不衛生なレストラン

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月26日

リプレイ公開日:2004年06月27日

●オープニング

『依頼の内容は口外無用』
 散々に念を押された上で向かうように指示されたのは、街でも有名なレストランだった。貴族や裕福な人々の社交場として知られた店で、オーナーは他に有名店を幾つも経営する大富豪。まあ、こんな事でもなければ冒険者に縁の無い店なのは確かだ。
「ああ、やっと来たか。私の店に、諸君らのような何処の馬の骨とも知れん者を呼んだのは他でも無い」
 ‥‥少々ムカついたかも知れないが、これもお仕事、我慢して欲しい。
「これだ」
 オーナー殿、床に転がっていた麻袋を忌々しげに蹴り飛ばした。妙に重いそれを開けてみると、中にはジャイアントラットの死骸。素人が必死に撲殺したのだろう、なかなかスプラッタな事になっている。
「地下のワイン蔵と食材倉庫に、この汚らわしい生き物がまだ何匹もおるというのだ。私のレストランにだぞ!? 普段から衛生管理には細心の注意を払っていたというのに何たる事だ! こんな事がお客様方に知れでもしたら‥‥ぶるぶる、ああ、考えるのも恐ろしい。とにかく、小ネズミ1匹に至るまで燻り出し、完全完璧に駆除してくれたまえ! 7日の間に再度現れる事がなければ、報酬を支払おう」
 興奮し過ぎてふらつくオーナーを、慌てて店の者が駆け寄り支える。そのボロボロ具合を見ると、どうやら先ほどの1匹は彼らの戦果と見える。
「あの、オーナー。私達もお店の為、こうして働きました。できましたら、その‥‥」
「ん? お前達が店の為に働くのは当然だろう。寝言を言っておる暇があったら、厨房に行って二度とあんなものが出ないようにピカピカに磨き上げておけ! だいたい〜」
 説教が始まってしまった。しょんぼり肩を落として引き下がる使用人達をふん、と鼻息も荒く見送り、オーナー殿は冒険者達に向き直った。
「この為に、改装と偽って店を閉めているのだ。とんだ大損だ。その大損の中、諸君らに金を払うのだ。そこのところを良く考えて、粉骨砕身働いて欲しいものだな。それでは頼んだぞ」
 大威張りで言い放つとオーナー殿、何の用事があるのか店の外に待たせていた馬車に乗り込み、何処かへと出かけてしまった。
「私達が見たネズミは5匹ほど。もしかしたらもう何匹かいるかもしれません。何処から入ったのかは分かりませんねぇ。まあ、怪我しない程度に頑張ってくださいね」
 すっかりヘソを曲げてヤル気皆無の使用人達。床下からは、ネズミ達の暴れる騒々しい音が響いている。

