【開港祭】密売人に制裁を〜某国商船
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月08日
リプレイ公開日:2004年11月11日
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●オープニング
ドレスタット、ここは荒くれ男が闊歩する港町。勝ち気な姐御が陽気に歌い騒ぐ港町。そして昼となく夜となく、荒っぽい事件が絶えない港町。
夜、酒場が軒を連ねる通りから裏通りの闇の中へ走り抜けようとした商売人の前に、ごつい体つきの男が立ちはだかった。
「俺は自警団の者だ。おめぇにちっとばかし聞きたいことがあるんだがな?」
「何だか知らんが、さっさとそこをどけ! 俺の仕事を邪魔するな!」
次の瞬間、男の拳が商売人の顔面にめり込んだ。商売人は倒れ、小脇に抱えていた荷物が石畳の上に転がった。
「てめえが密売に手を染めて、汚い金を裏社会の悪党どもに貢いでいるのは分かってるんだぜ。ほぅ、これが例のブツかい? しっかりと拝ませてもらおうじゃねぇか」
男は路上の荷物をあらため、厳重に幾重にも施された布の覆いを解いた。中から現れたのは鳥かごだった。
「うっ! こりゃ何てこった‥‥!?」
男は絶句する。鳥かごの中では小さな人影が、小さな声で悲しいつぶやきを繰り返していた。
「たすけて‥‥たすけて‥‥たすけて‥‥たすけて‥‥」
ここはドレスタットの冒険者ギルド。
「もうすぐ開港祭で町も賑わってますが、悪党・夜盗・ごろつきどもの悪さも派手になって、困ったもんですよ。この前も家の近所で殺しが1件、強盗が3件も起きて、こんなんじゃ安心して町も歩けやしない」
ギルドに就職したばかりの事務員が話す相手は、自警団の顔役だ。傭兵戦士からの叩き上げだそうで、太い腕にはいくつもの古傷がある。
「その悪党どものことなんだがな‥‥おめえにいいものを見せてやろう」
親父は表の馬車に引っ込むと、手に鳥かごをぶら下げて戻ってきた。
「これが悪事の証拠物件かつ生き証人ってわけだ」
鳥かごの中では、蝶の羽根を生やした小さな少女がかぼそい声を上げている。
「たすけて‥‥たすけて‥‥」
「こ、これは‥‥もしやエレメンタラーフェアリーじゃありませんか!」
エレメンタラーフェアリーとは、シフールによく似た小さな精霊である。森や山にたくさん住んでいると言われるが、臆病ですぐ逃げ出す性格なため、なかなか人の目に触れることがない。
「いや、残念ながらこの子はシフールだ。悪いな、お嬢ちゃん。狭い場所だがもうしばらく辛抱してくれよ」
鳥かごの中のシフールに優しい眼差しを向けると、親父は若い事務員に事情を明かす。
「昨晩、俺は密売人を引っ捕らえた。俺がかねてから怪しいとにらんでいた男だったんだが‥‥そいつの話によると、ドレスタットの開港祭に会わせて密売人どもがフェアリー密売のブラックマーケットを開くらしい。と、言っても、殆どはシフールの紛い物だがな。開港祭には各地から大勢の人間が集まる。好事家の貴族や大商人、全財産をはたいてでも本物のフェアリーを手に入れようとするマニアもやって来る。そういう客に高値で売りつけるってわけだ。本物は勿論、偽物のシフールでも上物になると、闇オークションで1000ゴールドの値がつくことも珍しくねぇって話だが、まったく世に物好きな買い物をする連中は絶えねぇもんだぜ」
「金目当てでこんな可愛い子を売り飛ばすなんて‥‥ひどい奴らだ!」
「問題はそれだけじゃねぇ。ブラックマーケットを仕切るのは裏社会の悪党どもだ。そいつらに大金が流れれば、ろくな使い方をされるわけがねぇだろう? お偉方への賄賂に化けたり、暗殺者を雇う金に化けたらおおごとだ。とにかく、これは街にとっても見過ごすことができねぇわけだな」
かくしてドレスタットの自警団により、密売を阻止するための依頼が出された。要求される条件は三つ。
【1】捕らえられたフェアリー(もしくはシフール)を密売の証拠物件として確保すること。
【2】密売人の身柄を取り押さえること。手荒な手段を用いてよし。
【3】客の身柄を取り押さえること。ただし可能な限り穏当に。
以上である。
なお、ブラックマーケットが開かれる場所は次の三カ所である。
【1】ドレスタットの某所にある旅の宿屋。
【2】ドレスタットの某所にある高級酒場。
【3】ドレスタットに停泊中の某国商船。
場所が違えば戦いの条件も違ってくる。そのことをふまえた上で、冒険者各自はどの場所に向かうかを選択して欲しい。
それでは健闘を祈る!
