即席冒険即興曲

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2004年06月28日

●オープニング

 音楽家、エルデン氏は途方に暮れている。
 彼は先日、主人の屋敷で催されたパーティで、いつものように得意の即興演奏を披露した。このような場でパトロンに恥をかかせるなど、音楽家にあってはならない事。その点、彼は聞き手の心を掴むセンスと音楽的な才能に恵まれており、耳の肥えた貴族達をも飽きさせる事が無かった。
「冒険の緊張と興奮を、この和やかなサロンに生み出すことができるかい?」
 とある若い貴族の注文に彼は即座に応じ、その見事な出来栄えで喝采を浴びた。この演奏は自分としても上出来、実に鼻高々だったのだが、少々出来が良過ぎたのだ。興奮したとあるご婦人、こんな事を言い出した。
「でも、でも、惜しむらくはわたくし達が本当の冒険の緊張感、身に迫る危機を知らないことですわ。それがあれば、もっと大きな感動を得られたでしょうに!」
「いや、全くです。これではスパイスを欠いた肉料理も同然」
 若者も賛同し、俄然雲行きが怪しくなって来た。
「そうだ、こういうのはどうだろう。ここから程近い森は庶民達も行き来するごくごく安全な場所ではあるが、一歩道を外れれば案外と薄暗く、心もとないものでしてな。時には賊や魔物が現れる事もあるという。そこに我ら一同、堂々と集まり、優雅にエルデン氏の演奏を満喫するのです」
 言い出したのは身分の高い髭の騎士様。
「まあ、わたくし恐ろしいわ。何事も起こりませんでしょうか」
「何、いざともなれば我が剣が唸るまでのこと。我々は幾許かの緊張を楽しみ、庶民には貴族たる者の風雅と胆力を示すことが出来る」
「おお、素晴らしい! これは妙案、実に妙案!」
 エルデン氏は慌てた。お貴族様達は喜んでいるが、もしも彼らに何かあれば、きっかけを作った彼の音楽家生命が絶たれるのは必至。そればかりか、主人の名にも傷がつくのだ。だが、全てはもう後の祭り。苦笑いの主人からも悪いが頼むと言われてしまえば、彼も諦める他無かった。このご主人、そこはさすがにぬかり無く、騎士団に護衛を頼めないか打診していたのだが、これを知り、例の騎士様が文句を言ってきた。
「貴殿は我が剣の腕前をお疑いかな? だいたい大袈裟な護衛などついてしまったら何の緊張も感じられぬではないか。それでは本末転倒、無粋というものですぞ?」
 結局、護衛は断る事になってしまった。かくして困り果てたエルデン氏、冒険者ギルドに泣きついたという次第。
「皆様方には騎士殿のご機嫌を損ねず、お客様方の楽しみを奪うこともなく、それでいて危険な事が無いように、こっそりと、あくまでこっそりと護衛をして頂きたいのです」
 疲れ果てた顔で、彼は言う。
「街からも近い森、潜む危険は知れていますが、何せ方々のする事は何につけても目立ちますので‥‥。しかも、自由奔放というか大らかというか‥‥、分かりやすく言うと我侭勝手ですので、何をし始めるか分かりません。トラブルは『起こるもの』と覚悟して頂いた方が良いでしょう」
 演奏会の場所は、小さな森の中程。道を外れ獣道を入った所で、稀に地元の者が木の実取りなどに訪れるだけで、普段は人気の無い場所だ。当日訪れる客は20名程。男性が6人、後は女性で、戦いの経験がある者は男性3名のみ。ただしこの3人もどれだけ役に立つのかは怪しいもので、エルデン氏はむしろ、腕に自信のある3人の方が厄介なのではないか、と言っている程だ。なお、この会場には客の他に、場所を整え準備する者達20名程、接客をする者10名程が出入りする。また、エルデン氏の他に、何人かの音楽家と芸人も来る予定だ。演奏会そのものは前座も含めて2、3時間。だが、準備は何日も前から始めなくてはならない。作業をする者達を守り、無事に演奏会に漕ぎ着けるのも契約の内となる。