●今回の参加者

 ea1717 楼 風空(21歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea1908 ルビー・バルボア(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2601 ツヴァイン・シュプリメン(54歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3659 狐 仙(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3677 グリュンヒルダ・ウィンダム(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●事前交渉
「なんだと?」
 オーナーの凄みを効かせた視線にも、カーツ・ザドペック(ea2597)が怯む事は無かった。
「他意は無い。粉骨砕身仕事にあたる為に、契約内容を確認しておきたいと思っただけだ。改めて聞くが、何も言われて無いという事は、発生した損害について俺達が考える必要は無いと考えていいんだろうな?」
「都合のいい事を言うな。お前達が暴れて店の財産を損なった時には、キッチリ弁償してもらうぞ」
 不愉快さ全開で返答するオーナー。だが、カーツは平然としたもの。この程度は予想の範疇、むしろ望み通りの落とし所を引き出せて、彼としては大満足だ。
「了解した。弁済は原価で計算するが問題無いな? ならば、立会人を1人選んでくれ。それから、掃討時の戦闘を『暴れた』と解釈するのは無しだからな」
 オーナー、苦虫を噛み潰したような表情で面倒臭そうに頷いた。
「場合によっては、鼠の侵入路を絶つ為に壁の補修などが必要になるかも知れません。その費用は必要経費として請求して構いませんね?」
 グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)の物言いは丁寧で、物腰柔らかだったので、ご立腹のオーナー殿も幾分、気持ちを落ち着けた様子。
「まあ良かろう。まったく、冒険者の癖に細かい奴らめ。私を守銭奴か何かと思っているのか不愉快な」
 ぶつぶつ言いながら馬車に向かうオーナーの言い草に、楼 風空(ea1717)が爆発寸前。ナックルに手がかかりそうになるのを、ジェイラン・マルフィー(ea3000)が慌てて止めた。
(「ズバリ指摘されて、あんた舌打ちしてたじゃんかよ〜」)
 かく言うジェイランも反骨の虫がウズウズ疼いていたが、そこはお仕事、我慢我慢。
「後の事は私が任されています。駆除の方法はどのように?」
 進み出たのは店の雇われ支配人。カーツとグリュンヒルダが彼と詳細を打ち合わせている最中、アハメス・パミ(ea3641)は使用人達に話を聞き、協力を仰いで回った。手伝いはすると言うものの、ヤル気の欠片も見えない彼らに、アハメスは眉を顰める。
(「でも、皆さすがは一流店の使用人、立ち振る舞いはしっかりしているし、仕事にもソツが無い。厨房の中も控え室さえ綺麗なもの、もちろん置きっぱなしの生ゴミなんて見当たらない。何故、この店に鼠なんて湧いたのでしょうか‥‥」)
 何処か、不潔な場所と繋がってしまっている? それとも、誰かが運び込んだ? 考え込んでいた彼女は、じっと自分を見つめる使用人達の視線に気付き、顔を上げる。が、彼らは気まずそうに視線を逸らしてしまった。

●鼠退治
 慎重に辺りを警戒しながら、地下室へと降りる冒険者達。ひんやりと冷たい空気に、微かな獣臭が混ざっている。ガタガタ、と何かがぶつかるような音。だが、すぐに何も聞こえなくなってしまった。
「お前ら、これ運ぶ、俺、手伝う」
 ファットマン・グレート(ea3587)が片言のゲルマン語で使用人達に指示を出す。支配人からは、食材は諦めるがワインだけは守ってくれと頼まれている。中には6ケタ級の逸品もあるから、そんなものを戦闘で台無しにでもした日には、全員揃って借金地獄だ。ツヴァイン・シュプリメン(ea2601)は運び出されるもの、既に駄目になっているもの、蔵の中の破損状態まで、ひとつひとつを支配人と共に記録して回る。
「ふむ、この棚には爪痕がある。こちらにはかじられた痕が。この辺りのワインは念入りに調べておく必要がありそうだ」
「やあ、これは気付きませんでした」
 目敏く指摘するツヴァインに、しらばっくれる支配人。2人が静かな火花を散らしているのを横目で見ながら、他の面々は作戦会議だ。
「あいつら、大きな割にはすばしっこいし、狭いところにも入り込むからね」
 楼風空が呟くと、ファットマンが抱えていた陶器の瓶を並べて言った。
「これ、戦闘違う、狩り。獲物、脅す、逃げる、やってくる、倒す」
 瓶を鼠と自分達に例え、がちゃがちゃと動かしながら説明する。
「にゃはは、なるほどね〜。追い込んでから倒すのねぇ」
 狐 仙(ea3659)がファットマンの背中に抱きつき、その肩越しに酒瓶を突付いて笑う。
「おまえ、酒くさい」
「えへへ、安ワイン、タダでもらっちゃったから、ハチミツ入れてスパイス少々効かせてみたの。なかなかオツなものよ〜」
 まあ、酔っ払いは置いておいて。楼 風空は服が汚れるのも構わず、床に張り付いて目を凝らしていた。微かに鼻を衝く異臭をたどり、糞だまりを発見する。棚の足には、擦り付けられた獣の毛。ごわごわしていて長いそれは、ジャイアントラットのものに間違いなかった。彼女はそこに自作の罠を仕掛けると、少し離れた場所に陣取り、仮眠を取りながら獲物を待った。