●リプレイ本文
●出陣前
ここは冒険者ギルドの一室。
「フェアリーさんがつかまっているですって!? これは助けてあげませんといけませんよね、仮にもお友達なのですもの!!」
過去に関わった依頼でエレメンタルフェアリーの友達を得たこともあり、今度の依頼に対するシャクリローゼ・ライラ(ea2762)の熱の入れようは相当なものだ。自分自身もシフールであることだし。
「私もイギリスに渡って二回目に受けた依頼は、妖精たちの住処を守る依頼でした。ノルマンに渡って二回目の依頼がこの依頼です。私はこの妖精たちに縁があるようですね」
仲間の一人がそう告げた。
「同じ妖精に縁がある者同士、がんばりましょう! ところで、あなたは初めて見る顔のようだけど‥‥」
「申し遅れました。私は世良北斗。修行のため世界を放浪中の浪人です。名乗れるほどの二つ名も持たぬ未熟者ですがよろしくお願いします」
最近、ノルマンに渡ってきたという浪人の冒険者世良北斗(ea2685)はそう自己紹介した。
「俺はノルマンに来て今回が初依頼だが、まあ、普段どうりに行かせて貰うよ。しかし、フェアリーとシフールの売買か‥‥胸糞悪くなる話だね。許せないよ」
おっとりした性格のアシュレー・ウォルサム(ea0244)だが、さすがに今回の事件には腹を立てている。同じく怒りを露わにしているのが、シフールのダージ・フレール(ea4791)。
「フェアリーやシフールを捕まえて密売なんて酷い。全然、美しくない! 密売人から解放してあげないと。そして密売人を懲らしめるんだ」
その隣で、アリス・コルレオーネ(ea4792)表向きは冷静を装っている。が‥‥。
「私は他者のあり方にケチを付ける気は無いが‥‥好き勝手にやればその分のツケが回ってくるという事を教えてやらねばなるまい?」
アリスは顔になんとも形容しがたい笑みを浮かべ、真向かいのトール・ウッド(ea1919)に目配せする。
「おまえもそう思わない?」
トールは短く答えた。
「金になる仕事だ。だから引き受ける」
それぞれの思いに違いはあれど、目的とするところは皆同じ。さあいざ行かん、悪しき密売人に天誅を!
●いざアルメリア号へ
開港祭で賑わうドレスタット。その港に停泊中の船の中にアルメリア号という船がある。某国に船籍を有する商船だが、ほとんどの乗組員は陸にあがって祭を楽しんでおり、船にはわずかな見張りが残るのみだ。
昼時、一台の馬車が港に乗り入れてきた。乗客は商人風の男一人と、その護衛らしき者が4人。迎え出た港の係員に印の押された書状を示すと、乗客の男は言った。
「今夜、アルメリア号船室を商取引の場所としてに使わせていただく。船主の許可は取ってある」
係員が通行を認め、馬車はアルメリア号の横に泊まる。タラップを渡って船に乗り込んでいく馬車の男たちは皆、手に手に荷物をぶら下げている。
夕方になり、今度は5台もの馬車が港にやってきた。どれも皆、貴族が使う贅沢な作りの馬車で、乗客も貴族とその付き人たちである。彼らがアルメリア号の中に乗り込むと、一人の男が馬車のところにやってきた。
「いや、すごいもんだな。貴族の旦那方がぞろぞろと。一体、これから何があるっていうんだい? ‥‥あ、俺はこの港で仕事を探している者でね」
その男、ラックス・キール(ea4944)は御者の一人にさりげなく小銭を握らせ、訊ねた。
「ああ、詳しいことは聞いていないが、何でも船の中で珍しい小鳥のオークションがあるらしい」
「たかが小鳥のオークションのために、みんなしてこんな夜中に?」
御者は声をひそめて答える。
「貴族の旦那方には、おいそれと人様に言えない事情が色々おありでね。俺も貴族の旦那に十何年も仕えているからよく分かる。まあ、それについては知らぬが花で通すのが一番いいってことさ」
「しかしご主人はさぞや立派な方とお見受けする。せめて名前だけでも‥‥」
「それだけは勘弁してくれ。今夜はお忍びで来てるんでね」
御者との会話を終えると、ラックスは毒づいた。
「全くダメな奴らもいたもんだな。もっといい趣味もいくらでもあるだろうに」
一方、シクル・ザーン(ea2350)は近くの酒場で水夫たちに酒を振る舞いながら、それとなく情報を聞き出していた。
「アルメリア号って船が港に泊まっているだろう? 悪いことは言わねえ、あの船だけは近づくなよ」
