悪魔を叩き出せ!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:15人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月21日〜08月26日
リプレイ公開日:2004年08月30日
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●オープニング
パリに近いその町に没落貴族ラッシャー家の屋敷はあった。かつては名のある貴族たちが足しげく通ったというその屋敷も今や無惨に荒れ果て、さながら幽霊屋敷のごとき有様。いや、幽霊屋敷という呼び名はふさわしくなかろう。なぜならその屋敷に取り憑いていたのは、幽霊よりもたちの悪いものであったからだ。
声を大にして言うのも憚られることだが、その屋敷には悪魔が取り憑いていたのである!
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
胸くその悪くなる下品なダミ声の笑いと共に、寝室の壁に開いた穴から飛び出したのは、背中にコウモリの羽を生やした醜い子鬼。インプと呼ばれるたちの悪い小悪魔だ。
「きゃあああああああああああ〜っ!!」
続く絶叫の主は、奥方のマデリン・ラッシャー。手にしたホウキでインプをたたき落とそうとするが、インプは笑いながら飛び回るばかり。たまりかねて、奥方様は書斎に駆け込んだ。
「あなたっ! 悪魔よっ! 悪魔が出たのよっ!」
書斎の中では現当主のエドガルド・ラッシャーが机の上にカードを広げ、無気力そのものの顔で時間を潰していた。
「ああ‥‥死に神のカードが出ちゃったよ‥‥」
「あなた! またあの気持ち悪い悪魔が出たのよ! 何とかしたらどうなの!?」
「今日は日が悪いよ‥‥。だって死に神のカードが出たんだよ‥‥」
「いい加減にしてちょうだい! 屋敷に悪魔が住み着いたってのに、あなたったら何もしないで毎日毎日カード占いばっかり!」
「だって‥‥死に神のカードが出たんだよ。‥‥今日は悪い日だから、何もしないでいるのが一番いいんだ」
「この!! 甲斐性なしぃぃぃーっ!!!!!!!!」
ばし! ばし! ばし! ばし!
ぶち切れた奥方様は現当主を思いっきりホウキでぶちのめす。現当主は安楽椅子から転げ落ち、情けない顔で哀願した。
「や‥‥やめてくれ‥‥。痛いじゃないか‥‥」
そこへ駆け込んできたのが奥方様の二人の子ども。
「ママ〜! 怖いよぉ〜!」
「悪魔が僕の髪の毛を引っ張るんだよぉ〜!」
「よしよし、もう大丈夫よ。ママがついてますからね」
マデリンは二人の子どもを抱きしめると、エドガルドに向かってきっぱりと言い放った。
「あなたのような意気地なしと結婚したのが間違いだったわ! 今日限りで私はこの屋敷から出ていきます! さあ坊やたち、ママと一緒に実家に帰りましょう! ここにいるパパみたいな意気地なしの大人になってはいけませんよ!」
こうして奥方様は屋敷を出ていった。後に残ったエドガルドは安楽椅子に這い上がると、再び無気力な顔でカード占いを始めた。
「ああ、とうとうマデリンと子どもたちまでこの屋敷から出ていってしまった‥‥。いったい‥‥どうしてこうなっちゃうんだろう? カードに訊いてみよう‥‥ああ、また死に神のカードが出ちゃったよ」
と、どこからともなく気持ち悪いダミ声の歌が聞こえてきた。
死ねぇ〜♪ 役立たず〜♪ 死ねぇ〜♪ ごくつぶし〜♪
おまえなんか♪ 生きていても♪ しょうがない♪
はやく死んだほうが♪ 世のためだ〜♪
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
呆けた表情のエドガルド、無気力に呆けた表情のままその歌声にじっと聴き入っていたが、やがて今にも死にそうな声でつぶやいた。
「鬱だ‥‥死のう」
のろのろと安楽椅子から立ち上がると物置へ出かけ、ロープを持って戻ってきた。
「ああ‥‥首を吊るのも面倒くさい‥‥」
ロープを結んで輪を作り、安楽椅子の上に立って天井の飾り燭台にロープをひっかけ、ロープの輪の中に首を突っ込んだ。
「旦那様! 早まってはなりませぬ!」
血相変えて書斎に飛び込んできたのは、3代前の当主の頃からお屋敷で働いてきた老執事。
「どうして邪魔するんだ? せっかく苦労して縄をかけたのに‥‥」
「なりませぬ! それだけはなりませぬ!」
老執事がエドガルドの体を押さえてじたばたしているうちに、天井の飾り燭台が強い力でロープに引っ張られて外れ、エドガルドの頭の上に落っこちた。
ごんっ!
