【収穫祭】ユニコーン様にお願い☆レディー
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月05日
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●オープニング
「さて、収穫祭ですが」
のっけからまあ何というか唐突な切り出し方ですな。
ギルドの受付担当はそんなことをおくびにも出さずに営業スマイルのまま話を聞く。
「今年も葡萄が豊作でしてな、よいワインが作れそうです。今年も冒険者様用の桶をいくつか用意させていただきました」
はあそうですか。受付担当(男)はかわいらしい女の子がきゃいきゃい言いながらブドウの詰まった桶で足踏みするさまを想像する。他にも絞り方はあるが、このスタイルが一番良い。乙女の足で踏みつぶされたブドウは、果皮に付着しているワイン種の力で、直ぐに発酵を始め、芳醇な香りのワインとなるのだ。
お揃いの衣装、ブドウの紫に染まった白いおみ足、たくし上げたスカートからちらちら覗く健康的な太もも‥‥おっと、仕事仕事。
「で、参加希望の冒険者様には毎年恒例の儀式をお願いしたいと思います。いかんせん村の娘には目を配ることができますが、冒険者様の『純潔』までは流石に調べようがありませんでのう」
そりゃそうだ。この稼業に就いている女性に引っ込み思案などあまり聞いたことも無い。世の殿方と互角以上に働く方たちだ。当然、恋愛にも臆することがない
「ところで、その『儀式』とは?」
「こちらで用意する羊皮紙を一枚ずつ持っていってもらいます。そこに自分の名前を書いておき、儀式の担当の者に『この者は純潔を守っている』と認められたものは印を貰える訳ですな。こちらでその印の写しは持っておりますので、偽物を作ってもまず判別できますです」
何せ収穫祭で作ったワインは神様への捧げ物という意味合いもある。「楽しそう」という気分だけで参加されてしまっては困るのだ。汚れなき魂の乙女に踏まれて、ブドウは清いワインとなる。
「こちらが判定者様のいらっしゃいます泉への地図になります。それほど遠くもありませんが、少々道は険しくなっておりますのでご容赦くださいませ」
「はあ」
こんな人気(ひとけ)のなさそうなところで純潔の診断? ‥‥なんだか方向がいかがわしい方向にしか向かないギルド受付担当君(25歳男性)。こらこら仕事中ですよ?
「あ、あの、判定って‥‥何をするんですか?!」
「ああ、簡単な話ですよ。ユニコーン様に見てもらうんです。ユニコーン様には毎年お世話になっておりましてのぉ‥‥」
「詳しい話を聞かせて下さい」
「真に申し訳ございませんが、審査への参加者は女性限定依頼とさせていただきます」
「あのう、わざわざそんな条件をお付けに為らなくても」
真顔の依頼人に面食らう受付。
「去年は『心は女よ』と主張する男が紛れ込んで散々でしたからな。ちゃんと明示しなかったこちらが馬鹿でした。道中の危険もありますから、男性もユニコーン様への道中の護衛として必要としますし、もちろん祭りを見物するのは誰でも出来ますが、男性は『審査会場』にはいけません。審査委員長様の機嫌を損ねてしまった場合全員まとめて失格となる可能性もあることをご了承下さい。また種族は問いませんが純潔を守っていることが前提です」
そう言って3つのグループを募集した。可愛らしい少女からなるジュニア部門と、知的で大人な乙女からなるレディー部門。そして、12歳以下の一度も女性に対して邪な思いを抱いた事のない天使のような男の子も含むお子さま部門を。
●リプレイ本文
●淑女たちは森へ向かう
葡萄踏み、レディの部。実は祭りの一番の華である。純潔の証である葡萄踏みの衣装をまとい、足元の葡萄よりもよく熟れた白い肢を見せ付けて、村の娘たちは艶やかな笑みを男達に見せつけ自分を振りまくのだ。美しい女は男達の注目の的となり祭りの翌日から噂となる。要するにちょっとした娘達の品評会。翌年の葡萄踏みには半数以上の娘が横に夫もしくはその候補となる男を連れて祭りを見る立場となる。うまく売り込めば玉の輿も間違いない!