 深夜。小さな物音に楼 風空は目を覚ました。薄明かりの中に、丸々と太ったジャイアントラット達の影が蠢く。息を潜め見守る中、その中の1匹が彼女の仕掛けた罠に捕らわれ悲鳴を上げた。驚いて飛び跳ねたもう1匹を、楼風空のオーラショットが叩き落す。アハメスの指示で使用人達が一斉に明かりを灯すと、ラット達は無茶苦茶に暴れながら逃げに移った。オルステッド・ブライオン(ea2449)が彼らを追い込むように突進し、ルビー・バルボア(ea1908)がショートボウで煽り立てる。反撃の兆しを見せた1匹目掛け、鞭を打ち込んで怯ませるグリュンヒルダ。
「カーツさん、そちらに行きました!」
 その声を聞き、ツヴァインがカーツとファットマンの得物に素早くバーニングソードを付与した。全速力で逃走する大鼠は、立ちはだかる3人を見て牙を剥き、巨体を躍らせ飛び掛かる。だが、先頭を切ってカーツに挑んだ1匹は、ダブルアタックとスマッシュEXを乗せた手斧の一撃を脳天に食らい、敢え無く絶命した。
「おおカーツ、血、流す、良くない、掃除、大変」
 かく言うファットマンの武器はミドルクラブ。鈍い音と共に跳ね飛ばされたジャイントラットは、しかし床に叩きつけられながらも跳ね起きファットマンを睨みつけた。嬉しげに笑い、クラブを捨てて身構えるファットマン。首筋を噛み切ろうと組み付いた敵をガッチリとホールドし、彼は気合と共に渾身のスープレックスに持ち込んだ。硬いレンガの床に叩きつけられ、断末魔の痙攣を見せるジャイアントラット。モンゴル相撲で鍛えたドワーフファイターの本領発揮なのだが、これだけの攻撃、部屋の汚れ具合はというと、カーツと大差無かった。
「‥‥なんだか病気になりそう」
 鼠撃拳で1匹を葬った楼 風空だが、激しい戦いっぷりのおかげで服に何だか分からない臭い汁は付くし、手は血で汚れるしで散々だ。こういう敵相手に素手格闘は実に辛い。と、そこに同じ武道家のくせに終始足技使用で大して汚れることもなく1匹を仕留めた狐 仙が戻って来た。自分と彼女を見比べて、特大の溜息をつく楼 風空。
「これで全部ぅ?」
 狐仙、ワインを引っ掛けながら皆に聞く。
「いや、もう1匹いたよ。ここ、この棚の裏に入って行った」
 ジェイランが目敏く見つけた逃走経路。皆で棚を動かしてみると、壁に人ひとり屈めば通れるくらいの穴が開いていた。
「こんなところに‥‥」
 驚きを隠せない支配人。
「鼠どもはここから入り込んだ訳ですか。では、さっそく塞ぎましょう」
 進み出たのは、準備万端の使用人達。
「ちょっと待って、ちゃんと中を調べて鼠の巣を潰しておいた方がいいと思うの〜」
 鼻歌など歌いながらさっさと穴の中に入って行く狐 仙を、口々に止める使用人達。
「大丈夫ですから、心配せずに待っていてください」
 アハメスに言われ、彼らは口篭りながら、未練たっぷりな様子で引き下がった。