「痛ぁ‥‥!」
ふらふらと床にへたり込むエドガルド。
「旦那様! しっかりなさいませぇ!」
気をしっかりさせようと、老執事がエドガルドの体を揺すっていると、その耳にあのダミ声の歌が聞こえてきた。
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
死ねぇ〜♪ 死ねぇ〜♪ 首吊って死ねぇ〜♪
どこから聞こえてくるのかと見れば、部屋の隅っこの床に穴が開き、そこからインプが首を出して歌っている。老執事に見つかったのが分かると、インプの首はサッと引っ込んだ。
「おのれ悪魔め! よくも旦那様をたぶらかしおったな!」
老執事は書斎を飛び出すと、どう猛な番犬を連れて戻ってきた。
「行けぇ、ロシナンテ! 悪魔をかみ殺してしまえ!」
床の穴の中へ番犬をけしかける。ところが、しばらくすると穴の中から緑色の煙がもあっと立ち上り。番犬がふらふらになってはい上がってきた。番犬は口から泡を吹きながら全身をびくびく痙攣させ、老執事の見ている前で息絶えた。
「うわぁ! わしのロシナンテが、わしのロシナンテが‥‥悪魔の毒にやられたぁ!!」
お屋敷の悪魔騒ぎを聞きつけてやってきたのが、近くの教会に住むクレリック。屋敷に足を踏み入れた途端、ドブ臭い悪臭が鼻をつく。
「むむ、これはひどい‥‥」
しかめ面で鼻を押さえなつつ、天井・壁・床・所構わず悪魔に穴を開けられて荒れ放題になった屋敷の中を見て唖然としていると、インプが小さな手桶をぶら下げて飛んできた。手桶の中にはドブの臭いのする汚い水。インプはクレリックの姿を見ると、床の穴へ逃げるように飛び込んだ。その穴の中へクレリックが首を突っ込み、目をこらしてよく見ると、床の下は丸くもこもこした緑色のカビの塊だらけ。これはスモールビリジアンモールドといい、ダンジョンなどのじめじめした場所に生える厄介な毒カビの塊だ。インプはダミ声で歌を歌いながら、その毒カビの塊にせっせと汚い水をやって育てている。
増えろ〜♪ 増えろ〜♪ もっと増えろ〜♪
おれのすみかはカビ地獄〜♪
「おお、神よ!」
クレリックは穴から顔を上げて、深いため息と共に老執事に告げた。
「これではとても私一人の手には負えません。冒険者ギルドに依頼を出して悪魔を退治してもらいましょう」
●リプレイ本文
●ラッシャー家の過去
依頼の実行に先立ち、イルニアス・エルトファーム(ea1625)はラッシャー家の当代当主であるエドガルド・ラッシャーの身元調査をパリで行った。エドガルドを知る者たちの話によれば、ラッシャー家はもともとパリの名門貴族に連なる家柄で、先代当主もそれなりに裕福な生活を送っていた。その家運が傾き始めたきっかけが10年ほど前にイスパニア沖で起きた海難事故だった。先の当主であるエドガルドの父はその妻と共に難破した船に乗っており、運悪く逃げ遅れて妻と共に海に沈んだと伝えられている。先代当主が残した土地や財物も、遺産を狙う親族たちの策謀によって次々とむしりとられ、エドガルドに残されたのは妻と二人の子ども、そして先代当主が住んだ屋敷とその周辺の土地だけになってしまった。
その財産の多くを失ったエドガルドは、次第にパリの貴族たちからも相手にされなくなり、最近では仕事らしい仕事もせずに毎日を屋敷に引きこもって過ごし、その日その日の暮らしは妻方の親族から細々と送られてくる仕送りだけでやりくりしていたという。
「やれやれ、何とも心寒くなる話だ」
エドガルドの身辺を当たって色々と話を聞いていると、まるで貴族というものがお上品な仮面をかぶったハゲタカのようにも思えてくる。世の貴族がおしなべてそうとは限らぬのだろうが、一見華やかに見える世界の薄汚れた舞台裏を見せつけられるのは、なんとも気が滅入るものだ。
聞けば屋敷を出ていったエドガルドの妻のマデリンは、子どもたちと一緒にパリの宿屋に宿泊中だという。依頼外のことではあったが、イルニアスはその宿屋を訪ねてみた。
マデリンはイルニアスとの面会に応じたものの、イルニアスは3時間ばかりも延々と愚痴を聞かされる羽目になった。
「本当にあの人ったら‥‥!」
マデリンがひとしきり、吐き出すものを吐き出したのを見計らって、イルニアスは頼み込んだ。
「お気持ちはよく分かるが、エドガルド殿にもう一度だけチャンスを与えてあげられないだろうか?」
「もう一度チャンスをですって!?」
思わずマデリンは感情的になって叫ぶ。
「そんな頼み事をするあなたの気が知れないわ!」
「そうは言ってもマデリン殿、エドガルド殿も昔はあんな風ではなかったはずだ。どうかもう一度チャンスを与えて欲しい」