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2193 ベルシード・ハティスコール(27歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea2771 ウィレム・サルサエル(47歳・♂・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea2971 ユール・ファーサイス(32歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3412 デルテ・フェザーク(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3477 ダギル・ブロウ(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・フランク王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●準備
 静かな森に突如現れた荷馬車と人の列に、近隣の人々は驚いて足を止めた。
「この道幅ではテーブルや楽器は入らないな、広げるか」
「小石までひとつ残らず拾い切れ! ご婦人方が足でも挫こうものならどんなお叱りがあるか分からんぞ!」
「テーブル、食器、調理器具‥‥。楽器の運び込みは前日に」
 斧を持ち出して木を切り始める者達、道の石を拾って除ける者達、運び込みと配置の打ち合わせをする者達‥‥。呆然とする住民を他所に、野外演奏会の準備は始まった。
「貴族様の考える事はよく分からないですわ。本当にスリルを楽しみたいなら適切な場所を紹介しますのに」
 目の前で始まった馬鹿騒ぎに、呆れ気味に呟くデルテ・フェザーク(ea3412)。既にこの段階で冒険の緊張云々という代物とは遥か掛け離れた状況になっているが、貴族達が楽しみたいのはちょっとした冒険『気分』であって、苦しく危険な本当の冒険がしたい訳ではない。エルデン氏の演出は、その辺りを見抜いたものと言えるだろう。
「嬢ちゃんの言う通りだぜ。ロクでもねぇこと考え付きやがって、クソだりぃ‥‥」
「全く同感だが、エルデンの音楽家としての意識には感銘を受けた。演奏会の成功の為に、その要望に応えるとしようではないか」
 アレクシアス・フェザント(ea1565)に促され、ウィレム・サルサエル(ea2771)は面倒くさそうに腰を上げた。と、そこにベルシード・ハティスコール(ea2193)が戻って来た。
「この辺りの人達に聞いてきた。大した敵がいないってのは本当みたいだ。ただ、野良犬やジャイアントラットはうっかり縄張りに踏み込むと群れで襲ってくるから気をつけろって言われたよ。後、稀にヒトやゴブリンの盗賊団が潜んでいることがあるらしい」
「その程度なら、十分対応出来そうですね」
 彼女の報告に、エルリック・キスリング(ea2037)が安堵の表情を見せる。
「それではまず、会場の周辺を回ってみましょうか」
 森に慣れているデルテは、既に見ておくべき場所の当たりをつけていた。
「それからウィレムさん。私はエルフですから、こんなナリでもあなたの倍ほどは生きていますよ。嬢ちゃんは無いんじゃありません?」
「‥‥そりゃあすまなかった。なら、姐さんと呼ばせてもらう事にするぜ」
 愉快げに言うウィレムに、天を仰ぐデルテ。こうして彼らは、森の大掃除に着手したのだった。

 一方。フェネック・ローキドール(ea1605)はエルデンの紹介ということで、会場準備の手伝いに加わっている。周辺の状態、席順や人の動きなどなど、中にいなければ分かり難いことを調べて仲間に知らせるのが彼女の役目だ。
「へえ、あんた見習い楽師なのかい。こんなところに入り込むなんて、上手いことやったもんだなぁ。確かに、最先端の音楽に触れるのは何よりの勉強になるからな」
 まあ頑張れよ、と励まされ、ぺこりと頭を下げるフェネック。
「本当に、ゆっくり聴いてる暇があるといいんだけど‥‥」
 凄い勢いで会場が仕上がって行くのを、ちょっとした魔法を見ている様な気持ちで眺めながら、忙しく立ち働くフェネックなのだ。