「何か曰く付きの船なのですか?」
「まあ、ドレスタットで長く働いてりゃ分かることだが、あの船は面倒事の種なのさ。貴族のお偉いさんとか、色々と絡んでいてな」
「いったい、どこの国の船なのですか?」
「今はイギリスの船らしいが、その前はビザンチンの船だったかな? 船主の名前もコロコロ変わる怪しい船さ。いずれにせよ、あんな船に関わることはねぇ」
ラックスとシクルはひとまず待機中の仲間の元へ向かい、報告した。
「密売に使われる船はアルメリア号に間違いない。さあて、そろそろ始めるとするか」
既に全ての準備は整っている。冒険者たちの救出作戦が始まった。
●潜入
「しかし俺たちも運が悪いぜ。今夜はぱーっと騒ぎたかったのに船の見張りに選ばれちまうなんてよ」
アルメリア号の甲板で見張りに立つ男が、隣にいる同僚にぼやく。
「まあ、運のない日もたまにはあるさ。それに開港祭はまだしばらく続くんだ。そうがっかりすんなって」
「しかし何だな。船ん中じゃお偉い貴族さん達が集まって、小鳥のオークションだとよ。まったく物好きな奴らもいるもんだ」
「おまえ、何も知らないのか?」
「あん?」
「小鳥のオークションさ」
まだ若い同僚がぽかんとした顔をしているのを見て、年かさの見張り役はニヤリと笑った。
「何だ、キモチ悪いな。知ってる事があったら教えろよ」
「まぁ、おまえもドレスタットであと10年も暮らせば、裏の事情というものが分かってくるだろうよ。言っておくが今夜船の中で行われていることについては、余計な詮索をしない方が身のためだ。俺たちは上から言われた通り、見張りに精出していりゃそれでいいのさ」
ふと、見張りの男は海面近くをふらふら飛び回っている光に気付く。
「おい、あの光は何だ?」
「こっちに近づいてくるぞ」
目をこらしてよく見ると、それはライトの魔法の明かりを灯したシフールだった。
「あれはシフール‥‥まさか、商品が‥‥」
「シフールがどうしたって?」
どすっ! どすっ! 囮役のシャクリローゼに気を取られている隙をつき、背後に忍び寄った世良が見張り二人の急所に一撃をくらわし、気絶させた。
「うまく行きました」
「さあ、皆を船の中へ!」
小舟に乗って近づいてきた仲間たちの上にロープを垂らし、全員を甲板に引き上げると、冒険者たちは船の中へ侵入を開始した。
「さて、どの部屋から探す? まずはこの部屋からか?」
忍び歩きで探索を始めようとしたアシュレーを、シャクリローゼが制した。
「私に任せてくださいね! エックスレイビジョンの魔法が使えますもの!」
船内の廊下をしばらく進んだところで、魔法で船内を見て回っていたシャクリローゼが前方の部屋を指さし、小声でささやく。
「あの部屋です」
シクルがディテクトライフフォースの魔法を使って中に居る者たちの位置を調べた。
「密売人が1人と護衛が4人、客が10人、そして籠に閉じこめられたフェアリーかシフールが10人。みんなあの部屋に集まっています」
調べた結果を、シクルは身振り手振りも交えて仲間たちに説明する。アシュレーがひそひそ声で皆に指示を飛ばした。
「頃合いを見計らって踏み込むぞ」
●突入
「さて皆さん、今回のオークションの目玉でございます。ノルマンの森で捕獲したばかりの、正真正銘・本物のエレメンタルフェアリーでございます」
闇オークションを仕切る密売人が、テーブルの上に3つの鳥かごを並べる。かごの中ではシフールそっくりの少女。
「さあ、部屋を暗くしてご覧いただきましょう」
密売人が部屋の明かりを落とすと、闇の中でかごの中の少女の姿だけが、優しく柔らかい光に包まれて輝いていた。エレメンタルフェアリーのもつ精霊力が発する光だ。闇の中に浮かび上がるその姿は、見た者を虜にするほどに美しい。
「おお! すばらしい!」
「これぞまさしく本物のエレメンタルフェアリーだ!」
「こいつを手に入れるためなら、わしは1万ゴールドだって出すぞ!」
客の貴族たちから口々に上がる感嘆の声。しかしその美しさとは裏腹に、フェアリーたちの顔は憂いに沈み、口は悲しみに堅く閉ざされている。
「今回お集まりいただきましたお客様はまことに運がいい。オークションに本物のフェアリーが3匹も出品されることなど、そう滅多にありませんからな」
突然、部屋のドアが開く。
