死守せよ! 森の砦

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:15人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月10日〜09月15日

リプレイ公開日:2004年09月18日

●オープニング

 秋せまる日、夏の天気は良かったことで村は秋の収穫に多大な期待をかけていた。今年は豊作になる。幸か不幸か、この村には領主が不在で代官が滞在しているに過ぎない。しかも定期的に村をいくつか回っているため、収穫高を調査するのもかなり時間的な制約がある。それを前提でこの村は領主の直営の土地の割合が低く農民達の保有地の方が大きくなっている。週に1回くらい領主直営地で働く程度で、残りは自分たちの保有地での労働となる。領主直営地の収穫はすべて領主に帰属となるが、農民保有地は基本的に農民のものになる。ただし領主直営地の労働がなおざりにされては困るから、それぞれの収穫量を調査して農民保有地のみが多大な場合にはその分の収穫を(さぼった罰として)取り上げられる。とはいえ、作物の生産が多大な場合には上限が設けられているから豊作になればなるほど農民が潤うようになっている。だから気合を入れて頑張るのである。したがってここに派遣される代官は武よりも文の方であり、手荒なことは得意ではない。通常の治安業務は村の自警団に警察権を委任して行わせて、裁判のみを執行している状態である。
 領主不在の地では、平和な場合にはそれのみでも良かったが、周囲に敵対する勢力が発生した場合には、保護が得られない危険もあった。
「来週、お代官さまが到着して収穫高を調査すれば作物を売り払うことができる。今週中に収穫を保管所の近くまで持っていけ」
「保管所には入りきれませんよ」
「だから近くにって言っただろう」
 村の収穫は一旦保管所に集められてから調査される。
「こんなにあったら、多少誤魔化したってわからねぇだろうに」
「何を言う。他の村じゃもっと貧しいところだってあるんだぞ。それに比べれば」
「ご領主さまの恩だろ。一回も顔見たことないのに」
 とは言いながらも、実際に代官が目をつぶれる範囲の誤魔化し以外は誰もしていない。
「子供たちは森に放し飼いにしてある豚を捕まえてこさせろ」
 子供といえど村では有力な労働力になる。森で満腹に食べて越え太った豚を捕まえて、保存食料を作る。冬を乗り切るためのものだが、村には立派な御馳走になる。
「大変だ!」
 豚を捕まえにいった子供が血相を変えて戻ってきた。
「変な奴が森の砦の近くをうろついている」
 森に放った豚がなかなか見つからないため、森の奥の方にまで入っていった子供がそいつらを発見した。森の砦は昔の戦いの時に使われていたもので、今では誰も住んでいない。そのため、飢饉に備えて穀物を保管してある。
「自警団だけじゃ足りない」
 領主の館が側にあれば、戦力的には問題ないのだが。
「来週来るお代官さまは、間違っても荒事のできるようには思えないし」
 去年は、収穫を調べようとして持ち上げた途端に、重くてそのまま下敷きにされて大騒ぎになった。お代官さまが襲われでもしたら。
「村で殺害したなんて思われたら大変だ」

「と、このような事情で至急凄腕の冒険者を雇いたい。変な連中を捜し出して敵意あるものなら捕縛もしくは殲滅を」

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea1579 ジン・クロイツ(32歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4778 割波戸 黒兵衛(65歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)

●サポート参加者

ケイ・メイト(ea4206)/ ノア・キャラット(ea4340)/ アルル・ベルティーノ(ea4470)/ マリー・アマリリス(ea4526)/ マギー・フランシスカ(ea5985

