【開港祭】密売人に制裁を〜旅の宿屋

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月03日〜11月08日

リプレイ公開日:2004年11月11日

●オープニング

 ドレスタット、ここは荒くれ男が闊歩する港町。勝ち気な姐御が陽気に歌い騒ぐ港町。そして昼となく夜となく、荒っぽい事件が絶えない港町。
 夜、酒場が軒を連ねる通りから裏通りの闇の中へ走り抜けようとした商売人の前に、ごつい体つきの男が立ちはだかった。
「俺は自警団の者だ。おめぇにちっとばかし聞きたいことがあるんだがな?」
「何だか知らんが、さっさとそこをどけ! 俺の仕事を邪魔するな!」
 次の瞬間、男の拳が商売人の顔面にめり込んだ。商売人は倒れ、小脇に抱えていた荷物が石畳の上に転がった。
「てめえが密売に手を染めて、汚い金を裏社会の悪党どもに貢いでいるのは分かってるんだぜ。ほぅ、これが例のブツかい? しっかりと拝ませてもらおうじゃねぇか」
 男は路上の荷物をあらため、厳重に幾重にも施された布の覆いを解いた。中から現れたのは鳥かごだった。
「うっ! こりゃ何てこった‥‥!?」
 男は絶句する。鳥かごの中では小さな人影が、小さな声で悲しいつぶやきを繰り返していた。
「たすけて‥‥たすけて‥‥たすけて‥‥たすけて‥‥」

 ここはドレスタットの冒険者ギルド。
「もうすぐ開港祭で町も賑わってますが、悪党・夜盗・ごろつきどもの悪さも派手になって、困ったもんですよ。この前も家の近所で殺しが1件、強盗が3件も起きて、こんなんじゃ安心して町も歩けやしない」
 ギルドに就職したばかりの事務員が話す相手は、自警団の顔役だ。傭兵戦士からの叩き上げだそうで、太い腕にはいくつもの古傷がある。
「その悪党どものことなんだがな‥‥おめえにいいものを見せてやろう」
 親父は表の馬車に引っ込むと、手に鳥かごをぶら下げて戻ってきた。
「これが悪事の証拠物件かつ生き証人ってわけだ」
 鳥かごの中では、蝶の羽根を生やした小さな少女がかぼそい声を上げている。
「たすけて‥‥たすけて‥‥」
「こ、これは‥‥もしやエレメンタラーフェアリーじゃありませんか!」
 エレメンタラーフェアリーとは、シフールによく似た小さな精霊である。森や山にたくさん住んでいると言われるが、臆病ですぐ逃げ出す性格なため、なかなか人の目に触れることがない。
「いや、残念ながらこの子はシフールだ。悪いな、お嬢ちゃん。狭い場所だがもうしばらく辛抱してくれよ」
 鳥かごの中のシフールに優しい眼差しを向けると、親父は若い事務員に事情を明かす。
「昨晩、俺は密売人を引っ捕らえた。俺がかねてから怪しいとにらんでいた男だったんだが‥‥そいつの話によると、ドレスタットの開港祭に会わせて密売人どもがフェアリー密売のブラックマーケットを開くらしい。と、言っても、殆どはシフールの紛い物だがな。開港祭には各地から大勢の人間が集まる。好事家の貴族や大商人、全財産をはたいてでも本物のフェアリーを手に入れようとするマニアもやって来る。そういう客に高値で売りつけるってわけだ。本物は勿論、偽物のシフールでも上物になると、闇オークションで1000ゴールドの値がつくことも珍しくねぇって話だが、まったく世に物好きな買い物をする連中は絶えねぇもんだぜ」
「金目当てでこんな可愛い子を売り飛ばすなんて‥‥ひどい奴らだ!」
「問題はそれだけじゃねぇ。ブラックマーケットを仕切るのは裏社会の悪党どもだ。そいつらに大金が流れれば、ろくな使い方をされるわけがねぇだろう? お偉方への賄賂に化けたり、暗殺者を雇う金に化けたらおおごとだ。とにかく、これは街にとっても見過ごすことができねぇわけだな」