強く言い聞かせると、マデリンも何とか自分を落ち着かせて言葉を返してきた。
「それほどまでに言うなら、エドガルドにもう一度チャンスをあげましょう。ただし、一度だけですよ」
「ところで例の占いのカードだが、どこから入手したものだろうか?」
「確かあれは‥‥」
マデリンは記憶のページを繰りながら答えた。
「あれは去年の冬だったわ。パリの裏町の怪しげな骨董屋ですごく占いが当たるカードを買ってきたんだって、エドガルドが見せてくれたのよ。エドガルドはそれまでも占いに凝っていたんだけど、あのカードを手に入れてからは毎日毎日カードに取り憑かれたように占いに夢中になって‥‥そんな日が続いた挙げ句に、屋敷に悪魔が住み着くようになったんだわ」
「それからもう一つお願いがある。エドガルド殿にとって、何か昔の思い出になる品を貸してもらえないだろうか? 説得する時に役に立つかもしれない」
「これはどうかしら?」
マデリンは手元にあった小箱を開け、銀細工のペンダントを取り出した。
「昔、結婚する前にエドガルドから貰ったペンダントよ。あの頃はエドの父君と母君もお元気で、エドもしっかりしていてわ。あの時、私はパリの東にあるエドの父君の別荘を訪れていて、ちょっと木陰で一休みしている時に、エドが恥ずかしそうにプレゼントしてくれたの。その別荘も、今では他人のものになってしまったけど‥‥」
しばらくの間、マデリンは遠い思い出にひたるようにペンダントを見つめていたが、それをイルニアスに手渡して言った。
「お屋敷に行ったらエドに伝えて。私はここで、あなたを待っているって」
●悪魔の館
その日は曇り空。うねるように空を覆う灰色の雲を背にして、ラッシャー家の屋敷はその不気味なたたずまいを見せていた。その錆が浮いた鉄門の前に僧服をまとった男が一人立つ。この近所の教会に住むクレリックで、名前はピエール。今回の悪魔退治の依頼主だ。約束の時間になり、冒険者たちが一人また一人と姿を現を現した。
「おお、こんなに集まっていただけるとは心強い」
集まってきた人数の多さにピエールは顔をほころばせる。最後にやってきたのはルー・ノース(ea4086)とエル・サーディミスト(ea1743)の二人連れ。
「ふぇぇん、ギルドのイジメですぅ〜っ、詐欺ですぅ‥‥くすんくすん。僕、戦闘ってむいてないですのにぃ‥‥」
シフールのルーは泣き言をつぶやきながら、荷物持ちのエルの肩にしがみついている。ギルドの人ごみに流され、よくわからないうちに手続き終了した後で、敵が恐ろしい悪魔に毒カビだと知って顔から血の気が引いたが、すでに後の祭り。
「では参りましょう」
ピエールは鉄門を開くと、冒険者たちを敷地の中に招き入れた。
「へぇ〜、いかにも悪魔に取り憑かれた館って感じだね」
不気味な屋敷を前にしてエリー・エル(ea5970)がつぶやいた時、屋敷の煙突の上に座っていた醜悪な影が、さっと翼を広げて屋敷の中へ飛び込むのが見えた。
「あっ! 悪魔だ! 悪魔だ!」
思わず屋敷へ駆けて行こうとしたエリーを、アトス・ラフェール(ea2179)が押しとどめる。
「まだ早い。色々と準備が必要です」
「めんどくさいなぁ、さっさと突入しちゃえばいいのにぃ」
口では怒ったように言うが、エリーは何だか楽しそうだ。
冒険者たちが準備のために離れの物置小屋へ向かうと、そこには小さな墓があり、老執事が手を合わせて祈りを捧げていた。
『忠犬ロシナンテここに眠る』
墓標に書かれた碑文を読み、ユリア・フィーベル(ea5624)もひざまずいて祈りを捧げる。
「ロシナンテは忠犬でしたね。飼い主に似たのでしょう」
薊 鬼十郎(ea4004)がジャパン語で感慨深くつぶやくと、老執事は懇願した。
「お願いですじゃ! ロシナンテの仇をうってくだされ!」
カビの胞子避けのマスク、屋敷の見取り図、大鍋、その他必要なものを調達し、打ち合わせを終えると、冒険者たちは屋敷へ向かう。玄関まで来ると、エリーが全員にグッドラックの魔法をかける。
「それじゃみんな、がんばってね〜! 私は外で待ってるから」
エリー・エル、イルニアス、蒼月 潮(ea5521)とそのサポート役のマギ・ウォルター、ピエール、老執事の5人を外に残し、一行は屋敷の中へ。重たい樫の玄関扉が開くと、むっとするドブ臭い臭気が鼻をついた。
「ひどい‥‥。なんで、こんな状態になるまで放っておいたんですか?」
天井も壁も床も穴と汚れだらけという惨状に、リラ・ティーファ(ea1606)は思わず絶句。そのまま一行は廊下伝いに進んでいく。