●リプレイ本文

●事前準備
 割波戸黒兵衛(ea4778)は、この依頼をうける時にギルドであることを確認した。
「今回の依頼の場所付近で、別の依頼で動いている冒険者がいるか?」
 森の砦付近で動いている『変な連中』が別の依頼で行動している冒険者か、あるいはフリーの冒険者が遺跡を探検している可能性もある。冒険者の行動を考えてみると、一般人からみたら『変な連中』と見られないこともない。
 冒険者の同士討ちは馬鹿馬鹿しい。それ以外の冒険者ならできるだけ穏便にお引き取り願う。
 問題は、それ以外の場合だ。
「そんな依頼あったか?」
 ギルドの方も全員が常にここにいるわけではない。しかし、ギルドに残っている依頼書の中にはないようだ。担当者が依頼書を手元においている場合もあるが。
「冒険者でも依頼を受けていない連中の動向まですべては把握できないだろうし、ギルドを通じないで直接やりとりする者たちもいないとはいえないな」
 しかし冒険者ではないにしても、ただの夜盗・盗賊の類ではなく、もう一つの可能性、代官の暗殺を考えなければならない。
 暗殺計画なるものがあったとすれば、代官かあるいはその主である領主にかかわる問題だろう。今回の依頼人は所詮一般人にすぎず、そのような上の事情など知ることはなかろうが、着いたら領主がなんらかの問題で揉めていないか調べた方がいいだろう。
「やっぱりそれを考えていたのですか」
 黒兵衛と同様に考えていた者もいた。シクル・ザーン(ea2350)である。
「そっちの関係は私の方で調べます」
 神聖騎士であるシクルには、そっち方面のツテも多少はある。運が良ければ領主がらみの問題を知っている人がいるかも知れない。
「夜盗・盗賊の類と暗殺部隊とでは目的も目標も違います。こっちもそれを見越して対応しないととんでもない事になります」
「倒してみたら、領主の部下だった。暗殺部隊の証拠はない。なんてきた日には、とんでもない災難が村に降りかかることになる」
 領内の見回りに出した領主の配下を、村の依頼で襲ったと言うことになる。
「もし、暗殺部隊だったら」
「証拠集めをしなければ、それはわしの役目であろう」
 忍者の黒兵衛ならなんとかできるかもしれない。暗殺部隊が暗殺部隊のネームプレートをしているわけはないから、非常に困難だろうが。敵の拠点を捜索すれば。

