●リプレイ本文
●探索隊参上
ララ・ガルボ(ea3770)が道案内。訪れるのは2回目。次の村長を決める競技のために来た豊かな村。しかし、問題が山積みだった頃とすっかり変わったようだ。
「へぇ。凄い村ね」
ミレーヌ・ルミナール(ea1646)は村を見下ろせる場所まできて、感嘆の声を上げる。
「こいつは凄い」
シン・ウィンドフェザー(ea1819)も。
村には3人の領主がおり、領主の館が北、東、西に村を取り囲むように建っていて、村に続く南からの道を除く3方向からの襲撃をガードできるようになっている。かなり堅牢で砦並の防御力を有する村と言える。もちろん、館に必要な人数が籠もっていればの話だが。
「この村が俺達を雇うってことは大変な事態だな」
紫微亮(ea2021)はクールに言ってみた。
「そういえばそうね」
カレン・シュタット(ea4426)は依頼内容を思い出した。急なことで人手が足りないから、森の中の探索を行える者を。
「案内はいるんだ。楽勝だと思いたいね」
レティシア・ヴェリルレット(ea4739)は周囲を見回す。
「急いで村に行って今までの情報を教えてもらいましょう」
ガユス・アマンシール(ea2563)が急がせる。山賊たちも豊かさと防御力の高さを天秤に掛けていることだろう。それに一味が捕まっている。奴らが動きだす前にねぐらを突き止めて、領主の軍勢で一気に叩くのがいい。攻撃が行き違わねばの話だが。村の守りに雇われた冒険者も居た筈だが。
「思いっきり退屈させてやらないか?」
亮は周囲に同意を求める。
「いいね。それ」
ララは素直にのってきた。
村は緊張に包まれていた。村の最も外側ではすでに柵が整備されていて、弱そうな部分も補強されていた。
●事前情報
「良くきてくれた。詳しい者が案内につく。怪我がないようにしっかり守ってほしい」
「任せてくれ。この身に代えても守るぜ」
レティシアは今回も怪我を覚悟しつつ言った。もっともエルフのレンジャーに森の中で対抗できる山賊なんて滅多にいないだろうが。
「こちらがあなた方を案内してくれる人です」
年老いた猟師と若い農民、そしてもう一人は女性だった。
「ハンス爺さんは一番詳しいが、もう歳だ。無理はさせないで欲しい。北に広がる針葉樹の森は爺さん以外に詳しいのはいない。東に向かうとダンジョンのある森だが、リカードが案内する」
リカードと呼ばれた若者がぎごちなく会釈をする。
「西の方は薬草が多く自生している場所があって、レミアが案内する。以前修道院で薬草を学んだことがあるので、村では唯一治療ができる」
彼女に何かあれば、村は大変なことになるだろう。
「では今までに分かったことを知らせておこう」
応対に出たのは、3人の領主から任命された代官であり村に臨戦態勢を取らせていた。ただし、村と外との封鎖はしていない。賊の偵察が入ってきても、村に備えがあるということを見せつけて時間を稼ぐ。その稼いだ時間で軍勢を組織して大規模な山賊討伐を行う。軍勢を長期間動員できるわけではない。早くけりをつけたい。そのため、ねぐらを突き止めて一気に攻める必要があるのだ。
「近隣の領主も大規模な山賊の存在に危機感を抱いており、手は貸してくれるが‥‥」
長期間になると費えがかさむ。
「つまり軍勢は、1回こっきりに敵の殲滅するのに使いたいってことね」
「先ずは敵を発見。できれば敵のねぐらを捜し出して敵の寝込みを襲いたい。明け方が有効だろう。そこまでの誘導も行って欲しい。確実に仕留められるように。罠で敵の動きを鈍くすることができればと思って欲しい」
代官の目が鈍く光った。生き残った者も多分処刑する積もりだろう。
●探索
「山賊が根城にしそうな場所に心当たりあるかしら?」
ミレーヌはまずは森の詳しい3人に聞いてみることにした。軍勢は明日には集結する。早くしなければ、山賊が襲ってくるかも知れない。
「そうだな。以前はダンジョンの側はモンスターが出たりするから、誰も近づかなかったけど最近はモンスターも出ないし、ダンジョンそのものが山賊のねぐらに使われる可能性があるんじゃないかな」
リカードは先にそう答えた。
「ダンジョンか、モンスターが出なきゃ。あそこにはドラゴンの彫像があったはず」
「それなら、この前来た人たちが中で粉々に壊されていたって」
「何があったのかしら?」
「もし、山賊が村を襲うつもりなら薬草を採取しているかも知れません。怪我した時に使うでしょうし」
レミアは心配そうにしている。採りすぎると絶滅することもあり得る。
「北の森には多分おらんじゃろう。この季節には熊が多く出没する。山も実りが多いがそれでも村の近くまで餌を求めてくることがある。山賊といえど、熊に突然襲われる危険は冒したくなかろう」