「西洋の建築物は風通し悪いって聞いたけど、これだけ穴が開いたらかえって風通しが良さそう」
などとジャパン語でつぶやいている薊の後ろでは、相変わらずエルの肩にしがみついたルーが目をきょろきょろ。貴族の屋敷に入るのは初めてで、見るもの全てが物珍しいのだ。するといきなり、ルーの真横から下品なダミ声の笑い声が。
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
開け放たれた廊下の窓から、一匹のインプが屋敷の中をのぞき込んでいた。
「うわ、怖いよぉ!」
ルゥが悲鳴をあげるや、ユリア・フィーベル(ea5624)がさっと飛び出して窓の鎧戸を閉じ、インプを外へ閉め出した。
「まずは、屋内戦闘を極力避けるべきでしょうね。これ以上、屋敷に被害を出さないためにもインプを外におびき出さなければ」
そう言うユリアに、ジィ・ジ(ea3484)が正反対の意見を述べる。
「わたくしが思うに、外に逃げられるとかえって面倒でございます。ここは全ての窓を閉じ、インプを屋敷の中に閉じこめるのが得策かと‥‥」
言ってるそばから、外に閉め出したはずのインプが床の穴から首を出して、げへへと笑う。ジィが近づくとインプは素早く床の穴の中に消え、しばらくすると窓の外からインプの笑いが聞こえてきた。
「‥‥やれやれ。これでは埒があきませんな」
ぼやくジィ。アウル・ファングオル(ea4465)が皮肉っぽくつぶやく。
「しかし、貴族の屋敷に住みたいとは身の程知らずな奴らめ。下等な悪魔ゴトキが」
「ねぇ、これ見てよ」
ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)が緑色の丸い玉をごろごろ転がしながらやってきた。
「床の穴の下に生えてたのを持ってきたんだ」
それを見てバニス・グレイ(ea4815)が目を丸くした。
「それはスモールビリジアンモールドじゃないか。どうして平気で転がせるんだ?」
「ちょっと実験のつもりで、コアギュレイトの魔法をかけてみたんだ。できれば持ち帰ってくれって友達には言われてたんだけど‥‥臭いからやめよう」
ユリアが言った。
「まずは打ち合わせ通り、エドガルドを避難させましょう」
ところが書斎にたどり着くと、中から鍵がかかっている。ドアに耳を押し当てると、中から声が。
「痛いよ〜‥‥痛いよ〜‥‥」
「もしやエドガルド殿に何かあったのでは!? 仕方ありません! ──たああっ!!」
アウルがバーストアタックで拳を突き入れ、ドアを叩き壊した。
「ああ、また余計に風通しがよくなっちゃった」
壊れた扉を見てしげしげとつぶやく薊。
冒険者たちが部屋に踏み込むと、エドガルドがだらしなく安楽椅子に寝そべり、自分の体をナイフでちくちく突っついていた。
「首吊りがだめならナイフで死のうと思ったけど、こんなに切るのが痛くちゃ死ねないじゃないか‥‥」
「エドガルドさん! 危険だから避難してください!」
リラの説得に、エドガルドは呆けたまなざしで答える。
「いやだ‥‥めんどくさい‥‥」
「それでは仕方ありません」
アルル・ベルティーノ(ea4470)とリラの手が伸び、机の上に散らばった占いカードを掻き集めて取り上げようとした。
「やめてくれ! それは私のカードなんだ!」
慌てるエドガルドをどやしつけたのはアトス。
「いい加減に目を覚ませ!! あなたはカードと家族のどちらが大切なのだ!?」
「ひぃ‥‥」
大声に驚いて安楽椅子に沈み込んだエドガルドを、アルルがロープで椅子に縛り付ける。
「ごめんなさい、貴方には生きる自信を持って欲しいの」
ジィは取り上げたカードを子細に検分して言った。
「ふむふむ。見たところは正常なセットの占いカードですな。死に神のカードが多いわけでもなし。ということは、呪いでもかかっているのでしょうかな?」
すると、デティクトアンデットの魔法でインプの動きを探っていたリラが叫んだ。
「天井の穴に気をつけて! そこにインプがいます!」
●悪魔の魔力恐るべし
天井の穴からダミ声の不気味な歌が聞こえてきた。
死ね〜♪ 死ね〜♪ おまえら全員、皆殺し〜♪
その歌を聞いて、ユージィンが不敵にも言い放つ。
「もしかしなくても、僕が今まで聞いた中で、とびきりの音痴だね!」
天井の穴からインプが顔を出す。またしてもユージィン、その顔を指さして大声で言う。
「しかも臭いし!」
インプの顔がひっこんだ。しばらくすると緑色の毒カビ玉が、雪崩を打って天井の穴から落ちてきた。
ぼわっ! ぼわっ! ぼわっ!