●村まで
 今回の依頼に急遽集まった冒険者たち。自分で馬やロバに乗っている者はそれに跨がり、持っていない者はその後ろを全力で走る‥‥というのはいくらなんでも無理があったので、村で使用している農耕用の駄馬(ノルマンの一般的な村では8頭立て馬に牽かせる犂を使って耕作地を耕すため、一定数の農耕馬を持っていることが多い)で荷馬車を急遽乗用馬車に改造(簡易な囲いを付けただけ)したもので村まで移動することになった。
「一応心得ているじゃねーの」
 まだ馬を持っていないルクス・ウィンディード(ea0393)は、簡易ではあるが乗用馬車に改造されていたことに満足している。乗り心地が酷いことには変わりないが、荷車じゃ刑場に運ばれて絞首刑される罪人みたいだから。
「できれば、乗り心地も良くして欲しかった」
 サラサ・フローライト(ea3026)は行程半ばですでに半死半生状態。もっとも行程が進むほど他の者も同じ状況に陥っていく。現在のノルマンにおいては国家の統一的な道路の設置など行われていないし、整備すら付近の住民による自主的なものでしかない。馬ならもともと足で走っているから関係はないものの、車輪を使う馬車になれば振動は酷いものとなる。しかも、ゆっくり走ることが前提の基本構造の荷馬車には、馬が並足以上で走るときの衝撃については考慮されていない。走行中に分解しないだけでも運を相当使いこんでいることだろう。
「ちょっと、休憩させてくれ」
 さすがに着いた時に全員が戦闘不能状態になっていては、目も当てられない。
 休憩を取って、全員が馬車から下りて草むらに座り込む
「気持ち悪い」
「吐きそう」
 ラシュディア・バルトン(ea4107)とカレン・シュタット(ea4426)は顔を真っ青にしていた。サラサは言うまでもない。
 他の面々も少なからずグロッキー状態であった。
 騎乗していた面々もけっこう尻が痛くなっていた。
 そんな休憩の最中、シクルが追いついてきた。
「ようやく追いつきました」
 しかし、黒兵衛の姿はない。
「黒兵衛は先に行った。馬車に乗らずにな」
 ヴィグ・カノス(ea0294)は、黒兵衛が先に向かったことを説明する。
「そうか。流石忍者ってところですか」
 シクルは黒兵衛との間でのやり取りを話した。
「暗殺部隊か。そういえば依頼人は代官に何かあったら、ということも言っていたらしいからな」
 シクルと黒兵衛以外は、暗殺部隊の可能性を全く考えていなかった。
「その線もありうるか」
 ランディ・マクファーレン(ea1702)は予想外のことに行動を考え直す必要を思った。
「暗殺部隊が相手なら、それ相応のやり方がある」
 暗殺部隊なら、目的はたぶん。
「代官暗殺?」
 それをシクルは調べにいっていた。
「時間がなかったから、詳しくは調べられなかったけど」
 シクルは2つの点から代官暗殺の可能性を調べた。
「一つは領主配下の関係」
 狙われている代官は、武力が不得手な典型的な文官である。しかしそのかわりに領地経営では敏腕であるという。つまり、領主に配下の中でのいがみ合い。戦が少なければ武力で功績を得ることができない。冒険に出て名声を得るという手もあるが、隷属身分にあるナイトにはそれもできない。その腹いせ。
「配下のいがみ合いなら、これだけの大人数を動員できる奴が代官の一人くらいをどうにかしようとは思わないだろう」
 バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は、ナイトという関係上そう考えた。
「私もたぶんそうだと思います」
 シクルも同感だった。もっと人数が少なければ可能性はあった。もちろん、冒険者を雇って囮に使う可能性はある。
「ギルドを通じて雇わなければ、ギルドで調べても出てこないだろう」
 ラシュディアは徐々に回復したのか話に加わった。
「ええ、砦付近で依頼を受けた冒険者はいないということです」
「となると、フリーで動いている連中か、追放になった外道か」
 どちらかの冒険者なら、ギルドの援助なしに動けるだけの腕を持っている。かなり厄介な敵になるだろう。
「もう一つは領主間の関係」
 領主間の争いで、飢饉に備えて蓄えた食料を奪って経済的な打撃を与える手段。さらに新しい収穫も代官が調査した上でなければ動かせない。
「ところで領主の名前はなんて言うんだ?」
「サー・ウェインというそうです」
「騎士階級か。大きな土地を相続したってことか」
「狙われているかも知れない代官が、その経営手腕を発揮して豊かになったとか」
「こりゃライバルがいたら、代官を亡き者にしたいと思うだろうな」
 ジン・クロイツ(ea1579)が会話に加わる。
 まだグロッキー状態なのはサラサとカレンのみ。それでもいくらかは良くなったように見える。
「その動きがありそうだ。領主のサー・ウェインの容体が、危ないらしい」
 領主の代替わりとなれば、周囲にお零れがある場合もある。新しい領主が領地を把握しきれていないうちに自分のものにしてしまおうとする例は多い。この場合サー・ウェイン以上に領地を把握している代官を葬れば‥‥。
「話がでかくなってきたな」
 ヴィグは思わずもらす。
「数日後には代官は着いてしまう。その前に何とかしないと」
「数日後だったらいいが、もしかして職務熱心ならもっと早く着くかも知れない」
 そして多分代官は職務熱心だろう。
「私達なら大丈夫です。急ぎましょう」