‥‥まあ、今回やってきた冒険者様方にはそんな素敵な野望を持ってるものはいないようだが。
「一角獣‥‥神聖なる動物にお逢いする機会が持てるとは幸運ですわ」
少々揺れつつも優雅に進む馬車の中、七神斗織(ea3225)がうっとりと目を細めた。生粋のジャパン人である彼女は見た目こそ他国の人間より幼く見えるもののその立ち振る舞いは『優雅』そのもの。『ヤマトナデシコ』という言葉は伊達ではない様だ。彼女よりも年齢が上のはずのカタリナ・ブルームハルト(ea5817)はだいぶ居心地の悪い様子。
(「うーん、オトナの魅力とか教養とか‥‥こういう空気とかは姉貴の方が得意そうなんだけど。でもユニコーンには会えるし僕が乙女である事を酒場のみんなに見せつける事もできるし。ああシュツルム、ちょっとの間だけ浮気する僕を許してちょうだい。本命は君だけだ、でもユニコーンは馬に乗るものとしての永遠の憧れなんだよぉ‥‥」)
カタリナの少々苦手なお堅くてヲホホな空気の中。彼女は頭の中で何時の間にか摩り替わってしまった話題の中心人(?)物、シュツルムに一生懸命頭を下げていた。
「レディーかどうかはおいておいて、まだ未婚でギルドで依頼とって冒険してる時点で充分に社会人として失格かもしれないわね」
他のメンバーよりかは気さくな空気を醸し出しているアミ・バ(ea5765)が白い歯を見せて笑う。戦いの道に身を置いた時点で終わりはなくなったけど、と騎士としての自分の生き方に不満は無い事を付け足しながら。
「だけど、返り血塗れのこの身でもユニコーン様はお気に召してくれるでしょうか?」
少々骨ばりながらも細くて長い指先を伸ばし、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は呟いた。自分の行いに迷いはない。それでも信じてくれるものがいるのならば‥‥。これまでの生き方を少しばかり振り返りながら、ニルナは小さくため息をつく。
「まあ、全てはユニコーン様にお会いしなければ始まりませんわね」
外見こそはお子様だがわれこそはレディの名に相応しい! と勇んで立候補したカミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)が鈴の鳴るような声で笑った。
(「ユニコーン‥‥。是非とも捕まえてペットにしたいところだけど、十六対一では勝ち目はないわね」)
にこやかに笑みを浮かべながらシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)がそんな事を考えているとは、誰にも分からなかったわけだが。
かくて、淑女達を乗せた馬車はことことと揺れながら森へと進む。
●ご対面☆ユニコーン様
さて。ユニコーンの住むと言われる泉である。
‥‥いや待て、そういきり立つんじゃない。入り口から泉まで半日の道のり、色々あったんですよ? 丙 鞘継が覗きと間違えてとっちめたのが実は薬草摘みの依頼を受けていたギルドのお仲間だったり、キャル・パルとリル・リルが草むらから出てきた仔ウサギに夢中になってしまって道に迷いかけたり、何かの拍子に落ちてしまった巣から飛び出してきた蜂の大群を倒すためにシルヴァリア・シュトラウスが放ったブリザードにたまたま飛刀 狼が巻き込まれてしまったり。ええ、話を聞いてるだけでも日が暮れてしまいそうなほどにいろいろあったのですが割愛。羊皮紙にも幅というものがあるのです。
で。
揃いも揃った十七人。泉の辺に並ぶと、村の長から習った方法でユニコーンを呼び出した。
「「「「ユニコーン様、今年の葡萄を踏むことを許していただけますでしょうか」」」」
‥‥ややしばらくの沈黙の後。
皆の前に現れたのは一頭の美しき白馬‥‥と言うにはだいぶ‥‥小さな。
「えと、こんにちはぁ。皆様が冒険者さん達ですね? 長老様から話をうかがってます。ボクが今年の冒険者さん達の判定をする‥‥うきゃあぁぁあっ?!」
小さな小さなユニコーン様の登場に、辛抱たまらなくなった者達有り。
「かっ‥‥かわいいっ!! かわいいかわいいかわいいっっっ!!!」
「あーずるいっ!! あたしも抱きたいーっ!!」
奪い合うように仔ユニコーンをなでたりさすったり。エル・サーディミストにガレット・ヴィルルノワ、レディの部に参加予定のはずのカタリナ・ブルームハルトまでもが駆け寄ってユニコーン様をなでくり倒す。仕方ない、抱き上げられるほど小さなユニコーンはぬいぐるみのごとく太くて短い足、つぶらな瞳。その上舌ったらずな少年口調が可愛らしさを倍増させた。
(「んー……このサイズじゃ跨らせてもらうって訳にもいかないわね‥‥」)
(「仔馬だとは思わなかったわね‥‥連れて帰るにはちょうどいいサイズだけど」)
なんだか微妙に不謹慎なこと考えてるのもいるし。
‥‥あー君たち、もうそろそろ勘弁してやってはくれまいか。帰りの時間が大変な事になってしまいますよ?