破裂音と共に毒胞子が盛大にまき散らされる。
「きゃっ!」
「うわっ!」
「みんな息を止めて!」
アウルは大声で叫ぶと、マスク越しに口を押さえる。気休め程度の布のマスクだから、隙間から毒胞子を肺に吸い込んだら大変だ。
「風の精霊よ! 清らかな空気をもたらしたまえ! クリエイトエアー!」
やけに明瞭なアルルの声が緑の煙の中に響き渡り、やがて新鮮な空気が緑の煙を押しやった。床にはマスクを外したアルルが倒れ、リラがアンチドートで手当てする。
「大丈夫!? 毒胞子を吸い込んだんだね」
「だって、マスクしてたらうまく呪文が唱えられないでしょう?」
ばしゃあっ!!!!
天井からアルルとリラの真上に、ドブ臭い汚水が滝のように降り注ぐ。
「きゃあっ!!」
「うわなにこれ!!」
アルルもリラも汚水でずぶ濡れ。すると天井から汚い桶が投げつけられ、ウォルター・ヘイワード(ea3260)の頭にゴンと当たる。
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
馬鹿にするような下卑た笑いが天井から響く。ウォルターがキッと天井の穴をにらんで言った。
「悪戯も度が過ぎると悪質です。彼らには痛い目にあってもらいましょう」
突然、エドガルドが叫ぶ!
「うわあああああ! 悪魔だぁ!!」
皆の注意が天井に向けられた隙をついて、もう1匹の別のインプがエドガルドに忍び寄っていたのだ。
「サルになっちまえぇぇ〜ぃ! とらんすふぉ〜む!!」
インプがエドガルドの体をつかみ、ダミ声で怪しげな呪文を唱えるや、冒険者たちの目の前で信じられないことが起きた。エドガルドの体が見る見るうちに縮こまり、尻尾の長い小さなサルに変わってしまったのだ。
「う、嘘だろ‥‥!?」
「なんと! ‥‥これが悪魔の魔力ですか」
唖然としてつぶやくアウルとウォルター。
「逃がさないぞ!」
とっさに駆け寄ったサラサ・フローライト(ea3026)が、素手でおもいっきりインプをぶちのめす。拳は見事にインプの鼻面に命中。体力のないサラサのパンチとはいえ、大の大人だって思わず鼻を押さえてうめくほどの勢いだ。ところがインプは鳴き声一つあげずにひらりと宙に舞い上がると、サラサにつかみかかって呪文を唱えた。
「ニワトリになっちまえぇぇ〜ぃ! とらんすふぉ〜む!!」
サラサの体があっという間に縮み、真っ黒なニワトリに変わった。
「うわ! 今度はサラサが!」
「いったいどうすればいい!?」
あまりにも意外な展開に、冒険者たちは平静を失って変わり果てたサラサの姿を見つめるばかり。サラサはといえば、コケコケ鳴きながら首を傾げ、いたずらに羽をばたつかせるばかり。まるで自分の身に何が起きたのか理解できない様子だ。
インプがサラサをつかんで床の穴の中に放り込んだ。
「コケーッ!! コケーッ!!」
今にも殺されるようなニワトリの叫びと共に、穴から緑色の煙がもあっと立ち上る。
「大変だ! サラサが!」
アウルがとっさにバーストアタックで床をぶち抜き、毒胞子を吸い込んで息も絶え絶えのニワトリを引っ張り上げた。
「いざ、勝負です!」
薊が日本刀を抜き、渾身の力をこめてインプに斬りつけた。刃は見事、インプの羽を切り落としたかに見えた。ところが、刀はインプの体を後ろに押しやっただけで、インプは何事もなかったように宙に羽ばたきゲヘゲヘ笑っている。
「そんな!? 確かに手応えがあったのに!?」
インプは狙いをアルルに定め、襲いかかってきた。
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
「うわーっ! こっちに来るな!!」
思わずアルルは、机の上に置いてあった銀の燭台をつかみ、インプを殴りつける。
「ぎゃああああああああーっ!!」
インプが悲鳴をあげた。とても痛そうに顔をしかめ、ふらふらと飛んで部屋から逃げてゆく。
「え!? どうしたの!?」
日本刀で斬りつけても傷を負わせられなかったのに? アルルは不思議そうな目つきで、手の中にある銀の燭台を見つめていたが、やがてはっと気づく。
「そういえば、エドガルドさんは!?」
部屋を見渡すと、窓辺にサルのエドガルドがちょこんと座り、ぼけ〜っと空を眺めている。すると窓の外をインプの黒い影がかすめ、そのかぎ爪の手でエドガルドをつかんでかっさらっていった。
●インプを倒せ!