●夜の村
 その日も遅くなって、どうにか村に到着した。村にはノーマルホースに乗ったランディ、氷雨絃也(ea4481)、エルリック・キスリング(ea2037)の3人が先行して到着していた。すでに活動している村の自警団からの情報を整理するためである。
「よう無事か?」
 馬車の中は戦力半減だろうが、もし敵がこちらの戦力増強を知ったら途中で奇襲してくるかもと考えて、3人で先行してみたら、襲撃できそうな場所はなかったし、気配も無かったので、ある程度安心していたが、到着するまでは確実なことは言えない。
 そのためシクルは団体行動に残った。
「着いた、着いた」
 ドンキーに跨がったオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)とソフィア・ファーリーフ(ea3972)は疲れた様子を見せたものの、馬車の中よりはマシだった。それでもオイフェミアの状態は良くない。もっともオイフェミアには最近の酒の飲み過ぎがかなり祟っているようだ。
「休む前に状況を説明する」
 エルリックは、部屋に入って倒れこんでしまった仲間に声をかける。
「今夜はゆっくり休める。その前に仕事だ」
 ランディも促す。
 二人が同じことを言うのは、それだけ事態が深刻なことになっているのだろう。
「大丈夫。まだ意識はもつ」
 サラサは、ソフィアの助けを借りて、椅子に座った。
「村の自警団は森については凄く詳しい。地図の作りは、まぁそれほどでもないが」
 全員が囲んでいるテーブルには、森の地図がおいてあった。もちろん、詳しい測量技術や資材が村にあるわけではない。経験的にどれだけの時間がかかったか時間的な距離感覚で書かれている。
「砦の位置はここ。この線で囲まれているところは、自警団が設定しているトラップゾーン予定地。まだ罠の設置は終わっていない」
 自警団は敵の目を盗んで作業している。一応敵は定期的に偵察を行っているらしい。
「だいたい1組が3人ぐらいらしい。このルートとこのルートが、良く目撃されている」
 エルリックが目撃情報を伝える。
「自警団も頑張っているじゃん」
 ルクスは、自警団の行動にちょっとイメージを変えた。
「この村はもともとあの砦を守ることを義務付けられていた者たちが作った村らしい。今じゃ非戦闘員ばかりの一般人になっているが、それでも森林での戦闘訓練の錬度は十分に高い。偵察や弓矢においてだが」
「そりゃ心強い」
「じゃなくって、そんな連中が冒険者に助けを求めたってことは」
「相手が強いってことだ。気を引き締めていかないと危ないな」
 けっこう楽観的な感じを持っていた者も気が引き締まる。

「今のところ敵は砦には入っていないらしい。明日の朝、砦からの連絡がある」
「もしなければ、砦が落ちたということだな」
 砦が落ちるということは、砦に詰めている子供たちが捕虜になるか殺されるかということだ。
「割波戸黒兵衛は?」
「自警団と一緒に動いている。忍者だから夜は得意だろう」
 しかし、こっちはそうもいかない。到着までのダメージを回復させるために、今夜はゆっくり休む。万全の状態で挑まなければ危ない。

●偵察
 夜活動していた自警団とともに、割波戸黒兵衛が戻ってきた。
 あくまでも偵察のため、敵に遭遇して戦闘になる行為は行っていない。それ以前に彼ら以外に森には入っていないように偽装を常に施してある。砦の位置もばれなければ、襲撃されることはない。
「ルクス、あくまでも偵察だからね」
 オイフェミアは一番暴走しやすそうなルクスにクギをさす。仲間と協力して強行突破する威力偵察をやるつもりでいた彼は、馬車の中で仲間相手にルクスが言っていたことを冷静に聞いていた。
「偵察っていうのは見つからないようにやるものだ」
 黒兵衛もクギを刺す。
「まだ敵の拠点は見つからない。敵の巡回を巧く抜けることができなかった」
 黒兵衛も徹夜明けというだけでなく、目的までたどり着けなかったという点でプライドを傷つけられていた。
「砦から連絡が着いた」
 サラサが呼びにきた。
「砦は大丈夫、見つかっていないよ」
 砦に籠もっていた女の子が戻ってきていた。
「女の子? ですか」
 エルリックはさすがに予想を外された。砦に籠もっているのは男の子だけだと思っていた。
「女の子じゃ悪い? 女の人の冒険者だっているじゃない」
「いやそんなことはない。危険はないかい?」
「森はいつだって危険よ」
「ジュリエッタ。もう休んで。夕べ寝ていないんでしょ?」
「ええ。じゃ後はお願いね」
「ジュリエッタという名前?」
「普段はいい娘だけど、あれだけ荒れるのは相当緊張が続いているみたいね。早速砦に入って、子供たちを戻して貰えますか」
「そのつもりでしたから」
 早速。偵察班の5人が前衛を勤めて前進を始める。自警団から道案内がつく。
「いきなり戦闘は勘弁してくれよ」
 自警団もクギを刺す。どうも偵察班の5人のうち3人までは、無理やりでも戦闘を始めそうな顔つきに見える。特にルクスが。
「分かっている。今は砦まで無事に到着して子供たちの安全を確保するんだろ」
 同行している自警団は2名、レンジャーのヴィグとジンが前に出て警戒しながら進む。その後からルクスとオイフェミアとラシュディアがゆっくり出来る限り音を立てずに進む。
「森でたっぷり良い空気を吸って英気を養おう」
 オイフェミアは最近酒の飲みすぎで体調が悪いことを感じていた。なら飲まなきゃいいのにと、ラシュディアは思った。