「楽しんでるか? 下衆ども。‥‥パーティーはもう終わりだ」
現れたアリスの姿に密売人が絶句する。
「誰だね、君は‥‥?」
さらにアリスは、その場に集まった貴族に向かって言い放つ。
「貴殿等には密売に係わった参考人として話を聞かせてもらう事になる。…御協力願えますかな?」
「君は何者だ!? 私の楽しみの邪魔をして、ただで済むと思うな!」
いきり立った貴族の一人がアリスに挑みかかる。
「‥‥聞えなかったのか? 下衆が! パーティーはもう終わりだと言ったんだ!」
指をパチンと鳴らすや、アリスは魔法の呪文を唱える。
「氷の棺の中で眠りにつくがよい!」
「貴様! 何を‥‥!」
貴族の言葉が終わらぬうちにアイスコフィンの魔法が発動。貴族は口を開けたまま、等身大の氷の中に閉じこめられた。
「‥‥あの様になりたくなったら、大人しくしているのだな」
貴族たちに狼狽が走り、密売人が護衛たちをけしかける。
「あの女を捕らえろ!」
護衛たちが近づくや、アリスはドアから部屋の外へ逃げる。それを追って護衛二人が部屋から飛び出したところへ、待ち構えていた世良とトールが斬りかかった。世良の刀はアッシュ・クライン(ea3102)のオーラパワーが付与され、トールも捨て身の攻撃でクレイモアを打ち込む。不意を突かれた護衛二人はあっけなく床に転がった。
残る護衛にアシュレーが牽制の手裏剣を投げつけ、ひるんだ隙にラックスが斬りかかる。護衛と共にいた敵のウィザードに、シクルが突っ込んでいく。
「容赦はせんぞ! 死ぬがいい!」
敵ウィザードが呪文を唱え、その手が赤熱して高熱を帯びる。その両手でウィザードはシクルの頭を挟み込んだ。だが焼けただれるはずのシクルの頭は何も変わらず、シクルは苦痛の声一つあげない。ウィザードは狼狽した。
「なぜだ!? なぜ魔法が効かぬのだ!?」
「あなたはレジストマジックの魔法を知らないのですか?」
ウィザードの背後に回ったアッシュが、その背中にシルバーナイフの刃を深々と埋める。ウィザードの体が崩れ、床に倒れた。気がつけば護衛たちはあっさりと全滅し、貴族たちも全員が、アリスとダージのアイスコフィンの魔法で氷り漬け。残るは密売人ただ一人。戦いのどさくさに紛れて甲板へと逃げ出した密売人を、ジャドウ・ロスト(ea2030)が追う。手中のスクロールの呪文を唱えるや、その体を魔法炎が包み、シャドウは炎の鳥と化して夜空に舞い上がる。密売人に狙いを定めて急降下。
「ぎゃあ! 助けてくれぇ!」
体当たりを2回くらわせて手傷を負わせると、密売人は観念した。
「貴様に聞きたい事がある」
密売人の手足をクーリングの魔法で凍らし、逃げられぬようにしてジャドウは問いつめる。
「エルフの少女にまとわりついているローマ人を知らないか?」
別件の依頼で、ジャドウが追っている相手だ。
「知らない‥‥そいつは、俺とは関係ない‥‥」
ジャドウはさらに口封じ。
「‥‥俺が聞いた。と言う事は伏せておけよ? ‥‥これ以上苦しい思いをしたくなければな」
●依頼成功
フェアリーに見えたのは本当は全てシフールだった。ファンタズムの効果で創った紛い物の精霊の光は、さらに欲望という目眩ましに補完されて客の目を欺いたのだ。
「ごめんなさいね、もうちょっと我慢してくださいな」
助け出したシフールを慰めるシャクリローゼ。かわいそうだが、まだ籠をあけて逃がすことはできない。一応、悪事の証拠品なのだ。
幸いなことに、捕らえられた者達の中にシャクリローゼの友達はいなかった
「大変な目にあったな。大丈夫か?」
目線を合わせたアリスは、その可愛さに思わずクラクラ。売り物とするだけあって、容姿もスタイルも愛らしい。
「‥‥あぁっ、どうしよう! 可愛い!!」
目を輝かせて身悶えしてしまう。
やがて、現場に自警団がやってきた。
「ご苦労だった」
ねぎらいの言葉を受け、ダージは氷り漬けになった客たちを指し、得意満面で答えた。
「氷漬けの魔法を使って封印したから、怪我はさせてないよ。そのかわり、氷が溶けたときは本人の立場も崩れ去るんだけどね」
そして、証拠品かつ目撃者であるシフールたちに頼む。
「奴らを懲らしめるために、いろいろ話してほしいんだ。」
事情聴取が終わると、捕らえられていたシフールたちは解放され、アッシュは彼らに呼びかけた。
「今後は気をつけるようにな。縁があったらまた会おう」