‥‥」
 言葉と共に取り出された純白のハンカチがゆっくりと開かれる。舞い上がる蒼と、銀の光が彼女の声と共に静かに彼らの心に時の垣根を越えさせていた‥‥。


 ‥‥今から数十年も前。
 私はノルマンの商人の娘でした。
 父の商売は順調で、家から出ることさえ殆ど無く、そのまま親の命じるまま誰かと結婚するのが定め。
 そう思っていたある日。彼と出会ったのです。
『私は、ユリアス。君は?』
『‥‥アリアと申します』
 イギリスの騎士だった彼は優しく、誠実で‥‥、程なく私は彼に恋をしました。そして‥‥彼もまた
『アリア‥‥君を愛している』
 最初は家族の反対もありましたが、ユリアスの身分ありげな様子と誠実な態度。
 そして説得に折れ、結婚を許してくれたのです。
 やがて彼は、彼の家族の許しを得る為に故郷に戻りました。
『僕を‥‥信じてくれるかい? アリア。必ず、父上を説得してみせるよ。そして、君を花嫁にする。これはその、誓いの証だよ』
『待っているわ。ユリアス。貴方にだけ、永遠の愛を‥‥』
 私は、彼が贈ってくれたブローチを胸に、港から彼を見送りました。
『愛しているよ。アリア』
 彼の最後の言葉を胸に刻んで。
 ‥‥ですが、その後、私は彼に会うことは無かったのです。

「イギリスもノルマンも平和とは程遠い時代を経て参りました。その中で過ぎた時間は、あまりにも長く‥‥遠く二人を隔ててしまいました。捜しに行くこともできたかもしれませんが‥‥勇気が足りなかったのでしょうね。私には、待つことしかできませんでしたわ」
 彼女はそう言うと静かに、深い息をついた。
「これが‥‥そのブローチですか?」
 頷いた老婦人の手のひらに静かに抱かれたそれを、係員は手に取って呟いた。
「‥‥凄いな‥‥これは‥‥」
 繊細で精緻な作りに思わず息を呑まずにはいられない。それほどまでに見事なものだった。
 美しい5つの蒼玉を、銀の枠が十字に繋いでいる。
 一片の曇りも無い銀と蒼十字の間には虹のような輝きを写す月長石が四つ。
 静かな光を放っていた。中心の石は深いロイヤルブルー。
 彼女の瞳の色と良く似ていた。
 話だけを聞けば、ひょっとしたら彼女は悪い男に騙されていたのではないか、とさえ思えるが、そんな疑いはこの蒼が明らかに否定している。
「私は、今も一人で暮らしております。父の商いを受け継ぎ、養子を育て、引退した今も慎ましく暮らすのには不自由の無い生活でございますが‥‥最近、私の周囲に困った方が現れました」
 彼女はショールを取り、服の袖を捲くった。そこには一文字の傷が、痛々しいまでに刻まれている。明らかに、刀傷だ。
「ある商人がこの宝石を見て以来、私に譲ってくれと迫ってくるのです。宝石を蒐集しておられるとかで。無論、断ったのですがそれ以降、無頼の方に襲われたり、家に泥棒が入ることが多いのです。仕方が無いので今はいつもこうして持ち歩いております」
「その商人に止めろ、と言えば‥‥」
「彼が命じた、という証拠はありませんのよ。犯人を捕まえることも私には、できませんし」
 吐息と共に浮かべた悲しげな微笑に誰もが息を呑む。だが、一度目を閉じ、深く息を吸いもう一度開かれた目は人生を諦めた者のそれでは無かった。
 強ささえも湛えている。
「ですから、お願いでございます。私の宝を守ってください。もう長くは無いこの命。尽きるまでは彼と、共にありたいのです」
 それは、祈りにも似た願い。澄んだ三つの蒼玉が濡れるように輝く。
 この願いを断れる者がいるだろうか。

 貼り出された依頼書に老婦人は静かに頭を下げ、帰っていった。
 彼女を見送った冒険者は、その背に、はるか昔の思い出を、遠い昔、恋人を見送った時から変わらぬ眩しい心を見たような気がしてならなかった。