 かくしてドレスタットの自警団により、密売を阻止するための依頼が出された。要求される条件は三つ。
【1】捕らえられたフェアリー(もしくはシフール)を密売の証拠物件として確保すること。
【2】密売人の身柄を取り押さえること。手荒な手段を用いてよし。
【3】客の身柄を取り押さえること。ただし可能な限り穏当に。
 以上である。
 なお、ブラックマーケットが開かれる場所は次の三カ所である。
【1】ドレスタットの某所にある旅の宿屋。
【2】ドレスタットの某所にある高級酒場。
【3】ドレスタットに停泊中の某国商船。
 場所が違えば戦いの条件も違ってくる。そのことをふまえた上で、冒険者各自はどの場所に向かうかを選択して欲しい。
 それでは健闘を祈る!

●今回の参加者

 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2262 アイネイス・フルーレ(22歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4778 割波戸 黒兵衛(65歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5644 グレタ・ギャブレイ(47歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●海牛亭
 内陸部から延々と続く街道からドレスタットに入り、街中をしばらく歩いた場所に海牛亭という旅の宿屋がある。宿の看板には、恐らく異国の見聞録を元に描かれたのであろう、魚のようなヒレを持ち牛のように丸々と太った奇妙な海の生き物の絵が描いてある。
 情報によれば、シフール密売の取引現場となるのはこの海牛亭だという。
 依頼を受けた冒険者たちは、それと知られぬように海牛亭へ集結した。
「一番安い部屋をお願いします。食事も一番安いものを」
 旅人を装って宿の部屋をとると、レジエル・グラープソン(ea2731)はさりげなく宿の中を歩き回って部屋の配置を頭の中に叩き込む。宿は2階立てで1階は食堂兼酒場および少人数用の泊まり部屋、2階には多人数宿泊用の大部屋がいくつかある。母屋から離れた場所には馬屋があり、愛馬のアストリアはそこに入れてもらった。
 同じく泊まり客を装ってやってきたディアルト・ヘレス(ea2181)は、宿屋の主人に訊ねてみた。
「この宿には8人くらいの人数が集まれる部屋はないか? 仲間うちでの会議に使いたいんだが」
「部屋ならございます。ただ、今はお客様に貸し出し中でして、あと2、3日は塞がったままですが」
 主人が宿の案内図を指して示したのは、2階で一番大きな部屋だった。8人とは事前の情報でつかんだ密売人と客の総数。恐らくそれが密売の取引現場となる部屋だろうと当たりをつける。
 さらに円巴(ea3738)とファング・ダイモス(ea7482)が、泊まり客としてやってきた。宿の主人はほくほく顔で二人を迎え入れる。
「いやお客様は運がいい。泊まり部屋は1つだけ空いております。お二人で相部屋となりますが?」
「それで頼む」
 円は宿の従業員に頼み、自分の馬を馬小屋へ、積んであった日本刀は宿の貴重品庫へと運んでもらう。宿の人間が密売人と通じていないとも限らない。わざわざ武器を預けたのは、余計な警戒心を起こされぬための用心からだ。
 料理の心得がある割波戸黒兵衛(ea4778)は、求職者として宿屋に潜入を試みる。自警団に口入れを頼んだら、あっさりと就職に成功し、料理人の助手としての立場を得た。
「自警団の親父の紹介があったからこそ雇ったんだ。当分の間は開港祭で客も大勢だし、しばらく試しに使ってやるから、しっかり働きなよ」
 働きに出た初日、宿屋の主人は黒兵衛にそう念を押した。
 漁師を生業とするジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)は、魚を卸す業者として宿にやってきた。
「なんだい? あんたは新米の漁師だって?」
 宿の主人ははなっから、ジェンナーロを魚の売り込みにやってきた漁師だと信じこむ。
「この魚どうよ! 大事な商談とかあったら使ってみてくんないかな? 安くしとくからさぁ」
「わしは忙しい。そういうことはな‥‥ほれ、あそこに入ったばかりの手伝い人がいるから、あいつに聞いてくれ」
 主人は用を手伝い人に押しつけ、自分の仕事に戻ってしまったが、その手伝い人というのが実は黒兵衛。
「ほぉ、これは活きのいい魚であるな」
「宿泊客分だけでも少し買ってくんないかなぁ?」
「では一匹、いただこう。ところで、おまえの商いは魚だけであろうか? 小鳥のエサになりそうな新鮮なフルーツが欲しいのだが?」
「おいらは見ての通り、漁師だしな。しかし、フルーツねぇ‥‥」
「実はここだけの話だがな‥‥密売人とおぼしき客が欲しがっているのだ」
 黒兵衛はジェンナーロにこっそり耳打ちした。
 泊まり客として最後にやって来たのはアイネイス・フルーレ(ea2262)。
「申し訳ないけど、もう空き部屋はないんだよ」
「でも開港祭で他の宿屋さんも一杯で‥‥何とかなりませんか?」
「仕方がないね。物置で良ければ泊めてあげるけど、料金は並の部屋代分を頂くよ」
 宿屋の親父を泣き落とし、中に潜り込むのに成功した。