さて、判定開始である。ユニコーンについて曲解した情報を持っていた数名、判定の為に服を脱ごうとしたが、判定者の
「水浴びするにはもうだいぶ冷たいですよ?」
と言うボケのようなツッコミにぽかんとなる。後ろの方でファイゼル・ヴァッファーがくすくすと笑っていた。
「ま、確かにアレじゃいかがわしいことにはならんな」
「? 水浴びの何がいかがわしいんだ?」
‥‥ユニコーンの心の清らかさは、だいたい飛刀と同じ位のようである。いやこの場合対象が逆か。
●心と体
審判が始まった。それぞれのグループに分かれて、一人づつ進み出る。合格と不合格は本人にのみ告げられるのだ。どきどきしながら審判を待つ。ここに集うレディ達は皆、気品・教養・作法・容姿においては抜きんでた者であると自負しているが‥‥。
斗織が武家の作法で進み出て。言った。
「わたくしはジャパンから参りました七神斗織と申します。どうぞ宜しくお願いいたします。よろしければユニコーン様のお名前をお教え願えませんでしょうか」
「僕はニコだよ」
そうして、目を瞑り一歩前へ。
「うん。お姉ちゃんは大丈夫。とっても潔いです。は〜い」
そう言って、苔の泥に鼻を付け羊皮紙に押しつけた。これが印らしい。
続くシルヴァリアも、呼吸を止めておけるような短い時間、意識を集中しただけで、印を授けた。記念の品を欲しいと思っていたが、細くて短い角だから、まだ柔らかい鬣(たてがみ)だから。残念ながら叶わなかった。
「僕はカタリナだよ、審査員ご苦労様」
にこりと笑うカタリナに、ニコもまた微笑みを返す。生まれたばかりの嬰児(みどりご)のミルク飲む目に舞い降りる、白い花びらのように。ニコは‥‥
「んーと。こんなに綺麗な人は初めてです」
「え?」
お世辞など言えそうに無い可愛い言葉に、カタリナは嬉しさがこみ上げてきた。
「歩き始めたばかりの子供のように真っ白です。邪(よこしま)なものはなにもありません」
それが、心の清らかさを示す言葉だったので、ちょっぴりがっかり。でも、印された証は、カタリナが歴とした乙女で有ることを裏書きしてくれる。仮令、世間で乙女と言われる歳でなく、化粧気の微塵もない元気すぎる少年のような女性だったとしても。
「無垢な乙女って柄じゃないかもしれませんね。私は」
謙遜もあってそう口にするのはニルナ。
「今まで私は様々な戦いに身を投じてきました‥‥そのときに幾度もの鮮血を浴び、それでも自分が正しいと思い剣を振るいます。そのような私を信じてくれるなら感謝の言葉もありません」
「‥‥んと‥‥うーん‥‥」
ニコは考え込んでしまった。そして、子供なりの配慮を行い。
「‥‥お姉ちゃんはまだ乙女には違いないと思う。ん‥‥でも、なんか認めちゃ駄目なような気がするんだ。‥‥んーとね。ニルナさんは乙女の身体なんだけど、えーと。肉の誘惑を知っているって感じがするの」
複雑な苦い笑いで退くニルナ。
次に進み出たのはアミであった。
「はい。どうぞ」
ニコは躊躇いもなく印を与える。どうやら、殺生などの行いはあまり関係ないらしい。
レディ部門の最後はカミーユであった。
「私の名前はカミーユですわ」
(「『稚きトゥルバドゥール』の詩では『白き結婚』と歌われておりますけれど‥‥さて、審査には受かりますかしら?」)
カミーユは心で語りかけ、悪戯っぽく微笑む。ニコはちょっと困った感じで、
「お姉ちゃんは潔い感じがする。でも、『もう誰かの物』って感じによく似てる」
結局、レディ部門の合格者は、ニルナとカミーユ以外全員であった。
●そして祭りはにぎやかに
村に戻って翌日。収穫祭本番である。