ルーのオカリナの音が、外にいる仲間たちに急を告げる。屋敷の外で待機していた蒼月たちは、小さなサルをつかんで飛んでくるインプに気づいた。
「あのサルは何なんだ?」
事情を飲み込めないまま、蒼月はため込んでおいた石をインプに投げつける。命中、命中、また命中。ところが聞こえてくるのはサルの悲鳴ばっかり。
「うきぃぃぃーっ!! うきぃぃぃーっ!! うきぃぃぃーっ!!」
屋敷から仲間たちが駆けつけてくる。バニスがデスの魔法を放とうとするも、素早く飛び回るインプはなかなか魔法の射程距離内につかまえられない。
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
「こ、こっち来ちゃだめですぅ〜っ!!」
低空飛行で迫ってきたインプに向かって、エルにしがみついたルーがシャドウボムの呪文を唱える。だが急接近する敵に対して魔法詠唱の時間はあまりにも長すぎた。ルーの呪文が成就するや、爆発したのはエルの足下の影。
ぼおおおおおん!!
「ぎゃああああああああーっ!!」
「うきぃぃぃぃぃぃーっ!!」
「うわあああああーっ!!」
「うああああああーっ!!」
4つの悲鳴が同時に起こり、エルとルーが爆発にふっ飛ばされて倒れ、インプがサルのエドガルドを放り出して逃げていく。
「父なるセーラよ! 悪を滅ぼし給え!」
リラがホーリーで攻撃。聖なる白光がインプを包む。
「ぎゃああああああああーっ!! ぎゃああああああああーっ!!」
度重なる攻撃を受け、インプの体が焼けただれてゆく。インプはふらつきながらも必死で羽ばたき、ホーリーの射程範囲から逃れようとしたが、その前に立ちはだかったのはバニス。
「黒き父の御力により、悪魔を討ち果たさん。ディストロイ!」
バニスの呪文が成就するや、黒い光がインプを貫く。次の瞬間、インプの体は粉々に砕け散った。砕けた死体はそのまま灰となり、皆の見ている前で空気に溶けるように消滅。後には血の痕一つ残されてはいなかった。
冒険者たちはひとまず屋敷の外で小休止。汚水で汚れた体を井戸で洗い、服を着替えたアルルとリラが仲間たちの所へ戻ってきた。
「すみませんな。あいにく、物置には小間使いの服しか置いてないもので‥‥」
老執事が丁寧に詫びを入れる。
「で、サラサの様子はどう?」
「リラがかけてくれた魔法で、カビの毒からは回復したよ。でも‥‥」
リラから訊ねられたエリー・エル(ea5970)は、ニワトリのサラサを抱いたまま心配そうに答える。サルに変えられたエドガルドのほうは、みんなを怖がって物置の屋根の上に逃げてしまい、なかなか降りてこようとしない。
「怖がらないで戻ってきてくださ〜い!」
下からアルルが懸命に呼びかけている。
リラはニワトリの体を撫でながら言った。
「悪魔があんな魔法を使うなんて。私たちの魔法で元に戻せないかな?」
仲間の使える神聖魔法を色々試してみるが、誰もエドガルドとサラサを元に戻せない。
「一生ニワトリのままだったらどうしようかな?」
思わずエリーが口にすると、ニワトリのサラサが鳴きながら首を振る。
「コケコケコケコケコケコケコケ!」
いやだいやだと言っているみたいだ。どうやら動物に変えられていても、言葉は通じるようだ。
遠くで教会の鐘が鳴る。おや、もうこんな時間かと誰かがつぶやいた。
「みんな見て! エドガルドが元に戻ったよ!」
アルルの声に皆が物置の屋根を見る。そこにエドガルドが元通りの姿で立っていた。
「は‥‥れ‥‥?」
わけがわからないといった表情で、自分の両手両足をしげしげと見つめる。
「‥‥よかった」
アルルが安堵のため息をもらすが、エドガルドは無気力にぼそりとつぶやく。
「鬱だ‥‥死のう」
そのままふらふらと屋根の端まで歩いていき、飛び降りた。
‥‥どてん! そのまま地面にひっくり返って情けない声をあげる。
「痛ぁい‥‥痛ぁい‥‥痛ぁいよぉ‥‥」
これにはアルルも呆れ顔。
「もぉ! 物置の屋根から飛び降りたって死ねるわけないじゃないですか!」
「きゃっ!」
思わず大声で叫んだのはエリー。抱いていたニワトリの体がいきなりもあ〜っと膨れあがったのだ。次の瞬間、ニワトリがいた場所にはサラサが元通りの姿で立っていた。
「あれ? あれ? 私‥‥よかった! 元に戻れたんだ!」
どうやら時間が経てば効果を失う魔法だったらしい。