 宿屋に滞在中、冒険者たちは食事時などを利用して宿泊客を観察する。密売人にその客とおぼしき者たちの見当はついた。3人の密売人は旅の行商人風の男たち。5人の客は、冒険者ギルドにもよく依頼探しでやって来るような、駆け出しの冒険者っぽい男たちだ。宿屋には他の客も大勢いて、冒険者たちにも気さくに声をかけて世間話に話を咲かせる者も少なくない。ところが、この総計8人の連中が話すのは自分の仲間うちばかり。宿の酒場ではいつも同じテーブルに8人で固まって、他の客を寄せ付けない。
 隣のテーブルでレジエルとファングが宿の名物料理の魚のシチューを口に運びつつ、連中の会話に聞き耳を立てていると、言葉の切れ端がしっかり耳に飛び込んできた。
「‥‥では明後日、籠入りの小鳥をお持ちしますので‥‥」

 翌日。冒険者たちはいったん宿を離れ、話を盗み聞きされる危険のない冒険者ギルドの一室に集合。別行動していたグレタ・ギャブレイ(ea5644)も加わり、全員の顔が揃う。
「見たところ、客は素人で経験も浅い。他の客と比べて見るからに挙動不審だ。身のこなしからして、収入は私たちと同程度。客層的に大金を安々と用意するのは難しいし、これが初めてという客であっても不思議ではないだろう」
 この巴の見立ては的を射ていると、その場の全員が思った。
「でも、お金儲けの為に罪の無い精霊さんやシフールさんを捕まえて売り飛ばすなんて手‥‥許せませんわ! そんな方達には、ちょっと反省してもらわなくちゃダメですのっ!」
 声を荒げるアイネイス。思いはグレタも同じだ。
「ほんっとに気に入らない。ああ、気に入らない。ドレスタットという街は商人の街とか聞いた事があるけれど、人までも売り物にするのかね。もう少しいい商売を考えてみたらどうだね。フェアリーを売買するものどうかと思うが、シフールを捕らえて売買するなんて、其奴等の心根の歪みが信じられない」
 さらにジェンナーロとレジエルも。
「おいらも密売なんて許せないねぇ」
「私もです。命あるものをお金で取引するなど絶対許せません」
「いっそのこと、懲らしめる為に宿の部屋ごと吹き飛ばしてやりたいが、そうするとあたしまで犯罪者になってしまうからねぇ」
 熟女シフールでウィザードのグレタ、言うことだけは過激である。なまじファイヤーボムの魔法が使えるだけに、なおさらこわい。
「連中の会話からすると、囚われのフェアリーたちが宿屋に運び込まれるのが明日です。では、ここでもう一度、集めた情報と作戦内容を確認しましょう」
 レジエルが取りまとめ役になり、作戦の最後の詰めが行われた。