「それでは探索隊はダンジョン付近まで捜索し、罠隊は薬草の自生地まで行って様子を監視したのち罠を設置しましょう」
反対方向になるが村の死活に係わる。
「絶対に見つけてやるよ」
亮、ガユス、ララ、レティシアがリカードとともに東の方向に向かった。
「それじゃこっちも行きましょうか」
ミレーヌ、シン、カレンはレミアとともに西に向かって出発する。丁度村を出る時、南から村に入ってきた冒険者の一団とすれ違う。ミレーヌは手を振った。
●西の薬草自生地
「こちらです」
レミアには勝手知ったる道だが、冒険者たちには道なき道。レミアの姿が草むらに消えたかに見えた時、悲鳴は聞こえた。
「こっち居たのか?」
シンがロングソードを構えて前に出る。カレンは攻撃魔法の準備に入る。
「やっと出てきたな。まったく村が城砦なんて聞いていないぞ。あの村どうなっているんだ」
どうみても山賊としか見えない男が3人、レミアを取り囲んでいた。
そこにシンが割って入る。近づきざまに主格と図体のでかい相手にロングソードで殴り掛かる。不意を突いた攻撃は相手の肩からざっくりと切り裂く。女一人と油断して、残りの二人はまだ反撃に入れない。
カレンのライトニングサンダーボルトが炸裂する。
「くそっ。不意打ちなんて卑怯だぞ」
ざっくり切られた男は、呻きながら叫んだ。
「山賊相手に卑怯もあるか。褒め言葉とでも思っておくぜ」
シンは無傷なもう一人と剣を交えていた。さすがに今度は簡単にはいかない。相手も中々の腕のようだ。カレンはさらに同じ相手にライトニングサンダーボルトを打ち込む。ミレーヌは重傷を負ったらしい男の首筋にダガーを突きつける。
「動くなら首を切ります」
「山賊なんて楽して食べられると思ったら大間違えよ」
「楽してなんて思っていないぜ」
大男は無事な方の手で素早くミレーヌのダガーの刃を握りしめる。
「え!(そんなことをしたら手が切れるのに)」
しかし、ミレーヌがいくか力を込めてひいてもダガーは動かない。まるで固まってしまったかのように。その間に大男はあまり動かない腕をどうにか動かしてリカバリーポーションを流し込む。
「ミレーヌ離れて!」
カレンの声に、ミレーヌが慌ててダガーを放して離れる。一瞬後カレンのライトニングサンダーボルトが大男に当たる。
「やってくれるな。これからが反撃だ」
大男は痛みを無理やり堪えて、立ち上がる。
ミレーヌには武器がない。
「下がって」
カレンが庇うように前に出る。そして今度はシンが剣を交えている相手に向けてライトニングサンダーボルトを放つ。動きの鈍った相手にシンが止めをさした。
「後はこいつだけ。しかし、タフだな」
「山賊は楽な稼業じゃないからな」
大男はふらつきながらも、シンと向き合っていた。
「見上げた根性だけど、何故それをもっといい方向に使わない?」
シンのロングソードの攻撃を大男は、回避した。カウンターが来るかと思ったが、さすがに限界だったようだ。どっと倒れる。
「レミア大丈夫?」
ミレーヌがダガーを回収して、レミアに声をかけた。
「ええ、どうにか。危ないことをさせてしまって申し訳ありません」
「薬草の自生地は大丈夫?」
カレンが気にしていた。
「ええ大丈夫みたいです。気づかれなかったのかも」
3人はここに幾種類かの罠を設置し、本隊が通ると思われる場所に誘導する。
「気づくかも知れないけど、そっちは運次第だから」
●探索〜東の森からダンジョンまで〜
「リカード、ダンジョンまでには要所らしきものはあるのか?」
レティシアはリカードと一緒に先頭を歩いていた。目は常に地面に残ったわずかな痕跡を探している。ララは仕入れた山賊の情報を話している。
「商人が出会った3人は、山賊丸出しの姿だった。冒険者くずれじゃないです。でも、護衛の二人は山賊にしては、剣技は相当なものだし度胸もあった。さらに、士気も高かったってと言っていたのです。どう思いますか?」
「そうだな。偽装かもな」
亮は深く考えずに答えた。
「考えられますね。ガイユはどう思う?」
ララは沈黙しているガイユに話を振る。
「山賊なら獣道を好むようだが、どうやらこいつらは違うようだ」
ガユスはすでにブレスセンサーで付近を探っていた。
「それよりも少し静かにした方がいい。見つかるのは避けたい」
「‥‥わかりました」
探索は東の森を徐々にダンジョンの方向に範囲を延ばしていく。
「一人捕まったから慎重になっているんじゃねーの」
レティシアは、村で用意してもらった弁当を頬張って不機嫌そうな声を出す。
「このあたりに猟師小屋とかはないか?」
「北の森にしかないけど」
「あとはダンジョンか」
短期間ならダンジョンはいい隠れ家になる。