 その後方から徹夜明けの割波戸黒兵衛を除いた全員が進んでくる。
 いつでも前衛の支援ができるようにして。
「あそこが砦だ」
 年に1回のみ穀物を備蓄する時にしか使わないため、道らしい道はない。そのような場所を歩くこと3時間。森の中から僅かに見える場所をさす。しかし砦には見えない。
「表面を植物が覆っているみたいね」
 オイフェミアが目敏く見つける。
 登りやすくなっている?
「いや、登れそうで登れない。サルでもなければ。あの植物は水気が多いから火攻めしづらい。それにすべる」
 砦に到着する。しかし予想していたような頑丈なものではない。
「今は貯蔵庫だから戦用の補修は行われていない」
 領民が勝手に砦の補修でもしたら、反乱の兆しありと思われるためだろう。
 サラサ、ルイス・マリスカル(ea3063)、カレン、バルバロッサの4人が砦に残る。子供たちの表情には今まで守ってきた気概と同時に疲労による消耗が感じられた。もちろん、砦に残ることを主張した。
「勇敢な村の子供達ですね。でも、相手はおそらく私達同様冒険者、この道のプロ。あなた達には村を背負っていくという大事な使命があるのです、このような所で怪我をして命を落とさせる訳にはいきませんわ。あなた達の未来の為にも、微力ながら手伝わせて頂きますね
 ソフィアは子供の感情を傷つけないように説得する。砦に籠もる者が4人ではかなり心もとない。しかし、これ以上子供たちを危険に晒すわけにはいかない。
「自警団も半分くらいは村に戻って防御を固めてください」
 シクルは自警団に暗殺者の可能性を話した。村に攻め寄せる可能性もある。
 しかし、村には自警団以外の者も防御態勢で待機しているという。
「だから砦までの人数は割けなくて、子供たちに任せたのね」
 ソフィアも砦を子供だけに任せていることが不思議だった。二人ずつ毎日交代して情報をもたらして、食料は持ち込む。それを繰り返して、砦を維持してきた。
 しかし、応援の冒険者が到着したことで村に帰ることにした。
「第一目的達成」
 エルリックは子供の保護を第一目的にしていた。
「まだだ、村に帰ったあと村が襲われたら同じことだ」
 敵をどうにかしなければ。

●偵察
「自警団が調べた範囲だと、この近くで敵の巡回者がいたことになっている」
 ヴィグとジンは地面の状況を調べていた。僅かに痕跡が残っている。
「一人とっつかまえるのがいいだろう」
 ヴィグ、ルクス、ジン、オイフェミア、ラシュディアの5名は案内役の自警団の二人とともに敵の拠点をさぐるべく砦から偵察に出ていた。
「敵を警戒させることになるが、いずれにしろやり合うなら情報は必要だ」
 ルクスの提案は受け入れられた。敵が暗殺部隊ならやり合うには早いほうがいい、代官は来る前に。砦の子供たちは保護した。とは言っても、奴らが村に攻撃を仕掛ければそれもダメになる。
「このルートには、一番錬度の低そうな奴のいるグループが偵察に来る。3人組だからそのつもりで」
 それだけ言うと二人は離れた。
「他が来ないか見張るだけか」
 危険ごとは、雇った冒険者に。
「まぁいつものことだからな」
 ジンはそう呟くと待ち受けの陣形に入る。
 正面にルクス、ヴィグとジンが左右から、そしてオイフェミア、ラシュディアが魔法支援を行う。