 穴を抜けると、そこはワイン蔵と同様、レンガ造りの部屋だった。元々、広かった地下室を分断したものらしい。この部屋には湿度があるから、それを嫌って封鎖してしまったのかも知れない。逃げ込んだ1匹は、間もなく見つかり駆除された。他に鼠がいる様子は無い。
「思うんだが‥‥。見かけるのはジャイアントラットばかりで小さな鼠は影も形も無い。デカい奴らのせいで近寄れないのかも知れないが、普通、最初に進出して来るのは小さい方なんじゃないのか?」
 カーツが腕組みをして考え込む。ジェイランは染み水でできた水溜りを見つけ、パッドルワードで会話を始めた。
「この水溜りはずっと以前からあるみたいだけど、ジャイアントラットが初めて来たのは10日ほど前。小さな鼠は来たことないってさ」
「ますます妙だな」
 考え込むカーツ。
「変ねぇ、何処にも通じてる様子が無いんだけど‥‥ 飲みすぎ?」
 空になった酒瓶をぶらぶらさせながら、抜け穴を探していた狐 仙も首を傾げる。いや、確かに無いよ、と苦笑交じりに楼 風空。
「何処からも入ってこられないのに現れたのなら、誰かが正面から入れたと考えるしかありません。‥‥でも、私達が踏み込むべき問題ではないように思います。事実を報告し、穴を塞いで様子を見ましょう」
 アハメスの提案に、皆、頷いて見せた。

●後始末
 穴をしっかりと塞いだ後、ファットマンが使用人達と一緒に掃除した地下蔵には、楼 風空の罠と狐 仙の毒餌が設置された。しかし、それに鼠がかかる事はもう無かった。
「あーもうっ! 待つの苦手だよ!」
 行動派の楼 風空はクサッていたが、面倒が無いのは良い事で。この間はたまに狐 仙が振舞う華国料理が皆の楽しみとなったが、店の者達は異国の味に喜びながらも、彼女が調理場に入ると恐ろしい勢いで料理酒が減っていくと恐怖していたとか、いなかったとか。
 そして、最終日。
「ふむ‥‥。元凶がはっきりせんのは不満だが、まあ良かろう」
 オーナーは相変わらずの大意張りで、依頼の完了を宣言した。
「さあお前達、これだけ無駄に店を休んでしまったのだ、これ以上1分1秒たりとも無駄にするな! 動け動けウスノロ共めが!」
 がはは、と愉快そうに笑うオーナーに、げんなりと落ち込む使用人達。怒りに身を震わせた楼 風空、堪らずオーナーをぶん殴った。無論、素人用に手加減はしていたが、不意を突かれたオーナー殿、派手に尻餅をつく羽目になった。
「あんたがそんなんだと、すぐに使用人が減ってレストランの評判もガタ落ち確定だな。あたしらが言いふらすまでもない」
 ふん、と鼻息も荒く言い放つと、彼女は店を出て行ってしまった。
「このお店には何度か足を運ばせて頂きましたが、隅々まで行き届いて、店の皆様にもとてもよくして頂き‥‥ 本当に素晴らしいレストランでしたわ。これからもそうである事を願っています」
 グリュンヒルダの笑顔には、たっぷりの嫌味がトッピングされていた。苛立たしげにテーブルを蹴りつけながらもオーナー殿が怒りを飲み込み、出て行く冒険者達を見送ったのは、下手にヘソを曲げられて言いふらされでもしたら面倒だと考えたからだろう。
 店を出る間際、アハメスは振り返り、使用人達に言った。
「彼は忠誠を受けるに値する人物では無いかも知れない。しかしそうだとしても、誇れぬ仕事はすべきでないでしょう。皆の仕事はオーナーではなく、客を持て成す事の筈。誰が見ていなくとも、自身は偽れないのですから」
 彼らは彼女の言葉に、何を思っただろうか。
「なーんかこの店、またろくでもない事が起こるんじゃない? 元凶はあのオーナーだと思うなぁ」
 呆れ気味に言うジェイランに、冒険者達は苦い笑みを浮かべた。