●監禁
 密売フェアリーの闇オークションが行われる当日、冒険者たちは厳重に梱包された荷物が宿屋に運び込まれるのを確認した。
「お食事をお持ち致した」
 お手伝い人として行動中の黒兵衛が食事の膳を携え、密売人たちの泊まり部屋へやって来ると、密売人の一人らしき男が顔を出す。
「今、中で取り込み中だ。食事はそこへ置いてってくれ」
 宿屋の中庭から歌声が流れてくる。シフール語の歌だ。

♪小さなカゴに囚われた 我らの友よ 少しの間待っていて
 煌く羽根を広げる時は もうすぐそこにやって来る♪

 歌を歌うのはアイネイス。その歌声に応えるかのように、部屋の中から小さなさざめき声が聞こえてくる。
「たすけて‥‥たすけて‥‥」
「たすけて‥‥たすけて‥‥」
「たすけて‥‥たすけて‥‥」
 男の顔色が変わったのに黒兵衛は気付いた。
「おや? 部屋の中から何やら聞こえるようであるが?」
「あ、ああ。あれは‥‥鳥の声だ。人の鳴き真似がうまい珍しい鳥でな。開港祭の商品にするために持ってきたのさ」
 男は慌てて部屋の中に引っ込み、ドアを閉ざした。

 夕暮れ時になり、アイネイスは店の酒場に場所を移して歌う。

♪七色の羽根持つ者から澄んだ青空を 奪い去るのは誰
 心優しき小さな友から澄んだ歌声を 奪い去るのは誰
 その心に迷いがあれば 立ち止まって 気付いて
 その心に光があれば まだ引き返せる やり直せる
 七色の羽根持つ小さな友の笑顔を 奪い去るのは誰♪

 すると、宿屋の従業員を名乗る男が現れた。
「困りますねぇ、お客さん。許可もなしにこんな所で歌を歌われちゃ。他のお客さんから苦情が出てますよ」
「あら、ごめんなさい」
「それからね、お客さん。あんたの泊まり部屋は物置から酒蔵に変更になった。荷物を持って、一緒に来てくれるかい?」
 男に言われるまま、アイネイスは地下の酒蔵の奥にある小部屋へと案内される。
「ここは高価な食材を保管するための特別室でな」
「ひんやりしていて、ずいぶん静かな場所ですね」
「ああ。ここなら中で騒いだって外には聞こえやしねぇ」
 いきなり男はアイネイスを突き飛ばした。倒れたアイネイスが起きあがった時には、男は頑丈な扉の向こう側に姿を消し、外側からガチャリと鍵をかける音が、閉ざされたドアの内側の暗闇に響いた。

 酒場で仕事をしていた黒兵衛は、アイネイスと一緒に酒蔵へ行った男が一人で戻ってきたのに気付く。近くにいたファングにそっと耳打ちし、ファングは忍び歩きで男の後をつける。男が向かったのは密売人たちの泊まり部屋だ。男が部屋へ入ると、ファングはドアの向こうで聞き耳をたてる。話し声が聞こえた。
「あの女は酒蔵に閉じこめた」
「まったく、闇オークションの話をどこで嗅ぎつけたんだか。油断も隙もありゃしねぇ」
「あの女は今晩、あそこで大人しくしていてもらう。明日になったら宿から放り出すさ」
「よし、それで問題なかろう。闇オークションの開始は予定通り、今日の夕刻だ」
 必要な情報を手に入れたファングは、密売人たちに気づかれぬよう、こっそりとその場を後にした。