「これで何日目だ。いい加減目的ぐらい教えて欲しいもんよ」
「この辺に熊だかなんだかが出たんで警戒しろって命令だったぞ」
「そんなのウソだろ。熊ならとっくに捕まっていいはずさ」
 どうやら偵察行動が長くなって緊張感が無くなってしまったのか、会話が聞こえる。どうやら武装は最初に聞いていたものとは違うようだ。ノーマルソードを持った者3人。応援らしい。
「オイフェミア」
 ジンが合図を送る。
 オイフェミアの体が一瞬淡い茶色に包まれると、向こうからやって来る3人の周囲で草が動きはじめる。草をかき分けながら進んでいた3人は忽ちオイフェミアのプラントコントロールで動かされた草によって絡みつかれた。
「なんだ。くそ。ウィザードがいるぞ。気をつけろ」
 って3人とも絡みつかれていたんじゃ、叫ぶ必要もないだろう。
 力任せに引っ張る。さすがに力仕事優先型の体型のせいか、行動は自由になるのも時間の問題だった。
 前衛のルクス、ヴィグ、ジンが急迫して、喉元に得物を突きつける。
「なんだよ、お前ら」
 喉元に槍先を突きつけられた一人が問い返す。
「砦に連れて帰る。そこで尋問だ」

●トラップゾーン
 包囲班のランディ、エルリック、ソフィア、シクル、氷雨絃也は敵を追い込むため、地理を把握していた。トラップゾーンと砦間の確認である。トラップと言っても、致命的なものはない。落とし穴が中心。
「逆にこっちが追い込まれた時の事も考えて、ここにおびき寄せるって手もあるな。トラップの位置覚えておけ」
 ランディは、全員に忠告する。敵の方が強いってこともある。
「そうね」
 ソフィアは、場所を確認していく。
「場所も覚えたことだし、そろそろ行動を始めようか」
 一旦、砦方向に向かう。

●砦
 サラサ、ルイス、カレン、バルバロッサの4人は砦の中で、迎撃の準備をしていた。子供たちが迎撃用に上げたらしい石がかなり多いし、大きなものもある。砦の寄せた時に上から雨あられと落とせばかなりの効果が得られるだろう。カレンはライトニングサンダーボルトを効果的に使える場所を探している。砦は森にある分、障害物も多い。射程が長くとも効果を吸収されてしまうことだってある。
 偵察班が捕虜を連れてもどって来たのはそんな時だった。
「さっさと歩け」
「だからなんで縛られなきゃならない。この山賊」
 どうやら捕虜は捕虜としての自覚がないようだ。というよりもこちらを山賊を思っている。
「聞き出すには一人いればいい。おとなしく言うこと聞かなきゃ、殺していいぞ」
 バルバロッサはほとんど無表情に、捕虜を連れてきた偵察班に言った。
「分かっている。死体を葬る穴なんて幾つもあるしな」
 それに応じたのは、ヴィグ。すでにナイフを準備している。
「お前たちの拠点はどこにある?」
「ここ昔の砦だな。こんなのがあったんだ」
「おとなしく話せば命は助けてやる」
「へぇ、見晴らしもいいや」
「こっちの話を聞け! そんなに死にたいのか」
 手始めに、捕虜の指に油の滴るような刃を着ける。ほんの少し力を入れて引けば、簡単に落ちるだろう。
「何するだよ。人殺し」
「まだ殺していない。さて、このまま切り落とそうか?」
「やだよ。なんでこんな酷いことするんだ」
「おいおい、残酷なことをするな。一寸刻みに肉を削いでなぶり殺しにするくらいなら、いっそひと思いに、身長を肩の高さで計らせてやろう。それが慈悲と言うものだ」
 バルバロッサが低い声で殊更残忍な脅しを掛けると、捕虜はあっけなく転んだ。
「そ、そんな‥‥。は、話します! な、何でも話します!」
「だったら正直に話せ」
「ここを巡回するように言われた。それだけ。熊が出るからだって。でも熊なんか出なかったし。痛いよ〜」
「情けない奴だ。こいつどっかの町にいるごろつきにもなれない小物だ。味方の勢いがいいときは威勢がいいが、都合が悪くなるとこうなる。度胸も根性もない奴だ」
『こいつら何も知らないようだ。うるさいから始末しちまえよ』
 ルイスが、スペイン語で言って、首を掻き切る仕種をする。言葉が通じないだけにこの仕種は恐怖を感じさせる。
「本当に知らないって。助けて!」
 捕虜の一人は泣きわめきモード。尋問役がランディに代わって別の捕虜を引っ張りだす。ランディは張り切ってキリキリ尋問を始める。
「目的は‥‥大方、村の収穫の上前を撥ねようと言った所か? ‥‥人殺しは好かないが、他人の取り分を掠め取るクズが相手なら話は別だ‥‥」
 偵察の時に、大声で話しながらくることなどどう見てもド素人。しかし、下手に慈悲心を出して足元を掬われるような事態にはなりたくない。それに捕虜を痛めつけたり殺したりしちゃいけないという決まりもない。復讐などと下らんことを考え付かぬように底を抜かねば為らないのだ。
「どうやらこっちの方が策に嵌まったみたい。表に団体さんがご到着!」
 結果的に表を見張っていたことになるカレンが、砦の中に響くような大声で叫ぶ。
「周囲を見張っていた自警団は?」
 ラシュディアが周囲を見渡す。自警団の姿は見えない。もし、敵が近寄ってきたなら先に知らせてくれるはずだ。それがないということは‥‥。
「多分もう‥‥」
 オイフェミアは目を伏せた。
 こっちには、偵察班5人と砦常駐班4人の合わせて9人。包囲班は多分こっちに向かっているだろうが、うまく挟撃できればどうにかなるかも。
「なんとか連絡する方法があればいいが」
「サラサのテレパシーは?」
「包囲班が接近してくれれば‥‥」
 どこにいるか分からないのにテレパシー使っても消耗するだけ。サラサの能力では包囲班が敵に突っ込まない限り届かないかも知れない。
「敵の出方、どう思う?」
 ルイスがバルバロッサの意見を聞いた。
「この砦の位置が分からないために囮を使った。‥‥この砦の存在が敵の目的一つ。しかし仲間を犠牲にしてまで、それほどの価値があるのか?」
 砦として補修してないから砦としての価値ではなく、ここに備蓄してある穀物?
「今年は豊作のはずだよな」
「たしか村ではそう言っていたわ」
 ウィザードは砦で魔法支援。ファイター系は砦外の戦闘準備に入る。