仲間たちがサラサに駆け寄り、抱き合って喜ぶ。
「サラサ、よかったね!」
「ニワトリのままだったらどうしようかと思っちゃった!」
そのざわめきが静まるのを待って、アトス・ラフェールが言った。
「私たちはインプを甘く見過ぎていたようです。下っ端の悪魔だからといって、油断すべき相手ではありませんでした」
屋敷の住人の避難が住むまで大人しく待っていてくれるほど、インプはお人好しではなかったということだ。そのために冒険者たちの作戦は乱れに乱れてしまった。
「これより屋敷に再度の突入を行います。各自、それぞれの準備を。皆、気を引き締めてかかりましょう」
先に突入した仲間のうちルーとエルの二人は、エリーと共に外でエドガルドの護衛を担うことになった。
「大丈夫、お姉さんが守ってあげるから、ね」
相変わらずエルの肩で心細そうにしているルーに、エリーはにっこり笑った。
●インプ殲滅作戦
ラッシャー家の屋敷は大広間のある棟を真ん中に置いて、そこから西と東に棟を伸ばした形になっている。冒険者たちは屋敷を西と東の二つの作戦区域に分け、それぞれの区域に人員を割り振ってインプを撃退することにした。
「では、始めるか」
アトスたちの担当は西の棟。手始めにアルルがクリエイトエアーの魔法を唱えて新鮮な空気を確保。続いてアトスがデティクトアンデットでインプの位置を探り当てた。
「この穴の奥に1匹」
「では、いぶり出しますか」
ジィ・ジがおがくずやら松葉やらで作った火種に火をつけ、アトスが示す床の穴に向かって投げ込んだ。
「あの‥‥じかに投げ込んで大丈夫でしょうか?」
心配そうに見守るアルルにジィが言う。
「穴の中は湿気充分ですから火事にはなりますまい。ほれ、そろそろ煙がくすぶってきましたぞ。おや、こんな所からも煙が。ずいぶんと火の回りが早いようで‥‥」
気がつけばあちこちの床の隙間から煙が立ち上り、ちらちら動く炎まで見え始めた。
「いかん、これは本格的な火事になりそうですわい」
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
ダミ声の笑いと共に、空になったランプ油の瓶が床の穴の中から投げ捨てられた。
「おお、油をくすねて床下にまき散らすとは、インプもなかなかに悪知恵がききますな」
「感心している場合ですか!? 早く水を撒かなきゃ!」
用意しておいた防火用の水桶に薊が駆け寄ろうとした時、デティクトアンデットで探知を続けていたアトスが叫ぶ。
「気をつけて! インプが穴から出てきます!」
「え!? どこ!? どこ!?」
全員の視線が床の穴に集まる。だがインプの姿は現れない。代わりに1匹のハエが穴の中から飛びだし、薊の後ろへ飛んでいった。
「おかしい。インプはもうこの部屋の中にいるはずなのに‥‥」
アトスがつぶやいた時、再びあのダミ声の笑いが
「げへへへへへへへへへへへへぇ〜!!」
いつの間にかインプが部屋に現れて水桶をひっくり返し、水はあらぬ方向へ流れていく。今は床下から燃え始めた火は壁を伝って這い上がり、天井へ達しようとしていた。
その燃えさかる炎を背にしてファイティング・ポーズを取る男が一人。自称、炎の老格闘魔法使いことジィであった。その両の拳には自らの魔法で燃え立たせたバーニングソードの魔法炎がまといつく。そのジィに寄り添うはユリア。
「セーラ神のご加護を! グットラック」
神聖魔法の祝福を受けたジィの瞳に闘志の炎が宿る。
「もはや悪魔の好き勝手にはさせませんぞ! たああああああーっ!!」
気合いもろともジィはダッシュしてインプを殴りつけた。
「ぎゃああああああああーっ!!」
壁際に吹っ飛ばされるインプ。ここぞとばかり、ジィは殴る! 殴る! 殴る! 殴る!
「ぎゃあ!! ぎゃあ!! ぎゃあ!! ぎゃあ!!」
ボロボロになって絶叫を繰り返し、それでも逃げようとするインプに向かって、アルルが攻撃魔法を放つ。
「にげちゃだめ〜! 風の精霊よ、雷の力もて敵を倒したまえ!」
ライトニングの雷光がアルルの手から放たれ、インプを直撃。インプは凄まじい絶叫と共に倒れ、やがてその体は灰と化し、あとかたもなく消滅した。
アルルは仲間に叫ぶ。
「さあ火を消すわよ! みんな急いで!」
東の棟では派手な戦いが続いていた。
「!!!!」
ドガドガドガドガドガドガッ!!