●当日
 貴族達が馬車に乗って現れた時。森の中には何不自由なく快適に過ごせる空間が出来上がっており、また、周辺の脅威は寸分残らず排除されていた。やれ、道が急だの虫が嫌だの、大騒ぎをしながらすっかり整えられた獣道を登って行く彼ら。だが、会場から楽しげな笑い声が聞こえ始めた頃、冒険者達の間には緊張が走っていた。
 それを最初に見つけたのは、偽装と実益を兼ねて有益な植物を探しながら巡回していた、ウォルター・ヘイワード(ea3260)だった。
「ゴブリン‥‥ 5匹はいる」
「いえ、8匹いますね」
 駆けつけたデルテが『バイブレーションセンサー』で正確な敵の数を確認する。ゴブリン達は明らかに、会場を目指して進んでいた。これだけ賑やかにやっているのだ。彼らがちょいと一稼ぎしようと思い立ったとしても、何の不思議もありはしない。
 だが。この数日、冒険者達はただ、モンスター退治に追われていた訳ではない。こんな時の為の準備も、万端整っていたのだ。上機嫌で先頭を歩いていたゴブリンは、突然何かに足を取られ、受身も取れずに転倒した。足が止まった一団にウォルターの『グラビティキャノン』が撃ち込まれ、成す術もなく転げ回るゴブリン達。
「単純な狩猟用の罠を応用したものだが、案外役に立つものだな」
 ユール・ファーサイス(ea2971)が合図を送ると同時、『忍び歩き』で密かに後をつけていたアレクシアスとウィレムが抜刀し、突進する。正面からは、ベルシード。ウォルターとデルテも間合いを詰めて行く。アレクシアスとウィレムに斬り捲られ、ベルシードを組し易しと襲い掛かったゴブリンは、彼女が仕込んだ『ファイヤートラップ』に焼かれてのた打ち回る羽目になった。どうしようもなくなり、追い詰められて、一塊となり寄らば斬るぞの構えを見せるゴブリン達。
「無駄です。私が立っている限り、易々と仲間が倒れる事はありません」
 エルリックの『リカバー』がせっかく負わせた傷を癒していくのを見て、ゴブリン達は万に一つの勝ち目も無いと悟ったのだろう、倒れた仲間を抱えて逃げて行った。
「どうする? 追うか?」
 ユールに聞かれ、いや、止めておこう、とアレクシアス。今は会場の安全を確保するのが優先だ。長々と戦って客に気付かれるのも避けたい。会場からは、相変わらずの楽しげな笑い声。この騒ぎは、どうやら気付かれていないようだ。彼らはフェネックが差し入れてくれた保存食をかじりながら、再び周辺の警備を始める。
「あーあ、向こうでは美味しいものいっぱい食べてるんだろうなぁ」
 ベルシードの能天気な愚痴に、皆が笑う。
「さて、それではわたくし共も、そろそろ働いて来ると致しますか」
 フェネックから手渡されたメモに目を通すと、ジィ・ジ(ea3484)とダギル・ブロウ(ea3477)は会場に向かって歩き出した。