●目的
「間に合ったか」
 戦闘直前の物々しい雰囲気の中、割波戸黒兵衛が砦に到着した。村に戻って一休みした後、再び森の中の敵の拠点を探しに出ていた。幾つかの巡回部隊の動きを読み、拠点の位置に当たりをつける。森の中だから可能性は低いが、サンワードの支援があると敵の拠点さがしに有効だっただろう。多少時間はかかったが、敵の拠点を捜し出す。
「多い」
 敵の拠点には20名を越える者たちがいた。これでは忍び込んで探すのは無理かと思った時に、その大多数が移動を開始した。自警団の幾人かが黒兵衛に追いつき。拠点襲撃を手伝う。幸いこちらは軽傷数名を出した程度で敵を追い払った。拠点に残っていた敵は戦意が非常に低かったのも幸いした。主犯格はいない。
「拠点で見つけたのがこれだ」
 幾つかの書簡。署名は分からないが、複雑な命令書のようだ。誰が発行したかは、代官に見せればわかるだろう。
「目的は代官暗殺に間違いない。ただし、それが大規模な山賊の襲撃の様に見せかけるのにかなりの手数をかけている」
 偽装工作をしなければならない。
「やっぱり領主の身内らしいな。まぁこれで敵の目的は阻止したから、後は目の前の敵を敗退させればいい」
 言うは易いが行うは難しい。
「数の優位は士気を崩せば、どうにかなる。すでに手は打ってある」
 黒兵衛は不敵に笑った。
 森の一部からキラキラ光りが見える。
「自警団と包囲班が位置に着いたようだ。トラップゾーンに追い込む。行くぞ」