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea1281 セクスアリス・ブレアー(37歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●恋色の思い出
‥‥夢の中で思い出す。遠きあの日。
 苦しい事もあったけど、私は‥‥幸せだったわ。ねえ、ユリアス‥‥

「彼は笑顔がとても素敵で、いつも真面目な顔が、照れたように笑うのが‥‥あ、あら?」
「どうかなさいましたか? アリアさん?」
 急に話を止めた老婦人にカノン・レイウイング(ea6284)は心配そうに声をかけた。
 今まで、歌を作りたい。昔話を聞かせてほしい。そう頼んだ彼女の願いに照れながら、でも嬉しそうに答えてくれていたのに。
「私ったら、長々と、思い出話なんて他人には退屈なだけですのに‥‥それに恥ずかしいわ」
「そんなことは無いですよ。私達がお願いしたのですから。ねえ?」
「そうそう、バードとしてこんな美しい恋物語は聞き逃せないもの」
 相槌をうちながらリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は可愛い、と思う。
 頬を薔薇に染める様子はまるで少女のよう。
(「私も、いつかこの時や大切な人をこうして懐かしく思う時が来るのかしら‥‥」)
 エルフにとっての時は長い。でも‥‥まだ自分にはこんなに美しく思い出を語れない。
「アリア殿、怪我の具合はいかがかな?」
 暖かいスープと薬草茶の盆を持ってキッチンからヴェガ・キュアノス(ea7463)が歩み出てくる。二人が手伝いに立ち、側に暖かく白い湯気が舞い上がる。
「もう、大丈夫ですわ。ありがとう」
 にっこりと微笑むアリアにそうか、良かったとヴェガは笑うと椅子をひとつ。自分の側に引いた。
「では、わしにも聞かせて頂けぬか? 恋の話はいつの世も女の夜長の友と決まっておる」
「女‥‥ね。なら、オレは邪魔をしないように少し離れていよう」
 外を見ていたヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)は頭を掻きながら窓へと近づいていく。
 目配せし、外から見えないように。
 その意味に気付きヴェガとリュシエンヌは顔を合わせ囁き合うが‥‥アリアは知らない。
「あら、照れ屋さんですのね‥‥」
 クスクスクス、笑い声と共にアリアは手に取ったカップを置くと話し始めた。声は淡いアルト。
 三人は静かに声を潜めて、ヴァレスは身体を潜めて話を聞く。
 遠い昔のこと。と彼女は言う。
 でも、今も鮮明に残るそれは、褪せる事のない思い出。胸の宝石よりも輝いていると、彼らは知った。

 中を窺い、外に佇む者達はそれを知らず、思いもしなかったであろうが‥‥。

 さて、過去と向き合う者達がいる頃、未来を捜す者達もいた。
 若い二人の冒険者が商人ギルドの扉を叩く。
「ちょっと、聞きたい事があるじゃ‥‥あるんだけど」
 つい、いつもの調子を出しそうになったジェイラン・マルフィー(ea3000)は利賀桐まくる(ea5297)に突かれ一応、人に話を聞く言葉遣いを思い出した。
「なんだ? お若いの?」
「あのさ‥‥宝石を蒐集してる商人って知っている?」
「さあなあ?」
「‥‥そういわず思い出してくれよ。‥‥ちょっとヤバげなヤツ?」
 テーブルの下から差し出された硬貨が手から手へ動く。そして
「‥‥」
 小声の言葉の直後、顔を背けた商人にそれ以上の言葉はかけず、ジェイランは立ち上がった。
 ポン、軽く叩いた肩が感謝の合図だ。
「さて、とまくるちゃんの方は‥‥あ、いたいた」
 用事が済んだ彼は、連れを捜した。視線の先、交易商人達に囲まれてまくるは、少し戸惑っている。
「あ、あの‥‥イギリスの‥‥騎士で‥‥ユリアス‥‥と‥‥」
「まあまあ、飲めよ。お嬢ちゃん」
 女の子にはしゃぐ商人どもにムッときて、彼が腕をまくりかけた時だった。
 少し離れたテーブルに座っていた影が、ゆっくりとまくるに向かって近づき、後ろに立つ。肩に手をかけた?
「まくるちゃん!」
 駆け寄るジェイランは、そこで驚きの表情を見せるまくるを見た。
 そして数瞬後、自分も同じ顔を‥‥する。