 会場では、エルデンの演奏が始まっていた。皆、本当の危険がごく近い場所で起きていたとも知らず、音楽家の作り出す空想の冒険物語に聴き入っている。それは滑稽ながらも、幸せな時間であるに違い無いのだ。
 と。明らかにこの場には不似合いな薄汚れた装束の2人が現れ、無遠慮に押し入って来たではないか。制止しようとした給仕はジャイアントのファイターにロングソードを突きつけられ、クタクタとその場にへたり込んでしまった。
「金持ちどもが馬鹿騒ぎをやらかしやがって‥‥。金目の物を洗い浚い置いて行きな。大人しく言う事を聞くなら、命だけは盗らないでおいてやるぜ」
 ガラの悪い老ウィザードが言い放つ。ご婦人方はすっかり怯えて声も出ない。男達も、ただ口をパクパクさせるばかり。ただ、エルデンだけが一心不乱に演奏を続けていた。
「ああ、何と言う事! どうか僕達をお救い下さい!」
 フェネックが恐怖にその身を震わせながら、呆然としていた髭の騎士に縋り付く。我に返った騎士殿、うぬ、任せておきたまえ! と剣を引き抜き立ち上がった。帯剣していた残り2人がこれに倣う。フェネックは『メロディー』に乗せ、悪を挫き弱きを守る英雄の雄姿を歌い上げた。エルデンの奏でる勇ましい旋律と相俟って髭の騎士殿、先ほどまでとは打って変わって威風堂々、賊の前に立ちはだかった。
「しゃらくせぇ」
 にぃ、と笑った老ウィザード、ナックルを構えるや『バーニングソード』を付与し、猛然と騎士殿に襲い掛かる。ご婦人方、恐ろしさは何処へやら、声の限りに3人の応援をし始めた。
「ちょこざいな、成敗してくれよう!」
 ロングソードを軽々振り回す豪腕の剣士と、軽快なステップで隙あらば相手を地に塗れさせようと狙う狡猾な格闘魔術師。だが、3人も負けてはいない。いや、むしろ押してさえいた。賊の顔に、焦りの色が滲み出す。ノルマン復興戦争の勇士の名は伊達ではない。ひとつかわし損ねたら、一触に叩き斬らんばかりの厳しさだ。賊にとって幸いなことに、戦場往来で効果を発揮する雄敵の剣は、ろくな鎧を纏わぬためか踏み込みが甘い。さらに数合。
「ぬ、ぬあっ!」
 老ウィザードは騎士殿の剣をかわしたものの態勢を崩し、タックルを食らって吹き飛んだ。剣士が慌てて駆け寄り助け起こす。
「お、覚えていろ!!」
 王道の捨て台詞を残し、2人の賊は脱兎の如く逃げ出した。
「おのれ、待たぬか!」
 追おうとした3人だが、全速力で森に踏み入った途端、足を取られて派手に転倒。怒りも露に立ち上がった彼ら、目の前で震える木の実取りの少女に目を止めた。
「突然、怪しげな男達が飛び出して来て‥‥ わたし恐ろしくて恐ろしくて」
 目に涙を溜めて訴える少女に義憤を掻き立てられ、きっと暴漢は討ってしんぜようと胸を叩く髭の騎士殿。
「いけません、いけませんわ騎士様。勇敢な騎士様がいなかったら、誰がご婦人方をお守りするのでしょう、誰がわたしを守ってくれるのでしょう」
 むう、と唸った騎士殿、それがし共がきっとお守りいたしましょう、と結局、賊の追跡を諦めてしまった。
「さあさあ娘さん、こちらへ来るといい。飲み物も食べ物もある、きっと落ち着けるでしょう」
 ありがとうございます騎士様、と涙を拭うフリをしながら、ぺろりと舌を出すベルシード。
「勇ましき英雄の帰還でございます」
 戻って来た彼らを賞賛の声が出迎える。エルデンは勇者を称える晴れ晴れしい一節を付け加えて演奏、彼らを大いに喜ばせ、またご婦人方からも惜しみない喝采を浴びたのだった。

「‥‥手間が増えるから、あまり会場から出ないで欲しいですわ」
 騎士達が戻って行くのを見届けて、『プラントコントロール』を解いたデルテ。彼女はジィとダギルに向き直り、お疲れ様、と労いの言葉をかけた。先程の賊徒の正体は彼ら2人。全ては場を盛り上げる為の演出である。
「ジィさん、とんだ年寄りの冷や水だな」
 ウィレムの遠慮も何も無い言葉の中に深い好意を感じ、ジィは会心の笑みを浮かべて見せた。

 やがて。貴族達は一時の楽しみを味わい尽くし、待たせていた馬車に乗り込み、去って行った。最後のひとりを見送ったエルデンが、ようやく安堵の溜息を漏らした。そして、身を潜め警戒を続ける冒険者達の姿を認め、深々と頭を下げる。
「さあ、我々も帰ろうか」
 エルデンの掛け声で、撤収の準備が始まった。