教会で清められた葡萄踏みの衣装が、ニコの鼻スタンプを貰った冒険者たちに配られる。村娘たちと同様に教会で着替えるが、さすがにここでは覗きも来る事が出来ないようだ。
「すみません、これは葡萄踏みの娘用なので『認められなかった』方には‥‥」
丁寧に断られてカミーユ・ド・シェンバッハは少しばかり寂しげだが、それでも新しいワインとなる葡萄の絞り汁に舌を打つ。隣ではニルナ・ヒュッケバインがだいぶ影を背負って葡萄を踏む娘たちを眺めていた。ワインよりも赤い赤い液体に何度も塗れた手を握り、開き、見つめる。
「返り血は‥‥穢れではないのか。そうか‥‥愛そのものが‥‥穢れ‥‥」
お子様の部が終わると、葡萄を踏み終えたジェイランの元にやってくる影。まくるとその手を引くガレットだ。
「あ‥‥」
「どう? いつにも増してかわいいでしょ、まくるちゃん☆」
ガレットの言葉に声も出ず、ジェイランはただ頷くばかり。まくるはまくるで自分よりも小さなガレットの後ろに無理やり隠れようとする。おそろいの衣装を着た少女たちの中でも、彼女の姿は誰よりも‥‥。
「‥‥いいね、いいよ! 似合ってるじゃん! 可愛いよまくるちゃん!」
「‥‥ほ‥‥ほんと‥‥?」
ささやかながらも熱い二人の見詰め合う視線に、ガレットはただ苦笑するばかり。
「ま、この調子じゃ二人とも、来年の葡萄も踏めそうだね」
向こうでは荊姫にエスコートの手を差し出す鞘継。にこりと微笑んだ荊姫は、タオルを差し出してくれた少年に言う。
「楽しかったですよ。鞘継様も『認められた』んですし、参加すれば良かったのに」
「いや‥‥俺はいい」
少女の足を拭いたタオルを受け取ると、少年はそっけなく答える。
「賑やかなのは得意じゃない」
二組の男女を眺めていた飛刀はポツリとつぶやいた。
「‥‥コイビトねえ。そんなに重要なものなのかな」
数年後の自分を思い浮かべても、隣に誰かが立っていることはなかった。今はまだ、分からない感情。
「おーい、ジュニアの部始まるよーっ!! 早く準備準備!!」
キャルがガレットとまくるを呼びにきた。向こうを見ればシフール用と思われる小さな桶に手で葡萄を割り入れる女達が見える。
「へえ、ちゃんとシフールにも踏みやすくしてるんだね。後で踏んだジュース少し飲んでもいい?」
「少しと言わず、たーんと飲んでいきな! さすがにワインにする分がなくなるまで飲まれたら困るけどね」
豪快に笑う『元』乙女にエルもつられて大笑い。さ、今度は自分たちの番だ。
少女たちの軽やかな葡萄踏みが終わると、いよいよメインイベント。同じ衣装にも関わらず、少女達の甘酸っぱい雰囲気とはまた異なる女達の匂い立つような出で立ち。音楽もややゆったりとした、優雅な曲となった。
恥じらいを見せながらも楽しげに葡萄を踏む七神 斗織。まるで人形が動いているかのように淡々と踏み潰していくシルヴァリア・シュトラウス。ナイトの地位に相応しく勇ましい足取りのアミ・バ、少々子供っぽさを残しながら一番大きくスカートを翻していた大胆さを見せるカタリナ・ブルームハルト。男達の野次に笑顔を飛ばしつつ葡萄を踏む女達を見ながら、ファイゼルとウォルターは葡萄果汁のゴブレットを傾けた。
「誰が一番人気になりますかね」
「んー? 俺はどっちかというと、可愛い上におしとやかな村のお姉ちゃんの方がいいかな」
ファイゼルの言葉に苦笑するウォルター。と、そこへリルがファイゼルの頭にぴたりとくっついてきた。
「ねえねえ、あっちでおいしそーなパン売ってたよ! 皆に買ってきてあげようよ、ねえ手伝って!」
やれやれ。二人は笑いながらゴブレットの中身を飲み干し腰をあげた。
祭りは賑やかに。今年の実りを喜びながら。来年の実りを願いながら。夜遅くまで、楽しげな音楽が続いていた。