『時間が無い。おびき寄せになるかな‥‥。皆、よろしく頼むよ』
 円巴(ea3738)の言葉に仲間達は頷いて‥‥散っていった。

●招かれざる客への招待
 近所では評判になっている。
「商家の隠居アリアが病に倒れ、危篤らしい」
 ただの噂、では無い。根拠はいくつもある。さっきも‥‥
「アリアさんが‥‥危篤だなんて、しんじられない」
 今にも泣き出しそうな赤い髪の小さな少女を、異国風の男は優しく慰めていた。
「ブローチの事といい‥‥あの方は、覚悟しておいでのようだ。ちゃんとご挨拶せねばな‥‥行こう」
 深刻な顔で歩いていく二人組。
 薬師らしい人物が家を訪れ、
「‥‥ないわ‥‥困ったわ」
 と薬師の指示だと女性が薬を探していく。
「何をお探しだい? 必要なら取り寄せるよ」
 声をかけた店主に彼女は
「間に合わないの‥‥」
 そう言って寂しげに去っていったという。
『彼女は、もう長くないらしい』
『冒険者や、家族、親しい者を呼んで身辺の整理をしているらしい』
 アリアは周囲に愛されていた。だから、噂は風よりも早く人々の間を駆け抜けて行く。
「うまく行ったであろうか‥‥」
 壁に背を付け石動悠一郎(ea8417)は腕組みをした。自分達を見張る影が走り去ったのが今、見えた。
 それが策略。
 冒険者達が流した偽の噂である事を彼らは、まだ知る由も無い。

 ドン!
「あのババアが危篤? 宝石は? 宝石はどうするつもりなのだ!」
 苛立つ雇い主が不機嫌に机を叩いたのを見て、男達は肩を竦めた。
 宝石の事になると見境がなくなる。彼らの雇い主はそういう男だった。
 街で流れる噂を運べばこうなる事は解っていたのだが‥‥想像通り商人は声を荒げて命令をする。
「あの石を‥‥万が一にも墓場まで持っていかれてはかなわぬ! 良いか、お前達‥‥」
「お待ちくださいな」
 彼らが振り返ったそこには場にそぐわぬ、派手な顔立ちの女性が佇んでいた。
「誰だ? お前は?」
「あら、失礼。わたくしはキラ・ジェネシコフ(ea4100)と申しますの。いいお話があるのですけど」
 彼女は髪をかきあげた。
「わたくしを雇いません? 老婦人は冒険者を雇ったわ。もし雇ってくれるなら、あちらの作戦やらを渡しても宜しいのですけど」
 さらにその辺の男達よりもずっと役に立ちますわ、と笑う。挑発的に。
「何を!」
 激昂して襲い掛からんばかりの男達を彼らの雇い主は止める。
「何を知っている。言ってみろ」
 願っていた返事にキラは胸の中である事を思った。
 だが、それを顔には出さず、口にもせず、代わりに彼の耳に口を寄せる。
「何?」
 いくつかの秘密と、提案。
 そして‥‥キラは彼の後ろに立つものとなった。

●影の向こうの闇
 アッシュ・クライン(ea3102)は息を呑む。
「素晴らしいサファイア。ムーンストーンも蒼い虹彩を湛えて、こんなに美しい石は久しぶりに‥‥見る。ありがとうございます」
 椅子に座るアリアの手にしっかりとブローチを返すと、彼は膝をついた。ブローチとそれが握られた手に自分の手を重ねる。
 彼女の座る椅子を守るカノンの手には白いハンカチ。
 さっきまでここには招かれざる客がいた。一人の神聖騎士を伴って。
 勝手にやってきて、言いたい事を言い、勝手に帰っていった。
 自分以外の者を見ようとしない‥‥愚かな男。
 だから、気付かなかったろう。
 はらりと落ちた白いハンカチも、交わされた声にならない合図も。
 今夜、来る筈だ。
「必ず、お守りします。貴方とこの奇跡の蒼を‥‥」