ウォルターが高速詠唱で放つグラビティキャノンが、重力波で壁や床にひび割れを走らせつつ、直線方向の先にいたインプをぶちのめす。
「ぎゃああああああああーっ!!」
絶叫して倒れたインプに、リラがとどめのホーリーをくらわせる。インプは断末魔と共に灰となって消滅した。
「これで2匹目。残りはあと1匹、この穴の奥だよ」
デティクトアンデットでインプを探知したリラが、床に開いた穴の奥を示す。
「インプに暴れられては厄介だ」
中をうかがったバニスが、穴の中のあちこちに生えるスモールビリジアンモールドを中心にホーリーフィールドを張り巡らせる。さらにユージィン・ヴァルクロイツもコアギュレイトの魔法をかける。
「これでインプは触れることはできない」
「インプが飛んだり跳ねたりしてもだいじょうぶさ。念のため、火にも魔法をかけておくよ」
いぶり出しの炎の辺りにも、ユージィンはホーリーフィールドをかける。
「家主には申し訳ないですが、床板を剥がすより壊す方が奇をつけます。──たああっ!!」
インプの隠れ場所を見定めたアウルが、床の一画に拳を打ち込む。
「インプが穴から出てくるよ!」
デティクトアンデットで気配を捉えたリラが叫ぶ。しかしインプは穴から出てこない。
バニスが目をこらすと、1匹のハエが火元の近くを飛んでいるのが見えた。しかし飛び方が変だ。まるで見えない壁に邪魔されているような‥‥。
すかさずバニスは呪文を唱えた。
「アガチオンどもには効き目も有った、黒き父の御力『デス』この魔法にて、悪魔を討ち果たさん。父よ、悪魔に死の裁きを!」
「ぎゃああああああああーっ!!」
呪文が成就した瞬間、ハエが絶叫してインプの姿に戻った。既にその命は失われ、あっという間に灰となって消滅した。
「終わったようですね」
外でエドガルドを守っていた蒼月 潮が、屋敷から出てきた仲間たちを出迎えると、アトスが言う。
「いや、まだやり残したことがある」
火をたき、エドガルドから取り上げた占いカードを放り込む。
「うがががが‥‥!」
苦しみうめくような声とともに、焼かれたカードから黒い煙が立ち上り、悪魔の顔のような形になって冒険者たちをにらみつける。すかさずリラがホーリーを放つと、黒い煙は聖なる白い光に包まれて消滅した。
それまで無気力に呆けていたエドガルドが正気づいた。
「あれ‥‥? 私は‥‥何をしてたんだ?」
それを見てアトスがうなづく。
「やはり、あのカードには邪な力が取り憑いていたか」
こうして屋敷に巣くっていたインプは全て退治された。もっとも屋敷のほうも壊されたり焼かれたりで、今まで以上に風通しがよくなってしまったが。
ユージィンがエドガルドの顔をのぞきこみ、笑って言う。
「ところで、奥さんが戻ってこないと不幸は終わらないんじゃないかい?」
さて、冒険者たちにはまだ仕事が残っている。悪魔と毒カビのせいで荒れに荒れてしまったお屋敷の大掃除だ。
●大団円
マデリンの待つパリの宿屋へ向かう馬車の中、エドガルドの顔は晴れない。
「マデリンは許してくれるんだろうか?」
サラサはメロディの魔法を試してみた。
札は心を映せし鏡 力強き心には光が満ち 愛溢るる者には女神が微笑む
死神が示すは終末と停滞 貴方の心が停まった証
死を恐れるな 死は新たなる生の始まり
混沌より立ち上がれ 勇気を示す者に 輝く戦車が勝利をもたらす
希望の星も 生命の陽も いつでも貴方と共にある
さぁ審判の時を乗り越えて 新たなる道を歩き出せ
歌い終わったサラサに、エドガルドが礼を言う。
「ありがとう」
馬車が宿屋に着くと、玄関でマデリンが待っていた。冒険者たちの見守る前で二人は抱き合い、再会を喜び合う。晴れ晴れとしたエドガルドとマデリンの顔に皆は安堵した。この様子なら、これからも大丈夫だろう。
「皆さん。私はマデリンの実家のある南ノルマンへ行って、そこでマデリンと新しい生活を始めます。本当にありがとうございました」
心から礼を言うエドガルドに、ジィ・ジが言葉を贈る。
「エドガルド様にもお考えがあるとは思いますが、結局、道を切り開くのはご自分でございます。占いは程ほどに」
言って、ジィはにんまり笑った。