「ダンジョンまで足を延ばしてみよう。もし痕跡がなければ北の森に向かう。明日になってしまうでしょうけど」
ガユスの提案に、だれも反対はいなかった。
「商人が出会ったのは南から村に入る道。それは来る時通ったから‥‥。あの商人、引っかからないか?」
「え? まさか」
「山賊の一味?」
昼を終えるとダンジョンに向かって探索。
「これ、最近人が通っている」
ここ2日、村人は村から出ていないからたぶん山賊だ。
「ダンジョンが怪しそう」
ララが呟く。レティシアも黙って頷く。
「ダンジョンはこっち。でも俺は‥‥」
リカードが怖じ気づいた。村人にとっては長い間恐怖の対象だったから仕方ない。
「ここから先は私たちだけでいきましょう」
ララは案内人の同行は無理と思った。
「あっちの方向か?」
亮は確認しダンジョンに向かう。
レティシアを先頭にして慎重に進む。ガユスはブレスセンサー。亮もオーラエリベイションを使いだす。ララは少し離れて森の上から周囲を探る。
最初の山賊の姿を目視したのはララだった。もちろんレティシアたちも存在は感じ取っていた。
「やっぱりここをねぐらにしていたか。様子を探って戻ろう」
領主軍が集結するのは明日だ。明日の夜あるいは明後日の早暁が行動の時期になるだろう。それまでに周囲を調べて逃げられないような罠を用意しておいた方がいい。
●監視
「ララ、そろそろ到着したかな」
探索隊はララを伝令に行かせた。そして残りは山賊の監視に残る。
「途中でリカードと合流しているだろうからもう少しかかるでしょう。向こうについたら罠班が応援に来てくれるさ」
「中までは様子が分からない。別の出口がなければいいけど」
ガユスはその危険を感じていた。
「ダンジョンの情報も持ってきてくれるといいな」
亮は、ダンジョンの入口を注視している。賊の数はかなり多い。これだけの山賊が集まるのは滅多にない。
「普通山賊と言っても10人以下だよな」
亮は独り言のように呟く。
「そりゃ人数は増えれば食っていくのが大変だからな。実入りが少なきゃ仲間割れ、頭目の交代劇なんでもある」
夜になってレティシアが周囲を見回って戻ってきた。
「別の出口がある。ダンジョンの入口の反対近くにでかい穴がある。山賊の姿は少ないが山賊が使用すると思われる馬が置いてあった。しかし変なんだよ」
「何が変なんです?」
「馬の手入れが凄くいいんだ」
「馬好きがいるんだろう。あるいは馬丁あがりがいるとか。あ、罠班は到着したらしいぞ」
ララも罠班を連れて戻ってきた。
「反対側の別の入口付近と、あのあたりに仕掛けよう」
領主軍は明日早暁に攻撃だ。それまで見張っていて動きがあればそれに対応する。
●ダンジョンの戦い
領主軍は真夜中の森をダンジョンに向かって進んでいた。
「こっちだ。山賊は出入りしていないわよ」
ミレーヌが領主軍を出迎えた。
「裏口は?」
「そっちも大丈夫。見張っているわ」
領主軍は二手に別れてダンジョンに殺到。内からは激しい戦いの音が響いてくる。
「これで山賊も終わったな」
案内しおえてシンは緊張を解く。こうなってしまえば後は領主軍の仕事だ。逃げ出す者がいないか見張っていればいい。
「こんな少ないはずはない」
領主軍はダンジョンを制圧した。しかし、そこにいたのが確かに手練ばかりだが、10人程度だ。もう朝日は昇っていた。中の構造を利用してかなりの時間を稼いだみたいだが、それでも全滅した。領主軍も死兵相手ではかなりの被害が出たはずだ。
そこに村を守っていた冒険者からの伝令が届く。
「村が襲われた。すでに大半が西の森のあたりに移していたらしい」
昨日出会ったタフな大男がきっと斥候だったのだろう。
「急ぎ戻ろう。村が‥‥」
領主軍も無傷な者、軽傷の者は先頭になって村に戻る。重傷者は手当てを済ませてからの出発だ。
「俺たちも急ごう」
村の防衛は契約にないが見捨てるわけにはいかない。こっちに10人程度なら村には‥‥。しかも、生半可な腕じゃない。
●後始末
領主軍は疲労の色が出ながらも、森をそのまま西に進み、西の柵の更に外側から山賊を包囲していく。
「良くも騙しやがったな」
亮が先頭になって突っ込む。
レティシアが地面に倒れた冒険者を切ろうとしていた山賊を矢で仕留める。
村を守っていた冒険者は数倍する数の山賊を相手に獅子奮迅の戦いをしていたが、圧倒されていた。それでも村人への被害は少なかった。探索の冒険者が援軍に来たことで状況は五分に戻った。
さらに領主軍に柵の外側から攻め立てられて、山賊は次々に討たれていった。
昼近くなって、山賊の遺体の確認が行われた。生き残った山賊は後日、村の広場で絞首刑にされる。
だが、土牢が破られた。
「やられたな。しかし、村の被害を考えれば」
些細なことだった。この時、誰もがそう思った。