 二つの影が、館に消え、いくつかの影が館より現れ、闇に、消え‥‥無かった。
 ムニ?
 館の前でぶつかった柔らかい感触に彼らは足を止める。
「きゃあ! もうイヤン?」
「?」
 倒れた影が手を伸ばす。女?
「埃がついちゃったわ。ねえ、オトコだったら、責任をとってぇん♪」
 震える胸、闇夜にも浮かぶ白い息と肌。
「どう? 私とイイコトしない? 暖かくしてアゲル☆」
 手をとられた男は二人、顔を見合わせ、オンナの肩を抱いた。
「そうこなくっちゃ。ちゅっ♪」
「お、おい! 仕事は?」
 微かな文句は無視、やがて道の影、闇に消えたオトコとオンナの甘い声が聞こえる。
 残された者達は今度こそ彼らとは違う闇に消えた。
 ほんの少しの心残りを置いて。

 それは簡単な仕事の筈だった。
 家にいるのは老婦人と、二人の冒険者。
 闇にまぎれ数倍の人数で取り囲めば簡単に。だから彼らは遠慮などしなかった。
 DON!!
 ドアを蹴り飛ばし部屋に入る。中は薄暗いが見える。教えられた場所の目的の椅子と、その前に立つ二人の影。
「左右から挟みこめ! そいつらを倒せ!」 
 男が指示を出す。それに従って入った人物が挟み撃ちをする筈だった。だが、聞こえたのは。
 ドスッ! 鈍い音と、低いうめき声。後ろから聞こえる仲間の倒れる音。
「お、おい!!」
 彼がさっき、ここに訪ねてきていたら気付いただろう。
 前に立っている二人が、主が指示した二人では無かった事に。
 戸惑ううちに、低い呻き声が一つ、二つ、三つ‥‥。倒れる音も同じだけ。
 周囲を見回す頭は見る。右に剣を構える騎士、左にスクロールを広げる青年。奥には自分を睨む三人の女。
「くそ!」
 自分達が襲撃者の筈だった。だが、今の彼は罠の中の兎と同じ。
 脱兎のごとく、逃げ出した。

 庭には仲間が見張りに立っている。だから、彼は庭に出た。
「おい、皆、退却‥‥?」
 声を上げるが返事は返らない。返ってくるのはうなり声、出迎えるのは‥‥白刃。
「お前‥‥頭か?」
 冷静に聞こえる女の声が、ジリリ、彼を追い詰める。
「逃がさん!」
 ヒュン!
 剣圧が彼を襲い、風が足元に突き刺さった。それがダーツであると下を向いた時。
「ウゲッ!」
 彼は見た。仲間達が草に絡められ‥‥倒れるありさまを。
「く、くそっ!!」
 敗北は解っていた。それでも、男は逃げるしかなかったのだ。

 突入班は、もう殆どいない。最後の望みは外で待っている筈の、仲間達。
 男は、最後の力を振り絞って駆けた。が‥‥迎えたのは逃げた筈の、いや、それより遥かに長い白刃だった。
「老婦人に斬りかかるか‥‥ゲスが!」
 吐き出すようなその目は、もう敵を完全に捕らえている。
「我、武の理を持て斬を飛ばす‥‥飛斬!」
「く、く、く‥‥そっ‥‥」
 男が最後に見たのは風の刃。最後に聞いたのは駆け寄ってくる足音と
「まだ、捕らえてなかったのに」
「捕まえて無かったのか?」
 嘆息したような、唖然としたような、そんな声だった。
 男の意識は闇に溶けた。