●突入
 日が沈み、あたりは暗くなる。連日の祭りの最中、宿はいつになく浮かれた雰囲気に包まれているが、2階の大部屋だけは妙に静かだ。部屋の窓は全て固く閉ざされ、僅かに中の光を漏らすのみ。
 宵闇の空にグレタの小さな姿が舞う。インフラビジョンの魔法を使い、グレタは壁ごしに大部屋の中を観察した。密売人とその客とおぼしき8人、そして商品として持ち込まれた3つの小さな人影の姿を、グレタの赤外線視覚は捉えた。
「取引はもう始まってる。突入するなら今だよ」
 暗闇の中でも自由に動けるよう、張り込んだ仲間たちにもグレタはインフラビジョンを付与していく。
 大部屋の中では3人の密売人が、商品の入った鳥かごを並べて客との交渉を進めていた。
「いずれの商品も苦労して捕らえた上物ばかりです。それではこれより、オークションを始めましょう」
 どん! どん! どん! だしぬけにドアが激しくノックされる。
「こんな時に何事だ!?」
「急ぎの手紙を持って参りました。商売のことで面倒事が起きたとのことです」
 ドアの向こうから黒兵衛の声。
「よし、ここで受け取る」
 密売人の一人がドアの隙間を僅かばかり開けようとしたその隙をつき、黒兵衛は体当たりをかましてドアを押し開け、スタッキングを効かせて密売人に組み付きその動きを封じる。続くレジエルが二人目の密売人の足下にナイフを投げつけた。
「ぎゃあ!!」
 二人目が悲鳴を上げ、足に刺さったナイフをとっさに引き抜く。
「やべぇぞ逃げろ!!」
 三人目が叫び、二人目ともども窓を押し開けて外へ飛び出し、転げ落ちるようにして地面に着地。だが、そこにはジェンナーロが左手に魚、右手にダガーを構えて待っていた。
「あ〜ごめんよ、この先荷物置いてて通れないんだわ。ここでおとなしくしといてくんないかな」
 魚を卸すふりをしながらダガーをちらつかせると、その刃に恐怖したか、二人目は腰を抜かしてあっけなく戦意喪失。
「ひぃ‥‥! や、やめてくれぇ!! 後生だぁ!!」
 残る三人目がジェンナーロの横を走り抜け、宿の裏口から外へ逃げようとした。途端、その目の前が炎の赤一色に染まり、爆発が男を吹き飛ばす。
 グレタの放ったファイヤーボムだ。爆発で建物の外壁のレンガがごっそり崩れ落ち、裏口に積んであった荷物までもが吹き飛ばされ、燃えかすが空からばらばらと落ちてくる。
「観念おしっ!もう逃げられないよ。それとも特大のを頂きたいのかい?」
「あが‥‥あが‥‥あが‥‥」
 男は地面をはいずり、言葉にならぬつぶやきを繰り返すばかり。
 騒ぎを聞きつけ、宿屋の中から主人がやってきた。
「この騒ぎは何事だ!? うわっ、宿の壁が! 荷物が! いったいどうしてくれるんだ!?」
 そこへ、捕らえた密売人をしょっぴいて現れたのは黒兵衛。
「人身売買なんぞ泥棒よりも遙かに劣るのぅ」
「あなたは何も知らなかったのか? 宿の中で悪事が行われていたというのに?」
 黒兵衛が宿屋の主人の耳に何事かささやくと、主人の顔色が変わった。
「知らなかった! 俺は本当に何も知らなかったんだ!」
 表口を固めていた巴も、一人の男の襟首をつかんでずるずるひっぱってやって来た。男はアイネイスを監禁した宿屋の従業員だった。
「表口から逃げようとしたんで取り押さえた。こいつも共犯だ」
 2階の大部屋ではディアルトが5人の客を床に伏せさせ、全ての武器を取り上げた。
「俺たちが何したってぇんだ!」
 文句をたれる客をファングが一喝する。
「妖精を密売とは絶対に許さん! 彼らの苦しみを味わって貰う!」
 客たちを黙らせ、ファングはレジエルともどもテーブルに向き直る。密売されようとした3人は皆、あちこちで捕らえられたシフールの少女だった。
「心配しないで、あなた達を助けに着たんだ。もう大丈夫だよ」
「狭い籠の中ですが、自警団が来るまでもう暫く辛抱して欲しい」
 やがて現れた自警団に密売人と客は引き渡され、シフールたちは解放された。アイネイスも監禁場所から助け出され、宿屋の主人は冒険者たちに必死で懇願した。
「宿代は全額お返しします。どうか、今回のことは内密に。お願いします!」
 依頼は成功し、冒険者たちは意気揚々と引き上げていった。