●決戦
「オォォォォォォ!!!!!」
 獣のような叫び声を上げながらルクスが正面突破をかける。飛んでくる矢はミサイルパーリングで得物で受ける。その間に接近してきた敵の前衛が切りかかる。
「こいつら味方がいるのに矢を射かけてきやがる」
 得物で矢を受けたため、反撃には出られない。むしろ、オフシフトで回避するのがやっと。次々と切りかかってくる。味方を信用しているのか、矢を恐れる気配もない。こちらの勢いが止まった。
「一人で突出するな」
 ルクスの背後からバルバロッサが追いついてきて戦列に加わる。矢の飛来が止まる。オイフェミアがプラントコントロールで射手との間に植物の壁を作る。
 バルバロッサは多少の怪我も気にせず、というよりはやせ我慢してかすり傷と思わせて相手を士気を削いでいく。ラシュディアのウインドスラッシュも敵を徐々に傷つけていく。
「やつら動かない。カレン!」
 黒兵衛が指示を出す。
「任せて」
 カレンがライトニングサンダーボルトで敵の主犯格のいるあたりを攻撃する。しかし目に見えたダメージは与えていないようだ。逆にこちらの位置を気づかれて、矢がカレンの頭の上と左右に正確に突き刺さる。怪我はしていないが精神的なダメージは大きい。
「凄腕の射手がいる」
 前衛とは互いに痛みわけのようにダメージを出し合いながら、均衡している。やっと大剣を持つ一人が前に出てきた。均衡が崩壊する。ジンがショートボウで狙うが、簡単に裁かれてしまう。
「そろそろか」
 黒兵衛は、忍者刀を太陽に翳して合図を送る。
 敵の背後から大きな歓声があがる。そして包囲班の5人が敵の真横から突っ込む。シクルと氷雨絃也がクリスタルソードを持って先頭を走る。ランディは両手の得物(日本刀とダガー)にオーラパワーを付与して続く。
「偉大なるジーザスの御子の名にかけて、正義は我に有り!」
 エルリックが叫ぶ。
 ソフィアは他の4人の影になりながら、プラントコントロールでトラップゾーンへの道を開いていく。突然の横合いからの攻撃に敵の前衛は戦意を喪失して誘導どおりにトラップゾーンへ一直線に逃げていく。ランディが残った大剣持ちと剣を交える。
「おや、撤退するようだ。拠点が襲われたことに気づいたな」
 黒兵衛が目敏く観察する。前衛がトラップゾーンで悲鳴を上げているうちに、今回の主犯格と思える幾人かは、自警団が大声を上げている方向に向かって撤退を開始する。自警団も無理をせずに逃げるはずだ。
「向こうのウィザードもプラントコントロールが使えるらしい」

「トラップゾーンで引っかかったのが3人。それ以外は強引に逃げたようだ」
「主犯格は余裕で逃げた。こっちも余裕はなかったが」
 前衛との戦いで傷ついた上、魔法支援も残りが少なかった。証拠を掴んで敵の目的を阻止した以上は勝利と言えるだろう。
「何故あの時、攻撃を仕掛けなかったのか」
 その疑問が残る。主犯格が加わっていたら、反対に全滅させられていたかも知れない。大剣持ち3人のうち1人が包囲班のランディと切り結んだようだが、ランディは日本刀で受けるのがやっとだった。その太刀筋がかなりの高レベルを感じさせた。

●代官到着
 代官の到着は予定よりも早かった。自警団の一人が代官暗殺の可能性があるため、予定の道を変えて村まで案内した。そのため賊とは出会わさず無事に到着できた。
「結局捕まえたのは6人」
「これが敵の拠点で見つけた今回の命令書のようです。身に覚えはありますか?」
 エルリックが代官に捕縛した6名の身柄と拠点で奪った証拠を差し出す。
「この字は見たことがある。どうやら身内の恥らしい。今回の件は他言無用に」
 代官は命令書をしまうと村人を集めた。今回の事件で労いの言葉をかけるとともに、重大な発表を行った。
「領主のサー・ウェイン卿が亡くなった。今後相続問題が発生するとは思うが、冷静に行動して欲しい」
 そして代官の仕事に入る。
「村人にとっては、豊かな暮らしができれば、領主なんか誰でもいいのかも」
 6人の捕虜は、仕事の内容も聞かずに金で集められた者たちだったらしい。使い捨てにされたようだ。しかもこっちについてからは、命令に逆らわないように恐怖で支配されていたようだ。代官の裁定で、強制労働3月が言い渡された。今回の事件で村の人手が不足したことに対する配慮だったらしい。最初は捕虜達も不満そうだった。しかし‥‥。
「縛り首の方が簡単だし、そっちがいいか?」
 と代官が問い掛けたら、喜んで強制労働に従事することに決めたという。