「で、どうするのだ?」
 襲ってくる闇、迎え撃つ闇、どちらも消えた光の中。巴は息をついた。
 理由は簡単。捕まえて雇い主を吐かせる予定の相手を全部打ちのめしてしまったからだ。
「さて、どうしたらよかろうか‥‥」
「あら♪ ぐっどたいみんぐ、だったみたいねぇん?」
 ニッコリと笑って近づいてくる女性に彼らが思い当たるまで少し時間がかかった。
「貴女は、もしや、冒険者?」
「そう、セクスアリス・ブレアー(ea1281) 遅れてごめんなさいねぇ。はい、お・み・や・げ」
 差し出された『お土産』に出てきた仲間達は息を飲む。見事なロープワークで縛られた男が二匹?
 襲撃者の仲間だろう。
「お料理も、任せてく・れ・る?」
 ウインクと共に彼女は胸を大きく揺らせた。
 カアッ! 顔を赤らめてヴァレスは横を向いた。初恋もまだな少年には少々刺激が強すぎたかもしれない。
 初々しいカップルも、顔を背けた。
 若い女衆も騎士もその場を立ち去った。『お料理』の意味が解るからだ。
 かくて、
「吐け!」
 ビシッ!
「おしおき!」
 ビシッ!!
『お料理』された賊は、全てを吐き出して、天国から、地獄へと‥‥堕ちていった。

 商人の心は今、薔薇色だった。
「いよいよ、あの美しい蒼が私のものに‥‥」
 外が騒がしくなってきた。
 人の気配がする。嬉しそうに椅子から立ち上がると男は、廊下に感じた気配に自分から扉を開けた。
「おお、来たか? 何だ! お前達は?」
 そこに立っていたのは、部下達ではなかった。見覚えの無い者達。
 彼らが手に持っていたのはブローチではなかった。
 ロープ、そして剣。
「自白したよ。もう逃げられない」
 見下したような言葉に男の顔は白になる。
「た、助けてくれ!」
 商人は美しき騎士の元へと駆け寄った。彼女は、自分を守ってくれる筈‥‥
「えっ?」
 トン!
 商人はその丸い体を転がした。自分から、彼らの前に近づいていく形になる。
「ど、どうして‥‥?」
 縋るような目つきの商人に彼を押したキラはニッコリと微笑んだ。サイズを構えた死神の笑みで。
「失礼。二重契約はしませんのよ? 冒険者を甘く見ない方が宜しくてよ」
 冒険者。その言葉に商人は膝をつく。
 全てが理解できた。
(「もう、おしまいだ‥‥」)
 引き立てられていく商人を、冴えた夜の闇が迎える。
 商人の未来は、闇色だった。

●夢よりも美しい夢
 冒険者達は、見つめていた。
 幸せそうな涙を流す。老婦人いや、アリアを。
「出会った時は驚きましたわ」
 まくるの言葉にジェイランも頷く。一人の青年が今、アリアの側に立っている。
「貴方は‥‥ユリアス?」
「ユリアスは、僕の祖父の兄です」
 彼は笑う。その笑顔は
「‥‥なんて、そっくりなの‥‥」
 涙の顔が心から安らいだ、穏やかな顔に変わってくのを見て、彼は静かに手をとった。
「僕は、貴女に伝えるために来ました。ユリアスは、アリア‥‥貴女を最後まで思っていました、と」
 カノンは竪琴を軽く指で弾く。彼女の愛の歌は、幸せな結末で歌い終える事ができそうだ。
 ヴェガは遠くから彼女の胸に光る青を見つめた。
 誰かを見つめる青、見守る蒼。空の色にもよく似た‥‥。

 何故、会えなかったか。そんなことは、もういい。
 ただ、長い時の終わり、彼女はきっと幸せな夢を見て眠りにつく事ができるだろう。
 それは、彼女の魂に相応しい。
 冒険者達はそう確信していた。

「じぇいらん‥‥くん‥‥いつまでも‥‥元気で居てね‥‥」
「まくるちゃん‥‥おいらは絶対君の側にいるじゃん」

 依頼を終えて歩き出す冒険者達を、手をつなぐ恋人達を、見守る蒼は、どこまでも澄みきっていた。

●コミックリプレイ

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